ナナホシ帰還物語   作:羅美

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帰還

私はこれまで稀有な人生を歩んできた。その発端は間違いなく、あの交通事故と言えるだろう。

私はこの出来事を私の胸の中にしまうため、いつか誰かに読んでもらうためにこれを書くことにした。

 

ーーーナナホシ視点ーーー

賽は投げられた。

凄まじい閃光が色を変えていく。青。緑。白。その真ん中に立ちながら私、ナナホシは祈った。現在行われているのは異世界人である私を異世界に帰らせるために組まれた魔法陣に魔力を注ぎ込むことだ。

魔法陣に魔力を注ぎ込んでいるのは『甲龍王』ペルギウス・ドーラと『泥沼』のルーデウス。どちらも私が知る中でトップレベルの技術や魔力を持っている。

直後、黒色の光が現れる。どす黒い光は私を飲み込んだ。視界が塞がり始める。

 

「ペルギウス様! 指示を!」

「もっと魔力をよこせ――!」

 

ルーデウスは全力で魔力を注ぐ。いつも余裕そうなペルギウスの顔にも珍しく必死の色が浮かび上がっていた。繰り返すが二人の技術と魔力は異常だ。特にルーデウス。あの量の魔力量はもしかしたらこの世界の理論値にも近いんじゃないか、と思ったこともあるくらいだ。

頭の中にまで侵食してきそうな黒の闇は更に私を包み込む。直後、膨大なエネルギーに体が張り裂けそうになる。もう全く魔力を注いでいる二人の姿は見えない。

 

「どうだっ!?」

「これは……青い―――」

 

その二人の声を最後に……私は街の喧騒にいた。正確に言うと、街の喧騒が遠く聞こえる路地裏に来ていた。なぜこんな所に? なんて野暮なことは聞くまい。つまり、つまりだ。

私は帰ってこられたのだ。あの剣と魔法の異世界とかいう訳の分からない世界から、この地球に。

 

「やった! やったあ!私……帰ってきたんだ……!」

 

喜びのあまり涙まで流れてきた。長く待ち望んだ『異世界』に到着したのだ。ここまで長かった……まず転移された私はワケもわからずそのままオルステッドの配下となり……と振り返りをする暇まではないか。

まずはココがどこか確認しないといけない。もしかして別の文明世界だったりしないだろうね。

 

恐る恐るに路地裏を歩く。時間は昼だ。道がだんだん広くなっていく。すれ違う人はいない。しかし、何かを話している声はあちらこちらで聞こえる。そして大通りに出た。その光景は見覚えは無いものの。

 

「よし……!」

 

私は再び感動に打たれる。世界中から都合よく日本に転移する可能性なんて天文学的確率だった。だからそれはいい。日本に転移しなかったのは別に想定内だ。

それより、現実に戻ってこられたとして太平洋上の島々やロシアの奥地なんかに転移してしまう方がよほど絶望的だった。もちろん、土の中に飛んだ訳でもない。

大通りに数多くかけられた看板たちは全て『英語』だったのだ。しかもあちらこちらに高いビルが建っている大都市。これなら容易に言語が通じる人を見つけて、何とか帰れる。

私はこういう所は強運なのかもしれないな。そう考えるとなんだか笑みがこぼれてきた。

ルーデウスたちも魔大陸から中央大陸への踏破を転移事件後から僅か3年で達成したと聞く。それに比べれば地球の異国の地で、日本人もどこかにいるだろう土地から交通機関を使って帰るなど容易い事だ。すぐに日本に帰ってやる。

 

そんなふうに考えると、話しかけられた。

 

「どうしました? 大丈夫ですか?」

「えっ!?」

 

一人の男が話しかけてくる。背が高めの20代くらい。思わず驚いて声を上げてしまい、恥ずかしさから目が泳ぐ。それと同時に、(ルーデウス以外の)日本語の通じる人間が現れたことに対して再び言葉で表せられない感動を得た。しかし、上手く言葉が出ない。

なにか話そうと思っても、「あ……」とか「え……」とかしか出てこない。喋るべきことはシミュレーションしてきたはずだ。

 

「こ、ここってどこですか!?」

「え? ……あそこを見てくれれば……『アメリカ連邦議会議事堂』。ワシントンDCですよ」

「え……あっ……ありがとうございます!!」

「別にいいですよ。もう大丈夫ですか?」

「は、はい……」

 

そう言えば日本のニュースで何度も目にした白い建物が目の前に建っていた。現実で見るとえらく立派に見える。もう最後に見たのが十何年も前だから忘れてしまっていた。

あと……あの男の人、私をかなり奇異な目で見ていたな。仕方ないんだけどさあ。

何はともあれ、ここはアメリカか。しかも首都のワシントンときた。やはり私は運がいいのか。背中に詰めたリュックの中には1週間分の食料と水と、防寒具、仮説を記したノート、いくらかの金に換金できそうな魔石の中でも宝石のようなもの。それに、ルーデウスから預かった手紙ふたつ。

やはりここは、さっさとドルを手に入れてバスか何かで日本大使館まで行くのが正解なのだろうか。英語なんて全く覚えてないし、恐らくそうするしか方法はないだろう。

うーん……あ、今何年の何月かを聞くのを忘れていた。話すことにばかり意識がいってしまったのはよくなかったな。現在地の次に聞くべきことだったのに。

 

視界の端に写っていた売店屋に売っている新聞を見る。中央上部分に書かれていた文字は『Friday, April 3, 2015』。

 

「いや。落ち着け……想定内だったはずよ……2015年……」

 

私がトラック轢かれた日付。一生忘れない、2012年11月22日。Apriってのが何月を指すのかは記憶が曖昧だが……あれから最低二年は経っている。二年。二年か。私のような学生にとって二年という月日は放り出すに長すぎる年月だ。売店の前から離れ、今度は悲しさから私は泣き始めた。

いや、十五年経ってなかっただけマシと思うべき。それは分かっているが、別問題なのだ。

 

しばらくの間歩道の端の方で泣き続け、涙が出なくなった頃には少し冷静に考えられるようになった。涙は悩みやストレスも流すというのは本当かもしれない。

 

私の今の状態は……もちろんパスポートに持っておらず、普通に考えれば私はアメリカに不法入国した不届き者だ。日本大使館に行って、話のわかる人は……いるか? いや『異世界転移して戻ってきたので日本に入れてください』と言って信じる人はいないだろう。いたら解雇した方がいい。

しかし……私は肉体ごと異世界転移している。異世界転移した時に血も出ていなかったはずだ。ということは、事故の現場は『三人の被害者のうち二人の血痕と身元が不明』というかなり特殊な事故になっているはずだ。ネットでも使えばどうにか出来るかもしれない。

ああ、さっきの人に日本大使館の場所も聞いておくべきだったか。

まだ日は高い。周りには多くの背の高い外国人が人混みを作っている。そこの間を抜けていくように、私は再び日本人を探した。

 

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