一誠の竜騎士物語   作:ダーク・シリウス

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Episode16

巨蟹宮(キャンサー)の月、第十四日―――早朝。いよいよ、首都フォンティーンに旅立つ日である。

 

「こういう時に分身体は便利なんだよな。学期末考査を俺の分身が俺の代わりにしてくれるんだからな」

 

「あんた、そんなズルイ手で自分は楽になろうとしているわけね」

 

「状況に応じた臨機応変だと思うが?俺の力をどう使おうが俺の勝手だ。

しかし・・・・・アッシュとエーコの姿。見る限りに暑苦しい服だな」

 

「そう言うお前は、どうしてそんな服を着ているんだ。正装でいかないのか?」

 

アッシュの衣服は、胸の蝶ネクタイを首に巻き、フットマンと呼ばれる男性使用人の者だった。

しかも王宮仕様である。漆黒のドレスコートが、やたらと仰々しい雰囲気を感じさせた。

一方、エーコはメイド服を身に包んでいる。こちらも王宮使用である。

普段、コゼットが着用しているのと同じデザインだった。なまじプライドの高さが邪魔をして、

エーコ自身は不機嫌そうだった。

さて、対して一誠は黒いワイシャツに龍を象ったイラストがある赤のズボンを穿いていた。

とてもこれから王宮に赴くような感じではなかった。

もちろん、アッシュとエーコも、好きでこんな恰好をしているわけではない。

シルヴィアとラーズと一緒に首都フォンティーンに向かう道中、

街中で余計な噂が広まらぬように、との配慮である。

確かに、一国の王女が男子生徒と連れ立っていては、妙な噂が立ちかねない。

特に、新聞記者は王侯貴族の色沙汰を三度の飯より好むらしい。

アッシュとエーコが侍従に扮しているのは、そう言う理由だった。丁度その時だった。

予鈴が鳴った。寮を飛び出した生徒たちが、慌てて校舎に駆けこんでいく。

試験の当日ということもあり、危機迫る形相を浮かべていた。

 

・・・・・シャリッ

 

「って、リンゴを食べずに俺の質問に答えてくれよ」

 

「あっちで着替えるつもりだ」

 

一誠の言動にそれ以上何も言わなくなり沈黙が続く。未だに現れないシルヴィアとラーズ。

エーコが痺れを切らして、自分たちを待たしてシルヴィアとラーズが遅刻なんて無礼な奴!

とか、憤怒の形相で怒りを表す。

―――予鈴が鳴ってしばらく経った頃、ランスロットとアグラヴェインが優雅に着陸した。

ランスロットの背にはシルヴィアとコゼット、アグラヴェインの背にはラーズの姿があった。

 

「すまん、待たせたな」

 

「ごめんなさい、待ったかしら?」

 

金髪を結い上げ、騎士王家の紋章が入った騎竜服(ドラグスーツ)を纏ったシルヴィア、

銀髪の髪を三つ編みにして一本に束ね騎竜服(ドラグスーツ)を纏ったたラーズの姿は、

あたかも古代神話から飛び出してきたかのようだ。

 

「遅いわよ!大体、この衣装は何なの?

誇り高き竜族に召使の服を着せるなんて・・・・・心外だわ!」

 

ようやく来た二人にエーコは叫んだ時だった。

 

ガシッ!

 

「・・・・・へっ?」

 

『さっさと行くぞ』

 

何時の間にか竜と化となっていた一誠。エーコだけじゃなくアッシュを巨大な手で握り締める

感じで掴んだ。翼を羽ばたかせ、宙に浮く一誠に続き、ランスロットとアグラヴェインも浮く。

 

「それでは、出発しよう」

 

―――○♢○―――

 

蒼天に舞い上がったランスロット、アグラヴェイン、一誠を見上げていた者たちがいた。

 

「・・・・・原作だとフォンティーン城で大陸会議(エリュシオン)が始まる」

 

ギルフォード・ギルガメッシュが忌々しげに空の彼方へと飛翔する一誠を見詰める。

 

「あいつが原作キャラと深く関わっているから、

本来の歴史・・・・・原作通りに事が進まない」

 

「まったくだぜ。本来なら、大陸会議(エリュシオン)でアーニャが捕まるってはずだったのに

ウィリンガム霊廟の事件時に捕まるなんて早過ぎる」

 

「・・・・・誰もお前に同意を求めているわけではない。このロリコン」

 

「ふっ、自覚している」

 

ニヒルに笑むランサー。それからギルフォードに問うた。

 

「で、お前はどーすんの?俺は当然、原作通りとはいかないだろうが、

成り行きを見に行くつもりだぜ?ああ、そうだ!

俺がアーニャちゃんの代わりにエーコを誘拐してミルガウスに渡せばいいんだ!

ふふっ、アーニャちゃんの役を俺がやるなんて・・・・・感激だ・・・・・!」

 

「勝手に興奮して気持ち悪い奴だ」

 

ゴミを見るような目でランサーを一瞥して空を見上げる。

転生者だが、聖天竜騎士(アーク・ドラグナー)になっても騎士王家から招待状でも、

シルヴィアやラーズのような一国の王女、各国の王と共に今回の会議に参加できるコネや

人脈がない限り堂々とフォンティーン城に入ることはできない。

それ故に、いくらチートな能力を持っていようとも原作通りの流れに介入できないこともある。

それが今だ。

なのでギルフォードは騎竜学院に過ごし、

違うところで原作通りに進んでいることを知りながら待つしかないのである。

 

「・・・・・おい」

 

「なんだ?」

 

すでにランサーのパルを召喚して今にでも飛び立とうとしていたところだった。

ランサーに話しかけたギルフォードは苦虫を噛み潰したかのような気持ちで言った。

 

「俺もエーコ誘拐に協力する。ありがたく思え」

 

・・・・・・。

 

ギルフォードからの申し出。下心ありありな考えでランサーにそう申したギルフォードに

ランサーは、目をパチクリと唖然としていた。

 

「いや、協力なんていらないし。ありがたく思わないんだが?」

 

「い・い・か・ら!俺も手伝うと言っているんだ!」

 

魔方陣を展開してアーサーを召喚しだすギルフォードに、

ランサーは目が飛び出ばかりに抗議する。

 

「だから、チートな奴が二人もいらないだろう!

たかが誘拐に最強のチートな奴が二人もいるかよ!?」

 

「あの男がエーコの傍にいる限り簡単に誘拐できると思っているのか!?」

 

「ロリコン魂を舐めるなよ!言っておくが―――エーコも許容範囲だからな!」

 

「なん・・・・・だと・・・・・!?」

 

愕然とするランサーの好みの許容範囲。

 

―――○♢○―――

 

『暇だな、ここで鬼ごっこでもするか?』

 

「砂浜でランデブーならしたいわ」

 

「お前ら、何を言っているのだ!」

 

正午を過ぎ、いよいよ日差しが強くなった頃、そんな他愛のない雑談をする三人。

広大なフォンティニヤ平原の彼方に、フォンティーン城の先頭が見えてきたのだ。

その周囲をぐるりと囲む、市街地の景観も―――。

城を中心に、大都市が形成されている。街の上空には、警備のための竜騎士(ドラグナー)が何騎も飛び交っている。なんとなく、非日常的な物々しさを感じさせる。

そして、一誠の姿に気付いたようだ。当然であろう。ウルスラのガラハッドより何倍も巨大な

深紅のドラゴンを見逃すはずがない。あまりにも目立ち過ぎている。空中で隊列を整えると、

一誠に敬礼の姿勢となった。粛然として敬礼を続ける竜騎士(ドラグナー)たちに向け、

シルヴィアは朗々と応じた。

 

「大義である!」

 

それ以降、フォンティーン城まで護衛される一誠たち。

 

『俺が初めてこの国に来た時よりも警備が厳重だな』

 

「だろうな。大陸会議(エリュシオン)に備えて、警備が厳重になっているのだろう」

 

『未だに分からないなぁ。未来を左右する会議に俺たちを呼ぶ必要はないと思うんだがな。

そこはどう思う、シルヴィア?』

 

「すまぬ・・・・・父については、あまり語りたくない」

 

強烈な拒絶の意志を感じたので、一誠はラーズにも視線を向ければ、

ラーズも首を横に振られた。

なので、それ以上の追及をしなかった。

 

 

 

首都の中心部には、語だ¥階建てのフォンティーン城が堂々と聳え立っている。

質実剛健という表現がぴったりの、古めかしい城だった。玄関ホールにはメイドが勢揃いし、

第四王女、第五王女の到着を待ち受けていた。三十名はいるだろうか、

ずらりと左右に居並んで、シルヴィアとラーズに深々とお辞儀をする。

 

「お帰りなさいませ、姫様方。騎士王(パラディン)がお待ちです」

 

使用人の代表として、シルヴィアとラーズの前に進み出たのは、眼鏡を掛けたメイドだった。

 

「いや、まずは客人の案内をせねば・・・・・」

 

「とんでもありません。まずは騎士王(パラディン)へのご挨拶が先です」

 

眼鏡のメイドは頑として、許さなかった。

 

「はぁ・・・・・分かった」

 

溜息混じりに頷くと、シルヴィアは一誠に声を掛けてきた。

 

「そういうわけだ。しばらく別行動になるが、わからないことがあれば、

彼女―――フリーダに聞くと良い」

 

一誠が頷くと、シルヴィアとラーズは玄関ホールの奥に位置する会談に向けて、

つかつかと歩き出した。コゼットも二人の後に続く。シルヴィアとラーズ、

コゼットが階段を上りきり、その姿が見えなくなった途端、勢揃いしていたメイドたちは、

蜘蛛の子を散らしたように立ち去った。何やら鬼気迫る雰囲気を感じさせた。

 

「久し振りだな」

 

徐に最後まで居残ったフリーダに話しかけた一誠に、フリーダはコクリと小首を縦に振った。

 

「ええ、お久しぶりです」

 

「・・・・・知り合いなのか?」

 

「んや、顔見知り程度だ」

 

「その通りです」

 

アッシュの疑問に一誠とフリーダは淡々と言った。歩み寄ってきたフリーダは口を開いた。

 

「フリーダ・シェリーと申します。アッシュ・ブレイク様と、竜族のエーコ様ですね?

お部屋をご用意してあります」

 

「因みに、彼女はコゼットとコゼットの姉、プリムローズ・シェリーって女性の従姉妹だ」

 

さらりと加えた。コゼットはともかくアッシュはプリムローズ・シェリーという人物とは

会ったことがない。どんな女性なのか疑問を浮かべていると、フリーダは歩き出した。

玄関ホールから廊下に出ると、壁際には著名な画家や彫刻家による作品が展示されていた。

ドラゴンや竜騎士(ドラグナー)をモチーフにした作品が大半だった。

 

「オズワルドの招待とはいえ、こんな忙しい時期に手間を掛けさせて悪いな」

 

「確かにそうです。あなた方のような客人を招いている場合ではないのです。

いくら騎士王(パラディン)のご友人とはいえどです」

 

「分かっているさ。騒動を起こさず、静かに部屋の中でも待っているさ」

 

「そのご理解とお気使いに感謝しますが、

幸いにもヴェロニカ王女殿下があなた方のお世話係を派遣してくださいましたので、ご安心を」

 

「ヴェロニカが?」

 

一誠は嫌な予感を覚えた。フリーダが足を止めたのは、四階の廊下に面した扉の前だった。

 

「こちらのお部屋です」

 

フローだが金色のドアノブを捻って開け放った瞬間。

 

「ふああああああああっ!」

 

ドンガラガッシャァアアアアン!―――バッシャアアアアアアアアンッ!

 

女性の悲鳴と共にバケツが宙に回った。掃除をしていたのだろう、バケツの中に入っていた

水が扉を開け放ったフリーダ、その後ろにいたアッシュとエーコの頭から濡らした。

 

「「「・・・・・」」」

 

「・・・・・」

 

間一髪、一誠は俊敏な動きで水に被ることなく濡れずに済んだ。だが―――。

 

「も、ももも、申し訳ございませぇんっ!」

 

情けない声で謝罪する女性。その女性に一誠は悟った。ヴェロニカ、お前って奴は・・・・・。

部屋の中を見れば、無造作に散らばった蔵書の中央、

わんわんと泣いているのは、年若いメイド。

 

「相変わらずのようだな、プリム・・・・・」

 

一誠は溜息混じりに呆れ顔になった。

そう、目の前にいるのは、コゼットの姉―――プリムローズ・シェリーだったのである。

本来ならば魔導艦シルヴァヌスの艦内使用人を努めているはずだが・・・・・。

いや、そんなことよりも、プリムは何故か下着姿だった。はち切れんばかりの肉体が、

真紅の下着をギュッと押し上げている。見事な谷間を晒されているが、

 

「ちょっとあんた!」

 

エーコがいきなり水をぶっかけられたことに腹が立ち、プリムに怒りをぶつけようとしたが

 

「プリムさん!」

 

同じく怒りを露わにしているフリーダに遮られてしまいできなかった。

 

「なんですのその格好は・・・・・!」

 

フリーダがプリムを問い詰める。

その間に一誠はいそいそと散らばった部屋の中を掃除を始めた。

 

「そ、それはですね・・・・・私が掃除をすると、

何故かお洋服がドロドロに汚れてしまうので・・・・・いっそ裸で作業をすれば、

お洋服が汚れずに済むのではと思いまして!」

 

「メイド服など、いくら汚れてもよいのです!大体、この惨状は―――――」

 

「よし、これで終わりっと」

 

辺りの状態に怒ろうとフリーダの目には既にピカピカに綺麗になった部屋だった。

その原因は一息ついた一誠であった。

 

「い、何時の間に・・・・・」

 

「魔導艦で侍従していた時に身に染みたことだからな。プリムのおっちょこちょいは」

 

金色の翼を生やしたかと思えば、バサッと風を起こした。

濡れているフリーダとアッシュ、エーコの服から水分が抜けていく。

 

「ほら、身体を拭け。濡れたままじゃ風邪を引いてしまうぞ」

 

「わぷ!」

 

どこからともなく取り出したタオルでプリムの髪を拭き始めた。

 

 

 

状況が落ち着きプリムがメイド服を着ている間に、フリーダはさっさと退室してしまった。

今度は、プリムが一誠とアッシュ、エーコの世話を担当する―――それだけ言い残して。

フリーダにしてみれば、アッシュとエーコの来訪など、厄介事でしか無いのだろう。

一誠のことは事前に知っていたのだが似たようなものだろう。

要は、役立たずのプリムに丸投げしたと言うわけだ。そんなプリムを派遣したヴェロニカも、

実に人が悪いといえる。確かに一誠とは顔見知りなので、

適任者といえなくともないが・・・・・。

 

「またお会いできて、とっても嬉しいです。イッセーくん!」

 

と、ようやくメイド服を着終えたプリムが、嬉々として近寄って来たかと思えば、

抱きついてきた。メイド服を押し上げる豊満な双丘のから感じる柔らかい弾力、

プリム自身の心地良い温もりに一誠は抱き枕にして寝たいな、

と思いつつプリムを抱きしめ返した。

 

「久し振り、プリム」

 

「はい、お久しぶりです。イッセーくん」

 

友人と再会した喜びを分かち合う。と、アッシュが気まずそうに一誠に問うた。

 

「なあ、その人が・・・・・プリムローズ・シェリーさんって人か?」

 

「ん、そうだ。プリム、知っているかどうか知らないがこいつらが噂のどんなドラゴンを

乗りこなせる少年、アッシュ・ブレイクとプライドが人一倍高い人の姿で誕生した幼竜エーコ」

 

「ちょっと!人一倍プライドが高いってどういうことよ!?」

 

「ん?プライドがないのか?」

 

ぐ・・・・・っと一誠の指摘に口を噤んでしまったエーコ。無いと言ったら大きな態度が

できなくなってアッシュに飼い犬と言えなくなるわけだ。

さらには誇り高き竜族と名乗れない―――。

 

「・・・・・ちっ」

 

「おい、いま、思いっきり舌打ちしたな?」

 

「うっさいわよ。このよそ者のドラゴン」

 

「おいおい、まーたオーフィスにやられたいのか?」

 

ビクンッ!

 

と、エーコの体が一際震えた。どうやらオーフィスの圧倒的な力に畏怖していた様子だった。

 

「因みに、異世界のドラゴンは俺の中にいることを忘れるなよ?

―――お前の言動、一言一行、全て見ているからな?」

 

ポンと、エーコの頭に手を置いた時だった。

エーコがガクガクブルブルと顔を青ざめて震えだした。

 

「お、おいイッセー・・・・・・」

 

「俺の中にいるドラゴンと対話させているだけだ。

いくらドラゴンとはいえ実力主義の世界に生きている。

エーコはまだ幼竜だから、自分より力がある者に対して―――逆らえるわけがないだろう?」

 

「―――――」

 

エーコがガクリとその場で座り込んだ。そんなエーコに気にもせず、一誠はプリムに問うた。

 

「ここは俺もいればいいのか?ベッドが二つしかないんだけど」

 

「いえいえ、ここはアッシュ様とエーコ様のお部屋でございます。

イッセーくんはお隣の部屋ですわ」

 

「そうか。そんじゃ、部屋に行こうかな。と、その前にプリム」

 

「はい?」と一誠に呼ばれ返事をするプリム。

 

「街に行きたいんだけど、案内してくれるか?アンサリヴァン市にいる皆にお土産を買いたい」

 

「そう言うことでしたらお安いご用ですわ!このプリム、精一杯案内させてもらいます!」

 

嬉しそうにプリムは笑み、一誠の手を掴むとアッシュとエーコを置いて部屋から出た。

 

―――○♢○―――

 

一方、一誠とプリムが街に出向いたその頃、

シルヴィアとラーズは王座の間の扉の前に立っていた。

 

「シルヴィア・ロートレアモン。ただいま帰りました」

 

「ラーズグリーズ・ロートレアモン。ただいま帰りました」

 

扉に向かって言い放てば、コゼットが扉を開けてくれる。

開いた隙間から抜け出るように王座の間に入ると―――。

 

「待ちくたびれたぞ、おお、我が愛しき娘たちよぉおおおおおっ!」

 

騎士王(パラディン)オズワルドが玉座からどこぞの某有名な盗人の如く跳躍し、

宙で見事な放物線を描いて、シルヴィアとラーズも飛びかかった。

 

「・・・・・父上なのか・・・・・?」

 

「随分と、痩せたような・・・・・?」

 

数年振りに再会した実の父親の姿に唖然としながらも、シルヴィアの鉄拳が、

オズワルドの顔に炸裂し、シルヴィアの肩を足場代わりにして、

宙に跳んで落下しながら足を突き出してオズワルドの腹に直撃した。

 

「ふごっ・・・・・!」

 

鼻血を噴いて、オズワルドは背中から墜落した。真紅の絨毯に、

栄えある騎士王(パラディン)の鼻血が染み込んでいく。

 

「この懐かしい痛み・・・・・今の拳のキレ・・・・・足蹴りのキレ・・・・・そなたらは

ますます、亡き妻、エリザベスに似てきたのぉ・・・・・・」

 

むくりと起き上がり、オズワルドはそんな事を言う。

シルヴィアとラーズの母―――王妃エリザベスは、勇猛果敢な聖天竜騎士(アーク・ドラグナー)として

知られる人物だったが、病気には勝てなかった、シルヴィアとラーズが二歳の頃に

亡くなったので、母の記憶はほとんどない。王座の背後に飾られた、

巨大な肖像画に描かれた母の姿は、凛として気高く、大鷲のように鋭い目をしている。

シルヴィアにとっては、憧れの女性であった。自分も何時か、母のような女性になりたいと

願っている。ラーズはどうでもいいやと母のことが興味なさげだが・・・・・。

そんな母とは対照的に、父のオズワルドときたら・・・・・この有り様である。

 

「父上・・・・・随分と痩せましたね。ダイエットでもしたのですか?」

 

「そうね。マッシュルームみたいな髪型じゃないし、

どういった心境で父上はそんな風になったので?」

 

愛嬌のある丸顔に、肥満体ではなく、やせ細った顔に、痩身に真逆な体つきとなっているため、

驚きと疑問、不思議な気持ちで問うたシルヴィアとラーズ。

 

「そんなことよりほれ、シルヴィとラーズ。その美しい顔を、もっと良く見せておくれ」

 

「見せるのは構いませんが・・・・・それ以上、近づかないでください。汚らわしい!」

 

「うほっ!そんな言葉責めもエリザベスにそっくりだのぅ!」、

 

「こんな人が父なんて・・・・・それに母上の性格ってまさかSなのかしら・・・・・?」

 

くねくねと身をくねらせるオズワルドを見ていたら、堪忍袋の緒が切れた。

 

「恥を知れ!娘に罵られて快楽を覚えるなど・・・・・言語道断!」

 

「いっそのこと、私に逆らえないぐらい調教してあげましょうか?」

 

 

 

父王をダブルで蹴り飛ばし、玉座に押し戻した後、シルヴィアは真顔になって訊ねた。

 

「一体、どういう風の吹き回しなのです?私たちはまだ学生で、修行中の身です。

そのような私たちに大陸会議(エリュシオン)に出席せよとは・・・・・?」

 

「なにを謙遜しておる?そなたらは第四王女と第五王女にして、

竜騎士(ドラグナー)なのだ。我がロートレアモン騎士国の首脳陣―――その一翼を担う資格なら、

十分にある。そもそも、そなたらを推薦したのは、わしではない。ヴェロニカだ」

 

「姉上が・・・・・?」

 

何故、自分を会議に出席させるつもりなのか、理解できない。

何か企みでもあるのだろうか・・・・・?

 

「まあ、わしとしては、シルヴィとラーズに会えるなら何でもよかったのでな。

ヴェロニカの進言を快く受け入れたというわけだ」

 

「そうでしたか・・・・・。では、この忙しい時期に、

どうしてアッシュ・ブレイクと幼竜エーコ、イッセーを呼び出したのです?」

 

シルヴィアの鋭い眼差しを浴びても、オズワルドはなんら動じなかった。

あくまでも泰然自若として、顎髭を指で撫でている。

 

「確かに、忙しい時期である。だがな、シルヴィ。知っての通り・・・・・わしはお飾りの王に

過ぎん。政務の大半は、優秀な部下に任せておる。皆が忙しく働けば働くほど、

わしは暇になってしまうのだ」

 

シルヴィアは唖然とした。

 

「つまり・・・・・誰でもいいから、構ってくれる相手が欲しかったと?」

 

「いや、今のわしは充実な時間を送っておる」

 

「はぁ・・・・・?」

 

オズワルドが途端に笑みを浮かべた。

 

「そなたら、知っておるか?南方にある大規模な機械の娯楽施設のことを」

 

「大規模な機械の娯楽施設・・・・・・?」

 

「いえ、聞いたことがないですが・・・・・」

 

「む?そうなのか?イッセーから何一つ聞いていないのか?」

 

どうやら一誠と関わりがあるようだ。二人は興味が湧き、問いだす。一体それは何だと。

オズワルドは嬉々として教えてくれた。

 

「イッセーの異世界に存在する娯楽施設でな。名称は遊園地というらしい。

その遊園地はゼファロス帝国があの遊園地の創設者を紹介しろと言うほどの

素晴らしい娯楽施設なのだ。暇なわしにとって唯一無二の暇を潰せる場所だ。

楽しいぞぉ?空を飛ぶドラゴンを模した飛行機械!ドラゴンより速く移動する乗り物!

空高くまで上がって凄まじい勢いで落下する椅子!ゆったりと大きく回る小部屋!

水上で激しく揺られながら進んでいく船!他にもわしは様々な乗り物を乗っておるのだよ!」

 

「「・・・・・」」

 

シルヴィアとラーズは思った。こんな子供のように明るく笑う父上は本当に楽しんでいるんだと。

もしかすると、痩せた原因は遊園地に何度も通っていたからではないのだろうか?と。

 

「お姉様、イッセーって本当に凄いのね」

 

「ああ、そうだな。その遊園地とやら、一度は行ってみたいものだ」

 

刹那、オズワルドの目がキュピーンと煌めいた。

 

「では、今すぐ遊園地に行こうではないか!うむ、ヴェロニカも誘ってな!」

 

「「はっ?」」

 

オズワルドの提案にシルヴィアとラーズは唖然となった。だが、ヴェロニカに誘った直後。

第一王女の鉄拳とクレイモアが襲われてしまい、

遊園地に行くことを断念したオズワルドであった。

 

―――○♢○―――

 

プリムが最初に案内してくれたのは、中央広場だった。

 

「フォンティーン市の中央広場は、観光スポットとして有名なんです。

右手に見えるのが聖ロサマリア大聖堂。そのお隣が国立フォンティーン歌劇場。

左手に見えるのは、聖騎士博物館です」

 

掃除は苦手なプリムだが、流石は地元の人間らしく、観光案内は中々うまい。

平日の昼間だというのに広場は群衆がひしめいている。買い物客。観光者。

無邪気に駆け回る子供たち。

 

「プリム、この銅像は?」

 

一誠とプリムが足を止めたのは、花壇の手前だった。折れしも夏の花が咲き乱れている。

花壇は階段状となっており、頭上には銅像が設置されている。騎士と王、二組の銅像だった。

騎士は跪いて、頭を垂れている。王は抜き身の長剣を手にし、

騎士の肩に添えている。一誠の問いかけに、プリムは笑顔で応じた。

 

「叙任式の一幕を表現したものですね。シェブロン王ライオネルⅢ世が、

ダーラム様を初代騎士王(パラディン)に任命しているのです。

その後、ダーラム様はロートレアモン騎士国を興したのですよ」

 

「へぇ・・・・・歴史を感じさせるな」

 

一誠は感嘆した様子で、銅像を見上げている。台座に掘られた日付は、

聖誕歴八六四年十一月一三日。およそ五百年前も昔の日付けだった。

銅像の鑑賞には満足したのか、一誠はプリムの手を掴んだ。

 

「イッセー様?」

 

「時間までまだ時間がある。色々と街の案内をしてもらうからな」

 

朗らかに笑む一誠。その笑みに、笑顔を浮かべて返事をするプリムだった。

 

―――○♢○―――

 

夢中になって首都の空気を満喫していたら、陽も傾いてきた。

 

「うーん、流石は首都だ。良い品物があって色々と買えたぞ」

 

「そ、それは・・・・・よ、良かったです・・・・・」

 

「・・・・・だから、大丈夫か?と聞いたんだけど明らかに疲労困憊だなプリム」

 

プリムは見るからに、疲労困憊の様子だった。

街路樹の付近に設置されているベンチに一誠とプリムは腰を落ち着けているのだが、

プリムのブラウスがじっとりと汗ばんで、肌に張り付いているのが、

長時間歩いた証拠でもあった。ポケットからハンカチを取り出してプリムの汗を拭く。

 

「あ、ありがとうございます・・・・・」

 

「ついでに飲み物も飲んでおけ」

 

最後に飲食店で買った飲み物をプリムに渡せば、補給とばかりゴクゴクと喉を鳴らし続ける。

 

「っぷは・・・・・はぁ・・・・・生き返りましたぁ・・・・・・」

 

「水を得た魚のような感じだな。いや、プリムの場合は人魚か」

 

「人魚・・・・・とはなんですか?」

 

可愛く首を傾げるプリム。知らない単語だったかと一誠は軽く説明した。

 

「上半身は人の体で下半身は魚のような身体の生物だ。人魚の女性は歌がとても綺麗で上手だが、

歌を聞いてしまった船乗りが惑わされて船を遭難、

または岩礁にぶつけて転覆させてしまうんだ」

 

「お、怖ろしい生物なのですね。歌が上手なのはとても素晴らしいと思うのですが・・・・・」

 

「当の本人たちは優しいんだけどな」

 

人魚の印象を悪いイメージに捉えてしまった様子のプリムに、

苦笑を浮かべる一誠がさりげなくフォローする。

 

「ふぅ・・・・・」

 

不意に、プリムが溜息を吐いた。今の今まで歩き続けていたから疲れたのだろうか?

 

「疲れたか?」

 

「ええ・・・・・申し訳ございません」

 

「いや、こっちが願いに出たんだ。・・・・・お礼というわけじゃないんだが」

 

腕をプリムの肩に伸ばした。それからゆっくりと倒して膝に頭を乗せる。

 

「・・・・・ふぇ?」

 

「ちょっとの間。こうしていてくれ」

 

真上に一誠の顔。後頭部に温もり。今の態勢はベンチに横になって

一誠の太ももに頭を乗せている状態―――。

 

「え、えっとイッセーくん・・・・・この体勢は・・・・・」

 

顔に朱を散らして目を泳がせる。恥ずかしいようで一誠の顔を直視しようとしないプリム。

一誠はそんなプリムの仕草に愛でたくなり頭を撫で始める。

 

「くくくっ、可愛いなプリム」

 

「うぅ・・・・・」

 

可愛いと異性に言われ、顔が熱くなることを感じて、

一誠に見せんとばかり顔をせめての抵抗と逸らした。

 

「じぃー」

 

「ひぅっ!?」

 

プリムが顔を逸らした先にはコゼットがいた。

目の前にコゼットがいると露知らないプリムは激しく身体を震わせた。

 

「コ、コゼット・・・・・!」

 

「あらあら、お姉ちゃん。イッセー様に膝枕してもらってどんな気分ですか?」

 

「うっ・・・・・!」

 

ニコニコとコゼットが笑む表情をプリムに向ける。

そんなコゼットの背後にはアッシュとエーコもいた。

 

「コゼットも外にいたんだな?」

 

「ええ、アッシュ様とエーコちゃんが外に行くところを出くわしたので」

 

「そうか。そろそろ戻った方がいいか?」

 

そう問うとコゼットが首を縦に振る。

 

「そうですわね。晩餐にイッセー様とアッシュ様、エーコちゃんをご招待すると

騎士王(パラディン)が、お待ちですので」

 

「オズワルドが?謁見だけかと思ったんだがな・・・・・分かった、戻ろう。

プリム、立てれるか?」

 

「は、はい。勿論です!」

 

気遣う一誠に、プリムは素早く立ち上がった。

 

「ふふっ、こんなお姉ちゃんを見るのは初めてです」

 

「も、もうコゼットたら!お姉ちゃんをからかうもんじゃないですよ!」

 

「でも、まんさらじゃなかったでしょ?」

 

「・・・・・」

 

否定しないのか?姉妹のやり取りに一誠は微笑んだ。同時に脳裏で浮かんだ異世界にいる従姉妹。

どうしているだろうかなと思った時、遥か上空を、巨大な影がゆっくりと横切った。

夕日が急に途切れたので、路上の誰もが真上を見上げ―――そして、

狼狽と感嘆の入り交じった声を上げた。一隻の航空艦が、空に浮かんでいる。

ヴェロニカが所有する魔導艦シルヴァヌスよりも、遥かに大型だった。

ゼファロス帝国の国旗を掲げている。艦隊側面には、知らない家紋が大きくペイントされていた。

 

「帝国貴族か・・・・・?」

 

「んはっ、すっげぇ・・・・・!この世界にあんな乗物があるのか・・・・・・!」

 

アッシュの呟き、一誠の感嘆に、コゼットが答えた。

 

「あの家紋はヴィターハウゼン家のものですわ。なんでも、

ご当主はゼファロス皇帝の代理人として、大陸会議(エリュシオン)に出席されるそうですよ」

 

「というと、本来来るべき人物が来ないわけか。まあ、どうでもいいな」

 

 

―――○♢○―――

 

コゼットに導かれ、一誠とアッシュ、エーコは晩餐会場に向かった。

一誠とアッシュはフォーマルな衣装に着替えている。城に戻るなり、

無理矢理着替えさせられたのだ。漆黒の上下に糊の聞いたドレスシャツ。銀地のネクタイ。

さらには、ぴかぴかな革靴まで用意してもらった。

 

「ふん、ふん、ふん~♪」

 

エーコは白薔薇のようなドレスを纏い、鼻歌交じりに闊歩している。髪を大人っぽく結い上げて、

全身にレースとフリルと宝石をちりばめた姿は、一国の姫君にも匹敵するだろう。

 

「馬子にも衣装ってか」

 

「なんですってっ!?」

 

「純粋に似合っていると言っているんだが」

 

そう言っても棒読みであった。そんな一誠にエーコが食って掛かる。

 

「アンタに言われてもちっとも嬉しくないわ!」

 

「ん?アッシュ・ブレイクに言われたかったのか?ああ、すまん。気付かなかった。

おい、アッシュ・ブレイク。綺麗だと抱きしめながらエーコの耳の傍で言ってやれ。

そう言えばこいつはコロッと機嫌が良くなるぞ」

 

「できるか!?」

 

顔を赤くして拒否したアッシュ。そんなアッシュに物凄く溜息を吐いた。

 

「駄目だな。女の扱いを覚えて慣れないとこの先苦労するぞお前は」

 

「・・・・・大丈夫だ」

 

「ちょっとあんた、今の間は何よ?」

 

怪しい、と怪訝に目を細めてアッシュを睨むように視線を送るエーコの耳元で意地の悪い笑みを

浮かべた一誠がボソリと告げた。

 

「あれだ、エーコをどう可愛がってやろうか一瞬だけ悩んでいたぞ。

まさか、もう夜の営みの展開まで考えていたわけじゃないよな?」

 

その呟きは決して小さい声ではなくアッシュにも聞こえるぐらいの声量だった。

なので、一誠の話を聞こえたアッシュは途端に顔を真っ赤にした。エーコも同様だ。

 

「ちょ、イッセー!?」

 

「ふ、ふざけんじゃにゃいわよ!?」

 

「あっ、噛んだ」

 

他愛のないやり取りをしていたら、やがて視界が開けた。控えの間に到着したのだ。

天井が高い。壁際には、円柱がずらりと並び、要所にソファや椅子、テーブルが配置されている。

正面には暖炉がどっしりと構えていた。暖炉の両脇には、扉が二つ。そのむこうが、

おそらく晩餐の間なのだろう。

 

「父の我儘に付き合わせて、本当にすまない」

 

先に到着していたシルヴィアとラーズが音もなく椅子から立ち上がった。寒色系の生地が、

金髪の輝きと肌の白さ、いやが上にも引き立てている。黒一色の生地にフリルがついたドレスを

身に包むラーズも銀髪の輝きと肌の白さで魅了を引き立てている。

 

「へぇー」

 

「むっ?どうした、イッセー?」

 

「いや、二人とも綺麗だなって、思って」

 

「なっ・・・・・!」

 

火山の噴火さながら、シルヴィアは頬を紅潮させた。言葉を失ったまま、

恥ずかしげに俯いてしまう。

 

「お世辞でもありがとう」

 

「ん?本心から言ったんだけど」

 

「・・・・・」

 

真顔で本心だと言われ、ラーズはシルヴィアのように顔を紅潮するかと思えば、

嬉しそうに笑顔を浮かべた。

 

「イッセーも似合っているわよ?」

 

「そうか?自分じゃ良く分からないけど」

 

「私が似合っていると言ったら似合っているわ」

 

ズイッと一誠の顔に指で差すラーズ。そんなラーズに唖然としていると、

一誠は小さく喉の奥から笑った。

 

「ありがとうな、ラーズ」

 

―――○♢○―――

 

「そなたが噂のアッシュか!うむ、よい顔付きをしておる!で、そなたがエーコとな?

おお、確かに角があるわい!こいつは驚いた!そして、イッセーよ。よくぞ来てくれた。

遠路はるばる、ご苦労だったな」

 

「そうでもないさ。ああ、オズワルド。お土産を持ってきたから後で渡すな?」

 

「おお。もしや、異世界の品であるのかな?分かった。後で受け取ろう。

今は晩餐をしよう。ささ、遠慮なく食べてくれ」

 

食卓はびっくりするほど縦長だったが、席に着くのは六人だけである。

コゼットはシルヴィアとラーズの背後に、プリムは一誠の背後に粛然と控えた。

一方、オズワルドの背後には、眼鏡のメイドが控えている。フリーダだった。

聖女への祈りもそこそこに、食事が始まる。給仕が一品ずつ、料理を運んでくる。

最初はスープだった。

 

「うん、異世界の料理はやっぱり美味いな」

 

「異世界から来た者にそう言ってもらえると嬉しい限りであるな」

 

「今度、俺の店にでも来てくれ。もてなすからさ」

 

「うむ、必ずや赴こうぞ」

 

雑談する一誠とオズワルド。と、アッシュの隣席で、エーコがどすんと皿を置いた。

 

「スープも悪くないけど、お肉はまだ?」

 

エーコはスプーンなど使わずに、食器に直接、口を付けてスープを飲み干したのだ。

唇と鼻に、白濁したスープが付着している。

 

「はわわっ・・・・・・!」

 

プリムがナプキンを手に、慌ててエーコの口元をぬぐう。

 

「こらこら、行儀が悪いぞ!」

 

アッシュは冷や汗をかいた。

 

「・・・・・絶対にこいつと一緒にされたくないな。物凄く不愉快を感じる」

 

心の底から呆れ、抵抗とばかり頭に真紅の角を生やして、

スプーンでスープを飲んでいく一誠だった。

その間、オズワルドはフリーダに声を掛けていた。

 

「どうやら、エーコ殿はコース料理がお気に召さぬようだ。

出来上がった料理からどんどん持ってくるように、料理長に伝えてくれ」

 

「かしこまりました」

 

フリーダは厳粛な面持ちで、厨房に向かった。

 

「ふふん。騎士王(パラディン)なんていうから、どんな偉そうな輩かと思ったら、

案外、良い奴じゃないの。気に入ったわ!」

 

エーコは椅子の上でふんぞり返っている。

 

「竜族の娘にそう言ってもらえるとは、光栄の至り。今宵は思う存分、楽しまれよ」

 

「父上・・・・・騎士王(パラディン)の称号が泣きます。

もう少し、当事者としての威厳を示したらどうなのですか?」

 

不機嫌そうに進言したのは、勿論シルヴィアである。だが、彼女だけではない。

 

「確かに竜族は私たち人間の力となってくれているけど、

そんな態度でいたらエーコが付け上がりますわよ?竜族は人間を必要と同時に人間は

竜族を必要としているこの関係を保っている国が、たかが一匹の竜族にそのような発言は

如何かと思いますわ。同じ立場として接するならイッセーのような接し方をしてください。

一国の王が竜族に下手で接せられては人間が示しが付きません」

 

ラーズもだった。

 

「なにをいうか、そもそも竜族の恩恵が無かったら、この大陸はとっくの昔に帝国が支配していた

だろう。わしがエーコ殿に礼儀を尽くすのは、当然のことだ。はーっはっは!」

 

オズワルドが高笑いを響かせていると、給仕が次から次へと現れては、料理やボトルを運んできた。

 

 

 

シルヴィアはグラスを傾けつつ、時折、一誠の様子を窺っている。

―――考えてみれば、不思議な光景だ・・・・・。最初の出会いはあまり良いものではなかった。

複数の女性を侍らしていると思えば、イッセーは異世界の人間で人王という異世界にいる

人類すべての王だと言う。さらに、イッセーはドラゴンに転生した人間であり異世界のドラゴンを

身体に宿すとんでもない存在だった。だからだろう、強欲なラーズもイッセーを欲しがるのは

当然だった。だが、イッセーは平民として、一般人として店を構えて営業している。

だが、その平民が城に呼ばれ、王と同じ食卓を囲んでいると言う光景は、異例の事態といえた。

それはアッシュも同じなのだが・・・・・。シルヴィアがそんな感慨を抱いている間にも、

オズワルドは満面に笑みを浮かべて、アッシュに質問を続けている。

エーコの誕生について。エーコが構築した聖騎甲(アーク)について。

アンサリヴァン市街や、ウィリンガム霊廟での戦闘について・・・・・などなど。

一応、それらの質問は事前に予想していたらしく、アッシュは理路整然と答えている。

しかし、その話は一誠も関わっている。オズワルドは一誠に聞こうとしていない。

いや、今はアッシュに好奇心が向いて後回しにしているのだろう。

当の一誠は静かに食事をしてプリムと何やら話をしていた。たまに笑顔を浮かべる。

その笑みを見たら、カァッ・・・・・と頬に熱を覚えてしまう。

―――わ、私は一体、どうしてしまったのだ・・・・・?

どうして、イッセーの笑顔を見た途端に・・・・・こんな気持ちになるのだろう?

胸の奥で芽生えた気持ち。その正体が分からず、シルヴィアは戸惑うばかり。

 

「・・・・・やっぱり、お姉様は・・・・・・」

 

「な、なんだ?私がなんだと言うのだ?」

 

「いえ、何でもございませんわ」

 

冷たくあしらうラーズ。

 

「そなたとエーコ殿がいなければ、アンサリヴァン市やアロンヌ湖畔の合宿場、

そしてウィリンガム霊廟は、とっくに壊滅していたことだろう。

このオズワルド、改めて礼を言わせてもらうぞ」

 

オズワルドは咳を発つと、ペコリと頭を下げた。

一国の君主が、一介の平民に対して―――である。

シルヴィアはようやく我に返ると、オズワルドの姿を呆然と眺めやった。

ラーズは侮蔑な視線を送っていた。

 

「わわっ!顔を上げてください!滅相もないですよ!」

 

アッシュは慌てふためいている。オズワルドだけ立たせておくわけにはいかないとばかりに、

自らも起立した。だが、驚くのはまだ早かった。顔を上げたオズワルドが告げた言葉は、

シルヴィアとラーズの想像を絶していたのである。

 

「というわけで、今日からそなたは竜騎士(ドラグナー)だ」

 

「ありがとうごさっ―――・・・・・ええっ!?俺が竜騎士(ドラグナー)?」

 

「なにを驚いておる?そのために、そなたを城まで呼んだのだ」

 

オズワルドはけろりとしている。

 

「アッシュ・ブレイクが竜騎士(ドラグナー)

エーコがまだ幼竜なのにも拘わらずか?大した出世じゃないか。おめでとう」

 

不思議に思いながらも一誠はアッシュに乾いた拍手で祝った。

一誠に釣られ、プリムも拍手をした。

 

「―――納得、いきませんわね」

 

が、不満と異を唱えるラーズだった。

 

「父上、そんな簡単に竜騎士(ドラグナー)の称号を叙任してもいいのですか?エーコはまだ幼竜ですよ?」

 

「ならばラーズよ。そなたに問うが、エーコ殿が聖竜(マエストロ)ではないと断言できるか?」

 

「断言できる、と言ったらどうしますか?」

 

ラーズは食い下がる。オズワルドは神妙な表情でラーズに顔を向ける。

 

「では、その理由を聞かせてもらぬか?」

 

「ええ、まずエーコが竜族なら竜化が可能なはずです。

その証拠に、異世界から来たイッセーもまたエーコのような存在です。

自由に翼を生やし、竜化ができます。それがエーコはできていない。まだ幼竜だからです」

 

「力の扱い方が未熟だからとは?」

 

「それは理由のひとつでしょう。だけど、エーコはアッシュ・ブレイクを主と認めていないのが

現状です。だからアッシュ・ブレイクが纏う聖騎甲(アーク)は紛い物ばかり。エーコのオリジナルの聖騎甲(アーク)ではないです。それでは聖竜(マエストロ)と断言するには足りないかと思います」

 

静かにオズワルドはラーズの言葉に耳を傾ける。

 

「パルが主を認めていない時点で竜騎士(ドラグナー)になる資格は失われているのと当然。

数々の事件で紛い物の聖騎甲(アーク)を献上しても心から主として認めていないのでは

意味がない。名誉ある竜騎士(ドラグナー)という名のメッキがいずれ剥がれるのが落ちかと思いますが?」

 

「・・・・・」

 

そこでラーズを口を噤んだ。オズワルドの言葉を待つように。

 

「ラーズよ」

 

オズワルドは口を開いた。

 

「そなたは嘘を吐く娘ではないとわしは知っている。

だが、騎士王(パラディン)として、わしはアッシュ・ブレイクの武勲に報いなければならぬ。

確かに前例のないことではあるが、

このわしが決めた以上、アッシュ・ブレイクは今日から竜騎士(ドラグナー)にする。フリーダよ、例のものを」

 

「かしこまりました」

 

彫像のように佇んでいたフリーだが、突然、動いた。フリーダの両手には何時の間にか、

盆を持っていた。盆の上には、騎士王家(パラディン)の家紋が刻み込まれ懐中時計が載せられている。

 

騎士王(パラディン)オズワルドの名において、アッシュ・ブレイクを竜騎士(ドラグナー)に任命する」

 

「謹んで、拝命します」

 

アッシュはその場で跪くと、銀時計を恭しく受け取った。

 

「なお、大陸会議を控え、場内は慌ただしい・・・・・・。

正式な叙任式は後日、改めて執り行う。今はまだ、その銀時計だけで我慢してくれ」

 

「とっ、とんでもないです!」

 

アッシュは叙任式という言葉の重みに、打ち震えた。一誠は中央広場で見掛けた、

シェブロン王ライオネルⅢ世と初代騎士王(パラディン)ダーラムの銅像が、

自然と脳裏をよぎった。

 

「・・・・・」

 

その時だった。ラーズが立ち上がったかと思えば、

スタスタと晩餐会場から無言でいなくなった。

 

「ラーズ・・・・・」

 

ラーズの背中を不安げに見送ったシルヴィアは思わず一誠に視線を送った。

すると、一誠が無言で立ち上がってラーズの後を追うように晩餐会場から姿を消した。

 

「(ラーズを頼む、イッセー)」

 

―――○♢○―――

 

「ラーズ」

 

一瞬で晩餐会場から姿を消したラーズの背後に現れた一誠が声を掛けた。

 

「・・・・・イッセー」

 

「お前が熱く否定するなんて珍しいな。アッシュ・ブレイクが嫌いなのか?」

 

「・・・・・」

 

背後に振り返らないままラーズは、顔を上に向けた。

 

「違うわ。ただ、特別扱いが嫌いなだけよ」

 

「理由を訊いてもいいか?」

 

その問いかけにラーズはコクリと頷いた。

 

「私、この国の王女として生まれて以来、欲しいものがあれば簡単に何でも手に入った。

でも、そんな簡単に欲しい物を手に入れることを繰り返していると、

逆にあっさり手に入ってつまらなく感じた。空虚とでも言えば良いかしら」

 

クスクスとラーズは小さく笑った。

 

「だからとある時、自分の手で欲しいものを手に入れようと思った。

いざ、欲しかったものを手に入れた瞬間。とっても達成感を身体全体で感じたあの快感が

堪らなかった。だから決めた。欲しいものを手に入れる時は自分の手で、

特別扱いはされないで生きていこうと」

 

「―――だからあんなことを言ったのか?」

 

「あんなこと?」

 

ようやく一誠に振り返った。

 

「神に縋り願うぐらいなら、自分の力で前に進むべきだと教会で言ったことだ」

 

「・・・・・まだ、そんな事を覚えていたんだ」

 

意外だと、一誠を見据えれば、微笑んでいた。

 

「あの時の言葉、俺自身に向けられているようにも思えたからな。

俺も小さい時は特別なんて理解もしていなかった。

ただ、両親と共にいるだけで幸せだったからな。欲しいものは特になかった。

でも、変わりに俺は色んな友達ができた。それこそ流行っている玩具なんかより、

友達と遊んでいたほうが楽しいぐらいにな」

 

「友達・・・・・」

 

「俺とラーズは友達だろう?」

 

「―――――」

 

真っ直ぐそう言われてラーズは、一誠から目を逸らすことができなくなった。

 

「・・・・・私、自分のパルを利用して相手から欲しいものを手に入れるような強欲な女よ?」

 

「・・・・・」

 

「可愛い女の子がいれば手駒として自分の配下に置かせたり、

私に恋を抱いている男の心を弄ぶわ」

 

ポツポツと自分の罪を懺悔するような口ぶり。

 

「学校だってお姉様やコゼット以外、私と接する者はほとんどいないわ。

最近は生徒会メンバーと接しているけれど・・・・・」

 

そこで口を噤んで一誠の金色の瞳を視界に入れる。

 

「こんな最低な女と知ってそれでもあなたは私と友達と言ってくれるの?」

 

ラーズの問いかけにしばし沈黙が包まれたが、

一誠は答えた。華奢なラーズの身体を一誠自身が包んだのだった。

 

「どんな性格だろうと、お前はお前だ」

 

「・・・・・」

 

一誠はラーズを抱きしめながら微笑んだ。どうしてこんな私に変わらず笑ってくれるのだろうか、

ラーズは理解できなかった。でも、これだけは理解した。一誠は受け入れてくれたんだと。

 

「・・・・・ありがとう」

 

「ん、どういたしまして」

 

―――○♢○―――

 

ミルガウスは細い路地を次々と抜け、ついには近道をも利用して、

フォンティーン城の敷地内に潜入を果たした。

厳戒態勢にも拘らず、警備の目に触れることさえなかった。しばらく地下道を走り、

ミルガウスの視線の先には、石段があった。

地上に出るなりミルガウスは一度目の前の物体を見た。

そこは、航空艦専用の停泊所だったのである。真っ先に視界に飛び込んできたのは、

ゼファロス帝国の大型航空艦ベオウルフの艦首である。やや離れた位置には、

シェブロン王国の魔導艦クラウ・ソラス、エスパーダ聖庁の神殿艦エスペランザ、

そしてロートレアモン騎士国の魔導艦シルヴァヌスが、仲良く舳先を並べている。

なんとなく、ベオウルフが孤立しているようにも見えた。一方、停泊所の向こうには、

華々しくライトアップされたフォンティーン城が、威風堂々とそびえている。

ミルガウスは城をちらりと一瞥すると、無言のまま、ベオウルフに足を向けた。

 

 

ベオウルフの艦内―――扉の表札には、帝国語で作戦室と記されている。

ミルガウスが入室すると、一目で貴族だと分かる青年が出迎えた。

 

「ふっ・・・・・待ちわびたよ、ミルガウス」

 

目の覚めるような金髪に、灰色の瞳。女とみまごうほどの美男である。

と同時に、武人でもあるのだろう。すらりとした体躯は、無駄に装備の多い衣装に包まれて

いるにも拘らず、鍛え抜かれていることが見て取れた。

名は―――ヴァン=デンハル辺境伯クラウス。

ヴァン=デンハル地方とは、ゼファロス帝国の領土である。山脈を挟んだ向こう側に位置し、

ロートレアモン騎士国とは地理的に隣接している。クラウス自身は代々、

ヴァン=デンハル辺境伯に任じられてきた、軍閥貴族の現当主である。まだ二十代にも拘わらず、

帝国軍では幹部級の地位を与えられている。のみならず、今回はゼファロス帝国の代理人として、

大陸会議(エリュシオン)に出席する張本人でもある。

 

「ああ、僕のミルガウス!本当によく来てくれた!」

 

クラウスはライングラスをテーブルに置くと、立ち上がった。

そして臆面もなく、ミルガウスを抱擁した。

 

「クラウス、会いたかったぞ」

 

「僕もだよ、ミルガウス・・・・・」

 

顔を合わせ、ただならぬ雰囲気を漂わせる。

この場にアーニャがいれば、この二人は禁断の関係なのではと赤面して勘違いしてしまうだろう。

 

「まったく、この部屋ときたら・・・・・ひどいものだ!鋼鉄と機械油の匂いにまみれつつ、

キミを待ちわびていた僕の気持ちが、理解できるかい?随分と遅かったじゃないか」

 

「仕方ないだろう。―――お前から受けた任務、

南方に位置に存在する大規模な機械の娯楽施設を調べていたのだからな」

 

「ふふ、それもそうだね。それで、どうだった?」

 

そう訊ねながらクラウスはミルガウスを解放する。

 

「詳しく調べることはできなかったが、

一目で見ればゼファロス帝国の技術でも作れるほどのものだった。

が、それを作るに必要な道具と施設がなければ意味がないだろう」

 

「ふむ、設計図も必要だろうね・・・・・だが、肝心な創設者は分かったかい?」

 

「『ラブロック遊園地二号』という名前だったからにしてラブロック商工都市連合の出身者で

あることは間違いないだろうが・・・・・その人物の特定をすることはできない」

 

「やはり、騎士王(パラディン)に直接聞くしかないか。

ゼファロス皇帝は秘密裏で招待するように命じられているからねぇ・・・・・」

 

やれやれと首を横に振るクラウス。

 

「クラウス。早く例の装置を見せろ」

 

ミルガウスの催促にクラウスは素直に応じた。

 

 

 

クラウスの案内で、ミルガウスは格納庫に移動した。昇降機の扉が開いた。中に入ればそこは、

艦の尾部に位置する格納庫は、城館の大広間にも匹敵する広さを誇っていた。

本来ならば、戦闘飛航空艇や装甲車、武器弾薬などを積載するための場所なのだろうが、

一目で兵器と分かる代物は、流石に積んでいない。その変わり、格納庫の最奥には、

まるで異教徒の祭壇を思わせる、奇妙な機械が設置されていた。

ミルガウスは十メートルほどの位置に固定された。流線型の容器を見詰める。

単座飛空挺の操縦席を彷彿させるが、見るからに流麗な意匠が施されていて、

その美しさときたら、兵器などは比べ物にならない。だが、神がかった造形美とは裏腹に

カプセルは禍々しい気配を帯びている。

じっと眺めていると、棺桶とか、拷問器具の類に見えてくるのが不気味だった。

カプセルの底部からは、無数のケーブルが垂れ下がり、床に置かれた機械装置に接続されている。

その全貌を見渡せば、ドラゴンの聖獣にも匹敵する、巨大な装置だった。筐体の側面には、

大粒の竜綺華晶がいくつも嵌めこまれている。所謂―――魔導工学(マギカ・テクニカ)の装置であった。

と、クラウスが巨大装置の傍に悠然と歩み寄った。

 

「ご苦労、諸君」

 

装置の周辺では、数人の研究者、そして十人ほどの技術者がせわしなく働いている。

研究者は白衣を、技術者は作業服を纏っていた。

 

「これはこれは、クラウス様自らお越しになるとは・・・・・」

 

研究者の代表らしき老人が、恭しく頭を下げる。

 

「やあ、ホフマン吐かせ。進捗状況は?」

 

「ご覧の通り、組立作業はほぼ完了しました。現在、最終チェックの段階に入っています。

ただ・・・・・なにぶん、千年綺華晶(ミレニアム)を動力にした装置ですので、

注意が必要です。最終チェックには一夜を費やすことになるでしょう」

 

千年綺華晶(ミレニアム)―――ドラゴンの死骸が地中で千年を経ることで生成される、

極めて希少な鉱石。魔導艦の燃料として使われるケースが大半である。

予定通りにチェックが終われば、明日の午後には実験を始められますよ。

あとは、検体さえ用意していただければ・・・・・」

 

ホフマン博士の言葉に、クラウスは満足そうに微笑んだ。

 

「結構だ。検体の方は、我々の方で必ず用意する。作業を続けてくれたまえ」

 

「かしこまりました、クラウス様」

 

ホフマン博士は再びお辞儀をすると、装置の奥へと引っ込んだ。

クラウスは神像を崇めるような面持ちで、改めて装置を見上げた。

 

「実に美しい。古王国(ゾノ・トーン)文明が遺した技術力には、目を見張るばかりだよ。

とても人間技だとは思えない。ほら、ミルガウス。君もこちらに来て、よく見るといい」

 

ミルガウスは無言のまま一歩を踏み出すと、クラウスと肩を並べた。クラウスは恍惚として、

装置の全貌に魅入られている。

 

魔導装置(ユグドラシル)・・・・・僕は、そう呼んでいる。

この異様に、ピッタリの名前だと思わないかい?」

 

得意満面のクラウスとは対照的に、ミルガウスは冷然と答えた。

 

「名前など、どうでもいい。問題なのは、使えるか、使えないかだ」

 

「ふふっ。君らしい答えだな。実際のところ、〈ゾノ・トーンの方舟〉から発掘されたこいつの

使い道には、謎に包まれていた。このベオウルフの機関部が発掘された時などは、

帝国中の貴族が色めき立ったものだがね。魔導装置(ユグドラシル)に興味を示したものは皆無だった。

おかげで、安く買い取ることができたよ」

 

「浅学の輩に、この装置の意味が分かるはずもない」

 

「ははっ、いってくれるじゃないか。そえにしても、キミの博識ぶりには驚かされるよ。

資料を見ただけで魔導装置(ユグドラシル)の本質を見抜いたんだからね。もっとも僕自身、

まだ半信半疑ではある。

本当に、この装置を使えば・・・・・幼竜エーコを強制的に覚醒させることができるのかい?」

 

ミルガウスに灰色の瞳を向ける。

そう、全てはミルガウスが考えたことだ。ミルガウスはエーコを

この魔導装置(ユグドラシル)でエーコを強制的に覚醒しようとクラウスに話を持ち出したのであった。

 

「余計な質問はするな、クラウス。お前はただ、私を信じていればいい」

 

「これはこれは、自信たっぷりだね」

 

「私の言う通りにすれば、お前はいずれ竜の力を手に入れる。次期皇帝の座も夢ではない」

 

「楽しみにしているよ、ミルガウス。

それはそうと―――どうやって幼竜エーコをここに連れてくるんだい?

君の相棒は捕まったんだよね?」

 

「・・・・・」

 

クラウスの問いにミルガウスは沈黙した。―――あと一歩のところで問題が発生した。

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