一誠の竜騎士物語   作:ダーク・シリウス

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Episode1

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「原始龍、来たぞ・・・・・って、またコタツの中に入って」

 

「だって・・・・・寒がりですから・・・・・」

 

一人の少年が神秘的な空間に入るや否や、呆れ顔で原始龍と呼んだ者に嘆息した。

周りは大きな白い柱が丸く囲むように設置されているが、そんな神秘的な空間の中央にこの場に似合わないコタツと湯呑、ミカンがあった。コタツに猫がぬくぬくと温まっているように顔だけ出して温まっている者がいた。頭部に翡翠の角を生やしている女性―――龍である。

 

「それで、どうしたんだ?俺を呼んでさ。卒業式が終わって学校から帰って来たばかりなんだが」

 

少年、イッセー・D・スカーレット、本名は兵藤一誠は原始龍に尋ねる。一誠の服装は現在在籍している駒王学園の制服。その制服で神々しい大剣を握ったまま、一誠は原始龍に尋ねた。コタツに入っていた原始龍は自分が呼びだした一誠にコタツから上半身だけ出してこっちに来てとばかり手招く。それに応じる一誠はさも当然のように原始龍の背後に回って後ろから抱き締めた。

 

「・・・・・あなたの温もりは良いですね・・・・・ずっとこのままいてもらえませんか?」

 

「寒がりドラゴンめ。まあ、そこが可愛いところなんだがな」

 

「もう・・・・・そうやって私を口説くんですから・・・・・変なことをしちゃいますよ?」

 

「もう変なことされている身なんですがねぇ?」

 

腕を前に回して原始龍を胸に寄せる。座高が原始龍より一回り大きいため、覆う感じで包めることができる。

すっぽりと一誠の胸に収まった原始龍は、背中から感じる体温と心臓の音が心地よく、このまま時間が止まって感じていたい気持ちを抱くがそうも言ってられない事情があるのだ。

 

「あなたに、これからすぐに行って欲しい場所があるのです」

 

「行って欲しい場所?今じゃないとダメなのか?」

 

「ええ、遠い遠い場所です。その場所に向かって一匹のドラゴンをここに連れて来て欲しいのです」

 

原始龍からの頼みは何度も引き受けて全て叶えた。今回もそうだろうと、慣れた感じで一誠は内容を詳しく聞くために尋ねたのだった。

 

「どんなドラゴンだ?」

 

「冥王竜モルドレッドっていうドラゴンです。この世界で言えば邪龍に近い存在・・・・・」

 

この世界・・・・・?一誠は訝しんだ。まるで異世界にいるドラゴンの言い方だと原始龍を見詰める。

 

「そのドラゴンをどうしてこの場所に連れてくる?」

 

「かのドラゴンをこちらで引き取ろうと思ったのです。モルドレッドは誰にも必要とされていないドラゴン・・・・・それ故に孤独な生き方をしています。ですから、この世界に連れて他のドラゴンと共に暮らしてほしいと思っております」

 

「で、どうやってそのドラゴンのことを知ったんだ?」

 

「それは秘密です」

 

肝心なところを教えてもらえず、一誠はそれ以上追求をしなかった。原始龍が言いたくないことをさらに問いだたしてもがんに拒むからだ。それを知っているからこそ一誠は「しょうがない」と心の中で溜息を吐く。

 

「分かった。でも、そのドラゴンを連れてくるのに訊きたいことがある」

 

一誠の願いに尻目で「何でしょう?」と訴えてくるのを分かり、

 

「モルドレッドがいる場所って・・・・・・まさか、異世界ってわけじゃないよな?」

 

その問いかけに原始龍は視線を前に向け沈黙を貫く。沈黙は是也。一誠は異世界に行くのかぁ・・・・・と今までにない原始龍の願いに溜息を零してしまう。

 

「この世界と異世界は繋げれるんだな?」

 

「・・・・・ええ、月に一度ですが」

 

「この世界と異世界の時間の差は?」

 

「殆ど変りません。ですが、朝と夜の時差が逆です。いまこの世界は朝なので向こうの世界は今頃夜でしょう」

 

なるほど、と納得する。それならば、たまにこの世界へ戻って数日間過ごせば問題ないだろうと心の中で結論した。

 

「分かった。そのモルドレッドを連れて来よう。今すぐじゃなくてもいいんだろう?」

 

「はい、今のモルドレッドは魂の状態です。異世界の人間に寄生していますので私も分かりかねますから、時間を懸けて探して、見つけたらここに連れて来てください」

 

色々と突っ込みたいことがあるが、一誠は気になることを原始龍に問いだす。

 

「因みに、その世界にはドラゴンがいるのか?」

 

「私と同じドラゴンを生みだすシステムの存在がいます。その者から色々と情報を提供してくれますので冥王竜のことも知ったのですよ」

 

「了解。んじゃ、こっちもドラゴンを連れて異世界に行かせてもらうぞ。それぐらいいいよな?」

 

「構いません。準備ができ次第、また私のところに戻ってきてくださいね」

 

コクリと一誠は頷き、腰を上げて立ち上がる。一誠の温もりが急に感じなくなったことに原始龍はあろうことか、一誠の背中に親のコアラの背にしがみつく子のコアラみたくしがみついたのだった。

 

「・・・・・おい」

 

「ゴーです」

 

「・・・・・しょーもない」

 

―――○●○―――

 

「ドラゴン探しをするだけで一誠を異世界に送るとはな・・・・・」

 

「ええ、ですから彼はこちらもドラゴンを連れて行こうと家に戻ったわけです」

 

原始龍は目の前の真紅の髪に金色の瞳の女性、『真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)』グレートレッドことガイア。夢幻を司る不動の存在、真龍またはD×Dと周りから称されている。ガイアの隣にもドラゴンがいる。腰まである黒髪の小柄な少女。黒いワンピースを身に着け、細い四肢を覗かせている。

胸にペンダントを身に付けている少女。『無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)』オーフィス。ドラゴンの中で無限を司る最強のドラゴン。二人は一誠の家族で一誠に好意を抱いている。だから、異世界に行くと知った二人は不機嫌になっているわけである。

 

「この世界と異世界の朝と夜の時差以外変わりません。ですから、彼が何時でもこの世界に行き来できる魔法を使えば問題ないはずです」

 

「・・・・・それで、一誠がドラゴンを連れていくと言ったようだが?

それは我とオーフィスで間違いないのか?」

 

「まず間違いないでしょう。・・・・・羨ましい限りです」

 

ボソリと最後に本音を零す原始龍だがガイアとオーフィスはハッキリと聞こえていた。

一気に優越感が湧いたのだ。

 

「ふふん、羨ましいだろう?」

 

「えっへん」

 

「・・・・・言霊、使いますよ?」

 

「「すいません、ごめんなさい」」

 

唯一、逆らえない事をしようとする原始龍に二人は揃って頭を下げた。本能的にな言動だった。

 

「・・・・・何やってるんだお前ら?」

 

原始龍に頭を下げるガイアとオーフィスを目の当たりにして、準備を終えたのだろう一誠が

姿を現して呆然としていた。そんな一誠に立ち上がって口を開く原始龍。

 

「準備はよろしいのですね?」

 

「ああ、こいつらも連れていく」

 

一誠が後に視線を向けると、銀髪のメイド服の女性とダークカラーが強い銀髪の少女と

黒髪の少年、金髪の少女がいた。その四人に原始龍は首を傾げる。

自分が思っていた人物たちではないからだ。一誠が共に異世界へ連れて行こうとする者と。

 

「ガイアとオーフィスを連れていくのではなかったのですか?」

 

「勿論、二人も連れていくさ。言っただろう?ドラゴンを連れていくって」

 

「ああ・・・・・そう言うことですか。でも、二人は違うのですが?」

 

「・・・・・自分も連れてけと押しが強くて」

 

合点した様子で苦笑を浮かべ首を縦に振る原始龍。徐に腕を前方に突き付ける。手元が光り、

それに呼応して一誠たちの足元に魔方陣が展開した。

 

「ガイア、オーフィス。一誠をよろしく頼みますよ」

 

「無論だ。我の一誠に傷一つ負わせはせん」

 

「イッセーを守る」

 

当然のように言い放つ二人と一誠たちの足元の魔方陣は、

輝く光が増して―――一瞬の閃光がしたその時、光が弾けた共に五人の姿は消えたのだった。

 

「・・・・・他の者たちに事情を説明しないといけませんね・・・・・」

 

ジッと原始龍を見詰める視線を感じ苦笑するのであった。説得するのに骨が折れそうだと。

そう思わずにいられない。

 

 

 

原始龍によって異世界へ転送された一行は―――暗い夜空から―――落下していた。夜空に大きな満月が

幻想的に一誠たちを見守るように幻想的な光を照らす。

 

「原始龍・・・・・もう少し違う場所に転送して欲しかったな」

 

「まったくだ。我らが空を飛べれなかったら一体どうしてくれるのだ」

 

空を飛べれない三人を抱えて一誠を含め七人は重力に逆らわず落下している。

物凄い勢いでぶつかる空気になんともないと目を開けてのんびりと落ちている。

 

「イッセー、もしかして私たちが行くところって・・・・・」

 

吊り上がった切れ長の瞳に無造作に切りそろえられた長い金髪。そして、人間より長い耳を

持つ少女、ルクシャナが一誠の目を覗くように問う。一誠たちが落ちるずっと下には、

まるで空を飛んでいるようなドラゴンと思しき形をした大陸があった。

 

「ああ、多分あそこだろう」

 

「凄い・・・・・・あんな大陸は僕たちの世界にないですよ」

 

感嘆と呟く黒髪の少年、神城龍牙。

この世界に転送される前の本来住んでいた世界には飛ぶドラゴンの形をした大陸は存在しない。

 

「ははは・・・・・異世界か・・・・・どんなドラゴンがいてどんな文化あるのか、楽しみだ!」

 

「その前に、読み書きできないとかなり苦労しますよね?」

 

「我らの言葉と通じるのであろうか・・・・・?」

 

いきなり前途多難が降りかかった。読み書きはともかく、言葉が通じなければ意味がない。

 

「取り敢えず、尻尾の方に行こう。端から少しずつ進んで冒険だ!」

 

 

○♢○

 

 

一誠たちが向かっている竜の姿をした大陸はアルク=ストラーダ大陸、さらに竜の尾の位置に存在する大陸は―――ラブロック商工都市連合という経済を重んじている国家である。

元々。『竜の尾』と呼ばれているラブロック地方には、大小さまざまな都市国家が存在していた。

以前はそれぞれが独立していたのだが、今から十数年ほど前、七つの大都市と十六の小都市が

連合し、ラブロック商工都市連合が結成された。

 

連合を統べる代表者は『元首(ドージェ)』と呼称され、選挙によって選ばれる。

元々は、さらなる経済発展を目指しての連合だったのだが、現在では東部と西部の経済差が

深刻化しており、昨今、きな臭い気配が漂っているそうだ。

特に『竜の尾』の先端側に位置する東部都市群は貧困に喘ぐ一方なのに対し、

首都レスピーギを含む西部の経済は、右肩上がりの成長を続けている。

 

そうした格差社会が、何を生みだすか?今やラブロックでは、過激なテロや、

怒れる貧民たちによる暴動、さらには要人暗殺が散発的に発生しているという。

首都レスピーギに至っては、「魔都レスピーギ」という不名誉な呼び名がついている。

どうして東西の経済格差が深刻化しているのか、

その理由は、商工都市連合というシステムにこそ、その原因。

 

商工都市連合は、「竜の尾」における経済危機を打開するために結成された。

ところが、連合によって実際に得をしたのは西部の主要都市だけで、東部の都市群が

その恩恵を受けることはできなかった。事実、東部の諸都市の負積は増える一方。

さらに元々東部都市群では工業や工芸が盛んで、決して裕福ではないものの、

東部都市群に住んでいる民はそれなりに安定した暮らしを享受していた。

 

ところが商工都市連合に加入したことで、状況は一変した。

特に統一通貨『ヴェラ』を導入したのが東部都市群の貧困の原因の一つ。

一般的な国家であれば、景気が悪化した場合、金融政策によって景気回復を目指す。

金利を下げて金を借りやすくしたり、紙幣を刷ることで自国通貨の為替相場を引き下げる。

自国通貨の価値が下がれば、輸入業において有利となる。

 

そして、自国通貨が安くなれば、海外からの観光客も増えるが、

『ヴェラ』の導入により状況は一変してしまった。連合所属の各都市国家は、不況対策として、

紙幣を刷ることもできなくなったのだ。

それはつまり、国がその状態を打開できず金融政策の権限を、連合中央銀行に委譲して金融政策を

放棄してしまった原因で、その権限を奪われた弱小都市は、

明確な景気対策を打ち出すこともできず、苦境に立たされてしまった。

そして、不運なことに頭部には、そうした弱小都市国家が密集している。

 

―――そんな国の状況を一誠たちは何も知らず、侵入を果たして現在―――。

異世界を堪能している真っ最中だった。

 

「話をしている声を聞く限り、俺たちは異世界の人間と会話できるようだな」

 

「都合が良いですね。残る問題は異世界の字の読み書き、それと異世界の通貨の入手」

 

「今現在の私たちに無一文だ」

 

ダークカラーが強い銀髪の少女、ヴァーリ・ルシファーが言うとメイド服を身に包んでいる女性、リーラ・シャルンホルストが頷く。

 

「人からその店の場所を聞きながら探しましょう」

 

「ああ、そうだな」

 

一誠は頷き、身近な人に売買している店の場所の聞き込みを始めた。

 

「すいません、ちょっと尋ねたいのですが―――」

 

と、小一時間掛けて一行は物を売買している店へ辿り着き、

 

「これと金に交換してくれ」

 

大量の金塊を『ヴェラ』に変えて資金を得たのだった。その際、応対した従業員の目が飛び出るほど驚いたのは余談である。一行が手に入れた『ヴェラ』は数千万。ラブロック商工都市連合に住むには十分な額。一誠たちは次に行動を移す。一時的な拠点と自分たちの家の確保である。

『竜の尾』の先端付近に赴いて一誠の力で、更地だった土地を一瞬で家を建てた。

 

「さて、俺は異世界に繋がる(ゲート)を作っているから、リーラ。夕食を作ってくれるか?」

 

「かしこまりました」

 

「一誠、私と龍牙は周辺を調べてくる」

 

「おう、気をつけろよ?」

 

一誠たちと別れ、ヴァーリと龍牙は暗闇の中へと進んでいった。

 

 

○♢○

 

 

ヴァーリと龍牙は辺りを見渡しながら歩を進める。

 

「・・・・・貧困が喘いでいるようだな」

 

「ええ・・・・・見るからに裕福ではないといった感じです」

 

夜にも拘わらず、建物や石壁に寄り掛かって座り込むようにいる人たちの姿に眉根を寄せる。

まるで今の状況に絶望しているとばかり、頭を垂らして無気力でいるのだ。

 

「私たちが最初にいた場所では富裕層みたいな場所であったな?」

 

「もしかしたら裕福な場所と貧困な場所が分かれているのかもしれませんね。まるでしわ寄せが全てこっちに来ているような感じで」

 

「となると、一誠たちに伝える必要があるな」

 

龍牙はヴァーリの言葉に頷く。この異世界にやってきた理由はモルドレッドを見つけ、

原始龍が住んでいる異界に連れていくこと。だが、それまでは自分たちの身に降りかかる事件や

周りの状況を無視することはできない。きっと、困っている者がいたら口より早く行動を一誠は

するだろう。二人は知っている。心優しい男であり、良い意味でも悪い意味でも純粋な男だと。

 

「そんな一誠を私は好きになったのだがな」

 

「いきなりなに惚気を言っているんですか?」

 

「いや、なんとなく言いたくなったのだ」

 

そんなこんなで雑談している二人は、躊躇もなくなにやら遺跡みたいな場所にこっそりと侵入したのだった。

―――城塞型の街の遺跡に。市内には、神殿、劇場、闘技場・・・・・などなど、まるで古代人の都市生活をまざまざと伝えてくる建築物が点在していた。

 

「古代遺跡・・・・・のようだな」

 

「そうですね。では、今日はこの辺にしましょう」

 

「そうだな。一誠たちも待っている頃だろう」

 

また明日と、ヴァーリと龍牙は足元に魔方陣を展開してこの場から魔方陣の光と共に姿を暗ましたのであった。

 

 

 

一誠が創った家の中で二つの魔方陣が出現して光と共にヴァーリと龍牙が姿を現した。

さっそく周辺の状況を一誠に伝えるべく、夕食時に集う場所へと赴いたらそこに一誠、

ルクシャナ、リーラ、ガイア、オーフィスが席についていた。帰ってきた二人に一誠は出迎える。

 

「おっ、良いタイミングで帰ってきたな。夕食にしようとしていたところだぞ」

 

「それは良かったです。では、この地域の状況を食べながら説明しますね」

 

椅子に座りながら龍牙は言う。ヴァーリも席に座って、一行は合掌し、「いただきます」と

発したのであった。そして、料理を食べながらヴァーリと龍牙の話を聞く一誠たち。

 

「なるほど・・・・・貧困か・・・・・」

 

「ええ、流石に放っておけないと思いますが・・・・・どうします?」

 

「・・・・・龍牙、分かってて言っているだろう?」

 

「ふふ・・・・・ええ、そうですね。そうでなければ、あなたらしくないですよ」

 

不敵の笑みを浮かべる一誠に対して微笑む龍牙。

 

「確かにモルドレッドを見つけて異世界に連れて行くこそが本命だ。

だが、それまで俺たちは自由にこの異世界にできる。

なら、俺たちはこの異世界を堪能しようじゃないか。同時に困っている者がいれば救いの

手を伸ばす」

 

ガイアたちを見渡して宣言する。

 

「明日はこの街の治安と経済を回復に専念しよう。勿論、モルドレッドの情報も収集だ。皆、いいな?」

 

その提案に誰も否定しなかった。明日の朝は、

一誠たちがいた世界では夜の時刻となっているだろう。

異世界に繋がる(ゲート)で何時でも行き来できる一誠たちはその日、

そのための準備とばかり数時間ぶりに元の世界に戻って行動を開始したのだった。

 

―――○♢○―――

 

一誠たちが異世界に来てある程度たった頃、

 

「東部都市の様子がおかしい?」

 

「はい、お嬢様」

 

赤を基調としたメイド服を身に包む十代前後の少女。どこか遠い地点をぼんやりと眺めている

ような瞳は、淡い灰色。髪はブルネットで、左右でお団子に結んでいる。

名はヴィットーリア・クレメンティ。ヴィットーリアに東部都市群の状況が異変していると

報告された者は獰猛な獅子を思わせる女だった。

 

その美貌は凄みを感じさせ、マフィアの女ボスを彷彿とさせる。執務机に向かいつつ、

優雅に春巻きを燻らせている姿は、一幅の絵画のようだ。ゆるやかなウェーブを描く髪は、

淡い金色。ラブロック風に表現するならば、輝白金(オーロ=ビアンコ)といったところだろうか。

左右の耳たぶには、黒十字架をかたどった装飾具を吊り下げている。

グレーのスーツを端正に着こなしているが、その肉体の曲線美は隠しようがなく、

モデルも顔負けのプロモーションである。見るからに悩ましいが、その眼光が鋭すぎるため、

あまり色香は感じられない。誰もが人睨みされただけで、

全身が縮みあがってしまいそうな気がした。その女の名はフランチェスカ・マキャベリ。

 

「具体的にどんな様子なのだ?」

 

「東部都市群の民たちが異様に活気を取り戻して、工業、工芸の生産を始めただけではなく、

建物も何時の間にか真新しく造りかえられていたり、この世の料理とは思えないものまでもが

販売しているそうです。その料理を一口食べようと西部都市群の民が東部都市群に

足を運ぶ者まで現れております」

 

「・・・・・」

 

マキャベリは顎に手をやって思考の海に潜った。東部都市群は今では貧困の集合都市、弱小都市と言っても過言ではない。統一通貨『ヴェラ』の投入によって貧困に陥る一方だったあの都市群が、一体どうやって・・・・・。

 

「そのこの世のものとは思えない料理を入手してきました」

 

ヴィットーリアはどこからともかく何かが入った袋をマキャベリの前に置いた。がさがさと袋から何かを取り出す。それを見て、マキャベリはヴィットーリアに問う。

 

「これがそうだと?」

 

「はい。購入する際に『熱いので食べるときは気を付けてください』と言われました。確かにこの料理から一定の熱さを感じます」

 

執務机に置かれた料理。手持ちで歩きながら食べれるように作られたそれからマキャベリが今まで食した料理から嗅いだことがない臭いを鼻に刺激を与える。船の形の箱に盛られた六つの茶色く

丸いもの。その丸いものにソースのようなものが掛けられていて、緑色の何かが振りかけられており、さらにユラユラと紙と同じぐらい薄い肌色の何かがまるで踊っているかのように動いている。

 

「この料理の名は?」

 

「タコヤキと」

 

「タコヤキ・・・・・聞いたことがない料理だ」

 

感心と興味が湧いたマキャベリはヴィットーリアに問いだたす。先ほどから鼻を刺激し、

小腹が空いたのか、

食欲が湧いてくるのだ。

 

「これをどうやって食べるのだ?」

 

「つまようじという物で刺して食べるそうです」

 

そう言ってヴィットーリアの人差し指より細く先が尖った物を袋から摘まんでタコヤキの一つを

プス、と刺して持ち上げた。

 

「では、私から」

 

「ああ、味の感想を頼んだぞ」

 

一口サイズのタコヤキをヴィットーリアは主の舌に合うかどうか、まずは自分から味わって判断とばかり口の中に入れた。口の中に入れた瞬間、舌に火傷しそうなほど熱さを感じた。

通常の人ならば涙目になって思わず口から出してしまう者もいるが、

ヴィットーリアはそんな醜態を晒すことは許さないとばかり、瞑目してタコ焼きを咀嚼する。

 

「・・・・・」

 

「どうだ?タコヤキとやらの味を」

 

モグモグと目の前で食べるメイドに「味の感想は」と若干催促して聞きだすマキャベリ。

さらにしばらくして、ヴィットーリアはゴクリとタコヤキを胃の中に送って一言。

 

「とても熱く、とても美味です。確かにこの世の料理とは思えないものでした」

 

「ふふっ、お前の口からそこまで言わすか。では、吾輩も―――」

 

ヴィットーリアの感想にようやく食べれると心待ちしていたマキャベリが、躊躇もなくタコヤキを頬張った。

 

「―――――っ!?」

 

しかし、火傷してしまうのではないかと思うほどのタコヤキから感じる熱が舌に襲う。

目尻に涙があふれて顔を顰めるマキャベリの姿にヴィットーリアはクスリと小さく微笑んだ。

 

「言ったではございませんか、熱いので食べる時は気を付けてくださいと」

 

「・・・・・」

 

難の反論もできず、ただただ首を縦に振るだけしかできない。マキャベリもゆっくりとだが

タコヤキを咀嚼し始める。食べている内にマキャベリの反応が変わった。美味しそうに咀嚼をし、

少ししてゴクリと胃の中へ送った。

 

「お味はどうですか?お嬢様」

 

「・・・・・」

 

マキャベリの感想は、

 

「ヴィットーリア」

 

「はい」

 

つまようじをもう一つのタコヤキに突き刺しながら言った。

 

「この料理の発案者と東部都市群を変えようとしている者を調べ上げろ。金が必要ならば私の私財から使え」

 

「いいのですか?」

 

「ああ、この料理の他にも見たことがない料理があるのだろう?

―――こいつは商人として見逃す訳にはいかぬ」

 

主の命令は絶対。ヴィットーリアは「かしこまりました」と礼儀正しくお辞儀をし、執務室から

いなくなった。専属メイドがいなくなったら、マキャベリはタコヤキを口の中に入れる。

 

「・・・・・熱いが、確かに美味である」

 

―――○♢○―――

 

弱小東部都市群は確かに生まれ変わろうとしていた。

貧困だった都市が少しずつ回復して安定に向かっている。

とある人物たちが現れてから、民たちは肌で感じる。今日も明日も今まで生きていたなかで幸せを感じると。

 

「イッセーさまッ!おはようございます!」

 

「旦那ぁっ!海からまた大量の魚が取れやしたぜぇっ!旦那の教えてくれ方法は凄いですなっ!」

 

「イッセーさま!また新しい料理を教えてください!」

 

民たちは一人の人物が現れるとワッと群がった。イッセー・D・スカーレット。

長い真紅の髪と金色の瞳。十代後半少年に。

 

「おう、また後で新しい料理を教えてやるよ。他の皆もこの国の活気を取り戻すためにも

仕事に励んでくれ」

 

「はいっ!」と東部都市群の民たちが一斉に応える。

民たちは一誠も含め、数人の人物たちを救世主と崇めている。最初の出会いは、

空腹で何もやる気も出なかった自分たちに無料で料理を食べさせてくれた。

 

それから今の状況を打破しようと説得して立ち上がらした一誠の言葉に心を打たれ、

民たちはもう一度頑張ろうと一誠に応えようと立ち上がったのだった。今では東部都市は、

貧民たちによる暴動が一気に激減し、過激なテロや、暗殺の件も減少した。

工業と工芸も活発になり、それらは全て一誠が買い取って、異世界に送ってさらに販売している。

異世界の品と聞けば、誰もが興味を持ち気に入ったならばそれを購入する者も現る。

 

「イッセーッ!」

 

「おっ、先生」

 

民たちに囲まれている一誠に一団が現れる。目鼻立ちはくっきりとして、

闇夜に咲いた百合のように美しい。背後に従えた黒服たちの威圧感とは対照的に、

その髪型は幼く、ブラウン系のロングヘアをツインテールにしている。

 

華奢な肩には、漆黒のトレンチコートをラフに羽織っていた。コートの下は、

黒のベストに白のブラウス、そして黒のスラックス。

女の子が履くには武骨な印象のブーツだった。少女の名はベアトリーチェ・スカルラッティ。

 

少女は貴族でスカルラッティ家の当主である。が、年相応に一誠が「先生」と呼んだため、

不満げに頬を膨らましだした。

 

「私のことをベアトリーチェと呼べ!」

 

「いや、この国の字の書き方と読み方を教わっているから先生だろう?」

 

「それはこの都市を変えようとしているお前たちの感謝の印よ!私はこの東部都市群の代表としてお前たちの行動に敬意を払って読み書きを教えているに過ぎないわ。

というか・・・・・本当に読み書きできないなんて子供以下ね?」

 

嘲笑するベアトリーチェ、対して一誠は顔が笑って目が笑っていないまま―――。

 

ガッ!

 

「余計なお世話だ!」

 

「ご、ごめんなさい!痛い、痛いから!頭をグリグリしないでぇー!」

 

自分より年下の少女に少し大人気なくベアトリーチェの頭を挟むように拳でねじり回しだす。

そんな光景に黒服たちや民たちは口出ししない。傍から見ればまるで兄が妹を注意しているかのように、じゃれているかのように微笑ましい光景だからだ。

現に一誠とベアトリーチェは笑い合っていた。

一誠が徐に頭を挟んでいた拳を解くと用件を聞いた。

 

「それで、どうしたんだ?文字の書き方を教えてくれる授業はまだ時間じゃないだろう?」

 

「うん、見回りをしているところだったの。丁度、皆に囲まれているイッセーを見つけてね」

 

黒服たちを連れている理由はそれか、一誠は理解して頷いた。

ベアトリーチェたちは東部都市の警邏をしていた。一誠は他の者にも協力を要請し、

共に貧困から抜けようと声を掛けていたのだ。その一人がベアトリーチェというわけである。

 

「そうか、協力してくれてありがとうな」

 

と、そう言いつつベアトリーチェの頭を撫でた。撫でられてベアトリーチェは頬を染めた。

 

「べ、別に・・・・・これはこの都市のことを思っての行動よ。

ラブロックで生まれた私たちだって協力するわ」

 

「その歳でそこまで考えているとはな。お前は偉いなー」

 

ひょいとベアトリーチェの脇を持ち上げた。それにはギョッと目を丸くする

ベアトリーチェだった。

 

「ちょっ!私を子供扱いしないでよ!これ、恥ずかしいわ!」

 

「子供じゃん。それにお前の恥ずかしがるところを見るのは楽しいなぁ♪」

 

「こ、この鬼!悪魔!」

 

ははは、と愉快そうに笑う一誠に対して羞恥で顔を薔薇色に染めるベアトリーチェ。

そんな二人に回りも釣られて微笑む。満足したのかベアトリーチェを下ろして周りに告げる。

 

「そんじゃ、今日も一日、明日の為に、未来のために頑張るぞお前ら」

 

一誠の言葉に「はいっ!」と返事をしたら、蜘蛛の子が散るように一誠とベアトリーチェから

離れて行く民たちであった。

 

―――○♢○―――

 

東部都市群の経済は右肩上がりになっていく頃、東部都市は変わった。

まだ西部都市群の経済力には及ばないが、それでも安定した暮らしができて、

貧困の二つ文字が消えた。民たちが外に出歩く時の表情は明るく、

笑顔で今日が楽しいと伺えるばかりだった。

 

「真紅の髪の少年・・・・・イッセー・D・スカーレット・・・・・」

 

人混みに紛れて赤を基調としたメイド服を身に包む十代後半の少女、

ヴィットーリア・クレメンティは主であるフランチェスカ・マキャベリの命によって

東部都市群を変えた人物の情報を頼りに一誠を探していた。

 

「短い期間でここまで経済力を向上させるだけではなく、

この都市の民に活気を取り戻す少年にどれほどのカリスマがある・・・・・」

 

ズルズルと昼食の時間なので、外で販売している店から買った

茶色い麺を食べていたヴィットーリア。

その麺もまた美味で既に三回も食べているのである。『ヴェラ』の投入によって貧困に陥っていた

はずの弱小都市のその姿の影も形も残さずにいる。もう、弱小都市と呼べないほどである。

 

「さて・・・・・捜索と調査を開始しましょう。

そして、私やお嬢様の口に合う料理の味も調べる必要があります」

 

公私混合とヴィットーリアは述べる。事実、片腕に料理が入った大量の袋を持っていた。

最近のマキャベリは、商人としての仕事を終えるや否や、ヴィットーリアに東部都市群でしか

販売していない料理を買いだしに行かせる。今まで食していた料理を食べず、買出しに行かせた

ヴィットーリアが持って帰ってきた料理に太鼓判を叩きながら食べるマキャベリの一つ一つの

反応を見ることがヴィットーリアの楽しみにでもなった。

 

「秘書の座は渡しませんが、コックとしての座なら渡してもいいでしょう」

 

密かにこの料理の発案者にライバル心を抱くヴィットーリア。

そして、自分が食べたことがない店を見つけて並んでいる民の後ろに並んだ。

 

「・・・・・?」

 

二、三人ほど先に並んでいる人物に、ヴィットーリアの視界に映り込んだ真紅の髪。

その隣にはブラウン系のロングヘアをツインテールにしている少女。

 

「・・・・・もしや」

 

ヴィットーリアが探し求めていた人物。いままで真紅の髪を持つ人間を探していたが、

誰一人いなかった。しかし、いま目の前に真紅の髪を持つ者がいる。買出しは一時中断と、

この場から抜け出して真紅の髪を持つ人物に接近した。

 

「失礼、少しお尋ねたいことがございます」

 

「ん?」

 

振り向いた真紅の髪の人物の顔は男の顔だ。まだ少年から青年に抜け出ていないが、

強い意志を籠った金色のい瞳が少年を大人びかせている。

 

「失礼を承知してお尋ねします。あなた様はもしかしてイッセー・D・スカーレット様ですか?」

 

「ああ、そうだが?」

 

―――見つけた。ヴィットーリアは目の前の少年こそ、

マキャベリが知りたがっている人物だと認知した。

 

「私はフランチェスカ・マキャベリ様にお仕えする秘書の

ヴィットーリア・クレメンティと申します。以後、お見知りおきを」

 

「ああ、よろしく。で、俺に用があると見受けれるが用件は何だ?」

 

「あなた様を我が主と会ってもらいたい所存です。お時間の方はよろしいでしょうか?」

 

一誠を西部都市群の首都レスピーギに存在するヴィットーリアの主がいる建物に招待したい。

ヴィットーリアの発言に一誠の隣にいたブラウン系のロングヘアをツインテールにした少女、

ベアトリーチェ・スカルラッティは目を丸くする。一誠はヴィットーリアの返事にこう言った。

 

「悪い、この後忙しくなるからお前の主人に会う時間がない」

 

「では、何時頃ならば?」

 

と、やんわりと否定した。それでもヴィットーリアは食い下がる。一誠は言う。

 

「俺はこの都市の重要な人物となっているからな・・・・・。

おいそれと他のところに行かれないんだ。もしお前の主が俺に会いたがっているならば、

申し訳ないけど、ここまで来てくれるとありがたい。俺の家で話も聞くからさ」

 

「・・・・・」

 

「ああ、夜に来てくれば料理を提供するぞ?俺がこの都市の住民に教えた料理をさ」

 

自分の主をわざわざ東部都市にまで来させるなんて、

と思った矢先にそう言われてヴィットーリアは―――。

 

「分かりました。では、主と共に再びここに訪れます」

 

僅かに主への忠誠心より食欲が勝ってしまったヴィットーリアだった。

 

 

 

 

時間はあっという間に過ぎ、一誠が指定した場所へヴィットーリアはマキャベリを案内して

今しがた辿り着いた。

 

「ヴィットーリア、ここで待ち合わせは間違いないのであるな?」

 

「はい、お嬢様」

 

マキャベリの問いに真っ直ぐ答えるヴィットーリア。

これからで会う少年に色々と聞きたいことがある。

早く会ってみたいものだと思った矢先、暗闇の向こうから真紅の髪の少年が悠然と姿を現した。

 

「待たせたか?」

 

「いえ、先ほど到着したばかりです」

 

「ん、そうか」

 

ヴィットーリアの隣にいるマキャベリに視線を向ける。

 

「彼女がお前の主と?」

 

「はい、その通りです。現マキャベリ家当主―――」

 

「フランチェスカ・マキャベリだ」

 

ヴィットーリアの自己紹介の発言を遮ってマキャベリはにこりともせず、自己紹介をした。

一誠はコクリと頷いて自己紹介する。

 

「イッセー・D・スカーレット。以後、お見知りおきを」

 

「うむ。さて、お前には色々と聞きたいことがあるがよいな?」

 

「それについては俺の家でしよう。夕餉の準備もできている。今日はカレーだ」

 

カレー、ヴィットーリアとマキャベリが知らない料理の名だった。

一誠がゆっくりと二人に近づき徐に、肩に手を置いた。

 

「それじゃ、行こうか」

 

刹那―――。風を切ったような音と共に、三人は待ち合わせした場所とは違う場所にいた。

三人の傍には小さな一軒家が佇んでいた。

 

「・・・・・お前、何をしたのだ?」

 

「ただ、移動しただけだが?まあ、そんなことより、中に入ろう」

 

ガチャリと扉を開けた。一誠が中に入ってしまい、マキャベリとヴィットーリアも遅れて中に

入った途端に、目を丸くした。小さい家にも拘らず―――まるで城のように広い空間が二人の

目に飛び込んだのだ。二階に上がる階段に赤いカーペットが敷かれ、玄関ホールに噴水がある。

天井には豪華絢爛なシャンデリア。床は大理石。

 

「ヴィットーリア。吾輩の目がおかしいのであるか?」

 

「いえ、お嬢様。私も同じ気持ちでございます」

 

「こっちだぞ」

 

愕然とする二人に呼び掛ける声。「はっ」と気付き、一誠の後を追う。

一誠が入って行った扉の向こうに続いて入れば、一人の銀髪のメイドが料理をテーブルに

置いていたところだった。この部屋の空間も二人を驚かせたのだった。

 

「それじゃ、食べながらでも話をしようか」

 

朗らかに言いながら席に座る一誠。マキャベリとヴィットーリアもメイドが

引いてくれた椅子に座って一誠と対面する。

 

「いただきます」

 

「「・・・・・?」」

 

変わった祈りだと、二人は思った。だが、一誠は気にせず料理を食べ始める。

「吾輩たちも食べよう」とマキャベリの視線を受け、コクリと頷きヴィットーリアはスプーンを

持って料理をスープを飲むように掬って口の中に入れた。

すると、口の中でピリッとほど良い辛さが広がり、舌に刺激を与えた。

 

「美味しい・・・・・」

 

「うむ、食欲が湧く。これがカレーという料理なのだな?」

 

「ああ、そうだ。これがカレーだ。もっと辛くできるんだけど、辛さを甘くしてもらった」

 

「これほどの料理は生まれて初めて食べるが、どうやって作るのだ?」

 

さっそく料理のことを調べようとマキャベリは一誠に尋ねた。一誠は言った。

 

「それはまた後ほど教える。いまはどうして俺と会いたがっていたのか、それを聞かせてくれ」

 

本題に入ろうとばかり、一誠は話を切りだす。マキャベリはその通りだなと心の中で納得し、

隣で無心にカレーを食べるヴィットーリアを余所に一誠に問うた。

 

「どうやって貧困で弱小都市だった東部都市をここまで成長させたのだ?」

 

「それはこの都市に住んでいる民と力を合わせた事が大きいな。

後は俺たちが提供した料理の作り方を教えて屋台として販売してもらい、

この都市の工芸と工業で作った品を買い取って、他のところに売り、注文を受け付けてそれを

皆が頑張って注文通りに生産し続けていった。まあ、そんなところだ。それ以外は特にないぞ?」

 

それだけで貧困に陥っていた東部都市群をここまで回復させた目の前の少年の能力は凄まじいと

感じざるを得なかった。

 

「他にあるか?」

 

「では・・・・・お前が言う俺たちとはそこにいるメイドのことであるか?」

 

「いや、他にも三人いる。そいつらはいま、なんか遺跡を見つけたから探検しに行くって

言ってたけど」

 

遺跡・・・・・東部都市群にある遺跡はただ一つ。マキャベリは問うた。

 

「お前はあの遺跡のことを知らないのか?」

 

「・・・・・なんか、曰くつきとかあるのか?」

 

マキャベリの話を聞き嫌な予感が湧きだしたので、

一誠は恐る恐ると尋ねると、マキャベリは苦笑を浮かべる。

どうやら知らないようだと理解して説明に入った。

 

「あの遺跡都市の最深部には宝冠が眠っている。いわゆる聖遺物の一種だ。

国宝級の逸品な上に遺跡内部には危険な魔獣もうようよしている」

 

「聖遺物・・・・・?」

 

「なんだ、聖遺物すら知らないのか?お前は一体どこの田舎に育ったものなのだ?」

 

そう言われ、傍に立つメイドに一瞥してポリポリと頬を掻く一誠は言った。

 

「田舎どころか、俺たちはこの国の出身者じゃないしな」

 

「では、どこの出身者だ?ロートレアモン騎士国?それともゼファロス帝国か?

シェブロン王国か?もしやエスパーダ聖庁なのか?」

 

次々と代表的な国の名がマキャベリの口から出てくるが―――どれもどの国も

一誠は首を横に振った。

 

「異世界」

 

「・・・・・」

 

いま、目の前の少年はなんて言った?自分の耳はおかしくなったのか、

と改めてもう一度どこから来たのかマキャベリが問うても、

 

「異世界だ」

 

二度も同じことを繰り返して言う一誠だった。そんな一誠にマキャベリは失笑する。

 

「吾輩に冗談は通じないぞ?異世界なんてそんな絵本か小説しか

出て来ないような夢物語なことを―――」

 

「―――これを見ても、最後まで言い切れるか?」

 

マキャベリの話を遮った一誠の背中に―――六対十二枚の金色の翼が生え出した。

当然、その翼を見てマキャベリとヴィットーリアは目を丸くする。

その翼はまるで・・・・・天使。

 

「まあ、この世界にも俺みたいなやつがいるとすれば、

違う方法で俺たちが異世界から来た存在だと教えるけど、これで認めてくれるか?」

 

そう言う一誠にマキャベリは重々しく頷いた。

 

「いや、吾輩が知っている限り・・・・・人が翼を生やす存在はいない。

異世界から来たという話しは未だに信じられぬが、

お前は他の者とは違うものだと吾輩は認めよう」

 

「そいつはどうも。今度、異世界に連れて行ってやるよ。何時でも行けれるし」

 

「ほう?それは本当であろうな?」

 

鋭い眼光で一誠を見詰める。対してそんな眼光を何とでもなさそうに見詰め返して頷いた一誠。

テーブルに小型の魔方陣を展開してしばらくすると、魔方陣が立体映像のように人を映しだした。

 

『どうした、一誠?いま魔獣らしき獣を倒しているところなんだが』

 

「お楽しみ中のところ悪いな。お前らがいる遺跡の最深部には宝冠が眠っているらしいぞ」

 

『宝冠か・・・・・それは一体どういったものだ?』

 

立体映像に映るのはヴァーリ・ルシファーだった。ヴァーリの質問にマキャベリが口を開いた。

 

「お前たちは異世界の者だと言うが、どれほどの強さなのだ?」

 

「なんだ、知りたいのか?」

 

「遺跡都市の最深部にある宝冠、正式名称を星冠サーン・アヴァスを守る魔獣ムシエラゴがいる。お前の仲間は興味本位で遺跡内にいるのであれば・・・・・吾輩に力を示してみろ」

 

暗にその魔獣を倒してみろとマキャベリは告げた。

その言葉に―――口の端を吊り上げて不敵の笑みを浮かべ出す一誠だった。

 

「分かった。やってやろう。ただし、二人もついて来い。

俺たちの力を見てもらわないといけないからな」

 

言うが早いか、金色の翼を動かしてマキャベリとヴィットーリアを包むように拘束した。

 

「リーラ、もしかしたら数日掛かるかも知んない。この街のことを頼んでいいか?」

 

「お任せを。お気をつけて行ってくださいませ、一誠様」

 

「おう。んじゃ、ヴァーリたちのところに行くとしようか」

 

足元に転移型魔方陣が出現し、マキャベリとヴィットーリアを翼で包んだまま、

光と共に一誠の姿は消えた。

 

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