一誠の怒りが炸裂したその同時刻―――。
オスカーはメイドのセレスと共に片手に着替えとタオル、シャンプーとボディーソープが
入った桶を片手にラブロック商店に訪れた。
自分の家のように店の扉を開け放って中に入った瞬間。
異様な光景を目の当たりにした。
―――床に膝を折って座っている『私はこの店に迷惑を掛けたことに深く猛省しております』と
書かれた板を首に吊り下げているロートレアモン騎士国第一王女と第三王女がいるではないか!
「・・・・・なに、あれ」
「・・・・・あたしが知るか」
騎士国の王女があんな座り方をするなんて、一生に一度があるかないかの光景だった。
唖然としているオスカーとセレスの存在に気付いた
真紅の長髪を揺らしながら一誠が近づいた。
「よう、オスカーとセレス。今日も風呂を借りに来たか?」
「ああ、そうだけど・・・・・あの二人、どうしたの?」
「なぁーに、人の店に迷惑を掛けたからな。ちょいっと説教とお仕置きをしていた」
「・・・・・仮にも王女二人だよ?そんなことして大丈夫なのかい?」
「異世界から来た俺にこの国のルールなんて通用しない」
鼻先を鳴らして、視線をヴェロニカとミラベルに向けた。
「もういいぞ」
「「・・・・・」」
お仕置きの時間は終了だと暗に述べる一誠だが。二人が立ちあがろうとすると、
「あ、足が・・・・・」
「ううう・・・・・」
長い時間あんな態勢で座らされていたのか、思うように立ち上がれず
何かに耐えるように身体を震わせていた。
「さて、案内すんぞ」
「何度も来ているから場所は分かるよ?」
「好奇心に違う部屋に入られては困るからだ」
背中でついて来いと伝われる。オスカーとセレスは未だに立ち上がれない
ヴェロニカとミラベルの視界の端で捉えながらも足を前に運ぶ。
途中でセレスに声を殺して話しかけた。
「・・・・・もしかしたら、陛下にもあんなことができそうだね」
「あいつにそんな度胸があればの話だがな」
「いやいや、見ただろう?第一王女と第三王女兼学院長を正座させた男だよ?
絶対にできるって」
もしもそんな光景がみられるとしたら・・・・・その時の様子を脳裏に浮かべたオスカーは
愉快そうに微笑みを浮かべ出す。
「んで、どうするんだ。あの老いぼれ王の要求を果たさないといけないんだろう」
「まあ、それはそうだけどね。とりあえず、彼に言ってみるよ」
―――オスカーとセレスの話は一誠の耳にハッキリと届いていたことを二人は知らないでいる。
一誠に続くと何度か見たことがある赤と青の幟が視界に入る。
赤い布に見たことのない文字が記されているがこの文字は女と書かれているらしく
女性専用の浴場施設だそうだ。
「んじゃ、何時も通り好きなだけ入ってくれ」
「うん、ありがとうね」
オスカーと別れた一誠は青い布を潜って中に入っていった。オスカーとセレスも浴場へと
足を運ぶ。
「いつ来ても、ここの風呂は凄いね」
「城の中でも一つしかないだろうがな」
服を全て脱ぎ去った二人の視界に数々の浴槽が飛びこむ。
湯がゆったりと流れ続ける浴槽、滝のように流れ続ける浴槽、
様々な色の湯がある浴槽と多種多彩な浴槽がラブロック商店の建物の中の広さを
完全に覆しているのであった。
「・・・・・」
その時、ぷかぷかと黒い長髪の少女が流れる湯船に流されている姿が視界に飛び込んできた。
とても心地よさそうに目を瞑って流れに身を寄せている。
「確か、オーフィスって子だったね」
「なんだ、女のくせに幼女が好きなのか?」
セレスの冗談に微苦笑するオスカー。不意に浴場の奥へと視線を向けたら扉があった。
「セレス、あの扉の向こうに行かないか?」
と自分の侍従のセレスに訊ね、あの扉の向こうはなにがあるのか、
オスカーは目的の扉の前に立ち止まってドアノブを回して開け放った。
「は?」
その疑問と驚愕が混じった声音と言葉を発したのは―――一誠だった。
湯に浸かっていて扉を開けたオスカーに目を丸くしていた。
「・・・・・」
オスカーは固まっていた。まさか、扉の向こうに一誠がいるとは思いもしなかった。
てっきり秘密の部屋か、自分が知らない風呂があるのかとそう思っていた。
だが―――現実は違っていた。一誠の双眸ははっきりと生まれた姿のオスカーを見つめている。
その視線に気付き、顔が一気に赤くなって絹が裂けるような悲鳴と共に扉が閉められた。
「・・・・・なんだったんだ?」
オスカーは知らなかった。そこは―――男性専用の浴場、男湯と繋がっていることを。
―――○♢○―――
「お前な・・・・・忘れたのか?あそこは勝手に開けるなって」
「・・・・・」
羞恥心で顔を赤くするオスカーに一誠は呆れ顔でそう言う。
「で、聞くけど」
「なんだい・・・・・?」
「俺に何か言いたいことがあるんだろう?」
オスカーは目を丸くしたが、あの時の話を聞いていたんだと悟り、
真っ直ぐ一誠に口を開いて告げた。
「僕の予想とは裏腹にザカライアス三世はキミを求めている。
理由は老いた自分を若返りたいんだって」
「・・・・・それだけ?」
「それだけって・・・・・それだけだよ?
でも、人を若返らすなんてそんな有り得ないことを―――」
パチンッ。
一誠がオスカーの話を遮るように指を弾いた直後。一誠の体中に光が生じて、
見る見るうちに身体が小さくなって。
「できるぞ」
子供になった一誠がオスカーとセレスの視界に飛び込んだ。
「こ、子供になった・・・・・?一体どうやって・・・・・?」
「俺の力だ。この力で赤ん坊から老人まで成長速度を進めたり戻したりすることができる」
「それって・・・・・異世界の力なのか?」
「ああ、
他にも数種類あるんだ」
また指を弾けば、一誠の身体は元の大きさに戻って溜息を吐いた。
「これだけで、俺の力を求めているなんてな」
「・・・・・イッセー、キミは一体・・・・・」
「俺のこと、調べているんだろう?異世界から来た人型のドラゴンだって」
ニヤリと一誠は不敵に笑みを浮かべた。オスカーは改めて少しだけ知った。
そしてザカライアスⅢ世がどうしてエーコではなく目の前にいる一誠を求めたのか、
ようやく分かった。
「(眉唾なエーコの生き血の不老不死より、確実に若返る力を持っているイッセーならば、
ザカライアスⅢ世は若返ることができる―――)」
だが、それでは自分の野望が遥かに遠のくのでは?オスカーは気付いた。
ザカライアス三世が若返れば、次の王位継は一体どうなる?
若返ったザカライアスⅢ世はまた老いるまで王座に腰を下ろすのでは―――?
「んで、俺は何時になったらザカライアス三世のところに行けばいいんだ?
てか、どこにいるのか分からないから明日案内してくれよ」
「・・・・・」
オスカーは一誠の問いにどう答えようか悩み言い淀む。
「ああ、分かった。明日あたしが連れて行ってやる」
「セレス・・・・・?」
セレスが突然買って出た。頼んだわけでもないのに、
自分の考えとは裏腹なことをしようとしているセレスに疑問が孕んだ声音と
共に長年付き添ってくれている侍従の名を発した。
「明日の朝に迎えに行く。店の前で立って待っていろ、いいな?」
「りょーかい。さっさとすませて武闘会に行くか」
その後、オスカーとセレスは男子寮アポロ舎に帰宅。
「セレス、どうしてあんなことを言ったんだい?」
「どうもこうもないだろう。お前の考えていることは分かっているつもりだ。
若返ったあのボンクラ王が
また老いるまで王座に居座るつもりじゃないかってな」
「・・・・・」
「お前はただ、明日の大会に専念していろ。あたしはあたしでお前が
王になれるように裏で行動する」
「セレス・・・・・」
そして翌日。一誠は店の前でセレスを待っていると、視界に赤い鞄を持った
セレスの姿が映り込んだ。
軽く挨拶をすれば、セレスは踵返して一誠を引き連れて歩を進める。
「ルビニア湖まで行くぞ」
セレスが指さした方へ一誠は視線を向ければ両腕を華奢な身体のセレスを
横抱きに抱えて物凄い跳躍力で空を飛び、空を蹴り続けた。
「お前・・・・・翼無しでも空を飛べれるのかよ」
「性格的には空を蹴っているんだよ。それも爆発的な脚力でな」
「ドラゴンだからできるのか?」
「俺が人間だった頃でもできていた。過酷な修行を詰めればいつか可能になる」
ドラゴンだから―――でもないらしい。どうやらこいつは厳しい修行をしていたんだなと
セレスの感想だった。人間だったってのは既に説明されたが未だ、
本当にそんなことができるのかと半信半疑だ。
「一つ訊くぞ。お前の世界に不老不死になる方法はあるのか?」
「そう言う存在ならいるが、成る方法は知らないな。
ただ、半永久的な命を得れる事ができる方法はある」
「それはなんだ?」
「―――人間を辞めて別の存在、俺みたいなドラゴンとして生きることを選ぶんだ。
所謂、転生ってやつだ」
転生・・・・・と心の中で呟く。そんなことが異世界でできるものなのか・・・・・。
「お前、人間を辞めて良かったと思っているか?」
「俺はどんな形でさえ家族と再会できたことに心から嬉しく思っている。
人間を辞めてドラゴンとして甦り、二度と再会できないと思っていた家族と再会できてさ」
「・・・・・」
物凄い勢いで空を蹴り続ける一誠に抱かれているセレスの髪は風で激しく棚引く。
その中で一誠が放った「家族」の言葉に呼応するかのようにセレスの脳裏に
家族の姿や顔がよぎった。今頃どうしているのかと思っていると、
一誠は目的地に辿り着き、湖畔に降り立った。セレスを下ろしながら問うた。
「ここにザカライアス三世が来るのか?」
「・・・・・こっちだ」
一誠の問いに敢えて答えないセレス。怪訝に小首を傾げながらもセレスについて行くと。
湖畔からやや離れた位置に、古びた一軒家があった。
いや、廃墟と言った方が良いだろう。大昔に建てられた別荘だと思われた。
一応、廃墟の入口は封鎖されていたのだが、セレスは真っ赤な鞄から
ピッキング・ツールを取り出すと、安々と解錠した。
「突っ込んでいいか?なんでそんな道具を持っているんだ?」
「メイドの嗜みに決まっているだろう」
「そんなメイドは絶対に嫌だ!」
他愛のないやり取りを交わしつつ、邸内に踏み込む。
蜘蛛の巣が張った廊下を延々と歩いた末に、セレスは客間の一室を選んだ。
セレスが扉を開いた途端、
室内を明るく照らし出した、建物は荒れ放題だが、竜華灯の機能は生き残っているようだ。
室内には、読書用の小さな机と本棚、そしてベッドが置かれているだけだった。
窓には板が打ちつけられており、光源は天井から吊るされた竜華灯だけである。
一誠は明らかにこんな場所に王が来るとは思わず、
セレス自身の独断で何か仕掛けてくると踏んでいた。密かに警戒し、セレスに問いかけた。
「で、セレス。俺をここに連れてきた理由を―――」
残念ながら、一誠の言葉は呆気なく遮られた。セレスは足元に鞄をくなり、
一誠を突き飛ばしたのである。だが、一誠はその動きを見切り最小限で
足を動かしてセレスの横に移動して逆にベットへ突き飛ばした。
「くっ!?」
「遅い」
突き飛ばされながらも体勢を立て直そうとするセレスだったが、すぐ目の前に一誠が。
一誠は鞭のように素早くセレスの首を掴むとそのままベッドに叩き付けた結果、
ベッドが一気に崩壊して床に崩れてしまった。その際に巻きあがる埃と
カビの臭いが二人を包む。セレスの両手首を拘束し、
精巧な人形めいた顔立ちに顔を近づけ問うた。
「リーラに破れたお前が俺をどうこうしようなんて無理な話だって。
さて、そろそろ話してもらおうか?俺をここに連れ込んだ理由をさ」
「・・・・・」
セレスは一度は顔をそっぽ向いた。そんなセレスに一誠は言い続ける。
「あのザカライアス三世がこんな場所に来るとは思えない。
お前が独断でこんなことをしているのは薄々理解している。
オスカーのための行動か?俺を足止めしてあいつを優勝させる魂胆か?
と、俺はそう思っているが他にも理由があっての行動か?」
一誠の質問にセレスは答えない。でも、両手首を掴んでいる
一誠の手からセレスの脈動の反応が証明する。
「俺を足止めして不戦勝―――なんてことをしてもオスカーは喜ぶことはない。
お前も理解しているはずだろう」
「そんなことは、あたしが一番よく知っている!」
沈黙していたセレスが、急に叫びだした。そしてセレスは急にうつむくと、陰鬱な声で答えた。
「今のあたしは、あの御方のために動いている」
「あの御方ね・・・・・シェブロン王じゃなさそうだな。俺の力を求めているんだ。
セレスにこんなことをさせる指示を出す訳がない。だとすれば・・・・・?」
一誠は思考の海に潜った。シェブロン王を若返らすのは
王位継承者であるオスカーをはじめ、第一王子までの王位継承者にとって
不都合なこと・・・・・。ならば、若返らすことができる一誠を
この場に足止めし続ければシェブロン王は若返ることもなく最終的には国に帰ってしまう。
それを望んでいる人物がいるとすれば・・・・・。
「オスカーやシェブロン王ではない―――他の王位継承者、
つまりはこの国にいる第一王子か第三王子からの差し金か?」
「っ!?」
セレスの反応が一変した。顔の表情を出してはいないが、脈動の反応がそれを伝える。
それにセレスの頬に一滴の汗が浮かんでいた。
「なるほどな。だが、俺を連れて来るよう頼んだオスカーに迷惑が掛かるんじゃないか?」
「・・・・・」
「その御方になにか弱みでも握られているのか?」
問う一誠にまたしてもセレスは強く反応する。
「違う!あの御方はあたしやあたしの家族を助けてくれた!だから、だから―――!」
「ふーん?」
「はっ!?」
カッとなって否定した自分が口走っていたことを我に返って気付き、苛立ちを漏らす
「お前と話していると、調子が狂う・・・・・!」
「くくく、狂え狂え」
愉快とばかり意地の悪い笑みを浮かべる一誠の手が―――眼帯に触れる。
「お前の左目、盲目なのか?だったら治すけど」
「触れるな!余計な御世話だ!」
「可愛い顔をしているのに眼帯なんてつけたら可愛さが台無しだろう」
「か、かわっ―――!?」
初々しい反応するセレスを余所に、あっさりと眼帯を取り払った
一誠の目に飛び込んできたのは―――真っ黒な水晶のような目だった。
いや、水晶そのものなのだろう。本来ある眼球が黒い水晶に入れ替えられているかのような
感じだった。その時だった、一誠の視界に情報が浮かびあがった。
「・・・・・
「なっ!?」
どうして目の前の存在がそんな事を呟いたのか―――いや、どうして気付いた?
一度も自分の左の眼窩のことはオスカー以外、誰にも打ち明けたことはない―――!
一誠の視線はセレスにも向けられた。
「セレスティーナ・ラフォン。―――――
へぇ・・・・・興味深いな。冥竜王家が開発した魔導結晶か」
「―――っ!?」
セレスの中で警報が鳴った。このままではいけないと、そう強くセレスを伝える。
だが、一誠は爆弾発言を言い放ったのだった。
「奇遇だな。俺も冥竜王を宿しているんだ。ネハレン二ア冥竜王モルドレッドを」
「・・・・・なんだと?」
「これが証拠だ」
徐にセレスから離れて上着を脱ぎ出して背中を見せびらかした。
その背に映り込むセレスの視界に半分しか描かれていない星刻が―――。
「モルドレッドの魂が二つに別れちゃってな、
一つは俺でもう一つはシェブロン王国に逃げてしまっているんだ。
きっと俺のように半分しか無い星刻が誰かの身体に刻まれていると思う」
「シェブロン王国に・・・・・」
「未だに覚醒する兆候がない。魂を一つにしないといけないのか、
まだその時ではないのか、わからないけどな」
上着を着直し、セレスに振り返る。
「セレス、俺はオスカーを王にするつもりはない」
「なにっ!?」
「彼女は一人の少女として人生を送った方が幸せだと俺は思う。
それに縛られる人生にオスカーは破天荒な行動が治ると思うか?」
その言葉にセレスは思わず内心で首を横に振った。ぜってー、
あいつは王としての務めをするが、王としての振る舞いなんかしないだろうと
思ったのであった。
「オスカーには悪いが、シェブロン王を若返らせてもらう。
身勝手な行動をする俺を恨んでもいいぜ?
俺も破天荒な行動をする家族の血を受け継いでいるからな」
ふははは!と悪役みたいに笑う一誠にセレスは呆然とする。
一誠とオスカー、ある意味では組ませてはならない二人なのかもしれないと。
―――○♢○―――
「あら、お姉様。ずいぶんと素敵なドレスを身に付けておられるじゃないですか」
「・・・・・」
とある
第三王女が腰を下ろして席に座っているが、第一王女ことヴェロニカ・ロートレアモンが
一誠の指示に従って青いドレスを身に包んで座っている。
普段履き慣れていないハイヒールも履いている姿のヴェロニカに
第二王女カサンドラ・ロートレアモンにからかわれていた。妹の言葉なんぞ、
無視だとばかり硬く目を瞑って早く武闘会が終わることを待ち望んでいる。
「父上、ヴェロニカお姉様がドレスを着込んでいるなんてどういった心境なんですか?」
「むう、突然であるためわしにもよくわからんのだ」
「そうですか。じゃあミラベル?あなたなら知っているのかしら?」
「・・・・・」
カサンドラの問いにミラベルは断固無視と視線を開いている本のページに落としている。
「あいかわらず、つまらない姉と妹ですわ。
その分、ラーズは見ない間に可愛らしく成長したようですわね」
「うむうむ。亡きエリザベスに似てきておる。
特にキレのある足蹴りがなんともいえないのぉ・・・・・」
恍惚と浮かべるオズワルド。そんなオズワルドにカサンドラは視線を逸らし、
来賓や一般、学院生で埋め尽くされている観客席しか目に入らない。
「(イッセー・D・スカーレット・・・・・ね)」
昨日の
聞けば、異世界から来た人型のドラゴンだと言うではないか。
そんな存在が騎乗した巨大な真紅のドラゴンも人語を発していた。
まさしく異世界から来たと証明するのには十分だった。
「異世界・・・・・どんな世界なのか、少し興味深いわ」
そう言ったカサンドラがふと視線を送られていることを感じた。顔を横に向ければ、
ヴェロニカとミラベルが優越感を浮かべている笑みを浮かべていたではないか。
「楽しかったわよ?ね、ヴェロニカお姉様」
「ああ、実に素晴らしい世界だった。また行けれるのであれば、行ってみたいものだ」
暗に、私たちはその異世界に言ったことがあると漏らす。
「(なに、この二人・・・・・見ない間に随分と性格が変わっていないかしら・・・・・?)」
自分が知る姉と妹はこんなんじゃなかったはずと疑惑する。
ほら、私に聞こえるぐらい異世界で何をしていたのか、
何を見ていたのか、何があったのかと私が知らないことを嫌味染みた会話をするではないか。
「(とりあえず、久し振りに再会した姉と妹の感想は―――ムカつくわね)」
―――○♢○―――
十三時の告げる鐘が、蒼穹に響き渡る。それは
始まる合図でもあった。
そのなかでレベッカが舞台に移動、中央に立つと魔導式拡声器を構えた。
『お待たせしました。これより、
たちまち、大歓声が会場を埋め尽くす。と、
レベッカの顔が途端に意地の悪い笑みを浮かべ出した。
『ですが、その前に―――アンサリヴァンの五百年祭、
最終決戦である
シルヴィア・ロートレアモン殿下に、是非とも選手宣誓の義を
執り行ってもらいたいと思います』
再度、大歓声が湧き起こる。
「そんなっ!?この私に、大勢の前で選手宣誓をしろ・・・・・だと!?」
レベッカの急な提案をシルヴィアは膝頭を震わせた。身体の震えを強調するように、
竜騎服の金属部分がカタカタと音を立てる。
このまま選手控室に逃げ帰ってしまいたい気分だった。
ポンポン・・・・・。
不意にシルヴィアは頭を優しく撫でられる感覚が覚えた。
横へ振り返れば、腕を伸ばしている一誠が見下ろしていた。
「お前なら大丈夫だ。頑張れ」
「イッセー・・・・・」
励ましてくれている、応援してくれているとシルヴィアはジーンと感動してしまう―――。
「口を噛んで変な話し方になったら思いっきり笑ってやるから大丈夫だ!」
「私の感動を返せ!私の一瞬の感動を!」
「ごめん、感動は返さないけれどコゼットから借りた日記帳なら―――」
「な、なんだと!?」
カッ!と首筋と耳まで赤くなったシルヴィアだったが、
限界まで口角を吊り上げた一誠は一言。
「冗談だ」
「ふん!」
思いっきりゲシッ!と一誠の足を踏んでから舞台に足を運んだ。
その最中、シルヴィアは自分の心境に気付いた。
さっきまでの緊張と不安がなくなっているのだ。
その理由はもう分かり切っている。一誠と言葉を交わし合っただけで心が落ち着いたのだ。
「ずいぶんと、大勢の人たちの中でじゃれ合っていたな」
「イッセーにからかわれただけです」
舞台中央で待つレベッカにそう言われながら魔導式拡声器を
「使うか?」と暗に差し出されるが、シルヴィアは首を横に振ってレベッカの横に立って
深呼吸をし、それから右手を挙げる。
「選手宣誓!私ことシルヴィア・ロートレアモンは、騎士道精神にのっとり、
我が国の由緒正しき伝統競技である
正々堂々と戦うことを誓います!」
よし、ここまでは完璧だ―――と思ったのも束の間、シルヴィアは焦った。続く言葉が、
なにも出て来ない。そもそも選手宣誓など一度もしたことがない上に前もって大勢の前で
発する下準備、言葉を考えていない自体、無理があるのでは・・・・と、
いまさらのように気付く。
これ以上、何を話せばいいのだろう?シルヴィアは失意のあまり、
うつむいた。やがて、観客たちも怪訝に思い始めたようだ。
ざわざわと、怪訝そうな呟きが漏れ聞こえてきた。そのとき脳裏に言葉が―――。
『シルヴィア、ありふれた定型文など言わなくて良い。
自分自身の言葉で、今の素直な気持ちを語ればいいさ』
イッセー・・・・・?お前・・・・・どうやって・・・・・。
『大丈夫だ。シルヴィアなら、できる。信じているぞ』
遠くから話しかけてくる一誠に疑問を浮かべるが、一誠の言葉に頷くと、
シルヴィアは再び顔をあげた。
「わ、私仕事で恐縮ですが・・・・・」
その時、次に言おうとした言葉を思わず咽喉につっかえて呑みこんでしまった。
これは生涯始めて言う言葉だ。そして、これは皆に知らされる―――告白だ。息を吸って、
羞恥心で胸がいっぱいさながらもシルヴィアは口を開いた。
「わ、私には、好きな殿方がいます!」
案の定、観客席でどよめきが起こった。
「さ、最初は、よく分からない彼のことを怪訝な気持ちで接していました。
彼のことを馴れ馴れしく、いつも常識を覆す程の言動ばかりで驚かされるばかりです。
ところが、そんな私を・・・・・彼は何度も笑い掛け、楽しませ、
時には凄い体験もさせてくれました。そしてたくさんのことを、彼から学びました。
いつしか、そんな彼の存在は、私の中で次第に大きくなり・・・・・ついに私は、
胸の奥で芽生えた気持ちに気付いていたにも拘らず、知られたくないとばかり
必死に隠していました。ですが―――もう隠しません」
今では、観客席は水を打ったように静まり返っている。
誰もがシルヴィアの言葉に、真剣に耳を傾けている。
「あ、改めて、選手宣誓をします。もし、私が
この
婚約を申し込むことを、ここに宣言します!」
数秒の沈黙を挟んで、観客席は堰を切ったように騒然となった。
それでもシルヴィアは動じることなく、深々とお辞儀をしてみせた。
再び顔をあげたシルヴィアの視界には、抜けるような青空が広がっている。
不思議と後悔の気持ちはなかった。もはや恥ずかしいとも思わなかった。
ただあの空のように、晴れ晴れとした気分だった。ようやく胸の内に抱えていたものを
表に吐きだせたことがシルヴィアにとって清々しい気分になったに違いない。
―――○♢○―――
「うふふ!お姉様、ようやく大勢の民衆の前で暴露しましたわね?
しかも、こんな美味しい場面で愛の告白をなさるなんて・・・・・。
このラーズグリーズ・ロートレアモンは少々お姉様のこと侮っていたかもしれませんわ」
戻ってきたシルヴィアにラーズの瞳は爛々と妖しく輝いていた。
好敵手が現れたと言う興奮と歓喜からくるものであろう。
観客席からシルヴィアを見るラーズ。
「分かっておいででしょうけど―――相手はかなり手強いですわ。さあ、どうしますの?お姉様?」
「―――それでは、これより
そのとき、審判を務める教師が、堂々と宣言した。大歓声がこだまする。
シルヴィアは手綱を握る手をさらに力を籠めて一誠に視線を向けた。
一誠以外、自分の
打ち合わせしたかのように一誠の周りを囲んで最大の警戒心を抱いた状態で一誠を見下ろし、
見据える。
「はははっ。すっかり囲まれたな」
そんな状況下に置かれても一誠は嬉しそうに、楽しそうに、こうなることを予想していたのか、
笑っていた。
「さて、お前らに有利な条件を伝えよう」
そう言って徐に腕を横に薙ぎった直後。一誠を中心に暴風の台風が巻き起こり、
シルヴィアたちを阻んだ。その台風はやがて消失し、三百六十度、
大きな丸い円を描いた傷跡を中心に一誠が立っていた。
「この円から俺たちを完全に出すことだ。身体のちょっとでも、
半分でも円の中にはみ出した程度じゃあ俺の敗北にはならない。
完全にこの円から俺たちを出せばお前たちの勝ちだ。さあ、どんな方法でもいい。
―――俺たちを負かせてみろよ?」
一誠の足元に巨大な魔方陣が出現し、その魔方陣から三つ首の漆黒の龍が姿を現す。
シルヴィアたちが相手となるドラゴンは―――『
三つの口から観客たちの耳を両手で塞いでしまうほどの咆哮をあげ、シルヴィアたちを見下ろす。
『お前たちとは、やり合うのは初めてだな?言っておくが、
俺はティアマットやグレンデルほど甘くはないからな』
円の中でアジ・ダハーカはそう宣言する。一誠のドラゴンから出ている邪悪なオーラが
ランスロットたちに畏怖の念を抱かせるには十分過ぎるほどだった。
「んじゃ、始めようっか」
『この範囲の中でしか動けないってのは窮屈過ぎるがな』
アジ・ダハーカの口内から火炎、雷、吹雪がシルヴィアたちに放たれた。当然その攻撃に、
「かわせ、クー・フリン!」
「避けろ!ランスロット!」
主の指示に従い、空へ飛翔して交わすクー・フリンたち。
「うはっ!アジ・ダハーカとリアルでやり合うなんて、ものすげぇ体験だ!」
だが、嬉々としてランサーとランサーのパルがアジ・ダハーカの背後から突貫した。
ランサーに気付き、首を後ろに回して灼熱の炎を吐きだすアジ・ダハーカだったが、
「この俺ランサーが命じるぜ!汝が創成する
赤と黄色の二つの槍を手にしていて前に構えていた。ふと、一誠の視界に輝く真紅が入る。
そちらに目を配ると、真紅の
黄金の
「この中で三強の存在だぞ、アジ・ダハーカ」
『そうか、それでは―――もっと激しく蹂躙してやろうか』
アジ・ダハーカの言葉に呼応して
その瞬間だった。
魔方陣から大雨のように魔力弾が降り注ぎ、一誠とアジ・ダハーカの周囲に着弾し続けた。
あまりの数に避け続けるのは不可能だと感じたレベッカ達は
パルに防御障壁を真上に張らせて防ぎ続ける。
「なんちゅー数だよ!?」
「これだけの魔力をあのドラゴンは平気に放ち続けるなんて!」
「全員!それぞれ一ヵ所に集まって防御に集中しろ!」
と、レベッカがシルヴィアたちに催促する。ランサーはキーラ、シルヴィアはオスカー、
レベッカと何とか防ぎつつ一ヵ所に集まった―――。
「へぇ、そんな密集して良いんだ?相手はアジ・ダハーカじゃないことを忘れたか?」
『っ!?』
一誠は不敵に笑み、アジ・ダハーカの手の甲に降り立つと、
亜空間から金色の錫杖を取り出して地面に突き刺した。
「―――――錬金―――――」
すると、円を描いた地面以外、レベッカたちがいる地面が一変した。
―――地面の物質が水へと変わったのだ。
足場である地面が水と成ったため、クー・フリンたちは必然的に水の中へ沈んでしまう。
「うわ!?」
「地面が、水になっただと・・・・・!?」
「ランスロット!」
慌てだすレベッカたちを見下ろし、錫杖を振り回す。それに呼応して水が大きくうねり、
竜の形へと変貌し、意思を持っているかのような動きで水はレベッカたちを襲いかかる。
「舐めるな!」
と、ランサーが指と指を忙しく組み始めた。
「氷遁!氷烈破!」
口から凄まじい冷気を放って襲いかかる水を瞬く間に凍らせた。
「マジで?」
それを唖然と見ていた一誠。
『あの人間は魔力とは違う力を使うな』
アジ・ダハーカが関心を持ったようにランサーを見下ろすとランサーはまた手を動かして
何かしらの力を発動しようとしていた。
「火遁、超鳳仙火!」
またもや口から数多の火炎球を吐きだし、水に当てた瞬間に水と火が起こす蒸気で
一誠とアジ・ダハーカの視界がランサーたちの姿を捉えることができなくなった。
「煙幕のつもりか?」
『やることは同じだがな』
目の前に雷撃を放った。水に直撃した途端に雷撃が水を伝って感電するはずであった。
ゴウッ!
蒸気と化となって視界を遮る霧からクー・フリンが飛び出してきてはアジ・ダハーカの身体に
タックルをかました。その反動で佇んでいる場所から数メートル滑ってしまう。
「・・・・・レベッカがいない?」
主を乗せるパルに主がいないことに怪訝に思った一誠。
三つの口内から雷撃を放ってダメージを与えるアジ・ダハーカの横から、
今度は―――シルヴィアとキーラのパル、ランスロットとガウェインが現れアジ・ダハーカに
体当たりをした。だが、その二体のドラゴンの背中にも主がいなかった。
一誠は気を探知し始めた瞬間に、
「なにがしたいか分からないな」
肩腕を横に薙ぎ払って、鬱陶しいとばかり一誠とアジ・ダハーカを包む霧を振り払った。
「おおおおおおおおおおおおお!」
その時だった。真上からランサーが槍を構えて降ってきた。
迎撃と一誠は金色の六対十二枚を生やしてランサーに突き付けるような感じで伸ばす。
「車輪眼!」
ランサーの瞳が赤く、勾玉紋様へと変わり―――一誠の翼を紙一重にかわした。
「動体視力、反射神経が上昇した・・・・・?」
振るわれる槍から避け、翼で斬撃、打撃をしようとするも、
ランサーの動きはまるで燕のように俊敏で動き回り回避し、二つの槍を突き、薙ぎ払う。
「なら、こいつはどうだ?」
一誠の双眸が赤く煌めいた瞬間。ランサーの動きが停止した。
その隙に、ランサーを水へと突き落とした。
「特殊な力は特殊な力で対抗だな」
刹那、一誠の身体がぐらりとよろめいた。
「アジ・ダハーカ!?」
その原因は足場となっているアジ・ダハーカにあった。一誠は声を掛けると、
アジ・ダハーカの一つの頭部が無くなっていて、
オスカーのトリスタンがいま、アジ・ダハーカの首に噛みついていた。
さらにはランサーのパルももう一つの頭を抱えるように抑えていた。
その光景に一誠の眼は大きく見開いた。
『ええい、鬱陶しい!』
魔方陣を展開しようとした時、槍と矢が魔方陣を粉砕して無効化した。
「今度は、こっちの番だ」
満身創痍ながらも、戦意が衰えていない
クー・フリンに騎乗しているレベッカが何時の間にかいた。
「その場で佇んでいないで、こっちで本気で掛かってきたらどうだい?邪龍アジ・ダハーカ」
『なんだと・・・・・?』
オスカーの言葉に反応した。
「ああ、そっか。イッセーの決めたルールだから出ることはできないんだったね。
ごめんごめん、甲羅に引き籠る亀を虐めるような感覚はとっても、
面白いから僕の矢なんて簡単に当てることができるんだよね」
そう言ってオスカーの固有魔装であろう弓矢を構えて、矢を放った。
矢は真っ直ぐアジ・ダハーカの身体を貫いた。
「ほら、動かない的はなんとも狙え易い」
嘲笑を浮かべるオスカー。その隣でレベッカが固有魔槍であるゲイ・ボルグを放つ。
「そうだな。オスカーの言葉には同意する」
狙い違わず、槍はアジ・ダハーカの身体に直撃する。水と成った地面がいつしか元通りに。
足場が戻ったことでランサーとそのパルは失格と審判に告げられて
「あーこいつを怒らせ、この場から動かせようとするのは止めておけ。
それにお前らは間違っているぞ」
「なにをだ?」
「ん、アジ・ダハーカの身体に傷をつけることがだ。
お前らはお前らに課した有利な条件を突けば、勝てる可能性が出てきたんだがなぁー」
呆れと苦笑する一誠の言葉にレベッカたちは、心の中で首を傾げた。
アジ・ダハーカの身体には傷がある。それが一体なにがいけないのか?
それは―――。傷口から邪な生物が続々と生まれ、敵であるレベッカたちに襲いかかった。
「なっ!?」
「この化け物は一体何だ!?」
「―――アジ・ダハーカの身体に傷をつけると邪な生物が生まれるんだ。
邪龍の筆頭格と言われる所以の一つだそうだ。まあ、パルは殺しはしない。
戦闘不能の状態に陥るだろうがな」
そう言っている間にもレベッカたちのパルは邪な生物に襲われ、
レベッカたちにも襲われていた。
一斉に襲われては手も足も出せないので、次第にクー・フリンをはじめとする
シルヴィアたちのパルは