「ナツキ」
「なにー?」
「どうして真冬の空の下。しかもクリスマスイブの日にわたしたちはガンダムベースに並んでるのさ」
さすがに一言二言は言ってやりたかった。
わたし、ナカノ・ハルと隣で寒そうにコートとマフラーを身に着けている彼女、シライシ・ナツキは午前9時にガンダムベースの行列の中にいた。
その理由はたった1つ。クリスマスと言えば、そう。限定ガンプラである。
「フリーダムのクリスマス仕様のガンプラだよ?! これはSEEDファンとしては買うしかないでしょ!」
「あー、はいはい。分かりました」
聞いたわたしがバカだった。この女は筋金入りのSEEDオタクだったことを思いだす。
そりゃマニア必見のガンカメラなんてものを去年のクリスマスのプレゼントとして、渡すわけがない。まぁ助かってはいるんだけどさ。
手袋をしても中身まで突き刺す冷気。しばれる、という方言のとおり、体の芯まで冷えてしまいそうになる寒気に思わず身を震わせる。
ハッキリ言って今日は機嫌が悪かった。何せ学校でもないのに朝早く起こされたのだから。
わたしは休日の朝は寝ていたい派の人間なのにだ。
そりゃあクリスマスという特別な日にナツキと一緒にいられるのは嬉しいよ。そばにいて嬉しい相手は一にナツキ、二にお母さんぐらいには順位付けされているし。
でもそれとこれとは別だ。寒い日に外で待たされる身にもなってほしい。機嫌が悪くなるのは当然のことだろう。
「寒い?」
「当然」
「じゃあくっつく?」
「……人前だよ?」
「じゃあ手だけでも」
「じゃあ、まぁ……」
相変わらず流される体質は変わらない。けれどいつまでも拗ねているようじゃ、大人にはなれない。
コートから取り出したナツキの手が手袋越しに繋がれる。ナツキ、手袋持ってないのかな。
「えい」
と思えばナツキに手を引っ張られ、ポケットの中に手を突っ込まされた。
「な、何するのさ!」
「暖かいかなって」
「ナツキ、そういうとこホント変わんないよね」
「ハルのこと好きですから」
むふん、と胸を張る彼女に少しイラっとくる。同時にかわいげもあるなとも感じるわけでして。
確かにポケットの中で手と手をくっつけるのは非常に暖かい。でも弄ばれているようでもある。謎のプライドがわたしの中で浮かび上がる。だから、わたしからもちょっとした反撃をしてやることにした。
「ナツキ、こっち向いて」
「ん?」
振り向いた先。完全に気を抜いていた彼女に対して、片手でナツキの身体を抱き寄せた。
コートとダウンジャケットが邪魔だけど、形としてはわたしがナツキを抱きしめたことになる。
「ハ、ハル?!」
「……仕返し」
「い、いやいやいや! ここ行列の最中って、ハルも言ってたよね?!」
「なんかイラっときたから」
「あぁもう、ホントにハルはかわいいなぁ」
キスは流石にしないけれど、冷たい頬をこすりつけて暖を取る。
柔らかい。マフラーがちょっと邪魔だけど、ナツキの体温が伝わってくる。愛おしい。胸がぎゅっとなる。満たされる気持ちばかりが、溢れて止まらない。
「……キスしたい」
「ハルから言うなんて、珍し」
「うるさい」
「でもダメだよ」
「公衆の面前だから?」
「ううん」
名残惜しそうにそっと頬を離した彼女は指をさす。
その先は行列が動き出したことを示す空白だった。
「もう入場だから」
「……そうでございましたね」
不服だ。開店時間ごときにわたしとナツキの邪魔をさせられるなんて。
手を繋いだままなのは変わりない。けれどなんというか、ガンプラに負けた気分だ。
「帰ったら、する?」
「ナツキっ!」
「あはは、ごめんごめん!」
子供をあやす親みたいなことを言うもんだから、反抗してやった。後悔はしていない。
でも身体は正直なようで、ぎゅっとナツキの手を包み込むように握った手はわたしの意図をそのまま伝えてしまう。
「じゃあ、帰ったらしよ!」
「…………とびっきり甘いので」
「りょーかい」
あー、ホント。わたしも欲望には抗えないらしい。
今からナツキの唇の味を想像しながら、ガンダムベースの中へと消えていくのだった。
スキあらばイチャつく