転生魔法女王、2度目の人生で魔王討伐を目指す。   作:”蒼龍”

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皆様おはようございます、第34話目更新でございます。
今回で物語は一旦の節目を迎えます。
今回のエミル達が如何なるか、お楽しみに下さいませ。
では、本編へどうぞ。


第34話『誓いの翼達、勝利する』

 アザフィールが人間に化けたアズに客間へと案内され、其処で先にティア…ティターニアから茶菓子を出され、予め「アギラと違い毒物は入っておりません」と言われてその部分だけは信用出来る為口に含みながら、アイリス達の方を見ていた。

 

「…ねぇアイリス達は知っていたの? 

 此処の主人エリスの正体とか?」

 

「はい、知ってました。

 しかし聖戦の儀に反する虐殺行為等はしていなかった為見逃し、地上界の人々が勘付く事に委ねました。

 まぁ、反する行いはしていないとは言えアギラにも少ないとは言え力添えはしてたので要監視対象でしたが」

 

 エミルはアイリス、リコリス、それとムリアにこの屋敷の主人が何者か知っていたかを問うとリコリスとムリアは頷き、アイリスが代表して口を開き聖戦の儀に反する行い自体はしていなかった事を告げる。

 しかしアギラにも力を貸していた為監視対象だったとも話し、エミル達はそれで納得させながら主人のエリスを待っていた。

 するとドアがノックされ、其処からアザフィールが現れ中に入って来た。

 

「お客様、お待たせ致しました。

 私共の主人エリス様、そしてミスリラントの政治家のザイド様をお連れ致しました。

 お嬢様、ザイド様、安全は確認されましたので中へお入り下さいませ」

 

「ご苦労様ですアズ。

 お客様の皆々様、態々ご足労を頂いたのに待たせてしまい申し訳ありませんでした。

 私がこの屋敷の主人であるエリスと申します。

 そしてこちらがミスリラントの政治家で私の『友人』のザイドと申し上げます。

 以降お見知り置きを…そして、貴女方の『好きな方』で名をお呼び下さいませ」

 

 そうしてアザフィールの案内によりドレスに身を包んだ知らぬ者が見たら見惚れる程の綺麗な銀髪の少女、エリスが現れその隣には同じくスーツを着熟した黒髪の青年ザイドが現れ互いに社交辞令の挨拶を交え、更にはエリスはエミル達の『好きな方』で呼ぶ様にと発言し、自分達の正体が割れているのを承知で笑みを浮かべていた。

 そしてエミル達は感じた、この笑みは攻撃的な笑みであると言う事に。

 

「…ええ、なら好きに呼ばせて貰うわよ…シエル、そしてダイズ!」

 

 それに啖呵を切ったエミルは相手の正体…エリスはシエル、ザイドはダイズと呼び、2人は笑みを浮かべたまま瞳を細目で開け、変身魔法(メタモルフォーゼ)を解きながら言葉を紡いだ。

 

「…アイリス達が居ると言う安心感では無く、こちらと実力差があろうとも戦うと言う意志を示しながらの私達の真の名を呼ぶ…合格だよエミル達。

 もしこれでアイリス頼りだったり日和ってエリスと呼んでいたらそれなりの対応しかしなかったが、自分達から態々危険地帯に飛び込んだその勇気は褒めてやろう」

 

 そしてエリス…シエルはエミル達が日和る事無く、更にアイリスと言う対抗策が居る安心感では無く自らの意志で敢えて茨に飛び込んだ勇気を啖呵を切ったエミル、更にロマン達を見据えながら合格と口にし、その表情は正にエミル達が良く知るシエルの物になり、背筋を指す冷たいプレッシャーがエミル達を襲う。

 しかしエミル達は恐怖に負けぬ様に武器を握り締め、相手が襲って来たら全力で抵抗する意志も示した。

 

「ふふ、この状況でもなお勇気を出し我々の威圧に耐えるか…本当にアギラやその一派の者共とは大違いだ………。

 ふう…さて、お茶会に致しましょうか」

 

 それ等を見たシエルはエミル達を本当に気に入ったのか、アギラ達と大違いだと話しながら笑みを浮かべた後再びダイズと共に人間の姿に変身をし、手を合わせて和かな笑顔を浮かべ直してお茶会をすると話し、シエルとダイズが隣り合わせで座った後、部屋にティターンが入りシエルとダイズの分の茶菓子を置き、そのまま去って行った。

 

「(…この変身魔法(メタモルフォーゼ)、ムリアの物より完璧な上に私が『この女達はシエル達魔族だ』と強く意識していないと判別出来なくなる認識阻害まである! 

 気を抜いたらシエルに対してでは無く『エリスに対して』話し掛ける様になる‼︎)」

 

 更にシエル達を見ていたエミルは彼女達の変身魔法(メタモルフォーゼ)には認識阻害まで掛かる事を肌身で感じ、ムリアのそれより更に完璧な変身を目の当たりにし戦慄すると同時に目の前の女達は魔族と認識阻害に流されない様に意識すると、その変身に驚愕している事を表情に出さず紅茶を一口飲み話を始める。

 

「ふう、客人を呼んでおいて待たせて威圧してからお茶会を開くなんてマナー違反じゃないかしら? 

 これが魔界流のおもてなしと言う物なの?」

 

「それは失礼した、俺の提案でお前達が真に勇気がある者か蛮勇か、あの愚かな策士と同様な臆病者共か試させて貰ったんだ。

 このマナー違反はシエルには落ち度は無い、許してやってくれ」

 

 エミルは2人に客人を自ら呼んだにも関わらず待たせて更にはその客を威圧してからお茶会を開いた事をマナー違反だと話すが、それをダイズは彼自身の提案でこの様な形になったと話し、隣に居るシエルに落ち度は無かったとしながら紅茶を飲みながらエミル達を見ていた。

 対するエミル達も警戒しながらシエルとダイズを見ており、両者の間に(と言うよりエミル達が)緊張が走る中、ムリアが手を挙げてシエルに話し掛け始めた。

 

「あ、あの〜…俺の家族はアレから無事、なんですか〜?」

 

「ふふ、当然ですよムリア。

 アレからアギラ一派の魔族達が報復行為をしない様に私の派閥が幽閉の名目の下で保護し続けてます。

 そしてこの命は万が一私が死のうとも続ける様にと命じてます、だから安心して『貴方は貴方の信じる物の為の戦い』をして良いですよ」

 

 ムリアはその後も気掛かりだった家族の安否を確認すると如何やら幽閉の名目下で保護し、アギラ派の魔族から狙われない様にしていると話し、それを聞きムリアは胸を撫で下ろしていた。

 更にこの命令はシエルが死のうがずっと続けると言う事も話し、シエル本人はムリア信じる物…ネイルや彼等から教えて貰った正義の為に戦う様に話しながら紅茶を口にしていた。

 

「つ、つまり、ネイルの兄貴達と一緒に戦い続けて、もしも仮に貴女やダイズ様に刃を向ける事になっても良いんですか〜? 

 俺、ネイルの兄貴達とこれからもずっと一緒に居られるんですか〜?」

 

「ああ、寧ろそうしてくれなければシエルが態々お前の家族を完璧に保護した意味が無いぞ、地上界に力を貸す魔族の戦士ムリア。

 だからお前はシエルの言う様に自分自身が信じた物の為に戦え。

 さもなければ俺達の見込み違いだったと落胆するしか無いからな」

 

 更にムリアはこれからもネイル達と共に戦い、シエル達に刃を向ける事があっても良いかを問うと次にダイズがそうしなければ困ると言うニュアンスで話し、更には信じる物の為に戦えとまるでエールを送るかの様な発言をする。

 これ等を聞きエミルは500年前に攻めて来たアギラの様な魔族達と本質が違い過ぎると思い、困惑した表情を浮かべていた。

 

「ふふ、500年前の魔族達とまるで違うと思っていますねエミルさん? 

 当然ですよ、魔族にも千差万別があり500年前の魔族達はアギラの様な思想に凝り固まった愚か者達の集まりでしたから。

 それ等が貴女の前世や仲間達に間引かれ、そして500年の間に私達も力を付けた結果『魔王』様の下、3つの派閥に分かれる事になりましたから」

 

 その困惑したエミルに表の顔の口調で話すシエルは魔族にも千差万別があると説き、そして500年の間に魔王がトップなのは変わらないが勢力図が変わり旧然とした一派がアギラ派であり、それ以外は良く分からないが魔王の思想統一による個性の圧死が消えている様であるとエミルは改めて感じ、ロマンもエミルから聞いた話と事情が変わってると思い始めていた。

 

「それにしても皆様、その左腕に付けている腕輪は時空の腕輪ではありませんか? 

 地上界には存在しないアイテムを何故貴女方が付けていますのでしょうか? 

 アイリスさんよりお渡しされたとか?」

 

「げっ、目敏い魔族………はぁ、アンタ達に教えた所で痛くも痒くも無いから言うけど、これ天界で神様が次の『時空が乱れる災い』に必要だから持って行きなさいって渡してくれたのよ」

 

 そうして菓子にも手を付けた両者の中でシエルはエミル達の左腕に地上界に無い筈の時空の腕輪が装備されている事に気付き、アイリスに渡されたかと問うとエミルはありのままの事実を話した。

 これが神から直接天界で手渡された物、次の災いは時空を乱す物であると。

 何故そうしたかと言えば特段シエル側に隠しても何処かで調べ上げる可能性が高かった為である…が、シエルやダイズ、アザフィールはその言葉を聞き思考が若干停止し、そして驚愕し始めた。

 

「て、天界に生身で立ち入ったのですか⁉︎

 それも神様に御目通りして直接時空の腕輪を手渡されたと⁉︎

 貴女達………私達の予想の遥か斜め上を行きましたわね…!」

 

「俺も正直に驚いたぞ、まさか死してしか立ち入れない天界に生きたまま行き、そして神に出会うとは………。

 ふっ、シエルが目に掛けているだけあって中々に興味深い事をしてくれるじゃないか!」

 

 シエルは顔をエミルにグイグイと近付け、前代未聞の快挙に只々興味津々な少女の顔を見せながら驚いていた。

 更にダイズも興味深いと呟き、エミル達が預かり知らぬ所でダイズのエミル達に対する興味度が上がりいずれ本気で手合わせしたいとまで考え始める様になっていた。

 対するエミル達はアイリス達の反応からも矢張り生者が天界に行く事は前代未聞だったのだとシエル達も見ながら思っていた。

 

「…うっ、うふふ。

 本当に興味深いですよ貴女方は………。

 そうだ、此処で賭け事をしませんか? 

 貴女達が勝てば私達は今地上界で行っている侵略行為から手を引き、正攻法…つまり魔族の兵と地上界の勇士達の戦いに切り替えて正々堂々真正面からぶつかる事を誓いましょう。

 逆に貴女達が負ければ今行っている侵略行為を止めないまま正攻法でも攻めさせて貰う…如何でしょうか?」

 

『なっ⁉︎』

 

 するとシエルは不意に顔を押さえながら笑い始めると、手を叩き賭け事をしようと話し始めその賭ける物の内容はシエル達が今行う侵略行為を止める…シエルは敵に回せば貿易が成り立たなくなるやり手の商人、ダイズはミスリラントで有名な政治家。

 つまり政治と経済の両方を牛耳る回りくどいが血を流さない侵略行為を止めて正攻法の戦いのみにすると話しエミル達はアイリス共々驚愕し彼女達を見ていた。

 一体何が彼女達をその賭けに走らせたか知る為に。

 

「理由を知りたい、とお考えの様ですね? 

 簡単ですよ、貴女達は神様が天界に招くに相応しいとした方々、つまりは特別な存在になっているのです。

 ならそれ相応の事でもてなし、そして貴女達が私達を1つでも上回る可能性を見せて貰いたいと思ったのですよ…アズ、茶菓子を片付けてトランプを出して下さいな!」

 

「畏まりました」

 

【カチャ、カチャ、カラカラ】

 

 シエルはエミル達の様子を見て神が天界に生者のまま招いた事が余程特別な事だと判断し、ならばその特別な存在に対して相応のもてなしや何か1つでも上回る可能性を見たいと話すや否や、アザフィールに茶菓子を片付けてトランプを出す様に命じた。

 それを聞いたアザフィールはお茶と菓子をカートに片付けると、懐から封を切っていないトランプを取り出してエミル達に見せた。

 

「さてエミルさん、貴女の好きなゲームで私達に勝ってみて下さい。

 そうして運すら味方にする貴女を真の強さを、勇者ロマン様と共に私とダイズにお見せ下さいませ」

 

「…上等よ、ならポーカーよ‼︎

 ロマン君、行くわよ‼︎」

 

「エ、エミル⁉︎」

 

 そうしてシエルは運すら味方にする強さをロマンと共に見せる様に発言すると売り言葉に買い言葉になりロマンを巻き込みポーカーで勝負する事になり、ロマン本人は困惑して慌てふためいていた。

 

「エミル殿、勝算はあるのか?」

 

「やってみなくちゃ分からない、けどコイツにいい加減ギャフンと言わせないと気が済まないわよ‼︎」

 

「滅茶苦茶だなオイ」

 

 ネイルはエミルに勝算があるかを問うと、エミルはギャフンと言わせる為にも勝ち目があるか分からない勝負に乗ったとしてアルですら滅茶苦茶だと言いお手上げをしていた。

 そうしてチップとカードがシャッフルされ配られる中、エミルは相手のカード交換枚数を見て1枚のみ交換し、ロマンも腹を括り3枚交換してディーラーのアザフィールから受け取り、互いに役を確認してシエルとダイズは頷くだけだった。

 

「もう、エミル様も熱くなり過ぎよ! 

 大体賭け事で世界の命運を懸けるなんて非常識よ! 

 それに、これ相手の土台で戦ってイカサマされ放題じゃ」

 

「魔法使いシャラ、俺達をあの小汚い策士と一緒にするな。

 俺達は透視(クリアアイ)もリストバンドにカードを仕込む真似すらしない、したら互いを軽蔑し合う。

 そして殺し合いに発展するだろうな…さて、ハンドは確認し終わったな、賭け金を決めるぞ。

 エミル達から金額を決めろ」

 

 それを見ていたシャラは賭け事で世界の命運が左右されるのと相手のイカサマし放題の土台で戦うのは非常識だとエミルに冷静になる様に発言するが、それを聞いたダイズはシャラに殺気を放ちイカサマは一切しないと公言し、したらシエルと互いに殺し合いになるとまで話して小汚い策士=アギラと違うと言い放つ。

 そうして互いの役を確認し終え、エミル達から賭け金を決める様に話し始めた。

 

「…ならオールインよ! 

 初めから勝つか負けるか2択なら全てを賭けるわ‼︎」

 

「ふふふ、矢張りそうしますよね。

 なら私は」

 

「但し、只のオールインじゃないわ。

 貴女達が地上界侵略すらチップに入れてるなら私も相応のチップ…私の命を賭けるわ‼︎」

 

『⁉︎』

 

 そしてエミルはシエル達が予想したオールインを選択し、シエルもこれは当然だとして自身もオールインを選択…しようとした瞬間、エミルはシエル達が地上界の裏からの侵略もチップに入れてるならばと言う理由から何と自身の命すらチップに含むと言う狂気の沙汰を見せ、シエル達も驚きながらエミルを見ていた。

 

『エミル⁉︎』

 

「エミル殿、正気なのか⁉︎

 貴女が死ねば地上界の魔族からの侵略を誰が止めれば」

 

「後釜ならもう見つけてるわ…キャシーちゃん、私と同等の才覚を持つ人。

 負けたら貴女に後を託すわ」

 

 エミルの賭け金にサラ達は驚き、ネイルもエミルの選択に固唾を呑みながらエミルが死ねば誰がと言うが、これをエミルはキャシーを見ながら自身の後釜に見出している事を彼女に告げると、キャシーはネイル達の下で心も鍛え直した為このカミングアウトを受けても動揺せず、黙って頷きながら受け止めていた。

 

「良いんだな、ならば俺達もオールインだ。

 勇者ロマン、お前はどうだ?」

 

「…だったら僕だってオールインする‼︎

 エミルが命を懸けるなら、僕が同じ様に命懸けで守るんだ‼︎」

 

「…その意気や良し、なら私から公開しようか、コール! 

 …ふっ、意気込んで今回は2のワンペアしか作れなかったよ。

 私はこう言った命運を懸けた戦いには弱いのかな?」

 

 ダイズは最終勧告としてオールインを選択し、ロマンに対しても威圧を行うとロマンもエミルの命を守る為のオールインを選択して覚悟を見せる。

 するとシエルとダイズは自然と変身を解くと先ずシエルから役を公開するとワンペアと言う明らかに絶対強者の彼女らしく無い弱さにサラ達もイカサマは無い…と判断し、次の役が公開されるのを待った。

 

「悪いが俺はスペードの6から始まるストレートフラッシュだ。

 これを破るにはクイーンやキングを含むストレートフラッシュかロイヤルストレートフラッシュ位しか無い。

 さあ魔法使いエミル、お前の役は何だ‼︎」

 

「…私の役は、これよ‼︎」

 

 するとダイズが容赦の無いストレートフラッシュを見せ付けてそれを上回る役を説明しながらエミルに役の公開を迫った。

 するとエミルは自信満々にカードを全て公開し、全員を驚かせた。

 それは何と………どの役にすら成りきれないノーハンド、俗に言うブタであった。

 

「なっ⁉︎

 ブ、ブタ⁉︎

 エミル、貴様何故ブタなのに自信満々にオールインをした⁉︎

 私達がフォールドを選択するなんて淡い賭けに出た、なんて言わせないぞ‼︎」

 

「何で私がオールインを選択したか? 

 ブラフ? 

 フォールド狙い? 

 そんな訳無いよ、だって私は…」

 

 シエルとダイズはエミルの謎の行動に椅子から勢いよく立ち上がり、特にシエルはテーブルを叩きながら何故こんな行動に出たかを問い始める。

 それをエミルは瞳を閉じながらブラフやフォールド狙いを否定し、その間にロマンがカードを公開した。

 其れを見た瞬間シエル達は固まり、サラ達は笑顔を浮かべていた。

 何故ならば…。

 

「…だって私は、仲間を信じてるんだから‼︎」

 

「…5の、ファイブカード…‼︎

 アザフィールの様子からエミルもロマンもイカサマをした形跡は一切無い…ならば、仲間を信じる心がこの結果を生んだ? 

 …は、ははは、あははは、あははははははは‼︎

 本当に、本当に色んな意味で期待を持てる様だなエミル、そしてロマン‼︎」

 

 ロマンは5のファイブカードを作りエミルの命を守る結果を作り出し、それを見たシエルはイカサマもせず仲間を信じた結果これがあると見せ付けられ、狂乱したかの様に笑い出しダイズも不敵な笑みを浮かべエミル達が自分達の想像を超えつつある事を理解した。

 そして一頻り笑い終えた後冷静に戻り、言葉を紡ぎ始めた。

 

「…ふう、良いだろう。

 我々の地上界の政治、経済の侵略は約束通り取り止めよう。

 アザフィール、部下達に作戦は失敗、直ぐ様痕跡を消し撤退する様に命じろ!」

 

[アリア、俺だ。

 今朝方話した賭けは俺達の負けだ、各国に潜伏した部下達に活動中止を命じ、今後は真正面から地上界と戦う様に行動をシフトさせると命じろ]

 

 シエルはアザフィールに直接、ダイズはアリアと言う魔族に念話で命令を下し始めるとアザフィールは念話を開始し、それを聞き付けたティターン兄妹が屋敷の家具類を転送し始め、本当に裏側の侵略を止め始めていた。

 

「本当に引き払い始めたわね」

 

「我々はアギラと違い言葉は違えない。

 それだけお前達に興味を持ち、また魔界の戦士の誇りを持つのだからな…さて、これで漸く裏側からの侵略と言う100年プランは終わりを告げたわけだ。

 後は言い残す事は無い、今度は戦場で出会うとしようか。

 さらばだ、魔法使いエミル達」

 

【ビュン‼︎】

 

 エミルは言葉を違えずに行動し始めたシエル達に関心を持つと、彼女達はそれだけエミル達に興味を持った上で魔界の戦士の誇りを説き、アギラと本格的に違う事を匂わせながら次は戦場で出会うと話しながら屋敷に居た魔族達は消え去った。

 恐らく他の国でも同様な事が発生し、混乱が多少発生するだろうとエミルは窓から空を見ながら瞳を閉じ何も無くなった屋敷から出て行くのであった。

 

 

 

 一方その頃門の前に転移したシエル達はエミル達が話していた事を振り返り深刻な表情を浮かべながら話し合いをしていた。

 

「それにしても、次の災厄には時空が乱れる、と言っていたな…まさかアザフィールにダイズ、『アレ』が目を覚してしまうのか?」

 

「矢張りお前も同じ考えか。

 ならば暫くは魔界に篭り『アレ』を監視するぞ、『アレ』が目覚める危険性を考えれば魔王様も侵略の手を緩めるのもお許しになる筈だ」

 

「では急ぎましょうかシエル様、ダイズ殿」

 

 シエルは時空が乱れると言う単語から魔界に伝わるある存在が目を覚ましてしまうと言う考えを口にするとダイズも同様だったらしく、これを魔王に報告しその存在の監視を強める事で意見が一致する。

 そうしてアザフィールが急かす様に他の魔族達を門に入れると、最後にティターン兄妹を含めた5人が門を潜ると其処には誰も居なくなっていた。

 その間に聞き手になっていたティターン達もその存在の危険性を承知していた為、黙ってシエル達に付いて行ってたのであった。

 

 

 

 それから2日後にライラックの会議室でランパルドや王妃、集まった諸王達に再び4国会議を開き魔族達は経済や政治にすら介入していた事を暴露したエミル達は、それを裏付ける証拠としてエリスとザイドが失踪した日と同じ日に消えた人物達をリストアップしてアルク達が見守る中で報告していた。

 

「むむむ…まさか地上界の内側に魔族が入り込み、更には此処まで内部に切り込まれていたとは…本当に100年以内に経済と政治の両方を支配される所だった…エミル、ロマン君達、良くこの裏の侵略を防いでくれたな、本当に感謝しかない」

 

「いえ…何故か向こうから手の内をバラして来た上に私達は更に何故か賭け事で解決した事ですから…何か、今更考えるとシエルの掌の上で踊らされたわね」

 

「僕はブタなのに命までオールインするエミルにビックリだったよ…」

 

 ランパルドやロック達は各国の経済や政治に完璧に食い込んでいた事に驚愕しつつ、

 それを暴いたエミル達を称賛するが、エミルは冷静になって考えるとシエルの掌の上で踊らされていた事を考え頭を掻いていたが、ロマン達はノーハンドでオールインを選択した事に未だ引いており、ロマンがケアしていなかったら2人の命が無かったと思いジト目で エミルを見ていた。

 

「ふむふむ…勝算が無いのにエミルは命すら賭けたのか?」

 

「いえありましたよ。

 だって私は、仲間の皆やロマン君を信じていましたから!」

 

 ランパルドは全く勝ち目が無いにも関わらず全てを賭けたのかとエミルに喝を入れようとしたが、エミルは仲間達全員を、何よりあの場で共にポーカーをしていたロマンを信じていたと話すと、アルすらも呆れながらエミルは自信満々に仲間を信じ切ると言うある意味美点でもあり危うい面を見せ全員で溜め息を吐きながらしっかり見ていなきゃ危ないリーダーだと改めて認識させるのであった。

 

「…ふう、さてじゃじゃ馬娘の説教は後日に回して。

 諸王の皆様やアルク達兄妹を集めたのは他でもありません、我が夫にして現国王ランパルドの進退についてを皆様にお知らせする為です。

 知っての通り陛下は右腕を失いました、そして息子達は父を超える力を身に付けました。

 これを気に陛下は王位を息子達の誰かに譲ると話されました」

 

 すると王妃『ミサ』はランパルドの進退についてを語り始め、ランパルドも頷きながら王位を退く事を初めてアルクやエミル達にも告白しアルクやエミル達は騒つき始めた。

 特にエミルに関しては王位を継ぐ気が無かった為許嫁も居らず、万が一自分が継いだ場合を想定しアルクに譲る気で話を聞き始めた。

 

「息子達よ静かに。

 それで王位に関しての話だが、先ず順当に行けばアルクが次ぎ、その許嫁の『カトレア』が王妃となる。

 しかしアルクが譲るとなればレオナが女王となり『マカリオ』が王配になる。

 だがレオナも譲るとなればカルロが国王になるが、カルロもエミルも許嫁が居ない。

 これでは片方の席を空席にしてしまう。

 よって私はアルクかレオナに継がせたいと思うがカルロ達の意見は」

 

『異議無し!』

 

 ランパルドはそのままミサから話を継ぐ様にそれぞれが王位を継いだ後の事を話すと、カルロとエミルは許嫁が居ない為に片側の席が空席になってしまう危惧があり、円滑に話を進める為に矢張りアルクやレオナに王位を継ぐ様に話し、カルロ達の確認を取るとエミル共々ノータイムで異議無しと答える。

 何故ならエミルは魔王討伐をしたいが為に継ぐ気は無く、カルロも講師になりたい夢がある為今も許嫁を後回しにし、アレスターの書物等を読み漁っている最中なのである。

 

「お前達は少しは真剣に考えて…いや、2人はそれぞれの目標があるから王位を継ぐのはそれを諦める事になるから仕方無いとも言えるか…。

 ふむ…レオナ、お前は女王になりたいか?」

 

 アルクはエミル達の態度に少し頭を押さえてしまうが、直ぐに王位を継承するよりも重い自らの夢がある事を思い出し、それ以上は何も問わずに考えを王位継承の対抗になっているレオナの方に向ける。

 するとレオナも待ってましたと言わんばかりに口を開き始めた。

 

「いいえ、私は誰かのサポートは出来れどアルク兄様やカルロ達の様に前に出る事は苦手です。

 故に外交官と言う道を進んでいるのです…カルロもアレスター先生の様な講師に、エミルはライラ様の様な魔王討伐をする者になりたい、だから許嫁を未だ作らずにその道を進み続けているのです。

 だからこそ…アルクお兄様、いえ、アルク新国王陛下、我等をお導き下さいませ」

 

 レオナは自分は誰かの前に出る器では無いと、誰かをサポートする事が得意だと話しつつ外交官の道を歩んでいると説いた。

 それと同時にカルロとエミルも同様に自身の夢や悲願を達成する為にその道を進んでいると話し、最後にアルクを新国王陛下と呼びながら膝を突き、ロック達諸王以外が跪く形になっていた。

 それを見たアルクの答えは…。

 

「…分かった、お前達の意思は固い事も俺が皆を導く方が円滑に物事が進むと言う事も理解した。

 であるなら父上、貴方様の重き物全てを謹んで継承致します」

 

 アルクは父王ランパルドに対して王位継承をすると答えると、ランパルドやミサも頷きながらこれを重く受け止め、次なるセレスティアの王はアルクになる事が此処に決まった。

 そうして厳格なる空気の中でアルクは早速次代の王としてやるべき事をしようと皆を見ながら話し始めた。

 

「では、次期王になる私から正式な継承をする前にやるべき事をしたい。

 諸王の皆様、今お集まり頂いたのは正に天命がそうせよと私に告げているのでしょう。

 其処で頼みたい事が1つあります、それは試練の問い、アレを冒険者ギルドや軍全体に流布し地上界のレベルの枷を外したいと申し上げたいです」

 

「第2王女のエミルも同意致します。

 あの試練の問いのリスクについてアイリスに尋ねた所、リスクは『問いの内容を全て忘れ、自分を見つめ直す時間が増える』だけであり、アレスター先生の考えは杞憂だったみたいです。

 なので、今後もレベル250を超える魔族に対抗する為にこれを流布する事は必然性があると言えます」.

 

 アルクは次期王になる前にロックやゴッフ、サツキ達に試練の問いを各国の軍や冒険者ギルドに流布し、地上界のレベルの枷を外し平均レベル値を底上げしようと言い出し、エミルも同様の事を進言しようとしていた事もあり乗っかり、試練の問いのリスクが小さい事をアイリスに聞いたと話し流布する必然性が高い事を理由を添えて説明した。

 

「確かに我々のレベルを超える敵が現れれば対抗策が今エミルやサラ達だけと言うのは心許無い…フィールウッドは賛同しましょう」

 

「ミスリラントも異議は無いぜ」

 

「ヒノモトもじゃ」

 

 それ等を聞きロック、ゴッフ、サツキも同意をし、その理由もレベル250オーバーに対抗出来る者達が少な過ぎると言う理由であり、これ等を聞きランパルドも納得したのか頷き始めていた。

 

「では試練の問いの流布を決定と致しましょう。

 そしてアルク、これからはお前が国を、民を守るんだぞ。

 エミルも魔王討伐の勅令は継続とする、良いな?」

 

『はっ‼︎』

 

 ランパルドは現国王としての最後の仕事を果たす様に試練の問いの流布を決定しアルクには次代の王としての責務を、エミルには魔王討伐を継続する様に命じると2人は跪きながら父王最後の命を受け取りそれ等を必ず果たすと心に誓っていた。

 こうして4国の現在の王が集まる会議は幕を閉じ、エミル達は王宮から立ち去り始めた。

 

 

 

 それから王宮の門を抜け、城下町に繋がる橋を渡り切るとその隅にはアイリス、リコリスがルルの様にフードを被りながら10人を待っていた姿がエミル達の目に映った。

 

「アイリスにリコリス、そんなに待ってたならやっぱり会議に顔出しだけでもすれば良かったのに」

 

「いいえ、我々天使は本来なら聖戦の儀の法を破った以外で過干渉は避けるべきなのです。

 でなければ地上界の成長を見込めませんから、ですよねアイリスお姉様?」

 

「…と言うよりも、私達が居るだけでノイズになるから会議には参加しない方が良かった、が正しいわリコリス。

 過干渉云々は神様から地上界に派兵されてる時点で干渉はして良いと解釈しているもの」

 

 エミルは2人も外で寂しく待つよりも会議に参加すればと話したが、リコリスは過干渉を避けるべきと話し、アイリスは自分達の存在が会議のノイズにならない様にしたいと言うスタンスから参加しなかったと話し、干渉に関しては神から実質許可を貰ったとして気にしていない様子だった。

 それに気付けなかったリコリスは自らを未熟と口にして頭を押さえていた。

 

「だがあの様子ならば別に余計な雑音にはならなかったと思われますぞ? 

 アイリス殿もリコリス殿も余り気を使わず次は会議に参加して下され、何故なら我々は正義を成す仲間なのですから」

 

「…出来るだけそうするわ」

 

「たく、頑固者な連中だぜ」

 

 するとネイルはあれならば会議に参加しても問題無かったと話し、全員で頷くとネイルは2人を正義を成す仲間だと話し会議にそれとなく参加する様に促すと、アイリスは出来るだけと言いつつリコリス共々エミル達の後ろに陣取る。

 それをアルは頑固者な連中と口にすると、周りから苦笑が飛びアルは「何だよ!」と発言し自身がブーメランを投げた事に気付いていない様子だった。

 

「さて、皆ライラックの冒険者ギルドの宿屋にやっと完成した看破魔法(ディテクション)Iや試練の問いを流布しに向かうわよ!」

 

「…はい………あぐ‼︎」

 

 そうして周りの空気を堪能したエミルはライラックにある冒険者ギルドの宿屋に魔族の変身魔法(メタモルフォーゼ)Iを見破る為に創り上げた看破の魔法と試練の問いを流布しに向かい始め、ルルも歩調を合わせて歩き始めた………その時、いつもの予知とは違う頭痛に似た危険予知が発動し、ルルはその場で蹲ってしまう。

 

「ルル、如何したの⁉︎」

 

「コイツは…危険予知、それも途轍も無くヤベェ奴を予知しちまったんだな‼︎」

 

「ルル、深呼吸して‼︎

 後は落ち着いたら内容を話せば良いから休んで‼︎」

 

 エミルは突然のルルの様子に驚いていると、アルは危険予知、それも途轍も無く大きな物を予知したと話すと、サラと共に慣れた様子でルルを介抱し、近くにあった公園の椅子に座らせて落ち着くまで待った。

 するとルルは少し落ち着き、フードを取りながら皆を見ていた。

 

「はぁ、はぁ、ごめんなさい皆。

 私、今途轍も無く大きな危険予知を視たわ…ミスリラント領の大地が海に沈む以上に危ない予知よ…‼︎」

 

「地殻変動で大地が海に沈んだアレより危ないって世界規模って意味よね⁉︎

 ルル、どんなのだったかゆっくりで良いから皆に話してみて!」

 

 ルルは皆に謝罪しながら視えた予知がミスリラント領の大地が海に沈んだ事を予知した時以上に危ないと表現しながら話す。

 それを聞いたサラや全員はその予知が世界規模だと判断し、ゆっくりと話す様に促し始める。

 するとルルは瞳を閉じて言葉を紡ぎ始めた。

 

「…『彼方なる者、現世に再び目覚め時空を乱さん。

 誓い立てし翼と正義掲げし鉄剣は彼方なる者を討滅すべし。

 さもなくば時空は乱れ、魔界、地上界、天界は滅びを迎えん』…これが視えた予知の内容よ」

 

「時空が乱れる…神様の仰られた通り…そして原因は彼方なる者…そう呼ばれた者は世界に1人しか居ない! 

 まさか、矢張り『奴』の封印が解ける…⁉︎」

 

 ルルは視えた内容を一言一句違わず話し、誓いの翼(オースウイングズ)正義の鉄剣(ソードオブユースティティア)が原因である『彼方なる者』と呼ばれた者を倒さなければならない事、倒さなくては地上界のみならず天界も魔界も滅ぶと言う内容にエミル達は固唾を呑んでいた。

 そしてアイリスは神の警告とルルの予知が一致し、彼方なる者と呼ばれた者が1人居た事を思い出しながら封印が解けると恐れ始めていた。

 

「アイリス、リコリス、彼方なる者って何者なの? 

 教えてくれるわよね?」

 

「ええ勿論よ、奴が復活すれば最早聖戦の儀をしてる場合じゃないわ…‼︎

 その者は禁忌の魔法の中でも更なる禁忌、世界の秩序を乱す『時間跳躍魔法(タイムジャンプ)』を会得し、あらゆる時間軸に跳び歴史の改竄の果てを見ようとした、今の魔王がアザフィールと共に封印をした大罪を犯した魔族…その名は、『ソーティス』‼︎」

 

「ソーティス…それが、次に僕達が倒すべき…」

 

 エミルは慌てた様子を見せるアイリスとリコリスに彼方なる者の情報開示を求めると、アイリスも聖戦の儀所では無いとしてどんな者かを話し始めた。

 その者は歴史の改竄の果てを見ようと目論んだ魔族であり魔王がアザフィールに命じ封印をした程の大罪の魔族…名はソーティスと叫んでいた。

 そしてエミルやロマン達はそのソーティスこそが次なる敵として息を呑みながら脳内でその名を反復させるのであった。

 

 

 

 その同時刻、魔界のある場所に形成された異空間の中に形成状の何かが浮かびそれが定期的に光っていた。

 これは空間封印魔法に加え、球体は更に個人を外から縛り永久に封印する窮極封印魔法の二重封印が施されている証明であり魔族達も、魔王自身も何かの影響で封印が破れてしまわぬ様に近付く事が許されない禁忌の地である。

 

【ピキ、ピキピキピキ、パキン‼︎】

 

 だが、その窮極封印魔法が突如ひび割れ、更に一部が欠けてしまい其処から左目と一部の銀色の髪の毛が見える様になってしまう。

 そしてその黄色の眼は開き、外を睨み付ける様に眼球を幾重も動かし、そして最後は一点を見つめていた。

 

「…魔王…アザフィール…‼︎」

 

【ピキピキピキピキ‼︎】

 

 更に封印魔法の中から怨嗟の声とも取れる地の底から響く様な恐るべき声が響き、窮極封印魔法はそのひび割れが更に広がり出し、まるで内側から食い破る様に封印魔法が破れ掛かり始めた。

 こうして彼方なる者は世界にその目醒めを知らせ、次なる災厄の権化として、3世界の秩序を乱す者として封印を更に食い破り始めるのであった…。




此処までの閲覧ありがとうございました。
今回は次回からの敵となる者の名前等を出し、此処から更に物語を広げて行きたいと思います。
そしてその敵にエミル達が如何やって立ち向かうかお楽しみ下さいませ。
後はちょっとした報告でこの回を投稿後に章管理を致します。
それから投稿頻度もリアル事情で落ちると思います。
それでもこの物語は更新し続けて行きますのでお付き合いの程をお願い致します。

それでは次回もよろしくお願い致します、よろしければ感想、指摘をお願い致します。

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