「…………もう眠ってしまったのか。」
既に夢の世界へと意識を落とし、現実ではすぅすぅと穏やかな寝息を立てているゼクスの姿に、
俺は思わずくすりと小さく笑ってしまう。
愛しい恋人の寝顔というのは、それぐらいとても可愛く思えるものだ。
今から2年前に俺の恋人になることを選んでくれた目の前の電竜。
彼にとって本来であれば敵視すべき存在である火竜の俺のことを、
安心出来る存在だと、好意を寄せてもいい相手だと思ってくれていることを、俺は素直に嬉しく思ってる。
まぁ、ゼクスが俺のことをどう思っていようが、手放す気など元から更々無かった訳だが……。
「…………本当に、自分勝手だよなぁ、俺……」
ゼクスをあの青電主の元から連れ出したのも、ゼクスを追ってきた青電主を完膚なきまでにぶちのめしたのも、そして、ゼクスをこの森丘に住まわせてることも、
明確に言ってしまえば、『ゼクスをずっと俺の傍に置いておきたい』という俺の浅ましいエゴから来る行動に他ならない。
俺が、ゼクスのことを好きになってしまったから……。
だからあの日、青電主から奪い取るような形で、ゼクスを自分の巣まで連れて帰ったんだ……。
当時の俺は、非常に端麗な容姿と宝石のような紅い眼を持っていたその電竜を、ただ独り占めしてしまいたかったんだと思う。
最も、この気持ちは彼と恋人になった今でもほとんど変わっていない上に、
表には出さないようにはしているが、ゼクスが誰かと一緒にいるとやはり少しだけ嫉妬してしまう。
現に、ゼクスがあの雷狼竜に稽古をつけてもらうことに関しても、
その理由が理解できてるとはいえ、内心ではほんのちょっとだけジェラシーを感じてしまっている。
俺って意外と独占欲の強い性格してたんだな……。
…………だけど、『ゼクスを幸せにしてやりたい』という想いもまた、紛れもない俺の本音だ。
俺も、幼い頃に父母を殺されてからは、「惨めな王の子供」として実の姉共々周りから散々虐められてきたから、
同じような境遇に見舞われていた彼のことを放っておけないと思ったのが最初の理由だったけど、
彼の素直な感情をすっかり知り尽くした今では、ゼクスの幸せそうな顔を近くで見ていたくなっていた。
ゼクスが笑っていると、俺もすごく嬉しくなるから……。
「…………お前は、本当に可愛い奴だな。」
柔らかな笑みを浮かべながら、愛らしく寝息を立てる恋人は、一体どんな夢を見ているのだろうか?
それを知る術は、ただの火竜である俺にはないけれど、
それでも、とても幸せな夢を見ているんだろうなということはなんとなく想像出来た。
そんな彼の姿に、俺もまた幸福を感じつつ、意識を夢の世界へと落としていく。
次に両眼を開いた時には、寝起きの悪い俺を頑張って起こそうとしてるゼクスの顔がすぐ近くに在るんだろうな、などという妄想とともに、俺はゆっくりと瞼を閉じた。
「おやすみ、ゼクス。……また明日。」