癖馬息子畜生ダービー =遥かなるうまぴょいを目指して=   作:ウマヌマ

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いつも通りの私

 

 

 

「ビワハヤヒデは引退ですか……」

 

「……屈腱炎か。いい馬だっただけにハヤヒデの引退は惜しいな。走ってる姿を見るたびに、あぁ、俺もこう言う馬を育てたいなぁって思ったもんだ」

 

「うちにはロータスがいるじゃないですか」

 

「そうなんだが…………なんか……こう、さ。……ちょっと違うじゃん。タイプと言うか……な?」

 

「言わんとする事は分かりますけど、そんなだから子供の教育を間違えたとか言うハメになるんじゃないですか?」

 

「その話はやめろよ。俺は息子が普通の大学にいって、普通の仕事してくれたら、それでよかったんだ……」

 

「親のエゴってやつですね……。人の家の事情なんて知ったことじゃないんですが、うちとしては騎手を探さなくてよくなったのは助かりましたね」

 

「ハヤヒデの主戦騎手だったからな……。本人に、無事だったならどっちに乗りましたか? とか聞くなよ」

 

「…………そう言うとこですよ」

 

「な、なにがだよ」

 

「別にいいんですけど…………お、見てください。有馬記念、ツインターボにも枠がありますよ」

 

「お前、好きだよなーその馬。テレビとかでよく取り上げられてるけど……正直、GⅠクラスに出ても無理だろ」

 

「はー……勝った負けたじゃないんですよ。競馬の中にある夢や浪漫、ツインターボはそれが詰まった走りをする馬なんです」

 

「……やっぱり、俺はあんまり好きになれないな。美化されたり、笑いものにされたり……上手く言えないけど、不純に思える」

 

「それ、空き缶蹴る姿をテレビで放映されまくってるロータスの前でも言えます?」

 

「いちいち、アイツ持ち出してくるのやめろ。お前こそ、ロータスとツインターボ、有馬で走るなら、どっち応援する気だよ」

 

「そりゃ、ツインターボを応援しますよ」

 

「おいおいおい即答したな」

 

「アイツは放っておいても、まともに走ったら掲示板には入れますよ。でも、ツインターボは自分が応援しなくちゃ勝てないじゃないですか!」

 

「好きな球団のために球場に行く飲み屋のオヤジみたいな事を言いだしたな。……仕事に支障がでないようにな」

 

「それは勿論です。まぁ、ロータスの事で一件、問題があるんですが」

 

「……問題?」

 

 

━━━━━━━━━━━━

 

 

 

 やばい。

 時々、見かけるあの黒鹿毛の彼女がすごい。

 

 な、な、黒い舎弟。

 やばくない? マジ、マブイって言うか。

 清楚系って言うか、ゆったりとしたお嬢様みたいな雰囲気がめっちゃ好み。

 あと、顔と尻がいい。

 

「ヒィン」

 

 だよなだよな。黒い舎弟もそう思うよな。

 声かけたいな、でも緊張するわ、変な奴とか思われないかな。

 

 あ、ヒト畜生に連れられて近づいてくる!

 これは気があるのでは!?

 どうしよう、な、黒い舎弟、どうしよう!

 

「ヒィン」

 

 むしゃむしゃ、草食ってないで真面目に考えろよ!

 舎弟だろ。

 あ、近づいて来た! 来ちゃったよ!

 

『……確かにこれは、まずいな』

 

『今まで、調教帰りに時々、遠くですれ違うくらいで、まさかと思ってたんですけど』

 

 近くで見るとやっぱスタイルいい!

 肉感的でありながら尻の周りの筋肉は女性的で曲線美に溢れており、その伸びやかな柔らかさは太ももまで完璧に仕上がっている。

 唆るぜこれは!

 

 うーーーーー!

 うまだっち!

 

『ハハハ……元気だね。そっちの子は』

 

 彼女を連れているヒト畜生が笑っていた。

 いつも私の世話をしている下僕供はなぜか頭を抱えていた。

 

『恋ですね、これは』

 

『……またか、しかも、相手がよりにもよってヒシアマゾン……て』

 

 彼女を連れたヒト畜生が軽く撫でると、目を細めてスリスリしている。

 おい、ヒト畜生、そこを代われ。

 

『気の毒だとは思いますが、これは次の大一番、うちの子が勝たせて貰えそうだ』

 

 ねぇ、ねぇ、彼女、どこ住み?

 地球? えー、近所じゃん! 奇遇だなー!

 私も地球に住んでるんだ!

 やっぱ太陽がいい距離にあるのがよかったよね!

 

 ちょっと、太もも触ってもいい?

 グルーミングしよ! グルーミング!

 先っちょだけ! 先っちょだけだから!

 

『……いえ、ここまで来てもらって助かりました』

 

 ふぅ。

 彼女はヒト畜生に連れられて去っていってしまう。

 黒い舎弟、緊張して私なんか変な事言ってなかった?

 

「ヒン」

 

 そうだよな。安心した。

 いつも通りの私だったよな。

 名馬たる私がそんな動揺して変な言動とかする訳がないのだ。

 

『……尻の形かもな』

 

『え、何の話です?』

 

『ロータスの好みの馬だよ。前の時も気にはなってたんだが、見境なく発情する訳じゃないだろ?』

 

『むしろ他の馬に興味を示す事が少ないですよね』

 

『そう、それで、共通点を考えた訳だ。そしたら、ロータスの母馬もそう言う形の尻だったっけと思いだしてな』

 

『え、わかるんですか?』

 

『筋肉のつき方とかは大事だろ。……とは言え、どうしたもんかね』

 

『ヒシアマゾンと仲の良さそうな雄馬を探してきますか?』

 

『………………最初に出てくる案がそれかよ。流石にそれは最終手段だな』

 

『まぁ、対策はおいおい考えるとして、坂路いきましょう』

 

『そうだな』

 

 よし、帰るか。

 今日は黒鹿毛の彼女に会えて楽しかったね。明日はもっといい日になるよね、黒い舎弟。

 

「ヒィン」

 

 あ、なんでそっち引っ張る。家はあっちだろ。

 ぬわー。

 

 

━━━━━━━━━━━━

 

 

 フォートウマペックス行動は三人チームで戦うゲームである。

 故に味方が弱いと勝てない。

 だから、これは初動時に突っ込んで落ちた味方が悪い。間違いない。

 

「あら、また、負けましたわね」

 

「……勝手に突っ込んだ味方のせい。私は一人落としたから、最低限の仕事はしてた」

 

 ゲーム画面のリザルトからロビーに戻る。

 

「ふーん。そう言うものなんですね」

 

「そもそも、バトロワってそんなに勝てるゲームじゃないし」

 

「勝てないゲームって面白いんですの?」

 

「勝てた時が嬉しいの……と言うか、パイセン何の用?」

 

 名優、メジロマックイーンパイセン。

 薄い白に近い紫の髪のもみあげを片手でくるくるしながら、私のベッドに丁寧に足を揃えて座っていた。

 

「いえ、少し気になって様子を見に来たのですが、いつも通りで安心しましたわ」

 

 それだけのためにわざわざ、小一時間ベッドの上で待っていたらしい。

 ご苦労な事だ。

 

「菊花賞は流石でしたね」

 

「まーね」

 

 菊花賞は最初から、ハイペースの戦いになった。

 そして最後の競り合いで私はナリタブライアンに勝った。

 

 ダイエットして、久しぶりの軽いトレーニングを積んだ私に隙はなかった。

 

 というか、精神的にナリタブライアンは緩んでいたのだ。

 天皇賞秋、姉であるビワハヤヒデの怪我。

 無意識の内にその影響が何処かにあったのだろう。

 楽に勝てた訳ではなかったが、私にはまだ少しの余力があった。

 

「次は有マ記念ですよ」

 

「勝つ。出るからには手加減しないって決めてるから」

 

「なら、少しはトレーニングくらいしなさいな」

 

「いや。そう言うの嫌い」

 

「また、皐月の時みたいに負けますわよ」

 

「問題ない。ふふふ……私はあと二回も変身を残している。その意味がわかるか?」

 

「わかりません」

 

 頬を引っ張られる。痛い。

 本気なのに。

 

 有マ記念。

 年末の、最後のレース。

 

 そう、出るからには本気でやらければならない。

 ならないのだ。

 

「勝つよ。私は」

 

「なら、いいんですけど……」

 

 それはそれとして、有マ記念。

 出走表を見た時、ティンと来た。

 

 黒い舎弟と黒鹿毛の彼女。

 彼らもこのレースに出ており、出会ったのもここら辺の時期だ。

 

 焦げ茶のアイツはナリタブライアンであるように、そのウマ娘も存在するはず。

 これまでそれらしいウマ娘には出会わなかったが、出走する顔ぶれを見て理解した。

 

 包容力があり、強い意志がある。喧嘩もしたが、いつも、最終的には頷いてくれる優しさを持つ。

 黒い舎弟。

 

 これはもう、ヒシアマゾンだ。

 

 

 そして、清楚でしなやかなお嬢様。忘れもしない麗しの輝く毛並み。

 黒鹿毛の彼女。

 

 これはそう、ライスシャワーだ。

 

 

 どちらもウマ娘としては、すれ違った事くらいしかないが間違いない。

 私が心の舎弟と初恋の相手を間違える訳がないのだ。

 

 QED証明終了である。

 

 ウマハハハ!

 

 

 


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