一誠の竜騎士物語   作:ダーク・シリウス

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Episode20

巨蟹宮(キャンサー)の月も、今日が最終日。午前中、アンサリヴァン騎竜学院では、

終業式が予定されていた。すでに全校生徒は講堂に集まり、そわそわと落ち着かない様子を

見せている。なんといっても、明日からは夏休み。面倒臭いだけの終業式など、

さっさと終わってほしいというのが本音だろう。

ところが、定時になっても式が始まる様子はない。なんでも学院長の到着が遅れているらしい。

いつしか、生徒たちは思いのままに、あちこちで私語にふけるようになった。

長い長い夏休みを目前に控えた生徒たちである。話題には事欠かさない。

 

「夏休みかー」

 

そんな中、上級課程(シニオス)三年生の列に並んでいた一誠は、ポツリと呟いた。

 

「夏休みでも君はラブロック商店で働くのだろう?」

 

レベッカが確認するかのように声を掛けてくる。

 

「いや、異世界に戻るつもりだ」

 

「異世界・・・・・イッセーの世界かい?」

 

「ああ、お使いを終わらせてそれから家族と会いに行く」

 

と、レベッカに向かってそう言った。その話を聞き、レベッカが徐に顎に手をやった。

 

「ふむ・・・・・異世界か・・・・・」

 

「ん?どうしたんだ?」

 

何か思考の海に潜り始めたレベッカに小首を傾げる。

しばらく見つめていると「うん」とレベッカが漏らした。

緑の瞳を真っ直ぐ一誠の金色の瞳に向けた。

 

「イッセー。夏休みの二日後、異世界に私も行ってみたい」

 

「・・・・・はい?」

 

「キミの世界、この世界とは異なる異世界に前から興味があった。

異世界のドラゴンだけじゃなく、文化や建物、食べ物もこの目で確かめたいんだ」

 

と、レベッカは瞳をキラキラと輝かせる。本当に行きたがっているのだとすぐに悟った。

 

「親はどうするんだ?」

 

「なに、説得するさ。その上、両親が驚くようなお土産も持ってくると言ってな」

 

「・・・・・異世界の通貨はこの世界の通貨とは異なるんだけど?」

 

「そこは―――――」

 

一誠の両肩に手を置きだした。

 

「君に買ってもらおう」

 

「俺かよ!?」

 

「無論、タダとは言わないさ。なんなら・・・・・このレベッカ姐さんの

身体を触ってもいいぞ?」

 

瞳を潤わせて、一誠の腕に絡めれば自分の胸を押し付けてきた。

腕から伝わる豊満な胸の弾力と温もりを感じる。

一誠はレベッカの言葉に―――デコピンで返した。

 

「いたっ」

 

「阿呆、そんなこと好きな奴に言え」

 

「むっ、私に魅力を感じないのかい?」

 

「あるさ。でも、好きでもない奴にそう簡単に身体を許して触らせるなと言いたいだけだ」

 

呆れた顔で溜息を吐く。

 

「・・・・・私の身体を触れさせていいと思う男は、今のところ君だけなんだがな」

 

「・・・・・」

 

レベッカが漏らした呟きは確かに一誠の耳に入った。

何も言わない一誠に不思議に思ったレベッカは見上げる形で一誠の顔を覗きこんだ。

その一誠の顔はちょっとだけ赤かった。その意味は―――レベッカの呟きを聞こえたと等しい。

そんな一誠にレベッカも自分が発した言葉に羞恥で赤くなった。そこで一誠は口を開いた。

 

「まあ、嬉しいけど、やっぱりそう言うのは控えておけ。お前がその気がなくても

相手がその気があると捉えてしまうぞ。そんな事、俺はあんまり望めない。いいな?」

 

「う、うむ・・・・・以後気を付けよう。・・・・・ありがとう、イッセー・・・・・」

 

コクリと気恥ずかしくなってしまったレベッカが首を縦に振った。

そんなレベッカに、よしよしと頭を撫でる一誠を見ていた周りの反応はこうだった。

 

―――――なんだ、この二人から生じている桃色の空間は!?

 

上級課程(シニオス)の三年生の生徒たちは一誠とレベッカの様子を見て愕然とした。

未だに一誠の腕に抱きついているレベッカに同学年の生徒たちの間で噂が飛び交う。

まさか、生徒会長と恋人関係!?人とドラゴン、種族を越えた禁断の愛!?

絶え間なく二人の関係が尾鰭が付いて、

収拾がつかないところまで広がったその時、異変が起きた。

 

―――バタン!

 

突如、行動の扉が盛大な音を立てて、開かれたのだ。ビックリした生徒たちは一様に、

背後を振り返った。レベッカと一誠も怪訝に思い、扉に視線を向けた―――。

戸口の中央、ひっそりと佇んでいるのは、凛然とした気配をたたえた、たおやかな少女だった。

白のブラウスに紫紺のロングスカート、そして黒革のブーツ。

こざっぱりとした服装をしているが、その全身から漂う気品は隠しようもない。

おそらくは、王侯貴族の令嬢だと思われた。

少女の背後には、一人のメイドがひっそりと付き従っている。

給仕よろしく、ティーセットを乗せたワゴンを押している。全校生徒の視線を一身に集めつつ、

少女は講堂の中央を横切って、さも当然とばかりに、壇上に立った。

 

「ごきげんよう、アンサリヴァン騎竜学院の皆様」

 

解釈をした拍子に、ふぁさり・・・・・と紫がかかった銀髪が肩先に流れ落ちる。

あたかも、頭上に光輪を戴いているかのように見えた。

ただし、多くの聖女像がたたえているような、慈愛に満ちた笑みとは無縁である。

少女の佇まいは、あたかも北極の地ドルアーマの氷河を削って制作した彫像を思わせた。

全校生徒を一瞥すると、少女は再び口を開いた。

 

「こたび、我が姉ヴェロニカの命により学院長を

務めることになりました―――ミラベル・ロートレアモン第三王女です。以後、よしなに」

 

たちまち、会場は騒然となった。一誠もポカンとして、ミラベルのすました顔を眺めやった。

高貴な身分だろうとは思っていたが、シルヴィアとラーズの姉とは予想外もいいところだ。

そのとき。最前列から聞き覚えのある声が叫んだ。

 

「姉上!これは一体・・・・・どういうことですか?確か、

姉上はエスパーダ聖法大学院に留学中だと聞いていましたが・・・・・」

 

いつしか全校生徒は水をうったように静まり返り、

ミラベルとシルヴィアのやり取りに注目している。壁際に並んでいる教職員たちなど、

はらはらとした顔で、事態を見守るばかりだった。そのとき、重苦しい沈黙を破るように、

午前十一時を告げる鐘が、学院の敷地内に響き渡った。その音色を耳にした途端、

ミラベルはメイドに鋭い視線をよこした。

 

「ユニス。紅茶の時間よ」

 

「かしこまりました、姫様」

 

そのやりとりに、一誠は思わず呟いた。

 

「ティータイムの方が大事なのかよ・・・・・」

 

ミラベルは、ほかほかと湯気を立てるティーカップを受け取った。ユニスがどこからともなく

用意した折り畳み式の椅子に腰かけると、涼しげな顔でカップに口をつける。

 

「・・・・・・・・」

 

誰もが固唾を呑んで、ミラベルの一挙一動を見守っている。

シルヴィアでさえもが、ミラベルが紅茶を飲み終えるのを待っているのか、

じっと押し黙っている。やがて、ミラベルはティーカップをユニスに返す、

とシルヴィアに視線を向けた。

 

「で・・・・・何のお話だったかしら、シルヴィア?」

 

「ですから、どうして姉上が学院長などに就任したのか、説明してください!

大体、昨日までの学院長はどうなされたのですか!?」

 

「ああ・・・・・あの棺桶に片足を突っ込んだ老人のことかしら?

彼なら、シェブロン王国の避暑地でバカンスを楽しんでいるわ。

退職金は少しばかり上乗せして上げたから、別に問題ないでしょう?」

 

「なっ・・・・・!」

 

シルヴィアは絶句して、棒立ちとなった。

 

「・・・・・」

 

一誠は悟った。終業式は始まるどころか、変な方向に進むだろうと。

だから、くるりとミラベルに背を向けて講堂を後にしようとする。

 

「イッセー、どこに行く?」

 

「ん?終業式なんてしなさそうだし、店に戻るんだよ」

 

「だが・・・・・相手は一国の王女に失礼ではないか?」

 

レベッカは引き留めようと一誠を説得する。が、

 

「一人ぐらい、いなくなろうがあの学院長は気にもしないだろうさ」

 

「店で待っているぞ」とレベッカに言い残して堂々と講堂から出ていった一誠。

さらに続くように前髪を逆立て青く長い後ろ髪を一本に束ねているランサーも

堂々と講堂からいなくなった。

 

「よぉ、お前は堂々といなくなるな」

 

「ランサーもだろうが。で、どうして講堂からいなくなった?あれもイベントじゃないのか?」

 

講堂を出て直ぐに声を掛けてくるランサーに振り返った。

ランサーはその問いかけに肩を竦める。

 

「ああ、そうだけどどーでもいいイベントだ。俺が求めているのは戦いのイベントや、

面白いイベントの方だ」

 

「あっそ。俺にはそのイベントが分からないから自由にするけどな」

 

興味が失せたとばかりランサーから視線を外した。

その直後、まるで地鳴りのように、大歓声が講堂から聞こえた。

 

「そう言えば、お前は竜騎士(ドラグナー)にならないのか?」

 

「そんな称号、別に必要とは思えない。それに俺の立場的に称号は受けれないだろうさ」

 

「立場って・・・・・お前なら聖天竜騎士(アーク・ドラグナー)になれる可能性はあるんだけど?」

 

ランサーの言葉に「だろうな」と一誠は否定しなかった。

すると、一誠の耳の傍に小型の魔方陣が出現した。小型の魔方陣に耳を傾け、

一誠は感嘆の声を漏らした。相槌を打ってそれからしばらくすると、小型の魔方陣が消失した。

 

「通信式魔方陣ってやつか?」

 

「良く分かったな。まあ、そんなところだ」

 

「で、何ていわれたんだ?」

 

気になるらしく、ランサーは訊ねた。一誠は人差し指を床に向けた。

 

「アンサリヴァンの地下に凄い物を見つけたって」

 

「・・・・・地下に凄い物っておい・・・・・。

まさか・・・・・もう見つけたのかよ・・・・・!?」

 

愕然とした面持ちとなるランサー。一誠は知っていたな?とランサーの表情を見て悟った。

 

「お前・・・・・どんだけルールブレイカーなんだよ!?」

 

「決められたルールは破るためのものだと、どっかの誰かが言っていたような気がするな」

 

「いやいや、破っちゃダメだろう!?

お願いだから、その凄い物をまだ表に出さないでくれよ!」

 

「いや、どんなものか俺が知るわけがないし。一体何なんだよ?地下にある凄い物って」

 

そう言われてランサーは沈黙した。

というよりここで説明して良いのか葛藤している様子だった。

 

「まっ、俺の勝手だしお前の願いは聞く気ないぞ?

凄い物が表に出たらイベントがどうなるのか、ちょっと楽しみだし」

 

そう言って一誠は足元に転移用魔方陣を展開させて、

魔方陣の光と共に別の場所へ転移したのであった。

 

―――○♢○―――

 

カッ!ととある場所に一つの魔方陣が出現し、

騎竜学院の制服姿の一誠が現れた。一誠が現れると、一誠に連絡した者が声を掛けてきた。

 

「来たわね。イッセー」

 

「ああ、それで凄いものとは・・・・・これか」

 

「そうだ。壮大だと思わないか?あの星冠より価値がありそうだ」

 

「こんな地下に大きい船があるなんて、最初に見た時は驚きましたよ」

 

ルクシャナを始め、ヴァーリと龍牙。この三人であった。

ラブロック商工連合都市の東部都市群に存在している遺跡都市カサノヴァ同様、

三人は地下に繋がる入り口を発見して、少しずつ奥に進んで探検するとそれは、

古代に製造された魔導艦を見つけたのである。以前見つけた星冠サーン・アヴァスより

価値がありそうな聖遺物だと誰の目を見ても明らかだった。

 

「よし、こいつも店の中に展示しよう。また一つ増えたな」

 

「最近は巨大な魔導装置だったな?」

 

「使う用途は、聖竜(マエストロ)に強制的に昇華させるとルクシャナさんが指摘しましたけどね」

 

「その前は絨毯やいろんな本を持ってきたわよね?

一体、どれだけ聖遺物とかいうものはあるのかしら。好奇心が湧くわ」

 

四人は魔導艦の前で雑談する。

と、ヴァーリが何かを思い出したかのように魔方陣を展開した。

 

「ここに来る途中、不思議な結晶を見つけたんだ。

イッセーならわかるだろうと思って抜いてきた」

 

魔方陣の光と共に発現したのは、大粒のピンク色の竜綺華晶だった。

その結晶をしばらく凝視した一誠が呟いた。

 

千年綺華晶(ミレニアム)・・・・・聖星石(ウラノス)・・・・・・だってよ」

 

千年綺華晶(ミレニアム)って魔導艦の動力として使われている特別な竜綺華晶のことですよね?

はぁー、これがそうなんですか・・・・・」

 

「じゃあ、私たち専用の船に使いましょうよ。

これ、これも含めて六個あったのよ。勿論、六個全部抜き取ったけどね」

 

盗掘の如く、ルクシャナたちは遺跡の宝を猫婆していた。

 

「俺たちの魔導艦か・・・・・どんな形をした艦にしようか楽しみになってきたな」

 

「当然、竜を象った船が良いだろう」

 

「迫力を求めれば、アジ・ダハーカみたいな船がいいですね。

こう、三つの口から魔力を放つとか」

 

「でもでも、船で世界を旅するのもいいんじゃないかしら?」

 

と、自分たちの魔導艦のことについてしばらく語り合う一誠たちであった。

 

―――ラブロック商店―――

 

終業式が終わって一時間後。午前0時となり、アンサリヴァン市に住む一般人たちが

外食するために様々な飲食店に足を運ぶ時間帯でもある。

初めて訪れる客もいれば常連客となっている一般人が店の中に入る。

現に、来訪客を知らせるベルが鳴りだして、一誠は反応して客を出迎えた。

 

「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」

 

「五人だ」

 

「かしこまりました。ご案内します」

 

―――レベッカ、シルヴィア、ラーズ、ルッカ、キーラ。以下の五人だった。

レベッカたちを隔離された空間へ案内をすると、その空間には一人の白衣の女性が座っていた。

 

「あら、あなたたち」

 

「アンジェラ先生。やはり来ていたのですね」

 

「ええ、もうこの店の常連客よ。

それに、あなたたちが来るとイッセーが言うからこの席に座らされているんだけれどね」

 

「纏めて話を聞いてほしいからな。レベッカには既に話したことだ」

 

レベッカたちを座らせると、一誠は訊ねた。

 

「俺はこの夏休み、家に帰るため異世界に戻るつもりだ。

その時、お前たちにお土産を用意するつもりだがどんなものがいい?」

 

「「「「異世界?」」」」

 

異世界と聞いてすぐ食い付く四人だった。シルヴィアとラーズは異世界の、

それもドラゴンの世界に一度だけ訪れたことがある。

だが、今度は一誠の家がある異世界に戻ると一誠は言った。

 

「一誠が生まれた異世界・・・・・でいいのね?」

 

「ん、そうだけど?」

 

「・・・・・質問、そこにエクブラッド人はいる?」

 

ルッカが挙手をする。その質問に一誠は首を横に振った。

 

「エクブラッド人はいないけど、エルフならいるぞ。それとダークエルフもだ」

 

「ダークエルフ!?あの悪しきエルフがイッセーの世界にいるの!?」

 

「おいおい、俺が知っているダークエルフは温厚な性格のエルフばかりだぞ?

悪しきエルフなんて言うな」

 

「でも、あたしたちの部族じゃそうなんだけど・・・・・」

 

恐る恐ると一誠に説明するキーラに、興味深そうにキーラを見つめる一誠。

 

「まあ、エルフはいる。

それは間違いないが・・・・・文化とかエルフ自身がちょっと問題があるからな」

 

「どういうことだ?」

 

「俺の異世界のエルフは色んな種族がいる。

そのうちの一つの種族は六千年間、人間と土地を巡って争い続けていたんだ。

人間との間の溝がもう修復できないほど深く、

人間を野蛮な種族、蛮人と呼称しているエルフが殆どいる」

 

人間とエルフとの戦。一誠から告げられたエルフのことで

ルッカとキーラは驚きを隠せないでいた。

 

「じゃあ、あのルクシャナもそうなのか?」

 

「彼女もそのエルフから生まれた。まあ、彼女は特別だけどな。

人間に興味がある学者だ。異世界の文化には特に興味がある優しいエルフだよ」

 

「エルフ・・・・・統領が知ったら会いたがりそう」

 

「というか、ルッカとキーラってエルフじゃないのか?

その人より長く尖った耳はエルフの象徴だぞ?」

 

「分かんない。皆こんな耳をしているから」

 

ピョコピョコと耳を動かすキーラ。

その動かす耳に可愛いなと思いながら一誠はとあることを指摘した。

 

「んじゃ、エクブラッド人はエルフと人間のハーフだな。その耳はエルフの名残だろう」

 

「人間とエルフのハーフ・・・・・?」

 

「俺の世界にもそういうエルフがいる。

なんなら、俺と一緒に異世界に来てみるか?直ぐに会えるぞ?」

 

ルッカとキーラに提案する一誠。二人は顔を見合わせて、悩みだす。

 

「族長・・・・・許してくれるかな?」

 

「行ってみたいけど、あたしたちは期待されているし・・・・・特訓もしないといけないし」

 

「特訓なら俺の家でもできるけど?因みに。俺の異世界の時間の流れは

この世界と大して変わらない。ただ、朝と夜が逆だけど。―――あっ、そうだ」

 

徐にルッカとキーラに問うた。

 

「お前らの統領に会いたい」

 

「「・・・・・・」」

 

一拍して、

 

「「ええええええええ―――――!?」」

 

隔離された空間でルッカとキーラは驚愕した。族長に会いたいという理由は、

 

「二人の騎竜演舞を俺の世界で披露してほしい。そのためには二人が必要不可欠だからな」

 

「なるほど、そういうことだったのか。・・・・・安心した」

 

「シルヴィア、なにが安心したんだ?」

 

「なっ、なんでもない!」

 

最後に漏らした呟きを、一誠に聞かれたことに羞恥で顔を赤く染めて

慌ててはぐらかすシルヴィア。

 

「そういうことだ。明日、一緒に故郷に行こう。ああ、ルクシャナも連れていくか。

良い刺激になりそうだ。さて、二人の話はこれで良しとして、

シルヴィアとラーズはどうする?予定がないんなら一緒に来るか?」

 

「「・・・・・」」

 

シルヴィアとラーズは顔を見合わせ、険しい顔になった。

 

「実家に帰る前にやることがあるからな・・・・・」

 

「そうね・・・・・まったくこんな面倒臭いことを残すぐらいなら、

やってしまってから行きたかったわ」

 

「なんだ?なんかやり残したことがあったっけ?」

 

訳が分からないと首を傾げる一誠。

すると、シルヴィアは不機嫌そうな顔になって、一誠を見上げた。

 

「まさかとは思うが・・・・・追試のこと、忘れたわけではあるまいな?」

 

「追試?追試なら俺の代わりに分身体がしてくれたから問題ないんだけど」

 

「・・・・・物凄くズルイと感じたのは今日が初めてだわね・・・・・!」

 

恨めしそうに一誠を睨むラーズであった。

 

「試験勉強するぐらいの時間なら俺が確保してやるよ。

俺、レベッカに教えてもらっている側だから教えれることはないと思うけどな」

 

「スポンジのように知識を吸収してしまうキミが既に教えれる側だと私は思うのだがな」

 

「そうね。私のところに訪れては気になるところ聞いてくるし」

 

レベッカとアンジェラがそう言う。

 

「だが、異世界とこの世界の時間の流れは同じなのだろう?どうやって時間を確保するのだ?」

 

「・・・・・お前、一度体験したけどもう忘れてしまったのか?」

 

「む・・・・・?」

 

理解できないと小首を捻るシルヴィア。どうやら本当に分からないらしく、怪訝な面持でいる。

そんな様子のシルヴィアに溜息を吐いて言った。

 

「まあいいや。試験勉強をする時間については問題ない。で、俺と一緒に来るか?来ないか?」

 

「勿論、異世界には興味があるわ。私も異世界に行くわよ。お姉様を置いてね」

 

「ふざけるな!お前を一人行かせたら何仕出かすか分からん!私も行くぞ!」

 

「全てはイッセーとランデブーのため」

 

「ラーズ!」

 

怒鳴るシルヴィアを宥めつつ、アンジェラにも視線を配った。

一誠と視線があったアンジェラはニッコリと微笑んだ。

 

「当然、私も行くわ」

 

「了解。それじゃ、オズワルドたちにもお土産買いたいし、

なにが良いのか聞きたいな。シルヴィア、王宮用郵便を手配してくれるか?」

 

「分かった。すぐに手配しよう」

 

だが、それは間違いだったことを後日、一誠は身をもって知った。

 

「あっ、そうだ。アンジェラ」

 

「何かしら?」

 

「聖遺物に詳しいんだよな?ウィリンガム霊廟の竜族の隠し部屋にあった聖遺物を調べていたし」

 

アンジェラは一誠の言葉に「ええ」と首肯する。

 

「それがどうかしたの?また新しい聖遺物が見つけたのかしら?」

 

「実はそうなんだよ。一時間前ぐらいに凄い聖遺物を見つけてさ。

今調べているところなんだけど、手伝ってくれるか?」

 

「―――勿論よ」

 

意気揚々と席から立ち上がった。新たな聖遺物を目前とできるのであれば、

三度の飯より聖遺物の調査である。

立ち上がったアンジェラにレベッカたちも気になったのか「私たちも」と席に立ち上がった。

そんな六人を隔離された空間から聖遺物がある部屋へ案内したそこは、

『聖遺物展示室準備中』、『関係者以外立ち入り禁止』と記されている看板が掛けられた

現実世界と隔離された空間。一誠が最初に入ってその後に

レベッカたちが入れば―――信じられない光景を目の当たりにしたのであった。

 

―――○♢○―――

 

明け方。一誠はアポロ舎に面した校庭へルクシャナと共に足を運んでいた。

そこでルッカとキーラと待ち合わせをしているのだ。

 

「エクブラッド人の住んでいる場所に行けれるなんて、嬉しいわ」

 

「そう言ってもらえてなによりだ。それにしても、ドラゴンが多いな。

ちっちゃい奴ばかりだけど」

 

「って、寮のとある窓にドラゴンが這いつくばっているわよ?」

 

「・・・・・あれ、水竜(ハイドラ)だよな。

しかも、探知するとアッシュ・ブレイクとエーコがいる部屋らしい」

 

ルクシャナと信じられないものを見る目で、寮の壁をよじ登って待機しているドラゴンを見た。

少しばかり同情してしまうのは当然であろう。

 

「あっ、レベッカじゃない」

 

「本当だ」

 

クー・フリンを騎乗しているレベッカを見つけて近づくと、丁度ルッカとキーラと会えた。

案の定、ランサーが笑みを浮かべてアポロ舎を見つめていた。

面白いイベントが既に始まっているのだろう。

それが―――アッシュの部屋の窓を目指して飛んでくるざっと三十騎の翼竜(ストラーダ)のことだろう。

 

「うわー、あれ、壊れるんじゃない?」

 

「確実にな」

 

様子を窺っていると勿論、アッシュの部屋の中を三十騎の翼竜(ストラーダ)が一度に覗きこめる

はずもない。たちまち、押し合いヘし合いが始まって、

水竜(ハイドラ)と飼い主であろう女子生徒がズルズルと滑り落ちていく。

 

―――――めりめり・・・・・・がぎぎぎぎぎ・・・・・・・どぉおおおおおおおおおおおおん!

 

「「あっ、壊れた」」

 

正真正銘、他人事でアッシュの部屋が崩壊した瞬間を目の当たりにして呟いた。

そして、アッシュの部屋を壊した三十騎翼竜(ストラーダ)の飼い主の女子生徒たちは揃いも揃って、

さっさと空の彼方へ飛んで行った。

 

「・・・・・アッシュ、大丈夫かな?」

 

ルッカがそう呟いた。

 

「まあ、壊れたなら俺が元に戻すだけだがな」

 

一誠が指を弾いた途端に、壊れたアッシュの部屋が一瞬の閃光を放った。

眩い光に一瞬だけ視界が奪われたが、光が止む頃には、壊れる前の一部の部屋が完成していた。

その時、騒ぎを掛け付けてきた教師が一誠とアッシュの窓際を交互に見て一言。

 

「至急、学院長室に来てください。学院長がお呼びです」

 

「・・・・・なんで!?」

 

―――○♢○―――

 

夏休み初日早々、一誠はアッシュと共に学院長室に呼び出される羽目となった。

 

「・・・・・なるほど、事情は分かったわ」

 

新学院長のミラベル・ロートレアモンは、涼やかに応じると、手元のティーカップに口をつけた。

紅茶の湯気に乗って、ベルガモットの香りが漂ってくる。

まるで自動人形のように、ミラベルは硬質な表情を保っている。

このお姫様には感情があるのだろうか・・・・・よ、アッシュ不思議に思った。

 

「壁の補修はしなくてもいいということですね?」

 

「はあ・・・・・そういうことです」

 

「ならば、何も問題はないというわけです。話は以上です」

 

あっさりと解放されてアッシュはドギマギしながらも学院長室を後にしようと腰を上げた。

 

―――バタン!

 

そのとき、背後の扉が早々敷く開け放たれた。部屋に飛び込んできたのは、

エーコとシルヴィア、その後にゆっくりとラーズが入って来た。

 

「ちょっと、いつまで話しこんでるのよ!?アッシュは私の肉奴隷なんだからね!」

 

怒りに頬を染め、ミラベルに指を突きつけるエーコ。

 

「姉上!どうしてアッシュだけでなくイッセーまで呼び出したりしたのです!?

先ほどの事故は一部の女子生徒の暴走が原因であって、アッシュだけでなく

イッセーに非はありません。これでは二人が悪者みたいではないですか!

特にイッセーは、アッシュの部屋を直しただけです!」

 

「私も同じ気持ちですけど、ごめんなさいね?姉上を一応は制止しましたが、

抑えきれませんでしたわ」

 

毅然として、アッシュとイッセーを庇うシルヴィアと悪そびれた様子もなくミラベルに

謝罪するラーズ。

 

「控えなさい。ノックもせずに入室するなど、無礼千万。

アヴァロン聖竜皇家の末裔であろうと、我が妹であろうと、許さないわよ?」

 

ミラベルは冷然として、エーコとシルヴィア、ラーズに鋭い一瞥をくれた。

 

「もっ・・・・・申し訳ありません、姉上」

 

石化の呪文を掛けられたかのように、シルヴィアはその場で固まってしまった。

対照的にラーズは悠然とイッセーの隣に座り出す。

 

「おい?」

 

「いいじゃない」

 

一方、エーコは鋭い牙を覗かせると、ミラベルに食って掛かった。

 

「あんたねえ・・・・・あたしがアヴァロンの皇女だと知ってるくせに、

その態度はなに?なんなら、今度はお城も踏みつぶしてやろうかしら?

あたしが本気を出したら、フォンティーン城のひとつやふたつ―――」

 

「モルドレッドに体を支配されたお前が本気を出す?ろくに竜化どころか、

アッシュ・ブレイクにオリジナルの聖騎甲(アーク)を献呈できない幼竜のお前が何を言っているんだよ?」

 

一誠は呆れ顔で、エーコに声を掛けた。

 

「なんですって!?ちゃんとアッシュに聖騎甲(アーク)を献呈したわよ!」

 

「鎧は装着していなかった。剣しか発現していなかった。

お前が未熟だからアッシュ・ブレイクは危険な目に遭っているのを気付かないのか?」

 

「―――っ」

 

エーコの心にグサリと鋭い刃が突き刺さった。

 

「フォンティーン城のひとつやふたつを踏みつぶすぐらいの暇があれば、

さっさとアヴァロンの皇女らしく成長しないとダメじゃないか?

今のお前はただの未熟で危険な竜族。これからもそのままでいたら、

アッシュ・ブレイクは命を落としかねないし、周りが迷惑を掛けるだけだ」

 

一誠の指摘にエーコはフルフルと体を震わす。目の尻目には涙が溜まって、

ギュッと悔しいと伝わるほど拳を握りしめている。

 

「イッセー・・・・・流石に言い過ぎだと思うぞ・・・・・」

 

シルヴィアがやんわりと窘める。が、一蹴されてしまった。

 

「自分をアヴァロンの皇女だと名乗るんなら、それ相応の態度と実力を有してないと

話にならないだけだ。幼竜だろうと自分の意志で言動をしているんだ。

アヴァロンの皇女だとまだ言うつもりならば、尚更だ。大層な名前なのに、

名前負けして本人がアレじゃ、エーコの先祖もさぞかしガッカリするだろうなぁ?」

 

その言葉が言い終わった瞬間。エーコは踵返して部屋から掛け出して出て行った。

 

「エーコッ!」

 

飛び出していったエーコを追うと、アッシュも部屋から出ようとする。

 

「アッシュ・ブレイク」

 

「―――!」

 

一誠に呼び止められた。

 

「自分のパルを心から守りたいと思うなら、どんな方法でもいいから強くなれよ。

アヴァロンの騎士の名が泣くぞ」

 

「・・・・・」

 

その言葉にアッシュは何も言い返さず、エーコの後を追う。続いて一誠も出ようとしたが、

 

「ああ、あなたはもう少しだけ残ってください」

 

ミラベルに呼び止められ、出ることは叶わなかった。

 

「その指に嵌めている指環を見せて下さらない?」

 

ミラベルの瞳はじぃと、「たまには嵌めてみるか」と思って以前、

ラブロックのとある場所で購入した指環を付けていた一誠の指に視線を注がれる。

純金製の台座に、クリスタルカットの竜綺華晶を載せた指環だった。

素直にミラベルの願いに応じて指から外して指環を渡した。

その指環を興味深そうに色んな角度から視線を向け出す。

 

「これは・・・・・聖遺物の一つね」

 

鑑識眼のある学院長だった。一誠はそんなミラベルに感嘆の声を漏らす。

 

「良く分かったな。それは発掘された地域の名にちなんで、

『ファウベルの指環』と呼ばれている宝飾品だ」

 

「これ、どこで手に入れた物?」

 

「闇市場。他にも聖遺物が店にあるけど」

 

その一言で、ミラベルを動かした。腰を上げたかと思うと、真っ直ぐ一誠に向かって行った。

 

「あなたの店にある聖遺物を見せてください」

 

「・・・・・」

 

一誠は悟った。口は災いの元だと―――。

 

―――○♢○―――

 

その頃、ルクシャナとルッカとキーラはエクブラッド人がいるエクブラッドの森に向かっている。

エクブラッドの森とは、アルビオンの森と同じ特別な森である。

他にもノームの森という森が存在して、

この三つの森のことを三つの森(トライ=フォレスト)と呼称されている。エクブラッドの森には

ルッカとキーラと同じエクブラッド人が住んでいることで、

エクブラッド人自治区と称されている。

 

ヒュンッ!

 

と、三人とガレス、ガウェインの耳に風を切る音が聞こえた。

何かが飛翔していると察知した直後、

 

「何とか間に合った」

 

ドラゴンの翼を生やす一誠が溜息を吐いた。

 

「遅かったわね」

 

「ミラベルに捕まっているんだ。因みに俺は分身体だ」

 

「イッセーはなにをしているの?」

 

「ラブロック商店に連れている。何故か、店にある聖遺物を見たがり始めたからな」

 

そう言いながらキーラの背後に降りて相乗りをした。ルクシャナはルッカの後ろで座っていた。

 

「っ!」

 

「へぇ、この世界のドラゴンの騎乗ってこんな感じか」

 

急に背中から感じる温もりと声音にキーラはドキッと胸を高鳴らせた。

 

「きゅ、急にどうしたんだ?」

 

「ん?ルクシャナを見ていたら、俺も乗りたくなっただけだけど。駄目か?」

 

「べ、別にいいよ!学院から急いで追って来たんだから疲れただろうし、

着くまであたしの後ろで掴まっていてくれ!危ないからな!」

 

「大丈夫なんだが・・・・・そうしよう。こうか?」

 

キーラの肩に手を置いた。絶妙な握力でキーラの肩を掴んでいるが、首を横に振られた。

 

「あ、あたしの腹に腕を回した方が安全だ」

 

「馬の相乗りと変わらないんだな。わかった」

 

納得してキーラの腹に腕を回してギュッと抱きしめた。

 

「―――――っ」

 

力強く腹に回された腕に、より密着したことで背中から感じる一誠の温もり。

それらにキーラの顔は真っ赤に染まって一誠には見せまいと顔を俯かせる。

 

「耳が赤いけど・・・・・大丈夫か?」

 

「だ、大丈夫だ!心配しなくて良い!」

 

顔を隠して耳隠さず。耳を隠したいが手綱を手放す訳にはいかず、

キーラはずっとエクブラッドの森に着くまで真っ赤な耳を一誠に見られていたのであった。

その様子を見ていたルッカは呟いた。

 

「帰り・・・・・私と一緒に相乗り・・・・・」

 

 

 

 

エクブラッドの森に辿り着いたのは、午後に差し掛かった。

森の入口付近に着陸するなり、ガレスとガウェインは意気揚々と飛びだして、森を目指した。

 

「うん、第七竜舎を改造した時と同じ反応だな」

 

「イッセー」

 

と、ルッカとキーラが一誠の前に進みだした。

 

「案内・・・・・私たちに任せて」

 

「ああ、頼む。森の中なら二人の庭みたいなものだろう。案内よろしく」

 

「任せてくれ」

 

ルッカとキーラを先頭に、一誠とルクシャナは徒歩で森に入った。

 

「なあ、統領ってどんな人なんだ?」

 

一誠は二人に声を掛けると、

 

「厳しいけど、優しい人。みんな、尊敬している」

 

「昔の戦争、ゼノグラヴィア戦争にも馳せ参じていたと聞いたことがある」

 

「どんだけ長生きしているんだ。百歳以上は生きているってことだよな?」

 

「そんなの、私たちエルフも長生きできるわ」

 

エクブラッド人とエルフの共通は長命種であることを一誠は知ったのであった。

生い茂る枝が天蓋を形成し、僅かな木漏れ日が天の恵みのように感じる中、森の中を歩き続ける。

 

「あら・・・・・?」

 

ふと、ルクシャナは気付いた。樹上に点在する、小屋のような建造物が目に留まったのだ。

 

「あれは一体・・・・・?」

 

ルクシャナが樹上を指すと、ルッカも樹上を見上げた。

 

「エクブラッド式の、住居。エクブラッド人、みんな樹の上で暮らしてる」

 

「へえ、なんか楽しそうだわ」

 

ちょっとした観光気分で、ルクシャナが樹上の家々を眺め立ったその時、

 

「―――――うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

そんな叫び声が聞こえたかと思うと、森の中が急に騒然となった。

まるで森そのものに生命が辿り、ドッと騒ぎ始めたかのようだ。驚いた野鳥たちが、

一斉に羽ばたく。さらには、太鼓や笛、竪琴の音色も聞こえてきた。

 

「な、なに!?なにが起きているの!?」

 

「・・・・・敵意は感じない。・・・・・まさかな?」

 

一誠の腕に思わずしがみつくルクシャナを対照的に、一誠は何気なく

ルッカとキーラに視線を向けた。

 

「―――統領ラースの娘、ルッカとヘンリクセン家の娘、キーラが帰ってきたぞ!」

 

と、遥か遠くから、そんな叫び声が聞こえてきた。

 

「・・・・・お前ら、恥ずかしい思いをしているんだな」

 

同情に満ちた瞳をルッカとキーラに向けた。

 

「理解してくれてありがとう・・・・・」

 

「・・・・・」

 

ルッカとキーラは恥ずかしそうに、頬を染めてうつむいた。そのときだった。

 

「ルッカ!キーラよ!良く戻ってきたな!我らが期待の星よ!」

 

嬉々とした声が、響き渡ったのである。やがて、ずしん、ずしん・・・・・と、

森を揺るがすような地響きと共に、森の奥から一騎の竜騎士(ドラグナー)が現れる。

精悍な顔つきをした、エクブラッド人の男だった。年の頃は四十代半ばといったところだろうか。

すらりとした長身に、逞しい筋肉。亜麻色を基調とした、エクブラッド式の民族衣装。

首飾りや腕輪など、エキゾティックな装身具の数々。とにかく野生味に溢れていて、

エクブラッド人と聞いて誰もが思い浮かべるイメージとは、大きくかけ離れている。

肌は健康的に日焼けしているし、妖精さながらの繊細さとも無縁だった。

そして、極めつけは独自の騎乗スタイルである。聖竜(マエストロ)の頭部に胡坐をかいているのだ。

もし、騎竜学院で生徒が同じことをしたら、教官から「行儀が悪い!」と大目玉を食らうだろう。

男は一誠とルクシャナを一瞥すると、朗々と名乗りを上げた。

 

「我が名はラース・ノルデンショルド・サーリネン!エクブラッド人自治区の統領である!」

 

―――○♢○―――

 

統領の屋敷は、森の奥地にあった。

 

「凄いな・・・・・」

 

一誠は、頭上を仰いだ。おとぎ話にでも登場しそうな、規格外に大きな広葉樹。

その上に、エクブラッド様式の建築物が建てられているのだ。樹騎の成長に合わせて、

改築を繰り返してきたのだろう。複数の木造建築を組み合わせたような、複雑怪奇な外見だった。

ラースは飼い竜の頭から華麗に跳躍すると、樹上の玄関先に降り立った。

 

「あそこか。ルクシャナ、背にしがみ付いてくれ」

 

「分かったわ」

 

背後から一誠の首に腕を回して密着したルクシャナを一瞥すれば、

徐にルッカとキーラを抱き抱えて樹上の玄関先にまで跳躍した。

そこで待ち構えていた召使の女性に案内され、一誠たちは応接間に通された。

床に直接座るタイプの、一誠とルクシャナにとって馴染みある部屋だった。

壁際には香炉が置かれ、シダーウッドの香りが漂ってくる。驚くべきは、

とても樹上の屋敷とは思えないほど、広々とした空間が確保されている事だった。

 

「―――待たせたな」

 

やがて、ラースが応接間に会われた。どっかり胡坐を掻くと、一誠とルクシャナの顔を見回す。

 

「初めまして。俺はイッセー・D・スカーレット。こっちの少女はルクシャナと言います」

 

「ルクシャナよ。よろしく」

 

「ほう、ルッカとキーラが初めて連れてきた友達・・・・・。

そこのルクシャナという少女はエクブラッド人ではなさそうだな?」

 

「あら、分かるの?」

 

意外そうにルクシャナは首を傾げた。ラースは首肯する。

 

「わしはこのエクブラッド人自治区の統領であるからな。

皆の顔も覚えている。だが、そなたのような綺麗なエクブラッド人は見たこともない。

まるで古代に滅んだエルフのようだ」

 

ラースの言い分に一誠とルクシャナは心の中で揃って感嘆した。

初めてで会ったルクシャナにそこまで感じていたとは―――と。

 

「お義父様・・・・・ルクシャナはエルフです」

 

「因みに俺はドラゴンだ」

 

頭部に十本の真紅の角、背中に翼、腰にドラゴンの尾を生やして証明する一誠に、

ラースは目を丸くした。

 

「なんと・・・・・!」

 

「俺とルクシャナは、異世界から来た存在。この世界とは違う世界から来た。」

 

「っ・・・・・!」

 

「ここに馳せ参じた理由は、統領にお願いがあって来た。話を聞いてくれるか?」

 

真っ直ぐ真剣な面持ちでラースに問いかけた。ラースは腕を組んで口を開いた。

 

「・・・・・異世界から来たドラゴンとエルフだということは嘘ではないらしいな。

して、話とはなんだ?」

 

真剣な面持ちでラースは一誠を促す。ルッカとキーラを一瞥して、一誠は言った。

 

「ルッカとキーラの騎竜演舞を異世界に披露してみたい。

だから、この夏季休暇の間は異世界に遊びに連れていきたい」

 

―――○♢○―――

 

「こ、これは・・・・・!?」

 

ウィリンガム霊廟で見つけた隠し部屋の一件で、改築したラブロック商店の展示室に

訪れたミラベルは興奮気味で辺りを見渡していた。回りは聖遺物に関するものばかり。

ウィリンガム霊廟の隠し部屋で発見した旧約星書や絨毯、家具、本。

ベオウルフの格納庫にあった魔導装置(ユグドラシル)

そして、昨日発見した千年綺華晶(ミレニアム)(六個)と魔導艦が鎮座していた。

 

「どうだ?聖遺物を集めたらこんな物が一杯見つけたんだ。殆ど俺の家族が見つけたんだけど」

 

ミラベルに問いかける。だが、何の反応も返ってこなかった。

不思議に思った一誠はミラベルに顔を向けると―――ミラベルは頬を紅潮させ、

ぷるぷると全身を震わせていた。一見、冷たい印象を与えるミラベルが、

これほど嬉しがっているのを見るのは、勿論初めてのことだ。

 

「アンジェラと似た類の人間か・・・・・」

 

そう漏らした一誠に上から声が聞こえてきた。

 

「―――あら、イッセー。それに・・・・・ミラベル王女殿下!?」

 

魔導艦の甲板から顔を出すアンジェラ・コーンウェル。

ミラベルの存在はどうやら知らなかったらしく、凄く驚いていた。

 

「彼女は・・・・・アンジェラ・コーンウェル博士ね?」

 

「ん、そうだ。あの魔導艦の調査を依頼しているんだ」

 

「調査・・・・・」

 

その言葉に反応したミラベルはジィーと一誠を横眼で見つめてきた。

あたかも、欲しい玩具を強請るような子供の無言の視線だった。

その視線をヒシヒシと肌で感じ取る一誠が苦笑を浮かべる。

 

「中、入りたいのか?」

 

その問いかけに、ミラベルの肩はピクッと反応した。

まるでその言葉を待っていたかのように、真っ直ぐ身体を一誠に向けて、

真っ直ぐ一誠の顔を向かって発した。

 

「ええ、お願いします」

 

「分かった。それじゃ案内しよう」

 

一誠の発した言葉に、ミラベルは顔を明るくした。「本当に子供のような感情をするよなぁ」と

思いながらミラベルを魔導艦の中へ案内するのであった。

 

「ああ、そうだ。学院長」

 

「はい?」

 

「シルヴィアとラーズを異世界に連れていくんだけど・・・・・学院長も異世界に来るか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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