シルヴァリオ ストライフ   作:アドラー万歳

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1話

 「壊滅だって?」

 

古都プラーガに用意された一室で、レイン・ペルセフォネは思わず声を発していた。

 

「そう。昨日本国から連絡があってね。傭兵集団”宵闇の刃”が壊滅。トップの”(グラウクス)”を含めた四人の頭目、それとその場にいた団員五十名が全員死亡らしいわよ」

 

会話の相手はアリス・L・ミラー。レインにとっては育ての親のような存在で、姉と慕う相手である。

 

普段ならば外見通りの無邪気な言動を絶やさない女性であるが、今目の前にいるのは傭兵団の頭目である”妖貴妃(スキュラ)”としてのアリスである。

 

そもそもの始まりは一か月前。次元間相転移式核融合炉七番機の起動に伴い、レインは彼女の想い人であるアシュレイ・ホライゾンともどもプラーガを訪れた。

 

星辰光の特性と、そして過去から容疑者としてレインが浮上したため、その疑惑を晴らす必要があったのだ。

 

途中、特異点への接続や未知なる敵との遭遇、そして英雄の復活など紆余曲折はあったが、最終的には無事事態を収拾することが出来た。

 

余談だが、その時のアッシュはやっぱり格好良くて、そんな彼とともに戦って、そして帰ってこれたことが嬉しくて……ああでもやっぱりあの服はちょっと恥ずかしいというか……。

 

「……い、おーい、レインちゃーん。顔、顔」

 

「はっ」

 

思い出すだけで頬が緩んでいる。そんなレインを見つめながら微笑を浮かべていたアリスは、すぐに表情を引き締めなおした。

 

「さて、お話は聞いてた?まあそういうわけで、本国(アンタルヤ)のほうで暁の海洋(わたしたち)を新しく雇いたいって話が結構来てるのよ。とはいえ現状、緊急の別件も入ったから今すぐってわけじゃないし、もちろん、レインちゃんは今まで通りアッシュ君付けの護衛官を続けてもらうから、そこは安心してね?」

 

その言葉に、レインの緊張が若干緩む。ないとは思っていたが、本国に戻らなければならないということではないらしい。

 

しかし、だからといって聞き流してよいというわけではない。気を引き締めなおし、傭兵として口を開く。

 

「……しかし(グラウクス)っていったら、商国(ウチ)でも名の獲った手練れじゃないか。私は会ったことないけど、姉さんはどうなの?」

 

「仕事で何度か。味方だったこともあるし、敵だったこともあるわよ。人物像としては、どこまでも傭兵……いいえ、寡黙な暗殺者って感じ。職務には忠実だったわ、遊びはないし容赦もないけど加虐もないし油断もない。もちろん、実力は本物」

 

「そんな奴が率いる傭兵団が烏合の衆だった、なんてことは考えにくいってわけか。そして当然、不意打ちされるようなタマでもない……となると」

 

そこでアリスが、辟易したかのようにかぶりを振った。

 

「真正面から、五十四人の傭兵を殺しつくした。まるで道場破りね、笑えないわ。訳が分からない」

 

そう。二人が困惑しているのはそこだった。これほどの凶行に及んだ何者か――その目的が一切見えてこないのだ。

 

「金目当ての複数人による強盗」

 

NON(ノン)。現場から出ていく足跡は一人だけ。そも、金銭目的なら他にいくらでも、もっと都合のいい餌場があるはずよ。わざわざ梟の巣に飛び込むなんてありえないわ。――(グラウクス)への復讐」

 

「の、NON。姉さんの話した人物像から想像するに、そこまで恨みを買う性質(タチ)の人間じゃない。万一復讐目的だったのなら、わざわざ本拠地にいて周囲に敵兵がうじゃうじゃいるところを狙うのはナンセンスだ。――宵闇の刃という組織に対する恨み」

 

「NON。さっきと同じね。他にいくらでも狙う機会はあるはずだし、そもそも強欲竜団(ファブニル)なんかと違って恨みつらみとは縁の少ないトコよ。――帝国(アドラー)聖教国(カンタベリー)の刺客」

 

「NON。端的に言って愚行すぎる。得られる利益なんて微々たるもので、万一発覚した時のリスクとまるで見合っちゃいない」

 

「結論は」

 

そこで、アリスが疲れたように息を吐いた。

 

「意味不明ね。少なくとも、マトモな目的や野望があっての行動じゃない。――もしかして、本当に腕試しの道場破りだったり?」

 

「まさか」

 

それこそまさかだろう。そんなことのために傭兵たちに戦いを挑み、お尋ね者になるリスクを背負うなんて常識的に考えてありえない。

 

しかしそうなると、今度は目的が見えないという不気味さが浮上するわけで……。

 

「……あー、やめやめ。ただでさえ頭の痛い依頼もきてるのに、これ以上考えても息がつまっちゃうわ」

 

「そう言えば、緊急の仕事って言ってたっけ。どんなの?」

 

「ミツバからの依頼でね。リベラ―ティに送る商品を運んでいた一団が全滅したんですって。星辰奏者含めて二十人が一人残らず全員死亡、商品も奪われたって話なんだけど……」

 

「はぁ!?」

 

再びの驚愕。そこそこ身近なところでの重大事件に、レインは思わず声を上げていた。

 

「野盗か何かか?いや…違う。野盗なんかじゃ星辰奏者を含めて二十人を殺すことなんて不可能だ。というかそもそも、そんな厳重に何を運んでいたんだ?」

 

「そこなのよね。調度品やプラーガの特産品なんかは一切手を付けられずに残っていたらしいし……でも、ミツバの女狐は”荷物の奪還”を依頼してきたのよ。それも、ただの犯人探しには不釣り合いな報酬と、最大の力を以て努めてほしい(、、、、、、、、、、、、、)っていう要望付きで」

 

つまり、暁の海洋の全戦力……レインも含めての仕事ということになる。子飼いの星辰奏者がやられているとはいえ、いささか過剰戦力にも思えてくる。

 

なにせ、レイン・ペルセフォネは新西暦を揺るがしかねない冥府の女王。星殺しの闇を扱う許しを得た稀有な存在なのだから。

 

「何を運んでたかは……その様子じゃ、聞かされてないって感じだな。少なくとも、マトモな荷物じゃなさそうだ」

 

ミツバにしてみれば、所詮雇われの駒でしかない傭兵に機密情報を話す必要がないということなのだろうが、それにしたって怪しすぎる。

 

「でしょ?だから正直言えば、受けるかどうか迷ってるのよね……。まあ、心配しないで。リベラ―ティにも話は伝わってるみたいだから、あっちの終焉吼竜(ニーズホッグ)が多分動くし、それに――」

 

「うひゃっ!?」

 

レインの背後に素早く回り込んだアリスは、彼女の背を押すようにして部屋を追い出した。ついでにハリのいいお尻をタッチすることも欠かさず。

 

「ね、姉さん、何するのさ!?」

 

「むふふー。おっぱいもいいけどレインちゃんはお尻もいいよね。健康的なハリと弾力……たまりませんなあ」

 

感触を懐かしむように自分の手に頬ずりするアリスの姿に、羞恥で顔を真っ赤にしながらレインは叫んだ。

 

「うがー!?さっきまでのシリアスはどこいったんだ!真面目な雰囲気だったじゃんか!」

 

「にゃはは。かわいいかわいいアリスちゃんに真面目な話は似合わないのだー。ほら、今日もアッシュ君とお仕事なんでしょ?もう既にイチャイチャラブラブ全開なんだから、さっさと既成事実作っちゃいなさい!で・な・い・と……私がアッシュ君の一人目に立候補しちゃうよ~?じゅるり」

 

「う、う……」

 

顔を真っ赤にしながらプルプルと震えるレインと、それを見てニヤニヤと、実にイイ笑顔を浮かべているアリス。

 

傭兵団”暁の海洋”の日常である。

 

「うるさーい!もういい、私行くもん!アッシュの初めては私が守るもん!!」

 

そんな、子供のような惚気を残して、レインは脱兎のごとく宿をあとにするのだった。

 

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 「まったく、姉さんったら……」

 

宿を飛び出して数分。レインはまだ少し赤い顔をマフラーで隠すようにしてプラーガの街を歩いていた。

 

「姉さんはいつもそうだ。セクハラしてくるし、年中発情してるし……」

 

ぶつぶつと呟きながらも、その頬は緩んでいる。スキンシップを心底嫌がっているわけでは決してないことは、誰の目にも明らかだ。

 

「それに、いっつも子供扱いしてさ」

 

今朝の話。どちらも仕事の話であり、そしてなかなかの面倒事だ。半ば強引に部屋を追い出したのは、それらにレインを絡ませないようにするというアリスのメッセージだ。

 

それはとても嬉しいけれど、同時にいつまでも守られてばかりでは駄目だと思う。

 

「だから、安心させてあげないとね」

 

そのためには、やはり身を固めるのが一番効果的で……それって、つまりは。

 

「……ぁぅ」

 

綺麗なウェディングドレスに身を包む自分と、そしてタキシードのアッシュを思い浮かべて、盛大に自爆した。

 

顔から火が出るかと思うくらいだ。多分今の自分は、さっきよりもなおいっそう真っ赤な顔をしている。

 

マフラーをさらに持ち上げながら、レインは街を見渡した。

 

そこはちょうど商店や出店が立ち並ぶ区画だった。先の超人大戦(ギガントマキア)で受けた傷は既に癒え、街には人々の活気と笑顔が溢れている。

 

「……っと」

 

と、そこでレインを小さな衝撃が襲った。下を見てみれば、5歳くらいの少女が尻もちをついている。

 

どうやら走っていてぶつかってしまったようだ。自分を見上げておろおろする少女に、レインは優しく微笑んで手を伸ばした。

 

「大丈夫?ほら、立って」

 

「あ、えっと……うん」

 

おずおずと手を取って立ち上がった少女に目線を合わせ、安心させるようにその頭に手を置いた。

 

「鬼ごっこ?元気なのはいいけど、人がいっぱいいるからちゃんと前を見て走ろうね?」

 

「う、うん!あの、ぶつかってごめんなさい!」

 

「いいのいいの。ほら、鬼が来ちゃうんじゃない?だから――」

 

だから逃げたほうがいい、と。そう言おうとして。

 

「――ッ!?」

 

刹那、突如として全身を襲った悪寒に弾かれるように、レインは上空を睨みつけた。

 

古都を彩る建物の一つ、その屋上から放たれる、森羅すら捻じ曲げるほどの闘気の波動。

 

殺意、敵意、気迫、そして歓喜。そのどれもが、かつて嫌と言うほど見てきたあの連中にも匹敵する濃度。

 

「おねえちゃん?」

 

下を見れば、不思議そうにこちらを見上げる少女の姿。

 

まずい、逃げろ――そう叫ぼうとして。

 

「創生せよ、天に描いた星辰を――我らは煌めく流れ星」

 

瞬間、爆発する戦意の波濤。漲り荒ぶる闘気と共に、本物の戦鬼(オニ)が舞い降りる。

 

「仮初の安寧など、要らぬ、認めぬ、反吐が出る。醜怪なるかな神々よ、天の齎す泰平に、我が悦びは有り得ない」

 

響き渡るは、凶念に満ちた起動詠唱(ランゲージ)。初手から全力、手抜きなし。至高の闘争をこそ求めるがゆえに、戦鬼――クルト・ヴァルダルは出し惜しみなど一切しない。

 

朗々と紡がれる暴性の詩に呼応して、桁外れの星辰体(アストラル)が男の五体に満ち満ちてゆく。

 

「ならばこそ、青銅の壺は砕かれた。血風荒ぶ戦場(いくさば)よ、いざや無限に溢れ出よ。血と肉と叫喚をこそ身に浴びて、勝利の凱歌を上げるのだ」

 

淡くも禍々しい星光が男へと集束を続け、結晶核(セイファート)が唸りをあげる。いいや、おそらくそれだけではない(、、、、、、、、、、、、)。高まり続ける星辰光(アストラル)の濃度は、紛れもなく高位次元に由来するものなのだから。

 

だが、絶大な出力に比べて起こる変化は極めて微細だった。風や炎、氷雪、雷光――そういった目に見えて分かりやすい異常現象など一切起こらず、それどころか出力の上がり幅に耐え切れずに肉体が悲鳴を上げ始めている始末。

 

断裂する筋繊維、破れる血管、沸騰を始める血液。高すぎる出力に肉体(うつわ)のほうが全く耐えきれていない。ならばこれは自爆なのか?愚かな襲撃者は、このまま自滅の一途を辿るのだろうか?

 

「既にこの身は怪力乱神。破壊と虐の槍を()て、天地の総てを打ち砕かん」

 

――否。なぜなら彼は戦神(アーレウス)。泰平をこそ打ち砕く、城壁の破壊者ゆえに。

 

傷があっては十全に闘えない。傷がない戦いは面白くない。

 

ならばどうする?――決まっている、傷を受けても死ななければいい。

 

渇望が高まると共に、男に刻まれた損傷が回復を始めた。無論、治ったそばから再び損傷を負っているが、それも回復。責苦に苛まれる地獄の亡者が如く、狂気のサイクルは止まるどころか加速の一途を辿ってゆく。

 

破損、再生。破損、再生。破損、再生、破損、再生、破損再生破損再生破損破損破損破損破損再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生再生――!

 

既に再生速度は星辰奏者どころか人造惑星(プラネテス)をも上回り、そしてまだまだ止まらない。無論、損傷と回復の度に激烈な苦痛がその身を苛んでいるが――

 

「至高の戦争(いくさ)は此処にあり。無尽の鉄火よ、さあ今こそ燃え猛るのだ。手にした無数の首級(しるし)こそ、おまえの(いさおし)なのだから」

 

それがどうした(、、、、、、、)。知らぬ聞こえぬどうでも良い。

 

なぜなら、求めるのは痛み(それ)に満ち溢れた闘争だから。血と苦痛と歓喜に満ちた殺し合いを、無限永劫に味わっていたいから。

 

いざ慄けよ海洋王(ネプトゥヌス)。災禍の魔人が、ここに開戦の号砲を謳いあげよう。

 

超新星(Metalnova)――――滅尽滅相、殲くし(Atrocious)滅ぼせ破壊の戦神(Areus)!!!」

 

そして響く、修羅の咆哮。

 

安寧を破壊する戦乱の申し子が、喜びとともに大地を踏み砕いていた。

 

爆散する瓦礫。周囲を無差別に巻き込む衝撃波。平和だった日常は脆くも崩れ、阿鼻叫喚がここに現出する。

 

「く、っ……」

 

そのような状況の中、レインは少女を抱えてなんとか破壊から逃れることに成功していた。

 

ごろごろと地面を転がり、建物の壁面に叩き付けられたが、それでも腕の中の少女を傷つけまいと強く抱きしめる。

 

「――」

 

そして、ようやく顔を上げたレインが目にしたのは地獄だった。

 

上半身が瓦礫の下敷きとなっている者がいる。崩壊を始めるビルから飛び降り、地面と衝突してシミになる者がいる。

 

我先にと逃げ出す人々で、広場はパニック状態だ。足をもつれさせ転んだ老人を、恐慌した市民たちがその存在にすら気づかず踏み潰して逃げまどう。

 

「……っ!」

 

怒りで沸騰しそうになる思考を抑え、レインは破壊の中心――莫大な星辰体が渦巻く砂ぼこりの中、そこに立つ何者かを見ていた。

 

長身の青年だった。身長はおそらく二メートル近く、筋骨隆々の褐色の肉体は一種の芸術と言えるまでに無駄なく鍛えあげられている。

 

軽装の戦闘装束は、どこか東洋風の意匠をあしらった簡素なものだ。

 

両の腕に巻かれた腕輪(アダマンタイト)と、そこに埋め込まれた結晶核(セイファート)は鳴動しながら膨大な星辰体と感応しており、青年の全身を赤い炎のような淡い光で包んでいる。

 

そんな青年に、レインもまた武器を構えながら相対する。

 

気を失った少女を背後に隠すように立ち上がり声をかける。

 

「おまえは……誰だ?」

 

その言葉――そこに込められた戦意を真っ向から受け止めながら、青年は快活な笑みを浮かべた。

 

「俺はクルト。クルト・ヴァルダルだ」

 

クルトと名乗った青年が一歩踏み出す。それだけで、肌を刺す戦意がさらに大きく膨れ上がる。

 

「さあ、()ろうか死想冥月(ペルセフォネ)。闘争の時間だ」

 

落雷のような踏み込みとともに、戦争劇(ストライフ)が幕開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




詠唱考えるの難しい
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