一誠の竜騎士物語   作:ダーク・シリウス

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Episode11

デーンベリー市は、ロートレアモン騎士国でも有数の商業都市である。

堅牢な市壁に囲まれた街には、国内外の紹介が事務所を構えており、

商人たちは金勘定に余念がない。洒落た街並みの風景とは裏腹に、生き馬の目を抜くような

都市なのだ。人種のるつぼとしても有名であり、アーニャのような種族、

所謂タンタロス族が従来を歩いていても、誰も気に留めたりしない。

道端で多くの露天商が営業しており、花だの果物だの香辛料だの、

様々な商品を遠慮なく勧めてくる。

 

「相変わらず、せわしない街だわ・・・・・」

 

ぼそりと独り言を漏らすと、アーニャは目的の建物を目指した。大通りを折れた小道に入り、

さらに路地裏へ。完全に人気が途絶えた時、アーニャはレンガ造りの建物に辿り着いた。

いわゆる集合住宅である。入口の扉を潜り、階段を上がる。ロゼッタ紹介の看板を掲げた扉は、

三階の突き当たりにあった。帝国軍情報部が、騎士国内で諜報活動を行うための拠点である。

 

「アーニャです。ただ今、戻りました」

 

「入るがいい」

 

扉の向こうから聞こえてきたのは、まだ青年のはずなのに、

壮年のような深みを感じさせる声だった。

 

「失礼します」

 

アーニャは内面の喜びを悟られぬよう、努めて冷静を装いながら入室した。

事務所風の内装が施された部屋の奥、ミルガウスはゆったりと席についている。

他に人の姿はいない。二人きりということで、アーニャは妙に緊張した。

アーニャに視線を向けたミルガウスは、今日も銀色の仮面を装着している。

その髪は白銀と深紅のメッシュで、「人種のるつぼ」たるデーンベリー市においても

類を見えない。

 

「久し振りだな、アーニャ」

 

「はい、ミルガウス様」

 

つい先日まで、ミルガウスは本国に帰還していた。屍灰竜(ネクロマンシア)の実験結果を、

上司に口頭で報告する必要があったのだ。

ミルガウスの上司たる人物は、ヴァン=デンハル辺境伯クラウスという。

アーニャもまだ会ったことはない。辺境伯などという年輩の人を想像してしまうが、

まだ二十代の青年の貴族らしい。

 

「報告は受けている。学院に潜入しているそうだな」

 

「はい。屍灰竜(ネクロマンシア)を倒した少年について、調査を続けています。

これが報告書です」

 

アーニャは机の前に歩み寄ると、鞄に詰めていた資料を恭しくて渡した。

学院に潜入している場所は学生食堂〈ラ・テーヌ〉。美味かつ値段の高いメニューが

揃っているので中流家庭出身の生徒が主に利用している食堂である。

その食堂で働くようになってから、まだ日は浅い。情報量は微々たるものだったが、

ミルガウスは入念に読みこんでくれている。そのことが、純粋に嬉しかった。

やがて、ミルガウスは資料から顔を上げた。

 

「あの真紅の竜の竜飼い人(ブリーダー)については?」

 

「・・・・・」

 

資料には記されていない情報を、アーニャはミルガウスの問いに右手で左手を抑え始めた。

瞳に困惑の色を浮かべて。

 

「・・・・・見つけました」

 

「ほう、どんな者だった?」

 

「真紅の髪の少年・・・・・名前はイッセー・D・スカーレット」

 

「イッセー・D・スカーレット・・・・・」

 

アーニャの報告に上がった一誠の名前をオウム返しで呟く。

 

「ですが・・・・・」

 

小気味に身体を震え始めた。ミルガウスは肉食動物に怯えているような

草食動物を連想させるアーニャに首を傾げた。

 

「あれは本当に人間なのかすらわかりません」

 

「どういうことだ?」

 

「・・・・・・」

 

口を噤んでだんまりしてしまった。

だが、上司に報告しないとという思いがアーニャの口を動かす。

 

「その少年が、真紅のドラゴンだったのです。

それどころか、パルのドラゴンと融合し、鎧を纏いました」

 

「・・・・・」

 

「少年から感じる異様な力は私でも嫌というほど感じました。

絶対的な力。例えるなら広大な大地、不動かと思えます。

聖竜騎士団団長ウルスラ・L・セルウィンに傷を付けられ敗北したのですが、

本気も出していないかと思います」

 

アーニャの報告を真摯に耳を傾ける。だが、アーニャは額に汗を流して口を開き続けていた。

 

「報告書にどう書けばいいのか判断ができませんでした。

こんな私の言葉にミルガウス様の心を―――」

 

「いや、十分だ」

 

ミルガウスはアーニャの言葉を遮った。

徐に腰を上げて、アーニャの汗を懐から出した布でふき取った。

 

「お前が言うのだ。その報告は事実だろう」

 

「ミルガウス様・・・・・」

 

「アッシュ・ブレイクと幼竜エーコ。

そして、ドラゴンと融合し尚且つドラゴンとなる少年・・・・・」

 

そう呟いて顎に手を添えると思案する。それからしばらくしてアーニャに視線を向ける。

 

「ご苦労だった。このまま情報収集を続けてくれ。特にイッセーとやらの少年の情報が知りたい。

できるか?」

 

「はい。イッセー・D・スカーレットも学院に通うことになったので接触する機会があるかと

思います。その上、アッシュ・ブレイクと幼竜エーコ、

彼らは三日後に控えた選抜合宿に参加しますので、私も食事係として同伴する予定です」

 

「選抜合宿か・・・・・もうそんな季節だったのだな」

 

まるで過去を懐かしむような口調だったので、アーニャはビックリした。

 

「今年もアロンヌ湖畔で実施されるのか?」

 

「そう聞いています」

 

どうしてそんなことを訪ねるのだろ?と不思議に思ったアーニャに、

ミルガウスはさらなる質問をぶつけてきた。

 

「ウィリンガム霊廟を知っているか?」

 

「確か・・・・・アロンヌ湖畔にある霊廟のことでしょうか。詳しくは知りませんが」

 

「特殊な霊廟だ。幼くして死んだドラゴンばかりが祀られている」

 

「なぜ、幼竜ばかりを?」

 

背筋に冷たいものを感じつつ、アーニャは訊ねた。

 

「まだ生誕歴が始まる前の話しだ。竜族は、幼竜ばかりが次々と死んでいくという事態に

見舞われ、種の絶滅を回避する必要に迫られた。

その結果、賢竜魔法アルビオンが開発されたわけだが・・・・・ウィリンガム霊廟が

建てられたのが、丁度その頃だ。以来、幼竜が亡くなる、とその遺灰はウィリンガム霊廟に

埋葬されるようになったのだよ」

 

今が生誕歴一三六五年である。ミルガウスが語ったのは、随分と昔の話だった。

 

「お詳しいのですね」

 

「一般常識だ」

 

アーニャは恥ずかしさのあまり、頬を染めた。自分の勉強不足を指摘された気がした。

そんなアーニャの内心など気にも留めずに、ミルガウスは淡々と言葉を続けた。

 

「幼竜とはいえ、実験材料には事欠かんな」

 

「まさか・・・・・!」

 

ミルガウスの意図を見抜いたアーニャは、戦慄した。

 

「そうだ。帝国軍は屍灰竜(ネクロマンシア)の実用化を待ち望んでいる。

そのためには、より詳細なデーターが必要だ」

 

ミルガウスは、今度は幼竜の遺灰を使った実験を行うつもりなのだ。

屍灰竜(ネクロマンシア)を起動するには、竜族の遺灰が必要不可欠なのである。

本音を言えば、アーニャは屍灰竜(ネクロマンシア)が嫌いだった。生理的に受け付けないのだ。

ましてや、幼くして死んだドラゴンの遺灰を利用するなど、想像するだけで身の毛がよだつ。

勿論、ミルガウスがやると決めた以上、

自分はどこまでもついて行くのみアーニャは新たな作戦に向けて、気持ちを切り替えた。

 

 

アーニャが退室した後、ミルガウスは再び報告書を手に取った。

そこには幼竜エーコについて、アーニャが集めた情報が記されている。

断片的な情報に過ぎないとはいえ、ミルガウスは瞬時に悟った。

 

「やはり生まれていたか。アヴァロンの末裔よ・・・・・」

 

くくっ・・・・・と、喉の奥から笑いが込み上げた。

アーニャの前では、決して見せたことのない笑い方だった。愛憎とでもいうべき黒い感情が

、じわじわと胸に広がっていく。

 

「それにしても、『エーコ』とはな・・・・・故意か偶然かは知らんが、

飼い主は皮肉な名前を授けたものだ。もっとも―――」

 

ミルガウスは報告書を机に置くと、窓の外を眺めやった。

 

「飼い主に殺されるよりは、ずっとマシだろう。そう思わないか?ジュリアス?」

 

―――○♢○―――

 

結局、ルッカとガレスの問題は解決しないまま、選抜合宿の初日が訪れた。

夜明けと共に、選抜された五二騎は生徒たちに見送られ、学院を発った。

市街区のメイン・ストリートでは、各々のドラゴンに騎乗した学院生が現れるなり、

市民の大歓声が沸き起こった。この時期、選抜された優秀な生徒を見送るのもまた、

アンサリヴァン市では年中行事の一つなのである。街をぐるりと囲む市壁の外に出ると、

生徒たちは主任教官の指示を受け、三つのグループに別れた。ドラゴンの形態に応じて、

ルートを選ばねばらないからだ。

聖竜(マエストロ)翼竜(ストラーダ)は空路、地竜(アーシア)は陸路、そして水竜(ハイドラ)は水路である。

ちなみに、食事の世話を担当する〈ラ・テーヌ〉とレベッカの依頼で引き受けた

ラブロック商店の店員たちは、一足早く出発した。その中にはコゼットも含まれている。

自ら食事係を買って出たコゼットは、珍しくシルヴィアと別行動をしているのだ。

勇壮な羽音と共に飛び立つ翼竜(ストラーダ)組。砂煙をあげて街道を進む地竜(アーシア)組。

嬉々として河川に飛び込む水竜(ハイドラ)組。各種の先頭を務めるのは、

実技の担当教官たちである。そんな騎手たちを横目に、生徒会役員とそのパルだけは、

今なお市壁の外に留まり続けていた(ギルフォードはさっさと行ってしまった)。

 

 

「さて、と・・・・・アッシュとエーコ。この二人を誰が運ぶのか、決める必要があるな。

ルッカはキーラが運んでもらうにしてもだ」

 

生徒会長専用の騎竜服(ドラグスーツ)を着用したレベッカが、重々しく告げた。

事実、アッシュとエーコには移動手段がない。

 

「当然だ。ルッカはあたしが運ぶ」

 

本当に当然とばかりキーラは、ルッカの肩に腕を回して主張した。

 

「イッセー、お前が竜と成りアッシュとエーコを乗せてくれまいか?」

 

「その前に疑問をぶつけていいか?」

 

「なんだ?」

 

一誠はルッカとキーラに指を差した。

 

「この二人も生徒会員なの?」

 

その疑問にこの場は静まり返った。まるで何を今さら?と雰囲気に包まれた。

が、レベッカは手と手をポンと叩いた。

 

「・・・・・ああ、そう言えばキミには伝えていなかったな。ルッカは生徒会書記だ。

キーラはルッカの補佐としている。正式な生徒会員ではないがな」

 

「あの色欲魔から私の妖精を穢せないためだ!」

 

公私混合の言葉がキーラから出てきた。疑問が解消したところで、一誠は首を横に振った。

 

「悪いけど、先約がいる」

 

「先約?」

 

「―――我らだ」

 

ザッ!と一誠たちの前に姿を露わにしたのはラブロック商店のメンバーだった。

 

「なっ、どうしてお前たちが・・・・・」

 

ここは関係者以外、学院の生徒及び教師以外立入り禁止だ、と言いたげにシルヴィアは

顔を険しくするが、

 

「一誠だけ行かす訳にもいかぬからな」

 

「私たちは食事係ですし、目的地は変わりません」

 

「だから、イッセーと一緒に行こうと決めたわけよ」

 

と、要するに一誠から離れたくないと暗に言う面々だった。

 

「俺の代わりと言っちゃあなんだが」

 

空中に巨大な魔方陣が出現し、一瞬の閃光を放った。

 

「このドラゴンに乗ってもらう。よろしく頼む、メリア」

 

『かしこまりました』

 

光と共に現れた金色のドラゴン。ギルフォードのパルとは違う金色のドラゴンだった。

全身が神々しい輝きを放つ金色の鱗に覆われ、頭上には金色の輪っかが浮かんでいて、

背中に一誠と同じ金色の翼が太陽の光を受け、輝いている。

その巨躯は優にクー・フリンを越えている。

 

「なっ、なななななぁっ!?」

 

「こ、これがドラゴンですってぇっ!?というかいま、喋らなかった!?」

 

「こんなドラゴン、聞いたことも見たこともない・・・・・」

 

「綺麗・・・・・」

 

「それも大きい・・・・・聖竜(マエストロ)並みの大きさだ」

 

「イッセーがドラゴンであることを驚いたんだがな。

まさか、他にもドラゴンがいるとは驚いたぞ」

 

「まさか・・・・・ヴェロニカお姉様方は知っていたのかしら・・・・・」

 

新たに出現した巨大なドラゴンに驚嘆、唖然とするレベッカたち。

一誠は一瞬の光と共に真紅のドラゴンとなってガイアたちを身体に乗せると、

アッシュとエーコを掴み、放り出す感じでメリアの身体に乗せた。

 

『それじゃ、出発しようか』

 

「あ、ああ・・・・・」

 

気のない返事で同意し、各々と自分のパルに騎乗する。すべての元凶であるガレスは、

物憂げな顔で未だに座りこんでいる。当初、星精路(アストラル・フロウ)の途切れたガレスが合宿に

参加するのは無理だと思われていたのだが、古来よりアロンヌ湖畔は保養地だったらしい。

ガレスが参加を決めたのは、己の寿命を少しでもと―――一誠が半ば強引に連れてきた。

 

『さてと、ガレスを抱えるか』

 

ガシッ!とガレスの腹を脇から両手で掴んでメリアと共に翼を羽ばたかす。

その際に起こる砂埃がレベッカたちを襲う。

 

「ぐるるるる・・・・・」

 

自分より上回るドラゴンに捕まれるガレスは、鎌首を挙げて一誠に向かって唸り声をあげる。

 

星精路(アストラル・フロウ)を補給していない。

そんなお前が魔力で浮遊するなんて、自分の寿命を縮めているようなもんだ』

 

そんなガレスに一誠は淡々と発する。

 

「さぁ、飛ばしなさい!アロンヌ湖へ一番乗りよ!」

 

『我は主イッセーしか従わないです。故に、我に命令などしないでください』

 

「むかっ!誇り高き竜族にそんな口をするなんて生意気だわ!」

 

『――――――』

 

隣でメリアとエーコが言い合いしていた。すると、メリアがいきなり宙返りをした。

鞍など付けておらず、聖竜(マエストロ)特有の白銀の体毛もなければ掴まる場所は限られる。

アッシュとエーコは不意打ちでメリアの背中から落とされて宙に投げ出された。

 

「う、うわあああああああっ!?」

 

「きゃあああああああああああっ!」

 

が、それはすぐに終わった。アッシュとエーコを手で受け止め掴んだメリアは口を開いた。

 

『二度目はないと思いなさい。それと目的地まで黙っているように、いいですね』

 

「ううう・・・・・」

 

ギロリと睨まれ、エーコは口を噤む。アッシュもいたたまれない気持ちで一杯になり、

溜息を吐いた。そんな光景にランスロットを一誠の傍に寄せたシルヴィア。

 

「な、なあ・・・・・あのドラゴン、おっかないのだな」

 

『メリアはアレが普通なんだけど?』

 

「そ、そうなのか・・・・・」

 

異世界のドラゴン、思っていたより怖いのだな・・・・・。とシルヴィアは心の中で呟いた。

 

『言っておくが、メリアは優しい方だ。―――もっと恐ろしくて強いドラゴンもいるんだぞ?』

 

「・・・・・は、はははは・・・・・」

 

乾いた笑みを浮かべることしかできないシルヴィア。すると、一誠の周りにラーズとレベッカ、

キーラが近づいてきた。

 

「イッセーの世界のドラゴン、興味があるわ。

ねえ、一体どんなドラゴンがいるのか教えてくれないかしら?」

 

「異世界?何の話しだ?」

 

「ああ、キーラとルッカは知らないのだったな。

イッセーは異世界から来た人間であり、ドラゴンなのだ」

 

「異世界って・・・・・それ、本当?」

 

胡散臭げにキーラは一誠を見つめだす。

 

『まあ、信じてほしいとは言わない。頭の片隅にでも覚えておいてくれ。

それとラーズ、合宿についたら教える』

 

「ええ、お願いするわ」

 

微笑みコクリと頷くラーズ。一誠たちがいる空はどこまでも青空で広がっていた。

 

―――○♢○―――

 

アアロンヌ湖。騎士国内では最大の面積を誇る湖である。アユやフナ、

そしてアロンヌ貝の特産地として知られている。

一方湖をぐるりと取り囲む森林地帯はノーグの森と呼ばれている。

星精(アストラル)を豊富に含む植物が自生しており、竜族の保養地としても有名だ。

湖畔には貴族の別荘も点在するが、騎竜学院の合宿施設が一際目を引いた。

見た目は古びた屋敷に過ぎないが、立派な竜舎が併設されている。

実に六十頭弱のドラゴンを収容できる竜舎だけあって、ただ眺めているだけで壮観だった。

なお、湖畔から少し離れた地点には小高い丘があり、そこには古代遺産に指定された霊廟がある。

竜族の歴史を学ぶ者なら誰でも知っている。ウィリンガム霊廟であった。最初に到着したのは、

翼竜(ストラーダ)組と聖竜(マエストロ)組だった。片道およそ三時間。

騎手たちは悠然と合宿所に入り、食堂で他の組みをのんびりと待った。

合宿所の職員たち、アンジェラを含む講師陣、

先に現地入りしていた食事係の面々は―――ラブロック商店の猫の店員を抱きかかえて

ご満悦の笑顔で一誠やアッシュたちを迎えてくれた。コゼットも王宮様のメイド服で、

生徒たちに飲み物を配っている。次に到着したのは水竜(ハイドラ)組で、空路より二時間遅れだ。

最後が地竜(アーシア)組で、空路より四時間ほど遅れて、ようやく湖畔に姿を現した。

全ての学生院が食堂に集まると、ミーティングを兼ねた昼食会が開かれた。

ミーティングを取り仕切るのは、レベッカだった。颯爽と立ち上がると、

生徒たちの視線を一身に集めた。

 

「生徒会長のレベッカ・ランドールだ。トラブルに見舞われることなく、

無事にアロンヌ湖に辿りつけたことに嬉しく思う」

 

「通常ならば、ここは引率する講師陣の出番なのだが、彼らは壁際の席について、

のんびりとお茶をすすっている始末。自分たちがあれこれ指示するより、

レベッカの一声の方がよほど効果的なのを知っているため、あえて口出しはしないのだった。

 

「いいか、諸君。この選抜合宿は、単に優秀な学院生を集めただけの行事ではない。

卒業後、諸君は様々な職場で働くことになるだろうが、選抜合宿に参加したという履歴は、

どこに行っても一目置かれる。例えば、栄えあるロートレアモン聖竜騎士団の団員は皆

、選抜合宿で優秀な成績を残している。この中に騎士団を目指している生徒がいるなら、

ただ参加するだけでは駄目だ。トップを目指すくらいの気概で臨んでほしい」

 

既に一誠の場合は、聖竜騎士団の副団長として入団してこないかとヴェロニカ第一王女が勧誘し、

聖竜騎士団団長ウルスラも望んでいるほどだ。学院生たちは皆、

真摯な面持ちでレベッカの言葉に訊き入っている。

普段。進路について真面目に考えたことない者は、周囲の空気がやたらと緊張感を帯びたことに

気付き、少し気後れしてしまった。

 

「それでは諸君。明日から始まる特訓に備えて、今日はゆっくり休んで欲しい」

 

そこで一旦言葉を切ると、レベッカは急に悪戯っぽい笑みを浮かべた。

 

「とは言え・・・・・少しくらいなら、水遊びを許可する!」

 

一瞬の静寂を挟んで、食堂は大歓声に満たされたのだった。

 

―――○♢○―――

 

さんさんと降り注ぐ陽光を浴びながら、生徒たちは意気揚々と浜辺に集結した。

早朝に出発した甲斐あって、まだまだ陽は高い。遊ぶ時間はたっぷり残されていた。

 

「いやっほーう!」

 

陽を背に前髪を逆立て、一本に結んだ青い髪の少年が嬉々として湖に飛び込んだことで

水遊びは始まった。ルッカは、早々と自室に引きこもった。そんなルッカを付き添うように

キーラも。ガレスは竜舎ではなく、

 

「異世界の果物、ドラゴンアップルだ。これで腹の足しにでもしておけ」

 

湖畔を取り囲むノーグの森に行こうとするガレスを捕まえ、大きな布を半ば強引に手渡す一誠に

渋々といった感じで受け取り、ノーグの森で眠っている。

レベッカとシルヴィア、ラーズ、そしてエーコは

まだ更衣室で着替えているだろう(エーコの水着はコゼットが用意してくれるそうだ)。

ラブロック商店の女組も合宿所の女子更衣室で、着替えている。

 

―――○♢○―――

 

「ふふっ、こうなるだろうと思って新調した水着をイッセーに見せる時が来たわ」

 

「・・・・・おい、ラーズ。お前は本気でそんな水着を公衆の面前で晒すつもりか・・・・・」

 

合宿所の女子更衣室で、ラーズの水着姿にシルヴィアは硬直していた。

すでに着替え終えたラーズの水着姿は・・・・・布面積が狭すぎる。

その上、殆ど紐で殆どラーズの生々しい裸体が露出しているのだ。

学院の制服で隠された身体は惜しみなく曝け出している。出ているところは出ていて、

引っこんでいるところは引っ込んでいるラーズの身体。銀髪の髪を三つ編みに結んでいる。

 

「大丈夫ですわ。イッセーのパーカーを借りてきたのでこれで隠しますわ」

 

「―――待て待て、何時の間にお前はそんなものを借りたのだ!?」

 

「選抜合宿の参加者の発表された日ですけど?」

 

小首を傾げるラーズの手に持っている一誠のパーカ。

一誠の髪の色に合わせて新調された真紅のパーカだ。

 

「ほう、異世界の服か。興味深い」

 

深紅のビキニに着替え終わったレベッカが、ラーズの手にある衣服を見つめる。

 

「それで、お姉様。まーだ、水着を着替えないんですか?」

 

「うっ・・・・・だってな」

 

「それ、私が着ている水着よりはまだマシな方だと思いますけど?」

 

殆ど紐なラーズの水着より布面積があるシルヴィアが持っている水着。

大して変わりはないだろう・・・・・と、シルヴィアは溜息を吐く。

 

「なんだ、シルヴィアはまだ着替えていないのか?―――あっちはもう終わったようだぞ?」

 

レベッカが言うあっちとは、

 

「さて、一誠のところに戻るとしようか」

 

「そーね。待たせちゃっているだろうし、早く行きましょう?」

 

「すまないなリーラ。吾輩の分まで用意してくれて」

 

「いえ、こんなことあろうかと様々な水着を用意していましたので」

 

「綺麗です、お嬢様」

 

「この水着で一誠と遊ぶとしよう」

 

「我も」

 

ラブロック商店の女組のことだった。幼い子供の姿のオーフィスはともかく、

水着に着替えたガイアたちのプロモーションに敗北感を禁じ得ない。

特にガイアとマキャベリの肉体は豊満だ。どんな男だって惹かれてしまうだろう。

 

「では、ヴィットーリア。あなたも着替えましょう」

 

「はい?私は別に―――」

 

「そうだな、今日一日ぐらい一人の女として過ごすがいい。吾輩が許可する」

 

「で、ですが―――」

 

「さて、あなたの水着を選びましょう。

ああ、一誠様が待ち望んでいるので手早く決めましょう」

 

有無も言わせないとばかりヴィットーリオに様々な水着を見せびらかすように突き出すリーラ。

その目はコゼットにも向けられている。

 

「あらあら・・・・・。―――お手伝いさせてもらいますわ」

 

「え―――!?」

 

―――○♢○―――

 

「あっ、来ましたね」

 

「そうだな」

 

龍牙の一言に一誠は頷いた。近づいてくる美少女美女たちに視界を入れて。

 

「待たせたな」

 

「問題ないさ。うん、相変わらず着ている水着と似合っていて

ガイアの美貌が一際目立っているぞ」

 

「ふふっ、嬉しいことを言ってくれる」

 

ガイアが嬉しそうに笑む。そこにマキャベリが近づいてきた。

虎柄で布面積が少ない水着を身につけ、豊満な裸体を一誠に見せびらかす。

 

「どうだ?吾輩の身体は?」

 

マキャベリの裸体を見た一誠は思わず顔を赤くして目を逸らした。

まるで思春期を迎えた男の初々しい仕草だった。そんな一誠をマキャベリは笑みを深めて、

 

「可愛い反応をするではないか」

 

一誠を引き寄せて豊満な胸の谷間に押し付ける感じで抱きしめた。

 

「ちょ、マキャベリ―――!」

 

「くくっ、一時期、吾輩は弟を欲しがっていた時期があったがイッセーなら弟のように

可愛がるのも悪くないだろうな。ほら、姉の吾輩の胸の感触はどうだ?」

 

自分の胸に埋もれる一誠の反応を楽しむマキャベリだったが、ガイアが一誠の首を掴んで

引き離される。

 

「止めんか。それより、我らも有意義に過ごそう」

 

「ああ・・・・・そうだな」

 

「むう、残念だが尤もなことだな」

 

ガイアの言葉に同意と頷く。一誠のパーカーを着込んでいるラーズが口を開いた。

 

「それじゃ、イッセー。異世界のドラゴンを教えてくれない?」

 

「だったら、この中に入ろうか」

 

小型の魔方陣を展開した一誠。魔方陣から一つの玉が出てきた。

すると、その球から一瞬の閃光が生じる―――。

 

―――○♢○―――

 

「ここは・・・・・」

 

レベッカ、シルヴィア、ラーズの三人は一誠と共にどこもかしこも真っ白な空間の中にいた。

 

「ここはあの玉の中だ。この中に一日いれば、

外の世界はたったの一秒という好都合主義な奴にとって羨ましい代物だろう」

 

「では、今ここから出れば一瞬で外に出られるということに?」

 

「そういうことだ。さて、ラーズだけじゃなく、レベッカとシルヴィアにも連れてきた

理由は当然、異世界のドラゴンのことを教えるためだ。外じゃ、騒がしくなるからさ」

 

「どうしてこんなことをする?ただ口で教えてくればいいではないか」

 

「論より証拠、百聞は一見に如かずってな。俺の話を聞くより実物を見せた方が早いだろう」

 

実物・・・・・?レベッカ、シルヴィア、ラーズが怪訝な面持で首を傾げた。

 

「表じゃ、おいそれと出せれないからな。俺の世界のドラゴンたちは―――」

 

カッ!と一誠に幾重の様々な色の魔方陣が一誠たちを囲むように現れる。

思わずレベッカたちは警戒して身構える。三人の視界に移る魔方陣から、一瞬の閃光が放った。

その閃光と共に巨大な生物が姿を現す。中には女性の姿もいた。

 

「なっ―――!?」

 

「っ・・・・・!?」

 

「これが、ドラゴン・・・・・・!?」

 

異質で異様、レベッカたちが知るドラゴンとは全く知らない。

概念そのものが覆された気分であった。

 

『チッ!たかが俺たちを見せるために呼び出しやがって。つまらねぇことをしやがってよぉ』

 

『まあまあ、良いじゃないですか』

 

『しかし、この世界のドラゴンはあまりにも弱小過ぎる。

俺たちだけでこの世界のドラゴンを滅ぼせそうだ』

 

『アジ・ダハーカ。そんな事を言うものではありませんよ。先ほどぶりですね、御三方』

 

そして、レベッカたちは目を丸くする。目の前のドラゴンが各々と人語を発しているのだ。

 

「まあ、こいつらが俺の世界のドラゴンだ」

 

「・・・・・こんなドラゴンがイッセーの世界にいるというのか」

 

「人が住んでいる世界とは違う世界に住んでいるけどな。そんで、俺の世界のドラゴンは、

五大龍王、二天龍、邪龍、龍神、真龍と言った代表的なドラゴンがいて―――」

 

一誠たちを囲むドラゴンたちに一瞥して口を開こうとしたが、

 

「イッセー、いいか?」」

 

「どうした?」

 

「―――あそこに女性がいるのだが、あの女性もドラゴンなのか?」

 

シルヴィアの視線の先にいるのは、

黒と金が入り混じった髪の女性と青い髪の女性。シルヴィアの発言に一誠は肯定と頷いた。

 

「ああ、ドラゴンだ。―――クロウ、ティア」

 

二人の女性の名を言い手招く。

 

「紹介するよ。黒と金が入り混じった髪の女性がクロウ・クルワッハ。

邪龍の筆頭格と称されている最強の邪龍で青い髪の女性はティアマット。

五大龍王の一角で龍王の中で最強のドラゴンだ」

 

「・・・・・角が生えておらんな」

 

「角出す必要があるのか?というか、俺の世界のドラゴンは人化の状態がこんな感じだぞ。

オーフィスみたいにな」

 

「なるほど・・・・・人間と同じ姿で街歩くことも可能なわけだな」

 

納得するレベッカ。エーコの場合は、竜族であることをアンサリヴァン市に住む民たちに

知らされないようにとベレー帽を被されているが、

目の前の女性は一誠と同じ角を生やさずどこにいても同じ人間としか見えない姿形でいる。

 

「一誠、退屈で仕方がなかったぞ」

 

「そうだぞ。使い魔の私よりアジ・ダハーカやガイアを戦わせるってどういう了見だ!」

 

ガシッ!

 

「ちょ!悪かった!本当に悪かった!だから、絞めるな!?

極まっている!極まっているからぁっ!」

 

「「「・・・・・」」」

 

あの一誠が二人の女性に手も足も出せないでいる。

レベッカたちが唖然としていると、クロウ・クルワッハとティアマットが

ようやく一誠を解放した。

 

「はぁ・・・・・はぁ・・・・・花畑が見えたぞ」

 

「そのまま行ってみるか?」

 

「マジでごめんなさい」

 

その場で素早く土下座をする一誠だった。そこへ、メリアが介入する。

 

『ティアマット。そろそろその辺にしてあげなさい。

主だってあなたを忘れていたわけではないのですから。

寧ろ、あなたや他の皆にアンサル・クレープを作ってくれて

構ってもらっているではありませんか』

 

「・・・・・ふん」

 

そう言われ、一誠からそっぽ向いた。お仕置きが終わったと安堵で胸を撫で下ろす

一誠の表情を見て、レベッカは思った。―――まるで家族のやり取りをしている光景だ。

 

「さて、こいつらの名前を教えようか」

 

立ち上がってそう言いだす一誠。

 

「最初はクロウ。正式名称は―――戦いと死を司るドラゴン。

三日月の暗黒龍(クレッセント・サークル・ドラゴン)』クロウ・クルワッハだ」

 

「よろしく」

 

一瞬の閃光と共にクロウ・クルワッハはドラゴンと化となった。

一誠は続いてティアマットの自己紹介に入る

 

「彼女の正式名称は『天魔の業龍(カオス・カルマ・ドラゴン)』ティアマットだ」

 

「ふん、よろしく」

 

ティアマットも青い龍と化となった。次にメリアが一誠の言葉を待たずして口を開いた。

 

『我は「無限創造龍(インフィニティ・クリエイション・ドラゴン)』のメリアです。

以後、お見知りおきを』

 

紫色の巨躯に凶暴で獰猛そうなドラゴンが口を開く。

 

『「幻想喰龍(イリュージョン・イーター・ドラゴン)」ゾラード。主に牙を剥くなら容赦はしない』

 

ズンッ!

 

『グハハハハッ!俺は『大罪の暴龍(クライム・フォース・ドラゴン)』グレンデル様だっ!』

 

浅黒い身体に銀の双眸。巨人だと思わせる身体の背中に大きな翼と腰辺りに生えている野太い尾が

ある人型のドラゴンがいきなり一誠に殴りかかる。

 

『おらっ!鬱憤をはらさせろやっ!』

 

「なっ・・・・・!」

 

レベッカたちは目を張った。突然の一誠に対する暴挙に。

だがしかし、グレンデルの全身に蛇のような何かが巻きついて拘束した。

 

『うぐぉっ!?』

 

『もー、ダメじゃないか。イッセーに攻撃しちゃあ』

 

『て、てめぇ!この鬱陶しいもんを解けやぁ!』

 

『戻ったらね?あっ、僕は―――『龍喰者(ドラゴン・イーター)』サマエルだよ。

究極のドラゴンスレイヤーでもあるから、よろしくね』

 

上半身は人、下半身は蛇・・・・・否、鱗があった。背中には黒い翼が生えていて、

その下半身の尾でグレンデルを縛りあげている。

 

「続けるぞ、三頭龍のドラゴンは千の魔法を駆使する

魔源の禁龍(ディアボリズム・サウザンド・ドラゴン)』アジ・ダハーカだ。

このドラゴンでウルスラとウルスラのパル、ガラハッドと戦った」

 

『くくくっ、また戦いたいものだな』

 

三つの口の端を吊り上げた。

 

「黒と金の巨大な蛇は、闇と混沌を司る『原初なる晦冥龍(エクリプス・ドラゴン)』アポプス』

 

『・・・・・』

 

特に何も言わないアポプス。一誠は苦笑を浮かべ、赤黒い輪後光が背中や肩、

腕と太ももにも赤黒い輪後光が二重にあり、体は尾と繋がっている感じだった。

そして、背中から突起のようなものが二つあり、四対八枚の翼に黒が赤に浸食された感じで

入り混じっていた。手首と足の甲に鋭利な刃物状な物が生えており、頭部に鋭い一本の角にも

赤黒い二つの輪後光がある。胸に何やら赤い宝玉のようなものもあった。

一誠はその生物をレベッカたちに『魔煌の絶禍龍(カオス・ブレイカー・ドラゴン)』ネメシスと紹介した。

 

『初めて。私は「宝樹の護封龍(インソムニアック・ドラゴン)」ラードゥンと申します。以後お見知りおきを』

 

ドラゴンの形をした木が人語を発する。いや、巨大な木のドラゴン―――。顔と思われる部分が、

大きく裂けている。おそらく、それが口なのだろう。くぼみのなかで赤く輝くものが眼―――。

 

「そして、あそこにいるのが―――透明龍(ステルス・ドラゴン)ステルスだ」

 

「「「・・・・・」」」

 

そう言われても・・・・・とレベッカたちの中で疑問が浮かぶ。

―――一誠が指を差した方には何もないのだ。

 

「イッセー、いないんだけど?」

 

「ステルスは透明のドラゴン。つまり目の前にいるんだけど、視界には映らないんだ。

まるで幽霊のようにな」

 

「ゆ、幽霊・・・・・っ」

 

シルヴィアがブルリと身体を震わした。

 

「イッセーの視界にも映らないのか?」

 

「ああ、そうなんだ。でも、ステルス。ちょっと来てくれ」

 

『かしこまりました』

 

虚空から声が聞こえた。ステルスというドラゴンの声なのだろう。

鈍い足音が徐々に近づいてきている。一誠が徐に手を宙に突き出すと、手の平に感触が伝わった。

反対側の手でシルヴィアを招いた。シルヴィアを呼べば、

突然お姫様抱っこをしてステルスの背中に乗せたのだった。

 

「どうだ、ステルスの身体は」

 

一誠の問いにシルヴィアはあちこちに手を動かした。何かを確かめるように。

 

「・・・・・温もりが感じない。感触はある。どうなっているんだ・・・・・?」

 

「ステルスはそういう体質なんだ。俺も当初は大変だった。

どこにいるのかさっぱり分からなくて、ステルスが声を掛けない限り、絶対に見つからない。

攻撃する瞬間や、防御魔方陣を展開する時しか分からなかったからな」

 

「でも、どうやって居場所を見つけれるの?」

 

「見えないなら、見える物を付けてもらうんだ。布とか仮面とかな」

 

そう言って一誠は、魔方陣を展開して赤い布を取りだしたかと思えば、それを虚空に巻き付けた。

すると、赤い布が勝手に動き出す。

 

「こんな感じでな」

 

「なるほど・・・・・しかし、見えないドラゴンと戦うこととなると、厄介だな」

 

「ステルスの能力は確かに厄介だ。

でも、もっと面倒で厄介なドラゴンがいるんだよなぁこれが」

 

一誠は笑みを浮かべ出した。レベッカたちは理解できず首を傾げるばかりだ。

 

「それにしても・・・・・他人のパルに乗ることができるのだな。

異世界のドラゴンは皆そうなのか?」

 

「そうでもあるしそうでもない。乗れないドラゴンもいれば乗れるドラゴンもいる。

言っただろう?俺の世界のドラゴンは『悪』としてみられているって。

邪龍がその代表的なもんだ」

 

「では、金色のドラゴン・・・・・メリアもそうなのか?」

 

「メリアは違うさ。でも、俺の家族の大半は邪龍だよなぁー」

 

その言葉にメリアが頷いた。

 

『確かにそうですね。ですが、主の魅力、心に惹かれてあなたと共にいるのですよ?』

 

『俺はこいつに負けて捕まっているだけだからな!』

 

グレンデルが訂正しろとばかり抗議の異を唱えた。ラーズは不思議そうに小首を傾げる。

 

「負けた?イッセーに?」

 

「ああ、元々このドラゴンたちは別々に好き勝手に生きていた。

だけど、俺と出会い、戦いの末に俺の家族にしたんだ」

 

「ドラゴンと生身で戦うなんて・・・・・正気の沙汰とは思えないな」

 

レベッカが唖然と言う。だが、一誠は首を横に振った。

 

「あの時も言ったはずだ。ドラゴンを退治した英雄や勇者がいると。

寧ろ、先人たちがしてきた偉業には尊敬と畏怖を感じるよ」

 

「どうしてだ?」

 

「だって、太古の話なんだぞ?現代の破壊兵器なんて全くなかったんだ。

先人たちは逸脱した力、能力でドラゴンを退治または封印した」

 

視線をアジ・ダハーカやグレンデルたちに向ける。

 

「アジ・ダハーカとグレンデル、ネメシスは、太古の人間によって封印されたり退治されていた」

 

「「「っ!?」」」

 

『ああ、あんときは不意を突かれたぜ』

 

『あの人間は本当に強かった。現代の人間も同じぐらいにな』

 

『次はそうはいかない』

 

一誠の言葉に同意と発する。同時に、レベッカたちの中であることが浮かんだ。

―――異世界のドラゴンの寿命だ。

 

「イッセー、異世界のドラゴンの寿命って・・・・・・どのぐらいなの?」

 

「ん?軽く一千万年は生きられるぞ。というか・・・・・俺の世界の地球が誕生したと

同時に生まれたドラゴンなんて、俺が知る限り未だに存在しているぞ」

 

「い、一千万年以上・・・・・っ!?」

 

果てしなく、途方もくれない異世界のドラゴンの寿命。

驚愕するレベッカたちを余所に一誠は自分の胸に手を当てた。

 

「無論、ドラゴンとして転生した俺も永遠に生きるだろうな。人間として生まれた人生は十七年。

ドラゴンとして生きた人生は一年。まだまだ俺の人生と未来は続く」

 

「「「・・・・・」」」

 

メリアたちの足元に魔方陣が出現した。

一瞬の光と共に姿を消すと一誠はレベッカたちに問うた。

 

「それじゃ、表に戻ろうか」

 

―――○♢○―――

 

夜半、一誠は一人アロンヌ湖の桟橋の上にいた。

背中に六対十二枚の金色の翼を展開して月光を浴びていた。

キラキラと月の光を吸収して淡く輝く金色の翼。

 

「・・・・・よし、十分だな」

 

金色の翼を動かした。

 

「で―――、お前はなんだ?」

 

振り返ると、一誠の背後には前髪を逆立て、青い髪を一本に束ねている少年がいた。

 

「あれ、気付かれていたのか?」

 

「敵意や戦意がないからな。放っておいたまでだ」

 

「へぇ、それは恐れ入った。

で、さっきの質問を答えると、俺はお前が気になってしょうがない」

 

「それは互い様だろう?―――ランサーとやら」

 

少年の名前を言った一誠。ランサーと呼ばれた少年は目を丸くして驚愕の色を浮かんだ。

 

「お前、何時から俺の名前を?」

 

「俺の能力だ。相手の情報を全て知ることができる能力をな」

 

「・・・・・んじゃ、俺はただの人間じゃないってことも知られたわけだ」

 

肩を竦め、ランサーは自嘲的な笑みを浮かべた。一誠も肯定と首を縦に振った。

 

「ギルフォードと同じ、転生者のようだな」

 

「ご明察だ。そうだ、俺は転生者だ。言っておくが、

ランサーって名前は偽名だからな?本名は捨てた」

 

「奇遇だな。俺も今の名は偽名なんだ」

 

「マジかよ?というか・・・・・・お前も転生者なのか?」

 

ランサーの問いに一誠は首を横に振った。

 

「転生者じゃない」

 

「じゃあ、そのチート気味な力はなんだ。天使のような翼を生やしたり、

ドラゴンになれたり、ドラゴンと融合し鎧を纏うなんて

この世界じゃ有り得ないことなんだけど」

 

「だろうな。だが、それはお互い様だろう?最強の魔力と不老不死とかな」

 

「俺の能力も把握済みってわけか」

 

苦笑を浮かべる。相手の情報を全て知ることができるという一誠だが、

実際にそれは神から特典を求めた結果の能力じゃないのか、とランサーは思う。

 

「お前、俺と敵対する気か?」

 

「は?いやいや、戦う理由なんてないし俺はこの世界を満喫したいだけだ。

死ぬ前に住んでいた世界の日常はつまらなさ過ぎてな、自ら自殺したんだよ」

 

「・・・・・自殺かよ。だから『違う世界に行き来できる程度の能力』もあるわけか?」

 

「ああ、そう言うことだ。

そして、この後起きるであろうイベントを俺は見たくてここにいるんだ」

 

イベント・・・・・?怪訝に思った一誠。すると、湖に―――。

 

「あっ、お前は!」

 

「ん?キーラ?」

 

寝間着姿のまま、ルッカと共にいたはずのキーラが焦りの色を浮かべていた。

 

「どうしたんだ?こんな夜中に一人で」

 

「ルッカがいなくなったんだ!きっとガレスのところに向かったと思う!

でも、私はガレスがいる場所なんて知らないから・・・・・」

 

竜飼い人(ブリーダー)になった暁に刻まれた星刻から、

主の目しか見えない道しるべが離れ離れになったパルへ導いてくれる。

ガレスのパルではない限りキーラは当然、ガレスの居場所を知ることはできない。

 

「・・・・・」

 

キーラの話を聞き、一誠は瞑目した。その時、アロンヌ湖に一風の風が吹き上がる。

しばらくして、

 

「あっちだ」

 

「え?」

 

「あっちに、ルッカとガレスがいる」

 

合宿所の裏、さらにノーグの森の森林地帯へ指を差した。

一誠が差す方向へ赴こうと一誠に感謝の言葉を述べた。

 

「俺も行こう。こんな夜中に女一人行かせるわけにはいかない」

 

「え、だけどこれは・・・・・」

 

「関係ないって言いたいだろうが、すでに関わっているんだぞ。放っておけるかよ」

 

金色の翼を動かし、キーラの四肢を拘束して背中に乗せた。

 

「いくぞ」

 

刹那、光の一筋が森林地帯へと向かった。それを見たランサーは、

 

「さてと、俺も見に行くかなーっと。

しっかし、転生者じゃないないなら・・・・・憑依転生者なのか?

それともこの世界が生んだバグか・・・・・わからないもんだぜ」

 

首を傾げつつも足を動かすその先はノーグの森。

 

―――○♢○―――

 

光の速度如く、夜の森林地帯を針の穴に糸を通すかのような感じで、

文字通り真っ直ぐ突き進んでいた。目の前の木とぶつかる直前、虚空に穴が開いて潜ったかと

思えば一瞬で木の後ろを通って過ぎていく。そんな体験を何度もしたキーラは心臓に悪いと

心の中で愚痴る。

 

「いた」

 

一誠の呟きに真っ直ぐ前を見据えた。ぽっかりと開けた空間には、青白い月光が降り注いでいる。

小さな池があり、その水面には満月が映り込んでいる。池の脇には、

ガレスが身体を丸めて寝そべっていた。白銀の毛並みが、月明かりをキラキラと反射している。

ルッカは、そんなガレスからやや離れた位置に佇んでいた。

 

「ん?あいつ・・・・・」

 

木陰に身を潜めている少年ことアッシュがいた。音もなく、アッシュの背後に降り立つと、

 

「う~ら~め~し~や~」

 

耳元でどこまでも冷たく暗い声を発した。

 

「―――――っ!?」

 

肩を思いっきり跳ね上がらしたアッシュだったがその拍子、

 

―――ぴしっ!

 

アッシュの足が枯れ枝を踏みつけた。深夜の森に、その音ははっきりと響いた。

そんなアッシュを苦笑を浮かべる一誠だった。

 

「はは、お前、ビビり過ぎだ」

 

「お、お前!?というか、こんな夜中にそんな耳の傍で言われたら誰だってビビるわぁ!」

 

「で、女子トイレを入ろうか入らまいか悩んでいた変態が

今度は・・・・・ストーカーかぁ・・・・・」

 

「またそれを持ち上げるのかよ!?俺は変態じゃないし、ストーカーじゃない!

だから、そんな憐れみの視線を向けてくるなぁっ!?」

 

なんとなくシリアス的な雰囲気だったが、一誠とアッシュが無自覚でそんな雰囲気を払いのけ、

一瞬で騒がしくなった。その間、キーラはルッカのもとへ駆けて抱きついていた。

 

「ほら、お前が大声を出すから気付かれただろ」

 

「全ての元凶のお前が何を言うか!てか、どうしてキーラと一緒にここに来たんだよ」」

 

「ルッカを探しているキーラと会ってな。ここに連れて来たんだ」

 

アッシュから離れ、ルッカとキーラ、ガレスに寄る。

 

「おいルッカ。ガレスに会いに来たのか?」

 

「・・・・・あなたは」

 

「ああ、自己紹介をしていなかったな。俺はイッセー・D・スカーレットだ。

で、あっちは変態のアッシュ・ブレイク」

 

「俺は変態じゃないってば!もう、本当に勘弁してくれよ!」

 

どこまでもアッシュを弄る一誠。抗議の異を唱えるアッシュを聞き流し、

ガレスに視線を向ける。

 

「ガレスがお前を拒む理由は教えたはずだけど、まだ駄目なのか?」

 

「・・・・・」

 

力なく、コクリと首を当てに振ったルッカをキーラは心配そうな面持ちで口を開く。

 

「どうすれば、ルッカとガレスは・・・・・」

 

「まだ、ルッカの心のどこかでガレスに恐怖心を抱いているのかもな。

これは当人たちで解決しないといけない。無責任だと言われてもこれじゃ、手も足も出せない」

 

一誠の視界の端に無造作にある布が見えた。

それはこの森に入るガレスに渡した大量の果物が入っていた布だ。

 

「まあ、ちゃんと飯を食ってくれたようだからな。まだ死にはしないだろう」

 

「・・・・・そう」

 

「ガレスとは、話せたか?」

 

「・・・・・」

 

今度は首を横に振ったルッカ。何とも言えない空気が漂う中、アッシュが口を開く。

 

「なあ、俺がガレスに騎乗すれば・・・・・」

 

その提案に一誠は即座に否定する。

 

「止めておけ、怪我するだけだ。それにこれはルッカとガレスの心が問題なんだ。

お前が介入したところで結果が良くならない。逆に怪我したお前をルッカが悲しむだけだ」

 

「・・・・・」

 

「だが、あんまり時間を掛けて解決していこうなんて考えもしない方がいいだろう。

その内、ガレスは間違いなく死ぬ。ルッカの心次第でガレスを生かすか殺すかの選択が決まる」

 

「そんな・・・・・」

 

尖った耳が元気なさそうに垂れる。ルッカの感情が露わにしている様子だった。

 

「生かしたいなら、心からガレスのことを想え。俺が言えるのはそれぐらいだ」

 

翼を徐に動かし、ルッカたちを包んだ。

 

「合宿所に戻るぞ」

 

 

 

 

「・・・・・」

 

終始、アーニャは一誠たちの行動を見守っていた。

丁度、調査対象のアッシュと一誠が集まったのでこれほどの好機はないと息を殺し、

気配を消して様子を窺っていたのだが、金色の翼がアッシュたちを包んだかと思ったら、

一瞬の光と共にアーニャの視界から一誠たちは消失していた。

 

「あいつ・・・・・何者なのよ・・・・・」

 

結局、アーニャが求めたような展開にもならなかった。

これじゃあ、食事係として潜入した意味が―――。

 

「さぁーな。俺も知りたいところだ」

 

「にゃっ!?」

 

奇異な驚きの声を上げてしまったがそれところじゃなかった。

何時の間にか自分の背後に佇んでいた前髪を逆立て、

長い青髪を一本に束ねた少年、ランサーがいた。

 

「い、何時の間に・・・・・!?」

 

「あいつらが現れたところからずっといたぞ」

 

「・・・・・」

 

それって、アッシュ・ブレイクがこの森にいた時からずっとじゃないのよ、

と心の中で愚痴を言い、自分と相手の実力の差を思い知らされ警戒の色を浮かべるアーニャ。

 

「しかし、どーなっている。ここんとこ、俺が知る光景と行動が全然ならないぞ」

 

「は?なにを言っているのよ」

 

「いや、こっちの話しだ」

 

ランサーは途端に笑みを浮かべた。その笑みにアーニャは身の危険性を感じた。

 

「な、なに・・・・・?」

 

「ふふふ・・・・・まあ、俺が求めた展開になろうがならないが、

これだけは譲れないものがあるんだよなぁ~♪」

 

両手を背中に回したかと思えば、アーニャに見せびらかすようにある物を持っていた。

 

―――猫耳カチューシャ、フワフワモコモコの猫の尻尾、猫の肉球(手足)。

 

「―――――っ!?」

 

「俺、お前の猫モードが大好きでさ。是非とも、これらを装着してほしい!」

 

「へ、変態っ!あんた、変態だわ!」

 

「違う!俺は純粋に猫が大好きなだけだ!さっきお前が驚いた時の『にゃっ!?』って、

言葉・・・・・最高だったぜ」

 

親指を立てて「グッジョブ!」と称賛するランサーだったが、

アーニャはゾクゾクと悪寒を全身から感じた。

 

「さあ・・・・・これを付けてもらおうか。

なんなら・・・・・尻尾を俺が直々に付けてもいいぞ?」

 

「い―――」

 

迫りくるランサー。とてつもない威圧感と恐怖でアーニャは脱兎の如くノーグの森を抜けようと

逃走を開始し悟った。こいつ、あのイッセーとやらより色々な意味で怖ろしい存在だと。

 

「いやあああああああああああああああああああああああああああああっ!」

 

ノーグの森から悲鳴が上がった。

だがしかし、既に合宿所に戻っていた一誠たちの耳に届かなかった。

背後から「フハハハハハッ!待ってくれ、俺の小猫ちゃ~んっ!」と追いかけてくる

ランサーの欲望の餌食となるのはもう時間の問題であった。

 

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