こんなにも心地の良い気分に浸れるのは、一体いつ以来のことだろうか?
雄大に広がっている夜の闇と分厚い雲に覆われた空を
自分の眼に映しながら、俺はそんなことを考える。
自分が生まれた場所ではあるが、今ではもう地獄にしか感じない沼地から逃避行中であった俺は、
自分を運びながら飛行している火竜の青年の身体にしがみつきつつ、内心では割と興奮していた。
このまま行けば、奴の手の届かない新天地で自由に暮らせるかもしれない。
そう思うと、心が躍りだしそうになる。
「で、どこ行くんだよ?」
「森丘。さっきも言ったが、俺が住んでいる所だ。」
…なるほど、そう来るか。
『森丘』という地名は聞いたことはなかったが、
この火竜が本気で俺を恋人(モノ)にしたいと考えているなら、
自分の住んでいる地に連れて行こうとするのは至極当然なのかもしれない。
けどまあ、奴から逃れることができるなら、何処へ行こうが構わなかった。
元よりそのつもりでこの火竜を利用してやったんだし。
未だ見ぬその場所に対しては期待の気持ちの方が大きく、
沼地から随分と離れた場所で火竜の翼がゆったりとはためく音を聞きながら、
俺はただただ到着を心待ちにしていた。
しかし、現実というものはそう甘くはなく…
「ひっ…!」
「ん。どうした、ゼクス?」
飛んでいる俺達の遥か後方に現れたのは青白い光。
遠目から見れば、小さな星のように見えなくもなく、
平時であれば、眩い光を放つ、とても綺麗な姿のそれに目を奪われていただろう。
だが、急速に大きくなるその光の正体を知っていた俺は、
この時に限っては並々ならぬ危機感を抱いていた。
「青電主っ…!」
青白い雷光の正体である電竜も俺達に気づいたのか、
遠くに居たのであれば流れ星と見紛うほどの尋常ではない速さで一気にこちらへ近づいてくる。
「ゼ~クス♪俺に内緒で、一体どこへ行くつもりなのかなぁ?」
声色こそ愉しく笑っているようだが、青い光に照らされたその表情には、
俺と俺を運んでいる火竜に対するどす黒い感情を包み隠さず溢れさせていた。
「玩具が許可もなく俺から逃げちゃあダメだって、
前にも言ったはずなんだけど、お前には学習能力ってモンが無いのかな、あぁっ!?」
俺にとっては理不尽この上ない怒りを思いきりぶつけると、
青電主は体内で生成させた蛍光色で包まれた青白い雷の弾を口内から放つ。
しかし、火竜は躊躇なく向かってきたそれを難なく回避しつつ、飛行速度を上げていく。
「逃がすかっ!」
当然、青い電竜もその後を追ってくる。
言葉に表すのもためらうほどの危険を示しているような黄の色に光るその両眼は、
恐らくは、視線の先で逃げ続ける電竜と火竜をじっと映し出しているのだろう。
奴は俺達を狙って正確に、複数の雷球を放ち続け、
火竜はそれらをどうにか避けていきながら、奴との距離を稼ぐために両翼を素早く羽ばたかせる。
「とっととゼクスを返しやがれっ、このクソ火竜が!!」
だが、全身を青白く光らせた電竜は、凄まじい程の強い怒気を纏いながら、
少しずつ、かつ確実にこちらへと近づいてきていた。
『怖い』
青白い光に照らされた奴の怒りの形相を自分の眼に映してしまった俺の頭の中は、
そんな短い一つの言葉で殆ど埋め尽くされてしまっていた。
心臓もまた、呼応するようにバクバクと大きな音を立てて暴れている。
俺は、あの青電主が怖かった。
暴力を振るってきたり、俺を縛り付けたりするあいつのことが何よりも嫌いだった。
だから、もう二度と戻りたくはない。
連れ戻されてしまえば、今までよりももっと酷い仕打ちを受けることは
火を見るよりも明らかだったから。
だが、奴がそれを決して許さないことを嫌という程に知っていた俺は、
それ故に、自分を追ってくる青い電竜に猛烈な恐怖を抱いていた。
嫌だ…、嫌だ…っ!
あんな奴のもとに戻るなんて、絶対に嫌だっ!!
気がつけば俺は、火竜の身体を強く抱きしめながら、着ている服を引っ張り、ぎゅっと握りしめている。
相手のことを完全に信用していたわけじゃないのに、むしろ利用するだけの存在だと思っていたのに、
それでも、俺はこいつに縋らずにはいられなかった。
そんな風にすっかり怯えきっていた俺を、
火竜は一切咎めようとはせず、かといって無視をするようなこともせず、
黙ったまま、ただ、俺の後頭部をそっと撫でていた。
「え…?」
これまで殆ど受けたことのなかったこの行為に、俺は目を丸くしながらそいつの顔を見やる。
周囲は暗かったものの、比較的夜目の効く方である俺の瞳は、
火竜が自分に向けて優しく微笑んでいる様をはっきりと映し出していた。
まるで『大丈夫だ』と言い聞かせるような、
その感触が肌の奥にまで伝わってくるほどの優しい手つきにあるのは、
身体全体を温かいもので包み込むかのような柔らかい安心感。
まだ出会って少ししか経っていない見知らぬ男だというのに、
不思議とホッとしてしまうのは、こいつの身体の温度のせいだろうか。それとも…
「――いい加減止まれ、っつってんだろうがっ!!」
「…っ!」
追跡者である青電主の発したその声で、
俺の意識は一気に現実へと引き戻され、思考は再び奴への恐怖で覆われ始める。
やはり安心なんてしている場合じゃなかった。
この状況でそんなことしたって何にもならないのに、そう思ったその直後に、
ふと、俺を運んでいる青年の身体が後退していることに気づく。
「おい、何やって――っ!?」
そいつに問い質そうとしたところで、
俺は後ろの方に浮いている『あるもの』を見て、絶望した。
『超電磁球』
青電主に到達した力の強い電竜のみが放つことが出来るこの青白い球は、
周囲に存在する磁力の影響を受けるものを吸い寄せるという恐ろしい性質を持つ。
一体どんな素材を使っているかは知らなかったが、
火竜の着用している服もどうやらあの球に引き寄せられやすい代物らしく、
俺達二人は後方で青白く輝きながら待ち受ける光に向かって徐々に逆行していく。
遥か上方では、高く飛び上がった青電主が、
身動きの取れない火竜と電竜を捕えるためにこちらを目指して急降下してきている。
それでも、背中に持つ大きく立派な翼を素早くはためかせ、
どうにかしてこの場から逃げ切ろうとする青年だったが、
超電磁球の強すぎる吸引力の前ではそれも無駄な努力に他ならなかった。
こうしている間にも、俺に破滅的な未来を示してくる青白い球はどんどん近づいてきている。
それに比例するように、俺の脳内と心はどんどん絶望でいっぱいになっていく。
やっぱり、あいつからは逃げられないのか…?
奴の歪んだ笑みと嘲るように佇む磁力の球が
いよいよ間近に迫ってきていた姿を見てしまった俺は、
完全に諦めの境地に陥り、そのまま目を閉じてしまう。
だが、青い電竜のその手が俺に届くことはなかった。
「ぐああああっ…!あつい…、熱いいいいいいいっ!!」
代わりに聞こえてきたのは、耳を劈くほどに甲高い悲鳴。
俺の発したものでなく、火竜のものだとしても少し距離があると思った俺は、
その正体を知るために恐る恐る両目を開いていく。
星ひとつない夜空を背に映し出された光景は、
光に包まれた全身を振り乱しながら大層苦しげに息を吐いている青い電竜と、
俺に触れようとした奴の右手をすっぽりと覆い、まるで食い尽くすかのように燃やしている紅い炎だった。
夜闇の中で控えめに小さく輝く紅色は、体内で生成したそれを口から放出しながら
奴の利き手に噛みついている火竜の極めて沈着した面持ちを僅かながらに照らし出している。
「うう…、く、そっ…!離せ、はなしやがれえええええええええええっ!!」
右の手を覆う炎があまりにも高い温度を持っているためか、
先程俺達を追いかけていた時とは打って変わって悲鳴にも似た情けない叫び声を上げてしまう青電主。
辺りを見回してみると、俺達を吸い寄せていた青白い球もいつの間にか消失している。
ここから先は、空の王者の独壇場だった。
まず最初に、火竜は焼いていた奴の片手から自分の歯を離す。
やけにあっさり解放されたことに戸惑う素振りを見せる青い電竜だったが、
俺を運びながら空を悠々と飛行する王者はそんなことにもお構いなしのようだ。
そのほんの僅かな隙を突いて、瞬く間に奴の後ろに回り込んだ青年。
青電主もまたそれに気づいて、早急に後ろに振り向こうとするが、遅かった。
背後に回り込んだ直後に自らの右足を少し後ろに引き、
奴が自分の方に振り向いてきたその一瞬の間に、青白い光を放つ電竜の腹部を目掛けて、
空の王者は、思い切り、かつ一気に蹴りを入れた。
「が、あぁ……っ!?」
突然襲い掛かった痛みに表情を歪ませ、飛行バランスを崩した青電主の身体は、
蹴られた勢いが残ったまま、遥か下の方へと急速に落ちていく。
なおも反抗の意思を示すかのように青白く輝く姿は、しかし、
俺の視界の中でどんどん小さくなっていき、やがて暗闇に消えてしまった。
磁力をも操るほどの強大な力を持つ青い電竜の、余りにもあっけない敗北。
その様子を見ていた俺は少しの間言葉も発することが出来ずに、ただただ唖然としていた。
いや、だって、いくらなんでも信じらんねえよ!
青電主を蹴り一つで墜とした奴なんて一度も見たことねえし!!
そりゃあ火竜の男は蹴り技が得意らしいとは言われてるけど、
それでもあの電竜をここまで一撃必殺で倒せるもんなのかと思うといささか疑問に思わざるを得ない。
沼地で松明に照らされて見えていた髪は、
話に聞いていた黒炎王や銀火竜のものとは違う感じに思えたし、
一応普通の火竜なんだと考えてはいるが、それにしてはどうも…
「思ったよりも強かったな、あいつ」
一方、当の空の王者は、追い掛け回される前と全く変わらない落ち着いた声で呟いた後、
青電主の墜落した地点とは真逆の方向に身体の向きを変え、
それから、自分の腕の中に居る俺に対してこう言ってきた。
「…とりあえず、さっさと逃げるぞ。
早くしないと、またあの青いのが追いかけてくる。」
…まあ、あの男はそう簡単に死ぬような奴じゃねえもんな。
さっき落ちた時も木々が薙ぎ倒される音が聞こえたし、恐らく高確率で生きているだろう。
だったら、さっさと逃げねえとな。
そう思った俺は、迷わず火竜の言葉に頷いた。
「ああ。」
俺の返事を聞いた蒼い眼の青年は、再び前方へ真っ直ぐに進み始める。
青電主が追いかけてこなくなった俺達の周囲に再び訪れたのは、
翼のはためきと風切り音を除けば、殆ど何も聞こえてこない静寂。
星の見えない暗い空の中に存在するのは、
飛行している火竜と、その腕に抱かれている電竜の二人だけ。
「うう…」
そんな事実を認識してようやく安心感に浸れるようになった俺は、
それと同時に自分の精神と身体が疲労を訴えていたことに気づく。
瞼が重い。
どうやら遅れてやってきた強い睡魔が、俺の脳内機能の全てを牛耳っているようで、
執拗に追跡されたせいで疲れていた俺の身体は少しずつ眠りに就こうとしていた。
けど、こんな状態で寝てしまったら、確実に腕を放してしまいそうな気がするし、
もしかすると別の奴が俺達に襲い掛かってくるかもしれない。
青電主の脅威が去ったというのに、また別の不安に駆られてしまった俺は
どうにか眠気に耐え、改めて火竜の身体にしっかりと両腕でしがみつくが、
「…眠いのなら、別に寝たって構わない。」
「…え?」
そんな俺の耳に届いたのは、
柔らかな声色と、その音吐に載せられた優しさだった。
「あの青い奴に追いかけられて疲れているんだろう?だったら眠ったっていい。
お前のことは落ちないように俺がしっかりと掴まえておくから」
俺のことを気遣うように発せられた言葉を、
それでも俺はまだ受け入れることが出来なかった。
…いきなりそんなこと言われたって心配は全く拭えねえし、
そもそもお前のこと、まだ信用しきったわけじゃねえんだからな。
そんな文句を込めた眼差しを発言主である赤毛の青年に向ける俺。
その直後だった、
ぎゅっ
「うわっ!?」
火竜の両腕が俺の身体をより一層強めに抱きしめたのは。
突然のことに驚いた俺は思わず「何すんだよ」と怒鳴りつけようとした。
しかし、俺を運んでいる青年の方が先に口を開く。
「大丈夫、何があろうとお前のことは絶対に守ってみせるから。」
穏やかながらも力強い口調で発せられた誓い。
不思議なことに、その言葉に俺は嘘や偽りを微塵も感じず、
むしろ自分だけを柔らかく包んだ硬い障壁に守られているかのような
絶対的な安堵感すら覚えていた。
それとともに、まるで火竜の言葉に甘えるかのように、
俺の身体は急速に眠りに落ちていく。
…初対面で、しかも男好きの変わり者なのに、
なんで俺はこいつの前で安心できているんだろうか。
火竜は、電竜の絶対的な敵なのに、
俺達にとって一番信頼するに値しない種族であるはずなのに、
目の前の青年が俺を手にかけない保障があるわけでもないのに…
俺は、一体……
一体、どうして……
……
……………
……………………
…………………………んん…っ。
…………………………なんつーか……、すげえ、眩しい……。
………そうか…、もう…朝が来たのか……。
俺の、『一番嫌いな』……、朝が…。
…………………。
……っ!だったら、早く起きねえと…!
寝坊したら、また余計に殴られることになる!
「…っ!」
そう思い、心臓が握りつぶされるかのような強い恐怖に襲われた俺は、その場で急いで飛び起きた。
つけられた傷と痣のせいで身体が痛むが、そんなことにも構っている暇はない。
早くっ、あいつが起きる前に早くしないと…っ!!
ところが、いざ目覚めてみると、あの青電主の姿はどこにもなかった。
「あれ…?」
それどころか俺が寝ていた場所は、いつもの沼地のぬかるんだ地面ではなく、
あのテントにあったものとは全く違う、真っ白でふかふかな一人用のベッドの上だった。
環境が変わったことを疑問に思いながら両腕を見てみれば、
手が出てきていない程長い黒一色の袖があり、
胸元に目を向ければ、いつもの簡素でぼろぼろな白い服ではなく、
チャック部分に赤のラインが入ったジャンパーを着せられていることに気づく。
様変わりした自分の周辺をきょろきょろと見回してみれば、
周りは岩壁に囲まれ、天井には大きな穴が開いている。
普段よりも視界が明るく感じたのは、
穴の向こうでさんさんと輝いている太陽というやつのせいだろう。
地面の方には恐らく何者かに食われたであろう草食竜
(後で聞いたことだが、こいつらのような小型のモンスター達は人型にならずに
昔のままの姿で生きているらしい)の骨があちこちに散乱していた。
ここは、もしかして…
と、そこまで考えた時、
「お、起きたか。」
唐突に、聞き覚えのあるような声が、俺の思考に割って入ってくる。
驚きつつも、その声の主の方へ振り向いてみれば、
燃えるような赤色の髪をした青年が、大きな肉塊を脇に抱えながら
巣の出口の前に立っているのが眼に映った。
鮮やかなワインレッドのレザージャケットを裸にした上半身にそのまま着込み、
下半身には灰色のジーンズを履き、茶色の皮ベルトを巻いているそいつは、
俺の姿をまじまじと眺めながら、起床するのを待っていたと言わんばかりに端正な顔をほころばせている。
「ほら、朝食だ。昨日は沢山寝たから、腹も減ってるだろう?」
そんな赤毛の男の屈託のない声音と言葉を聞いてから、
俺はようやく昨夜のことをすべて思い出した。
…そうか、ここはもうあの青電主の居る地獄なんかじゃないんだ。
そう悟るに伴って青電主が近くにいないことを認識でき、やっと『半分だけ』安心した俺は、
今度は目の前の男から逃げるために立ち上がろうとする。
昨日の夜、傷だらけだった俺に、いきなり愛の告白を投げかけてきたおかしな火竜。
無論、こいつの気持ちを受け取る気なんて俺には毛頭なかった。
むしろ火竜と、それも男と恋仲になるなんて、まっぴらごめんだった。
どうしても恋人がほしいって言うなら、そのイケメンフェイスフル活用して、
同種の女の一人や二人ぐらい軽く捕まえてくりゃいいだろうが…。
そんな文句を口の中だけで垂れつつ、両脚を地に着けようとするが、
「ぐっ…!」
その瞬間、突如自分の周囲がぐらりと揺れたような感覚に襲われてしまう。
「ゼクスっ!」
そんな俺の耳に届いたのは、火竜の慌てたような声。
倒れかけた俺の身体は、素早く近づいてきたそいつに優しく抱き留められた。
両腕が空だったのは、持っていた肉を放って来たからなのかもしれない。
俺の五体を容易く持ち上げ、ゆっくりとベッドへと戻した火竜は、
穏やかだが、まるで宥めるかのような口ぶりで俺に話しかけてくる。
「今はまだ、動かない方がいい。」
…どうやら俺の脚と翼は、まだまともに言うことを聞いてくれる気はないらしい。
先程寝ていた時と同じように仰向けの状態で布団を掛けられた俺は、
思い通りに動けないもどかしさに心の内側で深く溜息を吐いた。
すると、温度のある片手がそっと俺の額に落ちる。
大事なものを壊さないように注意を払うかの如く丁寧に触れてくるその感覚に、
未だ慣れてなかった俺は思わず動揺してしまう。
だが、それと同時に俺は、胸の内に何か温かいものが在ることに気づく。
まるで陽だまりにいるかのような柔和な温もりを含んだ、
俺のよりも一回りも二回りも大きな火竜の右手は、
やんわりと指を動かしながら、俺の前額部を小幅に往復していた。
「大丈夫。ここにいる限り、お前の安全は保障するから。」
俺をここに引き留めておくためなのか、あるいは安心させるためなのか、
心地良いくらい柔らかな声色で投げかけられた懇ろな言葉。
親しげに微笑みを浮かべる火竜のその口舌に、
俺の心臓は意図せずトクン、と小さく返事をしてしまう。
…なんつーか、こいつの顔見てると、頭の中が蕩けそうになるし…、
心なしか身体全体が熱いような感じもするような…。
…っ!何やってんだよ、俺!相手は俺達電竜の敵対種族なんだぞ!
ちょっと親切そうな言葉掛けられたからって簡単に警戒解いてんじゃねえよっ!!
自分にそう言い聞かせ、甘い考えを打ち消すために、首をぶんぶんと激しく横に振る俺。
そんな姿に異常を察知したらしい火竜は、戸惑いながらも声をかけてくる。
「ど、どうした、ゼクスっ!?」
「うるせえな!別に何ともねえよっ!」
…兎にも角にも、身体を自由に動かすことのできなかった俺は、
これまでとはまた違う意味でも危険視すべき相手である火竜の巣で
しばしの時を過ごすことを余儀なくされたのであった。