転生魔法女王、2度目の人生で魔王討伐を目指す。   作:”蒼龍”

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皆様おはようございます、第4話目更新でございます。
今回からタグにあるもう1人の主人公、勇者が登場致します。
では、本編へどうぞ。


第4話『エミル、勧誘する』

 防具屋から出たエミルは早速必要となる物を買い出し魔法袋(マナポーチ)の中に収め、更にリリアーデ港街の領主にある許可を貰うべく領主に謁見を求めた。

 

「すみません、セレスティア王国第2王女のエミルと申します。

 急で申し訳ありませんが、リリアーデ港街の領主様に内謁させて頂きたいのですがよろしいでしょうか? 

 因みに此方が私の身分を保証する勅令書となります」

 

「は、はぃぃ⁉︎

 えと、『この者は我がセレスティア王家第2王女エミルと認め、彼の者に魔王討伐の任を与えたし。

 セレスティア王国第12代国王ランパルド』………王家の家紋も朱印も本物…⁉︎

 す、直ぐに領主様との内謁の準備をさせて頂きます‼︎」

 

 領主館の受付はエミルの突然の訪問に驚き、更に現セレスティア国王の勅令書すらも見せられ大慌てで領主の下へと向かい、内謁する用意を取り急ぎ行っていた。

 エミルは少し悪い事をしたなと思いつつ受付を待った。

 

「エミル王女殿下、お待たせ致しました‼︎

 領主様との内謁の準備が整いましたのでご案内致します‼︎」

 

 そしてそれから15分後、受付前で立たされていたエミルの下に受付が小走りで戻り領主の間に案内を始めた。

 そして受付が領主の間の扉を開け、中にエミルを案内した。

 

「ああこれはこれはエミル王女殿下、この様な者に内謁して頂くとは有り難き幸せ! 

 ささ、どうぞ此方にお座り下さいませ‼︎」

 

「はい、失礼致しますリリアーデ港街領主様」

 

 その中にはリリアーデ港街領主が事務卓から立ち上がっており、エミルにお辞儀をしながら客席の上座へと座らせ自身は下座に座りお互いに挨拶と握手を交わしていた。

 

「それで、エミル王女殿下が内謁を希望されたとお聞き致しましたが如何されましたか? 

 確かギルド協会の宿屋で冒険者登録と素材換金をして頂いたと耳に入れましたが、まさかそこで何か粗相が?」

 

「いえ、素材は相場通りの価格で換金されました。

 そして冒険者登録については私のレベルが163と前例の無いレベルで登録してしまった為冒険者ランクについて協会本部と会議で決まるとの事です。

 それより私がこの場に赴いた理由はある事を許可して頂く為にあります」

 

 領主はギルド協会の宿屋での事を既に耳に入れており、大きな港街ながら情報伝達が早いとエミルは感心しながら宿屋では何も問題は無かったと話した。

 それよりも自身の目的、勇者勧誘の為にある事の許可を貰うべく来たと少し濁しながら話し領主の出方も伺っていた。

 

「え、えと、ある事とは………王女殿下には魔王討伐の勅命が国王陛下より承っておりますから………もしや、勇者の勧誘、でしょうか?」

 

「正解です。

 私は国王陛下より魔王討伐の任をこの身に帯びました。

 しかし矮小な私1人の存在では魔王討伐は絶対に叶いません。

 其処で考えたのは、共に戦う真の勇者の勧誘です」

 

 領主が必死になり頭の中で魔王討伐に必要な要素を知識の中から絞り出し、それが初代勇者ロアの血を引く勇者の存在であると言う答えに行き着く。

 エミルはそれに正解を出し、自分1人では矮小で魔王討伐は叶わないと話し、その上で共に戦う勇者…但しエミルの中では単に勇者ロアの血を引くのみならず、真の優しさと勇気を兼ね備えた真の勇者の存在が必要だと領主に伝え、その固唾を飲ませた。

 

「真の勇者とは今は我々セレスティア王家にすら在処を秘匿され所在が分からない神剣ライブグリッターを振るい魔王を斃す存在です。

 なので私は私の目で見定めた勇者を勧誘し、その勇者や恐らく今後旅やギルドで仲間になるであろう未だ見ぬ戦友(とも)達と共に魔王討伐を果たしたいのです」

 

「ライブグリッター…しかし、アレは名前だけで実際に見た者は居ないと」

 

 エミルは領主に真の勇者と存在が名前のみになり在処が秘匿されたライブグリッターを求めている事を口にし、更にこれから先出会うであろう未だ見ぬ仲間と共に魔王討伐をしたいと熱弁していた。

 しかし領主はライブグリッターは勇者や初代勇者パーティは存在すれど眉唾物だと口にしようとしながら汗を拭き始める。

 

「いえ、ライブグリッターは必ずこの世界に存在します! 

 何故ならフィールウッド国の王にして初代勇者パーティのエルフの賢王ロック国王陛下や予言者リリアナ様、更にドワーフの国、荒地と鉱山に囲まれた『ミスリラント』の職人王ゴッフ様までご健在で存在なされていますからライブグリッターも必ずやある筈なのです‼︎」

 

 するとエミルはライラだった時代に確かにロアは天使からライブグリッターを授かり振るっていた場面を何度も記憶しており、それを初代勇者パーティの長寿組が未だ健在である事からライブグリッターも必ずあると逆説を唱えその熱意にリリアーデ領主は圧に押され座席に背中を押しつけてしまっていた。

 

「…つ、つまり王女殿下はライブグリッターは必ずあると確信し、それの担い手である勇者ロアの後継者を見い出したい、そう仰られているのですね?」

 

「はい、ですから私にギルド協会から冒険者ランクが下りるまでの間に私の身分やレベルを隠した上で『勇者勧誘所』を経営させて頂きたいのです。

 既に勧誘所を建てる為の木材や椅子等も用意してあります、ですから後は領主様が全国に魔王を討伐する勇者勧誘中と言う情報を流し、勧誘所経営許可を下ろして頂きたいのです! 

 領主様、どうか、お願い致します‼︎」

 

 領主はエミルの熱意によりライブグリッターは存在し、彼女はその担い手を探しているとしっかりと理解する。

 そしてエミルは本題となる勇者勧誘所の経営許可を取得し、更に全国に勇者勧誘中の情報を流す様に説得を開始し勧誘所を建てるのに必要な木材や椅子等は既に自腹で用意していると話しその上で頭を下げてそれら全ての許可を取ろうとしていた。

 そして、領主の答えは………。

 

「…分かりました、貴女様の熱意には負けました。

 直ぐにエルフの建築士達を用意してその用意した木材で勧誘所を建てましょう、更に全国と言わずセレスティアやミスリラント、そして絶技の国『ヒノモト』にも情報を流し、魔王を討伐する為に勇者を勧誘する者が居る事を流布致しましょう!」

 

「あ、ありがとうございます、領主様‼︎」

 

 領主はエミルの熱意の懇願に首を縦に振り、勇者勧誘所の経営許可やエルフの建築士に費用は領主持ちとなりながらフィールウッド国のみならず故郷のセレスティアやミスリラント、更には絶技の国として熟達の剣士や槍士、騎馬兵などが集うヒノモトと全世界に向けての情報流布をすると約束され、昼前に手続きを全て終えて勇者勧誘所の建築が始まり、更に小さな店と言う事で直ぐに終わり太陽の日が西に傾き始めた所で次に流布する内容の取り決めが始まった。

 

「先ず身分は隠すとして、どんな風に勧誘をするのでしょうか?」

 

「そうですね…内容は『世界を救いたい勇者よ集え! 

 今こそ君の勇気と力が必要な時が来た! 

 女魔法使いと共に魔王を倒そう‼︎』で如何でしょうか? 

 勿論女魔法使いの部分に引っかかったエセ勇者は最初の段階でお断りしますが。

 あ、因みに私の容姿はこの帽子を深く被らせながら顔の上半分が見えないアングルで転写して下さい」

 

「はは…流布する内容にトラップを仕込むとは本気なんですねぇ」

 

 流布する紙の広告内容には帽子を深々と被りながらも端正な容姿だとキチンと判る様に魔法で転写し、更にエミルの言った内容の文言を大きく書き女魔法使いの部分は黒字では無く赤字にして目立つ様にし、堂々とトラップが仕込まれた広告が出来上がりリリアーデから全世界へ転送魔法で流布が始まった。

 因みにセレスティア国民も良く見なければエミルと分からず、一目でエミルと分かり更に広告に罠が仕掛けてある事を理解出来るのは家族のみであった。

 

 

 

 それから翌日の朝。

 エミルは勇者勧誘所で食事を摂り勇者が来ないかと待っていると早速ドアをノックする音が響いた。

 

「はい、入って下さい」

 

 エミルは早速勧誘勇者候補が来たのだと思いドアを開けさせると、其処には金一色の防具を着た如何にも地雷系の男が立っていた。

 

「へ〜い、君が勇者を勧誘している子か〜い?」

 

「アーハイソウデスネ」

 

 エミルは観察眼(アナライズ)職業(ジョブ)がちゃんと勇者だと見抜くが、レベルは57と及第点以下のチャランポラン臭が漂う男がいきなり来たと思い適当な対応をしていた。

 

「ああ〜声と絵を見た時から分かったよ〜、君は僕の運命の人なんだと〜。

 さぁ〜、一緒に魔王を倒しに行こう」

 

「あ、私の容姿に惹かれて来た人は門前払いなんでお引き取り下さいませ。

 私は簡単に靡かず、真の勇気と優しさ、強さを持つ真の勇者を求めてますので。

 さあ回れ右してお引き取り下さいませ〜」

 

「ガァ〜ン辛辣ぅ〜‼︎」

 

 そして早速容姿に惑わされてやって来たダメ勇者だと会話で判定して完全に話を聞く気も無く地雷勇者を門前払いして次の勇者候補が来るのを待った。

 それから30分後、再びドアがノックされてエミルが入る様に促すと、其処には巨大な戰斧を携えた軽装の少女が立っていた。

 

「魔王討伐をしたいって言う魔法使いはアンタか?」

 

「はい、そうですよ」

 

「なら良かった、丁度刺激が欲しかった所なんだ。

 魔王討伐なら願ったり叶ったりだよ」

 

 その少女は観察眼(アナライズ)で間違い無く勇者であり、またレベルも先程のチャランポラン勇者の倍以上の135を叩き出し、明らかに多くの魔物を狩って来たと言う雰囲気を顔や腕等の傷から醸し出していた。

 そして先程のチャランポランと違い容姿に惑わされて来た訳で無い為紅茶を出し、テーブルに座らせて対面面接を始める。

 

「…貴女は先程刺激が欲しかったと言いましたね? 

 つまり、戦う事その物を目的として旅をしてきたのですか?」

 

「ああそうさ、あたしの村は魔物に滅ぼされた。

 それをキッカケに戦いを始めて、其処で初めて勇者だって分かってあたしは魔物共を狩って狩って狩って来た。

 勿論復讐が全部じゃないけど、あたしは戦う為に生まれて来たんだって自覚してんのさ」

 

 如何やら彼女は生い立ちから不幸な始まりを持ち、其処で復讐心から始まった戦いは何時しか戦いその物が目的と化した謂わばバトルマニアとなっているとエミルは判断する。

 それらを聞き、この少女に真の優しさや勇気は備わっているか疑問に思うが、それでも質問を続けた。

 

「…では、貴女は弱き人々の事を如何思っていますか? 

 守りたいと思ったりしますか?」

 

「弱っちい奴は弱っちい奴、ただそれだけだよ。

 まぁ目の前で死なれちゃ寝覚めが悪いから一応助けといてやるけど、それ以上の感情なんて持ち合わせてないね」

 

 エミルは力無き弱く人を如何思うか少女に問うと、バトルマニアらしく興味が無い無いと言った様子で、しかし死なれたら寝覚めが悪いと話す事から多少の優しさはあるのだと分かった。

 が、この性格からして態々弱き者を無茶して、しかし必ず助ける様なロアの様なお人好しの様な優しさと勇気は持ち合わせて無いと判断して溜め息を吐き目をジッと見ながら話を進める。

 

「貴女の考えは分かりました。

 確かに貴女は多少は優しい方なのでしょう………けれど、真の勇者に相応しき真の優しさと勇気を持ち合わせていないと判断しました。

 残念ですが、貴女と旅は出来ません」

 

「…真の優しさと勇気ね。

 もしかしなくてもアンタ、伝説の神剣ライブグリッターを振るう勇者が欲しいんだろ、態々魔王討伐なんて大々的に広告してんだから。

 だったら諦めなよ、今の世の中には戦う覚悟も無いチャランポラン自称勇者か、あたしみたいなバトルマニアな職業(ジョブ)としての勇者しか居ないよ」

 

 エミルは戰斧の勇者に自分が求める真の勇者にはやや遠めな人物だとして共に旅する事は出来ないと話して頭を下げた。

 すると少女勇者は神剣ライブグリッターの事を知っていたらしく、且つ今の時代には最初のチャランポラン勇者や自身の様なバトルマニアと言った職業(ジョブ)としての勇者しか居ない事を告げながら席を立つ。

 

「それでもこの勧誘を続けるならあたしは止めない、寧ろ頑張んなよ。

 此れでも魔王に消えて欲しいのは本心だからさ。

 終わりが見えない戦いってのもちょいと堪えるしさ。

 だからアンタが求める本当の勇者、見つかると良いね」

 

「…はい、態々ご足労ありがとうございました」

 

 そして去り際に少女勇者はこの勧誘自体は応援している事を話し、最後に労いの言葉をエミルに掛けて去って行った。

 エミルも少女勇者に頭を下げて態々この場まで足を運んで来た事に礼を述べながら扉が完全に閉まるまで頭を下げるのだった。

 

 

 

 それから2日後、エミルは3日間で何度も来る勇者に勧誘を試みているが矢張りあの少女勇者の言った様な職業(ジョブ)としての勇者しか居ない事を嫌と言う程痛感し、遂にギルドからの通達で明日には協議が終了すると来てタイムリミットが今日までしかなかった。

 

「はぁ、真の勇者が居ないと魔王討伐の確率が限り無く0に近くなるのに何でチャランポラン勇者やバトルマニア、復讐者の様な勇者しか居ないんだろう…。

 やっぱり、ロアみたいな本当の優しさと勇気を持った勇者なんて奇跡みたいな存在だったのかな…」

 

 エミルは卓に突っ伏しながらロアの様な真の勇者は居ないのだろうか? 

 あれは奇跡の存在だったのか? 

 そんな諦めムードが漂い飲んでいる紅茶も不味くなる程に打ち拉がれ最早これまでかと感じ始めていた。

 

『トン………トントン、トン…』

 

「あ、ノック…入って来てどうぞ〜」

 

 するとドアから弱々しいが確かなノック音が響き、エミルは直ぐ様王族らしく正しい姿勢になりながら外に居る人物に入る様に促す。

 

「あ、あの、失礼、します…」

 

 すると外から青髪の、少しボロボロな軽装の鎧と剣を携えたエミルと余り年齢が変わらない気が弱そうな少年が中に入って来た。

 そしてエミルは直ぐに観察眼(アナライズ)を使いこの少年の職業(ジョブ)とレベルを調べる。

 すると確かに職業(ジョブ)は勇者だが、レベルの方が異常だった。

 

「…えっ、レベル160⁉︎

 凄い、今まで来た勇者の中で1番レベルが高いわよ君‼︎

 さあ座って、何で此処に来たのか私に聞かせて‼︎」

 

「え、ええ⁉︎

 僕が、1番………? 

 あ、あの、何かの間違いじゃ」

 

「間違いじゃないわ、実際観察眼(アナライズ)を使って測ってるんだから‼︎

 ほら早く座って‼︎」

 

 その気の弱い少年は見た目とは裏腹にレベル160とエミルと同等のレベルを誇るトンデモ少年であった。

 当の少年は何かの間違いではと言うが、エミルは間違っていないとしてその少年を座らせ、話を聴き始める。

 

「あ、あの…僕は『ロマン』と言います。

 此処に来た理由は、魔王を斃す勇者を求めていると知った、からです…」

 

「ロマン君ね、この広告で魔王討伐の方に着目したのはバトルマニアや復讐系勇者以外で君だけよ。

 それで、何で魔王を斃そうと思ったの?」

 

 少年の名はロマン、広告は魔王討伐に着目したとエミルの目を見ながら話し、彼は嘘を吐いていないと判断したエミルは何故魔王討伐をしようと思ったのか問い質してみた。

 

「あ、あの、僕はミスリラントの『アイアン村』って田舎の村に住んでいたんです。

 其処はセレスティアとの国境が近いから、他の地域と比べて緑があって、僕は農家の子として生まれたん、です」

 

「アイアン村…確かに彼処はミスリラントの中で1番緑があって農業が盛んね。

 カボチャが名物なのよね〜」

 

 ロマンは先ず生まれ育ったアイアン村の農家の子として育っていた事を話し、エミルはそれに合わせてアイアン村の名物であるカボチャの話をしてアイアン村を知っているニュアンスで話しロマンが話し易い様に会話を運ぶ。

 

「は、はい、僕の家もカボチャを作ってて、それで村1番を取った事もあるんです! 

 …3歳頃の話、ですけど。

 でも、僕は父さんと違って気が弱くて…元々絶技を使えたんですけどよくいじめっ子達の標的になってたんです…」

 

「そうなんだ…それでその後は?」

 

「それで6歳の頃にいじめっ子達の攻撃に反射で手を翳して、そしたら火球(ファイヤーボール)を撃ててしまって…それで、村で勇者だっていじめっ子からも持て囃される様になって…」

 

 ロマンの話にエミルは相槌を打ちながら生い立ちを聴き出し、いじめられっ子だった過去も話した上で6歳の頃に無意識の抵抗で魔法を撃ててしまい勇者の血を引く者だといじめっ子からも持て囃される様になったと少し暗めな表情で話していた。

 

「(…そうよね、幼くして今までの環境が劇的に変化したのだもの。

 その変化に付いて行けず今の様な気弱な性格のまま育つか天狗になるしかないもの)」

 

 ロマンの話を聴きエミルは無理もないと思っていた。

 6歳までいじめを受け、その多感な6歳の頃に勇者としての資質を見出してしまった事による環境の変化に幼い子が付いて行ける訳が無く今があると理解し、勇者の血を引くと言う事もある意味では呪いに近しい物だと此処で初めて気付くに至った。

 

「そ、それで父さんや母さんと一緒に魔法や絶技の練習をして、10歳にミスリラントの世界樹で修行を始めたんです。

 初めは辛かったけれど、村の皆や父さんや母さんの期待を裏切りたくないから出来る限り頑張ったんです!」

 

「…君なりに頑張ったんだね」

 

 そしてロマンは世界樹での修行を辛かったと話しつつ、皆の期待を裏切りたくない。

 そんな気持ちで辛さも我慢して頑張ったのだと話しエミルもその努力の仕方を500年前の最初期のロアや教え子、更にカルロと言った人物達を思い出しながら更に話に耳を傾ける。

 

「で、でも12歳の時、世界樹の修行の最中に………『ミスリルゴーレム』が現れて、僕達は逃げようとして………でも逃げられずに、父さんや母さんが必死に抵抗したけど、体にヒビを入れるのがやっとで、それで僕は父さん達を守れずに…‼︎」

 

 だがロマンの口から12歳の時にミスリルゴーレムに襲われ、両親の必死の抵抗も虚しく体にヒビを入れるのがやっとで蹂躙され、殺されたと話し始めた。

 その表情は悲痛な物になり、涙すら流し当時の事を記憶から引き出していた。

 

「ミスリルゴーレム⁉︎

 討伐推奨レベル130のゴーレム種の上位種…‼︎

 そんな物が世界樹の周りに理由も無く現れるなんて…‼︎」

 

 此処でエミルはミスリルゴーレムは金属、それも世界で2番目に硬く国名や魔物の名にもなっているミスリルを含む岩場の多い魔素の濃い場所にしか現れない上位種であると理解していた。

 しかしミスリラントの世界樹は最南の世界樹でさえ金属を含む岩場が少なく現れてもアイアンゴーレム程度しか出ない筈である為、何か恣意的な物を感じ取っていた。

 

「それで、僕は父さん達を殺された事で頭の中がグチャグチャになって………気が付いた時には父さんの剣を持ってミスリルゴーレムの体のヒビを壊して倒してたんだ…。

 でも、それが出来たなら僕がもっと早く、もっと上手くやっていれば…‼︎」

 

「…ミスリルゴーレムは文字通りミスリルで出来てる。

 魔法の通りも悪いし倒すなら君のお父様がした様に体にヒビを入れて、其処を崩すか最上級魔法をぶつけるしか無いわ…慰めにもならないけど、君やご両親は勇敢で、特にご両親は君を生かす為に最善を尽くしたのよ」

 

 そうしてロマンは気が付けばミスリルゴーレムを倒していたと話し、それをエミルは非情ながらもロマンやその両親の行動は勇敢であり今に繋がる事を口にする。

 ロマンは顔を伏せながら涙を流し、未だこの両親の死を乗り越えられていないとエミルに見せていた。

 

「…それで僕は、村の皆に父さん達を弔って貰った後1人で旅に出て、それで今魔王討伐の紙を見て此処に…」

 

「…待って、君は今まで1人旅だったの? 

 なのにそんなレベルに?」

 

「ううん、僕は…弱虫で何時も邪魔だからパーティから追い出されて、それでつい2日前もレベリングを切り上げようって話したらパーティから…。

 何時もレベリングは危険だから長い時間は止めようって言っただけで…」

 

 ロマンは両親を弔った後は旅に出ていたと話し、エミルはもしや1人旅だったのかと問うと如何やらレベリングの話で意見がすれ違い何度もパーティを追い出されていると話していた。

 これを聞いたエミルは、レベリングが危険だと弱気ながらも進言する『勇気』と皆の疲労等を気遣う『優しさ』があると言う見方が出来る事が分かり、最後に弱き人々を如何思うかを聞こうとした。

 

「ねえロマン、君は…」

 

『大変だぁぁぁぁ‼︎

 海からミニクラーケンの群れが出たぁぁ‼︎』

 

「なっ、街には魔物避けの結界がある筈なのに何で魔物が⁉︎」

 

 エミルが最後の問い掛けをしようとした瞬間、

 外からミニクラーケンの群れが現れたと言う叫び声が響く。

 エミルやロマンは街や村と言った生活圏にはギルド所属のレベル100オーバーの魔法使いが魔物避けの結界を張り、魔素が濃くても魔物が近付き難い様にしている筈なのに魔物が侵入した事に驚き外に飛び出た。

 

「あっ‼︎」

 

 その時2人の目に転んだ子供を庇う母親がミニクラーケンに襲われそうになっている光景が映り急いで助けねば2人の生命が失われると確信し行動に移り始める。

 

「うおぁぁぁ、間に合えぇぇぇぇぇ‼︎」

 

【キィィィィィン‼︎】

 

 先ずロマンがワンタッチの差で動き身体強化(ボディバフ)の魔法で親子の目の前に素早く立ち『結界魔法(シールドマジック)』を使いミニクラーケンの攻撃を防ぎ、そのか弱き生命を守り抜く。

 

「『風刃(ウインドスラッシュ)』‼︎」

 

 次にエミルが港に上がったミニクラーケンに風の下級魔法の風刃(ウインドスラッシュ)で小さな鎌鼬を発生させ切り裂き、ロマンの目の前のミニクラーケンも倒し親子の逃げ道を確保する。

 

「さあ早く逃げて‼︎」

 

「は、はい‼︎」

 

【タッタッタッタッ!】

 

「…よし、行ったね。

 行くぞ魔物達、僕達が相手だ‼︎

『疾風剣』‼︎

 はぁぁぁぁ‼︎」

 

 ロマンは逃げ遅れた親子が屋内に避難したのを確認するとミニクラーケンの群れに風の下位絶技で素早く斬り裂き、魔物を海鮮料理の具材に瞬く間に変える。

 

「私の目から逃れられない…喰らいなさい、大水流(タイダルウェイブ)乱風束(バインドストーム)‼︎」

 

 次にエミルは港の船着場まで移動し、『透視(クリアアイ)』と観察眼(アナライズ)の併用で海の中に居るミニクラーケンを全て捉え、水の最上級魔法で1ヶ所に集めた後風の最上級魔法で海水と共に巻き上げながら斬り裂き、風と水の渦によりミニクラーケンを全て内部に閉じ込める。

 

「今よ、雷で合わせて‼︎

極雷破(サンダーブラスト)』‼︎」

 

「分かったよ、『極雷剣』‼︎」

 

【ズガァァァァンッ‼︎】

 

 そして2人は最後に風の派生属性、雷の上級魔法と上位絶技を合わせて放ち、宙に浮く渦の内部に居たミニクラーケンは2つの巨大な極雷を水の浸透により全個体感電、丸焦げにして倒す。

 そして渦が消えた瞬間焦げたミニクラーケンは全て海に落ちて行き、屋内の窓から外を見ていた港街の人々はロマンが助けた親子含め歓声を上げ港街を守り抜いた2人を讃えた。

 

「ああ、皆無事みたいだ、良かったぁ…!」

 

「(…勇者ロマン、この人はあの親子を守る為に飛び出して、そして見事に救い出した。

 全く、大変無茶な事をしでかすわね………でも、あの親子を、街を守る事は無理じゃ無かった。

 恐らく私が居なくてもこの人は街を守り切れた…その普段の気弱さから考えられない決断力…勇気、そして他者を守る優しさで…私が聞かずともそれを行動で指し示した。

 なら私の聞く事は…)」

 

 ロマンは周りを見て街の人々が全員無事である事を確認すると良かったと呟き、本心から赤の他人達の無事を喜んでいた。

 一方エミルはこの港にもしも自分が居らず、彼だけが居たとしてもリリアーデ港街を守り抜いた筈だと思っていた。

 そう、普段の気弱さから考えられない勇気と他者を無茶してでも守る優しさを兼ね備えて。

 それを行動で示されたエミルは最後の質問内容を変更し、今この場で問い質し始める。

 

「…ロマン君、君にとって魔王って如何言う存在? 

 憎い敵? 

 ご両親の仇?」

 

「えっ…? 

 ………正直、分からないです。

 確かに僕の親は魔物に殺され、僕は今勇者として魔王討伐を目指してます。

 でも………憎く無いと言えば嘘になりますけど、僕は魔王がどんな存在なのか、何故こんな理不尽な事を生み出すのか知りたいです。

 そして…それが如何しようもない理由で戦う事を避けられないなら、僕は勇者として魔王を倒したいです! 

 そうすれば、少なくても僕みたいな思いをする人が居なくなる…期待を掛けてくれた皆を、裏切らずに済みますから…‼︎」

 

 エミルは最後か質問として魔王とは何なのかを問うと、ロマンは憎しみは無いとは言い切れないが戦いが避けられないなら倒したい。

 そうすれば自身の様な想いをせず、またこんな自分に期待を込めてくれた皆の想いを裏切らずに済むと答え、前を向きながら、エミルの目を見ながら全てを打ち明けた。

 

「(…凄い、凄いよこの子は! 

 そうだ、この子こそが私の探していた…‼︎)」

 

 それを聞いたエミルは彼が如何答えるか予想し、その期待以上の答えを以て返したのだ。

 何故ならば………エミル自身も見た事の無い『魔王』と話し合いで解決出来るならそうしたいと言う他人からは甘い、理解出来ないと言われる考えを示したのだ。

 しかしエミルは、それを無益な争いを好まない優しさから来る憎しみを超えた勇気の決断なのだと思い知り、彼女は確信する。

 この少年こそが自分が探していた『真の勇者』なのだと。

 

「…ロマン君、確かに魔王は初代勇者ロア様やセレスティア王国初代女王陛下のライラ様達の力を以てしても魔界に踏み入る事が出来ず、地上界の復興を何より優先して、そしてライラ様は門を閉じ生命を落とした事でどんな存在かも未だ謎に包まれています。

 けれど、魔族に関しては人間やドワーフ、エルフみたいに色んな者が居る事は知られてます。

 正々堂々を好む者、卑劣を好む者など…でも、その何もが地上界との戦いは避けられないと、500年前から遺された書物に記されています」

 

 エミルはライラの時代から魔王は居るとされたが自分達が終ぞ見えずに終わった事や、その目で見て来た様々な魔族について思い返しそれを書物に記されていたと若干の嘘を交えながら事実を話して行く。

 

「更にその魔族達は皆一様に『全ては魔王様の意向の下に』と言う思想統一されていて、地上界の侵略を緩める事は無かったのです。

 だから多分、魔王と話し合いでこの戦いを解決する事は難しいと思われます」

 

「…そう、ですか」

 

「でも、君…ううん、貴方様が無益な争いを好まない優しい性格といざと言う時に自ら苦難に飛び込む勇気の持ち主だと、私セレスティア王国第2王女エミルは見届けました!」

 

 そして魔族は全て思想統一が為されており、地上界の侵略の手を緩める事は一切無かった事を話しつつ、しかしロマンは自分が求めた優しさと勇気を兼ね備えた真の勇者、ロアの再来だと確信を持ちながらエミルは自らの身分を明かし、ロマンのそれを見届けたと高らかに声を上げる。

 

「え、ええ⁉︎

 セ、セレスティア王国の、第2王女様⁉︎」

 

「はい、身分を隠し、実力すら隠しながら勧誘をしていた無礼をお許し下さい。

 こうでもしないと相手が萎縮し、その方の素顔を、人格を見れないと思い隠していたのです。

 そしてその中で、貴方は私にロア様の再来だと確信を持たせる物を行動で指し示しました」

 

 ロマンはエミルがセレスティア王国の王女だと知り驚くと、エミルは身分を隠し自身のレベルまで隠さなければ対面する勇者の素顔や素の性格を見られなかったと話す。

 そして無礼を詫びながら頭を下げて、且つロマンこそがロアの再来だと確信を持ったと口にした。

 

「僕が、ロア様の………?」

 

「はい、実感は持てないでしょうが少なくとも私はそう確信を持ちました。

 なので、共に魔王を討伐する旅に付いて来て貰えませんか?」

 

 エミルはロマンの事を高く評価し、少なくとも自分はロアの再来だと信じて疑わないと話しながら魔王討伐の旅に付いて来て欲しいと再び頭を下げた後同意の握手を求めた。

 

「…あの、突然王女様だとか、初代様の再来だとか頭が追い付かないですけど、もしこんな僕で良いのでしたら、どうかその旅に同行させて下さい………王女様…」

 

「エミルで結構ですよ。

 私もロマン君と呼びますから」

 

 そうしてロマンは突然ロアの再来だと言われた事や目の前の少女が王女様だと驚きながらも、この500年も続く恐怖との戦いに終止符を打てるならと思い、エミルの求めた握手を優しく握り返してその旅に同行する事に決めた。

 

「(…ああ、転生して良かった…この時代に…こんな強くて優しい子が居る世界に…)」

 

 こうしてエミルは勇者ロマンと言う魔王討伐の最大戦力にして最高の仲間に早速出会い、自分はこの時代に転生して良かったと思いながら長いのか短いのか、兎に角体感時間は長い握手を交わしてロマンの様な優しい者と共に魔王討伐の旅をする事を喜ぶのであった。

 

 

 

「おやおや、勇者募集中と言う紙を見てリリアーデに魔物を適当に放ったが、如何やら圧倒的な力量差で制圧され返されたらしいなぁ」

 

「………」

 

 エミルとロマンがリリアーデの街を守った同時刻、肌が褐色色で額に赤い水晶が付き、漆黒色の鎧や軽装を纏う紅目の2人組の男女が港街を見渡せる空の上で見ながら男は嘲笑し、女は黙ってそれを見ていた。

 

「さて如何するかな『シエル』? 

 今ならあの2人を我々2人なら殺せるが?」

 

「…今は大した脅威と感じられない、お前が倒されれば話は別になるがな、『アギラ』」

 

「ほう…流石は『魔族』1の剣士様は余裕な事で。

 では私は臆病なので他の地上界に潜伏した魔族達にあの2人の脅威を伝えて来るよ。

 何せ、あの勇者…ロマンと言う小僧やあの魔法使いは我等魔族にとって危険な存在だからなぁ」

 

 互いにアギラ、シエルと呼ばれた者…魔物の創造主にして操りし者、魔族の2人は互いに意見を食い違わせ、アギラはエミルとロマンの実力を脅威と見做し他の魔族達に報告するべく転移魔法(ディメンションマジック)でその場から去る。

 

「………そう、今は脅威などでは無い。

 けれど、もしかしたら………」

 

 アギラが消えた後シエルはエミルとロマンの2人を見ながら何かを考える素振りを見せ、そしてアギラと同様に何処かへと転移し、

 その場に静寂が訪れた。

 そしてそんな魔族が居た事を、誰も知る由が無かった………




此処までの閲覧ありがとうございました。
もう1人の主人公、ロマンは弱気な勇者と少し勇者としては腰が引けた子ですが、いざと言う時は自ら苦難に立ち向かう勇気や弱き人々を無茶を押し通してでも守ろうとする優しさがある子です。
そんなロマンがエミルと如何に絡み、そしてどんな冒険譚を紡ぐのかお楽しみ下さいませ。

次回もよろしくお願い致します。

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