「雪文字ってさぁ、なんであんなに読みづらいんだろうね」
「待って、雪文字ってなに」
え、ナツキさんともあろう陽キャがご存じないのですか?!
そう煽ったら、軽く小突かれた。痛い。
「雪文字、知らないの?」
「知らないよ。初耳」
「ナツキって地元民?」
「そうだけどもぉ?!」
ナツキ地元民じゃない説を唱えようと思ったけど、2年前からずっといるらしいみたいなことを言っていたし、きっと地元生まれの地元育ちなんだと思う。
とはいえ、あのナツキともあろう陽キャがご存じないとは思わなかった。
ナツキならやったことあるだろう。というか地元民なら絶対に。
「雪に文字書かない? 指で」
路上の真っ白な雪の山に指を突っ込んで、試しに「し」と書いてみた。何故「し」なのかは分からない。
「あー、それのことか」
「やっぱやったことあんじゃん」
「アレに正式名称あるんだーって思って」
「わたしも初めて言った」
「じゃあ私だって初耳だよ!」
くすりと笑った彼女はかわいらしい。やっぱり綺麗どころのべっぴんさんだ。平然とわたしの情緒を撃ち抜いてくる。
ぽーっと胸の奥で光った灯りに従ってボーっとしていると、何やらナツキは「し」の手前に2つの文字を書いた模様だ。
……読めない。
「ホントだ、全然読めないや」
「なんて書いたの?」
「知りたい~?」
こういう時のナツキはちょっと面倒くさい。
マフラーの奥で口元が歪んで、目元もにやけている。かわいいんだけど、気持ち悪い。
あと、この時のナツキは大抵わたしを弄って遊んでいるので、それはそれで気に入らないのだ。だから必死で読むことにした。
2文字目は、これ「い」かな。「り」にも見えるけれど、多分「い」。
じゃあ1文字目は……「あ」?
「あい」
「し」
「…………」
この女はバカなんだろうか。
陽キャだから頭ハッピーガールだったわ。そんな彼女と仲良くしているわたしもハッピーガールなんだと思うけど。
付け足すように「し」のあとに「て」と「る」を加えてみた。読めない。
「なんて書いたの?」
「あいしてる」
「ごほっ!」
何故むせたし。
「ハ、ハル。たまにこういうことするから侮れないわー」
「いや、ナツキが『あいし』まで書いたんだったら、わたしは『てる』を書くしかないかなって」
「や、そういうんじゃなくってさぁ……」
「どういうことさ」
ナツキが照れる理由が本気で分からない。
だって『あいしてる』んなら愛してるって書くし。
ため息しているナツキさんはなんだか儚げだ。かわいらしい。
「まぁいいや。というか、本当に読みづらい……」
「でしょ? なんて書いてるか分かんないや」
雪文字はその場のノリで書いてるから雪がへこんでいる場所をよくよく見なければ、文字だとは思わない。
なんだか文字っぽいな、って疑問に思うぐらいだ。
「なんか、秘密の暗号っぽいね」
「雪降ったら消えるけど」
「それがいいんじゃん」
さっきからずっと繋いでいた手にぎゅっと力が籠められる。
あぁ、そういう。ナツキも大概ロマンチストだよね。
「まぁ、分かるけど」
「でしょ?!」
わたしも大概、ね。