「ねえ、イッセー」
リビングキッチンに設けられているソファに座って読書中の一誠の背後から
ミラベルが声を掛ける。
「あの魔導艦をちょっと調べたいのだけれど」
「あれか・・・・・いま、知り合いに調べさせているんだ」
「知り合いに?この世界にあの魔導艦のことを調べれる考古学者がいるのかしら?」
「それはいない。でも、俺が認める凄腕の技術者に頼んで調べてもらっている。
でも、ミラベルは個人的に自分の手で触れたり、自分の目で見て調べたいんだろう?」
「ええ、そうよ」
ハッキリと首肯する。「そうなると・・・・・」と一誠は答えた。
「今の魔導艦をミラベルに見せられないな。ミラベルが調べたところは知り合いがとっくに
知らべた上に、さらにその先も調べているだろうし、ミラベルはそれを見て納得しないだろう」
「確かに・・・・・楽しみが減ってしまうわ」
「ならば、なおさら見せれないな。代わりと言っちゃあ何だが・・・・・」
一誠はテレビに向けた。映像に映るテレビが今現在放送しているのは―――。
『この夏休みに科学博物館に来よう!』
と、どこかの地方の施設が映っている映像が放送されていて、その映像に一誠は差した。
「機械だらけの施設に案内するから我慢してくれ。飲食禁止の場所だけどな」
「なん・・・・・です・・・・・って・・・・・?」
その後、アッシュ達を呼び集め、科学博物館へと電車や転移魔方陣で移動し、
ようやく辿り着いた。中に入ると、ひんやりとした冷たい空気が一誠達の身体を包み、
「えっ、人王様ぁっ!?」
受付の人を驚かしたのであった。
「すまん、騒ぎにならないように中を見学させてもらう」
そう言って一誠の姿が虚空に消える。ポカンと開いた口が塞がらない受付の人を余所に
一誠はアッシュ達を引き連れて科学館の中を案内した。
「何て素晴らしいの・・・・・!」
ミラベルは終始、科学館の全ての階層に設けられた機器と科学に興奮しっぱなしだった。
展示されている資料、部品を一誠を通じて知り、
一度も見聞したことがないミラベルにとって未知な科学に―――。
「電力、水力、火力、風力・・・・・それらを利用した科学が
ここまで幅広く応用・・・・・もし、魔導艦シルヴァヌスにもこの自然の力を
応用したエネルギーで・・・・・」
思考の海に潜り、ブツブツとつぶやく始末。ヴェロニカが溜息を吐く。
「ミラベルにとってこの施設は楽園そのものかもしれんな。私には何がなんだがかさっぱりだ」
「多分、異世界メンバーで言えば、ミラベル以外の全員がチンプンカンプンだぞヴェロニカ」
苦笑を浮かべる一誠は「次に行こう」と半ばミラベルを引きずって移動を開始する。
「イッセー。ここはなんの部屋なのだ?」
「ここはとある説明を聞きながら見るための部屋だ」
「何の説明がされるのかしら?」
「それは始まってからの話だ。まあ、好きな場所に座ってくれ」
丸天井の部屋中に設けられた椅子にアッシュ達は説明する。
「ああ、大声での私語禁止だからな?話すときは声を殺してくれよ」
「イッセー、今度は私に何を見せてくれるのかしら?」
「ミラベル達が知らない事さ。これを知ったら、ミラベルは不思議にならないわけがない」
「あら、そうなの?今の私、なにが説明されても驚きはしないと思うわ」
隣に座っているミラベルが不敵に言う。反対側にはシルヴィア。すると、室内がゆっくりと
照明が消えて暗くなり始める。隣に座るシルヴィアが緊張した面持ちで座っているのを気付き、
そっとシルヴィアの手を握った。
「っ・・・・・」
「大丈夫」
それだけ言ってシルヴィアの手を握ったまま天井を見上げると、アナウンスが流れ始めた―――。
―――数十分後。
『・・・・・』
異世界メンバーのアッシュ達は科学博物館から出てもボーとしていた。
「この世界が丸いことは知っていたけど・・・・・」
「太陽、月、宇宙・・・・・様々な惑星」
「そして星、星座・・・・・」
「私達がいるアルク=ストラーダ大陸より地球が大きくて、さらに地球より宇宙の方が広くて、
地球より大きい天体というものが存在している・・・・・」
「地球にも寿命がある」
ブツブツと、アッシュ達は知らされた事実に衝撃的で余韻が何時まで経っても
抜けそうにもなかった。
「こりゃ、しばらくは放っておくしかなさそうだな」
「俺もそうした方が良いと思うぜ?」
転生者であるランサーは既に知っていたため、あんまり驚きもしていなかった。
一誠はアッシュ達を共に直接、家に戻ってそれぞれの自室へと戻らせた。
その後、アッシュ達が落ち着いたのは三十分ぐらいかかったのは余談である。
「ねえ、ユニス。私、この世界に移り住もうかしら」
「ひ、姫様!?」
素っ頓狂な声を上げるユニスだが、今のミラベルの瞳を見れば
「ふふふ・・・・・この世界の技術力の発展は・・・・・とても素晴らしいじゃない。
宇宙と言う空間にも行けるほどの技術だってあるしね・・・・・」
「あ、あの姫様。そう仰られては
お受けになられますが・・・・・」
「おーい、今度は色んな機械を作っている工場に行くぞー」
そこへ、ミラベルを誘う声が発せられた。
その時、一瞬だけ肉親と自分の欲求の天秤が浮かんだが、
「イッセー。その工場はどこにあるのかしら?」
呆気なく、欲求が肉親より上回ったのであった。午前はミラベルにとって至福な時間で終了し、
次は、午後は様々な生物が飼育されている施設へと足を運んだ一行。
主に犬や猫、鳥、ドラゴンしか見たことがないアッシュ達にとって
初めて見る動物は興味深い対象だった。
「首長っ!?」
「うわー、あの角・・・・・調合できそうね」
「ほう・・・・・なんと気高だかな猛獣だ?私のペットにしてやりたいな」
「鼻が長いな・・・・・おお、ああやって食事をするのか」
触れ合いができるコーナーでは、
「フワフワのモコモコだわ!」
「可愛い・・・・・」
「ああ、逃げられちゃった・・・・・」
ワイワイと小型の生物と触れ合い、各々と楽しんでいた。
さらに水の中で生息する生物が飼育されている施設にも案内され、アッシュ達は足を運び。
「食用の魚な以外にも、こんな魚たちがいるのね」
「勉強になるわ・・・・・」
「綺麗な模様の魚・・・・・・」
「うわ、なんか気持ち悪いやつもいるな!」
様々な魚を見て様々な反応をし、脳裏に焼き付け、この瞬間を堪能する。
その後も植物が飼育されている施設にも案内され、アッシュ達は思い出を作った。
―――○♢○―――
「・・・・・ふう、今日はこれぐらいでいいだろう」
時間はあっという間に過ぎ、自室でノートに今日の出来事を記していた
シルヴィアはペンを置いた。
「お姉様、今日も日記をお書きに?」
「ああ、この思い出を残したいからな」
「私は心と記憶に残しておりますわ」
「個人の自由だろう」
ベッドに寝転がっている
明日はどんな場所に連れて行ってくれるのか、期待に胸が膨らんでしょうがない。
この世界は実に興味深い物で満ち溢れている。元の世界では、
自ら違う国へ行こうなどしなかった。だが、この世界ならば探検をしたい
気分の自分がいることに気が付いている。
「そろそろ夏休みも終わりに近いな・・・・・」
部屋の壁に飾ってあるカレンダーを見て、残しの夏季休暇の日数にポツリと漏らす
シルヴィアにラーズが「そうね」と反応する。
「でも、冬休みだってあるじゃない。
その時また、この世界に連れて来て欲しいと頼めばいいでしょう?」
「まあ、それは確かにそうかもしれないが・・・・・なんだかこの世界が楽しくて
仕方がないのだ」
「その気持ちは十分理解できるわ。あの世界が退屈だって思ってしまうもの。
夜更かししても、この世界のことをもっと知りたいぐらい」
「・・・・・ところで、ラーズ。お前は何をしているのだ?」
ベッドの上で何やら雑誌を見ているラーズに訊ねた。この世界の物だろうと思うも、
異世界の文字はまだ完全にマスターしているわけでもない。
それでもラーズは異世界の雑誌を見ている。
「この世界のことを調べているのよ。文字が読めなくても、
この世界の様々な写真を見れば、『ああ、こういうところに行ってみたいな』って思うから」
「・・・・・」
ラーズの言葉に納得する。調べれないことはないのだ、この世界のことを。
分からないことがあったら、イッセーたちに聞けばいい。ただそれだけのことだ。
それをラーズはしている。そんなことを妹がして姉である自分がしていないことに失念し、
「ラーズ。私も見ていいか?」
シルヴィアは「自分も調べよう」と、ラーズに近づきながら訊ねたのであった。
その時、扉から音が聞こえてきた。今現在、コゼットはシルヴィアとラーズの部屋にはいなく、
必然的に二人の誰かが訪問者を迎えなければいかないのだが、
「お姉様、お願いしますわ」
「ぐーたらしているお前が行けばいいではないか」
「私は調べ物をして忙しいんですの。今立っておられるお姉様が行けばいいじゃないですか」
「私だってこれから調べ物をしようとしているのだ」
両者、ドアの向こうの訪問者より、この世界のことを調べたい方が重要で出迎えたがらない。
だがしかし、その気持ちは百八十度変わる。
『寝ているのか?まあ、しょうがないか・・・・・』
―――一誠の声が聞こえた。ベッドに寝転がっているラーズがバッ!とベットから飛び降り、
シルヴィアがダッ!と駈け出し、ドアの前へ移動する。
「あら、お姉様。調べ物をしたいのであればどうぞお好きなだけすればいいじゃない」
「この家の主が訪問をしに来ているのだ。出迎えなければ失礼だろう」
「イッセーだから、ではなくて?」
「違う!」
扉のドアノブを同時に掴み、二人揃って扉を開け放った―――。
「「イッセー!」」
「開けてくださってありがとうございます♪」
カシャッ!
手の平サイズの黒い機械から一瞬の光が二人を照らした。
―――ビシッ!と扉の向こう側にいたのは一誠じゃなく、一誠の声音を真似した
コゼットだったことに二人は硬直した。コゼットの悪戯にまんまと騙された
姉妹の王女たちである。
「ふふっ、お二人が扉を開けた時のご表情・・・・・とても可愛かったですわ。
―――シルヴィア、ラーズ。ありがとう、心から愛しているぞ」
と、最後は一誠の声音を真似したコゼットに、そう言われたシルヴィアは―――。
「い、一誠の声でそんな事を言うんじゃなぁぁぁあああああああいっ!」
頬を紅潮させ、コゼットに叫んだのであった。