一誠の竜騎士物語   作:ダーク・シリウス

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Episode21

 

翌日の早朝。ラブロック商店の前に異世界メンバーとマキャベリ、ヴィットーリア、シルヴィア、

コゼット、ラーズ、アンジェラ、ミラベル、ユニスは佇んでいた。

 

「イッセー、まだ来ないのか?」

 

「もう少し待ってくれ―――来た」

 

アンサリヴァン市の上空に二つの影が見えてきた。影は真っ直ぐラブロック商店、

聖ダーラム広場に向かって降りてくる。その影の正体は―――。

 

「待たせた」

 

「ただいまー」

 

一誠とルクシャナ。そして聖竜(マエストロ)のガレスとガウェインに騎乗している

ルッカとキーラであった。

 

「何とか説得できたぞ。ルッカとキーラも異世界に行ける」

 

「お疲れ、俺」

 

役目は果たしたとばかり、ルクシャナといた一誠がポンと煙と共に姿を消した。

 

「残るはレベッカだけか」

 

確認するように呟いた。

 

「・・・・・で、誘ってもいないのに。どうしているんだ?」

 

一誠は当然のようにいるランサーと申し訳なさそうな顔をするアッシュ、

アッシュの隣で立ったまま寝ているエーコを見て言った。

 

「いいじゃねぇか。お前が行く異世界に俺も連れてってくれよ。大人しく従うからさ」

 

「すまん、アッシュとエーコについては私だ。

言ったら、エーコが自分も行きたいと言いだして・・・・・」

 

「悪い、エーコがわがままを言って・・・・・」

 

「当の本人は寝ているんだが?」

 

エーコに向かって指弾した瞬間、エーコの顔が後ろに仰け反って倒れ込んだ。

 

「いったぁっ!?」

 

「起きていろ。自分から言いだしたくせになに寝ている」

 

「おお、そんなことできるのか。凄いな」

 

感嘆の声を漏らすランサーが急に暗くなった。厳密に言えば、ランサーは影に覆われたと

言った方がいいだろうか。すると、上空から気配を感じ、一誠は上空を見上げた。

 

「おっ、来たな」

 

真紅の巨躯の竜が上空に佇んでいた。ゆっくりと広場に降り立って、その全貌を現した。

 

「やあ、皆おはよう」

 

竜の頭部から少女の声が聞こえた。一誠は「おはよう、レベッカ」と返事をする。

聖竜(マエストロ)のクー・フリンと聖天竜騎士(アーク・ドラグナー)のレベッカ・ランドールである。

レベッカはクー・フリンから降りたと思えば、何か抱え込むように持っている

クー・フリンの両手に飛び降りて、広場に足を着けた。

 

「両親に説得を済ませたようだな」

 

「ああ、両親には申し訳ないがあんなことを言ってしまったしな」

 

「何て言ったんだ?」

 

「―――王族のシルヴィアとラーズの護衛をするために同行するのだ、と。

まあ、あながち嘘でもないがね」

 

確かに、シルヴィアとラーズも一緒に異世界に行くので

レベッカは二人を守る義務を果たさないといけない。

 

「言っておくけど、俺の世界はそんな危険な世界じゃないぞ。

―――まさかと思うがパルまで連れていく気か?」

 

「「「「え?」」」」

 

レベッカ、シルヴィア、ルッカ、キーラが不思議そうに漏らした。ラーズが一誠に問いかけた。

 

「イッセー、パルも連れて来ちゃダメなの?」

 

「おい、お前もかよ?というか、いくらドラゴンがいる世界だからといって、

人間が住んでいる世界にドラゴンを堂々と置けるわけがないだろう。・・・・・しょうがない」

 

シルヴィアとラーズに「ランスロットとアグラヴェインを召喚しろ」と催促した。

 

「多分、異世界から召喚できないだろう。連れてくるなら呼べ」

 

「分かった」

 

頷くシルヴィアはラーズと共に召喚呪文を言い放ち、二人のパルを召喚した。

一誠は五体の聖竜(マエストロ)を一ヵ所に集めて、指を弾いた。

すると、見る見るうちに五体の聖竜(マエストロ)が小さくなって

 

「きゅんっ!」

 

幼竜となった。

 

「クー・フリン!?」

 

「ガレスが・・・・・幼竜に戻った・・・・・?」

 

「その方が常に一緒にいられるだろう。肩に乗せたり抱きしめたりとかしてな」

 

「ああ、そういうこと。ドラゴンにでもその能力は通用するのね。驚いたわ」

 

トテトテとそれぞれの主に向かって歩く幼竜となった五体の聖竜(マエストロ)たち。

 

「可愛い・・・・・!」

 

「この世界のドラゴンの幼竜はこんな感じなんですねぇ・・・・・」

 

「可愛いじゃないか」

 

ルクシャナやヴァーリ、龍牙はシルヴィアたちのパルを見て好奇心が湧いた。

 

「くくくっ、戦いのときにパルをそんな風に幼竜へ逆戻りさせたら、

聖天竜騎士(アーク・ドラグナー)も形無しだよな?」

 

「・・・・・怖ろしいことを考えないでくれ」

 

レベッカはそう言わずにはいられなかった。が、一誠はますます笑みを浮かべるばかりだった。

 

「その状態のクー・フリンたちと追いかけっこさせてみるか?当然、俺のドラゴンたちとだ」

 

「「「「「きゅんっ!?」」」」」

 

幼竜となったクー・フリンたちが悲鳴を上げた。この状態であんな凶悪で巨大なドラゴン達に

追いかけっこなんて想像をすれば・・・・・怖ろしい以外なにもない。

 

「だ、駄目・・・・・!」

 

ルッカがガレスを庇うように抱きしめた。その言動のルッカに一誠は苦笑を浮かべた。

 

「冗談だよ。さて、話はこの辺にして異世界に行こうか」

 

腰に携えていた金色の軍杖を手にした。―――その時だった。空からまた気配を感じた。

 

「待て、イッセーよ!」

 

「・・・・・はっ?」

 

「なんでここに?」と意外な人物の登場に唖然となった。二匹聖竜(マエストロ)が広場に降りるなり、

竜に騎乗していた人物が降り立った。その人物にシルヴィアは愕然とした面持ちで叫んだ。

 

「あ、姉上!?」

 

ロートレアモン騎士国第一王女ヴェロニカ・ロートレアモンその人だった。

ヴェロニカの背後に佇むウルスラ・L・セルウィンとグレンマクガイアもいる。

 

「姉上・・・・・どうしてこちらに?」

 

「決まっているだろう。イッセーから『異世界の土産はどんなのがいい?』と手紙を

寄こしてきたのだ。訳の分からないものを手土産にされてはいい迷惑だからな。

自分の目で見てそれを手土産にした方が良いと思い、この場に来たのだ」

 

つまり、ヴェロニカも異世界に同行すると言う事であった―――。

 

「もっと砕いて言えば、ヴェロニカ王女殿下は、イッセーの異世界に大変興味をお持ちで、

昨日のうち全ての仕事を終わらせて異世界と友好、同盟の話をするために異世界の訪問という

理由を立て前にして、今日から騎竜学院の夏季休暇と同様の日数で異世界に在日すると

言うことです。つまり、王女殿下はイッセーや姫様方と思い出を作りたい―――」

 

ウルスラが長々とヴェロニカの本当の理由を告げたのであったのだが、ウルスラの口は

ヴェロニカの手で塞がれて最後まで言い切れなった。

そんなヴェロニカの行動に、ウルスラの言っていることは本当なのだと

実感した一誠たちは―――生温かい目で見た。

 

「妹思いのお姉さんだな」

 

「ほのぼのしますねー」

 

「じゃあ、姉妹水入らず、異世界の良いところを紹介しましょうよ」

 

「そうだな。―――だとすれば、あいつも仲間はずれしちゃ可哀想だよな?」

 

意味深なことを言いだす一誠。目の前に魔方陣を展開させたかと思うと、

光と共に一人の長身痩躯の男が出現した。

 

「・・・・・おや?ここは・・・・・」

 

「ジュ、ジュリアス!?」

 

「兄上!?」

 

ジュリアス・ロートレアモンが魔方陣から出現した。

ジュリアスを知るシルヴィアたちは愕然となる。

 

「おはよう、ジュリアス」

 

「イッセーくん・・・・・ここは・・・・・聖ダーラム広場かい?」

 

「ああ、そうだ。そんで、お前も連れて来ようとお前を召喚した訳だ」

 

「・・・・・どこにだい?」

 

ジュリアスの質問に呪文を唱えだす一誠は敢えて答えず、虚空の一点に軍杖を突き付けた。

途端に光が発して、巨大な円形のトンネルが出来上がった。

 

「異世界にだよ」

 

―――○♢○―――

 

一誠たちの世界。正式名はないが一誠たちは、

アルク=ストラーダ大陸から完全にいなくなったことは確かだった。

光のトンネルを潜り終えたアッシュたちの目に飛び込んできたのは―――真っ暗な空間だった。

正確に言えば、現在の異世界は夜なのだ。異世界は夏季の季節で外は蒸し暑かった。

 

「ここが・・・・・異世界なのか・・・・・?」

 

「真っ暗ではないか」

 

「何人か言ったけど、異世界との時間の差は殆ど変わらないけど、朝と夜は逆だ。

時差が違うから戸惑うだろうけど、そこは慣れてくれ。慣れないと身がもたないぞ」

 

「起きたのにまた寝ないといけないのか?」

 

「まだ眠いだろう?丁度良いんじゃないか?

まあ、眠れないって奴には―――強制的に眠らすけど」

 

朗らかに言う一誠にアッシュたちは冷や汗を流した。

一誠の強制は一体どんな方法で眠らせるのか想像ができない。

 

「ああ、それと」

 

アッシュたちを一瞥して口を開いた。

 

「この世界じゃ、お前らは『平民』として接してもらう。

王族、貴族、聖天竜騎士(アーク・ドラグナー)の地位は一切この世界じゃあ通用しない。

勿論、アヴァロンの皇女という名前や存在もだ。

ただの人型のドラゴンとしてこの世界から認知される。いいな?」

 

「へ、平民・・・・・」

 

「誇り高きロートレアモン騎士国の王族である私たちが・・・・・平民」

 

ヴェロニカとシルヴィアは愕然としていた。というか激しくショックを受けている様子だった。

王族の身分であるはずの自分たちは異世界では平民として扱われる。

それはあまりに経験したことがない境遇だった。

 

「私は別にかまわないわよ?」

 

「私もよ」

 

「僕は元王子だからね。気にしないで接してくれ」

 

逆にラーズやミラベル、ジュリアスは平然と受け入れた。

 

「だからヴェロニカとグレン。お前らが装着している鎧は脱いでもらうぞ。

いいな?お前らは『平民』だからな」

 

「「・・・・・」」

 

平民と強調され、鎧を着込んでいるヴェロニカとグレンは沈黙するしかできなかった。

が、グレンは食って掛かろうとした。

 

「私はヴェロニカ王女殿下の護衛を―――」

 

「この世界で誰がヴェロニカを狙う輩がいると思う?この世界は、俺達が立っているこの大陸は

アルク=ストラーダ大陸じゃないんだ。ヴェロニカたち王族を知る者はここにいるメンバーしか

いない。護衛なんて無意味だ」

 

「・・・・・」

 

「頭を柔らかく考えれば、お前たちはこの世界だと、ただの平民、一人の男と女だ。

自由に遊んで暮せれる唯一の安らぎの場所だ。誰かに狙われることもなく、

なにも縛られずに生活できる。お前らは俺の客としてこの世界にいられる。何か問題でもあるか?

だが、それでも護衛をしたいんなら好きにすればいい。ただし、鎧を装着することを禁ずるがな」

 

グレンから顔を逸らして今度はエーコに向けた。

 

「エーコ、お前の言動次第でこの世界に住む人間はお前を良い感情を抱かないからな。

気を付けておけ」

 

「はぁ?愚鈍で愚劣で愚昧な人間がこの誇り高き竜族―――」

 

「言っている傍から・・・・・駄目だ、こいつ」

 

「ちょっと!そんな全てが終わったみたいに頭を抱えないでよ!?」

 

頭を抱える一誠に食って掛かるエーコ。

アッシュは一誠の言葉を警告として肝に銘じた瞬間だった。

 

「アッシュ、頑張れよ」

 

「迷惑を掛けないとは言い切れないけど・・・・・頑張る」

 

「ちょっと!アッシュまでなに言うのよ!?」

 

それから一誠は暗闇の中を先導してアッシュたちを率いて歩く。

 

「ゆっくりとこの世界でいるのも久し振りだな」

 

「はい、ですが一誠様はやることはございますので変わらないかと」

 

「・・・・・だよなぁ・・・・・また分身で終わらせるしかないな」

 

ガクリと頭を垂らす一誠。一体なにをやるのかアッシュたちは知る由もなかった。

しばらく一誠が歩くととある一軒家に辿りついた。洋風と和風の二つの家が、

真ん中の家と合体したような形の家で、まるで城だと思わせるほど巨大な家だった。

 

「・・・・・ここ、誰の家なんだ?」

 

「ん?俺の家だけど?」

 

「イ、イッセーの家!?」

 

「大きいな・・・・・フォンティーン城とまではいかないが、それでも大きいな」

 

一誠の家を見て呟くシルヴィア。当の一誠は石でできた足場に進んで玄関の扉を開け放った。

続いて当然のようにヴァーリたちが入る。

その後にアッシュたちは若干緊張した面持ちで中に入る。

 

「なんだ・・・・・これ・・・・・」

 

アッシュが思わず呟いた。一誠の家の中は豪華絢爛とピッタリな光景だった。

玄関の広場に巨大な竜を象った噴水。玄関から伸びるように敷かれたレッドカーペット。

二階、三階さらに上階に上がるための階段が噴水の奥にあり、

天井を見上げれば巨大なシャンデリアが吊るされている。

 

「凄い・・・・・」

 

「これが異世界の家の中か・・・・・」

 

「いや、そっちの世界と大して変わらない構造だぞ」

 

一誠が口を開いた次の瞬間。驚いたような声音と共に一誠の名を呼んだ者の声が聞こえた。

声がした方へ振り向けば、二階に上がる階段のところに一人の青年が立っていた。

 

「一誠、リーラさんたちも久し振りじゃないか!」

 

「おお、和樹。久し振りだな」

 

和樹と呼ばれた青年は階段から跳躍して真っ直ぐ一誠の前に着地したら、

笑みを浮かべて一誠と抱き合った。

 

「ははっ、元気そうでなによりだよ」

 

「和樹もな」

 

「ところで・・・・・その人たちは誰なんだい?」

 

和樹は背後にいるアッシュたちに視線を送った。一誠は「ああ」と紹介しようとしたが―――。

 

「あっ!本当に一誠くんだ!」

 

「なんだ、やっと戻ってきたのか!」

 

「ヴァーリたちもいるわ!」

 

「わあ、久し振り!」

 

どこからともなく少女や女性たちが現れて一誠に近寄ってきた。

そして、あっという間に玄関の広場は騒々しくなった。

 

「な、なんだ・・・・・?随分とイッセーと親しげに・・・・・」

 

「イッセーの家族かしら・・・・・?」

 

戸惑うシルヴィアに疑問を浮かべるラーズ。とそんな時、急に地響きが鳴りだした。

 

「一誠殿ぉぉおおおおおおおおおっ!」

 

「一誠ちゃああああああああああああああああああん!」

 

浴衣を着ている筋肉質の中年男性と長身痩躯の中年男性が左右から現れた。

 

「だ、誰っ!?」

 

「あっ、お義父さんたちだ」

 

「お義父さん!?」

 

当の中年男性たちは青い長髪の女性と小豆色の髪の女性に殴られたり椅子で

吹き飛ばされたりしていた。

 

「・・・・・椅子で吹き飛ばしたんだけど?」

 

「気にするな。何時ものことだから」

 

「何時もあんな感じなのか!?」

 

愕然とするアッシュ。だが、本当に何時ものことらしく、

ムクリと和服を着ている中年男性は起き上がった。

 

「・・・・・なあ、イッセー。その少女と女性たちは一体誰なんだ?」

 

「家族だけど?」

 

「いや、家族だからといって・・・・・・そんなに密着するのか?」

 

明らかに家族のレベルを通り越しているのではいか?と思うぐらい

一誠はがっちりと両腕や背中に少女や女性に抱きつかれている。

 

「しょうがないさ。久々に帰って来たんだからな」

 

「そ、そうなのか・・・・・?なんだか、血の繋がっていない家族がいると聞いだが、

目の当たりにすると家族以上の感じがしてどうしようもない」

 

「それは当然でございます」

 

リーラが首肯した。

 

「存じていない方もおりますでしょう。一誠様の紹介をさせていただきます。

一誠様はこの世界に住む人類の頂点に立つ唯一の王、人王で在られます。

ですので、何人もの婚約者、妻がいても不思議ではございません」

 

―――っ!?

 

衝撃的な事実を知らされたアッシュたち。さらに爆弾発言を下された。

 

「一誠様の本名は兵藤一誠。イッセー・D・スカーレットとは一度死んだ一誠様が新たに

生まれ変わった意味も込めて偽名を名乗っております。

皆様の世界での一誠様は異世界から来た人型のドラゴンとしていましたが、

この世界での一誠様は王の立場で在られます。

先ほど一誠様が皆様に発した言葉をお忘れなきようお願いいたします」

 

第一、第三、第四、第五王女のヴェロニカたちは平民。一誠は王。

五人の立場が一気に逆転した瞬間を目の当たりにしたアッシュだった。

 

「まっ、何時も通り接してくれればいいさ。堅苦しいことはこの際無し」

 

「・・・・・イッセー・・・・・お前、結婚していたのか?」

 

「この世界じゃそうだ。

というか、俺が王だって教えた時点で誰かと結婚していると予想していなかったのか?」

 

「―――っ」

 

確かに、その可能性は考えていた。だが、その可能性をシルヴィアは心の片隅に追いやって

『今』を優先で一誠と接していた。

改めて突き付けられたその可能性は―――シルヴィアの心を何故か痛めた。

 

「あら?イッセーのことが好きなのかしら?別に好きになってもいいわよ?」

 

「・・・・・はい?」

 

シルヴィアの心情を察したのか、紅の髪の女性が突然、とんでもないことを言い出した。

 

「あ、あの・・・・・どうして許すのですか?妾がいても平気なのですか?」

 

「・・・・・妾?」

 

子首をかしげる紅の髪の女性。しばらくして、シルヴィアの発言がおかしいのか、

名も知らない少女や女性たちが笑い出した。

 

「なっ、何がおかしい!?」

 

「ふふっ、ごめんなさい。妾なんて言葉が出てくるとは思いもしなかったから。

それに私たちは妾なんて意識しないの」

 

「なぜ?王族が妃以外の女性と結婚したら、妾の立場になるはずよ?

それに、子が儲けても正式な王族のこと公にもできない。なのになぜ?」

 

ラーズが疑問をぶつけた。ラーズの疑問を解消したのは、一誠だった。

 

「彼女達は俺と長らく共に生き、共に戦い、共に支え、愛し合った。

そんな彼女達の中で妾なんて存在しないし、そんな存在を許さない。

皆、平等に愛し合っているんだ」

 

「私達もイッセーを愛しているわ」

 

紅の髪の女性の告白が呼び水となって、

次々と一誠に笑みと共に少女や女性達が「好き」と愛の言葉を発していく。

 

「・・・・・まるでシェブロン王国の現シェブロン王―――ザカライアスⅢ世みたいだな」

 

「ザカライアスⅢ世?聞いたことある名前だな。会ったことないけど」

 

首を傾げる一誠にシルヴィアは訂正した。

 

「いやイッセー。お前は舞踏会で会ったぞ。父上がお前を自慢した時にあの場にいた」

 

「ん?そうなんだ?まあ、どーでもいいけどどうしてその王みたいなんだ?」

 

ヴェロニカに問いかけた一誠に、ヴェロニカは言い放った。

 

「ザカライアスⅢ世は百人単位の愛妾がいる」

 

「・・・・・ごめん、物凄くその王と一緒にされると不愉快過ぎて嫌だ」

 

本当に嫌そうに険しい顔を浮かべ出す一誠。他人の家の事情に首を突っ込む気はないが、

多人数の愛妾を傍に置く理由は自分とハッキリ違う。一誠の場合は、昔から一誠と共に笑ったり、

怒ったり、泣いたり、喜んだり、戦ったりした時を過ごした少女や女性たち、

一誠は何時までも一緒にいたいと言う気持ちから、妾なんて気にせず結婚をしたのだ。

ザカライアスⅢ世の愛妾はきっと、コレクションを集める感覚で百人単位の愛妾を傍に

居させているのだろう。それに、そんなに愛妾が多いんじゃ愛していない、

接していない愛妾がいるはずだ。

 

「そんな不純な気持ちでガイアたちと一緒にいるわけじゃない。俺の善し悪しを知って、

過去を知って、俺のことを心から支え、愛してくれる、そんな女性しか結ばれるつもりはない」

 

「じゃあ、あなたの周りにいる女性たちがそうだとそう言いたいのね?」

 

「当然だ。特にリーラは俺が小さい頃から共に過ごした家族だ。

彼女を手放す気なんて俺の命を掛けてもする気はない」

 

「一誠様・・・・・」

 

瞳を潤わせて、幸せそうに笑みを浮かべるリーラ。

長い間仕えていた一誠にそう言われて嬉しいわけがない。

一人のメイドとして、一人の女として、

リーラは世界中にいるメイドの中で一番幸せ者であろう。

 

「がーっはっはっはっ!男らしい事を言うじゃねぇか一誠殿!

おう、それでこそ女を心から愛する男の発言だ!なあ、まー坊!」

 

「うんうん、麗しき愛情表現だね。私は感動したよ。

やっぱり、ネリネちゃんやリコリスちゃんを一誠ちゃんに任せて正解だった」

 

「シアとキキョウもだ!一誠殿、これからも俺たちの娘と仲良くしてくれよ?」

 

「ネリネちゃんとリコリスちゃんもだよ?」

 

浴衣の中年男性と長身痩躯の銀髪の中年男性がそう言いだした。二人の義父に一誠は首肯する。

 

「分かっているよ、ユーストマお義父さんとフォーベシイお義父さん」

 

「くっ・・・・・!やっぱり義息子から『お義父さん』と呼ばれるのってのは、

いいもんだなぁ・・・・・!」

 

「そうだね、神ちゃん。ご飯が三杯も食べれちゃうぐらいだよ」

 

ユーストマ、フォーベシイと呼ばれた中年男性たちは笑みを浮かべる。

 

「そんじゃ!リアたちにパーティをするために料理を作ってもらおうか!

一誠殿が戻ってきたお祝いにな!」

 

「私とママも張り切って作らせてもらうよ!

あっ、リーラちゃんは手伝わなくて良いよ?なんたって主役の一人なんだからね」

 

嵐の如く、二人は左右に別れて玄関ホールからいなくなった。

 

「・・・・・ところで、いない奴もいるみたいだけどどこにいるんだ?」

 

「部屋にいたり、お風呂に入ったり、実家に戻っているよ」

 

「夕食は?」

 

「丁度これからシンシアたちが作ろうとしているんじゃないかな?」

 

ということは、まだ夕食は食べていないと言う事だ。

 

「なるほどな。それじゃ、アッシュたちを寝泊りさせる部屋にでも案内させるか。

―――グレイフィア、お願いできるか?」

 

「はい。承知いたしました」

 

音もなく銀髪のメイドが現れた。

 

「い、何時の間に・・・・・?コゼット、気付いたか?」

 

「いえ・・・・・気付きませんでしたわ」

 

シルヴィアの問いかけにコゼットは申し訳なさそうに答えた。

 

「リーラとこのグレイフィアはとても優秀なメイドだ。俺の自慢の家族の一人でもある」

 

「イッセー様の専属メイドの一人、グレイフィア・ルキフグスと申します。

皆様。以御、お見知りおきを」

 

恭しくお辞儀をするグレイフィア。そこで、ようやくランサーの口が開いた。

 

「あ、ありえねぇ・・・・・!

どうなっている?原作の登場キャラが揃いも揃っているなんて・・・・・!」

 

「ランサー。理由は知らないけど、信じられないだろうが目の前の現実を受け入れろ。

それしか言えない」

 

溜息を吐く。どうせ、転生者特有の知識と目の前の現実を目の当たりにして、

受け入れがたいのだろう。

 

「一誠様。私も皆さんをご案内いたします」

 

「ん?いいのか?なら、二人とも頼む」

 

リーラの申し出に一誠は感謝の言葉と共にリーラの頭を撫で、グレイフィアの頭も撫でた。

 

「「メイドとしての務めを果たすまででございます。我が主よ」」

 

「「「・・・・・」」」

 

コゼット、ヴィットーリア、ユニスは一誠に対する忠誠心に溜息混じりの感嘆を漏らした。

一見、普通に言っているようにも見えるが、リーラとグレイフィアから伝わる何かが、

同じメイドであるコゼット達を刺激したのだろう。違う角度から見る他の、

それも異世界の侍従の言動を見て勉強になる。

 

「さて、俺は―――」

 

ガシッ!

 

「こいつらの相手をしているよ」

 

有無を言わせないとばかりに一誠の両腕と肩は周りから掴まれてしまった。

 

「ふふっ、分かっているじゃない」

 

「ちゃんと私達と接する気持ちを持っているイッセーくんは好きですよ」

 

「・・・・・イッセー先輩のお部屋に連れて行きましょう」

 

ズルズルと一誠は回りの少女や女性に引きずられていった。

 

―――○♢○―――

 

「こちらが、皆様がこれから寝泊りするお部屋でございます」

 

グレイフィアとリーラの後を追ったアッシュたちは、

二階へ上がる階段の裏に回って廊下へ進むと直ぐ部屋の扉の前に案内された。

リーラが扉を開けると―――まるで物置き部屋のようながらんとした部屋だった。

家具らしきものは一切ない。

 

「・・・・・ここが私たちの部屋だと?」

 

仮にも一国の王女を何もない部屋で寝泊りさせるのは流石に許し難いと、

ヴェロニカはそう思いを籠めてリーラを睨んだ。リーラはその睨みを軽く受け流して説明した。

 

「お気持ちは察しますが、最後まで話を聞いてください。

この部屋を自由に模様替えをできるシステムがございます」

 

「システム・・・・・?」

 

「こちらでございます」

 

それは壁に掛けられていた、四角い機械。画面らしきところは真っ暗だ。

リーラはとあるところに指で押すと、ピッと音が鳴ったと同時に機械が動き、画面に光がついた。

 

「この機械には様々な家具が収納されております。この機械を操作し、

自分の好きな場所に様々な家具を設置することが可能です」

 

「ほう、便利な機械だな。ゼファロス帝国には存在しない技術か」

 

「さようです。試しにヴェロニカ様から体験してもらいましょう。

私が説明いたしますので操作してください」

 

四角い機械をヴェロニカに渡して操作の仕方を教え始める。

ヴェロニカはリーラの説明に耳を傾けながら操作をしていくと

、四角い機械から角みたいな突起が出て来て、赤い光を放ったかと思うと、大きさ、サイズ、

設置場所を示すかのように立体的な形を浮かべた。

その形はベッドでヴェロニカが操作をしていくと、部屋に一つの魔方陣が出現し、

光と共に天蓋付きのベッドが発現した。

 

「おお・・・・・」

 

「魔方陣からベッドが出てきたぞ」

 

「なんか、面白そうね」

 

様子を見ていたアッシュたちは感嘆の声を漏らし、好奇心を抱き始めた。

 

「もしも、家具を変えたいのであれば、

この機械の突起を家具に向けて『入れ替え』のボタンを押して他の家具と選んでください」

 

「ふむ・・・・・それほど複雑で面倒な操作ではないのだな。

分かった。これなら私一人でもできそうだ」

 

「かしこまりました。では、他の皆様にもご説明させてもらいますので、

違う部屋にご案内します」

 

リーラはアッシュ達を引き連れ廊下に出た。それからキーラとルッカ、アッシュとエーコ、

シルヴィアとラーズと二人で寝る意外のメンバーが決まって、問題なく部屋割が決まった。

 

―――○♢○―――

 

十数分後。部屋の模様替えを終えたアッシュ達は応接間に案内されて、待機していた。

 

「この四角い箱みたいな機械はテレビだと言ったな」

 

「ええ、この細長くてボタンがある機械、リモコンとかで動かすことができると言ってたわね。

試しに動かしてみましょうよ」

 

好奇心でラーズはリモコンを手にし、電源を入れた。次の瞬間―――。

 

『お茶の間の皆さん。こんばんは!』

 

画面にスーツを身に纏う美人の女性が映って笑顔と共に挨拶をした。

 

「うわっ!?」

 

「な、なんだ!?」

 

「あー、懐かしいなぁ・・・・・・」

 

驚く面々にランサーだけは遠い目でテレビの画面を見ていた。

 

『今夜は蒸し暑い夜となるでしょう。

ですが、今年の夏は京都で大変賑やかなお祭りの催しが開催するでしょう。

祭りは八月の下旬で行われます。皆さん、京都に行って楽しい夏をお過ごししましょう。

以上、ニュースキャスターのヒナでした』

 

・・・・・・・・・・・・・。

 

テレビの画面は消えることなく違う人が映り、アッシュたちにとってチンプンカンプンな会話をし続けていく。

 

「この世界は違う国から映像を簡単に映すことができるようですね。

流石は異世界・・・・・ゼファロス帝国の技術を遥かに凌駕しているようですわ」

 

興味深そうにテレビを見てミラベルは言った。

 

「姉上・・・・・このテレビとかいう機械の素晴らしさが分かるのですか?」

 

「勿論よ。一体誰が魔導艦シルヴァヌスの設計を考えたと思って?」

 

その一言にアッシュは驚愕したが、ミラベルはジッとテレビを見た。

 

「こんな小型で違うところから映像を放送し、映すなんて・・・・・とても興味深いわ。

できることなら、一度バラしてどんな構造をしているのか見てみたい」

 

「―――そんなことされたら、テレビが使えれなくなるから遠慮してくれ」

 

ミラベルの好奇心の言葉に男の声が聞こえた。全員の視線を集め、

扉にいた男が苦笑を浮かべていた。

 

「イッセー!」

 

シルヴィアは思わず叫んで呼んだ。扉にいた男、一誠が短く手を上げて声を掛ける。

 

「よう、待たせたな。夕餉の準備ができたようだから迎えに来たぞ」

 

「・・・・・あの人達はどうしたの?」

 

「ん?皆か?俺が留守だった分、コミュニケーションをした。

・・・・・ちょっと過激だったがな」

 

意味深なことを言うが、過激なコミュニケーションと言われ、

アッシュ達は分からないと小首を傾げるばかりだった。

 

「ねえ、イッセー。異世界にはどんな技術で作った機械があるの?」

 

「そんなこと、明日になれば否が応でも分かるさ。

明日はお前達を色んな場所へ案内するからな」

 

「それは勿論イッセーがしてくれるのよね?」

 

「できる限りな」

 

アッシュ達を立ち上がらせ、一誠はリビングキッチンへ案内した。

一階の玄関ホールに戻ってとある大きな扉を開け放てば―――。

豪華絢爛な飾りと料理が埋め尽くしていたリビングキッチンが一誠たちを出迎えたのだった。

 

「連れてきた」

 

「すいません、一誠様」

 

「気にするな。それじゃ、食べるとしようか。異世界の人間同士、話し合いをしながらな?」

 

椅子はなく、どうやら立食パーティーをするらしい。

一誠の言葉に呼応して、一誠の家族達は一気に騒ぎ始めた。

 

「・・・・・聖女ロサ・マリアへの祈りをせずに食べるとは・・・・・」

 

信じられないとシルヴィアは漏らした直後だった。一人の少女が近づいてきたのだ。

 

「こんばんは!」

 

「む・・・・・」

 

「あら、緊張しているの?一応、異世界から来たと言っても同じ人間よ?」

 

栗毛のツインテールの少女だった。ツインテールの少女の言葉にシルヴィアは目を丸くした。

 

「どうして私達のことを?」

 

「イッセーくんから色々と聞いたわ。

ねえねえ、そっちの世界には神様や天使がいる?どんな宗教があるのか知りたいわ」

 

「それは・・・・・」

 

「まあ、食べながらでもいいから聞かせてほしいわ。

そっちの世界でイッセーくんはどんなことしていたのか含めてね」

 

ニッコリと微笑むツインテールの少女。と、さらに言い続けた。

 

「私は兵藤イリナ。よろしくね。あなたは何て名前?」

 

「私は、シルヴィア・ロートレアモン。ロートレアモン騎士国の第四王女だ」

 

「へぇ、王女様なんだ?うん、よろしくね。シルヴィアちゃん」

 

「シ、シルヴィアちゃん・・・・・!?」

 

「ダメ?イッセーくんは一般人と同じ接し方をして欲しいって

言われているから問題ないと思ったんだけど?」

 

イリナの言葉に自分達は『平民』として、いてもらうと一誠の言葉が脳裏に過った。

ここはアンサリヴァン市でもロートレアモン騎士国でもない。自分たちの常識を覆す異世界。

 

「い、いや・・・・・大丈夫だ。うん、問題ないぞ・・・・・」

 

「じゃあ、よろしくねシルヴィアちゃん」

 

「よ、よろしくお願いします・・・・・兵藤さん」

 

「イリナでいいよ。年上だけど、気にせずに気兼ねなく話しかけてね」

 

天真爛漫にイリナはシルヴィアの手を取って無邪気に会話を始めた。

そんな一方、ヴェロニカ達はというと、

 

「ちいさっ!、これ、ドラゴンの子供なんだ?」

 

「ドラゴンの子供を見るのは初めてだわ。意外と可愛いのね?異世界のドラゴンは」

 

「鎧を着ているけれど、これは何か魔法が掛けられているのかな?」

 

「異世界の人はマキャベリさんとヴィットーリアさんを見て知っているけど、

エクブラッド人・・・・・まるでエルフみたいだわ」

 

一誠の家族たちに話しかけられたり囲まれていたりしていた。逆にヴェロニカ達の反応は、

 

「む・・・・・」

 

「ちょ・・・・・そんな話しかけられても・・・・・・」

 

戸惑い、当惑していて反応がいまいちだった。そこに一誠が声を掛けてきた。

 

「一気に話しかけられたら、答えれないだろう。一人ずつ話してやれ。それと自己紹介もだ」

 

数人の少女や女性に囲まれている一誠の助け船。「じゃあ」と一人の女性が挙手した。

 

「私は現グレモリー家当主でイッセーの妻、リアス・D・グレモリーよ。

知っているかどうか分からないけど、私は悪魔よ。よろしくね?上級貴族で位は公爵」

 

背中に蝙蝠のような翼を生やしだした紅の髪の女性、リアス・D・グレモリー

 

「あ、悪魔・・・・・!?」

 

「ええ、そうよ。イッセーから聞いていない?」

 

「イッセー・・・・・から?」

 

怪訝な面持で一誠を見つめる面々。一身に視線を受ける一誠は首を横に振った。

 

「俺たちの世界のことはそこまで話していない。

というか、聞かれてもいなかったから教えていない」

 

「あら、そうなの?それじゃ、驚いても仕方がないわね」

 

くすりと、微笑むリアス。翼を仕舞ってアッシュ達に問いかけた。

 

「あなたたちの名前を教えてくれるかしら?」

 

―――○♢○―――

 

異世界同士の交流は小一時間で終了し、一誠は男女に分けて浴場へ案内した。

 

「これは凄い・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「この家での風呂を入るのは久し振りだなぁー」

 

浴室は広大だった。様々な形やお湯の種類があって、湯気を立たせている。

 

「イッセーくん。こんなにお風呂があるんだけど、男は僕達しかいないのに必要なのかい?」

 

「一応、来客も来るからな。それに色んな種類の温泉があるんだ。身体に健康が良い温泉が」

 

「身体に良い温泉?温泉にそんな効能があるのかい?」

 

ジュリアスの質問に龍牙が答えた。

 

「ええ、ありますよ。例えばあの白いお湯は身体の血行を良くするお湯です」

 

「んで、あの緑色のお湯は心を和ませる効能がある」

 

悠然と浴場を歩きつつ金色の翼を生やしだした。緑色のお湯に身体を沈めると一息吐いた。

 

「好きなお湯に入って良いですよ。ここ、十種類以上はありますから」

 

龍牙の言葉が合図のように動き始めた男性陣。

 

「僕は滝風呂に行こうかな」

 

「まー坊!どっちが長く湯に浸かっていられるか、地獄湯でしようぜ!」

 

「ふふっ、乗った。それに地獄湯は私の好きなお風呂だよ?

神ちゃんにはちょっときついかもしれないよ?」

 

「さて、どの風呂に入りましょうかね」

 

「効能が違うだけで入れば同じだぜぃ?」

 

「うっはー!どれに入ろうかなー!」

 

「エーコの奴、大丈夫かな・・・・・」

 

和樹やユーストマ、フォーベシイ、眼鏡を掛けた男性と恰好良い男性、

アッシュ、ランサーが目的のお湯に目指して歩き始めた。ジュリアスとグレンは顔を見合わせて、

どちからでもなく一誠がいるお湯に赴いた。いざ、緑色のお湯に浸かれば―――、

 

「「はぁ・・・・・」」

 

何とも言えない溜息を吐きだしたのだった。

 

「ははっ、お気に召したようだな」

 

「そうだね。ただの風呂だと思っていたけどバカにできないな。

それにグレンとこうして入るのは久し振りだ」

 

「そうだな。まさかこの日がこようとは思いもしなかった」

 

ジュリアスの言葉に首肯したグレン。

 

「二人は当然、騎竜学院の卒業生なんだろう?当時の学園生活を教えてくれるか?」

 

「それじゃ、君のことも教えてくれるかい?この世界のこともね」

 

「ん、いいぞ」

 

肯定と頷いた一誠。

 

ドッガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!

 

刹那、浴場の壁が破壊された。その轟音と衝撃にジュリアスとグレンは目を張った。

 

「な、なんだ!?」

 

「あー・・・・・すまん。何時ものことだ」

 

「何時ものこと・・・・・?それはどういうことだ?」

 

グレンはそう問いかけていると、破壊した壁が生じた煙や風呂の湯気で

人影のシルエットが浮かび、真っ直ぐ一誠に近づいてきた。

 

「一誠」

 

その影の正体はガイアだった。身体にタオルを巻いた状態で姿を現した。

 

「何時も言っているだろう。男風呂ではなく、こっちの風呂に入れと」

 

「だから、それは遠慮するって言っただろう。

それに今回はレベッカ達も連れて来ているんだから何時もみたいなことはできないって」

 

「ふん、我が知るか。それに、離れた場所で入ればいいだけのことだ」

 

一誠の言い分を耳に傾けず、腕だけ龍化にして一誠をあっという間に鷲掴みにした。

 

「ちょっ、マジで俺を連れていく気かよ!?そっちはレベッカ達がいるんだぞ!」

 

「それこそ我が知るか。あいつらがいようがいまいが、関係ない」

 

そのままガイアは一誠を連れて行かれる。ジュリアスとグレンは唖然とその様子を

見守ることしかできなかった。しばらくして―――破壊された壁から悲鳴が聞こえてきた。

 

「・・・・・異世界の風呂って大胆だね」

 

「・・・・・そうだな」

 

―――○♢○―――

 

「まったく・・・・・イッセーの奴は・・・・・」

 

「いや、お姉様。あれはどうみたっても不可抗力でしょう?

捕まっていたし、必死に目を瞑っていたじゃない」

 

持ってきた寝間着の姿で部屋にいるシルヴィアとラーズ。

女湯にガイアの手によって、連れて来られた一誠に

怒りを覚えていた。そんな姉のシルヴィアに呆れ顔でラーズはこう言った。

 

「あんまり、根を持つとイッセーに嫌われるわよ?」

 

「なっ・・・・・どうして嫌われるのだ!イッセーとはただの友達で―――」

 

「あっ、イッセー」

 

「っ!」

 

バッ!と顔を赤くして扉の方へ向けた―――誰も佇んでいない扉に。

 

「ラーズッ!」

 

「過激に反応して『友達』なんて、嘘を吐くことが下手なお姉様ね」

 

「今の寝間着姿の私達を見られたくないだけだ!」

 

「あら、私は別にいいわよ?特にイッセーならね」

 

妹のラーズの言葉には愕然とするしかなかった。

その真意はなんなのか、シルヴィアは予想を述べた。

 

「未だにイッセーを侍従として欲しがっているのか?」

 

「・・・・・」

 

ラーズは沈黙した。なにか自問自答しているような面持ちでもあった。

シルヴィアが知るラーズは即断即決で、欲しい物が見つかったらどんな手段でも手に入れる

『強欲の王女』だった。なのに「そうよ」と即答をしない。

 

「・・・・・もう、侍従の件については諦めているわ」

 

「はっ・・・・・?」

 

「だって、イッセーは私が思っていた以上の高い場所にいるし、

手を伸ばしても届きそうにもないもの」

 

自嘲的な笑みを浮かべるラーズ。その笑みはすぐに消えた。瞳を潤わせ、

淡い朱を頬に散らした。これから言う言葉に照れているのかシルヴィアから顔を逸らした。

 

「その代わり・・・・・イッセーを一人の女として彼を欲しいわ」

 

「―――っ!?」

 

信じがたい言葉をラーズは言い放ち、シルヴィアは思わず目を丸くした。

こんな表情を浮かべるラーズを見たのは初めてだとばかりに。

 

「お姉様はどう?イッセーのこと好き?一人の女として妹に聞かせてちょうだいな」

 

「な、どうして私がそんなことを言わないんだぁっ!」

 

顔を真っ赤にしてラーズの問いかけに応じないシルヴィアであった。

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