ヴァーリ、ルクシャナ、龍牙の移動速度は凄まじく三人は勘でどんどん遺跡の最深部に進んでいた。途中で出くわした魔獣たちを赤子のように相手をして無力化して行った。
実際、三人が遺跡都市カサノヴァに侵入したのは数日前なので、
この日まで一誠とはこまめに連絡している。探検するなら一定時間ごとに連絡しろ、
と一誠がその条件を付けて三人を探検させに行ったのである。
当然、人間を研究する学者であるルクシャナも異世界の古代の建築物を見てたいとヴァーリと
龍牙について行ったのだった。時にドラゴンの翼で飛行し続けたり、暇つぶしとばかり自分から
魔獣を相手にしたりとそうこうしていると三人は、
勘と偶然で遺跡都市カサノヴァの最深部―――超古代の遺跡でありながら、
どこか未来的でもある場所に到着していた。おそらくは、神殿だろう。
「ほう・・・・・こいつは驚きだな。まさか、こんな大深度にこれほどの
神殿遺跡が築かれていたとは」
結局、遺跡都市の最深部に眠る王冠は星冠サーン・アヴァスという名と星冠を守護する
魔獣がいるとしか分からなかった。が、それだけ分かれば十分と
ヴァーリは目の前の光景に対して感嘆の声を上げた。
「イッセーが言っていた宝冠も、もうすぐでしょうね」
「とても、荘厳な気配もします」
ルクシャナと龍牙も天井や壁面を眺めつつ、物珍しそうに周囲を観察しながら歩を進める。
天井には、植物の蔓や蔦、花など思わせる装飾模様が掘り込まれている。
その精緻さはもちろんのこと、これほど綺麗な状態で保存されていることも、驚きだった。
通路の左右には、こちらも優美な彫刻が施された円柱が、延々と等間隔に並んでいる。
「見て、全部の柱に綺麗な結晶が嵌めこまれているわ」
「どうやら、あの淡く光っている結晶がこの神殿を照らしているだな」
「そうですね。それに、魔力を感じます。ちょっと僕たちの世界の魔力とは違うみたいですね?」
やがって、ヴァーリたちは広漠とした大空洞に辿り着いた。
どうやら、ここが地下神殿の最奥に位置するらしい。床は綺麗な円形を描いていて、
まるで円形劇場のようだ。壁面には、綺麗な結晶が無数に埋め込まれ、
キラキラと七色の輝きを発している。
「途方もない空間ですね。天井が・・・・・見えませんよ?」
龍牙が頭上を仰ぎつつ、呆けたように呟いた。ヴァーリも真上を見上げると、
茫漠とした闇が広がっているばかり。結晶の光輝が届かないとは、
天井がどれほど高いのか想像もつかない。
「二人とも、あそこ―――」
と、先行していたルクシャナが注意を促した。ルクシャナの視線の先には、
ピラミッド風の巨大構造物が設置されている。
「うわぁー、ピラミッドですか?異世界にも存在していたんですねぇ」
「知らないとはいえ、私たちの世界にあるものを作りだすとは・・・・・・気に食わないが、
リゼヴィムが異世界に行きたがっていたのも頷ける」
「もう、そんな終わったことを話さないの。イッセーが心配するわよ?」
「その時は思う存分に甘えるとしよう」
「あっ、ズルイわ。私も甘えるんだから」
一誠のことが好きな乙女たちのトークに龍牙は苦笑を浮かべる。
それから二人は(ルクシャナはヴァーリに抱えられて)翼を生やして巨大構造物の頂上に向けて、
ゆっくりと浮遊する。やがてピラミッド風の構造物の頂点が、三人の視界に収まった。
「これが星冠サーン・アヴァスという宝冠か」
ピラミッドの頂点には、煌びやかな宝冠が安置されていた。
「この宝冠を守る魔獣がいると一誠さんから聞いたんですよね?」
「でも、その魔獣の姿はいないじゃない。そもそも魔獣が宝を守るって不自然じゃないかしら?
ドラゴンや聖獣ならともかく」
二人の魔獣に対する疑問はヴァーリも同じ気持ちであった。
取り敢えず、星冠サーン・アヴァスを手に取った。
「なるほどな、ものすごい魔力を感じる。宝冠に名があるだけの事だけあるな」
地面に降下しながら呟くヴァーリだった。
「―――ようやく、みつけだぞ」
そこへ第三者の声。三人が振り返れば―――見たことがない少女と女性を
金色の翼で包んでいた一誠がいた。
「あら、イッセーじゃないの。で、その二人は誰なのかしら?」
ルクシャナの尋ねに、三人に近づく一誠は言う。
「ああ、お前たちが遺跡探検している間に知り合ったんだ。・・・・・宝冠、手に入れたんだな」
「ええ、ですけど・・・・・魔獣なんていませんよ?どこにいるんでしょうか?」
迎撃態勢とばかり、空間を歪ませて大剣を取り出す龍牙。
ルクシャナも警戒してどこからともかく方天画戟を取り出して構えた。
「・・・・・お前、エクブラッドの者か?」
「はぁ?いきなり何言いだすのこの蛮人は?私はエルフよ。エ・ル・フ」
「―――エルフだと?」
自分を蛮人よばりされたことに対してマキャベリは気にしていないが、
共に翼に包まれているヴィットーリアが爛々と瞳を怪しく輝かせてルクシャナを
見詰めていた矢先だった。
「・・・・・・るるるるるるぅうううううううう・・・・・・!」
どこからともなく、不気味な唸り声が響いてきたのだ。
「どうやら、魔獣のお出ましのようですね」
「ふふ・・・・・どんな魔獣なのか、私は楽しみで仕方がないよ」
「私としては平和的に終わらして帰りたいわ。
イッセーの料理も恋しくなってきたところなのよ?」
「んじゃ、さっさと―――倒そうか」
四者四様、戦意を露わにする。
「るぅううううううううう・・・・・!」
不気味な唸り声は、延々と続く。あたかも、煉獄に落とされた亡者が唸っているかのようだ。
やがて地面がぐらぐらと揺れ始め、頭上からさらさらと砂が落ちてきた。
いまにも崩落しそうな気配である。
「今思えば、洞窟にある宝を求める時、こんな王道的な体験をするんだったな」
一誠は頭上の闇を見詰めた。これほどの唸り声となれば、かなり大型の獣だと思われる。
その刹那、頭上の闇からするすると、細い蔦のようなものが何本も降りてきた―――と思うと、
まずはルクシャナに襲いかかる。
「気持ち悪いわねっ!?」
無数の触手だった。赤黒い表面をてらてらと光らせながら、ルクシャナに斬り落とされる。
「触手って・・・・・こんな魔獣は初めてですが・・・・・」
「縛られるぐらいなら、私は一誠に縛られたいな」
龍牙もヴァーリも迫りくる触手に対して攻撃の手を加える。
「――――るぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんっ!」
と、身体の一部を切り落とされて激怒したのか、一際大きな咆哮が響いて、
洞内をビリビリと揺るがした。
「来るぞ」
頭上の闇を睨みつつ、身構えるヴァーリ。
「・・・・・」
一誠も五対十枚の金色の翼を広げて警戒する。
―――ずぅううううううううううううううううううううううんっ!
やがて、壮絶な地響きと共に―――。闇の深淵から、巨獣が飛び降りてきた。
「「「「なっ・・・・・!」」」」
四人が息を呑んだ。まるで闘牛を思わせる、ずんぐりとした威容。
一誠たちの世界の大型戦艦すら踏みつぶしてしまえそうな、常識離れした巨体である。
ここまで大きいと、もはや獣というよりも山が丸ごと動いているような印象が強い。
湾曲した角が二本。その双眸は、真紅に爛々と輝いている。体表面はどす黒く、
腹部からは蛇のような触手が無数に生えていた。
「な、これが・・・・・魔獣・・・・・?」
「大きいな・・・・・こいつがムルシエラゴって魔獣なんだな?」
マキャベリに問う一誠に、未だ翼に包まれながらもコクリと頷くマキャベリ。
「実物を見るのは初めてだがな」
「一先ず撤退しましょう、イッセー様。この場所で戦闘を行ってしまったら生き埋めになります」
ヴィットーリアが提案する。
「ん、そうだな。三人とも、撤退するぞ」
ルクシャナを抱きかかえて宙に浮く。ヴァーリと龍牙は来た道へ引き返そうとしたが、
「いや、そっちじゃない。もっと手っ取り早く地上に出られる方法があるだろう」
人差し指をはるか頭上の闇を指したのである。
「あなた・・・・・正気なの?」
「正気だが?まあ、見ていろ」
マキャベリの反応を気にせず、一誠は手を頭上に向けた。
その手は淡く光り輝き―――極太の柱と思わせる光が頭上の闇に向かって伸びて、
岩盤を地上まで貫いた。
「「・・・・・」」
その光景にマキャベリとヴィットーリオの二人は絶句した。
今の攻撃はまるでドラゴンのようなものだと、思わせたのだからだ。岩盤が地上まで貫いたことに
よって、三人は地上まで続く穴に飛翔する。その真下から魔獣の咆哮が聞こえる。
逃がさんと言っているように聞こえた。一誠たち三人が地上まで飛び続けていると―――ついには、
地上へ脱出を果たした。満点の星空が、三人を出迎えた。青白く照らし出された風景は、
遺跡都市カサノヴァの南端部だった。荒涼として、住宅地の後と思しき遺跡が残っているだけだ。
「あー、遺跡都市を後で直さないとな」
「なにを言ってるの?」
「こっちのことだ。―――くるぞ」
そう言った直後だった。耳をつんざく轟音と共に、大地が広範囲にわたり爆ぜ割れたのだ。
貴重な遺跡軍はことごとく崩壊し、闇の深淵に呑み込まれていく。
「ぐるるるるぅ・・・・」
そして、ムルシエラゴが地上に現れた。もはや遺跡都市の面影など、かけらもない。
まるで、一つの都市が魔獣ムルシエラゴに置き換わったような感がある。それほどの巨体なのだ。
魔獣は怒りも露わに、喉の奥で唸っている。
「あいつの背中・・・・・あれはなんだ?」
上空から俯瞰すると、ムルシエラゴの背中一面が岩盤と化しているのが、
はっきりと見て取れたのだ。ムルシエラゴが地上に現れただけで、
周囲は眩く照らし出されていた。その全身から発散された魔力が光輝となって、
暗闇を染めているのだ。ムルシエラゴが夜空に向けて咆哮している最中、
マキャベリが一誠の疑問に答えた。
「あれはミスリル鉱脈だ」
「ミスリル?」
マキャベリは笑みを浮かべて言い放った。
「ラブロック商工都市連合が掌握している
魔力と非常に反応しやすく金属なのだよ。ミスリルの最たる特徴は、魔力との相性が抜群。
魔力を流しこむことで、その性質を自在に調整できる。そして、ミスリルに鉄や鋼、
クロムなど加えた合金は、鋼より硬いことで有名なのだ。なおかつ、
魔力を遮断する結界としても利用できる。商人としてあれは喉から手を出しても欲しい金属だな」
「―――へぇ」
一誠は笑みを浮かべ出した。なら、あの金属を採取すれば東部都市群の経済は
もっと跳ね上がるはず。その上、この国のラブロック商工都市連合が掌握しているならば
他の国にミスリルを商売すれば―――。
「よし、あのミスリルも手に入れよう」
「ふふ・・・・・お前も商魂逞しさがあるのだな?」
愉快そうにマキャベリが小さく笑った。一誠も笑い返す。
「東部都市の経済がもっとよくなるなら当然だろう?
それと西部都市群と問題なく関係が続けけるためにもな」
しかし、と一誠は首を捻った。
「あんな禍々しい魔獣のミスリルが売れるのかどうか疑問だな」
「突然変異かもしれぬな。地下世界で、永い時間を過ごしている内に体内のミスリル鉱脈の属性が
光から闇に反転してしまったのだろう」
「もしかして、元は聖獣だったりしてた?」」
「さあな。だが、本来のミスリルは神聖な金属のはずだ。
何度もミスリルで商売しているから知っている」
マキャベリの説明に一誠は思考の海に潜った。元が聖獣なら、殺してしまうのも惜しむ。
と、満天の星空に異変が起きた。どこからともなく、どんよりとした雨雲が湧き起こると、
星空を覆い隠したのだ。そこに、雷鳴と共に暴風が重なっていく―――。
「まさか・・・・・天候を操作しているの!?」
ルクシャナは思わず、驚嘆の声を漏らした。
「生きた天災ですね」
龍牙も呆れ顔だ。
「だが、こっちにも天候を操ることができる者がいるだろう?」
ヴァーリが不敵に言う。視線は―――一誠へ向けられていた。
「一誠」
「了解」
徐に腕を横に振り払った時だった。一誠たちを包んで暴威を振る舞っていた暴風が霧散した。
「るぅおおおおおおおおおおおおお!」
咆哮するムルシエラゴ。一誠は龍牙に話しかけた。
「龍牙、宝冠を持っていてくれ。宝冠を守護する獣ならここに宝冠を留まらせておけば、
東部都市群に被害は出ない」
「分かりました」
素直に指示通り龍牙はヴァーリから宝冠を受け取って遥か上空に飛翔した。
その刹那、この場にいる誰もが予想もしていなかった現象が起きた。いや、起きたのではない。
ムルシエラゴ自身が、引き起こしたのである。
その巨体を中心に、次々と閃光が弾けたかと思うと、不定型の鉱石が次々と浮遊する。
そして、剣や槍を彷彿させる、鋭い形状に変形したのだ。
「んなっ!?」
ルクシャナが目を見開いた。金属製の武具が数十本、銀光と化して遥か上空に飛ぶ龍牙へ迫った。
「ミスリルを練成できるのか!?どうやら、触手だけの魔獣ではないようだ」
龍牙に迫る銀光は突如開いた空間の穴に、全て吸い込まれるように無くなって
龍牙へ直撃する危機は回避した。一誠は手を歪ませた空間に突っ込んで先ほどムルシエラゴが
練成したミスリル性の武器を取り出した。
「うーん・・・・・禍々しいな。確か、魔力を流すことで性質が変わるんだって?」
「ああ、そうだが・・・・・どうやってそれを取り出したのか聞きたいんだが?」
「終わってからな?」
再び亜空間に仕舞ってムルシエラゴを見詰める。
「るぅううううううううううううう・・・・・・っ」
ムルシエラゴの真紅の双眸は一誠に向けていた。その鋭い眼光に―――。
「おー、迫力あるな・・・・・・ははっ!」
楽しそうに笑みを浮かべる一誠。マキャベリが問うた。
「なにを笑っている?」
「いやー、異世界の強い存在と早速出会えて楽しいんだ。―――俺の力、
この世界でどこまで通じるのか試したくなった。ルクシャナ、この二人と一緒にいてくれ」
「分かったわ。でも、無茶しないでよ?」
若干呆れた感じで一誠にそう言う。一誠は頷く。
善処すると心の中で思い―――金色の魔方陣を展開した。
「メリア、三人を乗せてくれ」
「「―――っ!?」」
金色の魔方陣から巨躯の金色のドラゴンが姿を現す。神々しい光を全身から発しなおかつ、
頭上に金色の輪っか、背中に生えている翼は天使の翼と思わせる金色の翼だった。
『かしこまりました。主よ』
「ドラゴンが・・・・・喋った・・・・・」
「なんだ、この世界のドラゴンは人語ができないのか?」
ルクシャナとマキャベリ、ヴィットーリアを金色のドラゴン、メリアの背中に乗せる。
「吾輩たちがドラゴンに乗って大丈夫なのか?」
「問題ない。それじゃ、ヴァーリ。元は聖獣のようだから殺さず倒すぞ」
「分かった。―――
ヴァーリが強く発したその瞬間、全身が白銀のオーラに包まれだす。
そのオーラが鎧へと具現化しヴァーリの体に装着して、
龍を模した白い全身鎧と背中に青い翼を生やす姿へと変わった。
「俺も
―――○♢○―――
一誠自身も変化が起きた。真紅の髪が金色へと変わり、瞳が蒼と翡翠のオッドアイと変わり、
頭上に金色の輪っかが現れる。その姿は完全に天使そのものだった。
「・・・・・」
マキャベリは眩しい者を見る目で一誠を見詰める。
美しかった真紅の髪が神々しい金色へと変わった。
これが異世界の力・・・・・。マキャベリは今この瞬間に一誠は異世界の人間だと認めた。
右手に白い籠手、左手に赤い籠手を装着した一誠はヴァーリと共に魔獣ムルシエラゴへ突貫した。
「メリア、私たちも援護するわよ」
『話は伺っておりました。元は聖獣のようで。ならば、元の姿に戻す可能性があるでしょう』
「そう、だったらそうしたほうがいいわね」
ルクシャナとメリアの話を聞き、マキャベリは疑問が浮かぶ。
この世界のドラゴンは人間の
必要なエネルギー、
「エルフよ。質問したい」
「なによ?」
「このドラゴン、
マキャベリの問いに今さら何を・・・・・とルクシャナは思った。
「ええ、そうだけど?というか
『この世界の流通している言葉なんでしょう。我らが知らないのは当然です。
ですからあの子から色々と教えてもらっておるのでしょう?』
「・・・・・」
メリアの言葉に沈黙で返した。それは肯定とも取れてそれ以上メリアは何も言わず、
翼を羽ばたかせてムルシエラゴの上空にへ飛ぶ。
真下では一誠とヴァーリが次々と放たれるミスリル性の武器を避けながら攻撃の手を加えている。
『あの背中の鉱脈を破壊すれば、主たちは容易く倒せれるでしょう』
そう言うが否や、メリアは口からレーザービームのような光を放って、
ムルシエラゴの背中に直撃する。
「るぅうううううううううううううがああああああああああああああああああっ!」
メリアの攻撃は光、闇に反転しまった可能性があるムルシエラゴは、
明らかに変調をきたしていた。我を忘れたように、身悶えを始めたのである。
「効いているわ!」
『ならば、全力で光を浴びせましょう!』
カッ!と再び光の攻撃を放った。その攻撃を受け、ムルシエラゴは身悶える。
「なるほど、そう言う事だったのか」
と、メリアの攻撃に苦しむムルシエラゴ。その光景を見て一誠は翼面から十二の光の属性が籠った
レーザービームを放ってムルシエラゴに当てる。地面から巨大な鎖が飛び出て来て、
山のようなムルシエラゴの体を拘束した。
『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!』
『Transfer!!!!!』
赤い籠手から鳴り響く音声。その音声が力を倍増したとばかり、
一誠から感じる魔力が何倍にも膨れ上がり―――ダメ押しと光の攻撃が
最初の攻撃より威力が増して、ムルシエラゴに攻撃する。
そして―――。
壮絶な地鳴りと共に、ついに魔獣ムルシエラゴは膝を屈した。
ぐったりと頭を垂れた様子を見ると、もはや戦意は喪失したのだろう。それどころか、
全体的に黒々としていた体躯に変化が生じていた。
その全身が突然、白銀の輝きを帯びたのである。
「倒したのか?」
と、ヴァーリは一誠に近寄りながら尋ねたその刹那―――。
『感謝する。異世界の者とドラゴンたちよ』
っ!?
どこからともなく、荘厳な声音が響き渡った。一誠とヴァーリは顔を見合わせて、
頭を垂れたムルシエラゴの正面に着地する。魔獣の双眸に、もはや戦意は欠片もない。
それどころか、あれほど禍々しく光っていた瞳は、いまでは優しげにさえ感じられるのだ。
「今の声は・・・・・お前か?ムルシエラゴ」
『・・・・・いかにも。我が名はムルシエラゴ。あまりに長く生き過ぎた結果、
本来の属性を失い・・・・・闇属性に囚われた。
そして、ただ宝冠を守るだけの獣と化してしまった。そなたらのおかげで、
我は聖獣として甦り、知性と理性を取り戻すことができたようだ』
『そうですか。それは何よりです』
真上からメリアが降りてきた。戦いは終わったのだろうと宝冠を抱えていた龍牙も降りてきた。
「じゃあ、いくつか願いがあるんだけど、聞いてくれるか?」
すると、ムルシエラゴは豪快に笑ったのである。
『いわずとも、察しはつく。だが、星冠サーン・アヴァスはラブロックの至宝・・・・・たとえ
我を聖獣として甦らせたそなたらでも、軽々しく献上するわけにはいかん』
ムルシエラゴの話を聞き―――。
「は?」
『え?』
お門違いな返答が来たので、一誠が間抜けな返事をしたことで、
ムルシエラゴも間抜けな声を出してしまった。手を顔の前で横に振ってそれは違うと否定した。
「いや、宝冠は返すつもりだったんだけど・・・・・ただ、ミスリルを提供してほしいなーって
願いだったんだけど」
『・・・・・星冠を欲しがっていたわけではないのか?』
「俺たちはお前の背中にあるミスリルが欲しいんだ。ラブロックの未来の為にそれが必要だから」
そう言われ、尻目で自分の体を見たムルシエラゴ。そして、一誠に問いだす。
『他に願いがあるようだがそれはなんだ?』
「ああ、出会って早々で何なんだが・・・・・俺と友達になってくれ。ムルシエラゴ」
『・・・・・』
一誠の願いを聞いたムルシエラゴ。信じられないものを見る目でしばらく一誠を見ていたが突然、
豪快に笑いだしたのだった。
『我が生まれて以来、そんな事を言う人間は生まれて初めて見聞した。
そなたは変わっている異世界の者だな』
「ああ、自覚している。で、友達になってくれないか?」
『・・・・・良いだろう。そなたとそなたらには恩がある。我でよければ友となろう』
「おー、ありがとうな。ムルシエラゴ」
聖獣として甦ったムルシエラゴの鼻先を触れて笑みを浮かべる一誠。
その手から淡い金色の光が発生して、波打つようにムルシエラゴの体に広がり、
ダメージを回復させていく。拘束していた鎖も消失していた。
―――○♢○―――
「はは、これが本当のミスリルなんだな!結構綺麗じゃないか!」
地底に帰ったムルシエラゴを見送った後―――一誠の願い通り、
ミスリルの山を見て感嘆する一誠であった。
禍々しいミスリルの面影が既になく、神聖なミスリルとなって辺りを綺麗な輝きを放って存在感を
伝えてくる。そんなミスリルを見て一誠は興奮していた。
「本当ね。こんな鉱脈は初めて見たわ。やっぱり異世界は異世界なりに凄いわね・・・・・」
「そうだな。これから先のことを考えると楽しくなってきた」
「どんな出会いが僕たちを待ち構えているんでしょうかね。楽しみですよ」
三者三様とルクシャナ、ヴァーリ、龍牙も顔を明るくしていた。
「さて―――こいつを分けるとするか」
徐に空間を歪ませて何かを取り出した。それは―――宇宙にいると思わせる程の常闇に
星の輝きをする宝玉が柄から剣先まで埋め込まれてあり、
刃の部分は白銀を輝かせ至る所に不思議な文様が浮かんでいる金色の大剣だった。
その大剣を手にした一誠は目の前の巨大なミスリルの塊に一閃した。
一拍して、三等分とミスリルの塊が分かれた。
「東部と西部、そんで俺たちの分だ。あの二人、この鉱脈を見たらきっと驚くぞ」
笑みを浮かべながら三等分にしたミスリルの一つを魔方陣で仕舞った。
残る二つは東部都市群と西部都市群。
「マキャベリ、この一つをあげるよ。欲しかったんだろう?」
「よいのか?」
「ムルシエラゴの情報料と思ってくれ。で、こいつをどこに置けばいい?」
朗らかに言う一誠であった。マキャベリは今の今までの一誠の言動に異世界から来た者だと
認知した。あの魔獣を無力した力と見たことも聞いたこともないドラゴンを飼っている存在。
さらに弱小だった東部都市を回復させた功績も商人として、その能力を無視できない。
「イッセー」
「おっ、初めて俺の名を呼んだな?で、なんだ?」
「突然だが言わせてもらう。―――吾輩のもとでその能力を発揮してはみないか?」
自分の主が一誠を勧誘するほどの逸材とヴィットーリオは心の中で納得したのだった。
マキャベリの目を見れば、商人のそれだった。ここだけは失敗できないと、
鋭い眼光をさらに鋭くしていた。さて、一誠の返事は案の定―――。
「いや、悪いけど俺たちは目的があるんだ。
ラブロックに滞在するのももう少しで止めるつもりだ」
「では、近いうちにいなくなると?」
「そうだな。次は・・・・・どこ行こうか。悩むところだな」
勧誘を拒み、次の国へ行くと述べたのだった。
「吾輩はお前が欲しくなったのだがな」
「おいおい、今日会ったばかりの男を欲しがるほどかよ。それは商人としての性か?」
呆れて苦笑を浮かべる一誠に対して、当然だとばかり首を縦に振るマキャベリ。
「うむ。それもあるな。それに、異世界から来たと言うならば、
この世界のことを知らないであろう?ならば、吾輩たちがこの世界の情報を提供する代わりに、
お前は吾輩と共に―――」
「ちょっとまったっ!」
マキャベリの言葉を遮ったのはルクシャナだった。一誠の腕に抱きついて、
自分のものだアピールする。
「イッセーは渡さないわよ!それに、私たちはこれ以上ここに留まるわけには
いかないんだからね」
「それはどうしてだ?」
「あー、一匹のドラゴンを探している。俺たちはそのドラゴンを見つけ次第、
異世界に連れていくんだ。それが俺たちの目的」
素直に異世界に来た目的を告げる一誠だった。すると、マキャベリが口の端を吊り上げた。
「ドラゴンを異世界に連れていくとは、禁忌の
「ドラゴンスレイヤー?竜を殺しちゃダメなのか?」
「ロートレアモン騎士国。この大陸、アルク=ストラーダ大陸の中で最も竜が生息している国。
通称『竜を飼う国』と呼ばれている国では禁忌とされている」
「へぇ・・・・・」と一誠は興味深そうにマキャベリの話を聞いた。
「竜を飼うか・・・・・まるでペット扱いだな。俺の世界じゃ信じられないことだ」
「異世界にも竜がいるのか?」
「ああ、いるぞ?さっきのメリアと―――こんなやつらみたいなドラゴンがな」
刹那、一誠の背後に様々な色の魔方陣が出現した。
そして、魔方陣が一瞬の閃光を弾いた瞬間。
咆哮をあげる十数匹のドラゴンが姿を現す。
「「―――――っ!?」」
「こいつらは俺の世界のドラゴンの中で特別な存在だ。
この中でドラゴンの王、邪悪な龍といった代表的なドラゴンもいる」
マキャベリとヴィットーリアが絶句する。見たことも聞いたこともない竜たちが目の前に現れる。
人型のようなドラゴンもいれば、巨木のようなドラゴン、下半身が蛇で上半身が人間もいる。
三つ首のドラゴンや巨大な蛇のようなドラゴンもいた。
「イッセー・・・・・お前は一体、何者なのだ・・・・・?」
畏怖の念を籠めたその問いに、一誠は笑みを浮かべて言った。
「異世界から来たイッセー・D・スカーレット。またの名を兵藤一誠。異世界じゃ人間の王、
人王の存在だ」
―――○♢○―――
「イッセー、本当に行ってしまうの?」
出発の日。一誠を含め、ルクシャナ、ヴァーリ、龍牙、
リーラ、ガイア、オーフィスはマキャベリが手配してくれた船の前で、
東部都市群の民たちを筆頭にベアトリーチェが見送りに集めっていた。
面々の顔はとても寂しそうな顔をしていた。
「私たち、まだまだあなたたちにお礼をしていないのに・・・・・」
「東部都市の景気や経済力も豊かになったんだ。
もう俺たちがいなくても貧困に陥るようなことはないだろう。
それにミスリルの生産と加工も加えて、西部都市の経済力に匹敵したからな」
ベアトリーチェの頭を撫でながらそう言う一誠の顔は微笑んでいた。
「それと、なにも永遠の別れってわけじゃないぞ。
またいつか、ラブロックに戻ってベアトリーチェのところに戻る」
「本当・・・・・?」
「ああ、本当だ」
スッと、小指を突き出した。その意味をベアトリーチェも理解し、
小指を出して一誠の小指と絡める。
「約束だ」
「うん、約束」
お互い笑いあう。それから一誠はルクシャナたちを引き連れて船に乗った。
一誠と七人を乗せた船はゆっくりと港から離れる。
「イッセー様っ!どうかご元気でぇっ!」
「ありがとぉっ!」
「また帰ってきてくださいねぇーっ!」
民たちが心からの見送りに一誠たちは手を大きく振って応える。
そのなか一誠の瞳にベアトリーチェが映り込む。
「イッセーッ!絶対に戻ってきなさいよぉっ!東部都市はあなたの家でもあるんだからねぇっ!」
その声を聞き一誠は叫ぶ。
「ああ!俺たちが返ってくるまでに西部都市に負けないぐらい賑やかな都市にするんだぞぉっ!」
「わかってるわよぉーっ!」
それが最後の会話のやりとり。ベアトリーチェや東部都市の民たちの声が聞こえなくなった程に
距離が離れた。
「・・・・・結局、マキャベリとヴィットーリアは見送りに来てくれなかったな」
「しつこくイッセーに付き纏うあの二人がいなくなったおかげで私にとって清々したわ」
溜息を一つ零すルクシャナ。
「でも、確かに情報源として助かっていますよ?この世界の常識も教えてくれましたし」
そんなルクシャナに苦笑を浮かべる龍牙。
「その間、ガイアとオーフィスはたびたび元の世界に戻っていなかった時もあったがな」
視線をガイアとオーフィスに向けるヴァーリ。
事実、二人はこの世界に来てから何もしていないに等しいのだ。
「次元の狭間で泳ぐ日課は欠かせん」
「我も」
と、開き直る真龍&龍神であった。リーラは無言で一誠に近づく。
「一誠様。数日でシェブロン王国に着く頃ですが、その後はどう致します?」
「そうだな。住む場所を確保して、町の構造の把握、
モルドレッドの情報収集、聖遺物が眠る古代都市の探検もしてみたいな」
最後にそう言って楽しげに笑う。が、その笑みが呆れ顔と変わった。
「まあ、マキャベリとヴィットーリオが見送りに来てくれなかったのは残念だけど・・・・・」
「一誠様?」
「―――見送りに来なかった訳は、俺たちと同じ船に乗っているからなんだよな」
背後に振り返った一誠の視界に、見覚えのある女性とメイド服を身に包んだ少女がいた。
「ふっ、そういうことだ」
フランチェスカ・マキャベリとヴィットーリオ・クレメンティが悠然と佇んでいた。
「次の港まで見送ってくれるつもりで乗っていたのか?」
「なに、吾輩たちもお前たちについていこうと決めたのだ」
「・・・・・家のほうはどうするんだよ」
「吾輩がいなくとも問題ない」
コツコツと足音を鳴らし、マキャベリは一誠に近づく。
「それに吾輩の力、商人の力も必要な時もあるであろう。
ヴィットーリオも有能な秘書であるしな」
「・・・・・」
一誠と数センチの距離で立ち止まり、金色の双眸を鋭い眼光で見詰める。
「ふふっ、お前という存在をもしかしたら吾輩は待っていたのかもしれんな」
「突拍子的な発言で訳分からんが?」
「この世は金で買えないものがあることも、吾輩は知っているつもりだ。
だが・・・・・それでも欲しいものがあったら、人はどうするのであろうな?」
ギラギラと鴬色の瞳が獲物を狙う鷹の目で一誠を見据える。
蛇に睨まれた蛙の如く、思わず冷や汗を流す一誠は呟いた。
「・・・・・方法を問わず、自分のものにする・・・・・?」
「ほう、野蛮的な答えだな?だが―――吾輩は嫌いではない」
途端にニヤリとマキャベリは獰猛に笑みを浮かべた。
「イッセー、お前が欲しい。こんな気持ちは初めてだが、悪くない。
お前の実力、能力、他にも色々と含めて吾輩のものにしたい」
「・・・・・本気で?」
頬を引き攣らせる一誠。マキャベリは顔を紅潮しているわけでも、瞳が潤っていない。
ただ、弱肉強食。弱い者を狩る強者の目で一誠にそう言っているのだ。
こんな自分を求める異性は初めてだ、と一誠は畏縮する。態度を変えずマキャベリは言う。
「ああ、本気だ。だから―――大人の魅力をお前の体で教え込んでやろう」
「その手始めに」と、そう言うや否や、一誠の顎を摘まむように掴んで
何の躊躇もなくマキャベリは一誠の唇と重ねたのだった。
当然、その光景にガイアたちは驚嘆の声を上げるのだった―――。