一誠の竜騎士物語   作:ダーク・シリウス

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Episode10

「選抜合宿・・・・・・?」

 

「毎年、アロンヌ湖畔の合宿所で実施される伝統行事だ。

イッセーたちも食事係として、何人か派遣してもらいたい」

 

ラブロック商店のカウンターに座り、ラーズとシルヴィア、レベッカが料理を食べる中、

イッセーがホールに現れたところをレベッカが呼び、選抜合宿のことを告げられている一誠。

ヴェロニカの来訪の一件以来、この三人はラブロック商店に足を運ぶようになった。

なんとか一誠を取り返すことができたがヴェロニカは一誠を諦めておらず、

虎視眈々と狙う態勢になっている。

 

「どうだい?引き受けてくれるかい?」

 

レベッカの問いに一誠は溜息を吐く。

 

「そりゃ、この世界のルールをできる限り従うつもりだ。それが伝統ならば尚更だ。

引き受けるさ」

 

「うむ、ありがとう」

 

「おいおい、感謝されるようなことをしていないぞ?」

 

「おや、そうだったね」

 

微笑むレベッカはとあることを質問した。

 

「ところでイッセー。キミはどうやって強くなったのだ?」

 

「急にどうした?」

 

「ハッキリ言ってキミの強さは私たちと次元が違う。

キミが生を受けたその直後から強かったわけではないのだろう?

ウルスラ団長に傷を付けられたぐらいで敗北を認めたのは理由もあったわけだ。

もしかして、私とウルスラ団長と戦った時、全力すら出していなかったのでは?

と思ってしまうんだよ」

 

その指摘にラーズとシルヴィアは一誠を見つめる。「どうなのだ?」と視線に込めて。

 

「・・・・・聞きたいか?」

 

途端に薄っすらと冷や汗を流し始めた。

 

「ああ、聞かせてほしい」

 

「・・・・・あまり、あの時のことを口にしたくないんだよな。

―――トラウマが甦ってしまうからさ」

 

それから一誠は一部だが、どうやって強くなったのか三人に告げた。

 

「・・・・・ぐすっ」

 

聞くにつれ、シルヴィアが同情の感情を抑えきれず、涙ぐんだ。

 

「分かる、分かるぞ・・・・・私も理不尽な修行と評したあれはとても怖かった。

あの姉上に星刻を受けた次の日から過酷な日々を送らされた。湖に突き落とされたり、

廃墟を探検させられたり、城壁を登らせられたり、

幽霊が出ることで有名な森の中でサバイバルさせられたんだ・・・・・!」

 

「・・・・・俺にとってお前の送った日々が生易しくて、幸せのような感じなんだけど。

森の中で一ヵ月間も一人でサバイバルさせられたんだぞ、俺」

 

「イッセー・・・・・とても辛い日々を送っていたのだな。私は同情を感じざるを得ないぞ」

 

「流石に、私も可哀想と思ってしまうわ。

子供の時に森の中で一ヵ月もサバイバルなんて・・・・・」

 

レベッカとラーズも可哀想な子を見る目で一誠に視線を送った。

その時、シルヴィアが立ち上がって一誠の手を掴んだ。

 

「イッセー、今日から改めて私とお前は心の友だ!

違いはあるが、共に幼い頃から辛い理不尽な日々を送らせられた者同士だ!」

 

「ははは・・・・・そりゃ、どうも。でも、そうなることを望んだのは俺自身だったんだよ」

 

「何故だ?」

 

「―――復讐と強くなるためさ」

 

遠い目でシルヴィアに答えた。

 

「復讐・・・・・」

 

「そうだ、俺の両親を殺した者たちに対する復讐だ。もう、終わったけどな」

 

「復讐を果たしたというのか・・・・・?」

 

唖然と呟くシルヴィアに首を横に振った。

 

「いや、ある意味果たしたけど、事実的に果たしていないな。

そいつは牢獄の中で未だに生きているんだからな」

 

「そうか・・・・・」

 

「復讐を夢に掲げたおかげで俺は強くなったんだ。

シルヴィア、お前も理不尽な日々を送ったのはきっとヴェロニカがお前を強くしたかったんだと

思うぞ。多分だけどお前を強くし、立派な王女にしたくてさ」

 

「あの、暴君が・・・・・姉上が・・・・・?」

 

信じられないとシルヴィアは漏らした。当然のように、笑いながらシルヴィアを森や湖に突き飛ばしたヴェロニカが胸の内にそんな事を思っていたとは到底思えない。

 

「イッセー、どうしてそう思えるの?」

 

「妹を嫌う姉なんて存在しないだろう。それに、妹が好きだけど自分の立場と性格、プライドが邪魔をして素直に優しく接することができない不器用な姉じゃないかって」

 

「・・・・・」

 

「相手を叱るときだってそうだろう?相手のことを思ったり、

期待して前に前に成長してくれると信じて心鬼ににして叱っている」

 

静かに一誠の耳を傾ける三人。「だから」と一誠はシルヴィアに向かって言った。

 

「次に会う時、怖がらずヴェロニカと話をしたり、甘えたりしてみたらどうだ?

ああ、二人きりの時にな?」

 

「・・・・・」

 

シルヴィアが沈黙する最中、「こほん」とレベッカは咳を零す。

 

「ところでイッセー、キミは確か分身の魔法ができるんだったな?」

 

「それがどうかしたか?」

 

「うむ、実は―――」

 

シルヴィアとラーズには聞かれたくないのか、

レベッカは一誠の耳元で声を殺して告げた。話を聞き、一誠は―――目を丸くした。

 

「おい・・・・・本気で言っているのかよ」

 

「本気だ。すでにこのことは要人の方々には話を付けている」

 

「まさか、分身って言うのはそういうことなのか?」

 

一誠の言葉にレベッカは頷いた。一誠がレベッカに何を言われたのか、それは―――。

 

―――○♢○―――

 

「あー、どうも。このたび上級課程(シニオス)三年となったイッセー・D・スカーレットだ。

以御お見知りおきを」

 

アンサリヴァン騎竜学院の講堂に集まる全校生徒の前で学生服を身に包んだ一誠が、

当惑の色を浮かべながら自己紹介を述べた。月日は双子宮(ジェミニ)

 

「な、なんであいつが・・・・・!?」

 

「会長がイッセーに耳打ちしていたことはこういう事だったのか・・・・・」

 

「ふふふ・・・・・楽しいことをしてくれるじゃない」

 

現在、全校生徒は選抜合宿の参加者の発表を終えた時に一誠が全校生徒の前で現れた。

―――レベッカ・ランドールを破り、ウルスラ・L・セルウィンと互角以上戦い破れた化け物。

ロートレアモン騎竜学院の全校生徒の胸の内はそう刻まれている。

その上、人間がパルと融合した愚か、人間がドラゴンとなるなんて前代未聞どころの話ではない。

一誠の登場に義堂はざわめきに支配された。

 

「静粛に!」

 

レベッカの鋭い窘めにざわめきは静まり返った。

 

「彼はヴェロニカ第一王女殿下の保護の下で暮らしていたが、幼竜エーコの存在に

彼もこの学院に通わせることを決めた。だが、長らく学院生活を送らせるわけにもいかないので

上級課程(シニオス)という立場でこのレベッカ・ランドールと残りの学院生活を送らすことが

決まった。知識の方は私が直々に教え、生徒会のメンバーとなってもらうつもりだ。

なので、彼も選抜合宿に連れていく。無論、私の目の届くところにいさせてな」

 

一誠の肩に手を置いて全校生徒に告げる。

 

「なお、皆には異論があるだろう。しかし、これは先ほども言った通りヴェロニカ王女殿下の

考慮で決まったことだ。―――いずれ、彼はヴェロニカ王女殿下の正式なパルとして、

このロートレアモン騎士国を王女と共に安泰の未来に導いてくれるだろう」

 

「話は以上だ」とばかり選抜合宿の参加者の発表会を打ち切って、

一誠と共に舞台から姿を暗ました。

 

―――○♢○―――

 

「おいレベッカ。誰がヴェロニカのパルとして、この国の安泰を導くんだよ?」

 

「こ、こらイッセー!―――いたたたた!頭をグリグリしないでくれ!」

 

校舎の最上階、中央塔の内部に位置する生徒会室で一誠は不満をレベッカの燃え盛るような

紅蓮の髪越しに頭を挟む感じで拳をグリグリとねじり回してぶつけていた。

その光景を見て唖然とするアッシュ、シルヴィア、ラーズ。

しばらくして、頭を抱え蹲るレベッカを見下ろす一誠が口を開く。

 

「強引に俺をこの学院に通わせることはどうでもいいが、どうして俺まで生徒会のメンバーに

ならないといけない?それと、俺はヴェロニカのパルになるつもりはない。

分かっているはずだぞ」

 

「苦肉の策だったんだのだよ・・・・・ああまで言わないと、

全校生徒の皆が少しでも納得してもらえないからな」

 

「・・・・・で、どうして俺まで合宿に?食事係で来て欲しいと言ったのはお前だろう」

 

「実は個人的にキミから手解きをしてもらいたいんだ。

異世界のドラゴンと戦えば自ずとクー・フリンも強くなれるかもしれないからな」」

 

合宿参加の理由を聞き、「んー」と小首を傾げる一誠。

 

「そいつは、クー・フリンの問題だな。それと固有魔装をバンバン使い過ぎると、

あっという間に魔力を使いきる。槍なんだから槍本来の扱い方で勝負したらどうだ。

魔力ばかり使って戦闘すればここぞって時に戦えなくなる。

それとだ。クー・フリンに体術を教え込んだ方がいいだろうな。そうすれば、

魔力の燃費は違ってくるだろうし」

 

「・・・・・」

 

「あとだ」

 

人差し指を立てた。

 

「俺に鍛えてほしいと言うならそれなりの覚悟があって言っているんだよな?」

 

「もちろんだ」

 

躊躇もなくレベッカは頷く。一誠は真剣な表情でこう言った。

 

「言質は取ったぞ。いいな」

 

「よろしく頼むよ」

 

「それと質問だけど」

 

レベッカたちを見渡して疑問をぶつけた。

 

「生徒会メンバーはこれだけで俺は何の役割なんだ?」

 

―――と、その時だった。

 

「失礼しまーすと」

 

軽い口調と共に生徒会室の扉が開いた。一誠たちの目は扉の方に向けられる。

逆立てた前髪に一本に結んだ青い髪の男子生徒が。

 

「なんだ、お前は」

 

「いや、なに、女子寮のメイヴ舎から、煙が出ているのを見て報告しに来たので」

 

「小火か?」

 

「さあ、なんでもルッカ・サーリネンとキーラ・ブラヴァ・ヘンリクセンの部屋じゃないかって

小耳に挟んだもんで」

 

ルッカ・サーリネンという名前を聞いた途端に、レベッカは顔色を変えた。

 

「あ、でも、ギルフォードの奴が収拾しに行くところを見掛けたんで、

大丈夫じゃないですかね?」

 

「・・・・・あいつか。念のために私もいく」

 

「んじゃ、行くか」

 

「なに?」

 

いきなり壁に大きな穴が開いたかと思うと、背中にドラゴンの翼を生やせば、

レベッカを容易に横抱きにして壁に空いた穴から飛び出して宙に浮いた。

 

―――○♢○―――

 

「お前ら、危ないだろうが!」

 

メイヴ舎に向かって飛行中、開口一番に一誠は背中にしがみ付き、

金色の翼に包まれている二人に叱咤した。アッシュとシルヴィア、ラーズである。

生徒会室から出て、レベッカに目的地を聞いたところで、まずラーズが一誠の背中に飛びついた

直後、異変が起きた。アッシュとシルヴィアが我先にと壁に穴が空いた生徒会室から蹴ったのだ。

そんな二人に気付き、慌てて二対四枚の金色の翼を展開してアッシュとシルヴィアを翼で

受け止めて包んだ。徒歩ならに十分は要する距離だが、一瞬の凄まじい風圧を感じた直後には、

アッシュたちは女子寮メイヴ舎の門前にいた。

メイヴ舎とは、基礎課程(ユニオス)の女子生徒が住まう寮である。

案の定、建物の周囲には多くの女子が集まっていた。煙が確認されたことで、

外に避難してきたのだろう。一誠がそんな女子たちの目の前で着地をし、レベッカを下ろすと。

 

「生徒会だ!寮監はいるか?」

 

ちょっと頬に朱を散らしたレベッカが叫ぶと、上品な雰囲気の老婦人が進み出た。

 

「ルッカとキーラはまだ部屋に?」

 

レベッカが早口で訪ねると、寮監は頷いた。

 

「はい。ですが、生徒会のギルフォードくんが『俺が様子を見に行きます』と言い、

私から合い鍵を・・・・・」

 

「それは何分前からだ?」

 

一誠が訪ねると途端に寮監が唖然と一誠を見て身体を震わせた。

その視線の先には、一誠の背中に生えている金色の翼だ。

 

「・・・・・」

 

自分に畏怖しているのだと気付き、翼を背中に収納し、レベッカの背後に隠れた。

 

「強過ぎるってのも考えものね」

 

苦笑を浮かべ、よしよしと子供をあやす感じで

ちょっと落ち込んだ一誠の頭を撫でるラーズだった。レベッカも思わず苦笑を浮かべ、

寮監に振り向くと真顔で口を開いた。

 

「わかりました。あなたは、ここで生徒たちを見ていてください」

 

レベッカは駈け出した。先陣を切るレベッカに、一誠たちも続く。

走りながら、アッシュはレベッカに質問を飛ばした。

 

「あの・・・・・レベッカさん?ルッカ・サーリネンとキーラ・ブラヴァ・ヘンクリセンって

子は、どんな問題を抱えているんですか?

 

走っている最中に訪ねることではないかもしれない。

アッシュの質問に気になり、無言でレベッカに視線を向ける一誠。

 

「キーラはともかく、あの子は、ルッカは今、苦しんでいるんだ。竜騎士(ドラグナー)でありながら、

パルに騎乗できなくなってしまったんだからな・・・・・表向きは、単なる体調不良ということに

してあるが、事実はもっと深刻なんだ。それ以来、あの子は授業にも出席せずに、

寮の部屋に引きこもっている。

最近では、他の生徒たちも薄々、ルッカの問題に気付き始めているところだ」

 

「そうだったんですか・・・・・」

 

「・・・・・」

 

何らかの理由で竜飼い人(ブリーダー)がパルに騎乗できなくなるという事態は、

決して珍しくはない。病気は怪我など、様々な理由が考えられる。

異世界から来た一誠にとってドラゴンに騎乗できない理由は主に人間の方じゃないかって

脳裏で思いこんだ。

 

「まさか、ドラゴンに乗れなくなったことを苦にして―――」

 

「可能性がない・・・・・とはいいきれない。だからこそ急いでいる。

それにギルフォードの存在も気になる」

 

それっきり、レベッカは口を閉ざした。正面の入口から寮内に突入する。

廊下を突き進み、階段を駆け上がる。やがて、レベッカはある扉の前で足を止めた。

三階の突き当たりだった。

扉の脇の表札には、ルッカ・サーリネン、キーラ・ブラヴァ、ヘンリクセンとだけ記されている。

既にギルフォードが入ったのだろう。開けっぱなしの扉から白い煙が出て来ている。

騒ぎの大きさと比べると、煙の量は微々たるものだった。

 

「ルッカ!キーラ!」

 

レベッカに続いて、一誠も室内に足を踏み入れぐるりと見渡した。

 

乾燥させた植物が所狭しと並べられた部屋は、

年頃の女んの子が住んでいるイメージからは程遠い。

どちらかというと、薬師の仕事場といった雰囲気が漂っている。

植え付けの机とは別に、作業台らしき家具が置かれれているのも意外だった。

おそらくルッカとキーラの私物なのだろう。部屋の中央には円形のとーテーブルも置かれている。

一誠にとって馴染みのある物だが、騎士国や王国ではまず見られないタイプの家具だった。

植物鉢がやたらと多いのも気になった。

壁際から出窓に至るまで、あちこちに設置されているのだ。

どの鉢にも、一誠が見たこともない植物が生い茂っている。

これだけの私物を人部屋に詰めこむことができるのは、

ひとえに三人部屋を二人で占有しているからだ。壁際には二段ベッドが一台と、

シングルベッド一台が設置されているがどのベッドも物置代わりにされていた。

 

「「・・・・・・」」

 

部屋の主は、先に駆け付けたギルフォードとプラチナ・ブロンドで、

肩先まで伸ばしている少女を庇うように立ちはだかっている同じ髪の色に切れ長の双眸の少女。

そして二人の共通する部分が一誠の視界に入った。耳の先端が、ほんの少し尖っている。そして、

ギルフォードが徐に入ってきたレベッカたちに振り向いた。

二人の少女もレベッカたちの存在に気付き、

 

「ちょっとレベッカ!どうしてこの色欲魔をあたしとルッカの部屋にこさせた!?」

 

抗議の言葉を投げた。どうやら少女の背後にいるプラチナ・ブロンドの少女がルッカらしい。

ということは、レベッカに抗議する少女がキーラということだ。

 

「いや、私の指示でこさせたわけではない。ギルフォードが小火の原因を探ろうと

独断でここに来たそうだ。だが、どうやら小火ではなく香炉の煙が発生源のようだな」

 

辺りを見渡しながられ納得した面持ちで頷くレベッカ。

 

「ギルフォード。生徒会としての務めを果たそうとしたのは良いが、

男一人で女子寮、それも乙女の部屋に上がり込むのはいささか不謹慎だと思うぞ」

 

「それはすいません。何分、煙で呼吸困難に陥ったのではないかと心配になり、

急いで駆け付けたものですからね」

 

「嘘を付け!気配が感じて起きてみれば寝ていたルッカに口付けしようとしていただろう!

それとも私たちエクブラッド人が火の扱い方がお粗末だといいたいのか!?」

 

「エクブラッド人・・・・・?人間とは違う種族なのか?」

 

「イッセー、そのことについては後で話そう。今は香炉の火を消すのが先決だ」

 

レベッカの提案に一誠は徐に腕を振るった。すると、一風の風が部屋に発生して香炉の火が

あっという間に消え、煙も外に追い出されるような感じで消失した。

 

「これでいいだろう」

 

「キミは凄いな」

 

微笑むレベッカに一誠はジィーとルッカとキーラを興味深そうに見ている。

 

「エルフ、じゃないんだな」

 

「エルフ?古に滅んだ種族のことか?」

 

「・・・・・ほんと、面白いな。この世界は」

 

「そう言えば、イッセーの店にもエクブラッド人がいたな?」

 

シルヴィアの何げない一言でキーラが反応した。

 

「同族がいるってどういうことだ?」

 

「ラブロック商店って店にくれば分かるさ。それとシルヴィア、

そんなことあいつの前で言うなよ。あいつ、怒るからな」

 

「そうか、分かった」

 

「それじゃ、エクブラッド人のことを教えてくれ」

 

ペンとメモを用意しだす一誠。まるで事情聴取をする警備員のようだった。

 

―――○♢○―――

 

―――エクブラッド人。

 

通称は『森の妖精』。古来より森を拠点とする、見目麗しい種族である。

ルッカとキーラの容姿を見れば、『森の妖精』という表現が誇張ではないのは明らかだ。

かすかに尖った耳など、まるでおとぎ話に登場する妖精そのものだった。単に美しいだけでなく、

薬草学に通じていることでも有名だ。エクブラッド人が調合した薬の効能は、

世界各地で評判となっており、高値で取引されている。だが、エクブラッド人の特徴において、

最も重要なのは、その美貌でもなければ、薬草学の知識でもない。

―――数多くの竜騎士(ドラグナー)を輩出してきた、戦闘民族。

それこそが、エクブラッド人のエクブラッド人たる所以であった。

どうして過去形なのかというと、そんなエクブラッド人の武勇伝も、

今となっては昔語りに過ぎないからだ。

竜族が衰弱を始めるにつれエクブラッド人の竜飼い人(ブリーダー)も激減したのだと、

一誠は知らないが歴史の教科書には記されている。と、まるで内緒話でもするように、

レベッカが急に声のトーンを落とした。

 

「今現在、この学院に通っているエクブラッド人は、ルッカとキーラだけだ。

そのため、エクブラッド人自治区の連中は、ルッカとキーラに絶大な期待を寄せている。

あの連中は、いささか時代錯誤でな・・・・・」

 

「時代錯誤とは?」

 

シルヴィアが不思議そうに小首を傾げる。

 

「うむ・・・・・竜騎士(ドラグナー)に過激な憧れを抱いているんだ。

ゼノグラヴィア戦争に竜騎士(ドラグナー)が投入されて以来、

もはやそういう考えは古いといわざるを得ない。今では多くの親が、

我が子が竜飼い人(ブリーダー)にならないように祈っている始末だ。

特に裕福な家庭になればなるほど、その傾向は強くなる。我が子が戦場に派遣されるなど、

想像もしたくないからな」

 

「それは本当に、忌々しき事態です!竜騎士(ドラグナー)に対する憧れを失うなど、

それでも騎士国の民なのかと問い詰めたい!」

 

「お姉様、黙ってください。いまはルッカとキーラの話なのだから」

 

妹のラーズに注意されると、シルヴィアはシュンと落ち込んだ。

 

「すまん・・・・・」

 

シルヴィアは大人しく引き下がった。

 

「とにかく、だ。そんな事情を抱えているとはいえ、この子たちはまだ十四歳の女の子なんだ。

一族の感情などには縛られず、のびのびと学院生活を満喫してほしいと私は願っている。

君たちも是非、ルッカとキーラと仲良くしてくれ。ルッカとキーラもな?」

 

「そこの色欲魔以外ならいい」

 

嫌そうにキーラはそう言う。一誠は不思議にい思い、キーラに訪ねた。

 

「なあ、どーして嫌っているんだ?」

 

キーラは険しい顔を浮かべ、ギルフォードに指を差した。

 

「・・・・・こいつ、あたしのルッカを口説こうとしたんだ。

それだけ飽き足らず、ルッカの肩に腕を回してどこかへ連れて行こうとするし、

あたしが目を離すと何時の間にかルッカの目の間に現れる。

しかも、とっかえひっかえと他の女とくっついているんだぞ。

こいつ、女だったら絶対に誰だっていいんだ」

 

「それはちょっと違うよキーラ。俺は全ての美しい女性を平等に愛したいだけなんだ。

キーラも俺を求めてくれば優しく可愛がって愛してあげるさ」

 

ギルフォードの言葉にラーズとシルヴィアは嫌そうな顔を浮かべ、

ますますキーラは警戒心を露わにし、レベッカの背後にルッカを隠した。

 

「ロートレアモン騎竜学院始まって以来の色欲魔ってやつかな?」

 

「こいつも選抜合宿に選ばれているから、他の男から女を寝取る可能性が大きいわ」

 

「うわー、最低なお坊ちゃんだ。よくそれで竜飼い人(ブリーダー)になれたもんだよ」

 

「言葉には気を付けてくれよ?平民の一人ぐらい、

俺の権力でこの世から消滅することが可能なんだから」

 

「え?貴族の成り上がりだとヴェロニカから聞いたんだけど、

そんなことができるのか?貴族の成り上がりが?」

 

刹那、一誠とギルフォードの全身から気が迸った。

 

「俺と俺のパル、アーサーの前でひれ伏したいのかい?」

 

「逆だろ?お前は泥沼の中で溺れるんだ。親の七光りもとい、神の七光りの奴に俺が負けるか」

 

「なら、どっちが強いか。勝負するかい?」

 

好戦的に言うギルフォード。対して一誠は―――。

 

「自分が一番じゃないと気が済まないって性質みたいだな?

―――面倒くさい。今はお前に構う暇じゃない」

 

闘気を消して戦意も抑えルッカに視線を向けた。

 

「どうしてドラゴンに乗れなくなったのか、それが問題じゃなかったっけ?」

 

場の空気が緊張で包まれた。キーラに至ってはなんとも言えない面持ちとなっている。

ルッカは顔を曇らす。

 

「ルッカ。調子はどうだ?」

 

レベッカが声を掛けると、

 

「まだ、駄目みたい」

 

ルッカはしょんぼりとなった。キーラがルッカを抱き寄せて物憂げな顔で言う。

 

「突然、ルッカを乗せてくれなくなったあの子は私も分からない」

 

「乗せてくれなくなった?」

 

不思議そうに小首を傾げるシルヴィア。キーラがコクリと頷く。

 

「ガレスがルッカを拒絶するようになってから、もう三ヵ月。

今でも解決していないどころか解決の糸口さえも見えない。

でも、それ以上にルッカとガレスを繋ぐ星精路(アストラル・フロウ)が途切れているから、

このままじゃガレスの命が危険―――」

 

予想外の事実に、面々は深刻だと思い知らされた瞬間だった。

 

―――○♢○―――

 

「やって参りました!第七竜舎!」

 

「いきなりなに言っているのだ?」

 

「いや、言わないとダメって気持ちが一気に沸きだしたんだ。

というか、悪いな。案内してもらって」

 

「気にするな。それにラーズの監視も兼ねる」

 

レベッカ、アッシュ、ギルフォードといったメンバーと別れたあと、

一誠はシルヴィアに頼んでガーウェインがいる場所に連れて行って欲しいと頼んだ。

当然、怪訝な面持で首を傾げられたが、

そこにラーズ代わりこんで一誠を聖竜(マエストロ)専用の施設へ案内すると買って出た。

だが、そんなラーズをシルヴィアが放っておくわけもなく、ラーズの言動を監視も兼ねて理由を

聞かないまま案内したのだった。

 

「まあ、私が二人っきりになる場所でイッセーと何かすると思っていらっしゃるのかしら?」

 

「イッセーと出会ってからのお前の言動を胸に手を当てて思い出してみろ」

 

「それじゃ、イッセーの手でそうさせてもらいますわ」

 

「じ・ぶ・ん・の・て・で・だ!」

 

第七竜舎は述べた通り聖竜(マエストロ)専用の施設であり、学院内でも特に神聖な場所である。

建物の造りにしても、ここに来る途中、他の竜舎も案内してもらい見てきた中で

遥かに豪勢だった。外見だけなら、まるで貴族の別荘のような趣が感じられる。

アンサリヴァン騎竜学院の歴史において、第七竜舎がこれほど賑わうのは珍しい事態であった。

それほどまでに、聖竜(マエストロ)とは希少な存在なのだ。第七竜舎の入口を潜ると、

ひときわ異彩を放っているのが、レベッカのパルを務めるクー・フリンである。

さも当然とばかりに、第七竜舎の中央部に陣取っている。その神々しいばかりの巨躯には、

理屈抜きで畏敬の念を抱かざるを得ない。成獣に合わせて設計された大型竜舎の天井でさえ、

低く思えてしまうほどだ。他にも、

 

「他にもドラゴンがいるな。誰のだ?あの金色のドラゴンはギルフォードのパルだよな?」

 

白い身体に白銀の毛並みを持つドラゴンが檻の中にいた。

そのドラゴンにシルヴィアとラーズが目を向けながら言う。

 

「ああ、あの子は私のパル、ランスロットだ」

 

「こっちの子は私のパルのアグラヴェインよ。

ついでに言えば、あのドラゴンはアリアンロッドと言うわ」

 

シルヴィアとラーズのパル。レベッカとギルフォードのパル。名も知らない生徒のパル。

満足気に頷き、一誠は―――。

 

「よお、クー・フリン。久し振りだな」

 

「・・・・・」

 

まるで久し振りに会った友のように語りかける。クー・フリンは鎌首を下げ、一誠を睨む。

 

「・・・・・」

 

一誠も無言になり場が沈黙する。すると、

 

「ぐるるるる・・・・・」

 

クー・フリンが顔をとある方へ向けた。その先に何かがあると一誠に伝えているのかのように。

 

「ん、ありがとうな」

 

スタスタと竜舎の最奥に進む一誠。

 

「「―――クー・フリンの言葉を分かったぁ!?」」

 

見守っていた二人が唖然となった。そんな二人を余所に一誠がガレスがいる

檻の前に佇んでいた。ガレスはぐったりとした様子で、寝そべっていた。体格は幼竜サイズだが、

白銀の毛並みはれっきとした聖竜(マエストロ)の証である。雄鹿のように枝分かれした角が

個性的で、凛々しく見えた。だが、かなり衰弱しているらしく、あまり威厳は感じられない。

 

「・・・・・」

 

しかし、ガレスの目は確かに一誠に向けられている。様子を窺っているようにも見えるが、

一誠はそれ以上、進もうとしない。

 

「イッセー、どうだ?」

 

「明らかに衰弱しているのが分かるな。これが星精路(アストラル・フロウ)の繋がりを切った

ドラゴンの姿か。不謹慎だが、見聞できて良かった」

 

「それで、ルッカを乗せない理由は分かるの?」

 

ラーズの問いに、首を横に振る一誠。

 

「まだ分からない。ガレスと対話してみたいんだがな・・・・・。

なあ、この時間帯にこの竜舎に訪れる奴がお前たちの知る限りいるか?」

 

シルヴィアとラーズに問う。二人は互いの顔を見合わせると、首を横に振った。

 

「パルの餌を与える時間はもう少し先だ。殆どの者は授業に専念するため、

竜丁(グルーム)に世話を任せているからな」

 

「そうか・・・・・それじゃ、ちょっとこいつと話すために場所を変えよう」

 

「場所って・・・・・勝手に人のパルを外に出してはいけない規則があるわよ?」

 

「外じゃないさ。なんなら、お前たちも来るか?」

 

その時だった。一誠とシルヴィアとラーズの足元に魔方陣が出現した。

三人だけじゃない、寝そべっているガレスにも魔方陣があった。

 

「これは・・・・・!」

 

魔方陣の光は徐々に強まり、いつしか一誠たち三人とガレスを包みこんでいった―――。

 

―――○♢○―――

 

「・・・・・」

 

シルヴィアは目を疑った。第七竜舎にいたはずなのに、目の前に広がる光景に驚愕する。

緑の大地、青い空と白い雲、向こうには青い海が広がっている。

 

「―――ここは、俺の精神の中だ。まあ、特別な空間の中だと思ってくれ」

 

「っ!」

 

背後からイッセーの声が聞こえた。背後に振り返れば、

ガレスと対峙している一誠の姿が視界に飛び込んできた。

 

「さて、ガレス。お前はどうしてルッカを背中に乗せないどころか、

お前の命の生命線といえるエネルギーを拒む?このままじゃ、お前は死にルッカが悲しむぞ」

 

一誠の質問にガレスは沈黙する。いや、答える気はないと一誠に睨むばかりだ。

 

「お前がそのままでいるとルッカは悲しむ。

ルッカのために思ってそんなことをしているなら―――お前はバカだ。いや、バカだろう?」

 

「ぐるるる・・・・・っ!」

 

ここで、ガレスが初めて唸り声を上げた。

 

「お前とルッカの間に何が起きて何が遭ったのかは知らない。

でもな、自分の主を悲しませるには理由があるんだろう。それを俺たちは知りたい」

 

一歩前に足を踏んだ。まるで瞬間移動さながら、ガレスの姿は消えた。

ガレスは―――一誠の真上に飛んでいた。

 

「なるほど・・・・・それがお前の答えということか」

 

ガレスは好戦的な方向で大気を震わせると、ブレスを放った。

 

「イッセー!危ない!」

 

「おい、俺はドラゴンだぞ?こんな攻撃―――」

 

腕を軽く横薙ぎに振るった。ガレスのブレスは一誠に直撃することなく、

横薙ぎった腕に呼応するように横へ軌道を変えて地面に着弾した。

 

「効く訳がない」

 

「「―――――っ」」

 

シルヴィアとラーズは改めて一誠に思い知らされる。一誠の強さとその異様を。

虚空に数多の魔方陣が出現したと思えば、次々と魔力の塊が飛び出していった。

ガレスは一時、魔力で相殺したが、数には敵わないと空中を飛び回って逃げるも、

魔力の塊は追尾性のようで、ガレスを執拗に追いかける。

 

「ふーん、相棒がいなくても知性は高いのか・・・・・禁手(バランス・ブレイカー)

 

ポツリと呟いた一誠の身体が一変した。真紅の髪が金色へと変わり、頭上に金色の輪っか。

背中にはあの六対十二枚の金色の翼が生えたが、瞳が翡翠と蒼のオッドアイと変わった。

 

「・・・・・なんて、神々しい・・・・・」

 

シルヴィアは眩しいものを見る目で呟いた。一筋の光と化し、ガレスに向かった。

一拍して、一瞬の閃光が空から発生した。光が晴れればガレスが力なく大地に向かって墜落して

大地にぶつかる直前、何枚ものの金色の翼がガレスの身体を巻き付けて大事には至らなかった。

その光景にほっと安堵で胸を撫で下ろすもシルヴィアとラーズは降りてくる

ガレスと一誠にもとへ駆け寄る。

 

「イッセー・・・・・」

 

「大丈夫だ、気を失わせただけだ。これでルッカと何が遭ったのか分かる」

 

「どうやって?」

 

「まあ、見ていろ」

 

ガレスの頭に触れたその瞬間。一誠の精神世界の風景が歪みだし、

テレビのチャンネルを変えたような感じで風景が一変したのだった。

 

―――それは上空でルッカとキーラがそれぞれのパルに騎乗して飛行をしている光景だった。

 

ただ我武者羅に飛んでいるようにも見えるが、

これはルッカとキーラのエクブラッド人族が伝わるとある演舞。

二人はそれを並々ならぬ努力と互いの絆で完成しようとしていた時だった。

 

「あっ!」

 

ルッカが何百メートルという高さから、ガレスから落ちてしまった。

そのまま地上に落ちてしまったが幸いしたには湖があってルッカは一命を取りとめた。

しかし、その後のルッカがガレスに騎乗しようとするも

無意識で恐れている光景をガレスの視点で分かった。

 

「なるほど・・・・・そういうわけだったか」

 

しばらくして、ガレスとルッカの間に何か遭ったのか、

それを知りシルヴィアは納得気に漏らした。そこで映像がプツリと途切れ、

元の一誠の精神世界に戻った。

 

「パルに騎乗する恐怖心を抱いたままではいずれ命を落としかねない。

そんな感情を未だに抱いているルッカにガレスは・・・・・」

 

「絆や星精路(アストラル・フロウ)の補給を失う覚悟の上で騎乗を拒み続けていた、

全てはルッカのために・・・・・ね」

 

それから場は沈黙した。最初に話を切り出したのは、溜息を吐いた一誠だった。

 

「はぁ・・・・・。これはルッカとガレスの問題だな。俺たちが出る幕はない」

 

「では、どうするのだ。このままではガレスが死んでしまうぞ」

 

「何もしないわけじゃないさ。レベッカたちに教えよう。それからルッカに教える」

 

一誠とシルヴィアとラーズ、ガレスの体が光り輝く。そして、一誠の精神世界から姿を消した。

 

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