一誠の竜騎士物語   作:ダーク・シリウス

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Episode35

武闘会のため、一誠と別れたセレスは魔導士染みたローブを羽織り、

仮面を装着して闘技場(アリーナ)の近所に屹立する時計塔に忍び込んでいた。

 

「・・・・・」

 

時計塔から観戦していたセレスは、ぼそりと呟いた。

アジ・ダハーカの身体の傷から生まれた邪な生物たちがトリスタンたちを襲い、

闘技場(アリーナ)に落とした。しかし、一誠のアジ・ダハーカが重傷を負った。

だが、倒れる雰囲気ではない。一誠自身も大した傷も負っていなく、平然と佇んでいた。

 

「こんなことしても、結局・・・・・あの男になんとかされそうだが・・・・・・あたしは、

あの御方を裏切れない・・・・・」

 

儚げにつぶやくと、セレスは仮面を外した。さらには眼帯も外す。左目に外気にさらされる。

久し振りに、指先で左目に触れた。眼球にあるまじき、硬い感触がした。左の眼窩には、

黒水晶が詰まっている。

 

トリスタンの額に埋め込まれている巨大な結晶体と、全く同質のものだ。

なぜなら、トリスタンの額に埋め込まれた黒水晶は、

もとはといえば、セレスの魔眼が生成した魔導結晶なのだから。

 

「あたしは冥星石の仔ら(プルートゥ・チルドレン)の末裔・・・・・まったく、

なんて呪われし血なんだろうな」

 

殆ど無意識に、自嘲の言葉が漏れた。生物に寄生する黒水晶―――冥星石(プルートゥ)

古代文相によれば、かつて冥竜王家が開発した魔導結晶だと言う。

人間の憎悪や嫉妬や悲哀など、負の感情を溜めこめば溜めこむほど、

より強い効果を発揮するように開発されたらしい。

 

冥星石の仔ら(プルートゥ・チルドレン)と呼ばれる種族は、

生まれながらにして冥星石(プルートゥ)を宿している。

そして、自ら生成した大型結晶を竜族に埋め込むことで、

外部からのコントロールを可能とするのだ。

 

「この魔眼のせいで、あたしの人生は散々だった―――」

 

「こんなところで、なにをしようとしているんだ?」

 

突然、背後から声が掛かったので、セレスは驚愕した。

さっきも露わに振り返ると、そこには一誠の姿がった。

 

「なっ!どうして、てめーがここに!?つーか、あそこにいるあいつは!?」

 

「ああ、俺は分身の方だ。オリジナルはオスカーたちと戦っている。

まあ?俺は俺でもあるから、大して変わらない」

 

「なにをわけのわからないことを・・・・・」

 

「異世界の力だと思え」

 

そう言われると、ムカつくほど納得してしまう自分がいることに気付く。

不意に、一誠は背後へ視線を向ければ、学院長のミラベル王女と、

専属メイドのユニスが現れた。

 

「この場に俺以外誰もいないぞ」

 

「ありがとう、面白い力ね」

 

「・・・・・てめーらまでもがどうしてここに」

 

「もし、私が冥星石(プルートゥ)の所持者であれば、

どこから試合を見物するか・・・・・そう考えれば、候補となる場所は限られます」

 

ミラベルはできの悪い生徒を諭すように、淡々と答えた。

 

「くっ!大体、てめーがどうして冥星石(プルートゥ)のことを知っている!?」

 

「あら、私はエスパーダ聖庁大学院に留学していたのよ?」

 

「けた外れの天才どもが集まっているとかと言う、魔窟か・・・・・。

どの研究室も、百年先を見越した研究を続けているといると聞いたことがある」

 

「それは偏見ね。見た目はごく平凡な研究施設よ。魔導艦を設計できるレベルの子たちが、

ゴロゴロしているのは認めてるけど」

 

「魔導艦の設計だと!!?簡単に言ってくれる・・・・・」

 

そういえば、魔導艦シルヴァヌスの設計を担当したのもミラベルだったと、

セレスが思い出した。ミラベルが学院長に就任した際、密かに身辺調査をしていたのである。

 

「へぇ、そうなんだ?凄いんだなミラベルって」

 

「別に、大したことじゃなかったわ」

 

「じゃあ、もう一つ魔導艦を設計してくれないか?」

 

「あら、それはまたどうして?」

 

不思議そうにミラベルは一誠に問うと、答えはこうだった。―――――「欲しくなったから」。

 

「そのための原動力、千年綺華晶(ミレニアム)―――聖星石(ウラノス)が五つもある。

それを使って俺たちの魔導艦を欲しいんだ」

 

「あれを・・・・・?」

 

「ああ、あれだ。もしも、設計してくれれば―――あの店にある魔導艦をミラベルに譲ってもいいぞ?」

 

「っ!?」

 

破格の条件だとミラベルは思い、セレスはあの店にそんなとんでもないものがあったのか!?

と驚愕して目を見開いていた。

 

「魔導艦の設計となると、異世界から来た俺じゃあ困難に強いられる。

ただ創造すればいい魔導艦じゃないしな。お願いできるか?

―――――俺にはミラベルが必要なんだ」

 

「えっ・・・・・!?」

 

突然、ミラベルは頬を薔薇色に染めると、両手で胸を押さえた。

あたかも、胸の中央えお撃ち抜かれたように。

 

「ミラベル?」

 

「え、は、はい。いいですわよ。

で、ですけどあなたにも協力してもらいますからいいですね?」

 

「おう、ありがとうな」

 

魔導艦が得られると一誠は嬉しく思い笑みを浮かべた。

そのスマイルは間近にいるミラベルの視界に映り込み、さらに顔が真っ赤に染まった。

 

「・・・・・てめーら、なにイチャイチャついてんだ?」

 

懐からナイフを取り出してもセレスは動かない。相手は分身体とはいえ一誠である。

実力はハッキリ言って天と地の差。

 

「それでだ」

 

「あ?」

 

「お前は何がしたいんだ?何かするならばさっさとしたらどうだ?」

 

「―――正気かよ?」

 

唖然と一誠の問いに呆ける。

 

「正気だ。もしもその冥星石(プルートゥ)で事を起こすなら何も心配はない。

俺がきっちりと手の届く範囲で守り切るからな」

 

一誠はミラベルに視線を送ると、ミラベルは夏休みで言った異世界の

京都に言われた時の一誠の言葉を思い出して、またもや薔薇色に染めた。

 

「ちっ。とんでもねぇ野郎だな。どれほどの犠牲が出ると分からないって言うのによ」

 

「死んでいなければ負傷した身体は全て治すし、壊れた建物があれば俺が直す。

なぁに簡単なことだ。それをできるぐらい俺は力があるし強いんだ。

―――このために俺は強くなったと言っても過言じゃないんだよ」

 

最後辺りに真摯な面持ちでセレスに告げたのだった。

その言葉の重みを感じ取り、セレスは一誠の瞳を離せないでいた。

だが、一誠に背を向けた。遥か眼下には、闘技場(アリーナ)の舞台。セレスは腹を括った。

 

「・・・・・我は冥星石の仔ら(プルートゥ・チルドレン)が末裔、セレスティーナ・ラフォン。聖竜(マエストロ)トリスタンに授けし冥星石(プルートゥ)よ、我が詞に応じよ・・・・・・」

 

 

 

武闘会はこれで終わりかと誰もが思った矢先に事件が起きた。

突然、トリスタンが壮絶な咆哮を迸らせた。

一誠を除いてシルヴィアたちが思わず耳を塞いだほどの、常識離れした雄叫びだった。

トリスタンを覆う邪な生物たちがあっという間に蹴散らされ、トリスタンの額に埋め込まれた

黒水晶が、どす黒いオーラを放っているのを窺うことができた。

 

「な、何が起こっているのだ・・・・・?」

 

シルヴィアは愕然として、つぶやいた。それはトリスタンに騎乗しているオスカーにも

同じ気持ちであった。

 

「どっ、どうしたんだ、トリスタン!?」

 

決勝戦が始まって以来、オスカーが初めて動揺を見せた。オスカー自身、

トリスタンの身に何が起きているのか、全く理解できないようすである。制御不能なのだろう。

それを目の当たりにしていたランスロットやガウェインが警戒心を露わに、

一歩、二歩と後退する。逆にクー・フリンは後退せず、トリスタンを見据えている。

 

「・・・・・」

 

魔方陣の光と共にアジ・ダハーカが闘技場(アリーナ)から消失したところで

一誠は新たに二つの魔方陣を展開した。

 

「結界、よろしく」

 

誰かに言ったわけでもない。だが、魔方陣から二体の巨大なドラゴンが出現し、

観客席に膜のようなものが張られ、

さらに幾重の鎖が闘技場(アリーナ)の外から囲むように現れた。

 

「これは・・・・・あのドラゴンたちは・・・・・!」

 

「これで、外とこの場にいる観客たちに危険性はなくした。残る危険性は目の前だな」

 

愕然とするシルヴィアに、観客席にいる人々と王侯貴族に被害は出ないとばかり言って、

オスカーとトリスタンに視線を向ける一誠。

 

「取り敢えず、オスカーを助けよう」

 

何とでもなさそうに呟き、トリスタンに騎乗しているオスカーに近づき、腰に腕を回して

抱き寄せてトリスタンから離れて着地する。

 

「イッセー!トリスタンが!一体なにが起きているんだ!?」

 

「いや、俺も知りたいところだが・・・・・どうやら、あの黒水晶が原因らしいぞ」

 

額に埋め込まれているトリスタンの黒水晶から禍々しいオーラを放ち、

アンサリヴァンの上空はいつしか、

屍灰竜(ネクロマンシア)襲来を思い出させるほど、

あれほど晴れ渡っていた空に、暗雲が立ち籠める。遠来が轟いた。

空が灰色に埋め尽くされた時、トリスタンは漆黒の姿に生まれ変わっていた。

 

「ぐぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!」

 

禍々しい方向が大気を震撼させる。

 

「バカな!こんなのは僕のトリスタンじゃない!どうなってしまったんだ、トリスタン!」

 

オスカーの視界には漆黒のドラゴンが今は鎮座していて、

何かを待っているかのように佇んでいた。

 

「トリスタン!」

 

主であるオスカーに反応しない。それどころか見向きもしない。

―――すると、トリスタンが両翼を動かした。

どこかへ飛翔しようとしているのだと誰から見ても明らかだった。

トリスタンは力強く翼を羽ばたかせ観客席の一角、王侯貴族が列席している来賓席に

飛び掛かった。

 

ドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

だが、虚空に現れた結界に囲まれてしまい、トリスタンは衝突してしまう。

 

『ふふふっ。ひとつ、私と遊んでくださいな』

 

「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

結界を壊さんとばかり、何度も結界に体当たりしては魔法を放つ。

トリスタンの攻撃は絶え間なく続くも結界に罅さえ入れさせないほど頑丈であった。

そんな光景に一先ず安心したと胸を撫で下ろす面々。

 

「さて、闇を負かすには光と言う定番だ。禁手(バランス・ブレイカー)

 

カッ!

 

一誠の全身から神々しい光が迸る。近くにいたオスカーは

そのあまりにも眩い発光に腕で目を覆い光を遮っていると、一誠の背中には六対十二枚の翼が

生え出し、真紅の長髪は金色に、金色の双眸は翠と蒼のオッドアイへと成り変わった。

 

「・・・・・天使?」

 

「になれる存在だ、俺はな?」

 

んじゃ、と軽く手を挙げ結界に包まれているトリスタンへ歩み寄った。

結界は勝手に一人分が潜れる大きさに広がり、結界の中へ入れた一誠。

 

「よう、トリスタン」

 

朗らかに声を掛ける。そんな一誠に気付いたトリスタンは結界に攻撃することを止め、

一誠に振り返る。

 

「この結界から出たいか?だったら俺を倒したら出してやって良いぞ」

 

一誠の言葉に通じたかどうか定かではないが、トリスタンは目の前の敵に咆哮する。

 

「こい」

 

言われなくともと、ばかりにトリスタンは一誠にめがけて火炎攻撃を放った。

その攻撃に一誠は真っ向から飛びこんでいく。上着が燃え尽きようとも、

一誠はトリスタンの目の前にまで移動して殴り飛ばした。

 

「いや、やっぱ止めよう。弱い者虐めしている感じだしな」

 

上半身裸―――背中にタトゥーのような紋様がある背中を曝け出したまま結界を抜けて

空へと飛翔する。手を灰色の空へと伸ばした途端。一誠の手に光が集まりだす。

それは次第に巨大な神々しい十字架へとなり―――。

 

「トリスタン、今お前を解放する!」

 

その巨大な光の十字架を結界に閉じ込められているトリスタンにめがけて―――投げ放った。

 

ドンッ! 

 

闘技場(アリーナ)を震わす程の地響きと共に光の十字架は、

トリスタンに突き刺し呑みこんだのだった。同時に空の暗雲は一気に吹き飛ばされるように

晴れ渡って、太陽と青空が再びアンサリヴァン市に照らす。

 

 

 

 

「なっ?誰一人も怪我を負わすことなく、守り切ったぞ」

 

「・・・・・」

 

時計塔から眺めていた一誠がセレスに問いかけた。

 

「まあ、俺が手を出さなくてもアッシュ・ブレイクがなんとかしてくれたかもしれないな」

 

「なんだと・・・・・?」

 

「さてと、そろそろ決着をつけるとしようか?」

 

一誠の意味深な発言にセレスは溜息を吐いた。

これからされることを予想した風に口から漏らす。

 

「・・・・・殺せ」

 

「アホか」

 

セレスの額に指を弾いた。所謂デコピン。

しかし、一誠のデコピンはまるで銃弾を食らったかのような衝撃と痛み。

思わず額を両手で押さえ、その場で膝を折って腰を落とし、蹲るセレス。

 

「責任逃れをさせると思ったか?今回の事件の首謀者はお前なんだ。

オスカーの信用と信頼を裏切った償いをしろって俺は言いたいんだよ」

 

呆れ声がセレスの耳に入る。セレスは蹲った状態で言い返した。

 

「私にそんなことしても、オスカーは私を許さないだろう・・・・・」

 

「そうか?案外、溜息を吐くだけで許してくれそうだが?まあ、それはともかくだ」

 

分身体の一誠は闘技場(アリーナ)を見下ろす。

 

「祭りは終わったな」

 

そして分身体の一誠の視界には、天使化になっている一誠が徐に腕を来賓客、

王侯貴族が座っている席へと伸ばした様子が映る。

一誠の視線は真っ直ぐ―――ザカライアス三世に向けられている。

これから何をする気なのか同じ一誠なのだから当然のように把握する。

闘技場(アリーナ)にいる一誠は指を弾いた途端にザカライアス三世の身体が

見る見るうちに若返っていく。歳は二十代後半と言ったところだろう。

これで―――ザカライアス三世が再び老い、死ぬまで王位継承者たちは王位を継ぐこともできず、

王座に座ることすら叶わなくなった。

 

―――○♢○―――

 

聖騎武闘会(ドラグナーズ・ガンナバウド)、アンサリヴァン五百年祭が幕を閉じたその日。

ラブロック商店は貸し切り状態で閉店していた。

店の中には何時ものメンバーが集まって五百年祭を終えた記念としてプチパーティーをしていた。

 

「あんな条件でも私たちはイッセーに勝てないことがよーくわかった」

 

「いやいや、戦い方が悪いんだって。今さらあの攻略方法を言うけどさ。

ランサーを俺に当てさせ、アジ・ダハーカの攻撃を避けつつ、

あの円から引き摺りだせばよかったんだよ。尻尾をつかんだりとか、

首にしがみ付いて体勢を崩したりとかしてさ」

 

「それ、どれだけ苦労すると思っているのよ・・・・・」

 

「避けることができないんだ。十分できる可能性だぞ」

 

と、微苦笑と共に発する一誠である。

 

「グレンデルはとにかくしぶとい、アジ・ダハーカはとにかく厄介・・・・・はぁ、

異世界のドラゴンは本当に嫌だと思うほど面倒で強いわね」

 

「ハッハッハッ、そうだろうそうだろう」

 

「褒めていないと思うが?」

 

「いや、理解しているし同意の意味で笑っただけだ」

 

肩に馴染んだ重みを感じながら辺りを見渡す。テーブルに数々の料理が置かれ、

その料理を口にしながら会話の花を咲かせている者もいれば、

無我夢中に料理を食べる者もいる。

 

「「・・・・・」」

 

店の隅っこに静寂を保っている一人だけ座っている者がいた。オスカーだった。

そんなオスカーに目が留まり、徐に近づく。

 

「食わないのか?」

 

「いや・・・・・今日は―――」

 

「シェブロン王が若返ったことで、オスカーの野望も潰えたことがショックだったのか?」

 

その問いにオスカーは顔を俯いた。

 

「まあ・・・・・ね」

 

「俺としてはお前が一人の少女として幸せに生きていたほうが幸せだと思うけどな」

 

「どうしてそんな事を言うんだい?」

 

「お前、王になっても態度と行動を変えるつもりはないだろう?」

 

そう言われ、苦笑を浮かべることしかできなかったオスカーは一誠の言葉を耳に傾けた。

 

「楽しいことが好きなら、俺たちと一緒に行動をしないか?」

 

「キミとかい?」

 

「ああ、そうだ。異世界に行けばオスカーは絶対、楽しい思いをするぞ。

見たことも聞いたこともないものが異世界に数多く存在する。異世界の概念、文化、風習、

その他諸々もある。そんな異世界を俺たちは自由に行き来できるんだ。

王になるより俺たちと一緒にいたいて言う気持ちもちょっとは湧きあがるはずだ」

 

試しにと一誠はオスカーから視線を外し、

 

「一週間後の休みの日に異世界に行きたい奴は手を挙げろ!」

 

『っ!』

 

一誠の発言を耳にしたレベッカたちが一斉に手を挙げた

(異世界の事を知らないアンネゲルトは何の事だか分からないけど、

取り敢えず場の空気を読んで手を挙げた)。

 

「またあの世界に行けれるのか。楽しみだな」

 

「また京都に行きたい」

 

「私は違う地方に行ってみたいわ」

 

と、レベッカたちが異世界のことについて雑談をし始めた。

その光景を目の当たりにしたオスカーは呆然とした面持ちでいた。

 

「レベッカたちは、異世界に行ったことがあるのか?」

 

「夏休みの時にな。オスカー、お前を王にする事はできないがお前を幸せにすることなら

俺はできる」

 

「イッセー・・・・・」

 

「これからもよろしくな、オスカー」

 

朗らかに笑う一誠をオスカーは釣られて笑みを浮かべた。

 

「うん、よろしくね―――僕の旦那様」

 

―――ビシッ!

 

空気に亀裂が入ったような音が聞こえたと一誠は思った時、

どこからともなく怒気が孕んだオーラを感じた。一誠は横目で見れば―――。

 

「旦那様とは一体どういうことだ・・・・・?」

 

シルヴィアをはじめ、ラーズ、ルッカ、キーラが一誠とオスカーに視線を向けていた。

 

「まさか性別の壁を超えてしまうほど、イッセーを好きになったと言うのか!?」

 

唖然としながら、ぷるぷると拳を震わせるシルヴィア。

 

「・・・・・ある意味悪くないかも。でも、現実的に許せないわ」

 

分け分からないことを言うラーズ。

 

「男までも魅了させるなんて・・・・・」

 

シルヴィア同様に唖然となるキーラ。

 

「男色の罪・・・・・エクブラッドの里では、死刑。一週間、さらし首・・・・・」

 

ルッカは物騒なことをつぶやいたきり、小兎のように怯えている。考えてみれば、

学院メンバーでレベッカとアッシュ、ギルフォード以外は、

オスカーが女であることを知らないのだ。

 

「いやいや、お前ら?物凄く勘違いしているぞ。俺は男と禁断の関係になるわけがない」

 

「どういうことだ・・・・・?」

 

シルヴィアの怪訝な問いかけに、レベッカがオスカーに声を掛けた。

 

「なあ、オスカー。生徒会役員一同は、キミの味方になりたいと思っている。

せめて我々にだけは、秘密を打ち明けてもいいのではないか?」

 

「・・・・・ああ、そうだね」

 

レベッカの申し出にオスカーは少しだけ戸惑った様子を見せたが、頷いた。

そして、あからさまに一誠に抱きつき、抱きついたまま、一同を振り返る。

 

「えっと・・・・・実は僕、女なんだ。改めて、よろしく」

 

「軽いな、おい」

 

一誠が突っ込んだ。それから案の定、店の中は喧騒に包まれた。

 

「お、女ですって!?嘘・・・・・」

 

「全然気付かなかったぞ・・・・・」

 

「あ、あの美貌で、女性・・・・・しかも、シェブロン王家の一族だなんて・・・・・」

 

「また、強力なライバル・・・・・現れた」

 

各々と発するシルヴィアたちにレベッカが、思い出したかのように手を叩いて

シルヴィアに問うた。

 

「そう言えばシルヴィアよ」

 

「なんですか?」

 

「選手宣誓で言った―――好きな殿方といえば、やはりイッセーかな?」

 

一拍の静寂を挟んで、シルヴィアは顔中に薔薇色に染めた。

 

「ふふふ、さあ、どうなんだ?このレベッカ姐さんに全て告白するがいい」

 

「うっ、ううう・・・・・・」

 

シルヴィアは―――観念して自棄気味に叫んだ。

 

「そ、そうです!私は、イッセーが好きです!もう、私の心と頭はイッセーが傍にいると

イッセーのことしか考えられなくなるぐらい、イッセーのことが好きです!

ずっと傍にいたいと思うぐらいですよ!」

 

『・・・・・』

 

一世一代の愛の告白を叫びながらも告げた。

それからのシルヴィアの行動は暴走気味だった。

 

「イッセー!」

 

「お、おう?」

 

一誠に近づき、

 

「私はお前が好きだ!」

 

顔を真っ赤にしたまま、

シルヴィアは一誠の首に両腕を回して―――自分の唇を一誠の唇に押し付けたのだった。

 

「「あああああああああああああああああああああっ!?」」

 

「「・・・・・」」

 

キーラとルッカが叫び、ラーズとオスカーが呆然となった。

 

「も、もう、自分の気持ちを隠したりはしないぞ。会長やラーズたちには負けたくないからな」

 

シルヴィアは一誠の胸に顔を埋めてそう発したが―――鉄と鉄がこすれ合う音が聞こえた。

その瞬間、多幸感、羞恥心が一気に恐怖に塗りかえり、顔は青ざめた。

 

「・・・・・なにを、しているのだ?」

 

どこまでも冷たい声音がラブロック商店の店の雰囲気をガラリと変えた。

 

「あー、ヴェロニカ?どうしたんだ?」

 

「どうしただと・・・・・?私はなイッセー」

 

店の扉から入ってきたヴェロニカに親衛隊長のグレン、聖竜騎士団団長の

ウルスラが佇んでいたが、ヴェロニカが手にしていたクレイモアを一誠に向けて突き付けた。

 

「私が手塩にかけて育てたシルヴィアを、貴様は、貴様は、貴様はぁああああっ!」

 

わ、私はあんなやりかたで手塩にかけて育てられたのか!?

とヴェロニカの発言に幼少の頃の記憶が甦り、絶対にそうじゃないと否定したいが、

今のヴェロニカに下手な発言をすれば、どうなるか分からないので

敢えて黙ることにしたシルヴィアだった。

 

「シルヴィアと口付けをした貴様がシルヴィアに相応しい男か否か、

徹底的に調べる必要があるな!」

 

「でも、お前は政務の仕事をしないとダメじゃん」

 

「ふん、我が情報網を侮るなよ。特殊な道具で時間の流れが違う空間の中に

入れば問題ないだろう」

 

いつの間に知ったんだ?と思うほど一誠は思わず片手を額に押し当てた。

その日、一誠とヴェロニカは二人きりで特殊な空間で過ごすこととなった。

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