一誠の竜騎士物語   作:ダーク・シリウス

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久々に投降を開始します。


Episode37

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「いらっしゃいませ!〈ラ・テーヌ〉へようこそ!」

 

ここ最近、学生食堂〈ラ・テーヌ〉は早朝の営業も始めている。店長の提案だった。学院生の多くは、寮の一階にある食堂で朝食をすますが、安さを売りとする寮内食堂のメニューは限られている。そんな事情もあって、〈ラ・テーヌ〉で朝食を食べたいという意見は、以前から寄せられていたという。事実、朝の七時に開店すると同時に、多くの学院生や教員たちが顔を出した。そんなお客さまたちを、アーニャは笑顔で出迎える。そんなアーニャに猫耳としっぽを装着しているのは、これまた店長の提案だった。当初は、恥ずかしくて堪らなかったコスチューム。しかし成れとは恐ろしいもので、いまではそれほど違和感を覚えなくなっている。アーニャが〈ラ・テーヌ〉で働き始めてから、およそ二ヵ月半が過ぎた。ふと気づけば天蝎宮(スコルピオ)の月も中旬に差しかかっている。冬の足音が刻一刻と近づきつつあるこの頃、店のメニューは温かい料理が中心となっていた。たかが学生食堂と侮ることはできない。五百年の歴史を誇る騎竜学院に併設された〈ラ・テーヌ〉だけあって、意外と本格的な料理が多いのだ。

 

「ラブロック商店の料理メニューには負けるけどねー」

 

店長がそう苦笑を浮かべながら言葉を零すものの隣国シェブロンで厳しい修行を積んでこなければ、シェフには任命されないという厳しい掟もある。料理名も疑ったものが多く、「覚えるだけでも一苦労だわ・・・・・」と、同僚の女の子たちは愚痴を零していたが、アーニャにとっては全てが新鮮で、それほど苦労だとは思わなかった。もっとも、そんなアーニャにも悩みはあった。

 

「アーニャたん!今日もPrettyな姿で俺を出迎えてくれて俺は・・・・・もう死んでも良い!」

 

「んにゃっ!?」

 

開店と同時に〈ラ・テーヌ〉へ誰よりも先に顔出すランサー。その嬉しさはキラキラと子供のように純粋に明るくなって笑って熱い抱擁をしてくる始末。無論、アーニャはただで抱きつかせるわけにはいかない。

 

ドスンッ!

 

店長公認で同僚の女の子たちの前でランサーの腕を掴んでそのまま背負い投げ一本!

 

「ハァハァハァ・・・・・イイッ!俺の今日の活力が漲る・・・・・ッ!」

 

ビクビクと全身を嬉しさのあまりに痙攣する。変態!と同僚の女の子たちが悲鳴を上げる中。アーニャは疲れ切った表情を浮かべる。まだ仕事もしていないというのにランサーというロリコン変態の存在で一日分の疲労がどっと襲いかかってくるのだ。

 

「というわけで、アーニャたん。またいつもの頼むよ」

 

背中を強打されたというのに平然と立ち上がり、まるで常連客のようにメニューを頼む男に本来してはいけない客の前で溜息を零し、お客さまとしてやってきたランサーに店員として対応をする。

 

このときは、まだ―――まさかアンサリヴァン市に未曾有の危機が訪れようとは、アーニャは想像だにしていなかった。

 

「ふふっ、楽しみだなー」

 

約一名、意味深な笑みを浮かべ、何かを期待しているランサーを除いて。

 

―――○●○―――

 

「・・・・・」

 

レベッカ・ランドールは背後から一誠を見ていた。授業が始まる五分前には教室にいて何やら紙に有名な画家よろしく見覚えのない施設を筆一本で書いていく。ここで悪戯で脅かしてもよいのだが生憎、一誠は鋭い。

自分の気配など既に察知していながら作業を進めているのだ。何をしているのか、からかいにも動じない一誠にどうしようか悩んで・・・・・「ふむ」と一言漏らし、閃いた。上半身を前に折って両腕を一誠に伸ばし、

 

「何をしているのだ?」

 

優しく絡みつくように抱きつく。するとビクリッ、肩が跳ね上がった。気付いているはずだが案外作業に没頭して気付いていなかったか?心の中で首を傾げているものの悪戯が成功したことに楽しげに微笑んだ。

制服の増えからでも分かるレベッカの豊満な女性としての象徴の胸はこれでもかと一誠の首筋や後頭部に押し付け、思春期の男子だったら顔を赤くして慌て、鼻血を吹いて嬉しさのあまりに昇天するだろう。だが、一誠は平然とレベッカの胸に押し付けられながら口を開いた。

 

「用があるなら肩を叩いてくれ」

 

「おや、どうしてだい?」

 

「良い意味でも悪い意味でも、作業や仕事に没頭すると周りが見えなくなるんだよ。敵意や殺意以外で」

 

これは以外。本当に気付いていなかったようだ。だが、ある意味いいことを知った。

一誠の家族以外、自分しか知らないだろう。没頭すると周りが見えなくなるという一誠を。

 

「で、質問に答えるとこれだ」

 

「これは、アンサリヴァン騎竜学院の全体の構図?」

 

「それも含んだ敷地な。それとこっちが―――」

 

学院と他に何か施設を書いている最中のもう一枚の紙だった。

 

「何を書いているのだ?」

 

「ほら、夏期休暇で異世界のスポーツを教えただろう?ミラベルにさりげなく作ってやろうかと言ってな。

了承を得たらこの書いてあるようにスポーツができる場所を創造する予定だ」

 

「ほう・・・・・確かにテニスというスポーツは楽しかったな」

 

一誠から紙を密着したまま受け取ってあの時の事を思い出す。新鮮で一人の少女として過ごせれた異世界を、

 

「異世界に行きたくなった」

 

「冬期休暇だな。今度は」

 

「平日でもダメか?」

 

「朝と夜が真逆だぞ。時間の感覚もずれて身体に影響が出る」

 

「ならば休日だな」

 

「決まりだ。生徒会長の権限で」「おい」と職権乱用を使用された。

 

「んで、何時まで密着しているんだ?当たっているんだが」

 

「当てていると言ったら?」

 

悪戯的な笑みを浮かべ反応を窺う。一誠は疑いの目でレベッカを横目で見やる。

 

「ふーん?それって誘ってんの?」

 

「誘う・・・・・?」

 

分からないと口にすると手招きされ顔を近づけると

 

「レベッカが子作りをしたいって誘われたら―――否が応でも、いや、男なら誰だってレベッカに誘われて嬉しいと思うぜ?」

 

「―――っ!?」

 

カァァァと一誠の発言によって顔が熱くなるのを感じつつ羞恥を覚えた。一誠の余裕の笑みを見て、レベッカは悔しいと抱く。

 

「キ、キミは意外と変態なのだな・・・・・」

 

「それは心外だ。ずっと胸を押し付けてくるレベッカもその気があると思わせる行動だぞ」

 

「必然的にキミとこうしていれば当然―――」

 

「あ、確信犯だな」

 

うぐっ、と痛いところを突かれ一誠をからかうどころか自分がからかわれていることに気付き頭を垂らす。

 

「ハッハッハッ、オレをからかうなど百年早いぜ」

 

「むぅ・・・・・」

 

ポンポンと赤い髪を触れられ頬を膨らませ不貞腐れるレベッカ。

 

―――なに、あの生徒会長。マジ、可愛いんすけど!?

 

女の子らしい表情をするレベッカに対し周囲の生徒たちが身悶えるのをレベッカと一誠は気付かない。

 

「・・・・・はむ」

 

責めての抵抗とばかり、一誠の耳を甘噛みする。すると、ビクリッ!と一誠が肩を跳ね上がらした。

 

「ふぉふぉう?」

 

「噛みながら喋るな!?くすぐったいわっ!」

 

「お前の弱点はここなのだな?」

 

弱点じゃなくて―――!と言おうとしたがレベッカのねっとりと熱さを帯びた舌が一誠の耳の穴の中に穿られ、

「ひぅっ!?」と情けない声を発してしまった。それを聞いてますます悪戯心の火が点いて―――。

教室の中で艶めかしく、卑猥で、淫靡な雰囲気が漂い始める。

 

「レ、レベ・・・・・や、やめっ・・・・・」

 

ゾクゾクと背筋に走る形容し難い感じを覚え、逃げようにもがっしりと頭を固定され、レベッカの良いように耳や穴を甘噛み、舐められる。

 

「(あのイッセーが身悶えている・・・・・なぜだかこの何とも言えない感覚は堪らないな)」

 

Sの部分が見え隠れする。このまま続ければ息を絶え絶えにして真っ赤な顔、非難と恨めしく潤った瞳で自分を睨む―――。そんな一誠が見れるとなるとレベッカは恍惚とした表情で、

 

ガシィッ!

 

「悪戯が過ぎたなぁ・・・・・レベッカ?」

 

「・・・・・」

 

頭が強く掴まれ、ギリギリと指先から感じる握力と圧力に楽しい気分が一気に後悔の念で一杯となった。

 

「人の嫌がることをすればどうなるか・・・・・どうやらお転婆な貴族のお嬢さんには分からないようだ」

 

「イ、イッセー・・・・・?」

 

ニコリと笑むが、レベッカは段々怖くなってきて目を逸らしたくなる思いだった。目が、全然笑っていない一誠の顔を直視する勇気が削られていく。不意にコツ、と反対側の頭に握られた拳が添えられた。そして反対側にも、頭を掴まれていた手から解放されたと思えばその手も握り拳で添えられた状態で挟まれた。

 

「そんなお嬢さんにはお仕置きが必要だ」

 

「な、何を―――」

 

するつもりだ、と最後まで言えなかった。ゴリィッ!と両拳がレベッカの頭をねじり込み始めたのだった。

その痛みは・・・・・。

 

「~~~~~っ!!!!!」

 

アンサリヴァン騎竜学院最強の竜騎士(ドラグナー)が、威風堂々として全校生徒の憧れの象徴、恋人にしたい女子生徒ナンバーワン、抜群のプロモーションと美貌の持ち主の少女が、緑の双眸を丸くして頭から来る超絶な痛みに堪えかねず、少女としてあるまじき悲鳴を上げ始めた。

 

「フハハハハハハッ!」

 

苦痛を与えている一誠は悪人の如く高笑いをして許しを乞うレベッカを無視して一分間ずっとし続けたのだった。

誰もレベッカを助けず一誠を止めようとしない。いや、できないでいる。全身から赤いオーラを迸り、周囲に寄せ付けない威圧を発する一誠の目がもうイっていたのだ。声を掛けることすら畏れ多いとすら思わされている、

 

「・・・・・絶対に怒らしちゃいけない」

 

『同意・・・・・』

 

後に、赤い憤怒の竜の存在が三学年の間で話題となった。

 

 

―――○●○―――

 

―――シェブロン王国の首都、アーカム。既に陽は傾いて、王都は夕闇に覆われている。第三皇子ユリエルは、追う実専用馬車に揺られつつ、大通りを進んでいた。しかしながらユリエルは不機嫌そうに誰もいない隣席へ視線を送る。

 

「カサンドラ。どうして急に私の傍から離れたのだ」

 

シェブロン王国に留学していたはずのカサンドラ・ロートレアモンの不在。噂ではユリエルとカサンドラは恋仲とシェブロン、ロートレアモン騎士国にまで広がっていた。しかし、二人の関係は恋人ではないとカサンドラ自身が明かしてしまった。それは世間には伝わっていないが、ユリエルの言葉通り第二王女は、独断で留学を止めて自分の国へと戻ってしまった。理由も何も教えてもらえず、歯痒い思いをするばかりだ。

 

「私の隣にいれば、君の身は安全だというのに・・・・・冥王竜の復活を待っていたのではないのか」

 

魔性の妖花(ディアボリック・ベラドンナ)〉と称されている美貌の持ち主の女が手から零れた。

―――あの時だ。あの時の夜からカサンドラは何かが変わっていた。微笑みを浮かべるカサンドラを尋ねると妹に会いに騎士国に戻っただけと告げられたのだが、それだけで自分から離れるような変化をもたらすのには不十分。

 

「・・・・・もしや、あの男に出会っていた?」

 

半身の冥王竜を宿す異世界のドラゴン。それなら辻褄が合う―――。

 

「おのれ・・・・・異世界のドラゴン、イッセー・D・スカーレット・・・・・っ!」

 

ユリエルは一誠に対して嫉妬と憎しみの憎悪の炎を瞳に孕んだ。カサンドラの為だけに計画していた企みが

カサンドラが自分から離れてしまっては意味がない。こうなれば、ユリエルは計画の事などどうでもよく一誠に対する負の感情で動き出す。その時、馬車が静かに停まった。馬車の周囲を警護していた騎兵たちも、手綱を引いて停止する。シェブロン王室専用の馬車は、王立歌劇場の入り口前に到着していた。今夜の演目は『魔笛物語り(ツァウベルフルーテ)』。今から百年ほど昔、ゼファロス帝国で生まれた歌劇である。王国内で帝国産の歌劇が上演される機会は、滅多にない。ただ単に、王国と帝国が敵対関係にあるから―――という理由もあるが、それ以上に、帝国語は発音がゴツゴツとしていて、過激には適さないというのが一般論なのである。だが『魔笛物語(ツァウベルフルーテ)』は音楽的に優れているし、ストーリーはおとぎ話のようで、子供でも楽しめる。帝国語の発音の問題を差し引いても名作なのは疑いようがなく、老若男女を問わず人気があるのだった。

その物語は―――。

若き王子は『冥夜(よる)の女王』に導かれ、純真無垢な少女と共に、悪しき司祭を倒す旅に出る。だが、物語は中盤で引っくり返され、悪と思われていた司祭こそが正義で、女王こそが悪の権化であることが判明する。女王を倒すべく、王子と少女は様々な試練を受ける。王子たちの危機を何度も救うのが、題名にもなっている魔法の笛―――『魔笛(ツァウベルフルーテ)』である。かくして、王子たちは女王を倒し、晴れて王子と少女は結ばれる―――。・・・・・もっとも、ユリあるは歌劇を鑑賞しに来たわけではなかった。王室使用の制服を着た御者が、恭しく扉を開く。ユリエルは颯爽と降りるなり、通行人たちが第三王子に気付き、華やいだ声をあげるが、ユリエルは気にも留めずさっさと足を歌劇場に運んだ。

 

―――○●○―――

 

既に歌劇は始まっていた。舞台の幕は下りているが、オーケストラが軽快な序曲を奏でている。貴賓席は最上階の中央にあった。個室のように隔離されていて、一般客からは内部を窺えないような造りになっている。

 

「―――こちらです、ユリエル殿下」

 

ユリエルが貴賓席に辿り着くなり、一人の青年がすくっと立ち上がった。歳は二十代後半といったところだろう。中々の美形である。服装や気品から察するに、名のある貴族と思われた。ただし、豪華絢爛を好むシェブロン貴族とは毛色が違う。むしろ軍人めいた風格を感じさせた。シェブロン語にしても、若干の訛りが感じられる。ユリエルはその事を気にせず、むしろ青年と親しげに握手を交わすと微笑を浮かべた。

 

「久し振りだね、我が親愛なる友―――ヴァン=デンハル辺境伯クラウス」

 

その名を発した。その人物は一誠と友人の関係を結んでいる者だった。

 

舞台では、〈冥夜(よる)の女王〉の独唱が始まっている。挨拶もそこそこに、王国の第三王子と帝国の軍閥貴族は密談を始めた。

 

「クラウス、件のことだが」

 

「ええ、その事でしたら問題ございません。さあ、ユリエル殿下にご挨拶をするんだ」

 

「かしこまりました、マスター」

 

少女は音も無く立ち上がった。白百合さながら、楚々とした風情を感じさせるが、その顔立ちは分からない。なぜなら、顔の上半分を金属製の仮面で覆い隠しているからだ。ただし目の部分に覗き穴はなく、不気味な紋様が刻まれているだけだった。まるで硝子細工の人形のような脆さを感じさせる少女だった。スカートの生地を摘まむと、ユリエルにお辞儀をする。

 

「お初にお目に掛かります、ユリエル殿下」

 

緊張しているのか、その動きはややぎこちない。

 

「ユリエル殿下が提供してくださった、セレスティーナ・ラフォンのデータをもとに、我が魔導工学研究所が開発した兵器です。クリームヒルトと名づけました」

 

本人が目の前にいるにも拘らず、クラウスは「兵器」と断言した。一応、美しいドレスを着せてはいるが、歌劇場という場所がらに合わせただけに過ぎないのだろう。クラウスは明らかに、少女を人間扱いはしていない様子だった。ユリエルは感心した風に、クリームヒルテを見詰める。

 

「さすがは、機械帝国ゼファロスだ。まさか本当に、〈冥星石の仔ら(プルートゥ・チルドレン)〉を人工的に合成してしまうとはね」

 

「おや、殿下。信じておられなかったのですか?」

 

ユリエルの称賛に気をよくしたのか、クラウスはおどけてみせた。

 

「いや、信じてはいたよ。ただ、例え成功するにしても、もっと時間がかかると思っていた。ところで、クリームヒルテもセレスティーナと同じ能力が使えるのかい?」

 

「はい。竜族の精神に介入し、意のままに操る能力です。サバンナに生息する大トカゲ(バジリスク)で実験したところ、およそ百頭もの群れを軍隊の如く使役してみせました」

 

「ほう。バジリスクは地竜(アーシア)の眷属とも言われている。それを百頭も同時に・・・・・」

 

ユリエルの感嘆が嬉しかったのか、クラウスは自信に満ちた笑顔を見せた。

 

「ところで私にこの兵器を造らせる依頼をしたのはどういった用件ですか?」

 

「ああ、少し試したくなったのだよ。―――異世界のドラゴンでも龍を意のまま操れるのかを」

 

「―――っ!?」

 

クラウスは初めて驚愕の表情を浮かべた。ユリエルの意図をようやく理解できたのだ。

 

「この子を借りるよクラウス。ふふふ・・・・・っ。異世界のドラゴンを操ることができればアルク=ストラーダ大陸などもはや我が手中も当然だ」

 

自分の過ちをを気付いた時は既に遅く。クリームヒルテを引き連れて貴賓席を後にするユリエルをただただ見守ることしかできないでいるクラウスは、一人苦い顔を浮かべて懺悔を零す。

 

「すまない、イッセーくん。私はなんて事をしてしまったのだ・・・・・っ!」

 

―――○●○―――

 

「ようやく、頭の痛みが取れた・・・・・」

 

「今回ばかりは会長の自業自得だと思いますよ」

 

ラブロック商店にて夜食をとっていた何時ものメンバー。レベッカの言動に誰も慰めも同情もしていなかった。

同時にそんな事を人前で堂々とお仕置きをした一誠にまた新しく畏怖の念を抱くようになるのだが。

 

「訊いた限り、そんな痛いとは思えないのだけれど」

 

「・・・・・エーコが痛がるのも頷けるお仕置きだった」

 

「分かってくれて感謝すればいいのかしらね(バクバク)」

 

「行儀が悪いぞエーコ。喋るか食べるかどっちかにしろ」

 

今夜もラブロック商店は賑やか。多くのお客が来て、変わったメニューを注文してはどんな料理が運ばれてくるのか心待ちするドキドキ感とワクワク感を胸に抱く。たまにハズレ的な料理が運ばれると何とも言えない顔を浮かべる客と一緒に席に座っている客が楽しげに笑う。まあ、ハズレでもまずまずな美味しさなので食べられないわけではなかった。

 

 

「アンネゲルトちゃん!キミもPrettyな格好だよぉっ!」

 

「イッセー!変態がやってきたのじゃぁっ!?」

 

「変態ではない!愛好者であーる!」

 

 

「・・・・・ランサーって変な奴なんだな」

 

「強化合宿以来、なんだか性格がおかしくなっているような・・・・・」

 

一誠にアッパーされて天井にまで吹っ飛ばされたランサーを見て可哀想な者を見る目で一瞥。

 

「皆に朗報とも言える話を伝えよう。イッセーが異世界で体験したスポーツをこの世界でもできるようにしてくれるそうだ」

 

「あら、楽しむことが一つ増えるのね。ミラベルお姉さまは許しているの?」

 

「まだ了承は得ていないが、許しをもらえば直ぐにスポーツをする場所を作るらしい」

 

「あたし、テニスってスポーツをやってみたいな」

 

「うん、あれは楽しかった」

 

この世界でも異世界しかない出来事をできるようになる。それは異世界に過ごしたシルヴィアたちにとって嬉しい報告であった。

 

「そして、休日はイッセーが異世界に連れていってくれるそうだ!」

 

『おおーっ!』

 

「―――職権乱用でそうさせられた、がな?」

 

ビクゥッ!

 

レベッカが一番びっくりして声がした方へ振り向くと、いま座っている場所の空間の上から見下ろすように一誠が顔を出していた。

 

「言っておくが、俺はOKも言った覚えは無いからな」

 

「OK・・・・・?」

 

「異世界の違う国の言葉だ。OKは了承、肯定の意味だぞ。分かったか?」

 

「OK、こんな感じ?」

 

「そうそう」とラーズに肯定すると興味深そうにレベッカが顎に手をやって口を開く。

 

「ふむ、異世界の違う国にも様々な言葉があるのだな。ではイッセー。嬉しいというのは?先ほどのOKみたいな言葉で表すとどんな言い方だ?」

 

「HAPPYだ。因みにランサーがPRETTYって言った言葉を言いかえれば可愛いだ」

 

「PRETTY・・・・・可愛い」

 

「因みに母親はMOTHER。ついでとしてこの世界にいるマザードラゴンは、言い換えるとドラゴンの母親という。まっ、これは知ってるだろうがな」

 

「父親は?」「FATHER」「だ、大好きとは?」「love」

 

と、一誠に質問攻めして知識を蓄えるレベッカたちであった。

 

「ええい、こっちから吹っかけたとはいえ仕事ができない」

 

指をパチンと鳴らすとレベッカ達が囲むテーブルに本の束が魔方陣から出てきた。

 

「さっきから教えている言葉は英語って外国の言葉だ。その本にこの世界の言葉で分かり易く翻訳してあるから自分たちで調べて覚えろ」

 

それだけ言って仕事に戻った。さっそく好奇心に、興味津々に本へ手を伸ばして自分なりの独学で異世界の言葉を学ぶ。

 

『・・・・・』

 

―――数時間後。

 

「お前ら、夢中過ぎるじゃん。もう閉店するんだけど」

 

『え?・・・・・あっ』

 

一同は自分たち以外お客さんがいない事に気付き、壁に掛けられている時計も見れば学院生にとって就寝の時間に迫っていた。

 

「意外と没頭しちゃうわね」

 

「イッセーの気持ちも分かった気がする。つい夢中になってしまった」

 

「言っておくが、英語だけが外国の言葉じゃないからな。何十という国にそれに比した外国語がたくさんあるんだ」

 

「マ、マジか・・・・・因みにイッセーはどれだけの外国語を言えるのか?」

 

「全部とは言えないが、何ヵ国かマスターしているぞ?お前らにとって聞き慣れない言葉が殆どだな」

 

「異世界・・・・・凄過ぎでしょ」

 

「そうか?このアルク=ストラーダ大陸以外にも大陸があり、国があり、人間がいるんだ。俺たち異世界から来たやつにとっても未知の未開地でもある。地球の形を思い出してみろ。アレぐらいの大きさに幾つものの大陸があるんだ。その分人間がいる。当然な事実だろう?」

 

楽しげに語る一誠に同感する面々。なにもアルク=ストラーダ大陸だけが全てではないのだ。もしかすると、違う大陸にもドラゴンがいるかもしれない可能性もある。

 

「なんか、色んなところに行きたくなるわね」

 

「うん、この目で、この足で冒険したくなるじゃないか」

 

「おっ、嬉しいね。そう言う気持ちを抱いてくれるなんてさ」

 

心底嬉しそうに笑みを浮かべた。その笑顔を見てシルヴィアたちは顔を赤くしたり釣られて笑みを浮かべたりする。

 

「俺もそうだが、お前らもまだまだ若いんだ。家のことも大事だが世界に目を向けることも大事だぞ?―――世界は不思議で満ち溢れている。俺はそう思っている」

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