一誠の竜騎士物語   作:ダーク・シリウス

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Episode13

「ふう・・・・・結局、大した収穫はなかったわね」

 

「そう?個人的に色々と収穫はあったけど。竜の化石とか」

 

右手には懐中竜華灯、左手には霊廟内部の地図を携え、アンジェラは溜息を吐いた。

隣には合宿所にいるはずの一誠がいた。アンジェラは一誠と、

泊まり込みでウィリンガム霊廟を探検していた。一応、座学の担当講師という名目で同行した

アンジェラだが、本来の目的は霊廟の調査だったのである。それくらいの見返りがなければ、

汗臭い強化合宿などにどうこうするはずもない。

その上、異世界の人型ドラゴンとこうして泊まり込みで接して調査する機会も

アンジェラにとっては万々歳もいいところだった。ウィリンガム霊廟に籠ってから、

かれこれ六日目になる。合宿の初日、アロンヌ湖畔に辿り着くなり、アンジェラは一誠を

誘っていそいそと足を運んだのだった。

 

「歴史的な価値は計り知れないけど・・・・・期待はずれだわ。それに比べて」

 

アンジェラは一誠を見詰めた。

 

「魔法で分身体を作れるなんて、こっちのほうがとても興味深いわ」

 

そう、アンジェラと共にいる一誠は分身なのだ。本体は今でもレベッカたちを鍛えている頃だ。

と分身の一誠はオリジナルの一誠と見えない何かと繋がっており状況が把握できるのだ。

そして、アンジェラと一誠がいる場所、ウィリンガム霊廟は、天然の洞窟を利用した墓所である。

さすがは二千年の歴史を誇る霊廟であって、内部は厳かな気配に満ちている。

途中、何度かドラゴンの化石に遭遇した。それには一誠は好奇心と歓喜が湧いた。

霊廟なので、どの遺骸もきちんと埋葬されているものと思いきや、例外もあるのだった。

その化石を仕舞には一誠が独自の力で採取したのだった。

 

「・・・・・あら?」

 

「どうした?」

 

出口を目指して、歩き出した矢先―――アンジェラはぴたりと足を止めた。目の前には、

見覚えのないY字路。普段は冷静なアンジェラだが、この時ばかりはサッと血の気が引いた。

 

「もしかして・・・・」

 

改めて地図を凝視する。現在位置だと思っていた地点とは、明らかに違う場所。

どうやら自分でも気付かぬうちに、道に迷っていたらしい。睡眠不足のせいで、

判断力が鈍っていたのかもしれない。

 

「迷子になったのか?」

 

「・・・・・」

 

冷や汗を浮かべ沈黙するアンジェラだった。その沈黙は是也。一誠は徐に溜息を吐いた。

 

「だから言っただろう。ちゃんと睡眠を取れって」

 

「うっ・・・・・」

 

どうやら、口酸っぱく言っていたらしい。

指摘されてアンジェラは何も言えず気まずい雰囲気になった。

 

「あなた・・・・・出口の道は分かるかしら?」

 

恐る恐ると一誠に訊けば、首を縦に振られた。それには安堵で胸を撫で下ろすアンジェラ。

彼を誘って良かったと心から自分の行動に称賛した。

 

「ここで休憩でもするか」

 

「ええ、そうね・・・・・」

 

背負っていた荷物を床に下ろすアンジェラに、一誠は岩壁に背中を預けた。

すると、アンジェラが一誠に近づき、背中を向けると一誠の身体に寄り掛かるように預けた。

 

「おい?」

 

「洞窟にいると、人肌が恋しく感じることもあるのよ」

 

妖艶な笑みを一誠に覗かせる。だが、どこか寂しげな色も浮かんでいた。

一誠はアンジェラを自分の方へ向かせて背中に腕を回して、抱きしめた。

 

「・・・・・え?」

 

「これで、人肌が感じるだろう?」

 

「・・・・・っ」

 

不覚にもドキリと心臓の鼓動が高鳴った。

そんなアンジェラを露知らず一誠はアンジェラの頭にも腕を回して撫で始める。

これでは・・・・・まるで恋人のような扱い方じゃないの・・・・・。

まさか、自分の発言でこうなるとは思いもしなかった。だが・・・・・不思議と悪くなかった。

例え、相手が人型のドラゴンといえども、見た目は人間なのだ。

幼竜エーコのような角も生えていない。

アンジェラは何時しか睡魔が襲ってこのまま一誠に抱きしめならが寝る―――。

 

―――かちり。

 

刹那、自然界にはあり得ない音が聞こえた。

 

「・・・・・はっ?」

 

と同時に一誠の背中が触れた壁が、ずずずずず・・・・・と地鳴りのような音を立てて、

移動したのである。

 

「なっ・・・・・なんなの?」

 

一誠が振り返ると同時に、アンジェラは当惑に声を漏らす。ただの岩壁だったはずの場所に、

長方形の穴がぽっかりと空いている。穴の向こうは隠し通路になっているらしく、

最奥まで見渡すことはできない。

二人は互いの顔を見つめあう。

 

「もしかして・・・・・竜族が設計した仕掛けかしら?」

 

「多分、そうかもしれないな」

 

詳細は不明だが、二人がもたれかかったことで、その仕掛けが発動したのは確かだった。

傍目には天然の壁しか見えなかったのだが・・・・・。アンジェラは歓喜の声を上げた。

 

「こんな仕掛けがあったなんて、世紀の大発見よ!」

 

アンジェラは懐中竜華灯を掲げると、一目散に隠し通路に足を踏み入れた。

 

「おい、俺と荷物置いて行くな」

 

 

 

 

「素晴らしいわ・・・・・!」

 

「おお・・・・・!」

 

隠し通路の終点に辿り着くなり、アンジェラと一誠は感極まって声を上げた。

そこは、およそ霊廟という場所には不似合いな空間だった。広さは学院の教室ぐらいだろうか。

岩をくり抜いて作った空間には、本棚や机、そしてソファなど置かれているのだ。

床には幾何学模様が描かれた絨毯が敷かれており、優雅な雰囲気を感じさせる。

天井に懐中竜華灯を向けた途端、アンジェラは瞠目した。

 

「あれは・・・・・」

 

なんと、天井には絢爛たる意匠を施されたシャンデリアがつるされているのだ。

さも当然のように、竜綺華晶を内蔵した竜華灯である。盗堀業者が見つけたなら、

真っ先に持ち帰っていただろう。

 

「辺りを照らすぞ」

 

一誠が言うなり、魔方陣を展開して、幾つものの眩い光の球体を出して暗い空間に浮かすことで、

懐中竜華灯が不必要なぐらいの明るさを確保する。たちまち輝かしい光輝が室内を照らす。

おかげで、部屋の隅々まで観察できるようになった。

 

「この絨毯・・・・・間違いなく、竜族の作品ね。このデザインは、

竜族の間で千年くらい前に流行った様式だわ。他の家具も、竜族が好むデザインだし・・・・・」

 

「へぇ、そうなのか?」

 

製作者(クラフト・ワーカー)としての側面を持つ竜族は、

独自の美的感覚を備えている。人間の創作物とは明らかに一線を画していた。

 

「いろんな本があるな・・・・・誰の物でもないのならば、何冊か貰って読んでみたいぞ」

 

「やっぱり、興味あるのね?でも一体・・・・・竜族はなんのために、

こんな部屋を作ったのかしら?」

 

「ん?あそこに本があるぞ」

 

一誠の指摘にアンジェラはとある机に視線を向けた。

アンティーク調の机には、大きな書物が置かれている。

あたかもその書物こそがこの部屋の主役であるとばかりに、物々しい雰囲気を放っていた。

 

「もしかして・・・・・この本を人類に託すため・・・・・?」

 

「そもそもだ、アンジェラ」

 

「なに?」

 

アンジェラはいきなり一誠から疑問をぶつけられた。

 

「古の竜族って一体どんな姿をしていたんだ?」

 

「・・・・・」

 

「もしかして、幼竜エーコのような姿をしていたんじゃないか?」

 

まさか、と一誠の話を一蹴・・・・・できずにいた。確かに言われれば、

古の竜族は一体どんな姿をしていたのか現代のアルク=ストラーダ大陸に存在する全人類には

知る由もないはずだ。

 

「ここが竜族の隠し部屋と言うなら、俺みたいに竜化したり人化したりできたはずだ。

じゃなきゃ、あの大きな身体であの狭い隠し通路やこんな人類が当然のように作っている

ソファや絨毯、シャンデリアを創作できるはずがない」

 

「―――――っ!?」

 

「そこに、古の人間も関わっていただろうが竜族も間違いなく関わっているはずだ。

まあ、俺の予測だがな」

 

一誠は机にある書物を手に取った。やたらと豪華な総丁が印象的で、ずしりと重い。

まるで百科事典のようだと思った。拍子に刻まれた古代文字を一瞥するない、一誠は呟いた。

 

「分からん・・・・・アンジェラ、読めるか?」

 

書物の古代文字を見せられた途端、アンジェラは叫んだ。

 

「・・・・・これはまさか・・・・・『旧約星書』・・・・・!?」

 

驚きのあまり、眼鏡がずり落ちた。

シェブロン王国とロートレアモン騎士国の国教は、ロサ・マリア教である。

その教義が記されているのが、一般に『星書』と呼ばれている聖典だ。

そこには聖女ロサ・マリアと、その飼い竜(パル)であったエーコの生涯がつづられている。

信者はロサ・マリアとエーコの生き様を通して、教義を学ぶわけである。

アッシュが自分のパルに「エーコ」と名付けたのは、この『星書』に由来する。

ちなみに、『星書』には「旧約」と「新約」の二種類が存在すると言われているが、

ロサ・マリア教の総本山たるエスパーダ聖庁が認めているのは、新約のみである。

旧約については、大昔に禁書に指定されたはず・・・・・。アンジェラは興奮気味に、

ページを捲った。ほとんど無意識に、序盤の文章を読み上げる。

 

「・・・・・賢竜王インボルクから分かたれし、大いなる血統がふたつ。アヴァロン聖竜皇家と、

ネハレンニア冥竜王家。両家による果てしない戦い―――」

 

「賢竜王インボルク・・・・・?アヴァロン聖竜皇家とネハレンニア冥竜王家?」

 

一誠の呟きを流し、アンジェラは首を捻った。

 

「これって、もしかして・・・・・古王国(ゾノ・トーン)次代の出来事かしら・・・・・?

まるでおとぎ話みたいだけど・・・・・」

 

アンジェラの疑問に答えるように、突如、何者かの声が降って湧いた。

 

「いや、現実に起こった出来事だ」

 

「―――っ!」

 

アンジェラは『旧約星書』を抱き抱えると、

同時に一誠がアンジェラの前に立って第三者に警戒すると、突然の闖入者を冷たく見据えた。

 

「盗掘業者・・・・・には見えないわね」

 

「遥かな太古、このアルク=ストラーダ大陸に

ゾノトーン文明が発祥した頃・・・・・賢竜王インボルクの血統を受け継いだ両家は、

血で血を争う抗争に明け暮れたのだ」

 

意味深な言葉を告げたのは、長身痩躯の男だった。一番の特徴は、銀色の仮面だろう。

目元を完全に覆い隠しているので、表情を読み取りにくい。髪は赤と白のメッシュで、

禍々しい雰囲気を放っている。旅の傭兵じみた服装をしているが、

そんな身なりとは不釣り合いなほど、不思議な気品を感じさせる男だった。

男の背後には、小麦色の肌をした少女がひっそりと控えている。

可愛らしいと言っても良い顔立ちながら、意志の強そうな目をしていた。

少女の華奢な身体を包んでいるのは、山岳民族(タンタロス)の軽装である。

左腕の籠手が特徴的で、恐らくは武器を仕込んでいるのだろう。

 

「ん?あの女の子・・・・・」

 

脳裏に真っ先に思い浮かんだ『断罪アヴドーチャ』の容姿。

身長もそれなりに同じで肌や髪の色、瞳の色もアヴドーチャと酷似していた。

 

「こんな遺跡に、何の用だ?」

 

一誠は努めて冷静で闖入者たちに問うた。

対して闖入者は一誠をマジマジと興味深そうに見ていた。

 

「キミがイッセー・D・スカーレットと言う少年かね?」

 

「へぇ、俺のこと知っているんだ?俺自身、そんな注目を浴びるようなことをしていないんだけどな」

 

自嘲的な笑みを闖入者に浮かる。

 

「なるほど・・・・・確かにキミはドラゴンのようだ。幼竜エーコの同じ」

 

「俺とあんな奴と一緒にするな。不愉快だ」

 

嫌そうに眉間を寄せた。背中にドラゴンの翼、

腰辺りに真紅の尻尾を生やして何時でも戦える態勢に構える。

 

「くくくっ・・・・・・隠すまでもないというのかな?」

 

「人のこと言えないだろう?お前からも感じるぞ。

―――お前、その身体を乗っ取っているドラゴンなんだろう?」

 

「・・・・・」

 

一誠の指摘に、銀髪の男性は沈黙で貫いた。そのことにアンジェラと少女は目を見張った。

 

「ミルガウス様が・・・・・?」

 

ミルガウスと呼ばれた男性。

だが、ミルガウスと呼んだ少女は首を振って「嘘だ!」と一誠に叫んだ。

 

「信じる信じないのは勝手だ。だが、一つ聞いて良いか?

―――モルドレッドというドラゴンを探している。そのドラゴンの居場所、知らないか?」

 

「モルドレッド・・・・・どんな理由でそのドラゴンを?」

 

「教える義理はないな。知っているなら答えてもらうぞ」

 

「知らないといえば?」

 

ミルガウスの問いに一誠は、

 

「お前をとっ捕まえてやる」

 

ヒュンッ!と一誠の姿が消えた。次に姿を現したのは、ミルガウスの背後だった。

 

「速いっ!?」

 

少女が驚きながらも一誠を迎撃しようと鞭を振るった。

しかし、一誠の腕に灼熱の炎が発生して鞭を焼きつくした。

 

「にゃっ!?」

 

「お?以外と可愛い驚く声を発するんだな。アヴドーチャの妹ちゃん」

 

「・・・・・え?」

 

アヴドーチャの妹と言われ、少女は呆然とした。その隙に一誠はミルガウスに迫った。

だが、この世界の人間にしては有り得ないほどミルガウスは一誠の動きを身切っていた。

そのことに一誠は笑みを浮かべた。

 

「はっ、十分な証拠だな。俺の動きを見切ることができるのはよほどの実力者じゃないと

できないことだ。―――確証した。お前、モルドレッドだな?魂の状態だと聞いていたからな。

人に宿って乗っ取ることなんて俺の世界じゃ普通にあることだ」

 

「・・・・・」

 

ミルガウスはまたしても沈黙した。

 

「沈黙は是也だ。モルドレッド」

 

ようやくで会えた探し人もとい探し竜。一誠は嬉しく思い笑みを浮かべた。

虚空を歪ませて穴を広げると、その穴から神々しい輝きを発する大剣を取り出して、

ミルガウスに突き付けた。

 

「お前を捕まえることが俺の目的だ。―――俺と共に異世界に来てもらうぞ、モルドレッド?」

 

「それが、キミの目的か。イッセー・D・スカーレット・・・・・」

 

ミルガウスは笑みを浮かべた。対して一誠は頷いた。

 

「お前を必要としているんでな」

 

「私を必要だと?ふっ、面白いことを言う。だが、断わる!」

 

「言うと思ったよ。だが、なにがなんでもお前を捕まえるぞ!」

 

大剣を持った状態でミルガウスに飛び掛かる。ミルガウスは口の端を吊り上げて、

何かを床に叩きつけた。

その瞬間、一誠の視界は眩い光で奪われて一瞬だけ体の動きを止めてしまった。

 

「ちっ、逃がすか!」

 

一誠は動き出した。―――光が止む頃には・・・・・。

 

「・・・・・仕方ないな。こいつだけで勘弁してやるよ」

 

「・・・・・」

 

ドラゴンの尻尾でまるで蛇のように絡み締められている『少女』を見て一誠は嘆息した。

ミルガウスの姿は既に見当たらないでいた。

 

「なあ、アンジェラ」

 

「な、なにかしら?」

 

ドギマギするアンジェラ。目の前にドラゴンの翼と尾を生やしている一誠にどうこうしたいと

好奇心が湧いて抑えていることろだった。そんな気持ちでいるアンジェラを余所に

一誠は人差し指を立てた。

 

「ここにある物、店で飾ってみたいんだけど。持ち帰って良い?」

 

―――○♢○―――

 

「んじゃ、今日はここまで」

 

「「「「あ、ありがとう・・・・・・ございました・・・・・」」」」

 

今日もレベッカたちは一誠に鍛えれていた。

レベッカたちのパルもかなり疲弊していて身体中生傷が絶えなかった。

 

「イッセー、もう少しだけ、手加減してくれはしないか?」

 

「無理だ。というかドラゴンに騎乗するお前らは体力がなさ過ぎる!

貴族だからって体力がないとこの先やっていけないぞ!特にランスロットとアグラヴェイン!」

 

「ぐるっ!?」

 

「ぐるるっ!?」

 

シルヴィアとラーズのパルに叱咤するとランスロットとアグラヴェインは

一誠の怒声にビクッとした。

もうすっかり一誠に怖がっている。傍から見ればドラゴンを叱っている人間にしか見えないが、

その事実はドラゴンがドラゴンを叱っている。

 

「まだまだ成長期なんだ。もっと体力をつけろ。竜舎で閉じこもっているならば、動け」

 

「いや、イッセー。パルは竜舎にいなければいけない規則があるんだが・・・・・」

 

「だったら竜舎からでなければいいんだろう?」

 

「というと?」

 

「帰ったら竜舎を改造してやる」

 

不敵に笑みを浮かべる一誠。神聖な場所でもある第七竜舎は一体どんな形で改造されるのか、

興味と不安が混じりながら一誠を見詰める面々だった。

 

―――○♢○―――

 

夕刻。食事を済ませ、合宿所のとある一室で独り言を呟いていた。

呟きは、部屋の扉を叩く音で中断せざるを得なくなり、

扉によって来訪者を出迎えるために扉を開け放てば、一誠の視界にレベッカが佇んでいた。

 

「レベッカ?」

 

「ちょっといいかな?」

 

どうやら話をしに来たらしい。一誠は拒否することもなく部屋の中に招き入れた。

 

「珍しいな。俺んところに来るなんて」

 

「イッセーとは一度二人きりで話したかったんだ。

食堂にもイッセーがいたが、キミは分身の方かい?」

 

「いや、オリジナルだ」

 

ベッドの縁に腰掛けると、レベッカも一誠の隣に座りこんだ。

 

「さきほど、誰かと話しをしていたような声をしたんだが」

 

「分身とだ。分身は護衛に兼ねてアンジェラとウィリンガム霊廟の内部を探検していたからな」

 

「それで、様子は?」

 

「収穫はあった。特に屍灰竜(ネクロマンシア)の襲撃に関わっている犯人を捕まえたぞ」

 

レベッカの目が見開いた。

まさか、聖ダーラム広場に現れた屍灰竜(ネクロマンシア)の元凶ともいえる犯人が

ウィリンガム霊廟に現れるとは露にも思わなかっただろう。

 

「だが、本当の元凶は逃走してしまった。いま、共犯者を尋問しているところだ」

 

「・・・・・となると、元凶はこの合宿所の周囲にいるというわけか」

 

「多分な。警戒する越したことはない。アンジェラから離れるわけにもいかないし、

もう一人分身を向かわせるか」

 

虚空に穴を広げ、その中から金色の軍杖を手にすると、一誠は呪文を呟き始める。

その時、一誠の隣でフッともう一人の一誠が出現した。

 

「ウィリンガム霊廟内部にいる分身と合流してくれ」

 

「了解」

 

一誠が指示し、分身の一誠は窓から飛び出して目的地に向かった。

 

「間近で見ると、異世界の魔法は凄いな。私も使えるかな?」

 

「魔力があれば案外使えるんじゃないか?その変わり聖騎甲(アーク)が解除しそうだがな」

 

「魔力の消費が凄まじいのか・・・・・」

 

顎に手をやってレベッカは考える仕草をするが、一誠は説明口調で言った。

 

「いや、そうでもない。聖騎甲(アーク)に蓄積されている魔力ポイントが10だとして、

分身を作る際に必要な魔力ポイントは精々、2か3だ。

そうなると残りの魔力ポイントは8か7ポイントだけなる。

聖騎甲(アーク)の魔装が5ポイントだと残りのポイントは3か2だ。

そうなると聖騎甲(アーク)を維持する時間が極端に減る。

ようは戦い方によって状況を変えることができるわけだ」

 

「・・・・・なるほど。分かりやすい説明だ。

因みにクー・フリンの魔力を数字で例えるとどのぐらいだ?」

 

「大雑把で言えば・・・・・最高で100にして・・・・・うん、80と言ったところか。

ガラハッドだと100だな」

 

その例えに思わず苦笑を浮かべる。

 

「まあ、使えるかどうか分からないが後で教えてやるよ」

 

「うむ、ありがとう・・・・・ん?」

 

レベッカの視界に一誠の右手の甲に刻まれた文字が入った。その文字が気になり、

一誠の右手を掴んでみると凝視した。

 

「イッセー、これはなんだ?火傷ではなさそうだが・・・・・」

 

「これか。これは―――」

 

―――ばたん!

 

右手の甲のことを説明しようと口を開いた時、扉が激しく開け放たれた。

部屋に飛び込んできたのは、アッシュだった。よほど慌てて走ってきたのか、

夏用の制服がじっとりと汗ばんでいる。

 

「た、大変だ!」

 

その時、アッシュの目に飛び込んできたのは―――ベッドの縁に座りこんで、

一誠の手を取り互いの顔が近いレベッカと一誠の光景だった。窓から夕日の光が差し、

二人の真紅の髪がその光に包まれ精彩を放つ。

部屋の雰囲気も二人だけの空間で展開されていてアッシュは物凄く居心地が悪くなった。

まるで、これから愛を育もうとしている男女の部屋に突入してしまった瞬間。

 

「えっと・・・・・お邪魔しました」

 

今さらながら遅いと思いつつも、扉を閉めようと矢先。

 

「なにを勘違いしているんだ。それで何が大変なんだ?」

 

「そ、そうだ!空を見てくれ!」

 

「空・・・・・?」

 

レベッカが顔を窓に向けた。一誠も釣られて窓に目をやる。

夕空は―――黒雲によって覆い隠されようとしていた。

 

―――○♢○―――

 

―――時間は少し遡。る丘の頂上から、ミルガウスはちっぽけな世界を見下ろしていた。

真下には霊廟の入口が見える。視線を遠くに向けると、ノーグの森とアロンヌ湖畔。

そして、合宿所の建物―――。アロンヌ湖畔では夕空に覆われているように

夕日の光で照らされている。足元には、棺を思わせる匣が置かれている。

ミルガウスがその蓋を開くと、漆黒の巨剣が姿を現した。

この巨剣は、屍灰竜(ネクロマンシア)の召喚装置。帝国が誇る機械工学と、竜族が培ってきた魔導を

融合させた学術体系―――魔導工学(マギカ・テクニカ)の産物である・ミルガウスが本国に帰還した際、

装置には改良が施された。以前は工芸品のような趣を感じさせた巨剣は、より妖しく、

より禍々しく、より機械的な雰囲気を強めている。柄にはめこまれた竜綺華晶の数も、

大幅に増えていた。真紅の大粒が、全部で九つ。小粒の結晶は優に二十を超える。

宝石として売り払えば莫大な富になるだろうが、ミルガウスにとっては道具でしか無い。

そんな巨剣を軽々と持ち上げると、ミルガウスは足元の岩場に突き刺した。霊廟内部に直接、

魔力を送りこむためである。竜の顎門を思わせる巨剣は、ずしりと重苦しい音を発すると、

岩に深々とめり込んだ。

 

「まるで墓標だな」

 

なにげなく独り言を漏らした。ミルガウスは巨剣の柄を握りしめると、呪文の詠唱を始めた。

 

「灰から灰へ、塵は塵へ、出でよ、魔導工学(マギカ・テクニカ)の申し子よ。

幼くして身罷りし竜族の御霊を今、甦らせよ―――」

 

刹那、柄に嵌めこまれた竜綺華晶が禍々しい輝きを発した。

 

「イッセー・D・スカーレット・・・・・」

 

カッ!とミルガウスの目が煌めいた。そして、天に向かって咆えた。

 

「―――私のアーニャちゃんを奪ったその罪、万死に値するぅぅぅぅっ!」

 

――○♢○―――

 

打ち上げパーティーが始まろうとしたその直後。夕空が黒雲に覆われ紫電が迸る。

その光景に学院の生徒たちは緊張感を覚えた。ただの雷雲ではないと否が応でも認知する。

 

「似ているな・・・・・あの時と」

 

「では、やはり・・・・・」

 

「まず間違いないと思うぞ。あの野郎、屍灰竜(ネクロマンシア)を召喚しやがった。

しかも今度は霊廟に眠るドラゴンたちだろう」

 

合宿所の一室で一誠とレベッカは警戒の色を浮かべて言葉を交わす。

 

「すぐに迎撃の準備を!」

 

「いや、迎撃は俺のドラゴンたちだけで十分だ」

 

レベッカの提案に即座に否定した。

 

「何故だ?イッセーの言うことが本当ならば、

霊廟に眠る幼竜たちの数は十体や五十体では済まさないんだぞ」

 

「おいおい、レベッカ。今までお前たちが相手にしていたのは

一体どんなドラゴンなのか忘れたのか?」

 

「―――――っ」

 

言われてハッと思い出した。一誠のドラゴンは―――異世界のドラゴン。

 

「生徒全員を建物の中に避難させてくれ。巻き込まれないためにもだ」

 

それだけ言い残して窓から飛び降りた。

 

「ガイア!オーフィス!ヴァーリ!ルクシャナ!龍牙!」

 

大声で呼ぶ。すると、どこからともなく呼ばれた五人が姿を現す。

 

「ちっちゃい敵がかなりの数で来る。ここを守るぞ」

 

一誠がそう言うと、ガイアが不敵の笑みを浮かべる。

 

「ふっ、ならば我らの力を見せ付けてやろうではないか」

 

ガイアに続いてオーフィスたちも言う。

 

「我、頑張る」

 

「久々に動くとしようか」

 

「そうね。ここのところ戦闘なんてしていないし、張り切るわよ!」

 

「同感です。久々にいきますよ」

 

意気込む五人。その間にも陸路から、水路から、空路から―――三方向から攻めてくる屍灰竜(ネクロマンシア)

 

「出でよ、我が家族たちよ」

 

上空に様々な色で十数の巨大な魔方陣が出現した。

 

「お前ら、久々に暴れて良いぞ。森を焼き払っても問題ない。目の前の敵を―――殺しつくせ」

 

淡々と冷酷なことを言う一誠に呼応して魔方陣から、

異世界のドラゴンたちが咆哮を暗雲に向かって発しながら姿を現す。

 

『グハハハハハハッ!これだよこれ!俺が望んでいた戦いだぁっ!』

 

『私はこの建物の守備をしましょう』

 

『くくく、ゾンビもどきの幼竜か。相手にとって不足だが暇つぶしにはなろう』

 

『いっぱい、倒しちゃうぞー!』

 

嬉々として戦いを楽しもうとする異世界のドラゴンたち。

 

「「禁手(バランス・ブレイカー)!」」

 

ヴァーリと龍牙が強く発した瞬間。全身を包む魔力のオーラが次第に鎧へと具現化し、

龍を模した白い全身鎧と金色の鎧を纏った。

 

『我も動くとしよう』

 

ガイアも真紅のドラゴンへと変化する。オーフィスは一誠の肩に乗って準備万端だ。

 

「さぁーて、どっからでも掛かってきなさい」

 

何時の間にか方天画戟を手にしていたルクシャナが不敵に発する。―――その時だった。

 

「待って!」

 

一誠たちの後ろから、駆けてくる少女たち。ルッカとキーラだ。

 

「キーラとルッカ?」

 

「待って、ガレスがいないの・・・・・きっとウィリンガム霊廟にいるのかもしれない。

あそこは幼竜のために埋葬地で・・・・・ガレスもまだ、幼年期」

 

「・・・・・」

 

「お願い、ガレスのところに行きたい。どのドラゴンでもいいから、

ウィリンガム霊廟に連れて行って」

 

ルッカの切なる思いに、一誠は肯定と首を縦に振った。

 

「分かった。だったら俺の背中に乗れ。こいつらは―――」

 

刹那、三頭龍が口内から極太の光の柱を放った。少しして、空から大爆発が生じた。

 

「これから忙しくなるからな」

 

真紅の光に包まれ、光が大きくなるにつれ一誠はドラゴンへと変化する。

光が消失すれば、真紅のドラゴンが姿を現す。

 

『乗れ』

 

差し出された手をルッカとキーラは乗り出した。

 

「待て、私も行くぞ!」

 

「私もよ!」

 

ルッカとキーラに続いて、シルヴィアとラーズまでもが現れて一誠の巨大な手に乗り出した。

 

「当然、私もよ!」

 

「ちょ、待てってエーコ!」

 

『・・・・・ずいぶんと客が多いな』

 

アッシュとエーコまでもが現れた。しょうがないと思ったのか、

全員を背中に乗せて翼を羽ばたかす。

 

『ラードゥン。建物に結界をよろしくな。

それと湖にいる味方のドラゴンにも被害が出ないように結界をよろしく』

 

『ええ、承知しました。兵藤一誠、頑張ってください』

 

木のドラゴンの言葉を訊きながらウィリンガム霊廟に飛翔する。

 

『ガレスを探しつつ、屍灰竜(ネクロマンシア)の召喚の元凶者を叩き潰す。今回の作戦はこれだ』

 

「ああ、勿論だ。お前たちに鍛えてもらったランスロットの力を発揮する良い機会だ」

 

「アグラヴェインも後で召喚するわ」

 

「ガウェインもだ!」

 

聖竜(マエストロ)をパルとするシルヴィア、ラーズ、キーラが戦闘に参加すると述べる。

 

―――○♢○―――

 

合宿所からウィリンガム霊廟まで、徒歩だと一時間は要するが、

ドラゴンならばひとっ飛びである。

―――まさか、予想外なことが起きたな。だが、ガレスの奴の気はまだある。

俺の指示通りに動いているな。

暗雲漂う空の下で飛翔する一誠はガレスの行動を認知している。それは当然だろう。

事前に一誠がここに向かうように指示を出していたのだからやがて、

壁のようにそそり立つ丘陵が見えてくる。

 

「あれが、ウィリンガム霊廟の入口だな」

 

一誠の背中から覗きこむ形でシルヴィアが呟いた。シルヴィアの言う通り、

丘陵の中央辺りには、入口らしき建造物が見える。周囲はすっかり夕闇に覆われているが、

神殿じみた門構えには竜華灯が設置されていて、入り口周辺をほのかに照らし出していた。

 

『入口が小さい。今の姿の俺では入れない。元の姿に戻って中に入る』

 

「分かった。この先は私のランスロットで移動しよう」

 

『前衛は俺が務める。大方、あの中には屍灰竜(ネクロマンシア)でうじゃうじゃいそうだしな』

 

一誠はそう言いながら、ウィリンガム霊廟の入口へ急降下を開始する―――。

 

―――○♢○―――

 

「こ、こんな洞窟の中に・・・・・アンジェラ先生は入って行ったのか?」

 

一誠から降りたシルヴィアは、ウィリンガム霊廟の入り口を覗き込むなり、及び腰になった。

霊廟がこれほど不気味な雰囲気を醸し出しているとは、創造の他だったのだろう。

昼間ならともかく。夜が近づいていることも災いした。夕闇に覆われた入口は、

まるで冥府に続く門のようにも見える。一応、竜華灯が入口から広場に掛けて、

ほんのりと照らして入るのだが、気休めにもならないようだ。

 

「ガレス・・・・・」

 

ずっと不安げな顔をしているルッカの頭にキーラは優しく手を置いた。

 

「大丈夫だ、なにがなんでも私たちでガレスを探しだそう」

 

「キーラ・・・・・うん・・・・・」

 

ルッカは弱弱しく頷いたその時、黄昏の空に閃光が走った。一瞬遅れて、

耳をつんざくような轟音が続く。

 

「きゃあああっ!」

 

真っ先に悲鳴を上げたのは、シルヴィアだった。誰かに縋ろうとシルヴィアは、

恐怖のあまりにギュッと元の姿に戻っている一誠の右腕に抱きついた。さらにその直後、

今度は地面が鳴動した。激しい縦揺れだが、一誠は踏み留まった。

だが、女性陣はそうもいられなかった。シルヴィアを抱き締めて、背中に金色の翼を展開したかと

思えば、女性陣(エーコを除く)たちの身体を包みこんで自身が収まるまで宙に持ち上げた。

それからしばらく経った頃、地震は収まって女性陣たちを解放した。

 

「大丈夫か?」

 

「う、うむ・・・・・すまなかった」

 

一誠に抱きついたことがよほど恥ずかしかったのか、顔が朱に染まっていた。

 

「・・・・・まさか、ね?」

 

シルヴィアの表情を見てラーズは有り得ないと首を横に振った。

 

「ふしゅう・・・・・」

 

不気味な吐息が聞こえた。ひとつ、またひとつと・・・・・霊廟の奥の暗闇に、

禍々しい光点が芽生えていく。明らかに人間の気配ではない。ドラゴンのようでもあるが、

竜族に特有の聖性とは無縁である。

 

屍灰竜(ネクロマンシア)―――!」

 

エーコが叫んだ瞬間。霊廟の入口に向かって光の柱が吸い込まれていくように消えていった。

 

「一掃終わりっと」

 

自分がやったとばかりに周囲の視線を集める。手を前方に突き出している状態の一誠がいた。

 

「今のはお前が・・・・・?」

 

「シルヴィア、早くランスロットを召喚しろ。お前らの敵は俺が全て屠る」

 

真っ直ぐに、霊廟の入り口を睥睨している一誠が言うと、

その指示に従いシルヴィアはランスロットの召喚の準備に入った。

ラーズもキーラもパルを召喚する。

 

「あれは・・・・・!」

 

アッシュは絶句した。地竜(アーシア)型の第二陣が、ぞろぞろと姿を現したのだ。今度は六体。

 

「おい、そんな数で挑もうってのかよ?」

 

一誠の両手に魔力で構築され具現化した光の双剣が握られている。

その光の剣を交差するように振るうと、X字の光の斬撃が放たれ、六体が一瞬で消失した。

 

「つ、強い・・・・・!」

 

一誠のあっという間な戦いぶりに一誠を除く面々が舌を巻いた。

これで本気でもないと言うならば、一誠はどれだけ強いのか計り知れない。

 

「ほら、行くぞ。このまま霊廟に突入する」

 

―――○♢○―――

 

ノーグの森及び、アロンヌ湖畔は戦場と化となっていた。森林一帯は炎で燃え盛り、

湖は荒れ狂って何度も水飛沫を上げる。その原因を作っているのが―――一誠パルたち、

異世界のドラゴンたちだ。

 

『グハハハハハハッ!グハハハハハハハハハッ!』

 

陸路から攻めてくる地竜(アーシア)にグレンデルが絶え間なく哄笑を上げて、

巨大な足で踏みつぶし続けている。たまに拳で潰したり、

野太い尻尾で薙ぎ払ったりと今の状況に心から楽しんでいるようにも見える。

 

轟ッ!

 

何度も膨張させた腹から連続で巨大な火炎球が吐きだされ、ノーグの森が瞬く間に燃え広がる。

屍灰竜(ネクロマンシア)地竜(アーシア)ごと焼き払うその所業はまさに狂気ともいえる。

 

水路では、ティアマットが水竜(ハイドラ)と相手をしている。

湖の水が水飛沫を発生させているのは主にティアマットだ。

数十匹の屍灰竜(ネクロマンシア)水竜(ハイドラ)をアロンヌ湖の真上から攻撃をしている。

 

『やれやれ、討ち漏らした敵は私が相手をせねばならないとは』

 

ラードゥンは溜息を吐き。赤い目を煌めかすと討ち漏らした屍灰竜(ネクロマンシア)を球状の結界で

動きを封じ込め、圧縮に圧縮をして潰す。

 

空路から攻めてくる翼竜(ストラーダ)は殆どの異世界のドラゴンが迎撃している。

数が圧倒的に有利だといえども、

 

『弱い、弱過ぎるぞ!』

 

『数だけ頼りの弱小ドラゴンどもが!』

 

『我らに勝てると思うなよ!』

 

異世界のドラゴンが一方的な攻撃、蹂躙で瞬く間に屠っていく。触手で拘束しようにも、

巨大な体と力の前に無力と化とされ、魔力での攻撃をしても、

強硬な鱗に大したダメージを与えず、逆に攻撃を仕掛けた屍灰竜(ネクロマンシア)が屠られる。

ヴァーリ、龍牙、ルクシャナはそれぞれ陸路、水路、空路に別れて異世界のドラゴンたちと

戦っている。そんなラードゥンの張った結界の内側からレベッカが目に焼き付けんばかり、

戦いを何時までも見ていた。

 

―――○♢○―――

 

一誠の金色の翼が神々しい輝きの光を放っている。

おかげで、アッシュたちは懐中竜華灯を使うことなく、洞窟内部を探索することができた。

狭い通路に、ランスロット、アグラヴェイン、ガウェインが高速で移動する。

 

「きしゃああああっ!」

 

三体の屍灰竜(ネクロマンシア)が、前方から襲いかかってきた。翼竜(ストラーダ)だった。ドラゴンというよりは、蝙蝠に似ていた。生前は誇り高き竜族でも、ああなってしまっては、

薄気味の悪い飛行生物でしか無い。

 

ザンッ!

 

一誠がスピードを上げて屍灰竜(ネクロマンシア)たちと擦れ違う。

その一瞬で幾重の光の斬撃を刻まれた屍灰竜(ネクロマンシア)たちは灰と化となった。

 

「イッセーにとって当たり前のことなんだろうけど、私たちから見れば感嘆の念を抱くわ」

 

「切った瞬間が見えない・・・・・・」

 

「それにしても、アンジェラ先生は避難したのだろうか・・・・・屍灰竜(ネクロマンシア)

襲われていなければよいのだが」

 

霊廟の地図と睨めっこを続けながら、シルヴィアは嘆息した。

 

「ガレスも見当たらないしな・・・・・ルッカは何か感じないか?」

 

「駄目・・・・・星精路(アストラル・フロウ)が閉ざされていて、〈星刻〉は反応してくれない」

 

ルッカが何も感じないのであれば、洞窟内部を隅から隅まで探索するしかない。

気の遠くなりそうな話だが、今は一刻の猶予を争う。

 

「んっ・・・・・?」

 

急に視界が開けたので、一誠はランスロットたちを停止させた。

屍灰竜(ネクロマンシア)の気配は感じない。一誠の翼が輝きを増して、

やたらと広大な空洞を照らしだす。シルヴィアは右手で手綱を握ったまま、

左手で持った地図を確認した。

 

「ふむ。地図によれば、ここが霊廟の中心部らしいな」

 

「中心部か・・・・・・」

 

一誠は空洞の周囲をあちこち眺めている。

広さは学院の行動に匹敵するだろう天井がやたらと高く、十五メートルはあるかと思わされた。

翼十字(ウイング・クロス)を象った墓石が、地面のあちこちに突き刺さっている。どの墓石の高

さも優に五メートルを超えているが、中央に屹立する翼十字(ウイング・ドラゴン)に至っては、

破格の大きさを誇っている。その先端には、天井にも届きそうなほどだ。

特別なドラゴンが埋葬されているのだろうか。

 

「―――あ」

 

ルッカがその中央に屹立する墓石の傍でひれ伏す形で寝転がっている一匹の翼竜(ストラーダ)を見つけた。

 

「ガレス―――!」

 

そう言いながらガウェインから飛び降りて翼竜(ストラーダ)へ駆け寄った。

その様子にシルヴィアは安堵で胸を撫で下ろした。

 

「これで安心したな。やはりガレスはここにいたのか」

 

「この霊廟と幼竜は深い関わりがあるからガレスもまたここに・・・・・・」

 

「それじゃ、合宿所に帰りましょ?今頃、合宿所のほうは終わっている頃だと思うし」

 

ラーズは天井を見ながらそう促す。天井の一角には、まるで囲うのような穴が空いていて、

どんよりとした夜空が覗いている。暗黒の空のままだった。空が晴れてさえいれば、

月明かりが霊廟内に差し込んで、幻想的な雰囲気を醸し出していたところだろう。

 

「ぐるるるる・・・・・」

 

刹那、ランスロットが鎌首をもたげると、威嚇的な唸り声を洩らした。

アグラヴェインとガウェインもだ。

 

「どうした、ランスロット?」

 

「アグラヴェイン?」

 

「ガウェイン・・・・・・?」

 

怪訝に思い、シルヴィアたちが訊ねた矢先―――

 

「また会ったな、少年」

 

頭上から、男の声が降り注いだ。穴の縁に、長身痩躯の人影が現れたのだ。

 

「本当だな。ミルガウス―――いや、モルドレッド」

 

「モルドレッド・・・・・・!?」

 

一誠から告げられた名前にシルヴィアは目を張った。

ラーズも思い当るところがあるようで信じられないものを見る目で見た。

一誠の翼で頭上まで照らし出されていることで長身痩躯の人影がハッキリと浮かび上がっている。

まさしく仮面の男の孤影だった。

 

「イッセー、それはどういうことだ・・・・・?あの男がモルドレッドなどと・・・・・」

 

「ん?モルドレッドを知っているのか?」

 

「・・・・・私とお姉様の実に兄だった人のパルの名前よ・・・・・」

 

ポツリとラーズが声のトーンを落として呟いた。

 

「あの男はミルガウスとお前が言った。だが、どうしてモルドレッドと呼び直した?

お前はどうしてモルドレッドの名を―――」

 

「ストップだ」

 

問い詰めてくるシルヴィアの言葉を遮った。

 

「その理由はこの騒動が終わってから必ず教える。

今はあいつを捕まえることが先決じゃないか?」

 

「・・・・・」

 

そう言われ、納得がいかないつつも、正論だと気持ちを切り替える。

その時、ミルガウスは喉の奥で笑った。

 

「なにがおかしい?」

 

「いや、なに。運命は皮肉なものだと思ってね。当代随一の武人、

あのヴェロニカ・ロートレアモンでさえ、竜飼い人(ブリーダー)には選ばれなかったと

いうのに・・・・・よりにもよって、最も臆病で甘えん坊だったお前と根暗で人見知りで

我儘だったお前が選ばれるとは」

 

「なん・・・・・だと?」

 

「なんですって・・・・・?」

 

知った風な口を利くミルガウスに、シルヴィアとラーズは妙な違和感を覚えた。

 

「へぇ、お前らの性格って実はそうだったんだ?」

 

意外だとばかりシルヴィアとラーズに訊ねるような口で聞いた。

対してシルヴィアとラーズは昔の性格を暴露されて慌てて訂正の言葉を一誠に投げた。

 

「ちょっ、イッセー。それは昔の話しよ!?今の私は根暗で人見知りで我儘じゃないわ!

勘違いしないで!」

 

「そ、そうだぞ!私はもう甘えん坊ではないし臆病でもないぞ!」

 

「いや、ラーズはまだ我儘だろう。シルヴィアに至っては雷で怖がっていたじゃないか。

―――くくっ、可愛かったな。無意識とはいえ、俺に抱きついてきたんだから」

 

「んなっ・・・・・!?」

 

ボンと一気に顔が朱に染まったシルヴィアだった。すると、ミルガウスが宮に微笑んだ。

それはまるで、我が子を見守る父親のように、穏やかな笑みに見えた。

 

「ほう・・・・・大きくなったと思えば、その男と親しそうじゃないか。シルヴィ、ラーズ」

 

「「なっ―――!」」

 

シルヴィアとラーズは戦慄した。特に世界広しといえども、

シルヴィアをそんな愛称で呼べる人物といえば、親類縁者に限られる。

なおかつ、その優雅な口調と、深みのある声音には。確かに覚えがあった。

 

―――お兄様!んもう、ジュリアスお兄様ったら!

 

―――ははっ。シルヴィは甘えん坊だな。

 

―――だって、お兄様ったら・・・・・グレン殿とばっかりお喋りして、

私にはちっとも構ってくれないんですもの!

 

幼い頃の情景が、脳裏にありありと甦る。だが、そんなはずがない。

―――竜殺し(ドラゴンスレイヤー)

ロートレアモン第一王女から第五王女の兄として存在していた一人の男はその罪を背負い、

処刑されたのだ。シルヴィアとラーズが五歳の時だった。ロートレアモン騎士国において、

竜族を手に掛けることは最大の禁忌とされている。騎士王家の王子とて、極刑は免れなかった。

ましてやシルヴィアとラーズの兄が殺害した相手は、

彼自身のパル―――聖竜(マエストロ)のモルドレッドだった。

兄は、ジュリアスはもう、この世にはいない。だが・・・・・そんな兄の面影を、

ミルガウスは確かに感じさせるのだった。と、ランスロットやアグラヴェイン、

ガウェインが再び唸り声を上げた。

 

「まさか・・・・・!」

 

シルヴィアも気付いた。地面がかすかに揺れているのだ。―――地面の下に、何かが潜んでいる。

 

「くくっ・・・・・お前たちがどこまで戦えるのか、見ものだな。あるいはそこの少年。

以前のように、また妙な術を使うか?」

 

「なんだと・・・・・?」

 

アッシュは訝しんだ。

 

「ミルガウスは屍灰竜(ネクロマンシア)の騒動を起こした元凶だ。

お前があの時の屍灰竜(ネクロマンシア)を撃退したところを見ていたんだろう」

 

唐突に一誠がそう言う。そう言うことならば納得だとアッシュは鋭くミルガウスに睨んだ。

 

「それとも、アヴァロンの皇女の力を借りずイッセー・D・スカーレットが一人で戦うか?」

 

「アヴァロン・・・・・?」

 

どうしてその名がいま挙がるのか、一誠は怪訝な面持ちとなった。

ミルガウスはハッキリ幼竜エーコに向かって言っている。

 

「いや、俺は戦わない。戦うとしたら―――お前だモルドレッド」

 

虚空に穴を開け、そこから金色の大剣を取り出してミルガウスに剣の切っ先を突き付けた。

 

「おや、キミが手っ取り早くこの場所に眠る幼竜、

生前は聖竜(マエストロ)だったドラゴンを倒した方がいいんじゃないかな?」

 

「お前と戦わせるのは荷が重すぎる」

 

フッと一誠はシルヴィアたちから姿を消し、あっという間にミルガウスの前に現れれば大剣を力強く振り下ろした。

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