一誠の竜騎士物語   作:ダーク・シリウス

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Episode9

早朝。一誠は起き上がれなかった。同時に溜息を吐いて横に視線を向けた。一誠の横に寝転がって

瞑目し、寝息を立てている二人の女性がいた。聖竜騎士団団長、ウルスラ・L・セルウィンと

ロートレアモン騎士国第一王女ヴェロニカ・ロートレアモンだ。ラブロック商店のとある一室、

厳密に言えば一誠の部屋で二人は寝ていた。さらに正確に言えば―――。ガイアとオーフィス、

ルクシャナとヴァーリ、マキャベリ、リーラとヴィットーリアまでもが一誠の周囲で寝ていた。

その上、金色の翼の上で寝ているため、健やかに寝ている女性陣を見てもう少しだけ

そっとしておこうと気持ちが湧きあがった。

 

―――○♢○―――

 

「一国の王女の寝顔を見続けていたとは、お前はよほど怖いもの知らずなのだな」

 

「だったら、シルヴァヌスに戻って寝てればいいじゃないかよ」

 

「ウルスラに不純なことをさせないために監視をしているのだ」

 

「ウルスラ、俺ってそんな最低な男に見える?」

 

「いえ、きっとヴェロニカ様がイッセーと寝たい口実―――」

 

和気藹々とラブロック商店のホールのテーブルで朝食をしていると、寝顔を見られて不機嫌になる

ヴェロニカ。ウルスラがそう言うとヴェロニカから鋭い目つきでウルスラを黙らせる。

 

「ところでイッセー、こんなにのんびりとしていいのか?」

 

「ん?どういうことだ?」

 

「店を開かなくていいのかと聞いているのだ」

 

「ああ、そういうこと?今日は休みなんだ。そう言えば、皆は予定とかある?」

 

ラブロック商店メンバーに聞く一誠に応じる面々、

 

「私とヴァーリ、龍牙はこの街の探検をするわ。今日は学校の敷地内よ」

 

「我とオーフィスは次元の狭間に泳ぎに行く」

 

「ヴィットーリアとマキャベリ様に異世界へ連れていく約束がございます」

 

既に予定は決まっていた。

 

「ルクシャナ、学院の生徒に見つからないように。リーラ、二人を楽しませてくれよ」

 

一誠の言葉に頷くルクシャナとリーラ。ヴェロニカに顔を向け、

 

「まあ、俺はフリーの状態だ。俺もブラリと街を歩くさ。ヴェロニカは慰問だったな?」

 

「その通りだ。街を出歩くのであれば、どこかで出会うかもな」

 

「シルヴィアとラーズも慰問に同行させるのか?」

 

「いや、妹たちは同行をさせるつもりはない」

 

その言葉に不思議に首を捻った。てっきり王族としての務めを共にするのかと思ったからだ。

 

「それとだ。街を歩くならついでにこいつを見つけてはくれないか」

 

どこからともなくテーブルに資料を出してきた。紙面一杯に、犯罪者の人相書きが記されている。

それはいわゆる「手配書」だった。賞金額は、なんと百万エルク。

賞金首の額としては、破格もいいところだ。

 

「こいつは?」

 

「我々の情報網でな。私の首を狙う賊がこの街に潜入したとの情報が入った。

見つけても見つからなくても、

私の滞在中に探してくれ」

 

―――○♢○―――

 

「て、言われたわけなんだが・・・・・どうすればいい?」

 

「人の部屋に訪れてきたかと思えば・・・・・」

 

「どうでもいいんじゃないかしら?お姉様が人の手で死ぬなんて、全然思えないけれど」

 

騎竜学院の女子寮の最上階の一室にて、一誠はシルヴィアとラーズと会っていた。

 

「それより、よく私たちがここにいると分かったわね。教えた覚えがないのだけれど」

 

「二人の気を探知して分かったんだ」

 

「気?」

 

不思議そうに小首を傾げるラーズ。一誠は説明する。

 

「人の生命のエネルギーだと思ってくれ。俺はその気を感じることができて遠くにいる対象を

探すことができるんだ」

 

「へぇ、便利そうね。私もできるのかしら?」

 

「修行しないと習得できないぞ」

 

「修行すれば習得ができるというわけか。・・・・・でだ」

 

「ん?」とシルヴィアに首を傾げた。

 

「お前は王族の部屋に上がり込んで良く平気でいられるな」

 

「王族の前にこの学院の学生だろう?それにお前らとは友達じゃないか」

 

「何時の間に私たちはお前と友達になったのだ?」

 

「え?」

 

シルヴィアの発言で唖然と信じられないとそんな態度をする一誠。

 

「友達じゃないのか?俺、色々と自分のことを話したと思うんだけど。

家族しか知らないことを主に」

 

「む・・・・・」

 

言われれば、確かに接しないと絶対に知らないことを一誠から知ってきた。

異世界から来た人間でありドラゴン。ドラゴンと融合して鎧を纏ったり、

人語を離すドラゴンと出会えた。

 

「あーそっか、一方的な感覚で接していたんだな。悪い」

 

そう言う割にずーんと暗かった。すると、周囲から視線を感じた。

シルヴィアはその視線に振り向けば、

ラーズとコゼットが言いたげにシルヴィアに視線を向けていた。

それにはタジタジになるシルヴィア。

 

「な、なんだ、お前たち」

 

「姫様。その発言は如何かと存じますわ」

 

「お姉様。この街を救った影の英雄にいくらなんでもそれは・・・・・」

 

うっ・・・・とちょっと罪悪感を覚えた。

 

「それにヴェロニカお姉様から聞いたのだけれど、

あの親バカはイッセーと友人だって知ったわよ?だったら、ヴェロニカお姉様とも友達だし、

私たちもイッセーと友達じゃないとおかしいのではないかしら?」

 

「そ、それはそうだが・・・・・なんというかだな」

 

「はい?」

 

気恥ずかしくなったのか、顔に朱を散らして一誠を一瞥した。

 

「め、面と向かって友達になりたいなど、恥ずかしくて言えるわけ無いじゃないか」

 

「「「・・・・・」」」

 

一誠とラーズ、コゼットが徐に顔を合わせた。すると、一誠は指を弾いた瞬間。

光に包まれて、見る見るうちに縮み、光が消失すると―――子供の姿の一誠が姿を現した。

 

「あら」

 

「え?」

 

「な」

 

三者三様。一誠以外の三人が驚きの声を漏らし、トコトコとシルヴィアに近づく一誠を見つめる。

 

「―――お姉ちゃん、友達になろう?」

 

シルヴィアの顔を覗き込むように見上げ、

金色の瞳を潤わせて学院の制服の袖をちょっとだけ摘まんで懇願する一誠。

 

「―――――っ!?」

 

シルヴィアがドラゴンに体当たりされたかのような衝撃が心から感じた。

次の瞬間。腕が勝手に動き、一誠を胸に引き寄せて抱きしめた。自分の意志とは無関係でだ。

 

「・・・・・ふふふふふっ」

 

ラーズが不気味な笑みを漏らした。身体から黒い何かが見えるのは幻覚だと思いたい。

 

「あらあら、イッセー様は面白いことをできるのですね・・・・・」

 

猛禽類のような目をするコゼット。

 

「お姉ちゃん、友達になろう?」

 

「あ、ああ・・・・・・うん、そうだな・・・・・。

わ、私でよければ・・・・・・そ、その・・・・・友達にならないわけでもないぞ」

 

「わーい!ありがとう、お姉ちゃん!」

 

百パーセント邪な気持ちがない笑顔が炸裂した。シルヴィアは不思議と胸が高鳴る。

 

「(私に弟がいれば・・・・・こんな感じなのだろうか)」

 

幸福感が湧きだして、今度は自分の意志で一誠を抱きしめた時。

 

「お姉様」

 

ラーズが動きだした。

 

「私もイッセーを抱きしめたいわ。いいかしら?」

 

「・・・・・分かった」

 

どこか残念そうに一誠をラーズに渡した。そして、ラーズはギュッと一誠を抱きしめたのだ。

 

「ああ・・・・・こんな可愛い弟なら大歓迎だわ。ねえ、イッセー。

私のこと、ラーズお姉ちゃんって呼んでくれないかしら?」

 

「ラーズお姉ちゃん!」

 

「・・・・・ダメ、何か目覚めそうだわ。―――コゼット、お願いがあるのだけれど」

 

ラーズはコゼットに耳打ちをした。コゼットは満面の笑みを浮かべ、頷いて姿を暗ました。

 

「・・・・・何を言ったんだ?」

 

「ダメよイッセー。逃げちゃね?」

 

「俺が逃げるようなことを何かするつもりなのか・・・・・!?」

 

危機感を感じ、ラーズの腕から抜け出そうとする一誠だが、完全にラーズの腕に捕まれて

身動きが取れていない。寧ろ、

 

「こら、暴れちゃダメよ。お姉様、ちょっと手伝ってくださいな」

 

「なにをするつもりなのだ・・・・・」

 

怪訝な面持ながらもラーズに近づいた。

すると、ラーズはシルヴィアを素早く押し倒して一誠を―――シルヴィアの胸に押し付けたのだ。

あろうことかラーズも自身の胸を一誠に押し付けてサンドイッチのように挟んだ。

 

「―――――っ!?」

 

「ラ、ラーズ!?―――んあっ!」

 

「ん・・・・・イッセー。暴れちゃダメ・・・・・」

 

豊満な肉体に挟まれる形で、一誠はさらに暴れるも次第に身動きをしなくなった。

シルヴィアは身動きしなくなった一誠に不思議と思ってラーズに問う。

 

「・・・・・おい、ラーズ」

 

「なにかしら?」

 

「イッセーがぐったりしているようなんだが・・・・・」

 

「・・・・・」

 

シルヴィアと一誠から離れ、一誠の様子を確認すると―――。

 

「ぷはっ!?」

 

酸素が欲しいと全身で息をしだした一誠。顔に冷や汗を大量に浮かべて酸素を肺に送っていると、

 

「あ、あぶねぇ・・・・・花畑と川が見えて死んだ両親が『まだこっちに来るな!』って、

蹴り飛ばされたぞ・・・・・」

 

「死ぬ直前だったのか!?」

 

愕然とシルヴィアは思わずそう言う。

 

「二度目の死が二人の肉体なんて笑えない冗談じゃないぞ・・・・・」

 

「え?一度死んだの?あなた・・・・・」

 

「ああ、まあな・・・・・。さて・・・・・」

 

一誠がパチンと指を弾いた。すると、今度はシルヴィアとラーズまでもが光に包まれて

子供になった。逆に元の身長に戻った一誠が二人を見下ろしていた。

 

「んなっ!?」

 

「わ、私たちまで子供に・・・・・?」

 

驚愕するシルヴィアとラーズを意地の悪い笑みを浮かべる一誠だった。

その時、一誠は視線ととある方へ向けるとコゼットが両手に大量の紙袋を持っていた。

 

「お帰り、コゼット」

 

「イッセー様・・・・・これはどういうことです?姫様方が子供になっておりますが」

 

「俺の力だ。元に戻せるから安心してくれ。その証拠に元の身長に戻った俺がそうだ」

 

「・・・・・」

 

マジマジとシルヴィアとラーズを見つめる。とても懐かしいものを見る目でだ。

 

「ふふっ、可愛いですわ。姫様」

 

「お、おい。コゼット・・・・・」

 

「うーん。ラーズの子供のころはこんな感じだったんだな」

 

「あなた、後で覚えていなさい・・・・・」

 

一誠とコゼットはシルヴィアとラーズを抱きかかえた。

 

「ところで、コゼット。その紙袋の中身はなんだ?」

 

「はい、女の子の服です。イッセー様に着せてみようと姫様の提案です」

 

「・・・・・ほう?」

 

目を細め、ラーズを見つめる。当のラーズは一誠の視線から逃げるように顔を逸らした。

 

「なら、その服を二人に着せてみるか。そんで、写真を撮ろう。オズワルドに送ってな」

 

「「なっ!?」」

 

「ふふっ、面白いですわね。このコゼットもお手伝いしますわ」

 

「「ちょっと待て!?」」

 

腕の中で暴れ出す。だが、一誠とコゼットの腕力には敵わず―――。

二人は着せ替え人形の如く、色んな服を着せられ続けたのであった。

 

―――○♢○―――

 

「ひ、酷い目に遭ったわ・・・・・」

 

「全くだ・・・・・」

 

「いやー、楽しかったw」

 

「「くっ・・・・・!」」

 

恨めしいと隣に歩いている一誠を睨んだ。アンサリヴァン市の市街地で三人は出歩いている。

暇ならば、一緒に街に行かないか?と一誠の誘いに、シルヴィアとラーズは取り敢えず頷き、

一誠と同行をしているわけで、特に理由もなく歩を進めている。

 

「二人が良く言っている場所とかあるか?」

 

「特にはないが・・・・・ラーズ、お前はどうだ?」

 

「私も外には必要があるかぎり出ようとはしないわ」

 

と、あまり好む場所はないと告げられこれからどうしようかと悩む。

 

「・・・・・そういえば」

 

シルヴィアとラーズを視界に入れる。

 

「俺はお前たちのことを知らないな」

 

「なに?」

 

「だって、いっつも俺の話しや俺の家族のことを聞いてお前たちは自分のことを話さないだろう?

だから、どんな食べ物が好きなのか、どんな趣味が好きなのか、どんなことが好きなのか、

そう言うのを俺は知らないぞ」

 

「あら、私たちのことを知りたいの?それはどんな理由で?」

 

意味深に問い、一誠を探るような言い方をするラーズに、一誠は平然と言った。

 

「理由なんて、必要か?これからも接するであろう友人のことを知りたいと思うのは

いけないのか?」

 

「・・・・・」

 

「というか、身内以外にお前らは友達はいるのか?」

 

―――グサッ!

 

心に渾身の一撃が突き刺さったような気がするシルヴィアとラーズ。

思わず口を噤んで沈黙してしまったことで一誠は、

「友達、いないんだな・・・・・」可哀想な子を見る目で憐れ、同情の眼差しを送った。

 

「改めて言われると、なんだかねぇ・・・・・」

 

「騎竜学院に入学して以来、私は一人も友などいなかったなぁ・・・・・」

 

「俺はこの世界じゃあんまりいないけど、異世界じゃ百人以上友達がいるぞ。―――えっへん!」

 

「「むかつくっ!」」

 

「だからだよ」

 

一誠は微笑んだ。

 

「友達として、お前らのことを知りたいんだよ。それでもダメなら何も聞かないさ。

これからお前らと接して知っていけばいいだけだしな」

 

友達として。シルヴィアとラーズは不思議と悪くない響きだった。

相手は店を構える平民にも拘らず、兄のように、友達みたいに接してくる。

シルヴィアはこの関係が何とも言えない心地好さを感じる。

ラーズが一誠を狙っていることはシルヴィアは知っているし、シルヴィア自身も一誠のことを

無視できない。身長が高い一誠を窺うようにチラリと眼だけ動かす。腰まで伸びた真紅の髪、

金色の双眸。無駄な筋肉がない逞しい腕。着ている服もセンスが良い。

きっと侍女が選んだものだろうと内心そう思っていると一誠がシルヴィアに訊ねてきた。

 

「あの教会は?」

 

清楚な大きな教会の眼前で停まった一誠。シルヴィアは一目でその昔訪れたことがある教会だと、

思い出しながら教会の名を口から漏らした。

 

「ああ、聖ヴァレリア教会という」

 

「聖ヴァレリア・・・・・この世界にも教会があるんだな」

 

「お前の世界にも教会があるのか?」

 

その問いに一誠は当然だとばかり頷く。

 

「中、入れるのか?」

 

「誰でも入れるが・・・・・覗いてみたいのか?」

 

「この世界の文化を俺は知りたいんだ」

 

「知的好奇心はいいが、あまり騒ぐなよ?」

 

まるで子供のように窘めると、一誠は頷き二人を引き連れて中に入った。

―――聖ヴァレリアとは、聖ロサ・マリアに仕えた十二使徒の一人である。

ロサ・マリア教の聖典では、慈悲深気女性として描かれている一方で、法の番人としての側面も

持ち合わせていたそうだ。教会には多くの参拝客が訪れていた。が、その大半は観光客のようだ。

教会の祭壇には、聖女ヴァレリアの聖像が置かれている。

 

「ふぅーん・・・・・構造は変わらないようだな」

 

「異世界の建物と変わらない造りか。それはそうと、イッセーの世界の神話はどうなんだ?」

 

「神話か・・・・・言っても信じてくれるかどうか、微妙なんだよなぁ・・・・・」

 

「取り敢えず、教えてくれない?それから判断するわ」

 

そう言われ、一誠は徐に口を開いた。

 

「この世界と同じ神や天使のことについての話は存在する。

だけど、それ以上に俺の異世界では神や天使が実在しているんだ」

 

「「・・・・・」」

 

シルヴィアとラーズは沈黙する。その顔の表情は訝しんでいた。一誠は溜息を吐く。

 

「言っただろう。信じてくれるかどうか、微妙だって」

 

「いや、信じる信じないの前に神や天使が実在しているなんて・・・・・」

 

「実感しないのだけれど」

 

「当たり前だ。この世界の人間が異世界のことを教えても実感するわけがないだろう」

 

奥の祭壇へと足を運ぶ。祭壇には、ロサ・マリア教のシンボルともいえる

翼十字(ウイング・クロス)が飾られている。その十字架を一誠は興味深そうに凝視した。

 

「どうだ?この世界の一部の教会は」

 

「何とも言えない、の一言だな。異世界と大して変わらないしこれといって珍しくはない」

 

「まあ、私の場合は興味ないわ。祈ったところで、なにが変わるの?って感じが強いし、

なにより・・・・・」

 

ラーズは握り拳を作った。

 

「祈る暇があるなら前に生きて進むべきだわ。

こんなこと、心が拠り所を欲するあまりに縋りついているようで虫唾が走るわ」

 

「現実的なことを言うんだな」

 

「そういうイッセーは、神に祈ったことがあるのかしら?」

 

一誠は鼻で笑った。

 

「お前と同意見だ。祈ったところで変わるなら、俺は宗教でも教会にでも属しているさ。

聖女だの神だの、大昔に実在していただろうが、今は神話と化となって現代の人間が

祈ったところで何かが起こり、変化をもたらしてくれるとは思いもしない。

奇跡は自分の力で作り起こすものだと俺は思っている。運も実力のうちだと言うしな」

 

「・・・・・っ」

 

ゾクリとラーズは震えた。こうもここまで神の存在を肯定しても、ハッキリと否定した。

神に対する、聖女に対する暴言を堂々と言う一誠に心から歓喜した。

やはり、イッセーは他の男とは違う。そう、存在そのもの、根源が違う・・・・・!

と、何時しかラーズは小さく声を殺しながら笑い始めた。

 

「ふふふふふ・・・・・っ。あなた・・・・・やはり、いいわ・・・・・ますます気に入ったわ」

 

「そりゃどうも」

 

この二人、危ういな・・・・・と、思わずにはいられなかったシルヴィアであった。

 

「さて、出るとしようかな」

 

「もういいのか?」

 

「ああ、もう十分だ」

 

踵返して、一誠は教会から出ようとした矢先だった。

教会の入り口から騎竜学院の制服を身に包む少年二人が入ってきた。

その内の一人を三人が見た途端に嫌そうな顔を浮かべた。

 

「これはこれは・・・・・教会で王女殿下たちと偶然にも出会ってしまったとは。

これはもしかして運命かな?」

 

「お前、なにキザっているんだよ?元々知っていたくせに」

 

「俺の後を堂々と付いてきたお前だってそうだろう」

 

「当然だ。これから起こるイベントを俺は見たいんだからな!」

 

長い金髪に赤い双眸の少年と前髪を逆立て、長い青髪を一本に束ねた少年。

一誠は金髪の少年、ギルフォード・ギルガメッシュに目を細くして問うた。

 

「邪魔だ」

 

「開口一番に、貴族の俺に邪魔と言うか・・・・・」

 

「くはははっ!ハッキリというやつだな。俺はそう言う奴が一番好きだわ!」

 

青髪の少年が笑う。

 

「でも、悪いな。これから起こることがどーしてもシルヴィアが必要なんだよな」

 

「私が必要だと・・・・・?それにこれから起こるというのは一体どういうことなのだ」

 

「えーと・・・・・何て言えば良いんだろうな。―――ああ、もう起こったぞ」

 

意味深なことを発言する青髪の少年。次の瞬間、

 

―――ドオオオオオオオンッ!

 

遥か頭上から、凄まじい爆発音が轟いた。衝撃で足場が揺れ、天井からは砂塵や小石が降り注ぐ。

どうやら、階上で爆発が起きたらしい。

 

「きゃああああああああああっ!」

 

シルヴィアは恐怖のあまり、ほとんど無意識に一誠を抱き締めていた。

ラーズも声を出さないが一誠の腕に抱きつく形で痛いくらいに抱き締めてきた。

 

「あれ?」

 

今頃、何かがおかしいと青髪の少年は首を捻った。ギルフォードも思い当たることがあるのか、

怪訝な面持ちとなっている。そんな二人を余所に、他の参拝客も次々と怯えた声を漏らし、

厳かな雰囲気に包まれていた教会は、立った一度の爆発で阿鼻叫喚の巷と化した。

そこに君臨するかのように、どこからともなく、巨大な影が現れた。

 

「あいつは―――?」

 

シルヴィアは目を見張った。漆黒の髪に、爛々と禍々しい光を帯びた双眸。

露出度の高い民族衣装から覗くのは、褐色に近い肌。

 

「その昔、聖女ヴァレリアは告げた―――」

 

「おおっ!」

 

女は妙に芝居が掛かった口調で切り出した。青髪の少年は嬉しそうに声を上げた。

 

「『罪を憎んで人を憎まず』とな。愚かなり!弱き心こそが、諸悪の根源なのじゃ。

ありとあらゆる罪人にしを!」

 

女は握っていた鞭を、ぴしり!と鳴らした。

 

「妾は『断罪のアヴドーチャ』じゃ!」

 

一誠とシルヴィアは呆気に取られた。シルヴィアはその名前には、聞き覚えがあったし、一誠は

今朝に手配書をもらったばっかりで手配書に書かれた人相書きとは、

似ても似つかない容姿なのだ。それでも、女は悠然とした顔で、参拝客を見下ろしている。

見下ろすことができている。なぜなら、女はバジリスクに騎乗しているからだ。

バジリスクの特有の、ぎょろりとした瞳に睨まれて、

 

「ひっ・・・・・!」

 

シルヴィアは思わず震え上がった。

恐怖のあまり、もはや一誠から離れることさえできないでいる。

―――バジリスク。見た目はトカゲに近いが、その大きさはトカゲなど比較にならない。

地竜(アーシア)の眷属ともいわれるが、竜族のような知性は微塵も感じられなかった。

そんな獣を飼いならすのみならず、牙のように乗りこなすなど、正気の沙汰とは思えない。

それこそ、目の前の女が『断罪のアヴドーチャ』でもない限りは―――。

 

「え?あの幼女・・・・・全然、似てないけど?」

 

「はぁ・・・・・はぁ・・・・・俺の女神が目の前に・・・・・・!

今すぐ猫耳を付けたい・・・・・!」

 

「お前・・・・・ロリコンだったとはな」

 

三者三様。緊張感がなさ過ぎだった。

 

「まあ・・・・・本人がそう言うんなら、さっさと終わらせるか」

 

徐に一誠は両手をポケットの中に突っ込んだ時、バジリスクが勝手に吹っ飛んだ。

 

「「・・・・・は?」」

 

ギルフォードと青髪の少年は呆けた。一体何が起きたんだ?とばかりに、

 

「よくもアヴドーチャ様を!」

 

何時の間にかアヴドーチャの部下であろう屈強な男たちが一誠にめがけて機銃や弩、

剣を向けていた。

 

「・・・・・」

 

刹那。屈強な男たちを中心にして吹雪が吹きあがった。吹雪が止めば、

男たちは氷の中に閉じ込められているではないか。

 

「残りは―――」

 

金色の双眸をバジリスクと断罪のアヴドーチャに向けた。

丁度、体勢を立て直していたところで、男たちの氷漬けを見た途端に絶句していた。

 

「お前らだな」

 

―――次の瞬間。晴天にも拘わらず、聖ヴァレリア教会に激しく轟く極太の雷が落ちたのを

アンサリヴァンに住む民たちのが目撃したのであった。後に、『大罪のアヴドーチャ』と名乗った

偽の賊に天罰が下ったと街中に知らされ話が堪えなかった。

 

―――○♢○―――

 

「・・・・・」

 

シルヴィアは現在、一誠に負ぶされている。賊の登場と捕縛されるまで緊張と恐怖でいたため、

一誠が一蹴して解決した途端に腰が抜けて立ち上がることはできないでいたからだ。

なので、一誠がシルヴィアを負ぶさってラブロック商店へとラーズと共に歩いていた。

 

「イッセー、あなたって本当に凄いわね。私、興奮しちゃったわ。

吹雪が吹いたり雷が落ちてきたんですもの」

 

「そうでもないさ。俺はまだまだ弱い」

 

「ふふっ、謙遜しちゃって」

 

妹のラーズが何時もより積極的に一誠に話しかけている。

対してシルヴィアは一誠の背中から感じる温もりをずっと感じていた。

 

「(温かい・・・・・大きくて何故か安心する・・・・・)」

 

懐かしさも感じた。そう十年前、『兄』の背中に負ぶさったあの時と似ている。

 

「ん・・・・・?」

 

一誠が不思議そうな声を漏らした。

その理由は、肩に掴んでいたシルヴィアの手が徐に動いて一誠の首へと

回したのだった。尻目で見れば、瞑目して小さな寝息を立てていたシルヴィアが視界に映る。

 

―――○♢○―――

 

予定では、今日はヴェロニカがアンサリヴァンを発つ日である。今日もヴェロニカとウルスラ、

グレンが定休日=王族貸し切り状態のラブロック商店の扉を開け放って入ってきたかと思えば、

とんでもない珍客も入ってきた。

 

「は・・・・・?『断罪のアヴドーチャ』?」

 

「お、お主は!?」

 

一誠を見た途端にガクガクブルブルと身体を震わせるアヴドーチャ。

あの一件以来、一誠のことを恐れてしまった様子だ。

ヴェロニカに視線で「どういうことだ?」と問い詰めた。

 

「全ては私の策略だ」

 

「・・・・・」

 

その一言で、呆然となる一誠。

 

「策略って・・・・・どうしてまたそんなことを?」

 

「それはだな・・・・・」

 

ヴェロニカは事の顛末を全て告げた。大雑把で言えば、シルヴィアはどれほどまで逞

しくなったのか、茶番で知ろうとアヴドーチャを仕向けたのであった。

しかし、そこで大誤算の結果で終わった。

 

「だが、お前があっという間に終わらせてしまった。

―――シルヴィアのことを知ることもできなかったではないか!」

 

「いきなり逆切れか!?

つーか、お前が見つけても見つからなくても探せって言ったじゃないか!」

 

「私はそれだけ言って何も捕まえろとは言っておらん!

それに、お前は強過ぎるではないか!その力を我が国のために使え!」

 

「断わる!」

 

それから子供のようにギャーギャーと口喧嘩をし出す一誠とヴェロニカ。

 

「なに・・・・・この状況」

 

「姉上・・・・・」

 

新たに店の中に入ってきたシルヴィアとラーズ。

さらにはレベッカまでの登場に一誠とヴェロニカは言い合いを辞めた。

 

「で、どうして俺たちが教会に入ることを知ったんだ?」

 

「それは偶然としか言えない。アヴドーチャにはあの教会で下準備をしてもらっていたからな。

そこにお前たちが見掛けたと報告があって即座に実行してもらった」

 

「もう一つ。どうして自分の首を狙う賊を傍に居させているんだ?」

 

ヴェロニカはアヴドーチャに視線を送った。

その視線に促されたのか、不承不承ながらも、自己紹介を始めた。

 

「知ってるかどうか知らんが、

妾は永らく反政府組織で活動しておったわけじゃが・・・・・五年前、ヴェロニカ暗殺任務に

失敗した。その際、こやつの軍門に下ったのじゃ。

今ではヴェロニカが創設した外人部隊の隊長として働いておる。

妾としては、屈辱の極みじゃが・・・・・」

 

「じゃあ、どうしてヴェロニカに従っているんだ?」

 

一誠の素朴な疑問に、アヴドーチャは答えた。

 

「妹を探しておるのじゃ」

 

「妹?」

 

「うむ。生きておったら、今年で十五になるはずじゃ。如何せん、

あの子が四歳のときに離れ離れになってしまったのでな。どのような娘に成長しているのかは、

想像するしかないのじゃが―――」

 

しんみりとした場を容赦なく破ったのは、他でもない一誠だった。

 

「お前に似ているんじゃないのか?」

 

「なに・・・・・?」

 

「想像するしかないんだろう?だったら、お前に似て逞しく生きているんじゃないのか?

妹は姉のお前のことを覚えているかどうか分からないけどさ」

 

「・・・・・」

 

キョトンとしてアヴドーチャは一誠を見詰める。

 

「俺もさ。小さい頃、離れ離れになった従姉や幼馴染がいたんだ。

どんな風に成長をしていたのか、俺も想像するしかなかったんだ」

 

アヴドーチャに近づき視線と視線が合うよう一誠は跪き、励ましの言葉を送った。

 

「でも、離れ離れになった従姉や幼馴染と再会を果たせた。いつかきっと再会する時がくる。

そう思ってこれからも生きればいいさ。

俺に言われなくてもお前は信じて生きていくだろうけどさ」

 

「お主・・・・・」

 

苦笑を浮かべる一誠にポツリとアヴドーチャは漏らした。

まさか、励まされるとは微塵にも思わなかった。

その上、似た環境の中を生きていたことも驚いた。

 

「アヴドーチャの妹は良い姉で幸せだな。生死不明なのに未だ思ってくれているんだからさ」

 

アヴドーチャの漆黒の髪を撫で始め出す一誠。

 

「俺もそれとなく探してみる。アヴドーチャの容姿を比較してな。

もしかしたらアヴドーチャの顔と似ている妹かもしれないし」

 

と、協力すると一誠は告げた。離れ離れになっているなら、きっと生きている。

だから、目の前の姉と行方知らずの妹を再開させて幸せにしてやりたいという

気持ちが一杯になったのだ。

 

「・・・・・のう」

 

アヴドーチャが訊ねた。「なんだ?」と一誠が返せば。

 

「お主の名はなんじゃ?」

 

「イッセー・D・スカーレットだ。これでも俺、人型のドラゴンなんだ」

 

「そして、私のパルでもある」

 

ヴェロニカが横やりを入れてきた。当然、一誠は否定する。

 

「ちょっと待とうか。俺がいつ、お前のパルとなった?」

 

「私が決めたのだ。お前は私のパルだ。当然のことだろう?」

 

「ジャイアニズムより性質が悪いなぁおい!?って、いきなり俺の襟を掴んでどうする気だ?」

 

「さて、フォーティン城に行こうか。まずはお前の晴れ舞台を用意し、

それから私のパルと宣言するぞ」

 

一誠の襟を素早く掴んでヴェロニカがこの場から離れようとした時、

 

「ちょっと待ちなさいよ!」

 

「イッセーは渡さないぞ」

 

「一誠様を返してください」

 

「はは、一国の王女に気に入られるとは流石ですね」

 

「ヴィットーリオ、イッセーを取り返して来い」

 

「かしこまりました」

 

どこからともなく現れたラブロック商店メンバーが一誠の奪還と動き出した。

 

「・・・・・考えによっては、これはこれで有りかしら?

イッセーがお姉様のパルとしているならば、学院を中退して私も城に戻ってイッセーの傍に―――」

 

「ラーズ、そのような考えを捨てろ!」

 

「ふふっ、イッセーのことになると賑やかになるぐらい騒がしくなったな。

・・・・・王女殿下に一つ、お願いしてみるか」

 

「会長・・・・・何か途轍もないことを考えていませんか?」

 

皆が皆、ワイワイと騒がしく動き出す。

 

「ウルスラ、グレン!私の邪魔をする者を全て排除せよ!」

 

「御意」

 

「承知いたしました」

 

グレンとウルスラが聖騎甲(アーク)を纏った状態でヴェロニカの命に従う。

ウルスラに至っては一誠がフォーティン城にいるということは接する時間が増えるということで、

一誠をもっと知るこの機を逃さないと瞳にやる気の炎が燃えた。

 

「・・・・・俺の意志を無視するなって・・・・・」

 

はぁ・・・・・と溜息を零す一誠であった。

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