「はぁ・・・・・まったく。世話の焼けるドラゴンだな」
「というか、あなた。避難しなくてもいいの?」
ラーズが尋ねてくるが一誠は首を横に振る。
「店を守らないと。あのドラゴンが攻撃してくる可能性があるからな」
「パルの無い人間がどうやって店を守るというのかしら?」
「ああ・・・・・こうやってだ」
虚空から金色の錫杖を手にした。その錫杖を地面に突き刺せば、
カッ!と神々しい光が輝きだして、ラブロック商店は光の膜に覆われた。
「これは・・・・・!?」
「これで問題ないだろう。後は―――」
ギルフォードとアーサーは灰色のドラゴンと戦いを広げている最中、
エーコは触手に寄って宙に吊るされたままの状態でいる。
「エーコを助けるだけだ」
そう言った直後、ギルフォードのパルが拳を真っ直ぐドラゴンに突き付けた。
その矛先はエーコだった。
「なっ・・・・・!」
アッシュが愕然としていると、エーコは金色の拳と直撃し、
灰色のドラゴンの腹の避け目の中にあっさりとエーコは呑みこまれた。
「エーコ―――!」
―――○♢○―――
「お目覚めかしら、
妖艶な声音で囁かれ、エーコは覚醒した。慌てて周囲を見渡す。
「ここは・・・・・?」
不思議な部屋だった。白と黒、正方形のタイルで埋め尽くされた床。四方の壁際には、
作りかけの石膏像が散在している。不安定な人体。不完全な鳥獣。城塞や神殿のミニチュアや、
エーコが見たこともない乗り物の模型もあった。起き上がったエーコの前方には、妖しい女性。
アンティーク調の椅子にゆったりと腰掛けている。モノクロームで統一された内装において、
絢爛たるドレスの真紅が異様に映えている。女の頭部には、成体のドラゴンを彷彿とさせる、
立派な角が生えていた。
「ここは遣竜工房。そして、私はナヴィー」
「ナヴィー・・・・・?」
「未熟なあなたを教え、導くための人格・・・・・とでも言えば良いのかしらね」
「意味が分からないわ。大体、その姿は何のつもり?」
ナヴィーを一目見た時から、エーコは違和感を覚えていた。その顔立ちといい、
髪の毛や肌の色といい、エーコ自身にそっくりなのだ。
もっとも、年齢的にはナヴィーのほうがずっと上だろう。
「ふふっ。この体が気になる?五年後のあなたを想定してデザインしたのよ」
「なっ・・・・・なんですって!」
「もっとも、あくまでも想定よ。この通りに成長するとは限らないけどね。特に胸とか」
屈辱のあまり、エーコは激怒した。
「はっ!大きければいいってもんじゃないでしょ!」
「確かに大きさだけじゃなくて、華たちも大事よね。
もっとも今あなたじゃ・・・・・形以前の問題かもしれないけど」
「いちいち腹の立つ女ね!踏み潰すわよ!」
「・・・・・無駄話はそこまでよ」
ナヴィーが右手をかざすと、そこに水晶球が現れ、眩いばかりの光芒を放った。
天井一面に、金色のドラゴンが灰色のドラゴンを広場に押さえつけている姿が投影される。
「そうだわ・・・・・あたし、あいつとあのドラゴンに・・・・・」
「そうね。お気の毒に。あなたは故意で
「ネクロマンシア?」
「そう、一度は死んだものの、人工的に組成処理を施されたドラゴンよ」
「くっ!でも、どうすればいいの?あたしにできることなんて・・・・なにもないわ」
エーコはしょんぼりと肩を落とした。
「ねえ、どうして聖なる竜がマエストロと呼ばれているのか、わかる?」
唐突な問いかけに、エーコはきょとんと小首を傾げた。
「アルビオンの密約が交わされる以前から、聖なる竜は
この遣竜工房はね、遥か太古、偉大なマエストロたちが構築した共有スペースなの。
ナヴィーが何を言いたいのか、エーコはようやく悟った。
「あいつに足りないモノっていうのは、
「正解。もちろん、彼に
くすりと、ナヴィーは小さく笑みを零した。天井一面に映る映像は今でも―――。
『おい、そこにエーコとかいうドラゴンがいるだろう』
「っ!?」
「・・・・・驚いた。まさか、この空間に念話を飛ばしてくることができるなんてね」
エーコとナヴィーがいる空間は外の世界と隔離されているような空間。
―――一誠が二人がいる空間へ直接、話しかけてきたのだ。エーコは目を見開き、
ナヴィーは驚くも悠然と呟いた。
『こいつの左腕に刻まれた紋様みたいなところからエーコの生命線を感じてな。もしかしたらと、思って意識だけ飛ばしてみれば、この遣竜工房とやらに辿りついたわけだ』
「へぇ、異世界から来た者がそんなことできるなんてね」
『―――よく気付いたな。俺が異世界から来た存在だと』
「どうやって知ったのか今は後回し、ところでお願いしたいのだけれどいいかしら?」
ナヴィーの問いに、一誠は答えた。
『・・・・・あまりこの世界に干渉するつもりはないからな。
冥王竜モルドレッドを見つけるまでは』
「そう・・・・・それがあなたの目的なのね」
一誠の目的を悟ったナヴィーはエーコに視線を送る。
『それで、俺に頼みたいことは何だ?』
「ええ、彼―――アッシュの手でエーコを助けてあげてほしいの。
彼女が準備を整うまで、あなたは転生者を止めてほしいの」
『転生者?』
「並行世界、パラレルワールドに住んでいた者が死に、
神の力によって別の世界に第二の人生を送らせている人間のことよ。
その時、神から様々な特典、力を得て世界に舞い降りる。ギルフォード・ギルガメッシュも
また転生者」
ナヴィーは淡々と説明する。
「他にもこの世界に大勢の転生者が生を受けているわ。善と悪の心を持つ転生者がね」
『・・・・・正直、転生者がこの世界に住んでも俺には関係ないと思うが?』
「そうね。確かにあなたにとっては無関係なこと。
でも、転生者たちに寄って不幸な目に遭っている者たちがいることも事実」
一誠からの返事は沈黙。それでもナヴィーは言い続ける。
「アッシュとエーコは特別な存在。あなたの目的はこの二人と少なからず関わっているわ。
どうかしら?あなたの目的はこの二人といれば案外早く達成できると思うのだけれど」
『・・・・・』
それからしばらく沈黙が続いた。ナヴィーも静かに一誠の返事を待った。
『―――後で、二人のことを教えろよ』
一誠が突如そう言いだした。ナヴィーはクスリと笑む。
「ええ・・・・・約束するわ。夢の中で会いましょう。イッセー・D・スカーレット」
―――○♢○―――
「おい、アッシュ・ブレイク」
「な、なんだ?」
いきなり自分の左腕を掴んで瞑目していた一誠に呼ばれ、アッシュはドギマギする。
開いた金色の瞳が向けられその視線は、自分を貫いているのではないかと思うほど鋭かった。
「エーコを助けたいか?」
「・・・・・は?」
「エーコを助けたいのか、と聞いている」
いきなり何を言い出すのかこの少年は。だが、いまの自分の気持ちはエーコを助けたいという
気持ちでいっぱいだった。ギルフォードのパル、アーサーの拳でエーコは直撃したが、
姿が見えない。左腕から感じる疼きがエーコの生存を知らせ続けている。
「ああ、勿論だ!」
「だったら、俺の背中に乗れ」
「・・・・・へ?」
背中に乗れ?それとどうエーコ救出に繋がるんだ?アッシュは頭上に疑問符を浮かべていると、
「いいから、乗れ」
「お、おう・・・・・」
獅子の如く、鋭く睨まれ思わずコクコクとアッシュは頷く。
それから、一誠の背中に負ぶさる形で両腕を首に回していると、一誠の全身が発光しだす。
「お、おい?お前、光っているけど・・・・・」
「問題ない。―――行くぞ、しっかり掴まっていろ」
一誠がアッシュを背負ったまま空に跳んだ次の瞬間、眩い閃光が弾きだした。
取り残されたシルヴィアたちはその光を眩しそうに目を細め、
見詰めていると光が止んで空にいるのは―――。
「な・・・・・んだ・・・・・と・・・・・!?」
シルヴィアだけではなく、レベッカも、ラーズも、コゼットも信じられないものを見る目で
空を見上げた。暗雲漂う空に真紅のドラゴンが突如として現れたのだった。
その背中に一誠に言われて負ぶさっていたアッシュが乗るような姿でいた。
『―――――グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』
真紅の竜が咆哮を上げる。それだけで空一面に広がっていた暗雲が一瞬で消え去った。
そして、真紅の光を残す程、物凄い速さで―――ギルフォードとアーサーに直撃した。
―――○♢○―――
「ああもう!どうして駄目なのよ!」
エーコは頭を抱えて絶叫した。
今現在、広場を襲撃しているのは
その属性は「闇」だ。ならば、アッシュに献呈すべき
もちろん「光」でなくてはならない。闇に対抗できるものは。古来より光と相場が決まっている。
正しいパーツの抽出は、至難の業といえた。
「くっ・・・・・!やっぱり、あたしには無理なの・・・・・?」
エーコは失意のあまり、がっくりと膝をついた。涙があふれた。エーコは生まれて初めて流した、
悔し涙だった。
『諦めるな!』
そのとき、エーコは誰かの声を聞いた。紛れもなく、それはアッシュの声だった。
「あいつ・・・・・なの?」
エーコはハッとして顔をあげた。アッシュは今なお、戦い続けているのだ。
『俺がお前を助ける!お前が生きているって、俺は信じてる!
だから・・・・・だから、絶対に諦めるな!』
言葉だけではない。ドラゴンと
目には見えない糸―――
心地良い温もりを覚えた。その温もりの正体を、エーコは確かに知っている。
そう、
その温もりを忘れるはずがなかった。
『だとよ、エーコ』
「っ!?」
今度は真紅のドラゴンの声が聞こえてきた。
一体、どうやって自分に話しかけているのか分かりもしない。
『お前の為にこいつは戦っている。お前は何もしないでいつまでも黙ってそこにいるつもりか?
もしそうならお前は怠け者のドラゴンだな』
嘲笑うかのような発言だった。その言葉にエーコは拳を握りしめた。
「あいつ・・・・・!」
―――許さない!
そうだ。アッシュを戦わせている原因の一つが自分であるのなら、
このまま黙っているなど、エーコのプライドが絶対に許さない。
「そうよ・・・・・絶対に、許さないんだから・・・・・!」
疲弊していた身体に、新たな魔力が充ち満ちていく。体外に溢れだした魔力が結晶化して、
キラキラと輝いた。
「これは・・・・・?」
自分の体にこれほどの魔力が秘められていたことに、エーコ自身が驚いた。
塞がれていた視野が、一気に開けた気分だった。
「見えたわ!」
自然と、笑みがこぼれ落ちた。
「
今のエーコなら、
瞬時に把握することができた。
「
アッシュの体に適合するパーツのうち、光属性を帯びたものを抽出しては、
パズルのピースを埋めていくように組み合わせていく。
「
ゼロから作品を創成りあげてきた先祖たちからすれば、それは唾棄すべき行為も知れない。
祖先に対する冒涜だとも思われても、竜族の伝統を汚す罪だと見なされても、
エーコには反論の言葉もない。
「
だが、エーコにとっては、いまここで事態を傍観していることのほうが、
よほど罪深いことなのだ。もはや、迷いはなかった。万感の思いを込めて、
最後のパーツを選別する。
「―――
その瞬間、エーコは新たな世界の扉を開いた気がした。
―――○♢○―――
「アッシュ・ブレイク・・・・・!」
ギルフォード・ギルガメッシュは奥歯を噛みしめて、
パルのアーサーを抑えつけている真紅のドラゴンの頭部に乗っているアッシュを睨みつけた。
「どうして俺の邪魔をする!俺はこの街の平和を守ろうとしているんだぞ!
それに、そのドラゴンは一体誰のパルだ!?」
「いや・・・・・俺はお前の邪魔をしようとしたわけじゃない。勝手にこいつが・・・・・」
アッシュの意思と関係なく真紅のドラゴンがアーサーを抑えている?
怪訝な面持ちでいると真紅のドラゴンの金色の目が煌めいた。―――その瞬間だった。
ギルフォードの意識が停止したのだった。アーサーも同様だ。
『ふん、これで邪魔者がいなくなったな』
アーサーを抑えつけていた手を離して
「ぐるるるるる・・・・・・っ」
明らかに警戒しているドラゴンに悠然と対峙する真紅のドラゴンは目をアッシュに向ける。
『おい、さっさとエーコを助けてやれよ』
「お前・・・・・エーコと同じ竜族だったのか?」
『俺をあいつ一緒にするな。喰い殺すぞ』
「すいませんでした!」
アッシュが真紅のドラゴンの頭部で土下座しそうな勢いで謝罪したその時だった。
『あんた!人の飼い犬になに言ってくれてんのよ!』
突如、アッシュの頭にエーコの声が響いた。
「エーコ?エーコなのか?まだ生きてるんだな!」
エーコがドラゴンの中にいて、随分と時間が経っている。
にも拘らず、エーコの声が確かに聞こえてくる。
『当たり前でしょ!無能な犬にもったいない代物だけど、受け取るのよ!』
「受け取る?なにを言っているんだ?」
次の刹那、アッシュの全身が眩いばかりの光輝に包まれた。
「これは・・・・・!」
アッシュは目を見張った。溢れんばかりの光は輪郭を表し、
ついには絢爛たる騎士甲冑と化したのだ。
『なんだ?お前も鎧を纏った?まあいい』
フッ!と真紅のドラゴンが高速移動をしたかのように
移動して、両腕を掴んだ。
『さっさとエーコを助けてこい』
「ああ、ありがとう!」
頭部から首にかけて滑るように降りて、一機に肩から腕まで駆け走った。
『甘い』
ズンッ!と鋭利な深紅の角で
針で糸を縫うように真紅の角で口が開かないようにしたのだった。
その間、アッシュは
頭部に上ろうとしていたところだった。
「よし―――!」
アッシュはようやく達成したとばかり、
佇み、角を掴んで見せた。
「行くぞ!」
足元から意識の音を伸ばしていく。アッシュが大樹なら、ドラゴンは大地だ。
それでもまだ、ドラゴンからは逡巡のような感情が伝わってきた。
アッシュはこれがトドメとばかりに、一喝した。
「たとえ神だろうと、悪魔だろうと―――」
当のように突き立つ、二本の角の狭間にて、アッシュは朗々と宣言してみせた。
「それがドラゴンである限り、乗りこなしてみせる!」
アッシュの言葉に反応し、
刹那、ドラゴンの背に異変が生じた。それまでは落ち畳まれていた翼が、
ばさりと音を立てたのだ。今、暗灰色の威容が空に舞い上がる―――。
それに続き、真紅のドラゴンも飛翔するのだった―――。
―――○♢○―――
「予想外のイレギュラーが現れてくれたものだな」
市街地を飛び立った
ミルガウスが構えている巨剣こそは
その行動基準を定める操作子に他ならなない。
問題なのは、ミルガウスですら、あんな風に
という事実だった。あの少年ときたら、もはや常軌を逸脱している。
それでも、ミルガウスは悠然と構えている。こんな場合に、怒りや焦燥を露わにしないところは、
流石といえた。そんなミルガウスの背中を眺めつつ、アーニャは額に汗を浮かべている。
冷や汗だった。
アンサリヴァン市街から遠ざけた張本人は、間違いなくあの少年だった。
「あの少年・・・・・どこかで会った気もするが」
何気ない一言に、アーニャはびくりと肩を震わせた。
そんなアーニャを青髪の少年は口の端を吊り上げていた。
「まあ、いい」
幸いにも、ミルガウスはそれ以上の追及を避けた。
「実験は失敗に終わったが、収穫はあった。あの少年と・・・・・少女・・・・・そして、
あの真紅のドラゴン」
「少女と・・・・・真紅のドラゴンですか?」
アーニャは小首を傾げた。真紅のドラゴンと少女といえば、
だが、その予想をしていたアーニャはあっさり外れた。
「
少年に
見た目こそは人間だが・・・・・竜族の末裔かもしれんな」
「まさか・・・・・!」
それ以上、会話を続けるつもりはなさそうだ。黙って巨剣をケースに収めると、
仮面越しにアーニャを見据えた。
「撤収するぞ」
アーニャはその場に跪いた。
「はい」
―――○♢○―――
乗りこなした
地上から約千メートル。アンサリヴァン市街地全体が見渡せるぐらいにまで上昇して、
空は既に朱に染まっていてる。
と―――アッシュに異変が起きた。
「顕現せよ・・・・・光の恩寵を受けし剣よ・・・・・全ての闇を祓う力を、
我に与えよ・・・・・」
アッシュの頭上に光の洪水が降り注ぐ。凄まじい魔力の奔流を感じた。
刹那、アッシュの身の丈をはるかに超える巨剣が、目の前に出現した。
「その銘は・・・・・聖剣エクス=レ=バン!」
『っ!?』
その銘を一誠は目を見張った。一誠の世界にも聖剣が存在する。
が、まさかこの世界にも聖剣の概念、または聖剣を扱える存在がいるとは思いもしなかった。
驚嘆と感嘆、二つの思いが一誠の中で湧きあがっていると。
「うおおおおお!」
エクス=レ=バンを振り上げたアッシュは跳躍して、自らも落下しつつ、
ドラゴンの頭部から腹部にかけて、光り輝く答申を一直線に振り下ろしていた。
まさしく一刀両断。刀身は白銀の光芒と化し、ドラゴンの肉を斬り、骨を断つ。
あのドラゴンの体躯が、いまでは紙のように、呆気なく引き裂かれていく。そして―――。
完膚なきまでに破壊された肉体は、ついには灰色の粒子と化して、
さらさらと風に流されていった。
「きゃっ!」
と同時に、エーコの体が宙に投げ出された。
「エーコ!」
アッシュはエーコに向けて、一直線に降下した。一誠も追う。
真紅の巨大なドラゴンの手が二人を纏めて掴み、頭部にアッシュとエーコを乗せる。
「エーコ!」
「アッシュ・・・・・!」
エーコの華奢な身体を抱きしめるアッシュ。
感動的なシーンを邪魔をするほど一誠は野暮ではない。ゆっくりと市街地に降下し、
未だに動きを停止されたギルフォードとアーサーの傍に降り立った。
『一つ言っておく』
アッシュに向かって一誠は言う。
『力がなければなにも守れない。守るものが増え続ければなおさらだ』
「・・・・・」
『大切なものができ、大切なものを守りたいならば―――強くなることだ』
それだけ言い残し、一誠は光に包まれて人間の姿となった。
アッシュとエーコは広場に難なく着地する。その時だった―――。
「なんだ?」
一誠は怪訝な目で、こっちに近づいてくるラーズたちを見ると、レベッカが開口一番に問うた。
「さっきの真紅のドラゴンは・・・・・キミだね?」
「だからなんだ?」
「率直に言おう。キミは何者だ?どうして竜になれる?もしや・・・キミは竜族なのかな?」
切れ長の双眸を警戒の色を浮かべてレベッカは問う。
「竜族・・・・・まあ、ある意味そうだろうな」
隠すこともないとばかりに意味深なことを言う一誠。
レベッカは一誠の話を聞き、疑問をぶつけた。
「キミはエーコのような存在か」
「いや、俺はエーコのような存在じゃない。具体的に言えば、犬と狼の違いだ」
「では・・・・・?」
「悪いけど、出会ったばかりの奴に詳しく説明する気はない。
そこ、どいてもらおうか?店に戻りたいんだけど」
と、一誠はそう言う。しかし、レベッカはどかない。
「悪いが、私と共に来てくれないか?個人的に色々と聞きたいことがある」
レベッカの問いに顎に手をやって考え始める。
この展開はきっとアレだろう・・・・・と、思案してしばらく経った頃に、一誠は頷いた。
「しょーもない。分かったよ」
「うむ、申し訳ないな。・・・・・ところで、ギルフォードとアーサーが全く動かないんだが
どういうことだ?」
「あっ、そう言えばあのままだったな。でも、その前に壊れた街を治すとしよう」
指を弾いたその時だった。聖ダーラム広場が一瞬の光に包まれた。そして、光が収まる頃には
―――○♢○―――
その後、
客が訪れることもなく、店はガラン空いたままの状態だった。店の扉には休業と札を掛けて、
ラブロック商店のとあるテーブルでレベッカとシルヴィア、ラーズ、コゼットから尋問を
受けることになった一誠は疑問を浮かべた。アッシュとエーコは男子寮に戻った。
レベッカの計らいによってだ。
「なあ・・・・・夜になっているんだけど、帰らなくてもいいのか?」
「それについては問題ない。キミは気にせず、私たちの質問に応えてくれ」
「俺、そこまで重要な存在か?」
「ドラゴンになれる時点でキミはすでに重要な人物だと私は思っているが?」
一誠の頭を何か探すかのように触るレベッカ。一誠の隣に座っているため、
容易く真紅の髪を触れることができているのだった。
「角がないな・・・・・竜族ならば角が生えているものだがな。
エーコのような存在ならばなおさらだ」
「だから、俺をあの半人前のドラゴンと一緒にするなって。
というか、角を出さないといけないのか?」
「逆に出せれるのかい?」
そう言われ、一誠は瞑目した。と、真紅の髪を分けながら鋭利な深紅の角が十本も生えた。
まるで王冠のように生え揃った深紅の角。
「これでいいか?」
「・・・・・十本も角が生えるとは・・・・・」
驚くレベッカたちを余所に、十本の角を隠すように仕舞った。
角が無くなったことで改めてレベッカは質問した。
「キミの名前は?」
「イッセー・D・スカーレット」
「どこの生まれだね?」
「―――異世界―――」
と、尋問に応じていれば、怪訝な顔で一誠を見たり、興味深そうに見詰められたりと
その中で一誠は答え続ける。レベッカも質問に積極的で一誠に問い続けている。
「では質問だ。キミはどうして竜になれる?」
「俺自身が人からドラゴンに転生したからだ」
「転生?どうやって転生するのだ?」
今度はシルヴィアが質問した。
「俺の場合、ドラゴンの身体の一部で再構築した人間をベースにした肉体に
俺の魂を定着したことで人型ドラゴンとなったわけだ」
「ドラゴンの身体の肉体の一部を・・・・・訳が分からんぞ。
それにそんな眉唾なこと私が信じるとでも思ったのか?」
「この世界と異世界との概念はあまりにも違うんだ。というか、
信じようが信じまいがそっちの自由だ。俺は質問されたことを応えるだけだ」
「次の質問だ」と視線でレベッカに問うた。レベッカも頷き質問する。
「その証拠を私たちに見せてくれないだろうか?」
レベッカの願いに一誠は素直に応じた。背中にドラゴンの翼、
腰辺りにはドラゴンの尾が生え出したのだった。
「これでいいか?」
「うむ、感謝する」
満足気に頷くレベッカ。これで尋問する面々は一誠が人型のドラゴンだと
認めざるを得なくなった。
先ほど生やした角、それから翼、尾を見てだ。尾と翼を戻せばラーズが問うた。
「あなたの異世界にもドラゴンがいるのかしら?」
「ああ、いるぞ。星の数とは言わないけど、それでも数多くのドラゴンが生息している」
「そのドラゴンとこの世界のドラゴンとどう違いがある?」
「まず、ドラゴンは自分の住処、領地を持っていて別の種族と共存はしない。
俺たちの世界のドラゴンは基本的、『悪』と認識されている。
事実、邪悪なドラゴンもいるわけでそう認知せざるを得ない。この世界では、ドラゴンが人間と
繋がらないと人間の体内に宿す
俺の世界はそんなものを必要とせず生きていられる」
異世界のドラゴンの一端の生態に、レベッカも含め、
この場にいる面々が驚きの色を浮かばせている。
この世界のドラゴンは、ドラゴンが生きるために必要な
得れず絶滅の危機に瀕していた。ところが、
繋がることでドラゴンは絶滅から免れた。それこそ、異世界のドラゴン同士の違い。
「それと、ドラゴンは人間の使い魔となったりする。この世界で言えばパルか?」
「それはマザー・ドラゴンが子供たちにドラゴンを与えるようなことか?」
「いや、そういうわけじゃない。使い魔とは召喚儀式に応じて召喚した者と契約を結んで晴れて
使い魔になる。まあ、召喚に応じてドラゴンが出てくる確率は低いけど、それでも俺の世界には
竜に乗った騎士の団体が存在する。竜騎士団ってやつだ」
何時しか、興味深そうに一誠を見詰める面々。その雰囲気を感じ取って一誠は言い続ける。
「だが、俺の世界のドラゴンは古から存在していて、人類の敵として暴威を振るった。
だから、英雄や勇者、様々な者たちに退治されたり封印されている」
「なんだと・・・・・」
「この世界じゃ、竜殺しは禁忌のようだな?俺たちの世界は竜殺しに対して
何の罪悪感も抱かない。ドラゴンは人間の敵として認知されているからな。
それが一番この世界と俺の世界の違いだろう」
その言葉にこの場は静まり返った。それが本当ならば確かに異世界とこの世界の一番の違いだ。
「信じがたいな・・・・・異世界とこの世界の違いを目の当たりにしても実感が湧かない」
「それもそうだろう。異世界から来た俺たちからすれば、
好奇心の宝庫で一杯だ。この世界の文明と文化はどういったものだろう?
この世界の概念はどいうものだろうか?この世界の流通の言葉、生物はどういうものだろうか?
―――色々と刺激を与えてくれる。最初に訪れたラブロック商工連合都市もそうだった」
一誠が目をキラキラと輝かせながら、そう言う。
それはまるで初めて遊園地に訪れた子供の様子だった。
レベッカは子供の様子を思わせる一誠を見てクスリと笑みを零す。
「それで、この世界に来た感想はどうだい?」
「うん、楽しいな。友達も作れたし、この世界の料理も美味しい。
異世界の人間と交流を大事にしている」
「そうか、それはなによりだ」
「ああ、友達といえばオズワルドとヴェロニカも面白い奴だったな。
ウルスラとの勝負も楽しかった。またフォーティン城に遊びに行こうかな」
「・・・・・そう言えば、ウルスラ団長と戦ったといったな?結果はどうなった?」
その問いに、一誠は徐に意地の悪い笑みを浮かべた。
「秘密だ」
「む、秘密か・・・・・まあ、普通ならウルスラ団長に負かされる方が多いが・・・・・キミの
場合、負けた雰囲気を感じさせないからな。判断しかねる」
「ははは、悩め悩め」
微笑んでいると、席に座っているシルヴィアの隣に立っていた第三者が口を開いた。
「仮に異世界から来たということは、この世界と元の世界と自由に行き来できるものでしょうか?」
シルヴィアの専属メイドのコゼットだった。コゼットはそう口にすると、一誠は頷く。
「ああ、できるぞ。俺はそういう能力、力を有しているからな」
「へぇ?じゃあ、あなたと一緒に行けば異世界に行けれるのかしら?」
「ん、行けれるぞ。ほぼ毎日俺は元の世界に戻っているし」
それには興味深そうに、怪訝に訊いていたレベッカたちは思った。
目の前の少年の異世界は一体、どんな世界なのだろうかと。
「因みにこの店に売っているものの半分は異世界のものだ」
「じゃあ・・・・・あの料理も?」
「そうだ。そういったものをラブロックにも提供してある。
それとこの国の首都フォーティンにもだ」
「父上がいるところにもか・・・・・?一体、なにを提供したのだ?」
「それは自分の父親に会いに行ったついでに見てくればいいさ。南方辺りにさ。
今頃賑やかになっているんじゃないか?」
それから壁に掛けられている時計を見て一誠は腰を上げた。
「夕飯はここで食え。今回は無料で食べさせてやるよ。
あのドラゴンの襲撃で客が来なくなったしな」
「いいのか?」
「ああ、大勢で食べる方が料理はさらに美味しく感じるしな」
朗らかに笑みを浮かべる一誠。その言葉に甘えてレベッカたちは今夜、
ラブロック商店の料理を夕食として食べ、女子寮に戻ったのであった。
―――○♢○―――
「くそ・・・・・!アッシュ・ブレイクと真紅のドラゴン・・・・・!」
ギルフォードは自室で苛立ちを露わにしてテーブルに拳を強く叩きつけた。
一誠に停止されている間、すでに全てが解決していた状況だった。
壊れていた街が何時の間にか修復していたし、レベッカからは―――。
『アッシュ・ブレイクと真紅のドラゴンがいなければ街の被害は拡大していただろう。
今回の功労者はあの男子生徒と真紅のドラゴンだ。キミはアッシュ・ブレイクのパルを
危険に陥れただけに過ぎない。今後とも行動を気をつけろ』
厳しい言葉で言われただけだった。確かに原作通りに進んでいるが、
どうもギルフォード的にはそれが癪だった。最初からドラゴンだけではなく自身も強い自分が
一番役立って周りから称賛され、いずれ、酒池肉林の光景が現実となるはず―――。
現に、この世界に転生する前に自分を間違いで死なせ、転生させた神に様々な特典を要求した。
―――最強の魔力と無尽蔵の体力に続き、不死身、最強のドラゴン、某アニメの技、精力絶倫、
女殺し、魅了―――ect
ギルフォードはナヴィーが言ったように転生者である。
自分がどんな状況でも有利なようにするため、王道的な要求をし、
この世界で第二の人生を送るため、転生したのだ。
しかし、ギルフォードはロートレアモン騎竜学院に入学したその時に思い知らされた。
―――自分と同じような境遇の人物が自分以外にもいたということを。
「この世界に生きるためには絶大的な力と権利が必要だ。まずその一つである権利は得た。
生徒会にいたはずの会計だったマックスを弾き、
俺が生徒会の会計として入会したものの・・・・・」
そこで奥歯をギリッと噛みしめた。
「どこで歪んだんだ。ちょっとずつだが、俺が知っている原作では無くなっている・・・・・。
現に存在しないはずのシルヴィアの妹、本来ならば敵対しているはずの
あのエクブラッド人までもがこの学院に存在している・・・・・」
脳裏に浮かぶ人物たちにギルフォードは片手で顔を覆う。
そんな自室で明かりも灯さずにいるギルフォードにガチャリと扉が開いて、光が照らしだした。
「よお、随分と悩んでいるじゃないか?」
「・・・・・貴族の俺の部屋に堂々と入ってくるなんてね。
処刑されたいのかい?不法侵入として」
「はっ、同じ穴の狢同士に脅されても怖くないって。
―――その容姿を見れば俺みたいな奴らだったら一瞬で気付くぜ?」
逆立てた前髪に後頭部には一本に結んだ青い髪。耳に赤いリングを付けた少年が開けた扉に
背もたれしてギルフォードに声を掛けたのだった。
「・・・・・恰好良いからってこの顔にしたのが間違いだったか」
「一種の憧れって奴だなぁ?いや、女にモテたいから恰好良いそのアニメキャラに
したんだろう?」
「そう言うお前はどうなんだ」
「俺か?俺は元々この顔だぜ?どっかの誰かさんと違ってな」
嘲笑する少年。ギルフォードは舌打ちすると、
「お前、俺と協力する気はないか?」
と、少年に提案した―――。
「嫌だね」
「・・・・・なんだと?」
一蹴され、ギルフォードは金色の眉根を寄せた。
「俺は死ぬ前にいた世界がつまらなさ過ぎてよぉ?自殺したんだ。で、そん時に変な神が現れて
全てを叶えてくれるって言うもんだから―――俺は次元を越え、
異世界から異世界へと行けれる能力を願った。ああ、不老不死の特典もな?そ
れと自分の身を最低限守れるだけの力もだ。まあ、王道的に最強の力をだけどな」
「・・・・・」
「だから、俺は傍観者としてこの世界の行方を見守っていくつもりだ。俺のパルと共にな」
青髪の少年はギルフォードの部屋から出ていった。
そして入れ替わるように女子生徒が顔を出してきた。
「あの、ギル様・・・・・先ほどの方は?」
「・・・・・いや、問題ない。さあ、おいで?今夜はたっぷりと可愛がってあげるよ」
「ああ・・・・・ギル様・・・・・」
―――○♢○―――
アンサリヴァン市が襲撃を受けてから、三日が過ぎた。
アッシュとエーコの証言を参考に街を襲撃したドラゴンには『
与えられた。市民および観光客のうち、三十名ほど怪我を負ったが、死者が出なかったのは
不幸中の幸いといえた。建物の被害は、皆無。蹂躙された聖ダーラム広場も夢だったかのような、
どこも壊れてなどいなかった。だが、屍灰竜については、今なお調査が続けられている。
―――○♢○―――
「で、一日だけこの店を貸してほしいと言ったのはこういう事だったか」
「そうだ。すまないな」
「別に、費用を出してくれたんだ。経営している俺たちにとっても文句は言わないさ」
目の前に繰り広げられる賑やかな騒々しさ。各テーブルにはラブロック商店の料理(主に肉)が
置かれていて、エーコがマナーも「マ」すら分からないぐらいの食べ方で次々と肉を胃袋の中に
送っていく。
「・・・・・多分、費用が加算するぞ」
「そうみたいだな」
一誠の言葉に思わず苦笑を浮かべるレベッカ。
飼い主であるアッシュが加算する料金をとても払えるとは思えない。
「ところで、あの少女が食べている料理の料金もそうかな?」
エーコに負けず劣らず、パクパクと食べている腰まである黒髪の小柄な少女。
黒いワンピースを身に着け、細い四肢を覗かせている。胸にペンダントを身に付けている少女に
レベッカは尋ねると、一誠も苦笑を浮かべ、否定した。
「別だ。気にするな」
「そうか、それなら安心した。しかし、あの少女は誰なのだ?」
「名前はオーフィス。ああ見えてドラゴンだ」
「ドラゴン・・・・・人の姿をしたドラゴンがいるのだな」
興味深そうに呟く。ますます一誠の世界が興味を持った瞬間だった。
一誠の視線に食べていたオーフィスは気付き、トコトコと近づいてくると、一誠の肩に乗り出す。
「こんな感じで俺に懐いてくる。可愛いもんだよ」
「ふふっ、まるで親子のようだな」
微笑ましく一誠とオーフィスを見詰める。と、そんな三人にラーズが近づいてきた。
「イッセー」
「初めて呼ばれた気がするな。・・・・・そう言えば、お前って名前はなんだっけ?」
「・・・・・そう言えば名乗っていなかったわね。いいわ、自己紹介をしましょう」
祝いなので王族のシルヴィアとラーズはドレスを身に包んでいた。
ドレスのふんわりとしたスカートの端を摘まんで優雅にお辞儀をした。
「私はロートレアモン騎士国第五王女、ラーズグリーズ・ロートレアモン。
以御お見知りおきを。短くラーズと呼んでもいいわ」
「俺も改めて名乗ろう。イッセー・D・スカーレットだ。以御お見知りおきを」
握手しようと差し出した手をラーズは応じて、一誠の手を掴んで握手を交わす。
―――そのまま、自分の方へと引き寄せた。
「質問にいいかしら?あなたの素性を知っている、というか、
あなたがドラゴンになれることをヴェロニカお姉様やウルスラは知っているのかしら?」
「いや、俺のことは俺の家族でしか知らない。
ああ、数日前に俺と一緒にいた少女たちのことな?」
「そう・・・・・お姉さまたちは知らないのね」
そこでラーズはニヤリと笑みを浮かべ出した。
「ねえ、あなた私の執事にならない?」
「は?」
一誠の呆けた返事は、虚しくもラーズの耳に届かず、
あろうことか一誠の腕に抱きついたのだった。
「変わった平民だと思っていたけど、あなた・・・かなり気に入ったわ。
ええ、ただの殿方では飽きるのも仕方がないわね。
あなたという個の存在こそ私に相応しいヒトだわ」
身長差でラーズは一誠より小さいので、必然的に一誠を見上げる形となり、
上目使いで見られる。シルヴィアの輝く金髪と対照的に幻想的な銀髪に赤い瞳。
その綺麗な銀髪に思わず撫でたいと衝動が湧きあがってしまい、
一誠は手をラーズの髪を梳かすように撫で始めた。
「ちょ、ちょっと・・・・・?」
「あっ、悪い。撫でたくなった」
「・・・・・」
撫でていた頭を離すと、照れているのかラーズの頬に朱が散っていた。
「・・・・・私の髪を撫でるなんて、変なヒト。普通、王族の王女の髪を撫でる?」
避難する目で一誠を見据える。その視線を感じ取り、苦笑を浮かた一誠は言った。
「悪いな。でも、ラーズの髪、月光の光を浴びたら幻想的で綺麗だろうなと思うぞ」
「―――――っ」
深い意味はなく、ただただ一誠は感想を述べた。だが、ラーズにとって『強欲の王女』と
呼ばれて以来、回りを蔑み、相手からものを奪っていたため、学院では一部を覗いてラーズと
接しようと誰もしなかった。だからシルヴィアとコゼットとしか交流がないラーズは、
初めて異性に「綺麗だ」と言われ―――顔全体がリンゴのように赤く染まったのだった。
「おや・・・・・あの王女が顔を赤くしているではないか」
「っ!?」
見れば、レベッカが愉快そうに小さく笑っていた。
「安心した、王女も―――『女』としての意識があったようだ」
「その発言・・・・・まるで私は恋なんて興味のない女だと聞こえます。失礼ではないですか?」
「ふふっ、失敬」
謝罪するも、未だに笑み続けるレベッカだった。そこでラーズは仕返しとばかり言い返した。
「そう言えば、ギルフォードと親しげに話しておるところを見掛けますが、
生徒会長はギルフォードのことが好きですか?」
「いや、別に好きではないぞ」
一蹴された。それには小首を傾げるラーズ。
「何故ですか?」
「何故、と言われてもな・・・・・。ただ話しているだけであって、
ギルフォードは恋愛対象ではないのだよ。ギルフォードも私に告白する素振りもしないからな」
「・・・・・明らかに狙っているようにも見受けれますが」
「ふっ、このレベッカ・ランドール。恋よりも今の学園生活を満喫したいのだよ。
恋は卒業してからだな」
威風堂々と宣言したレベッカ。感心したように「へぇ」と一誠は呟く。
「じゃあ、レベッカの好みのタイプはどんなんだ?」
「む?好みか・・・・・考えたことがないから分からないな」
そう言って苦笑を浮かべるレベッカは「それはそうと」と一誠に向かって言う。
「アッシュもそうだが、イッセー。アンサリヴァン市を守ってくれてありがとう」
レベッカからの感謝の言葉が贈られた。一誠は照れたことを隠すよう、ぶっきらぼうに言う。
「別に、俺たちの店までも壊されたら堪ったもんじゃなかったし。
ある意味ついでのようなもんだ」
「そのついででキミの一端を知れた。そして、アンサリヴァン市はキミの手で直った。
私はロートレアモン騎竜学院の生徒会長としてキミにお礼をしたい。受け取ってくれ」
徐に一誠へ寄って、艶やかな唇が、一誠の頬に押し付けられた。じっとりとした熱と、
甘い匂いを感じた。
「・・・・・さっき言った事と、今した事、矛盾していますが?」
「おや、嫉妬ですかな?ラーズ王女殿下」
「・・・・・」
ラーズの発言に真正面から受けた上でレベッカはラーズを見据えて告げたら、
ぷい、と顔を横に逸らして、ちらりと一誠を視界に入れた時だった。
「我もする」
今まで肩に乗っていたオーフィスがするすると降りて、一誠の頬に唇を押し付けていた。
しかも、レベッカが一誠の頬に唇を押し付けていたところだった。
まるで自分のものだと自己主張するかのように。
オーフィスはレベッカとラーズに顔を向け口を開いた。
「イッセーは我の。だから、渡さない」
レベッカとラーズは顔を見合わせ、苦笑を浮かべ出す。
自分たちは一誠を狙う恋敵だと印象付いたらしい。
「異世界のドラゴンも嫉妬するのだな。これは興味深い」
「・・・・・そうですね」