『突如過去の世界にタイムスリップした新人トレーナー。そこで出会った悲劇のウマ娘サイレンススズカに惹かれ、彼女の運命を変えるべく奔走する。その結果、スズカは怪我をすることなく秋天を制し、栄光の三冠ウマ娘となる。皆が喜ぶ中、歴史を変えた代償としてトレーナーは……』という真・恋姫無双のエンディングの一つをウマ娘風に改変したオマージュ作品です。

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夜空に浮かぶ月を背に『彼方の面影』をBGMにして読むとより一層お楽しみいただけます。


真・ウマ姫†無双~スズカルートED~

俺とスズカはパーティー会場を抜け出し、月明かりに照らされる練習場まで来ていた。

 

スズカ

「きれいな月ですね」

 

背を向けたままスズカがそう呟く。

 

トレーナー

「そうだな……俺、こんなに大きな月初めて見たかも」

 

青い光は、俺がこの世界に来て初めて見た月よりもはるかに強く大きく見えていた。

それはきっと、あの時よりも俺の心が落ち着いて……周りを見渡せる余裕が出来た証なんだろう。

 

スズカ

「そうですね……走っている間はこんなに落ち着いて月を見たことなんてなかった気がします」

 

トレーナー

「スズカの場合、前しか見てないもんな」

 

スズカ

「だって私、ウマ娘ですし。でもたまには月を眺めたりしてましたよ」

 

トレーナー

「そうかな? スズカはどんな時も前しか見てないように見えたけど」

 

スズカ

「それはトレーナーさんの目が節穴だったんじゃないですか?」

 

からかうようなスズカの声に苦笑いを浮かべる。

 

トレーナー

「……まぁ、否定はしないよ」

 

スズカ

「ふふっ、そこはちゃんと否定してください。俺の見る目は確かだったって」

 

トレーナー

「三冠ウマ娘をちゃんと見定めてトレーナーになることが出来たって?」

 

スズカ

「それはトレーナーさんだけじゃなくて、私の手柄でもありますよね。トレーナーさんが私のトレーナーになったのは、私が一番初めに出会ったからですもの」

 

トレーナー

「ははっ、そりゃそうか……スズカには感謝してもしきれないよ」

 

スズカ

「ならいっぱい感謝して、これからもいっぱい色んなことを教えて下さい」

 

トレーナー

「そう、だなぁ……」

 

スズカ

「…………」

 

トレーナー

「…………」

 

そんな話をしていると、俺の体から淡い光が漏れ出す。

 

スズカ

「……帰ってしまうんですか?」

 

何かを感じ取ったのか、背を向けたままのスズカからそんな言葉が漏れる。

 

トレーナー

「さあな……自分でも分かんないよ。だけど……この間から考えてはいたかな」

 

スズカ

「歴史の変わり目と、体調のことですか?」

 

トレーナー

「ああ。今考えるとさ……テイオーやマックイーンの時もライスの時も、あの秋天の時だって……」

 

スズカ

「フクキタルに言われていましたよね。大局には逆らうな、逆らえば身の破滅……って」

 

トレーナー

「やっぱりあれ、スズカのことじゃなかったんだな」

 

スズカ

「オペラオーさんでもないですし、そこまで大言を吐く気はありませんよ。そしてその言葉に従うなら、大局……トレーナーさんの知る歴史から外れきった時、トレーナーさんは……」

 

トレーナー

「……なるほど。そういうことか」

 

俺の知っている歴史では、サイレンススズカは天皇賞秋を勝つことはできない。

そしてスズカは、その時の怪我で……

 

スズカ

「でも、私は後悔していません。私は私の見たい景色を求め……走るべき道を走っただけです。誰に恥じることも、悔いることもしません」

 

トレーナー

「ああ、それでいい」

 

スズカ

「トレーナーさんは? 後悔していませんか?」

 

トレーナー

「してたらライスや秋天のことを話したりしないよ。それに、スズカが見たい景色を一緒に見られたんだから……悔いがあると思うか?」

 

スズカ

「それは……」

 

トレーナー

「だから、スズカ……君に会えて良かった」

 

スズカ

「私もです。私と出会ってくれて、ありがとうございます」

 

トレーナー

「スズカ。これからは俺の代わりにスペちゃんやチームの皆がいる。皆で力を合わせて、俺の知ってる歴史にはないもっと素晴らしい人生を歩んでくれよ。スズカなら、それが出来るだろ……?」

 

スズカ

「はい……トレーナーさんがその場にいないことを死ぬほど悔しがるような、素敵な人生を歩んでみせます」

 

トレーナー

「ははっ……そう聞くと、帰りたくなくなるな」

 

スズカ

「なら……帰らなければいいじゃないですか」

 

トレーナー

「そうしたいけど……もう無理……かな?」

 

自分の体を見る。

その体は半分透けていて、もう残された時間はほとんどないのだなと、他人事のように思ってしまった。

 

スズカ

「どうしてですか?」

 

トレーナー

「もう……俺の役目はこれでお終いだろうから」

 

スズカ

「……お終いにしなければいいじゃないですか」

 

トレーナー

「それは無理だよ。スズカの夢が叶ったことで、スズカの物語は終端を迎えたんだ。その物語を見ていた俺も終端を迎えなくちゃいけない。胡蝶の夢にも、終わりはあるんだよ。望むなら、今からが夢であってほしいけどね」

 

スズカ

「……ダメです。そんなの認めません」

 

トレーナー

「認めたくないよ、俺も……」

 

 互いに言葉をなくし静寂が訪れる。

 少しして、スズカが口を開く。

 

スズカ

「どうしても……いってしまうんですか?」

 

トレーナー

「ああ……もう終わりみたいだ……」

 

 俺の体はもうほとんど消えかかっていた。

 それでも、最後の瞬間まで彼女の姿を見ていたかった。

 彼女の声を聞いていたかった。

 

スズカ

「そう……ですか…………」

 

 一拍おいて、スズカは低く重い声を出す。

 

スズカ

「トレーナーさんのこと、恨んじゃいますから……」

 

 そのあまりな物言いに、つい笑ってしまう。

 

トレーナー

「ははっ、それは怖いな……。けど、少し嬉しいって思える……」

 

スズカ

「……いかないでください」

 

 何かを押し殺したようなスズカの声。

 

トレーナー

「ごめんよ……スズカ」

 

スズカ

「トレーナーさん……」

 

トレーナー

「さよなら……誇り高きターフの王……」

 

スズカ

「トレーナーさん……」

 

トレーナー

「さよなら……寂しがり屋の女の子」

 

スズカ

「トレーナーさん……!」

 

トレーナー

「さよなら……愛していたよ、スズカ────」

 

 

 

 

 

 

 

スズカ

「………………トレーナーさん?」

 

 トレーナーさんに声をかける。

 ……でも、トレーナーさんの声は返ってこない

 

「トレーナーさん……? トレーナーさん……!」

 

 背筋が凍るような想いがして後ろを振り向く。

 そこには、誰もいなかった。

 まるで、最初から、そこには何もなかったかのように。

 

「バカ……バカぁ……!」

 

 私はその場に崩れ落ちる。

 

「ホントに消えるちゃうなんて……なんで私の側にいてくれないんですか……っ! ずっといるって……言ってくれたじゃないですか…………!」

 

 涙が流れ続ける。

 いつもなら、トレーナーさんが私を抱きしめて、涙を拭ってくれた。

 だけど、それは、もう……

 

「バカぁ……」

 

 何度も呟く。

 でも、その言葉は虚しく宙に消えるだけ。

 

「うわぁぁぁぁぁ……」

 

 私はその場で唯一人、涙を流し続けた……

 

 

 

 

 

 

トレーナー

「…………ううん。あれ、ここは?」

 

 頭を上げると、見慣れた場所。

 トレセン学園の図書室だった。

 

「……ああ、そっか。俺、調べ物しようとして寝ちゃってたのか」

 

 あたりはすでに暗くなり始めている。

 ずいぶん長い間眠っていたらしい。

 

「夢……か……」

 

 つい笑ってしまいそうになる。

 まぁそうだよな。

 過去にタイムスリップなんて、アニメや漫画じゃあるまいし、そんなことあるわけないよなぁ。

 

「…………さて、帰りますか」

 

 胸にポッカリと穴が空いたような喪失感を覚えながら帰る準備を終え、図書室から出ようとする。

 その時、ポケットに手を入れると、何かが手に触れる感覚が伝わる。

 なんだ……?

 何気なく、それをポケットから出してみる。

 それは……

 

「お守り……?」

 

 夢の中で、スズカと一緒に神社にお参りに行った時にスズカからもらったお守りだった。

 俺の中の血の気が一気に引いていく。

 ……夢じゃない? あの出来事は夢じゃない!?

 俺は踵を返し、本棚で目的の本を探す。

 

「もうずいぶん時間が経ちましたよ」

 

 本を探す俺の背に、司書さんであろう女性の声がかけられる。

 もうとっくに閉館時間は過ぎてる頃だ。

 でも……

 

「すいません、少しだけ待ってください」

 

 あった! 名ウマ娘列伝!

 その本を引っ張り出す。

 

「……私はずっと待ってましたけど」

 

 ずいぶんと感情が籠もった声だ。よほど待たせてしまったらしい。

 それは申し訳ない。でももう自分の意思では止まれないんだ。

 目次を開き、目的のページを探る。

 サ行、サ行……!

 

「頼む。本当に少しでいいんだ」

 

 サ行をめくる。

 ……彼女の名前があった!

 そのページをめくろうとして──

 

「……いいえ、もう待ちません」

 

 ──後ろから抱きしめられる。

 そして気づく。

 この匂い、このぬくもり。

 

「ここにいれば、いつか会えるかもしれないと思って……ずっと待ってました……」

 

 背中に頭をぎゅっと押し付けられる。

 ああ……鈴が鳴るような繊細で美しいこの声は……

 

「……私のこと、覚えていますか?」

「……ああ、当たり前だ。忘れるわけがない。何があっても、君のことだけは」

「じゃあ、私の名前を呼んでください。好きだったんです、あなたに名前を呼ばれるのが。だから……」

 

 俺は振り返り、その名を呼ぶ。

 

「ああ。君の名前は──」

 

~Fin~

 




あのEDが大好きなんです。あのEDを見るためだけに真・恋姫†無双を買っても後悔しないとおもいます。
ただ原作通り別離のまま終わるのは切ないので、蛇足とは思いましたが、私自身がハッピーエンドが大好きなので最後に再会を追加しました。

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