転生魔法女王、2度目の人生で魔王討伐を目指す。   作:”蒼龍”

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皆様こんにちはです、第2話目更新でございます。
今回エミルで家族が登場したり色々な物が詰まってます。
専用単語も多いですか、それも世界観説明の一環ですのでご容赦下さいませ。
では、本編へどうぞ。


第2話『エミル、決意する』

 エミルが生まれてから6年が経過した。

 初めの4年、エミルは立つ練習等普通の赤子の覚える事を教わるまでも無く行い、更に執事達の前での魔法行使でいきなり身体を強化する光の初歩魔法では無く火の初級魔法『火球(ファイヤーボール)』でも無く中級魔法『火炎弾(バーンバレット)』を発動させ周りにその魔法の才覚の大きさを見せ付け驚かせていた。

 

「(とは言えこの歳では体内魔力の形成がまだまだ出来上がってないから最上級魔法の『灼熱雨(マグマレイン)』所か上級魔法の『大熱砲(フレアブラスト)』、その他諸々の魔法が使えないから前世の100分の1にすら満たないんだよね〜)」

 

 エミルは中級魔法をいきなり使った事から数百年に1人の才覚の持ち主と持て囃されたが、これは全てライラの時の知識や技術を基に行使しただけであり本人にとってみれば呼吸と同じであった。

 故にこの世界の6属性ある原始魔法、一部の属性にある派生属性魔法を使い熟す事などエミルにとっては赤子が立つのと同義でありこれまた周りを驚かせた。

 普通の魔法使いで100%の力を発揮出来る属性は多くて3つなので、まるで初代女王ライラの生まれ変わりと持て囃された(実際そうなのだが)。

 

「(ああ〜早く魔法元素(マナ)の聖地で修行したいよ〜‼︎)』

 

 しかし生まれたばかりでレベルも当時の250から1に逆戻りした上に体内魔力も形成され切ってない為ライラの時の実力には程遠い為エミルは早く体内魔力を強化する修行をしたいとうずうずしていた。

 …但し現在の年齢では肉体がその負荷に今は耐えられない為、その修行はせめて10歳になった時にしようと計画を頭の中で計画を立てていた。

 

「では、今日はエミル第2王女様の授業を兼ねて魔法元素(マナ)と体内魔力、そして魔法の結び付きについての説明をさせて頂きます。

 よろしいですね『アルク』第1王子様、『レオナ』第1王女様、『カルロ』第2王子様?」

 

「はい、よろしくお願いします『アレスター』先生」

 

 そして6年目に入ったエミルは長男のアルク、長女レオナ、次男カルロとセレスティア王家4兄妹全員で専属魔法講師アレスターに講義を受ける事となった。

 因みに3人の兄妹達は全員エミルと同じ赤毛で、それぞれの人柄は長男のアルクは王位継承権第1位として強き者が前に立ち弱き者を守り導くノブレスオブリージュを信条とし、第2位のレオナはそんな兄を支えるべく外交や商業等を学んでいた。

 

「へっ、今更初歩中の初歩を学び直すなんざ時間の無駄だっての! 

 これなら『絶技』の練習をしてた方が有意義だっての!」

 

「おいカルロ、どんな事に於いても初歩を振り返り基礎を学び直す事はただ剣や魔法を振るうよりも有意義なんだと何度言えば分かるんだ! 

 …すみませんアレスター先生、カルロの不理解をお許し下さい」

 

 一方の第2王子のカルロは周りと比べて育った為か卑屈な性格をしており、更に魔法の才覚に満ち溢れた妹が生まれたとなりより一層自己中心的な性格となり周りを困らせる問題児となっていた。

 アルクやレオナはそんなカルロを何度注意しても悪化するだけであり、そんな様子を見ていたエミルはカルロには当たらず触らずと言う一定の距離を保ちながら、前世では謳歌出来なかった家族との温かな時を6年間過ごしていた。

 

「いえいえ、今回の講義は私からセレスティア国王陛下に進言して執り行われる事になった謂わば私の我儘です。

 なのでアルク王子様もレオナ王女様もどうかお気になさらずに軽く流す程度に講師を受けて頂いてもよろしいですよ」

 

 そんなカルロを見てもアレスターは自身の我儘でこの講義をしていると大人の対応をし、また何時かはカルロもアルク達の様に一皮剥ける筈と期待を掛けており余り贔屓になる様な咎め方はしていなかった。

 寧ろカルロも努力家である事を見抜き、大事に教え育てようと思っているのだ。

 最もカルロはそんな事は9歳になっても未だ気付いていないのか、それとも素直になれないのか、何方にせよ問題児には間違い無かった。

 

「では先ず魔法元素(マナ)について、アルク王子様お答え下さい」

 

「はい、魔法元素(マナ)とはこの世界に存在する元素の事であり、目に見えずとも酸素の様に其処に存在する魔法や絶技、剣術等の技の魔法版とも言うべき技の行使に必要不可欠な存在で、それらを使う事で消費される物です」

 

「はい、その通りです。

 補足として魔法元素(マナ)は世界各地の世界樹から放出されており、その放出量は我々『地上界』の生命が一生懸けても消費量を上回る事はないとされ、世界樹の群生地は特に魔法元素(マナ)が濃く体内魔力強化に打って付けの場所と言われてます」

 

 アレスターの講義に最初にアルクが答え始め

 この世界の魔法元素(マナ)の在り方を答えてレオナは真面目に聞きながらメモを取り、カルロは全く聞いていないと言った様子だった。

 一方エミルはこれは前世で自身が研究し尽くし論文や学術書に残した物だと振り返り、今の時代でもそれらが間違った知識が入る事無く脈々と受け継がれている事に感慨深い物を感じていた。

 

「では体内魔力について、カルロ王子様お答え下さい」

 

「…ふん、体内魔力は文字通り身体の中に出来る魔法や絶技を使う為の器官。

 魔法元素(マナ)を呼吸で体内に入れる事で形成されるから多かれ少なかれこの世界の誰もが体内魔力を有している。

 そして体内魔力の強化には高濃度の魔法元素(マナ)を取り入れる事が必要不可欠だけど最低でも10歳にならないとその修行に肉体が負荷に耐えられないから幼い子供には危険とされている、これで良い?」

 

 次にカルロが体内魔力について模範解答所か完璧な解答を行い、アルクやレオナも黙って頷きなんだかんだで正しい知識を身に付けているカルロを認めていた。

 エミルもまた同様の感情を抱き、カルロは矢張り王族であり、また影の努力家なのだと思っていた。

 

「はい、完璧でしたよカルロ王子様。

 矢張りカルロ王子様も王族、正しい知識を身に付けて反復していらっしゃるのですね」

 

「…けっ」

 

 アレスターもそれを理解しているのかしっかりとカルロの事を分け隔てなく褒めており笑顔を見せていた。

 しかしカルロは意地っ張りな問題児な為か素直になれず、そっぽを向き当たり前だと言う雰囲気を醸し出していた。

 

「では何故高濃度の魔法元素(マナ)吸収による体内魔力の強化が必要か、魔法元素(マナ)と体内魔力、そして魔法の密接な結びつきをレオナ王女様お答え下さい」

 

「はい、体内魔力の強化が必要とされる理由は体内魔力の大きさ、強度により同じ魔法や絶技を使っても威力に差が生まれる為です。

 この理論は初代セレスティア女王ライラ様がこの世界に形として残した最も世に知られる魔法理論であり、一つが欠けても魔法が成り立たなくなります。

 これを通称として『魔力一体論』と言われています」

 

 次にレオナが魔法理論の基盤となっている魔力一体論を答え、既に15のレオナはこの理論に基づいた修行を終えておりエミルの光の基礎魔法の一つ『観察眼(アナライズ)』ではレベル68となっておりそれ相応の努力をしていたと思っていた。

 

「(まぁ、アルク兄さんはレベル97と今の時代ではレベル100に入った時点で英雄と言われるラインの一歩手前まで来てまだ修行しているから、戦いの事はアルク兄さんやこれからのカルロ兄さんに任せてレオナ姉さんは外交メインの国のバックアップ担当だから此処でレベルを意図的にストップさせてるんだよね〜)」

 

 更にエミルは頭の中でレオナのレベルとアルクのレベルを見比べてレオナは外交等をメインに進める為にレベル上げを意図的に止めて外交等の事を学んでいる事を理解し、更に今の世界でアルクはもう少しで英雄と呼ばれる領域に立つ事も理解していた。

 因みにアレスターはレベル120の魔法の天才と謳われるエルフである。

 

「はい、これらが魔法や体内魔力、魔法元素(マナ)についての事柄です。

 エミル王女様、理解出来ましたか?」

 

「はい、お兄様やお姉様達、アレスター講師様の指導で私は魔法の基礎について学べました。

 それともう1つ、魔法元素(マナ)のもう1つの特性について話してよろしいでしょうか?」

 

魔法元素(マナ)のもう1つの特性…成る程、これから先必要になる知識でしょうからエミル王女様、どうぞ語って下さいませ」

 

 エミルは王位継承権第4位の末席の王女として兄や姉達の顔を立てながらかつて自分が打ち立てた理論を学び直す。

 更にエミルは此処で魔法元素(マナ)のもう1つの特性を話したいとアレスター達に話すと、アレスターはエミルを年に似合わず余程勉学好きと捉えて魔法元素(マナ)の第2の特性について話す事を了承する。

 

「はい、では…魔法元素(マナ)の第2の特性として魔物や魔族達の身体や魂を形成する魔素、特に戦闘により高純度にまで高まった魔素とと結合する事で劇的に肉体強度や反射速度、体内魔力の大きさや強度すら上げる特殊な元素となります。

 これを『熟練度元素(レベルポイント)』と呼び、魔物や魔族達の討伐の際にレベルが上がる事はこれを吸収する事により発生する現象とされています」

 

「その通りです、なので中には『レベリング』と言われる死と隣り合わせですが自身やパーティメンバーのレベルを上げる為に魔物の巣、『ダンジョン』に理由無く立ち入るパーティも居る程です。

 しかし、私は理由無きレベリングは推奨しません。

 それは命を粗末にする事と同じなのですから」

 

 エミルは魔族や魔物の身体や魂を構成する魔界特有の元素、魔素が魔法元素(マナ)と高純度で結合した際に生まれる元素、熟練度元素(レベルポイント)であると話してアレスターにそれが正しい知識である事、また危険な行為として魔物の巣に理由無く立ち入りレベルアップを図るレベリングと言う行為があるが、これは本当に危険であり推奨しないとアレスターは補足しカルロを含めた3人の兄や姉達は固唾を飲んでいた。

 

「(そう、レベリングは非常に危険が付き纏う行為。

 罠を張る知能を持つ魔物の巣(ダンジョン)に入り込んで罠に掛かって死んだ何て例が500年前も絶えなかった。

 だけど、500年前に関してはそうでもしないと魔物や魔族達から奪われた地上界の領土を取り戻せなかった…だから仕方無かった面があったのよね)」

 

 エミルもライラだった頃を思い出し、500年前の侵略完遂寸前だった地上界を取り戻すにはレベリングが必要だったのだと思い返しながら死んでしまった友や教え子達を思い返していた。

 そしてこの世界には高濃度の魔法元素(マナ)を取り込み体内魔力を上げる安全なレベル上げと熟練度元素(レベルポイント)吸収を目的とするレベリングと言う危険なレベル上げがあると言う自身の知識との摩擦が無い事をエミルはこの話で確かめたのであった。

 

「しかしエミル王女様はよく熟練度元素(レベルポイント)の事をご存じで。

 何処かの書庫で知識として読まれたのですか?」

 

「はい、アルクお兄様やカルロお兄様が書庫でレベル上げについて学んでいる所を横で見せて頂いて知識として身に付きました」

 

「おいエミル‼︎」

 

 アレスターは何故熟練度元素(レベルポイント)の事をエミルが知っていたのか尋ねると、元々知ってはいたがそれらが後世にも伝わっているか確かめるべくアルクや陰でこっそり本を熟読していたカルロの横からそれらを見て自分達が犠牲を払いながらも打ち立てた理論は危険な行為であるとされながらも伝わっている事を確認したのだ。

 当然陰で勉学していたカルロはそれを暴露された為エミルに顔を赤くしながら怒鳴り、当のエミルはごめんなさいと謝っていた。

 

「あっはっは、エミル王女様だけでなくカルロ王子様の勉学が伝わって来て私は陛下達にこの講義を進言した甲斐があったと思いましたよ」

 

「全くだよ。

 カルロも素直に俺と一緒に勉学すれば良いのに」

 

「うっせぇよブラコン兄貴‼︎

 ああもう今日は何で日だよ‼︎」

 

 アレスターはこの講義に確かな意味はあったと再確認し、カルロが問題児ながらも独自に勉学をし戦う王族として知識を身に付けている事をアルク共々喜んでいた。

 それをカルロは耳まで赤くなりながらそっぽを向き、講義室はアレスターや兄弟姉妹の微笑ましい笑い声に包まれていたのであった。

 

「(ああ、こんな温かな時は初めてだ………。

 ライラの時は夫と子供達を得ても明日にも魔族が攻め入るかもと言う恐怖に震えながら過ごして来た。

 こんな温かな時間が何時までも続けは良いなぁ…)」

 

 そしてエミルもまたライラだった頃には真に得られなかった家族温もりを肌で感じ取り、この様な平和な時間が続けば良い。

 そんな他愛の無い、しかしライラの時代の地獄…魔族や魔物に蹂躙され尽くす地獄を経験してるからこそ思う優しい願いをエミルは抱くのであった。

 

 

 

 だが、エミルは思い出した。

 否、忘れていたのだ。

 この世界には理不尽な事象が突然襲い掛かり、全てを奪って行く事を。

 

 

 

 それから3年後、カルロが10歳の誕生日を迎えて世界樹の下で修行をする事になってから2年の月日が経ち、エミルもいよいよ後1年で修行の旅に出る事になったある日の事。

 その日は雷雨が降っており、エミルは慌てた様子で城の弔い部屋へと息を切らしながら走っていた。

 それは、修行を途中で切り上げたカルロから齎された訃報であった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ…‼︎

 カルロ、お兄様…‼︎」

 

「エ、エミル………畜生、俺の所為だ、俺の所為でアレスター先生がぁ…‼︎」

 

 其処には国王や王妃、更に3人の兄妹達が棺桶の周りに立ちエミルもヨロヨロと近付きながら棺桶の中を見ていた。

 其処には肌が青白くなりまるで眠る様に中に入れられたアレスターの姿があった。

 そう、アレスターは死んだのだ、カルロの修行の付き添い人として共に世界樹の下で修行していた時に。

 

「カルロそれは違うぞ、あれはあの場所付近に『エンシェントドラゴン』が偶然巣作りをしに来た所為であって」

 

「けど‼︎

 俺がちゃんと逃げ切れていたら‼︎

 俺があんな所で足を引っ掛けずに逃げ切ってたら先生は死ななかったんだ‼︎

 俺が転んだ所為で先生はエンシェントドラゴンの攻撃を受けて、それで戦わざるを得なくなって、命懸けの魔法でアイツを先生がぶっ殺したけど…けど…‼︎」

 

 如何やらカルロとアレスターは放浪型の魔物であり討伐推奨レベル140のエンシェントドラゴン…ドラゴン種の中でも上位に当たる竜に運悪く遭遇してしまい逃げ出したは良いが、カルロが逃げ遅れた為に止む無く戦闘になり、アレスターはカルロを庇いながらエンシェントドラゴンを討伐したのだ、その命を以って。

 それによりカルロはレベリングにより当初はレベル79で帰る予定がレベル105にまで上がり現在のアルクのレベル110に並ぶレベルにまでなっていたのだ。

 

「畜生、俺が、俺がもっとしっかりすれば先生は、先生はぁ‼︎

 うわぁぁぁぁぁ………‼︎」

 

「カルロ…アレスター先生…う、うう…」

 

 しかし、そんなレベルアップを喜ぶ程カルロは薄情では無く寧ろアレスターを陰では先生と呼び慕っていたのだ。

 そんな師が目の前で犠牲になった、それをカルロは大粒の涙を流しレオナも涙を流し、弔い部屋に居る王族達はカルロに如何声を掛けたら良いのか分からず暗い雰囲気が周りを包んでいた。

 

「…こんな事があるから嫌なんだ…魔物の存在も、魔族も…‼︎」

 

「…エミル?」

 

 そんな中、エミルはライラの時代からあった理不尽な隣人の死を思い出し、魔物や魔族達に対する怒りの感情を向けながら拳を作り、より一層自身の目標を達成しなければならないとさえ思っていた。

 そしてエミルはカルロの方を向き、彼の肩に手を出す。

 

「しっかりしてカルロお兄様、それでも貴方は王族ですか⁉︎

 貴方は何の為に生き残ったかしっかりとお考え下さい‼︎」

 

「五月蝿ぇよエミル‼︎

 お前に俺や先生の何が分かるんだよ‼︎」

 

「少なくともアレスター先生の気持ちなら分かります‼︎

 自分の教え子が危機に晒された、ならそれを救うのが教師の使命なんです‼︎

 アレスター先生はそれを全うして死んで行ったのです、ならカルロお兄様はアレスター先生の行為に答える義務があります‼︎

 生き残った者として先生の教えを伝え広めたり、更に強くなり先生が安心して眠られる様にする事ですよ‼︎

 違いますか⁉︎

 違うなら私を叩いて下さい、それが兄から妹への示しであるのですから‼︎」

 

 今までアレスターの死を悔やみ、カルロの姿に声を掛けられなかった周りの中でエミルは王家として、妹として、ライラの時代の感情を呼び起こしながらアレスターの気持ちを代弁する。

 彼が安心して眠りに就ける様にする事やアレスターの教えを広める事が義務だと叫び、初めはそれを突っ撥ねていたカルロもこんなしっかりとした意志を見せる妹が居るのに自分は情け無いと感じ始めていた。

 そして次第に涙を拭き、棺桶の中に居るアレスターを見ながら覚悟を決めた表情を見せていた。

 

「…先生、俺、エミルの言う通り戦いながら先生の教えを周りに伝えて来ます。

 俺は魔法と絶技の両方が使える『勇者』じゃないから魔法は使えないけど、絶技の教え方を先生流にアレンジして伝えて来ます。

 だから…今まで、ありがとうございました………‼︎」

 

 カルロはエミルに諭されアレスターが安心して眠るには自分がアレスターの跡を継ぎ彼の教えを広めて行こうと言う決意に満ち、そして家族の誰もが見た事が無い目の前の頭まで下げてアレスターに最後の礼を述べていた。

 こうして問題児カルロは一皮剥けて王族でありながら講師を目指す道を見出したのである。

 それも、嫉妬対象だった筈のエミルに諭されて、である。

 

「カルロ、お前…!」

 

「エミル、貴女は…!」

 

「(…教え子に先立たれてしまう、そんな悲しい事は嫌ですよね、アレスター先生…。

 だからこそ貴方は命を賭してカルロ兄さんを守ったのでしょう、そしてそれは例え王族であろうとなかろうと貴方はその道を選んだでしょう。

 ………そして、こんな理不尽をもっと少なくする為にも、私は…‼︎)」

 

 国王や王妃、兄妹達がカルロの決意やエミルの説得に驚く中で、エミルはライラの時代に何人も弟子が居たがその弟子達はライラが教え切る前に戦場で死ぬと言う悲しき別れを何度も経験していた。

 故に自身がアレスターの立場なら如何言っていたかを考えてカルロに話していたのだ。

 事実アレスターの人柄ならばカルロが王族であろうとそうでなくとも同じ道を選び死んでいただろう、教え子を持ったことのあるライラだったエミルにはそれが容易に想像出来た。

 そしてエミルの頭の中には自身の目標がより明確化していく感覚に満ち国王達家族を見ていた。

 

「…お父様、いえ国王陛下、お願いしとう事がございます」

 

「エミル…何なのだ改まって? 

 ワシに出来る事なら何でも言ってみせよ」

 

 セレスティア国王や王妃、兄妹達はこの弔い部屋でエミルが実の父に陛下と畏まり何かを話そうとする事にただならぬ雰囲気を感じ取りそれを国王は親子らしく軽々しく、しかし王として厳格な態度を持つと言うある意味矛盾した態度を見せながらエミルの目標…決意を聞こうとしていた。

 

「はい陛下。

 私魔法王国セレスティア第2王女エミルはこの様な理不尽をこの世から消し去る為………全ての元凶たる存在、魔界の王、魔王の討伐をしとうございます‼︎」

 

「っ、な、なんと…⁉︎」

 

「エミル、お前…‼︎」

 

 エミルは久しく忘れていた親しき者の突然の死別と言う理不尽なる蹂躙にライラの時代にあった正しき怒り…平和ボケと言えばそれでお終いだが、ライラの時代に碌に経験した事の無い長き温かな時間により目標達成をこの世界ならば気軽に出来る、優しい時間が長く続けば良いと言う頭の隅にあった気軽さと他愛無い願いを一切捨て去り、前世で果たせなかった悲願を必ず達成すると言う決意を此処に表明する。

 

「(そうだ、何処かにあった甘え…この世界の温かさから生まれた余裕を全部捨てて前世の時の刹那的な感覚を思い出せ‼︎

 お前は、その為に転生したのだろうエミル‼︎)」

 

 そしてエミル自身も自問自答をし、自身の中の悲願の大きさを再確認した上で魔王討伐に必要な事は全てやろう…そうする為に転生したのだとエミルは思い出す。

 かつて仲間達と果たせなかった悲願、その達成を現実にする決意を。

 

「…そうか、エミル。

 お前は荊の道を歩むと申すのだな。

 そしてその目はまるで伝説に伝わる初代女王ライラ様と同じではないか…ならば、誰にも止める事は出来ん。

 行って参れエミル、そして初代様の果たせなかった悲願を達成せよ、これは魔法王国セレスティア現国王の勅令である‼︎」

 

「…はっ‼︎」

 

 そして国王、更に王家一同はその瞳に折れこの決意表明を皮切りにエミルは書庫にあった生き残った弟子達が見出した魔法、絶技論文も全て見通し、そして1年後に群生する世界樹の中でも凶悪な魔物が巣を作っている箇所に狙いを絞りそれらに旅立ち世界樹付近の高濃度魔法元素(マナ)吸引の安全性とレベリングの危険性の両方を兼ね備えた危険な修行の旅に出るのであった。

 そしてこの旅はエミルの、ライラの時代から続く悲願を達成する為の第1歩を踏み出す物でもあった。

 




此処までの閲覧ありがとうございました。
補足説明として体内魔力についてはゲームで言う所のMP、絶技はMP消費して放つ技であります。
そして理不尽タグの意味、それは今の世界でレベル100オーバーは英雄や天才呼ばれる存在すら死ぬ時はサックリ死んでしまう事を初めとして色々物が詰まってるのです。
そうして改めて理不尽な死に直面したエミルは甘ったるい考えを捨てた修行に入ります。

次回もよろしくお願い致します。

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