一誠の竜騎士物語   作:ダーク・シリウス

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Episode17

巨蟹宮(キャンサー)の月、第十五日―――。

 

「なんだ、この状況は・・・・・・」

 

心地が良い布団に包まれながら一誠は覚醒した。

布団以外に一誠を包むようにして温もりを与えているものが―――。

 

「すぅ・・・・・すぅ・・・・・」

 

「イッセー・・・・・もっと・・・・・」

 

「・・・・・ふふ、手に入れたわ・・・・・」

 

プリムローズ・シェリー、ウルスラ・L・セルウィン、ラーズグリーズ・ロートレアモンの

豊かな肉体に抱きつかれた状態で。両腕には、プリムとラーズ、腹の上にはウルスラがいた。

 

「一人で寝ていたはずなんだがな・・・・・どーなっている?」

 

疑問が尽きない一誠だった。だが、こんな光景はもはや慣れているようで、

叫んだり騒いだりしない。

 

―――コンコン。

 

一誠がいる部屋の扉が叩く音が聞こえた。一誠はどうしようと悩んだ末―――狸寝入りをした。

瞑目して耳だけ状況を知ろうとする。一誠が出ないことに訪問者はガチャリと扉を開け放った。

 

がしゃがしゃ・・・・・。

 

「(・・・・・あ、ヤバいかも)」

 

足音を立てなくても鉄と鉄が擦り合うような音が聞こえた。

そして、鎧を装着して感じ慣れた気の持ち主に一誠は心の中で冷や汗を流した。

 

「―――私を謀るつもりか?」

 

「・・・・・」

 

さっそく見破られた。瞑目していた目を開けると、銀色に輝く何かが目の前にあった。

そして一誠の視界に鎧を装着した金髪に蒼い瞳の女性が映り込む。右腕で持っているのは愛用の

両手剣のクレイモア。クレイモアの切っ先を一誠に突き付けている女性は、

第一王女ヴェロニカ・ロートレアモン。

 

「・・・・・ヴェロニカさん、なんでそれを俺に向けているんですか?」

 

「なに、一度お前と手合わせをしようと、

用事を済ませてから来たのだが―――良い御身分のようだな?」

 

「言っておく、俺は一人で寝ていた」

 

「・・・・・ふん」

 

刹那、ヴェロニカがクレイモアを横に薙ぎ払った拍子に上掛け布団が細々と切り裂いた。

一誠に抱きつく三人の女性と少女がヴェロニカの視界に入る。

すると、間も置かず三人の首や手を掴んで一誠から引き剥がしだした。

 

ガシッ!

 

「では、いくぞ」

 

「・・・・・おー」

 

ズルズルと一誠が来ている寝間着の襟を掴んで部屋から出ていった。

 

「・・・・・お姉様・・・・・後で覚えていらっしゃい・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「ふにゅぅ・・・・・」

 

 

 

フォンティーン城のとある敷地で、鉄と鉄が衝突し合う音が絶え間なく鳴り響いている。

その度に火花が散り、激しい剣戟を繰り広げる。

 

「はぁ・・・・・はぁ・・・・・」

 

「・・・・・」

 

汗を流して全身で息をするヴェロニカに対し、悠然とその場で佇む一誠。

クレイモアと金色の大剣を片手に二人は模擬戦という名の稽古をしている。

 

「その実力に竜騎士(ドラグナー)だったら、ウルスラに次ぐ最強の存在だったろうにな」

 

「ふっ・・・・・私はウルスラにハッキリと劣ると言うか」

 

「あの剣、何でも斬ってしまうんだってな。

そのクレイモアも呆気なく切られてお前の体までも切り裂いてしまう」

 

「そう言うお前は、その大剣でウルスラと戦っていたではないか」

 

「俺は受け流したに過ぎない。ガチで鍔迫り合いしたら、

この大剣が斬られてしまいそうだからな。

まあ、この大剣は特殊だから・・・・・切られないか?」

 

自分の大剣を見詰めて小首を傾げる。その瞬間、ヴェロニカは突貫した。

思いっきりクレイモアを振るって一誠に攻撃を仕掛けるが、金色の大剣の姿がブレたと思うほど

素早く動かした一誠に弾かれて、後方へ吹っ飛ばされる。

 

「特殊とはなんだ」

 

気になったのか、ヴェロニカは訊ねた。その訊ねに一誠は、答えた。

 

「この大剣の名前は封龍剣『神滅龍一文字』。ドラゴンを滅し、

封印するために作られた異世界の大剣だ」

 

竜殺し(ドラゴンスレイヤー)・・・・・・!我が国にとって禁忌な大剣であるな」

 

「俺の世界じゃそんな概念はないからな。まあ、それは置いといて・・・・・続けるか?」

 

「無論だ!」

 

切りかかるヴェロニカ。飛びだす一誠。一度振るえば、

 

ガガガガガガガガガッ!!!!!

 

たった一回で何度も振ったかのような音が、一誠とヴェロニカの間の虚空から生じた。

 

「ははっ。強い、お前は強いなヴェロニカ。

ただの人間がここまで俺と張り合えるなんてお前が初めてだぞ?」

 

「ウルスラではないのか?」

 

疑問をぶつけながら剣を振るい続ける。

 

「あれはドラゴンに騎乗した状態だ。カウントしない」

 

「ふっ、そうか・・・・・」

 

口の端を吊り上げて嬉しそうに笑む。と、一誠は呟いた。

 

「―――掛かって来い。纏めて相手をするぞ」

 

刹那、ヴェロニカの背後から物凄い速さで駆けつける影が現れた。

その影は真っ直ぐ一誠に向かった。

 

「お相手をお願いします」

 

金色の鎧を纏い、紙より薄いであろう魔力で構築した長剣を一誠の大剣に振るった女性、

ウルスラが淡々と言った。その長剣を受け流した上に弾き飛ばし、ヴェロニカの隣に並んだ。

 

「ウルスラ・・・・・」

 

「私も精進したいと思っております。それに私たちでもイッセーを勝てる確率はほぼ無いでしょう」

 

「こうすればもっとなくなるがな」

 

虚空を歪ませ大剣を仕舞ったと思えば、金色の軍杖を取り出した。

そしたら一誠が何やらぶつぶつと呟けば―――一誠が数人に増えた。

 

「・・・・・分身か・・・・・!」

 

「実力はほぼ変わらない。俺以外の分身は魔力で構築したものだから安心して気兼ねなく

殺してくれ。―――一撃を与えれたらの話がな」

 

「ですが、その杖で王女殿下と私の神剣フラガラッハに耐えられるので?」

 

ウルスラの疑問なあっという間に解消された。軍杖に金色の光が纏うと、

一気にウルスラへ跳躍した。

 

「っ!」

 

ガッキイイイイイイイイイイイインッ!

 

魔力で構築した刀身と魔力を纏う軍杖がぶつかり合った。

神剣フラガラッハに切り落とされず、軍杖は鍔迫りをしている。

 

「問題はない」

 

不敵に笑む一誠。それが合図だったかのように、

分身体の一誠たちがヴェロニカとウルスラに襲いかかった―――。

 

―――○♢○―――

 

「仮面舞踏会・・・・・?」

 

「はいそうなんですよ。勿論イッセー様も出ますよね?」

 

ヴェロニカとウルスラとの模擬戦を終えた。その時の時間は昼過ぎにまで経っていたので、

昼食を摂らず自室に戻ろうとすると、コゼットと出くわし、

今夜の予定を説明してくれたのである。

 

「ただ仮面を付けて無礼講に話し合うんだろう?俺の世界でもよくしていることだ」

 

「まあ、そうだったんですか。異世界とはいえ、同じことをしていることがあるんですね。

それで、参加(・・)なされるんですよね?」

 

「・・・・・なんだか、重みが籠っているような気がする。いや、俺は―――」

 

「参加、なさるんですよね?」

 

笑顔をズイッと近づけるコゼット。コゼットから何やら威圧感が感じ、一誠はしばし沈黙した。

 

「・・・・・参加するよ」

 

「ふふっ、かしこまりましたわ」

 

微笑するコゼット。やはり、侮れないなと心の中で呟き、仮面舞踏会に参加すると告げるしかなかった一誠である。

 

「イッセー様」

 

「なんだ?」

 

「―――お姉ちゃんと一緒に寝られてどうでしたか?」

 

その言葉に、一誠は言葉を失ったのであった。

対照的にコゼットは不気味にニコニコと笑みを浮かべ続けていた。

 

「まさかと思うが・・・・・お前が連れてきたのか?」

 

「いえいえ、私は姫様をもて―――いえ、お相手をしていましたので、

お姉ちゃんをイッセー様の御室に運ぶなどできませんわ」

 

「いま、弄んでいたと言わなかったか?」

 

「あらあら、面白い御冗談を・・・・・うふふ」

 

それから、一誠はコゼットと別れ自室に戻った。中に入ればガランとしていて、

誰もいなかった。朝、ベッドで共に寝ていたラーズやプリムの姿も見えない。

 

「さてと、まだ早いが手入れをしよう」

 

魔方陣を展開したと思えば、魔方陣から大量の水が収まっている平べったくて

大きな桶が出てきた。

 

「今回はこっちだな」

 

―――一誠の腰辺りにフワフワとした動物の尾が九本も生え出した。

快晴の天気の日差しで尾がキラキラと金色に輝く。

徐に上着も脱ぎ出してタオルを手にすると桶の水に浸けてある程度水分を抜くと―――。

 

―――こんこん・・・・・。

 

その時、誰かがドアを叩いたので、一誠は一本の尾で扉を開けた。

 

「・・・・・なんだ、これ・・・・・」

 

「どうした、シルヴィア」

 

「お前・・・・・」

 

そう、あのシルヴィアが信じられないものを見る目で、戸口に佇んでいるのだ。

純白のブラウスに、青いスカート―――一誠個人では滅多に見せない

私服姿のシルヴィアが一誠に訪問したのだった。

 

「その九本の尻尾は・・・・・」

 

「ああ、狐の尾だけど?」

 

「ドラゴン、ではないのか?」

 

「俺の力の一つだ。そこは気にしないで入ってくれば?」

 

一誠の促しにコクリと頷いてシルヴィアは扉を閉ざす。

 

「昼食時、お前は顔を出さなかったが一体どこにいたのだ?」

 

「ヴェロニカとウルスラと模擬戦をしていた」

 

「・・・・・」

 

米神を摘まむシルヴィア。大陸会議(エリュシオン)と仮面舞踏会を控えていると言うのに

一歩間違えれば騒動を起こしてしまうようなことを一誠たちはしていたのだ。

当の一誠は一本の尻尾を濡れたタオルで撫でるように拭いていた。

 

「イッセー」

 

「どうした?」

 

「その・・・・・なんだ、手伝おうか・・・・・?」

 

恐る恐ると申し出たシルヴィアを、一誠はコクリと頷いた。

 

「お願いする。尻尾を終えたら今度は翼もするからさ」

 

「そ、そうか。ならば一人でやるより二人でやった方が良いな!

そうすれば終わる時間が早くなるというものだ!」

 

シルヴィアの妙に緊張しているのを見ていたら、小さく笑ってタオルを渡す。

タオルを受け取り、水分を含ませてある程度絞れば、片手で尻尾を添えるように持った時だった。

 

「・・・・・おお、柔らかい。フワフワしているな」

 

尻尾の肌触りと弾力差に感嘆する。その感想に一誠は微笑んだ。

 

「これで抱き枕にして寝ることもできるんだ」

 

「では、どうして今までしなかったのだ?」

 

「・・・・・・俺自身が抱き枕になるからだよ」

 

溜息を吐く一誠に、心当たりがあるようで・・・・・・サッと頬を紅潮させた。

選抜合宿時、アロンヌ湖で翼を展開して寝ていた一誠を余所に、

コゼットが半ば強引に金色の翼に寝転がらされた時には、あっという間に眠ってしまった。

その数時間後、シルヴィアは一誠に抱きつく形で起床したのだ。

 

「あ、あの時のことを言っているのか・・・・・?」

 

「ん?まあ、他にも理由はあるけど、たまにこうして手入れをしているんだ。

誰かと戦闘し、誰かに抱きつかれてもいいように。ところでシルヴィア。

知っていると思うけど仮面舞踏会には出るのか?」

 

「王族の一人として出ないわけにはいかないだろう。そう言うお前は?」

 

「・・・・・コゼットに強く勧められた感じで参加する」

 

「・・・・・すまん」

 

自分の侍従の言動を想像して、シルヴィアは謝罪しなければならないような気がして謝罪した。

 

「それにしても・・・・・シルヴィアの私服は何か新鮮だな」

 

「な、なんだ藪から棒に・・・・・」

 

一誠に真っ直ぐ顔を向けられ、ドキッと胸が高鳴るのを感じつつ、

シルヴィアはうろたえる。

 

「だって、いっつも学院の制服だからさ。

私服姿のシルヴィアを見ることはできているのって俺とアッシュだけだろ?

なんか、優越感を感じるな」

 

「―――――っ」

 

自分の顔が赤くなっていくことのが分かり、思わず一誠から視線を逸らした。

それから無言で一誠の尾の手入れが終わると、今度は六対十二枚の翼を生やしだす。

 

「お前の翼は綺麗だな」

 

「そうか?」

 

「ああ、誇って良いぐらいだぞ」

 

濡れたタオルで翼も拭き始める。およそ十分ぐらいで終わり、

手入れを終えた一誠はベッドに寝転がった。

シルヴィアはおずおずとベッドの縁に腰を掛ける。

 

「手伝ってくれてありがとうな」

 

「れ、礼を言われるようなことはしていない」

 

「ところで、仮面舞踏会に出るならドレスを着るんだろう?」

 

「そうだが・・・・・その・・・・・少々、キツイ部分があったのでな。

ちょうど今、仕立て屋に直させているのだ」

 

その言葉に「そっか」と相槌を打った。

 

「それに仮縫いは終わったからな。サイズ直しが終わるまで、モデルは用無しだ」

 

シルヴィアはそこで言葉を切ると、もじもじと恥ずかしそうにうつむいていたが、

やがて、意を決したように口を開いた。

 

「その・・・・・暇人同士、少しは無しでもできればと思ってな。

もっ、勿論、暇じゃないと言うなら退散するが・・・・・」

 

一誠は苦笑した。シルヴィアは妙に緊張している。起き上がって、

ベッドの縁にいるシルヴィアの背中に寄れば、背後から抱きつく形でシルヴィアを抱き締めた。

 

「いや、やることもないし。暇っちゃあ暇だった」

 

「・・・・・何で背後から抱きつくのだ」

 

「んー、シルヴィアが可愛い小動物みたいにそわそわしているから抱きつきたくなった」

 

「かっ、かわっ・・・・・!?」

 

理由は嘘だが、シルヴィアの緊張をほぐすために抱きついたのが本音だった。

両腕をシルヴィアの腹に回して引き寄せると一誠の腹とシルヴィアの背中がより密着した。

 

「ちょっ、イ、イッセー・・・・・・!」

 

服越しから感じる一誠の温もり。ここまで異性に抱きつかれたことがないシルヴィアに

とって恥ずかしい思いで一杯だろう。

 

「(何て力強い・・・・・)」

 

振りほどこうにも一誠の両腕はガッチリとシルヴィアの腹に回されている。

その腕に触れて内心感嘆する。

 

「(それに一誠から感じるこの温もり・・・・・何故か安心する)」

 

先ほどまで妙に緊張していたシルヴィアは次第に口元を緩ます。

背後からその様子を見ていた一誠の口が開いた。

 

「緊張がほぐれたようだな?」

 

「・・・・・ああ、ありがとう」

 

感謝を述べるシルヴィアは顔だけ一誠に向ける。

 

「お前に話したいことがある、聞いてくれるか?」

 

その問いかけに一誠は快く頷いた。

 

―――○♢○―――

 

とある庭園。だが、ろくに手入れもされておらず、

一輪たりとも花は咲いていない上に廃園という言葉がぴったりの場所だった。

雑草が伸び放題で今にも崩れ落ちそうな、二階建ての家屋。まるで廃墟だ。

玄関口の脇には石碑が建てられており、その廃墟が旧王宮であることを示している。

 

「おお・・・・・!ここが聖地か!」

 

「ここにいればエーコと遭遇するはずだ」

 

「お前、本当に付いてきやがったな」

 

「お前だけ良い思いするなんて許せないだけだ」

 

その場所に招かざる客もとい、ギルフォードとランサーが潜んでいた。理由はエーコ誘拐。

 

「えーと、雨も降ってくるし傘の準備も万全。

長時間の張り込みを予想してテントの組み立てもしなくちゃな」

 

「・・・・・何気に楽しんでいないか?」

 

ゴソゴソとテントを組み立て始めるランサーに若干呆れているギルフォード。

ランサーは嬉々として笑む。

 

「楽しまなきゃ損!―――というか、お前が珍しいと思うんだよな」

 

「どういう意味だ」

 

「だってよ。女好きのお前が学校にいる女どもとイチャイチャニャンニャンせずに

俺とここにいるんだぜ?これから悪役になろうとしている俺についてきているし、

お前にとって損な事ばかりだぞ?いいのか?今までの生活ができなくなるかもしれないぞ?」

 

ランサーの疑問にはギルフォードは承知の上だとランサーに何も言わず空を見上げる。

どんよりと曇っている今にも一雨きそうな様子だった。これから起こるであろう

イベントはもうすぐだと物語っているようだ。

 

「ふん、正体を隠すために変装用を持っている奴が何を言うか」

 

「HAHAHA、イッタイナンノコトダロウカ」

 

「まったく・・・・・うん?」

 

ギルフォードが何かを察知したように反応する。

 

「どーした?」

 

「いや・・・・・どうやらお客さんが来たようだ」

 

「・・・・・ああ、そういうことか」

 

二人が知るこの後の出来事、それが今―――始まった。

どこからともなく王室使用人の服装を身に包むウェイターが現れた。数は五人だ。

 

「早速退場を願おうっか!」

 

ランサーが物凄い速さでウェイターに接近した。まるで狼を思わせるかのように体勢を低くして

掛けて行く。

当然、ランサーの存在を察知したウェイターたちも無力化するために行動を移す。

 

「―――影分身の術―――」

 

両手の人差し指と中指を一本にして、十字にすると、

ランサーの周囲に煙と共に四人のランサーが

姿を現した。その光景にウェイターは目を見張った。

だが、その隙を逃さないランサーである。

 

「「「「「ほわっちゃーっ!」」」」」

 

弾丸の如く、飛び蹴りを放って蹴り飛ばした。二階建ての家屋の壁にぶつかって、

一発で戦闘不能にした。戦闘が終わると、本物のランサーを除く四人が煙と共に消失した。

 

「・・・・・某忍者の技か」

 

「おっ、知っていたんだ?―――お色気の術、してやろっか?」

 

「しなくていい!」

 

怒鳴るギルフォード。倒した五人のウェイターに興味がないとばかりギルフォードに

話しかけながら寄った。同時に雷が鳴った。ぽつ、ぽつ、と雨が落ちてきたかと思うと、

激しい夕立と化した。真夏にしては、冷た過ぎるほどの雨滴だった。

 

「なあ・・・・・・そろそろエーコがくるはずなのにまだ来ないんだけど」

 

「俺に聞くな」

 

ぶっきらぼうに返事をするギルフォード。雨が降ってきたので傘を差し出すランサーは、

もう一本の傘をギルフォードに手渡ししながら疑問をぶつけた。

 

「おっかしいなぁ・・・・・お客さんも倒したし・・・・・遅いじゃないかよ」

 

まだ、エーコを待ち続けているギルフォードとランサー。

二人が予想していた時間や出来事が起きようともしない。

 

「・・・・・原作通りに進んでいないということになるな」

 

「なんだって?」

 

疑問を浮かべるランサーに顎に手をやって、思っていたことを口にする。

 

「俺は生徒会会計のマックスを弾き、俺が生徒会会計の位置にいるから

本来あいつが出てくるはずのシーンがなくなった。つまり、俺たちが原作通りになるはずだった

ところを割り込んで、本来起きるはずのことが起きなくしているというまるで

邪魔者のように行動をしている」

 

「・・・・・」

 

怪訝にギルフォードを見つめるランサーは、これまでの自分の行動を思い出す。

―――傍観していた俺はなにもしていないんじゃね?

 

「お前、アーニャにちょっかい出した時点で原作通りに進んでいない一部としてなるぞ」

 

「なにを言うか!アーニャちゃんの萌え姿を見るのが俺の生き様なのだ!

というか、お前にだけは言われたくない!レベッカやシルヴィア、

ルッカに近づいているくせに!」

 

「―――だが、俺たちよりも原作の登場人物たちと接している奴がいる」

 

忌々しそうに、ギルフォードはフォンティーン城を見据える。

 

「イッセー・D・スカーレットだ。あいつが、原作通りになるはずだったストーリを

滅茶苦茶にしている」

 

「・・・・・あいつか、正直。あいつが何者なのかさっぱり分かんねぇ。取り敢えず、

転生者ではないと分かって入る」

 

「ふん。これ以上、転生者が現れてたまるか。俺とお前、他に誰がいるというんだ」

 

「案外、結構イカれた奴が転生していたりしてな」

 

それはそうと、とランサーは問いかけた。

 

「そういやお前、転生前はどんな奴だった?」

 

「・・・・・」

 

ランサーの問いかけに、ギルフォードは「教えるか」と黙り込んだ。

 

「つまんねぇ奴。あー、暇だな。―――よし、変化!」

 

突如、煙に包まれたランサー。煙が止むとそこにいたのは―――一人の中年男性だった。

ランサーの顔とは全く別の顔で、口の部分に無ので覆い隠し、逆立てた銀髪の中年男性だ。

 

「何の真似だ?」

 

「いやー、変装だよ。ほら、お前も変装しておけ」

 

声までも変わっていた。

この中年男性がランサーだとは目の前にいたギルフォードしか気づかないであろう。

―――ランサーは小石を拾ってとある方へ投げた。

 

ドッガアアアアアアアアアアンッ!

 

「きゃっ!」

 

小石はとあるポツンと佇む壁に直撃すると、木端微塵にした。

すると、女性の短い悲鳴が上がったかと思うと―――ピンク・シルバーの少女が出てきた。

 

「・・・・・」

 

「お前、気を探知することができる能力を特典にしなかったろ?」

 

ランサーの問いかけにギルフォードは苦虫を噛み潰したかのような表情となった。

そんな二人に、ピンク・シルバーの少女―――エーコが警戒の色が籠った瞳を真っ直ぐ向けて

言い放った。

 

「あんたたち一体何者?」

 

「「・・・・・」」

 

エーコの警戒が含んだ声音と共に発せられた言葉を耳にして、ランサーは獰猛に笑みを浮かべた。

 

「アーニャちゃんラブリーの者だ!」

 

「・・・・・はぁ?」

 

意味が分からないと、怪訝な表情を浮かべ出すエーコだった。

 

「―――悪いけど、お前を捕まえさせてもらうぜ?その後は・・・・・たっぷりと

可愛がってやるからな」

 

―――ゾクッ!

 

何とも言い難い気持ち悪さ、悪寒を背筋から感じ始めたエーコ。

なにか、自分の身によからぬ事をしようとしているようにも思い出した。

 

「あっ、言っておくが。性交的な意味じゃないから」

 

「そうであってもなくても、あんたは危険な奴だと肌で感じるわよ!」

 

「まあ、ある意味そうかもな」

 

ザッ、ザッ、ザッ、と歩を進め出す。その歩調に合わせてエーコも後退りする。

 

「ふっふっふ・・・・・俺の野望がまた一歩、叶うことができる・・・・・!」

 

「あ、あんたの野望ってなによ・・・・・」

 

「ふっ、聞きたいか?」

 

その言葉を待っていたとばかり、ランサーは満面の笑みを浮かべた。

 

「それはな?」

 

ランサーの口が開いた。―――そのとき、ランサーとエーコの間に影が現れた。

 

「―――珍しいところに会ったな」

 

「・・・・・げっ」

 

「あんたは・・・・・」

 

影の正体にランサーは困ったような顔を浮かべ、エーコはどうしてここに、

と信じられない顔を浮かべた。

 

「俺が知っているランサーとは違うが、気は確かにランサーのものだな。

それと・・・・・ギルフォード・・・・・共通性がある組み合わせだな」

 

二人の間に割り入ったのは―――一誠であった。

 

―――○♢○―――

 

シルヴィアが告白を終えた時、一誠は神妙な面持ちでシルヴィアを見詰める。

 

「あのミルガウスが、ジュリアスでお前の兄だったとはな・・・・・」

 

「もしもの話しだ・・・・・だが、兄上が生き延びていたことは、純粋に嬉しい。

モルドレッドを殺害した件についても、きっと深刻な事情があったんだと思う。

だが・・・・・どうして兄上が帝国なんかの手先になって、

この騎士国に災いを起こしているのだろう?それだけが、

どうしてもわからない。私は一体、どうすればよいのか・・・・・・」

 

シルヴィアは口を閉ざすと、俯いた。一誠はシルヴィアが背負っている物の大きさを感じつつ、

口を開いた。

 

「簡単なことだろう」

 

「・・・・・?」

 

シルヴィアは顔を上げると、不思議そうに一誠を見つめた。

 

「気になるなら直接本人を捕まえて尋問すればいい。ヴェロニカと一緒にな」

 

「それができるなら、苦労はしない」

 

「俺も捕まえるのを手伝うさ」

 

そう言って不敵に笑む。笑みを浮かべる一誠を見た途端、シルヴィアは―――。

 

「お前の言う通りだな」

 

意外にも、シルヴィアは晴れやかな笑顔を浮かべた。

 

「ありがとう、イッセー。お前のおかげで心の重しが取れた気がする」

 

「ん、それはなによりだ」

 

綺麗な金髪を撫で始める。そのとき―――一誠が急に立ち上がった。

次の瞬間、強烈な閃光が走ったかと思うと、雷鳴が轟いた。

まるで耳の傍でなったように思えるほど、激しい音だった。ふと窓に目をやると、

外は土砂降りである。今さらのように、雨の匂いを感じた。

 

「きゃああああああっ!」

 

案の定、臆病な一面があるシルヴィアは、たちまち恐怖の相を浮かべると、

絹を裂くような悲鳴をあげた。恐怖のあまり我を失ったらしく、一誠の胸に飛び込んでくる。

 

「エーコが外にいる・・・・・どうしたんだ?」

 

疑問の面持ちで外を見つめる一誠の対象的に、シルヴィアはガクガクと震えながら、

一誠にしがみ付いている。雪白の頬に、長い睫毛が影を落としている。

 

「大丈夫」

 

金色の翼を生やし、シルヴィアを覆う。すると、雷の雷鳴が途端に鳴り止んだ。

 

「大丈夫だ、シルヴィア」

 

子供をあやすように宥める。髪を梳かすように手で撫で続け、安心させようとする。

・・・・・どのぐらいの時間、そうしていたのだろうか。シルヴィアは一誠の胸から顔を上げる。

よほど怖かったのか、目尻には涙の玉が浮かんでいる。

 

「なっ・・・・・!」

 

我に返ったシルヴィアは、頬を染めた。ようやく事態を悟ったのだろう。

一誠の顔を覗き込んでいるという、これではまるで結ばれぬ、許されぬ愛に恋い焦がれ、

一国の姫君が平民へ抱きついているシチュエーション―――。

 

「悪い、シルヴィア」

 

「え・・・・・?」

 

「外に行ってくる。エーコが外にいるから気になってな」

 

「エーコが・・・・・?」

 

疑問を浮かべるシルヴィアから離れ、一誠はテラスに繋がるガラス張りの扉へ足を運び、

扉を開け放った。外はまだ雨が降っている。

 

「ちょっと、行ってくる」

 

そう言い残し、一誠は飛び出した。

そして、雨が降る中で向かった先は・・・・・・廃墟と化となった二階建ての家屋―――。

そして、ピンク・シルバーの少女と銀髪の中年男性の前に割り込む形で降り立った。

 

「―――珍しいところに会ったな」

 

「・・・・・げっ」

 

「あんたは・・・・・」

 

影の正体にランサーは困ったような顔を浮かべ、

エーコはどうしてここに、と信じられない顔を浮かべた。

 

「俺が知っているランサーとは違うが、気は確かにランサーのものだな。

それと・・・・・ギルフォード・・・・・共通性がある組み合わせだな」

 

二人の間に割り入った一誠は視線をランサーとギルフォードに向ける。

 

「えーと、お前・・・・・どうしてここにいるんだ?」

 

「エーコが外にいるからな。気になったわけだ」

 

「あっそうなの・・・・・」

 

「今度はこっちが問う。どうしてお前ら二人揃ってここにいる?」

 

相当も視線はランサーに向ける。お前が答えろと言わんばかりにだ。

 

「返答によっては・・・・・お前らを叩きのめすぞ」

 

睨みつけるようにランサーを見る。ランサーは困ったような顔を浮かべる。

 

「えっと、イベントを見たいが為にここにいるんだ」

 

「イベント・・・・・アロンヌ湖でもそう言っていたな。

転生者はこの世界で起きることを知っているのか?」

 

「それは教えられないな」

 

「教えられないと言った時点で、暗に肯定したようにも判断できるんだがな」

 

「分からないって言っているようにも判断できるぜ?」

 

平行線での話し合いはすぐに終わった。

 

「じゃあ、そのイベントにエーコが必要だってことだな?」

 

「・・・・・」

 

「沈黙は是也だ。ランサーくん?危険なイベントならすぐにエーコを飼い主のもとへ

送り返さないとな」

 

「―――エーコちゃん!」

 

そこへ、一人のメイドが現れる。―――プリムであった。

 

「―――プリム、エーコを頼む」

 

「で、でも・・・・・」

 

不安げにプリムはランサーとギルフォード、一誠を交互に視線を送る。

 

「大丈夫だ。追い返すには多分、時間は掛からないと思うから」

 

不敵に笑む一誠。プリムはジッと一誠を見つめ、

コクリと頷くとエーコの手を掴んでこの場から離れた。

 

「見た目で判断していないか?」

 

ランサーがそう訊ねてきた。首を横に振る一誠はこう言った。

 

「油断なんて、どんな相手でもしないのが俺の戦い方だ」

 

「はっ、真っ直ぐでいいじゃないか。だったら―――こっちもマジでいくとしようか、

イベントを起こさせるためにもな」

 

不敵に笑むランサー。一誠も警戒して臨戦態勢に入った。この場に緊張が走る。

見守られる中、一誠とランサーは―――。

 

「そんじゃあ・・・・・仕切り直しといこうか!―――多重影分身の術!」

 

周囲に煙が大量に発した。不思議そうに回りを見ていると―――。

 

「・・・・・ゴキブリか?」

 

『ちげぇー!』

 

百人はいるだろうか、ランサーが大勢で至るところに煙と共に現れた。

同時に一誠の失礼な発言に総ツッコミした。・・・・・とても異様であった。

 

「この数で相手にするのは酷だろう。俺の勝ちだと思ってもいいよな?」

 

勝ち誇った顔を浮かべるランサーだった。神に要求した特典の一つ。

とても、百対一で敵うと思うとは誰も思いもしないだろう。それは、常人であったらの場合だ。

溜息を吐き、片手を天に翳した。それに呼応して上空に巨大な魔方陣が展開する。

 

「なにを・・・・・?」

 

刹那、ビガッ!ガガガガガガガッ!と雷光が魔方陣から迸り、百体の分身体に直撃した。

 

「誰の勝ちだと思った?」

 

「マ、マジかよ・・・・・・」

 

分身体が雷光と直撃した途端、煙と共に消失した。その光景に嫌な汗を掻き出すランサー。

 

「今度はお前だ」

 

雷光はランサーに襲いかかる。ついでにギルフォードにもだ。

 

「俺はついで!?」

 

降り注ぐ雷。雷と直撃しないように逃げ惑うランサーとギルフォード。

 

「おい!何か策はないのか!?」

 

「・・・・・俺たちは不死なんだから、当たっても大丈夫だろうが」

 

「―――あっ、そうだった」

 

その考えに至ったランサーは、真っ直ぐ一誠に跳びかかった。

 

ビッシャアアアアアアアアアァン!

 

「って、やっぱり嫌だ!当たると感電して痛いじゃねぇか!」

 

「このドアホ!」

 

「(・・・・・見てて面白いな)」

 

そう思って直ぐに体勢を低くして掛け出す。

 

「そらぁっ!」

 

雷を降り注ぐ魔方陣の中に自ら突入して、ギルフォードに蹴り飛ばした。

 

「―――それが、神から特典とやらを得た力で、実力なのか?」

 

ドゴンッ!

 

「―――――っ!?」

 

「あまりにも、動きに無駄があるし、速度が遅すぎる」

 

続いてランサーには拳で殴り飛ばした。

 

「お前ら、戦闘経験がないだろ」

 

その指摘の間、一誠に吹っ飛ばされた二人は体勢を整えていた。

雷を降り注いでいた。上空の魔方陣も何時の間にか消失していた。

 

「宝の持ち腐れってまさしくこういうことだろうな。能力がチートでも、

本人が駄目なら能力が最大限以上発揮出来やしないんじゃ意味がない」

 

嘲笑とも侮蔑とは違う。真っ直ぐ、ランサーとギルフォードの実力に呆れている一誠。

だが、傷口が見る見るうちに塞がって治ってしまった。

 

「だけど・・・・・俺は不死身だ、不老不死だぞ?負けようが俺は死なない」

 

「・・・・・はぁ」

 

「な、なんだよ?」

 

あからさまに溜息を吐く一誠に当惑する。怖ろしくないのか?恐れ戦かないのか?

戦慄しないのか?

 

「不死身とか不老不死とか、そういう絶対死なないとか永遠の命で負けないって思っていると、

痛い目に遭うぞ」

 

「どういうことだ・・・・・?」

 

「『絶対に死なない』。それこそが、己を油断させ、判断力を鈍らす原因の一つだ。

それと、どうやら痛覚があるらしいな?」

 

「それが・・・・・?」

 

疑問をぶつけた次の瞬間、ランサーの左腕があっさりと両断した。

一拍して、ランサーはあまりにも堪えがたい激痛に悲鳴を上げた。

 

「それはお前らにとって生き地獄だ。何度再生すれば俺は何度も切り捨てる」

 

一誠の背中から生えている一対の金色の翼。対象的にランサーの腕はまた再生を始める。

 

「ランサー、不死身にも色々と種類があるんだけど知っているか?」

 

「なん・・・・・だと?」

 

「心臓や脳を破壊されても死なない不死身。

身体がバラバラになっても一定の時間で元に戻って復活する不死身。

自己再生で傷が治る不死身。死という概念を知らない不死身。永遠の命もその類だろうな」

 

ぺらぺらと不死身の詳細を語る一誠。

訳が分からんといった表情を浮かべるランサーの耳に驚愕的な言葉が入った。

 

「まあ、なにが言いたいのかというと―――魂と肉体を分離させるか、

石化、首だけ切り落として何かに詰めこんで密閉して、深海の海の底に沈めればいい。

そうすれば、不死身も不老不死もそのやり方をすれば無力化にすることができる」

 

「―――――っ!?」

 

満面の笑みと共に告げられた不死の倒し方。そんな事をハッキリという一誠にランサーは

初めて恐怖を感じた。そんな方法を編み出している一誠は―――。

 

「(不死身、不死、不老不死の能力を持った奴と戦ったことがある・・・・・!?)」

 

「さて・・・・・お前はどんな方法で死にたいか?生首だけか?石になりたい?」

 

「待て待て!殺したらお前は犯罪になんぞ!?」

 

「大丈夫、人が見ていないところですれば問題ないから」

 

そう言って一誠は飛び出した。対するランサーも焦心に駆られながらも戦意が消えていなく、

迎え打とうとする。

 

「―――イッセーッ!」

 

そこへ、青いスカートを靡かせながら掛けてくるシルヴィアが現れた。

そのすぐ後ろにプリムとエーコもいた。その三人の登場に一誠は絶句した。

 

「ばっ、なんで現れたんだよっ!?」

 

「―――多重影分身の術!」

 

ランサーがまた百人煙と共に出現した。その瞬間、一斉にシルヴィアたちに襲いかかった。

その光景に舌打ちをする暇もなく、一誠も動き出してランサーの分身を屠り始める。

 

「ちょっとっ!私を放しなさい!」

 

エーコが一人の分身に捕まれた。すかさず、その分身を殴り飛ばしてエーコを助けると叫んだ。

 

「お前は何で戻ってきたんだ!」

 

「誇り高き竜族の私が敵に尻尾巻いて逃げるなんてできないわ!」

 

「そんなプライド、自分の命とどっちが大事だ!この大食いのバカドラゴンがっ!」

 

「はぁっ!?それが助けにやってきた者に対する言い方!?

この愚劣で愚鈍で愚昧な余所者のドラゴン!」

 

「狙われている奴に助けられても嬉しくねぇよっ!」

 

刹那、一誠の周囲の虚空から金色の鎖が飛び出してきた。

 

「これは―――!」

 

がっしりと全身に巻きついて拘束された。その様子にギルフォードは鼻を鳴らす。

 

「『天の鎖(エルキドゥ)』。お前を拘束するのに訳が無いんだ。―――トドメだ」

 

「悪いな、急所だけは狙わずに突き刺してやるよ」

 

―――ドスッ!

 

拘束された無防備の一誠の身体に黄色い槍が貫かれた。だが、一刺しで終わらなかった。

両腕や両足、肩や太股、腹部、その他至るところに黄色い槍で貫かれた。

周囲のランサーの分身体によって。

 

「イッセェェェェェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!!!!!」

 

悲痛に叫ぶシルヴィア。プリムとエーコも絶句して全身から血を流す一誠を見つめていた。

 

「おい、早くエーコを捕まえてこい」

 

「分かってるよ」

 

素早く、複数の分身がエーコを捕まえる。

 

「ちょっ!なにすんのよ!放しなさいよ!」

 

「気絶させっか」

 

煩そうに耳に指を突っ込んでいるランサーが分身に視線をくれば、

その意図に察してエーコの首筋に手刀を叩きこんだ。

そうすることで、エーコはガクリと意識を失った。

 

「んじゃ、行こうか」

 

「ああ」

 

―――そのときだった。

 

ゾクッッッ!

 

「「っ!?」」

 

二人の全身が金縛りにあったかのように、身動きが取れなくなったのだ。

 

「な、なんだ・・・・・!」

 

「身体が・・・・・動かない・・・・・!?」

 

「―――よくも、やってくれたのぉ・・・・・」

 

ヌルリと嫌な悪寒が感じる。背後に何かがいると、確かに感じている。

 

「一誠を殺さなかった事には褒めてやろう。

でなければ・・・・・貴様ら妾の手で何度も何度も引き裂いておったわ・・・・・」

 

細い指が、ギルフォードの首に触れる。同時に、途轍もない殺気に身体を振るわせ始める。

声は女性だった。言葉使いはどこかの高貴な家に生まれた所以であろうか。

 

「だが、そう易々と逃す妾ではない。―――どう嬲って、甚振って、弄んでくれようのぅ?」

 

「・・・・・っ!?」

 

背後にいた女性が二人の前に現れた。赤いリボン以外は黒いセーラー服。

腰にまで伸びた艶のある黒い髪。腰に金色の九本の尾を生やしていた―――外見で見れば

少女がそこにいた。

 

「お、おい・・・・・何の冗談だ・・・・・っ!?」

 

「な、なんでこの世界にいるんだ・・・・・!」

 

ランサーとギルフォードは驚愕の色を浮かべ出した。

 

「「―――羽衣狐だとぉっ!?」」

 

「ほう?妾のことを知っているとは転生者とかいう特権の者の特有か?」

 

肯定とばかり述べたセーラー服の少女の正体は羽衣狐。

―――金毛白面九尾の狐、羽衣狐。九尾の狐で大妖怪でもある。

 

「ならば、妾のその強さと怖ろしさも知っておろうな?」

 

その言葉に、二人は戦慄した。いくら自分たちが不死身や不老不死とはいえ、

相手がヤバすぎる。原作や色んな方法で知った羽衣狐の恐ろしさは、

他人事のように知識として見聞した。だが、実際に実体化して、対峙するとどうだろうか。

 

「(ヤバい!マジでヤバいっ!これがリアル羽衣狐のプレッシャーかよぉぉぉおおおおっ!?)」

 

「(あ、有り得ない・・・・・どうしてこの原作の世界に違う

原作のキャラクターがいるんだよ!?)」

 

歓喜や疑問、恐怖といった感情がごちゃ混ぜになって思考が混乱する。

だが、そんな二人を助けたのはランサーの分身たちだった。

 

「おい!早くエーコを連れていけ!」

 

「ここは俺たちが食い止める!」

 

「アーニャちゃんのために!」

 

「ジークアーニャ!」

 

「「「「「ジークアーニャ!ジークアーニャ!ジークアーニャ!」」」」」

 

群れ掛かる分身たち。最初に三人が襲い掛かれば、羽衣狐がただデコピンで弾き飛ばした。

 

「本体!行け!土遁・土竜洞!」

 

一人の分身が金縛り状態のランサーとギルフォードの足場を沈ませると、

すぐに新たな地面が塞いだ。

 

「こざかしいわぁっ!」

 

次の瞬間。炎の竜巻が吹き荒れて、まだ存在していた分身たちを全て焼き払った。

だが、後に残ったのは呆然と佇むシルヴィアとプリム。

全身で息をし、血を流している一誠だけとなった。

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