転生魔法女王、2度目の人生で魔王討伐を目指す。   作:”蒼龍”

6 / 49
皆様おはようございます、第6話目更新でございます。
今回は新しい主要人物が顔見せ程度にですが登場致します。
では、本編へどうぞ。


第6話「エミルとロマン、人助けする」

 エミルとロマンが防具屋で買い物を終えた直後のセレスティアに港町『リーバ』の宿屋。

 其処の掲示板に貼られていたエミルの『勇者募集中』の広告が剥がされ出し、受付の男がそのまま奥に持って行こうとしていた。

 

『ガチャッ』

 

「あ、その紙もう外しちゃうんですか〜⁉︎

 私達もちょっと気になっていたんですけど!」

 

 其処に少し息を切らした緑服の弓兵用装備を着熟したエルフの少女が宿屋に入り、受付にエミルの作った『勇者募集中』広告を剥がす場面を目撃しそれが気になっていたと話す。

 すると受付は冒険者ギルドの一員として長い年月、それこそこの男性が子供だった頃から既に名のある冒険者として活躍していた為受付はこれが外される理由を話そうと思っていた。

 

「ああ『サラ』さん、おはようございます。

 此方の広告が剥がされる理由ですが、何でも昨日フィールウッド国の港街リリアーデでこの募集をしていた方が勇者を見つけたらしく、それでもうこの張り紙は必要無くなったって訳なんだ」

 

「えぇ〜、じゃあその紙に写されてる魔法使いの女の子は勇者を見つけちゃったの〜⁉︎

 あぁ〜、私達の『用事』さえなければフィールウッドに行ってその子に出会えたのに〜‼︎」

 

「………ごめんなさいサラ、今回の『山場』は私達が…この国で動かないとならないって、『予知』が見えたから…」

 

 するとサラは地団駄を踏みながらこの国であった『用事』があり、セレスティアの中央都市『ライラック』まで赴いていたのだ。

 それが終わり、馬車でリーバまで飛ばしてたった今辿り着きこの場面に遭遇したのだ。

 するとその後ろからロープを深々と被った褐色肌の少女…肌の色からダークエルフとわかるその子はサラに今回の『用事』は自分達が動かねばならないと予知で視た為、それを片付けてきた最中であった。

 

「ううん、『ルル』のせいじゃ無いよ! 

 悪いのは不正なお金を隠し持っていたり、冒険者の息子の不祥事をお金で揉み消したりしたベヘルット元侯爵の所為なんだから!」

 

 するとサラはルルの所為では無くベヘルット元侯爵が悪いと話していた。

 実はベヘルット元侯爵の爵位剥奪が手早く行われた理由はこのサラやルル、そしてドアから入り閉めた茶色い立派なヒゲが特徴のドワーフの男性…このドワーフこそが、エミルが探しに行こうとしているゴッフ一門の弟子のアルである。

 この3人が関わった為である。

 

「まぁそう言うこった。

 ルルの予知で俺らも関わらないといけないって出ちゃあそれこそ無視は出来ねえからな」

 

 そう、この3人がルルの予知でベヘルット元侯爵の悪事を暴く事を視えてしまった為サラやアルは無視出来ず、ルルも『本業』の発揮だとして張り切ったがベヘルット元侯爵は中々尻尾を出さず、昨夜になり漸く証拠を掴み近衛兵達に突き出して、それから馬車でリーバまで急いで戻って来た所であったのだ。

 それは奇しくもギャランがギルドナイトに連行されたのと同時刻であった。

 

「そうだけど〜…うぅ〜、魔王討伐の為に勇者募集なんて見たら私もうずうずしてこれが終わったら直ぐにフィールウッド国のリリアーデに向かうってプランだったのに〜‼︎」

 

「まぁお前の親父が初代勇者一行のロックで、お前は親父さんから魔王討伐の悲願を託されたからそううずうずするのは仕方無ぇが、世の中そう簡単に物事は運ばないんだぜ。

 俺様がゴッフ(ジジイ)の弟子になって武具職人になったのも俺が20で頼み込んで、30年も掛かって漸くゴッフ(ジジイ)が俺様の作った斧を見て折れた位だからな、早々苦労せず事が運ぶのは珍しいもんだ」

 

 サラがプランが崩れて地団駄を踏んでる所にアルがサラはエルフの国の国王、初代勇者一行の1人のロックが父でありその父の悲願である魔王討伐の使命を帯びてる為、天真爛漫が服を着た様なサラも強い使命感に満ちてる事を話しつつ、自分もゴッフの弟子になるまでかなり時間と鍛治回数が掛かった事を引き合いに出して世の中其処まで上手く行く事は珍しいと口は悪いが何処か達観した会話を交わし、するとサラの地団駄が止まる。

 

「うぅ〜、それはそう、そうなんだよね。

 でもやっぱりその魔法使いの子に会いたかったのよ、私みたいに魔王討伐を真面目に目指す熱意があの広告から伝わって来たから…」

 

「まぁ今から向かったんじゃ何処かで入れ違いになっちまう。

 だったら此処で待ってた方が良い訳だぜ」

 

「そう………ですね…。

 では…暫く宿を………あっ‼︎」

 

 サラは広告の女魔法使い…彼女は未だ知らないエミルが本気で魔王討伐を目指す熱意がその紙から伝わった事で会いたいと言う気持ちが生まれていたのだ。

 しかしゴッフは今からフィールウッド国に向かっても何処かで入れ違いになる事を話し、宿の予約をルルも賛成しながら取ろうとした。

 その時ルルは、脳裏にダークエルフの文字と予知のビジョンが浮かびそれ等を読み解き始めていた。

 

「如何かしたのかルル?」

 

「もしかして、また予知? 

 こんなに立て続けに予知を視るなんて珍しいね〜。

 それで、どんな内容だったの?」

 

 するとゴッフが心配する言葉を掛けると、サラが直ぐに予知がまた発動して何かを見た事を察知し、親友のルルにどんな物が視えたのかを問い掛け始めた。

 そうしてルルはフードの奥で瞳を閉じながら話し始めた。

 

「…『世界の命運を握りし彼の子、自らが求めし真の勇者見出し、我等を求め旅に出ずる。

 我等は彼の子等が来たるまでドワーフの国の鉄の村で待つべし』………これが、視えた内容、です…」

 

「ミスリラントの鉄の村? 

 そりゃアイアン村じゃねぇか。

 此処からなら海を渡るよりも国境門を越えて馬車で向かった方が早いぜ?」

 

「えっ、彼の子? 

 それってルルが14年前に視た予知にあった世界の命運を握る子だよね? 

 その子が勇者募集してたの〜⁉︎

 …でもそう考えたら自然なのかも…」

 

 ルルは2人に予知で見えた内容を整理し改めて予言として口にし、アルは鉄の村がアイアン村だと話して此処からなら馬車で向かった方が良い事を口にする。

 更にサラは14年前にルルが予言した世界の命運を握る彼の者と知り驚きながらも、その『予言に記されし者』ならば魔王討伐の為に勇者募集を行うと納得するに至った。

 

「あの、では宿のご利用は」

 

「ああ、すまんが無しにさせて貰うぜ。

 俺様達は馬車でセレスティア大陸のミスリラント領にあるアイアン村に向かうんだからな」

 

「うん、ルルの予知の的中率はリリアナ様と同じ位なんだから、絶対その子と勇者君は私達と出会う運命なんだよ! 

 だから受付さん、もしも勇者募集してた子が私達の内の1人を探してたならミスリラントのアイアン村に向かったってギルド協会全体で伝えて欲しいんだ。

 じゃあ善は急げ、それじゃあまたね〜!」

 

「…失礼、しました…」

 

 そうしてサラは宿屋の受付にギルド協会全体に自身やアル、ルルを勇者募集していたエミルが探している様ならミスリラントのアイアン村に来る様にと伝える為に情報共有する事を頼みながら3人は外に出て馬車へと向かって行った。

 

「ふう、やれやれだよ。

 まあこれも出会いの縁を繋ぐ為だと思えば良いか。

 さて、じゃあギルド協会全体に通信魔法が掛けられた水晶石で伝言を、と」

 

 宿屋の受付は宿泊客が予知で別の場所に向かった事にやれやれと思いながらも、水晶石でなギルド協会本部に各ギルド協会運営宿屋にサラパーティの居場所を聞いて来た者に彼女達はミスリラント領のアイアン村へ行った事を情報共有するのであった。

 ギルド協会はこう言った冒険者パーティ達の出会いのきっかけ作りも日々行い、冒険者同士の絆を深め合わせるのも仕事なのである。

 

 

 

 ロマンの新たなミスリル製防具に魔法祝印(エンチャント)を掛け終わり、エミルは海に指差して彼の剣を打ち直してくれる剣を打った冒険者兼武具職人アルを探すと意気込んでいた。

 

「あ、あのさ…そのアルさんを探すとして、一体何処に居るか分かるの?」

 

「私には分からないわ。

 千里眼(ディスタントアイ)も視える距離が名前に反して私の場合は約300キロメートル、もっと使い熟せば更に先が視える様になるはずだけど今はこれだけ。

 そして分かった事は300キロメートル範囲内に講義で習ったアルさんの姿は無かった。

 つまりフィールウッド国の更に奥か、それとも他国に居るか、になるわ」

 

 そんな中でロマンは現実的な意見としてアルは何処に居るか、冒険者なら1点に留まる訳が無い為エミルに聞くが、当のエミル自身にはお手上げらしく少なくとも彼女を中心として視れる300キロメートル範囲内に居ないとしてロマンも其処まで視れて居ないなら他国に居るのでは? 

 そんな風に思っていた。

 

「でも、私に手が無い訳じゃないわ。

 先ず宿屋に戻って受付嬢さんにアルさんが何処に居たのか、何処のギルド運営宿屋を利用したのか聞くの。

 其処でその国に向かって、次に何処に向かったのか情報屋でも何でも利用して場所を割り出せば…」

 

「…ああそうか、ギルド協会は冒険者同士の繋がりを持つ様に会いたい人に会わせられる様に協力するって制度があったね。

 それを利用する訳なんだ」

 

 しかしエミルにも策が無い訳では無く、ギルド協会の冒険者同士の出会いや遠い地方からのパーティ勧誘等をしている制度があり、ロマンもその先のプラン等を考えてるエミルはやっぱり聡明だと思っていた。

 因みにエミルが何故この制度を利用してロマンを勧誘しなかったのか、それは自分の目や耳でしっかりと見聞きしてライブグリッターを振るうに相応しい真の勇者か見極める必要があった為である。

 

「そうと決まれば早速宿屋さんに出戻りしてアルさんを探してる事を伝えに行こう!」

 

「うん、そうだね」

 

 そして善は急げとして先程の宿屋に戻り、アルの最後の居場所を聞こうと言う事に決まり2人は早速出て行った宿屋に戻って来た。

 それを見た受付嬢は何があったのか少し顔を傾げていた。

 

「あら、エミル王女殿下にロマンさん? 

 何か忘れ物でも致しましたか?」

 

「いえ、実は先程ロマン君の武具の仕立てをしてて、その中でロマン君が今使っているボロボロになったミスリルソードを手放せない理由が出来て、それで武器を打ち直して貰う為に剣を打った本人である冒険者兼ゴッフ一門の武具職人のアルさんを探したいのです」

 

 受付嬢がエミル達が戻って来た理由を忘れ物か如何か尋ねると、エミルはロマンの剣が父親の形見と言う重い理由を伏せながらそれを手放す訳に行かず、ならば剣を打った本人でもある冒険者のアルに剣を打ち直して貰う為に探して貰いたいと頼み込む。

 すると受付嬢はハッとしながらエミル達を見ていた。

 

「アルさん…そうだ、その件に関しましてエミル王女殿下達にお伝えしなければならない事がありました!」

 

「え、何でしょうか?」

 

「実はアルさんのパーティ、メンバーはエルフのサラさんとダークエルフのルルさん、この3名様が勇者募集をしていた方…つまりエミル王女殿下にミスリラント領のアイアン村に居るから来て欲しいとつい先程ギルド協会全体の情報共有がありました!」

 

 すると2人は何があったのかを問うと、受付嬢は先程エルフのサラ、ダークエルフのルル、そしてアルのパーティがエミルを探していて、しかもロマンの故郷であるミスリラントのアイアン村に居ると伝える様にと向こうからギルドの冒険者同士の交流制度を利用していた事を知らされる。

 

「す、凄い良いタイミングですね!」

 

「はい、なので何かの示し合わせかと少し驚いた次第なのです!」

 

「良かったねロマン君、これで剣を新品当然に鍛え直して貰えるよ! 

 それでは受付嬢さん、お教えして頂き誠にありがとうございました! 

 今度こそ失礼致しました‼︎」

 

 ロマンは何と都合の良いタイミングかと言うと受付嬢も驚いた様子を見せ、本当にタイミングが都合良く噛み合ったと思っていた。

 するとエミルはロマンの両手を持ち、形見の剣を鍛え直して貰える事を自分の事の様に喜び、再び宿屋の扉を開けて受付嬢に礼と挨拶を述べてロマンの手を再び引き今度は港へと向かって行った。

 

「さてじゃあ早速…船員さん、セレスティア王国リーバ港行きの船はありますか!」

 

「お、街を守ってくれた王女殿下に勇者君かい! 

 丁度今荷物の積荷をしているこの船がリーバ港行きの船になりますぜ!」

 

 エミルは丁度港に停まってる船の船員にリーバ港行きの船は無いかと聞くと、その船が丁度目的地に向かう船だと知り2人は互いの顔を見て正に渡りに船と言った表情で笑っていた。

 

「良かった、それじゃあお金を払いますので乗せて行って下さい!」

 

「勿論さ、海の男はあんなチャランポラン冒険者だろうが来るもの拒まずだぜ! 

 まぁやり過ぎたら締めるけどな!」

 

 エミルは船旅代を2人分取り出し、船員に渡して乗せて貰おうとした。

 すると船員はチャランポラン冒険者、ギャラン達の事を指しながら金を払うなら乗せると言い、しかしやり過ぎれば問答無用で締めると宣言して貴族や冒険者相手に物怖じしない海の男の意地を2人に腕っぷしを見せながら語っていた。

 

「ありがとうございます! 

 じゃあロマン君、早速乗って待ちましょう!」

 

「そ、そうだね、船の上で邪魔にならない様に待とう!」

 

 エミルは早速船旅代を出し、ロマンと共に船の上で積荷の邪魔にならない位置で出港する時まで待っていた。

 それから30分後、船員が船長と共に積荷の確認をし、セレスティア王国リーパ港に行く最終準備を整えていた。

 

「………よし、積荷確認終了! 

 出港だ、錨を上げて帆を張れ‼︎」

 

『オォォォォ‼︎』

 

 そして船長命令により錨が上げられ、帆を張り遂にリリアーデ港街から船が出港し、船が海に揺られながら前へと進み出し次第にリリアーデの街並みが小さくなって行った。

 

「さようなら、フィールウッド国。

 ロマン君の武器を鍛え直して貰ったら旅でまた立ち寄って探し物をするからその時はまた、よろしくお願い致します…」

 

「…えっと、エミル、探し物って?」

 

 エミルは離れて行くフィールウッド国に別れの言葉を投げ掛け、更にロマンのミスリルソードが直された暁には自身が求める物…神剣ライブグリッターを求める旅で必ず立ち寄る気でおり、その時によろしくとも言って頭を下げた。

 するとロマンはエミルがまだライブグリッターを探している事を知らずそれを彼女に質問する。

 

「うふふ、良くぞ聞いてくれましたロマン君! 

 私が探す物、それは魔王討伐には絶対欠かせない神器、神剣ライブグリッターよ‼︎

 それをロマン君に振るって貰って魔王を討ち斃すのよ‼︎」

 

「え、ええ、ライブグリッターってあの伝説の神剣⁉︎

 …た、確かに魔王を倒すには神剣が必要だって伝説で伝わってるし、エミルが言うなら多分実在する確証があるんだと思う。

 でも………僕に振るう事が出来るかな………?」

 

 ロマンに聞かれたエミルは嬉々としてライブグリッターを探し出し、ロマンに振るって貰うと彼女が魔王討伐の勅令を受けてる事を噂で知る船員達が聞いてる中で堂々と答える。

 ロマンは彼女は自信家であり、何処かその言葉の1つ1つに真実味があるとパーティを組み始めてから僅かな時間で悟り、そんなエミルが言うなら伝説の神剣も実在すると信じ始める。

 但し、それを自分が振るう資格があるか元からある弱気から不安になってしまう。

 

「大丈夫、貴方は私が見出した本当の優しさと勇気を持つ勇者なんだから、絶対に使い熟して魔王を討ち取ると確信を持ってるわ! 

 私を信じて、ね!」

 

「エミル………う、うん。

 僕、エミルの期待を裏切らない様に頑張るよ!」

 

 そんなロマンに対してエミルは失望する訳無く、寧ろロマンに対して自身が見出した真の勇者と鼓舞し、更に目を見ながら自身の事を信じて欲しいとまで言って来る。

 今まで其処まで期待をしてくれたのは死んだ両親位で、それを聞いたロマンは少し考えながらも此処まで自分を信じる彼女の期待に裏切らない様に頑張ると返し2人はまだ見えないセレスティア王国の方角を見ていた。

 

「(そうだ、こんなに期待をしてくれる人が現れたんだ! 

 なら、それに応えなくちゃいけない! 

 父さんから本当に信じてくれる人の信頼を裏切るな、そう教わったんだから…! 

 だから応えるんだ、この信頼に! 

 そしてなるんだ、エミルの言う真の勇者に‼︎)」

 

 ロマンは両親以外で此処まで自分を信じ切る人と接したのは初めてであり、此処で修行中に父から教わった事を反復し、エミルと言う自分を信じ切る者の信頼を裏切らない様にしよう、そう自らに言い聞かせた上で奮い立たせ、これからエミルと共に魔王を斃すに相応しい勇者になろうと決心をした。

 

「(うん、今はこれで良い。

 ロマン君は今まで本当に人に信じられる事無く此処まで来て自信が持てないんだろう。

 精々信じてくれたのはキャシーちゃんや同じ考え方の人位。

 だから、私が彼に自信を持たせられる様に何処までも信じるんだ、あの時私に見せてくれた他人を思いやる優しさと、他人を守る為に弱気な自分を奮い立たせて前に出た勇気を‼︎

 そして何より彼自身を‼︎)」

 

 一方エミルはロマンが自分自身に自信を持てない理由を、パーティから何度も追い出されては入ってを繰り返した結果真に信頼される事無く此処まで来てしまったと分析する。

 キャシーの様に信じてくれた人間も勿論居ただろうがそれは数少ないとすら考えた。

 故に自分だけは何があろうとロマンが見せた優しさや勇気、そして彼自身を信じようと此方も決心する。

 

「…さあ、お昼も近いし食堂でご飯を食べよう! 

 腹が減っては入る力も入らなくなりますから、しっかり食べれる時に食べましょう!」

 

「うん、じゃあ行こうエミル!」

 

 そうして2人は食堂に赴き、食事係から出された料理を食べながら船の旅を堪能しながらセレスティア王国まで目指す。

 前世はセレスティア王国初代女王にしてその知識と技術、記憶を継承した自信家な魔法使いエミル。

 自信は余り無いが優しさと勇気を持ち、信じてくれる者の期待に応えたい現代の勇者ロマン。

 この対照的な2人は、エミルには無い勇者の資質、ロマンには無い絶対的な自信を互いが持ち合わせ、そしてそれが2人を繋ぎ無い物を埋め合う立派なコンビである事は誰から見てもそう言えるだろう。

 

 

 

 しかし、船旅に何事も無いのはごく稀である。

 例えばミニクラーケンが成長したクラーケンやその他海に住まう魔物が襲って来たり、人間同士でも今エミル達が乗る商業船を襲う海賊が来たり等様々である。

 そして今回はと言えば。

 

「船長、9時の方向から海賊船がこっちに来てる‼︎

 しかもマストに張られた旗はこの辺で幅を利かせる『ディスト海賊団』の旗だ‼︎」

 

「何⁉︎

 ディスト海賊団…4隻の大小様々な海賊船が列を組み、そして相手を加虐的に追い詰めて船の積荷を全て奪うこの辺じゃ大きな海賊団だ‼︎

 船員はマストに登って全方位を監視、他に海賊船が居ないか見渡せ‼︎」

 

 如何やらこの辺りで大きな海賊船団に目を付けられたらしく、ギルド所属の船員達は望遠鏡を覗きながら周りを監視し始めた。

 するとエミルは千里眼(ディスタントアイ)観察眼(アナライズ)を使い周りを見渡すと既に4隻の海賊船に四方を囲まれた状態だった。

 

「あ〜駄目ね、既に四方600メートル間隔でこの船は囲まれてるわ。

 逃げようとして間を抜けようとしてもこっちが風上、前のは風下と逃げようとしたら直ぐに囲まれる様に配置されてる。

 そして相手の船員の平均レベルは80位、こっちの船員は1番強くて68、とてもじゃ無いけど数も質も負けてるわ」

 

「そんな、じゃあエミル、僕達が船を守らないと‼︎」

 

「勿論よ、その為に結界魔法(シールドマジック)は発動中よ」

 

 エミルは海賊船の配置を冷静に分析して面舵、取舵何方で逃げようとしても結局囲まれる事、更に相手の平均レベルは80とそこそこ高く、この商業船を守るギルド所属の船員はレベル68が精々であとは囲んで棒ならぬ大砲に撃たれるだけだった。

 ロマンはそれを聞き守らないとと口にすると、エミルはウインクして結界魔法(シールドマジック)を既に発動中だと話していた。

 

『ドォォォン‼︎』

 

「うお、迫撃砲でもう撃って来やがった‼︎

 だが、王女殿下の結界魔法(シールドマジック)が完全に防いでるみたいだ‼︎」

 

「まぁこの程度なら破られませんよ、だって船を覆う様に発動した結界魔法(シールドマジック)はIV、細心の注意を払って絶対にあの数ではどんなに砲塔を向けられて撃たれても破られない様にする為に最大防御を張ってますから」

 

 すると相手は其処まで辛抱強く無いのか、否、囲んで叩く用意が出来たので先ず迫撃砲が飛んで来るが、エミルの結界魔法(シールドマジック)IVがその悉くを防ぎ切り、且つ結界にヒビが入らない程に強固な物であった。

 エミルはもしもと言う可能性を考えてこの数の海賊船の砲撃では絶対に破られない最大防御結界を張り、船を守っているのだ。

 

「さ、流石レベル163の魔法使い! 

 まるでかつての魔法の天才アレスターを見てる様だぜ!」

 

「…当然ですよ、私の先生はアレスター先生だったんですから」

 

 すると1人の船員がエミルの事をまるでアレスターの様だと歓喜で叫ぶと、エミルは物悲しそうな表情で自分はアレスターの教え子だと、砲撃の爆音でロマンにしか聞こえない程度の声で話していた。

 すると四方から船が近場まで来て全方位から主砲の雨霰が飛ぶが、エミルの結界が全てを防ぎ切り全く海賊船の攻撃を寄せ付けなかった。

 

「ちぃ、なんで固い結界だ‼︎

 こうなりゃ直接乗り込め‼︎」

 

『オォォォォォォォォォ‼︎』

 

「無駄、風刃(ウインドスラッシュ)暴風撃(トルネードスマッシュ)‼︎」

 

 すると痺れを切らした海賊団船長『ディスト』は、直接乗り込むと言うシンプルながらも攻撃では無い物はすり抜ける結界魔法(シールドマジック)の欠点を突く作戦を出すが、エミルは飛んで来る鉤爪付きロープを風刃(ウインドスラッシュ)で切り、ならば船のロープを使い直接跳躍してくる海賊達には威力をかなり抑えた暴風撃(トルネードスマッシュ)で船に押し返し、自分達の船には1歩も近付かせなかった。

 

「ちぃ、なんて魔法使いだ‼︎

 数はこっちが上なのに全部捌き切りやがる‼︎」

 

「よし、ロマン君、一緒に火の中級魔法で海賊船の船底に穴を開けて船を沈めるわよ‼︎

 私に合わせて‼︎」

 

「分かったよ、エミル‼︎」

 

 ディストはエミル1人に80を超える船員全員が捌かれ切り、自分の船より小さな商業船に1歩も踏み込めない事に焦りが生まれ始めていた。

 するとエミルは前側の船に狙いを絞り、ロマンに指示を出して火炎弾(バーンバレット)で船底に穴を開ける様に言い放つとロマンも了解し魔法を撃つ用意を始めた。

 

「…よし、今‼︎」

 

火炎弾(バーンバレット)‼︎』

 

【ボォォォン‼︎】

 

 そしてエミルの合図で2人は前側の船の底に威力を絞った魔法を当てて穴を開けて、船員達は慌てて海に飛び込み周りの仲間の海賊船に逃げ込み出し、前側の海賊船は海の藻屑と成り果てた。

 

「げぇ、あいつ等中級魔法で船に穴を開けやがった⁉︎

 どんだけレベル高くて魔法を使い込んでやがんだ⁉︎」

 

「其処の海賊船団の船長達に告げる、今直ぐに降伏なさい‼︎

 これはセレスティア王国第2王女エミルの温情である‼︎

 もし降伏しないのならば全ての船を沈めると此処に宣告します‼︎」

 

「う、うげ、セレスティア王国の王女だと⁉︎

 しかも降伏しなきゃ船を沈めるたぁ………敵を撃つ奴は撃たれる覚悟をしろってこの事か…畜生め、お前等白旗を上げて俺の船に集まれ‼︎」

 

 ディストは船を沈めた魔法の威力に驚き、慌てふためく中でエミルは間髪容れずに王女の身分を明かしながら降伏する様に警告し、更に頭上にはロマンと一緒に火炎弾(バーンバレット)を待機させ、それを残りの船に向けて放とうとしていた。

 ディストはそれ等を聞き、此処で逃げても国の王女を狙った罪で一生追われ、降伏しなければ沈められると詰みに入った事を悟り残った船に海賊旗から白旗に変えて降伏をし、総勢80名以上に船団員は船団長船に集まる事になった。

 

「…よし、では船長、降伏した様ですから船団長に船に乗り込み彼らを縛り上げましょう。

 勿論向こうに移る時に砲撃して来ない様に魔法を発射待機しながら移動して、ね。

 ロマン君も手伝って下さいね」

 

「勿論だよエミル!」

 

 そうして全海賊団員がディストの船に集まった事を確認するとエミルは船長に彼等を縛り上げる様に告げると船員達が船の間に渡り板を付け、更に彼等がいきなり反旗を翻さない様に魔法を発射待機させながら縛り上げ始める。

 それをロマンも手伝い次々と海賊達を縛り上げ、そして最後に船長ディストを縛り上げて全員をその場に跪かせて残るはこの海賊船を先導する為のロープを固定するだけになった。

 

「うん、ではこの船の船首にロープを固定して私達の船で先導して」

 

「ハッハァ‼︎

 甘いぜ王女様よぉ‼︎」

 

 するとエミルは海賊船に敢えて乗り込み、海賊船の船首と自分達の船尾をロープで固定し航行を再開しよう。

 そう言おうとした瞬間ディスト以下10名程の海賊達が縄を仕込みナイフで斬りそのままエミルに向かって襲い込み始める。

 

「お、王女様ぁ‼︎」

 

「…はぁ、甘いですよ‼︎」

 

【ボカッ、バキッ、ゴンッ‼︎】

 

 船長がそれを見てエミルを守ろうと走り出した………そんな所でエミルとロマンは身体強化(ボディバフ)IIIを掛け、杖と鞘から抜かない剣でディスト達を叩き伏せて気絶させる。

 

「魔法使いだから近接は出来ないと思いましたか? 

 残念ですが身体強化(ボディバフ)を使えばこんな非力な女でも大の男を叩き伏せられますよ? 

 それに護身術は習ってますし。

 そもそも私のレベルは163、ロマン君も160ですから貴方達如きに初めから遅れを取る訳がありませんよ」

 

「…ふう、分かったならこのまま大人しくして欲しいよ。

 死なせない様に手加減するのって気を使うんだから…」

 

 ディスト達10名程を気絶させたエミルは残りの船員達に自分が近接戦も出来る魔法使いである事や、ロマンと共に160以上のレベルを誇る事を告げて絶対的な差を実践と言葉で示した。

 そしてロマンも人間で自分達よりも遥かに弱い相手の為死なない様に手加減するのが難しいと話しながらもうこのまま大人しくする様に警告する。

 

『は、はぃぃぃ、申し訳ありませんでしたぁぁぁぁぁぁ‼︎』

 

 すると残った海賊達は青褪めながら首が取れそうになる位縦に振り、更に頭を船の床に抉りつけて土下座をしてエミルやロマン達に許しを乞いていた。

 それ等を聞きやっと実力差を理解した事を知ったエミルは気絶したディスト達を再び縄で、今度はマストに縛り付けてナイフも取り上げて逃げられない様にした。

 

「さて船長、このままこの船を先導して船旅に戻りましょう」

 

「ははっ! 

 …それから王女様と勇者ロマンさん、この海賊団を捕らえて頂き誠にありがとうございます。

 こいつ等はこの辺りの海域を荒らす厄介者で、偶に大きな貿易船すら狙って物資を奪って来た連中でした。

 これでこの海域での海賊行為が少しは減るでしょう」

 

 そしてエミルは船長に航海を続ける様に進言するとそれに了解を示す。

 そしてそれと同時にエミルとロマンにディスト達はこの辺りの海域を荒らしてた厄介者であり、彼等が捕まればこの近辺の海域の安全は更に確保されると話しながら頭を下げて礼を述べていた。

 

「良かったねロマン君、早速人助けが出来て」

 

「あ、あはは…船を守ったのはエミルだから僕は其処まで活躍して無いよ。

 …でもやっぱり、誰かを助ける事って心の奥が温かくなるね…」

 

 エミルは商業船に戻りながらロマンに人助け出来た事を良かったと労い、しかしロマンは船を守っていたのはエミルとして謙虚にエミルの方が活躍していたと話した。

 しかしその先に誰かを助ける事は心が温かくなると話して自分達の乗る船や将来此処を通る船舶の船員達の助けになった事を喜んでいた。

 

「ええ、弱きを助け悪しき者を挫く。

 それは私達冒険者の義務でもあり、そして理由が如何あれ良き事に変わらないのですよ」

 

 対するエミルも冒険者の義務でもある弱きを助け悪しき者を挫く事、更にエミルは王女の為兄アルクの様なノブレスオブリージュを背中で見て来た為それが当たり前だと思っていた。

 そして理由が如何あれ人助けは良き事であると締め括ると、ロマンもそれに頷きこれからも今回の様な人助けをもっとして行こう、そう思いながら2人は船に揺られるのであった。




此処までの閲覧ありがとうございました。
サラやルル、アルは今後エミル達と深く関わる登場人物です。
それぞれのキャラを上手く動かしたいと思います。
さて今回はセレスティア大陸ミスリラント領について補足説明します。
セレスティア王国とミスリラントは本来地続きでしたが、500年前の戦いのツケが周り500年の間に地殻変動が起き一部が海に沈み、ミスリラント領はその時に沈まなかった名残りの大地です。
なおこの地殻変動による被害はリリアナの予言により事前に住民達がそれぞれの大陸に移動した結果犠牲者0で事が済みました。

次回もよろしくお願い致します。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。