そこからはあっという間に流れて行った。
途中、高山さんが虎を連れ帰るために研究室に乗り込んできたことはあったがそういうことを抜きにすれば実験は着々と進んでいった。
結論から言えば虎の言う仮説は概ね正しかった。ただ、一つ間違っていたのは魔力は自然発生的にそこにあるのではなく持続的に何かから生成されるものだと言うところだ。だから何だと思うかもしれないが、これは大きな問題となった。
私たちは魔力は空気中にある物質によって空気の流れが調整されて出来る概念だと思っていた。しかし実際のところは、『魔力』という力が存在するという至極単純なものだったのだ。そう、至極単純だから厄介だった。
つまり、この世界では魔力の供給を望めないということだ。それが判明したのは10枚のスクロールのうち7枚を消費した頃だった。
『もう無理よ! そもそもこっちの世界に帰ってこれた事自体が奇跡だった! 私はもう諦めるしかないの!』
『無茶を言うな。ここまでの研究もお前が見つけてきただろ、方法は必ず見つかる!』
『たった3枚! 魔法そのものの構造すらまともにわかってないって言うのに何ができるの!?』
『魔法陣なら静香の得意分野だろ、そこからヒントを見つけるんだ』
『嫌よ! もうやりたくない!』
荒れに荒れた大喧嘩の末に虎に押し切られる形で私は研究を続けた。
スクロールは魔法陣が刻まれており魔力が内包されている。魔法陣は基礎のものだったのですぐに読み解くことが出来た。
魔力については気体であるのでは、と推察していたがやはりその本質を掴めずにいた。
実験がうまく行かずにもどかしい気持ちが消えたのは突然だった。何か細かい見落としは無いのか、と顕微鏡でスクロールを見ていた時に停電が起こった。
『停電だ!』という同じ研究室の人の声が聞こえて顕微鏡から目を話そうとした時。スクロールが僅かに、ほんの僅かに光っていることに気づいた。
『虎……ちょっと来て……』
『ん? 俺前見えないんだけど』
『いいから来なさい! ほら、これ見て』
顕微鏡を虎に覗かせ彼が驚愕している姿を見て私は確信した。魔力の正体は微力な光の一種だった。色は白く、通常では肉眼では全く認識できないし、部屋に灯りがあっても分からない。そのレベルのものだ。
あとから考えてみれば、確かに魔石によって増幅された発動直前の魔力は光っていた。考察の余地はあったはずなのにその可能性を消していたのは自分自身だったと恥じた。
そこからは虎と実験を繰り返し現実世界にもある光の増幅装置を使い魔力を増やすことが出来た。そこに至るまで3年の月日が費やされた。
次に取り掛かったのが初級魔法の再現。これにそれほどの時間は掛からなかった。
私が初級魔法くらいの魔法陣だったら直ぐに書けたからだ。この実験の肝は『誰にもクレームを入れられない場所の確保』だったくらいだ。
魔法は異世界で見たものと遜色変わらない姿で私たちの前に現れてくれた。この時に虎が腰を抜かしたのは面白かったな。
そして魔法の発動が確認されたあとはひたすら魔力の増幅と転移魔法の研究に時間を割いた。あの研究も大元は私が考えたものだから大体の構造は理解している。だが、どうも上手く書けなかった。原因は3年も経って私の脳が膨大な魔法陣を忘れてしまったことだった。苦悩の末、1年かけて私は魔法陣を書き終えた。
先行研究も上手くいった。まずはこちらのものを向こうに送る実験。ペットボトルを送ってみるとペットボトルは転移された。
向こうのものをこちらに送る実験では対象をモノに設定して行い、向こうの世界にのみ自生している果実を召喚。転移は上手くいっていると確信した私は異世界に戻ることを決意した。
そのデータを全てパソコンにデータとして入力して持っていく。保存食の確保。前回の反省だ。
前回の転移でも魔石や服は一緒に転移できたから、今回も行けるはずだ。
「なんで虎が着いてくるのよ」
「俺も異世界を見てみたいし、静香が心配だ」
「そんな心配されるような歳でも無いの。危険が無いわけじゃないんだし……」
私が説得しようとしても引き下がらない。とうとう私は観念して虎連れていくことにした。
「そ……それじゃ、行きますよ?」
『よろしくお願いします』
流石にセルフで転移装置を動かすことは出来ないので、事情を研究室で唯一知っているルーデウスの兄の友人に手伝ってもらった。
彼も半信半疑と言ったところらしいが、私の熱心な姿勢を見て『本当かもしれない』と思い始めたらしい。
転移のやり方をまとめた紙のとおりに進められていく。私たちは既に転移装置の中におり、魔法陣さえ発動出来れば転移ができる。
「現在、『魔力』が魔法陣の中に吸い込まれてます! 」
すると、光が現れる。あの時と同じだ。青、緑、白、そして黒。
真っ暗な視界に包まれた後に光を感じて目を開ける。
「マジかよ……」
「やった!」
私たちはまた戻ってきた。