一誠の竜騎士物語   作:ダーク・シリウス

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Episode4

その日、一誠たちが辿りついた場所はアンサリヴァン市という町。

ロートレアモン騎士国アンサリヴァン市に建つ竜飼い人専門の教育機関。

人々から学院都市とも呼ばれているように市内の殆どの土地が学院の領土であり、

市の行政や治安においても強い権限を持つ。

 

「オーファンの儀」で竜の幼生を授かった者であれば身分を問わず入学できる。

期間は基礎課程(ユニオス)の3年間と上級課程(シニオス)の3年間の計6年、

進級はエスカレーター方式であるが課程・学年を問わず成績優秀者が優遇される実力社会のため、

学力だけでなく竜の騎乗技術や相棒の生態も評価の対象となる

聖竜(マエストロ)であれば竜騎士(ドラグナー)聖天竜騎士(アークドラグナー)の称号を

授かれるため必然的に優遇されるようになる。ただし期末試験に受からなければ留年はする)。

 

施設には校舎、食堂、学生寮の他に竜舎と

呼ばれる竜を住まわせるための専用施設が存在する。そんな学院がある街で、

第二の拠点をここにしようと決めた一誠たちは・・・・・パレードを待っているか、

道を開けて大勢の人たちを出くわした。

 

一体何を待っているのだろうか?

気になったので一誠たちはしばらく傍観していると―――ドドドドドッ!と市街地の道を駆ける

四肢のトカゲのようなフォルムをした生物に騎乗した少年少女たちが現れる。

 

「・・・・・なに、あれ?トカゲ?」

 

ルクシャナがポツリと呟いた。まさか、あれが地竜(アーシア)というドラゴンとは

思えないのだろう。不意に、一誠が空を見上げたら、一対の翼を生やす竜が空を駆けていた。

 

「レースか何かか?」

 

「多分、そうじゃないですかね?」

 

「しかし・・・・・先ほどのトカゲはなんなんだ?」

 

「ちょっと待て、―――視てみる」

 

と、一誠が未だに道を疾駆する地竜(アーシア)に能力を発動した。

すると、一誠の目しか見えない虚空で展開するステータスが表示された。

種族地竜(アーシア)―――と。

 

「・・・・あれ、ドラゴンだ」

 

「嘘でしょ!?」

 

「恐竜をかなり小さくした感じだと思っていましたけど、アレがドラゴンですか・・・・・」

 

信じられないと異世界メンバーは唖然とする。今まで見てきたドラゴンたちよりかなり幼く

見えるのだ。あれが成竜だとすれば―――レベルが違い過ぎる。さらに一誠が加えて言う。

 

「それと、まだ子供だ。大きくなれば翼を生やすドラゴンになるかな?」

 

「そうだと思いたいな」

 

地竜(アーシア)がいなくなり、市街地の道を開けていた人々は動き出す。

一誠たちも本来の目的のために歩を進める。

 

―――○♢○―――

 

「取り敢えず、一件だけ借りることはできたな」

 

「改装もしてもいいことですし、良かったですね」

 

「マキャベリのおかげで良いところを確保できたよ。交渉も凄かったな」

 

「商売するときはなるべく人の交流が多い場所が一番だからな。当然のことさ」

 

アンサリヴァン市の広場にとある騎士の銅像がある中、一誠たちは地図を見ながら目的の場所へ

向かっていた。広場は人々が行き来しているため、それなりに賑やかだった。

晴天にも恵まれ、太陽の日差しが木々を照らして光合成を生じ、酸素を作りだしてくれる。

 

「ここか?」

 

「はい、ここのようです」

 

広場の上段を進んですぐ建物の前に辿り着いた。鍵で固く扉が閉められ、

店として造られた建物でまだ真新しい二階建ての建造物。鍵穴に鍵を差しこんで捻り、

開錠すれば一誠たちは中に入る。

 

「割と広めな空間ですね」

 

中は木造で設けられていた。机や椅子はないが、カウンターらしき長い台があった。

壁はレンガによって囲まれている。

 

「まあ、もっと広くするけどな」

 

何時の間にか金色の錫杖を手にしていた一誠が言う。

そして、「創造」と呟いた瞬間に金色の錫杖が眩い光を迸らせて一誠たちの視界を奪った。

光が無くなる頃に、各々と目を開ければ―――まるで高級レストランに訪れたような豪華絢爛な

内装へと一変した。床は赤い絨毯で敷かれていて、最初に見た頃よりかなり広くなった。

天井、四方八方と囲む壁が高く広くなっている。

 

「これからどんどん必要な家具とか道具を作っていく。

相談し合ってな?それとこの建物は飲食店とラブロックと異世界の色んな品物との販売として」

 

「ラブロックにはこういう物がある―――と知らしめるためか?」

 

「ん、そうだ。違う地方の物々を教えて興味を抱かせるんだ。

心に残る印象を与える尚且つ多く売りつける。

それが人から人へと繋がり広がって商売繁盛となる」

 

「うむ、商人として必要不可欠な戦略であるな。商売する時に必要な一つ―――人だ。

ならば、人が人へと興味を抱かせるほどの物を売り付けていかなければなるまい」

 

満足気に頷くマキャベリとその発言に当然だと頷く一誠は口を開く。

 

「そのためにはラブロックと異世界に行き来しないといけない。

久し振りにベアトリーチェと会うか。まあ、それはもう少し先のことだし、

今はこの店を改装に改装を重ねて、必要な物を揃えて落ち着いたら店を開こう」

 

「それで、店の名前は何をする?」

 

ヴァーリが一誠に問う。一誠は笑みを浮かべながら店の名前を告げる。

 

「『ラブロック商店』だ。前から考えていた名前だ」

 

―――○♢○―――

 

―――翌日。

 

ガイアは異世界に戻って世界と世界の狭間こと次元の狭間で泳ぎに行き、

マキャベリとヴィットーリアはラブロックに戻って品を注文大量しに、

リーラと龍牙はガイアと共に異世界へ戻り、思い付く限り売れそうな商品や食材を

用意してくるために皆は一時、残ったヴァーリとルクシャナ、オーフィスと別れた。

四人はアンサリヴァン市の市街地を歩き回っていた。名目は視察。だが、

 

「イッセーとこうして歩けれるなんて久し振りだわ」

 

「一誠は魅力がありすぎるからな。

独占は中々できないが、一誠と触れ合えれるのならば文句はない」

 

「我の特等席」

 

一誠を慕う三人のとってはデートであった。この異世界に来てから一誠は、

深夜になればこっそりと元の世界に戻って元の世界にいる家族たちと触れ合い、

そこで朝にも拘わらず昼寝をする。さらには人王としての務めもして、

静かに密かに疲労が蓄積している。

 

が、その疲労だけではなく、心も回復できる方法が一誠にあるので心身ともに健康でいられる。

現状、右腕にヴァーリ、左腕にルクシャナ、肩にはオーフィスと固められている。

両手に花どころか、ちょっとした花園にいる一誠であった。

 

その光景に市街地にいる大人たちは一誠の容姿、ヴァーリとルクシャナのスタイルに見惚れたり

感嘆の声を漏らす。そして嫉妬の炎が籠った視線という槍を突き刺す者もいる。

そんな視線を気付いているがさらりと受け流し、この幸せな一時を堪能しようと

さらに一誠の腕に身体を押し付ける。

 

「どうした?」

 

「「ふふっ、なんでもない」」

 

「我もギュッとする」

 

オーフィスも身体全体を使って一誠の頭を抱えるように抱きつく。

腕や頭から心地良い温もりを感じながらも歩を進める一誠。

 

「お」

 

一誠が何かを見つけた。壁から突き出るように設計された野菜を思わせるガラス張りに、

クレープを模したレプリカが飾っているように展示している。

 

「へぇ、この世界にクレープなんてあるんだ。異世界の食の文化、一つ見つけた」

 

「ねぇ、食べてみたいわ。いいでしょう?」

 

「私も食べてみたいな。なんか美味しそうな香りがする」

 

「我も、食べてみたい」

 

オーフィスたちは乞うた。当然一誠は否定せず真っ直ぐクレープに向かった。

すでに三人の少女たちが立ち並んでいる。少女たちの背後で立ち並んでいると、

薔薇のように甘い香りがふわりと漂ってくる。食欲をそそる匂いだった。店先の値札によれば、

アンサル・クレープは百グローリン。他のクレープが十グローリンであった。

 

「ねえ、まだなの?」

 

「順番だからな。行列に割り込むのはマナー違反だ」

 

「むっ、仕方ないわね。だけど誇り高き竜族を待たせる以上、

マズかったら屋台ごと踏みつぶしてやるんだから!」

 

背後から物騒な会話が聞こえてくる。

しかし、一誠たちは「竜族?」と興味が湧いて背後に振り返った。

襟元のリボンと、ふっくらとしたパフスリーブが、ピンク・シルバーの髪に赤い瞳の少女の

可憐な容姿に良く似合っている。頭にはベレー帽を被っている。一方、足元を飾るのは、

お洒落なブーツだった。一誠とオーフィス、ヴァーリがそんな少女をジッと見つめて―――。

 

「「「ドラゴン?」」」

 

「っ!?」

 

茶色の髪に茶色の瞳の少年が目を張った。今の話を聞かれた、と焦心の色が顔に浮かんだ。

 

「イッセー、そんな子なんて放っておいてほら、クレープを頼みましょう?」

 

ルクシャナが催促の声を掛けた。そう言われ一誠は返事をするが、

興味深そうに少女を一瞥してクレープを購入する。

 

「この店の売れているクレープを四つお願いします」

 

一誠が注文すると、店員は魔法のような手つきで、クレープの生地を焼き始めた。

皮が丁度良い焼き加減になると、そこに淡い緑色を帯びたクリームを載せていく。

 

「すみません、アンサルってなんですか?」

 

「アンサルとは、アンサリヴァンの特産物として知られる高級ハーブです。

香料として使われる一方で、ドラゴンの嗜好品としても有名ですよ。酒やタバコを嗜む人間と同じ

ように、ドラゴンはアンサルの香りを好み、

人間で言えばアンサルはアルコールのようなものです」

 

「今作ってもらっているクレープはアンサルを使用したものですか?」

 

「はい、そうですよ」

 

好奇心で一杯に店員が作るアンサル・クレープを見る一誠たち。一誠は頷いて追加した。

 

「すいません、そのアンサル・クレープをもう十一個ほど作ってください」

 

「んなっ!?」

 

計十五個のクレープを注文した一誠だった。そんな一誠の意図に気付き、

納得するヴァーリだった。

 

「メリアたちにも食べさせようと?」

 

「ああ、美味しかったら作ってみるのも悪くないだろう?」

 

「なるほどね。ドラゴンの嗜好品として有名だから食べさせたいのね」

 

ルクシャナも納得したところで、背後から恨めしいとばかり視線を送ってくる少女に気付く。

 

「悪いな。もう少しだけ待ってくれ」

 

「むー!愚鈍で愚劣で愚昧な人類が私を待たせようっての!?この誇り高き竜族の私に!」

 

「・・・・・随分と上から目線で言うんだな。こいつ」

 

呆れ顔で息を零す一誠だった。しばらくして注文した数のクレープが出来上がり、

料金を払ってクレープ屋から離れる。

 

「あの女の子、ドラゴンなの?」

 

「みたいだな。ドラゴンとしての波動がこの世界のドラゴンと似ている」

 

「人化しているのかもしれないな」

 

先ほどの少女のことを語りながら歩を進める。

屋台の周辺には、通行人が自由に利用できるベンチが設置されている。

ちょうど、空席があったので、一誠たちはそこに腰を落ち着けた。

膝にオーフィスを座らせて購入したクレープを渡せば。

 

「はむはむ・・・・・」

 

最初にオーフィスがクレープを食べ始めた。味は・・・?と一誠たちは様子を見ていると・・・・・。

 

「これ、美味しい」

 

アンサル・クレープの美味しさにご満悦の様子だった。

ヴァーリもルクシャナもクレープを食べ始め、一誠は十一個の魔方陣にそれぞれクレープを

乗せると、魔方陣の光と共にクレープが消失して魔方陣も消えた。

それから一誠自身もクレープを食べ始める。

 

「うん、美味しいな」

 

ルクシャナもヴァーリも同意と頷く。すると、一誠の手の甲に宝玉が浮かび上がった。

 

『主、ありがとうございます。とても美味な食べ物でした』

 

「おう、アジ・ダハーカたちはどうだ?」

 

『はい、とても好評です。グレンデルに至ってはもっと食わせろというほどです』

 

「ははは、作れるようになったら十個でも百個でも作ってやるよ」

 

異世界のドラゴンたちでも好評のようだった。

 

「・・・・・」

 

ジィーと一誠のクレープを見詰めるオーフィス。その物欲しそうな目で見られては愛しい家族に

あげてしまいたくなる。思わず苦笑を浮かべ、クレープをオーフィスの口元に近づけた。

 

「あーん」

 

子供に口を開けるように優しく促す。

目を細め、小さい口を開けて近づけられたクレープをカプリとオーフィスは食べた。

 

「ん、美味しい」

 

「「・・・・・」」

 

美味しそうに食べる。そんなオーフィスを見ていた

ヴァーリとルクシャナが羨望の眼差しを向ける。

 

「イッセー、もっと食べたい」

 

「ははっ、そんなに美味いか?」

 

その問いにオーフィスは首を横に振った。

 

「我、イッセーの食べたクレープが食べたい。

イッセーから食べさせてくれるクレープを食べたい。それで美味しさ倍増」

 

「―――――」

 

真っ直ぐ言うオーフィス。どこまでも黒い瞳から純粋無垢が伝わり、一誠は思わず―――。

 

「ああもう。オーフィス、可愛いな・・・・・!」

 

ギュッ!とオーフィスを抱きしめたのだった。

その言動にルクシャナとヴァーリは抗議を唱えた。

 

「・・・・ズルイわ」

 

「そうだな、オーフィスだけ良い思いはさせないぞ」

 

とばかり、横から一誠に抱きついた―――その時だった。

 

「―――不健全だ!」

 

どこからともなく非難の声が聞こえた。いや、すぐ目の前からだった。四人は前方に目を向けると

学生服らしき制服を着込んでいる金髪に蒼い瞳の少女と銀髪に赤い瞳の少女。

そして紫色の髪に紫色を基調としたメイド服の女性がいた。

特に金髪の少女は軽蔑していると顔から伺える。

 

「複数の少女と睦み合っているなどと・・・・・言語道断!」

 

ビシッ!と人差し指を一誠に突き付ける少女に一誠たちは首を傾げた。

 

「・・・・・誰だ?どことなく・・・・・あの女性と似ているようだが・・・・・」

 

「えっと、ヴェロニカだっけ?」

 

「姉妹がいると聞いていないんだが、他人の空似ではないか?」

 

普通に声を出して言う一誠たちだった。対して金髪の少女は―――。

 

「私はその第一王女のヴェロニカ・ロートレアモンの妹、

第四王女のシルヴィア・ロートレアモンなのだが」

 

と、威厳に満ちた声音で言い切ったのだった。一誠たちの反応は―――。

 

「へぇー?」

 

「ふーん?」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

気のない返事だった。流石に四人の反応に当惑するシルヴィア・ロートレアモン。

 

「お、おい?自分で言って何なんだが・・・・・驚かないのか?敬わないのか?王女だぞ?」

 

その問いに一誠たちは言った。

 

「いや、普通だよな?」

 

「どんなところを驚けって言うのよ?」

 

「王女である前に一人の女だからな。

それに学生服みたいなものを着てそう言われて本当に王女なのか疑問だ」

 

「興味ない」

 

あっけらかんとシルヴィアにそう言うのだった。

「な・・・・・っ」とシルヴィアは愕然とする。

 

「あー、そう言えば自分のことを第一王女だとヴェロニカが言っていたような」

 

「じゃあ、長女ってことよね?妹がいて当然かぁ」

 

「なるほど、そう言われてみればあの王女と似ているところがある」

 

「「「で、それがなに?」」」

 

一誠、ヴァーリ、ルクシャナの反応はシルヴィアにとって初めての体験だった。

どうでもいい感じで言われショックを受け、メイドに向かって何やらぶつぶつと呟き始めている。

と、銀髪の少女がクスクスと声を殺して笑っている。

 

「面白い人たち。一国の王女相手に平民がそんな侮辱や屈辱的な発言したら

処刑されてもおかしくないのに」

 

「だって、ヴェロニカの方が印象的だぞ?人に大剣を振るってきたり、

ウルスラと戦わせたりするんだからよ」

 

「ウルスラ・・・・・だと?」

 

シルヴィアが反応して一誠を見詰める。

 

「お前、ウルスラと戦わせられたのか?姉上に」

 

「ああ、そうだけど?まあ、強かったし面白かった」

 

「なんだと?いや、それ以前に姉様とどうやって会った?答えろ」

 

「不法入国して捕まって尋問受けた時に会った」

 

「お前は犯罪者だったのか!?」

 

と、愕然とするシルヴィアであった。だが、一誠は首を横に振った。

 

「いや、釈放されたから犯罪者じゃない。

今はこの辺りに店を構えようとしている一般人みたいなものさ」

 

「店?一体どういう名前の店?」

 

「ラブロック商店。数日後には開店するつもりだから良かったら来てくれ。

ああ、広場に階段がある場所の付近だからな」

 

「ラブロック・・・・・竜の尾に位置するラブロック商工都市連合のことか?」

 

その通りだと首を縦に振る一誠。

 

「ん、そうだ。俺たちはラブロックからこの街に来たんだ。昨日からいるな」

 

徐に立ち上がる一誠に続いてルクシャナとヴァーリも立ち上がる。

 

「それじゃ、シルヴィア。またどこかで会おう。俺たちは街の視察を続行だ」

 

そう言うなり、オーフィスを肩に乗せてルクシャナとヴァーリを引き連れてどこかへと

行ってしまった。

 

「・・・・・コゼット、ラーズ。あの男の言っていることは誠だと思うか?」

 

「流石にどうかと思うわ。でも・・・・・嘘をついているようにも見えない」

 

「姫様、私も同じ意見です」

 

「・・・・・あの者たちの後を追う。二人とも、ついてこい」

 

―――○♢○―――

 

商店街を巡り、どんな店がありどんなものを販売しているのか、

人間の研究学者であるルクシャナにとってまさに宝庫といえる物がずらりと存在している。

一軒一軒見て気になるものを見つけたら、店の中に入るとまるで旅行しているような様子だと

シルヴィアは思った。特に可笑しな行動をしているわけでもなかった。

興味深々と市街地を歩き回っている。

 

「とても、楽しそうに見て回っているわね」

 

「はい、それにまるでカップルのようにあの殿方とくっついております」

 

「・・・・・」

 

ジィーと一誠たちを警戒して、一瞬でも不審な動きをしたら―――とシルヴィアは鋭い眼差しで

一誠たちの様子を見ている。―――と、

 

「さっきからなに人の後を追っている?」

 

目の前にいた一誠が一瞬で姿を消したと同時に、背後から怪訝だとばかりシルヴィアに声を

掛けてきた人物がいた。慌てて背後に振り返ると、

肩にオーフィスを乗せ、シルヴィアを見下ろす一誠がいた。

 

「い、いつの間に・・・・・」

 

「さっきからバレバレの尾行をされて疑問ばかり浮かんでいる。

そんなに信用がないならもっと近くで歩いてこいよ。俺たちはこの街に対して何もしない」

 

それだけ言って堂々と歩を進んでルクシャナとヴァーリのところに戻った。

 

「コゼット・・・・・分かっていたか?」

 

「申し訳ございません。気付いたころにはすでに背後を取られて数秒ぐらいで

ようやく気付きました」

 

「へぇ、コゼットに察知されず背後に回るなんて、コゼット以上の戦闘能力があるのね」

 

「おい、ラーズ。なに感心している」

 

怪訝な面持でラーズに言うシルヴィア。が、ラーズは蒼い瞳をキラリと輝かす。

 

「・・・・いいわね、あの平民。―――私の専属の従者にでもしようかしら。

ヴェロニカお姉様もきっと驚いた顔をするわ」

 

「冗談・・・・・だよな?」

 

「あら、お姉様。私が冗談で言ったことはないわよ?欲しい物があったら手に入れる。

どんな方法でもね?今までお姉様方に見せてきたじゃない」

 

何時しか、ギラギラと獲物を狙う肉食獣の鋭い目つきとなる。

ラーズ―――第五王女ラーズグリーズ・ロートレアモン。

二つ名は『強欲の王女』。欲しいものがあれば手段を選ばず、さらにはパルを使って脅してでも

手に入れる。ロートレアモン騎士国が誕生して以来の最悪な王女。

が、欲しがるものをあまり見つからないので基本的には大人しい王女である。

しかし、一目で見て欲しいものを見つけたら―――。

 

「ふふ・・・・・あの平民、私色に染めてあげるわ」

 

行動が早いのだ。それも姉であるシルヴィアやヴェロニカさえ手に負えないほどの。

止めようにもラーズは頑となって止めないどころか止まらず、

 

「お姉様。止めないでくださいね?止めたら―――分かりますよね?」

 

「・・・・・」

 

姉であろうが必ず誰かの弱みを握っているのだ。それを突き付けられて、

シルヴィアどころか父であるオズワルドにも制止する事ができないでいる。

いや、オズワルドの秘密をも握っているため、黙認するしかないのだった。

ヴェロニカも弱みを握られているため、迂闊にラーズの言動に窘めることすらできない。

事実上、ロートレアモン騎士国の影の支配者はラーズグリーズ・ロートレアモン。

 

―――○♢○―――

 

「ねえ、私の従者にならない?」

 

ラーズが早速一誠を手に入れようと行動するも案の定、一誠は首を傾げる。

 

「いきなりなにを言うんだ?」

 

「私、あなたを気に入ったの。だからあなたが欲しい。私の専属の従者となってくれない?」

 

市街地を歩く一誠たちの間後ろに深い笑みを浮かべるラーズ。

ラーズを対照的に呆れて溜息を吐く一誠。

 

「出会ったばかりの少女の言うことなんて聞くわけがない」

 

「断ると?」

 

「俺を求めるのならばそれなりの態度で接するべきだと思うが?」

 

「へぇ・・・・・一国の王女にそんな態度をする平民は初めてね。あなた、どこかの貴族?」

 

ラーズの問いに一誠は無視した。いや、目の前の光景に目を向けていたので

答えなかったのだった。とある一人の少年がトイレを供用する施設、

その女性しか入れない禁断の入口に傍から見れば、入ろうか入らないか悩んでいる

ド変態の行動をする少年を目の当たりにした、

 

「あいつ、なにやってんだ?」

 

「あら・・・・・いい弱みを見せてくれるじゃない」

 

嬉しそうに不思議そうに見る一誠と愉快そうに笑むラーズ。そこにズンズンとラーズの背後にいた

シルヴィアが少年の方へ大股で近づく。一誠も気になって後を追う。

―――片手に黒光りする機械的な物を持って。

 

「おい」

 

「なんだよ、うるさいな・・・・・こっちはそれどころじゃないんだよ」

 

「そんなに女子トイレが気になるのか?」

 

「当たり前だろ?できることなら俺が踏み込んで、

この目で確かめてやりたいところだが・・・・・」

 

「変態だわ!変態がここにいる!」

 

「へっ?」

 

少年はようやく我に返った様子だが既に遅し。そして、背後を振り返ったと同時に、

少年はシルヴィアに蹴り飛ばされていた。

 

「いてっ!なんのつもりだ!」

 

衝動的に食って掛かった少年は、たちまち凍りついた。

 

「なんのつもり・・・・・だと?それはこっちの台詞だ!」

 

「はは・・・・・同じ男としてそれはないんじゃないかなー?証拠もばっちり捉えたぞ」

 

「それ、なにかしら?とても気になる機械的な物ね」

 

両手を腰に当て、烈火のごとく怒っているシルヴィアと、機械的な物を片手に少年を向けて

苦笑を浮かべている一誠、その一誠が持つ機械的な物に興味深々と見詰めるラーズ。

無表情で少年を一誠の肩に乗ったまま見詰めるオーフィス。汚物を見る目で少年に視線を向ける

ルクシャナ。興味なさそうに一誠の腕を抱きしめて温もりを感じているヴァーリ。

シルヴィアの背後には、コゼット影のように張り付いて、ふんわりとした笑顔を浮かべている。

 

「お前こそ、どうして女子トイレの周辺をコソコソと嗅ぎ回っている?

どう見ても変質者だろうが!」

 

「いや、その・・・・・エーコがトイレに入ったきり、戻ってこないんだ。

それで心配になって・・・・・決して、邪な気持ちがあったわけではないぞ?」

 

「あらあら、それはいけませんわね、よろしければ、私が見てきましょうか?」

 

コゼットの申し出に、少年は安堵で胸を撫で下ろした。

 

「是非、お願いしたいです!」

 

「それでは姫様、参りましょうか」

 

「なんだ、私も行くのか?」

 

「困っている国民に手を差し伸べるのは、王族たる物の義務ですわ。

栄えあるロートレアモン騎士王家の家訓です」

 

「そ、そんなことはわかっている!」

 

シルヴィアは、頬に朱を散らすと、ずんずんと女子トイレに向かった。

 

「エーコってさっきのピンクの奴か?」

 

「ああ、そうだけど・・・・・」

 

「そっか。んじゃな」

 

興味がないとばかりルクシャナとヴァーリを引き連れてラーズと少年から去る。

 

「いいの?」

 

「なにがだ?」

 

「関係ないけど、困っていたわよ?」

 

一誠の性格を知っているからこそルクシャナはそう言う。

困っている者がいたら放っておけない男だと、一誠と短くない付き合いで熟知している。

 

「ああ、ちょっとさきにエーコって奴を見てみたいからな。

あのドラゴンの気は覚えているから、その気を辿っているんだ」

 

「えっ、そうなの?」

 

「今回は別にあいつのためとかじゃないな。ただの興味が湧いた行動だ」

 

そう言いながらどこかへ真っ直ぐ歩く一誠であった。

 

―――○♢○―――

 

エーコという少女の気を辿りながら一誠たちは入り組んだ路地を悠然と歩を進めた。

 

「ここか」

 

一誠の足が止まった場所は、市街地区の東端に位置する、寂れた場所だった。

庭付きのお屋敷がひっそりと立っている、かなり老朽化していることもあり、

お化け屋敷のように見えた。人が住んでいるのかどうかも定かではない。

 

「イッセー、ここにいるの?」

 

ルクシャナが怪訝そうな面持ちで尋ねてくる。一誠は頷く。

 

「間違いない・・・・・でも、あれはなんだろうな?」

 

庭に足を踏み入れるなり、一誠が怪訝そうに呟いた。庭先には不気味な石碑が等間隔に配置され、

何やら魔方陣染みた雰囲気を醸し出している。どの石碑の先端部にも結晶が嵌めこまれており、

うっすらと発光していた。

 

「ラブロックの遺跡都市と同じ結晶だわ」

 

「この結晶はこの世界の流通しているものらしいな」

 

「ふーん・・・・・魔力を感じるな。ちょっと視るか」

 

そう言って結晶を凝視する。目の前にステータスが立体画面として表示される。

―――『竜綺華晶』、―――『竜媒魔法(オラクル)』と―――。

 

「竜綺華晶に竜媒魔法(オラクル)・・・・・?」

 

「それがこの結晶の名前か?」

 

「結晶事態の方は竜綺華晶って名前だ。

で、魔力が籠って魔法を放てる竜綺華晶のことを竜媒魔法(オラクル)って称されているようだ」

 

竜媒魔法(オラクル)って?」

 

ツンツンと竜綺華晶を触れるルクシャナが尋ねる。一誠は石碑から離れて言った。

 

「それを知っていそうな奴に直接聞いた方が早いかもな」

 

―――○♢○―――

 

床板の軋む廊下を、一直線に足を動かす。ネズミや蜘蛛と遭遇するが対して気にしないで進む。

屋内の窓は全て塞がれているが、一誠の手の平から浮かぶ光の球体で廊下に点々と

置き続けているため周囲を照らしている。一誠たちが最終的に辿り着いた場所は、

地下室の扉だった。見るからに頑丈そうな扉である。

 

「俺に扉なんて無意味だけどな」

 

トンと扉に手を触れた瞬間。赤黒い魔力が扉を覆い尽くして、

頑丈そうな扉が一瞬で無くなった。

 

「失礼しまーすっと」

 

消失した扉を潜り抜け、軽い調子で挨拶する一誠の前方に白衣姿の女性がいた。

眼鏡を掛けており、理知的な印象を与えている。年の頃は二十代半ばといったところだろうか。

白衣に身に付けているところをみると、医者か研究者かもしれない。

女の背後に寝台が置かれていて、殆ど全裸に等しいピンク・シルバーから覗ける丸い突起物を

二つ生やしている少女が横たわっていた。全身に革ベルトが巻きついており、

身動きを封じられているようだ。

 

「・・・・・誰かしら?」

 

「や、なに。エーコとかいう奴が誘拐されたと聞いたものでね」

 

「この子を連れ戻しに来たと?」

 

「いや?逆だ。エーコとかいうドラゴンを見に来たんだ」

 

と、一誠の目的に女は怪訝な面持ちとなった。てっきり助けに来たのかと思っていたが、

逆に自分を邪魔しないという。可笑しな少年と少女たちだと女は思った。

 

「あ、あんたは・・・!」

 

「よ、また会ったな。しかも、今度は全裸で・・・・・女同士で睦み合っていたとか?」

 

「ふざけんじゃないわよ!誇り高き竜族の私は、愚鈍で愚劣で愚昧な人類の変な女に

捕まっているのよ!?誰が仲良くなんてするわけないじゃない!」

 

「捕まっている割には威勢がいいな。流石はドラゴンってところか」

 

それじゃ、と一誠が歩を進めた。が、女は流れるような足さばきで、

一誠の前方に立ちふさがった。目で「なんだ?」と女に伝えると、

一本のメスを一誠に突き付けた。

 

「私の邪魔をしない手根拠はないから、そこから動かないでくれるかしら?」

 

「見るだけでいいだろう?用が済んだらさっさと帰るからさ」

 

「ちょっと!私を助けなさいよ!」

 

「お前を助けるのは俺じゃなくてこれからくる奴らだ。そいつらに助けを求めろ」

 

そう言うなり、エーコに近づこうと足を踏み込んだ瞬間。

 

「強引な子ね。―――闇の幻竜魔歌(ダーク・マザーズ・ララバイ)

 

女がぞっとするような口調で呟いた直後、女が身に付けている銀製のブレスレットに

嵌めこまれている黒い石、竜綺華晶が閃光を発した。同時に、床に異変が生じた。

精路に描かれた紋様が、瞬時にして浮かび上がったのだ。

 

「魔方陣?」

 

「へぇ、これが竜綺華晶の竜媒魔法(オラクル)の力?蛮人でも魔法が扱えるのね」

 

「見たこともない紋様だ」

 

「・・・・・なんですって・・・・・・」

 

闇の幻竜魔歌(ダーク・マザーズ・ララバイ)の魔法効果は眠り。

魔方陣の中にいる対象を強制的に眠らせる竜媒魔法(オラクル)だが、

一誠たちは眠るどころか足元に展開された魔方陣を興味深そうに見詰めるばかりだった。

さらに魔法の力を籠めても眠る気配がうんともすんともない。一体―――あの少年少女たちは何者?

 

「んじゃ、次はあの少女だな。その前に―――」

 

徐に足を上げて、思いっきり床を踏みつけると床一面に描かれていた魔方陣が霧散する。

 

「うそ・・・・・でしょ?」

 

余裕の表情を保っていた女だったが、明らかに動揺している。

ただ、床を踏んだだけで魔方陣が霧散したのだ。誰でも動揺となる。

 

「―――エーコッ!」

 

と、その時だった。一誠たちの背後、扉を消失した入口の向こうから―――。

 

「な、お前たち!?」

 

シルヴィアとコゼット、ラーズ。

 

「あ、変態だ」

 

「変態じゃない!」

 

先ほど女子トイレを覗きこもうとしていた少年もいた。

少年たちの登場に一誠は残念そうに溜息を吐いた。

 

「もう来てしまったか。ゆっくり観察してみたかったんだけど・・・・・帰るぞ」

 

一誠たちの足元に魔方陣が出現した。その光景に少年たちは目を丸くする。

 

「魔方陣・・・・・?竜媒魔法(オラクル)も使わず・・・・・」

 

白衣の女が信じられないと呟いた。次第に魔方陣の光が強まって一誠たちを包みこめば、

一瞬の閃光が弾いた時、一誠たちは地下室から姿を消したのだった―――。

 

―――○♢○―――

 

カッ!と虚空に一瞬の閃光が弾いた。

光が収まると一誠とオーフィス、ヴァーリとルクシャナが姿を現す。

 

「お帰りなさいませ。どちらにおいででしたか?」

 

一誠たちを出迎えるのはメイド服を身に包む銀髪の女性だった。

 

「ん、街の視察。リーラ、この世界にも色々と俺たちの世界にある同じものが

あると分かったよ」

 

「そうですか。それで一誠様。皆様からの伝言があります」

 

「あいつらが?なんだ?」

 

「要略すれば・・・・・自分達も一誠様と一緒に異世界に行きたい、と」

 

リーラから伝えられた異世界にいる一誠の家族達の言葉。伝えられた一誠は苦笑を浮かべる。

 

「毎日、皆と会っているのにな・・・・・」

 

「一誠とずっと一緒にいたがっているのよ」

 

「私たちのようにな」

 

ルクシャナとヴァーリに微笑まれる。リーラも小さく笑んで同意と頷く。

 

「はい、その通りです。一誠様。皆様のご希望を叶えられては如何でしょうか?」

 

「ん・・・・・そうだな。今すぐとは言えないけど、落ち着いたらこの世界に招こう」

 

「では、その落ち着く為に頑張りましょう」

 

「ああ、そうだな」

 

屈託無い笑顔を浮かべる一誠。それからマキャベリとヴィットーリオとが戻り、

遅れて戻ってきた龍牙と夕餉の時間にしたのだった。

 

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