ロキシーと話した後、ナナホシたちと合流した。そう言えば虎はナナホシの方に行っていた。
『恐らくルーデウスが前世のことを話した』という連絡をナナホシがした時点で、もう嘘をつく意味も無くなったからだ。
墓参りを行くには子供たちへの説明も必要だと言うことで、ララとリリにも前世のことを話した。リアクションは思ったより薄かったが。
リリ曰く「龍神の配下と七大列強末席に比べれば前世の記憶くらいはあってもおかしくない」らしい。まあ、そう……なのか……?
兄さんに墓参りに行くことを説明して、複雑そうな顔の兄さんの車で墓に向かうことにした。
どっちにしたって泊まる宛ては兄さんか、虎の父親の弁護士さんしか居なかったから前世の俺の実家に泊まることにもなった。数十年ぶりの帰宅というわけだ。
兄さんの車だけではキャパが足りないのでタクシーも呼んでもらう。金の面は本当に頼りっぱなしだ。何らかの形のお返しはしないとな。
兄さんの車に乗るメンバーは兄さん、俺、虎、シルフィ、リリ。タクシーの方にナナホシ、ロキシー、エリス、ララとなる。
「今から行くのはルディの……前住んでた家なんだよね? どんな感じなのかな」
「木造の、どこにもあるような家だよ」
『……ルーデウス。飛行機で飯食べたんだろ? 晩飯まで持ちそうか?』
「何て?」
「お腹すいてないかってさ」
「大丈夫だよ、あのご飯美味しかったし」
『別に大丈夫だってさ』
「……OK。じゃあこのまま行くぞ」
とまあこんな具合に俺が実質的な通訳を果たしながら楽しい楽しいドライブの時間は過ぎていった。
リリなんかは車窓からの景色がどんどん変わっていくところが目新しく、面白いらしい。食い入るように窓の外を見詰めていた。
「あ。そう言えば酔ったりしてないか?」
「え? 別にしてないよ。馬に比べたら振動が静かすぎるくらいだし」
「あー……まあそれもそうか」
……俺は少し頭がふらついてきてちょっと気持ち悪いんだけど。こっそりと解毒魔術の詠唱をしてみたが治る気配がない。そう言えばこの魔術って乗り物酔いは治せないんだっけ? ヤバい、ちょっと頭回らなくなってきた。
もちろん車は馬に比べれば振動が少ないが、独特の揺れがある。元地球人の脳を揺さぶって気持ち悪くするには十分だ。
しかしリリの手前というのもあり、適当に話の受け答えをしながら時間を稼ぐ。頼む。早く着いてくれ。
『もうすぐ着くぞ』
兄さんの声をボヤい頭がキャッチし、車が停止する。
「よし、OKOK。速攻荷物置いて墓参り行こうか。最近は運動不足とかも健康課題になってるしここは1つ、楽しくウォーキングでもしながら……」
「パパ何言ってるの?」
視線を上げるとグレーの石が立ち並ぶ……墓地に来ていた。俺の空元気をリリが不思議そうに見ている。
横には真っ先にタクシーから飛び出したエリスの赤い髪が太陽に反射してか、際立っている。
「いや、何でもない。よし……行こうか」
「お墓の形ってこの世界でも同じ感じなんだね」
リリと一緒に車からでてきたシルフィが立ち並ぶ墓石を見ながら呟く。確かに向こうの世界でも墓が形作られた石だということは変わらない。
「こっちの世界にも色んな墓や埋葬の仕方があるけどね。向こうの世界もだけど。
まあほぼ同じ構造の生物を埋葬するための方法なんだから、似てくるのかも」
「何だか、墓地の雰囲気も似てる気がする」
そう言われると、そんな気もする。墓石の形が似てるからな。
そんな向こうの世界にもあるような風景と、こっちの世界特有のマンションやビルの風景が混ざりあって。その光景を見ているといつの間にか頭のフラフラはどこかへ流れていき、代わりに電流が流れてくるような感覚に襲われる。これまで何回も感じてきたものだ。
エリスやルイジェルドと魔大陸を旅をしていた時、冒険者をやっていた時、迷宮でヒュドラを倒した時……これまで何度も何度も。……そうだ。"死"を見た時の感覚だ。
「ルディ、行きましょう」
ロキシーが俺の肩をポンと叩く。表情には緊張が含まれている。彼女も何か感じているのだろうか。
「分かりました」
墓の前に立つ前に、いや。墓地に一歩入る前に。両親の死を突きつけられた気がした。
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ゆっくりと歩く兄さんの後を着いていく。二人ほど、墓参りに来たのであろう老人とすれ違ったが何かあるわけでもなく、やがてその足は止まり視線が1つの墓に向けられた。綺麗な花が一つ供えられている質素な墓だ。
刻まれている俺の前世の苗字と、側面にある両親の名前でそこに彼らが眠っていることを示している。静かだった場が一層緊張に包まれる。
俺と、兄さんと。それにナナホシと虎の表情で察した皆の唾を飲む音が聞こえるようだ。
兄さんが手際良く水を墓に流し、どこから持ってきたのか線香を立てる。前世で墓参りなんてした記憶すらほぼない俺はそれをただじっと見ていた。
そして、 一連の流れが終わったのか兄さんが改めて墓の方に座り、俺の方へ目配せをしてきた。
俺は兄さんの隣に座り手を合わせ、目を閉じる。
両親との思い出は中学の時から止まっている。こう見えても小学生の時は順風満帆な人生を送っていたと思うし、それは中学でもだいたい同じだった。テストで良い点を取ると母親は褒めてくれたし、誕生日には父親からプレゼントを貰った。自作PCを作った時は兄弟含め家族からチヤホヤされたものだ。
その辺から、成功体験に足踏みして前へ進まなくなった。進もうとしなくなった。
高校入学時に随分と成績が下がったのでそこで一悶着あったが、まあどの家庭にもあるようなもので気にも留めてなかった。
そして、高校の時のあの事件。DQNと無駄に関わったから起きた事故でもあった。
そこに投げかけられる両親や兄からの励ましを無責任だと感じた俺は、自分を立ち直らせようとする言動全てを無視し、挙げ句の果てに鬱陶しいと逆ギレし、自分の世界へ引きこもった。
その時点で自分は社会のレールから外れたのだろう、という気は薄々してた。ただ一つの考えを残して。
それは『成功体験』だ。俺は出来た。中学の時、自作でPCまで作れたじゃないか。人生は長い。今から何かやっていればそれこそ、成人するまでには大成出来るだろう。そんなことを薄ぼんやりと思っていた。
ある時はサイトを作ろうとしてみた。小難しいIT用語が書いててサーバーだのなんだの、理解できなくてやめた。ちょっと俺の専門とは違うからな。
フィギュア塗装をやろうとした。自分の思うような作品が作れず、それでも多少は頑張ったが結局やめた。
もう俺には何も出来ないと思い、ただアニメとゲームとネットに耽る日々を送った。
初めのうちは『負けるなよ』とか『大丈夫だからな』とか言ってきた両親も俺に何も言わなくなった。もう既に社会のレールからは脱落してるんだ。親からも見放され、ここから人生一発逆転。金持ちになって……とか考えてたが、一発どころか何をやっても不発で嫌気が差した。
そんなことをしてると成人もとっくに通り越して。本当にたまに見る両親の顔も老けていっていて。
自分だけが取り残されていって。その気持ちを娯楽で埋めて。でもやってる事はただの穀潰しで。
今思うと両親には随分と無理をさせたと思う。自分が親の立場になって、偉く言えたものではないが『子供を持つ親の気持ち』というのが分かってきて。シルフィやロキシー、エリスたちは戦闘経験もあるが子供というのは全員が強いわけでも、魔術が使える訳でもない。
大きな力の前には握りつぶされるしかないひ弱な存在。それはどんな穀潰しニートでも同じだったと思う。
もし、二人が生きていたらルーデウスを見てどんな言葉をかけるだろう……いやそれは分からないな。でもきっと、喜んでくれるだろう。
でも俺が両親にかける言葉は決まってる。絶対に『俺みたいな奴を育ててくれてありがとう』だ。最終的に両親は俺を追い出すことはなかった。そこに親の愛があったのか、兄の口添えがあったのか……。尤も、両親の選択に感謝を感じたのは既に異世界に行ってからだったが。
目を開けると皆既に立ち上がっていた。視線を何度か交わし、伸びをして。
今度は兄さんが俺の肩をポンと叩いた。
『よし。帰ろう』
その言葉に頷いて俺も応える。
「さあ、俺の実家に行きましょうか」