私立稀世学園高校トンチキトラブルシューター部   作:銀鈴

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頼れる仲間はみんなどこかおかしい

 

 まず俺の高校はおかしい。

 いや、正確には対外的には至って普通の高校だが、一旦内側に入ってしまうとおかしい高校と言えばいいだろうか。それが1年間この高校に通って得た答えだ。

 

「……何とか教室まで辿り着けた」

 

 登校して席についた俺は、一日の始まりを無事に通過したことに安堵の息を吐いた。そこそこ人のいる教室にも、似たような安堵感が漂っている。

 

 まあ、気持ちは痛いほど理解できる。

 何せ今日は、異世界召喚に巻き込まれることもなく、謎の宇宙人にキャトられる*1こともなく、謎の黒服集団も見ていないのだ。嗚呼、何と清々しい朝だろうか!

 

「やあやあ我が親友よ、またしても同じクラスになれて嬉しいよ。ところで、こんな平穏な日こそ、ガチャを回すべきだとは思わないかい?」

 

 しかし、そんな平穏をぶち壊す見知った影が1つ、バンと興奮気味に手を机に叩きつけた。

 その手の主は競馬のファンファーレのような音を響かせるスマホを片手に、制服の上から白衣を羽織った当代きってのガチャ狂い。

 蛍光グリーンの蓄光ヘアーをシニヨンとして纏めた、ヤツの名は──

 

「今日も今日とてガチャ狂いが治ってなくて、心底不安で安心したよセルト」

 

 香風(かふう) セルト。中学時代からの腐れ縁に近い友人だ。稀代の科学者にしてマッドサイエンティスト、だがギャンブルに死ぬほど弱い。そのくせ生活のほとんど全てをガチャを回して決めている奇人だ。

 

「うんうん、みなまで言わずとも分かっているとも。キミもガチャを回したいんだろう我が親友!」

「ダメだ話が通じねぇ」

「この私の全身ガチャコーデを見れば、そう思うのも仕方がないさ!」

「今朝の結果は?」

「何を隠そう10連大爆死さ! アッハッハッ!!」

 

 この朝から濃厚豚骨ラーメンが迫ってくるようなエネルギーには、いつまで経っても慣れそうにない。テンションの摂取カロリーが高すぎる。

 なお、この如何にも悪役がやりそうな高笑いを上げる親友は、どう見ても[男性]の背格好をしているが、戸籍上の性別は[女性]である。朝ガチャ10連大爆死とのことなので、多分『性転換(SR)』でも引いたのだろう。知らんけど。

 

「というわけで君も爆死したまえ」

「うわぁ、急に冷静になるな。……いやちょっ、待、力強っ!?」

「今朝はプロテイン(R)を飲んでるからねぇ!」

「ぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 そして抵抗虚しく、俺は奴の携帯端末に手のひらをかざしてしまう。

 すると鳴り響く、今から出走する言わんばかりのファンファーレ。ああクソ、無駄に最近の流行を抑えている。

 

 

    闇鍋ガチャ結果    

 

 ○ 彼女の手作り弁当(SSR)

 ○ たわし(C)

 ○ シャーペン(UC)

 ○ 蒲焼のタレ(C)

 ○ イカれたメンバー紹介するぜ!(SR)

 

   戻 る      もう1回引く 

 

 

「ふぅん、たった5回転か。我が親友殿は相変わらず微妙に運が良い。だが相応に運の悪さも持っているようだねぇ!」

「ちっくしょう……!!」

 

 彼女の手作り弁当は嬉しいが、どうして最後に変なものを引いてしまったんだ。普通なら断ればそれで済む話なのだが、そこは狂っても大天才の所業。自称『因果律にすら干渉する』ガチャの結果には逆らえない。なんか手元に新品のたわし、シャーペン、蒲焼のタレが出現したように、やりたくない行為であろうとやらねばならない……ッッ!!

 

「昔から言うじゃあないか、ガチャと安価は絶対だと。さあ、大人しく爆死の洗礼を受けたまえよ!!」

「ッ……、イカれたメンバーを紹介するぜ!」

 

 ああもうこうなりゃ自棄だ。クラスメイトの同情的な視線の中、大声を上げて立ち上がる。

 

「エントリーNo.1!

 マッドサイエンガチャ狂い、香風(かふう) セルト! 学園に嵐を呼ぶ元凶その1だ!」

「酷いじゃないか我が親友よ、私は美少女だぞ!」

「黙れ今はイケメン!」

 

 以上だ、と終わらせたいがまだ強制的に続けさせられるらしい。ファッキン。

 

「うるせぇ美少女彼女持ちが!!」

 

 よし、次は手前が標的だ。

 

「エントリーNo.2!

 ヤンキースタイルの格好と粗暴な言動とは裏腹に、本業はバ美肉Vtuber! チャンネル登録者100万Over最強の個人勢! 声帯模写とASMRの技量で、目指すはトップアイドル! 葦麿(あしまろの) ケルシー! 実は帰国子女!」

「ピギュッ」

 

 ワッ、泣いちゃった……リーゼントのポンパドール*2が力なく萎れている。

 因みに帰国子女って言葉は、女子だけじゃなく男子に対して使っても意味合い的には間違ってないらしいぞ。くっ、そしてこの個人情報スプリンクラー状態はまだ終わってくれないようだ。辛い。

 

「エントリーNo.3!

 火薬を愛し、火薬とVRに愛された男の娘! 1人だけ五感が超次元、最近第六感まで生えて来た! 幸村(ゆきむら) マヨイ!」

「……朧、Go」

 

 長いストレートの茶髪を揺らし、静かに彼が指パッチン。刹那、パァン!と右耳の真横でラップ音が炸裂した。目には見えない幽霊的サムシングなお友達の仕業だ、耳ないなった。

 ラップラップクレラップ……即興ラップ、やってみようかと思ったけれど韻すら踏めない無理だこれ。日本語ラップをキメれば、異常現象に対抗できると思ったのだが。

 

「エントリーNo.4!

 自分のことを人間だと思い込んでいる異常馬! 非公式記録、模擬中山競馬場(重馬場)上がり3ハロン30.9秒、狂騒の青鹿毛サラブレッド、ウマソウル号!」

「ヒヒーン(I'm rabbit)」

 

 失礼、うさぎだったらしい。

 教室の端、背負ったゼッケン型ホログラムウィンドウにそんな文字が表示されていた。今日も尻尾と鬣がサラッサラのイケホース(牝馬(ひんば))だ。なんで校舎内にいるのかは分からないけど、茶番に付き合ってくれたし後でバナナとかあげよう。

 

「エントリーNo.5!

 微妙に幸運、俺こと小鳥遊(たかなし) コウ! 大体いつも被害者枠だ!」

 

 そう、ここでもう勘のいい諸兄はお気づきになるだろう。我が校、大体通ってる全員がこんな感じの奇人変人連中である。

 ──ここは東京の一角、私立稀世(きせい)学園高校。

 『俺はどこにでもいる高校生……』系列のモノローグで始まりそうな主人公っぽい連中とか、悪の組織とか、そういう連中ばっかりが在籍している謎の高校! 入学通知書が某大乱闘叩き込み兄弟達の招待状式か、某魔法学校的フクロウ郵便で届くことから、誰が呼んだか任○堂ホグワ○ツ!

 少なくとも俺が把握している限りでも、隣のクラスに異世界転生から帰ってきた奴とそのパーティーが、別のクラスには未来人と宇宙人が、上の学年にはVRMMOデスゲームの帰還者と開発者が。下の学年にはラッキースケベなハーレム主人公までいる。あと2年5組は何故か全員銀髪オッドアイの美男美女しかいない。正しく、立てた病院が逃げ出すカオス高校だ。

 

 そして俺はこの学園に、『運が良かったから』というビックリするくらい手垢に塗れた理由で入学した一般ピーポー。あとそういう連中が使う『記憶処理方法』が運良く効かないだけの──そう、美少女の彼女がいる以外どこにでもいる高校生!

 

「朝っぱらから楽しそうなことしてるじゃん、ボクも混ぜてよ!」

 

 ようやくガチャの強制力から解放されて、精神的な疲れに負けないようかっこいいポーズを決めている時だった。聴き慣れた快活な声の持ち主が教室にエントリーしてきた。

 烏の濡れ羽のように艶やかな長髪に、均整の取れた目鼻立ち、パッとみ凛とした雰囲気とは180°反対な悪戯っぽい笑顔。そしてこの学校にしては珍しく、特にこれといった改造がされていないベーシックな制服。

 

「あ、おはようナギサさん。随分と今日は早いね」

「うん、ちょっとお弁当張り切って作ってたらね──じゃなくて! ズルいズルい、ボクにもやってよさっきの『エントリーNo.何番!』って入場コール」

「入場コール」

「出来れば入場BGMも流して欲しいな」

「入場BGM」

「赤コーナー!」

 

 もしかしてナギサはレスリングとか格闘技系の中継、結構見てたりするのだろうか。いやしかし、彼女にそう望まれれば答えてこそ男というもの。

 

「エントリーNo.6!」

「眉目秀麗文武両道。そして見た目は清楚、中身は悪ガキ! 烏羽(うば) ナギサとはボクのことさ!」

「以上だ!」

 

 最後は殆ど乗っ取りに近い形だったけど、自分の想定よりもカッコよく決まったからこれもまた一興。理不尽なガチャの束縛に打ち勝ったからか、周囲からまばらな拍手が起きる。それに安心しつつ笑顔を浮かべ、椅子から降りてナギサとハイタッチ。ここら辺で指笛が拍手に追加された。

 

「あ、はいこれ朝作り過ぎたお弁当。一緒にお昼食べようね」

「ありがとう、明日には洗って返すよ」

「はいはーい!」

 

 そうして清涼な突風のように通り過ぎて、ナギサは自分の席へと向かっていった。手元に残ったのは可愛らしいパッケージングのお弁当、今か食べるのが楽しみだ。

 

「ところで我が親友よ」

「はいはい?」

「今朝の大爆死で、私には今日弁当がないんだ」

「分けないが?」

「この美少女が頼んでいるのにかい!?」

「いや、イケメンに迫られたところで別に……」

「くっ、性転換薬なんて開発しなければ……!!」

 

 などと戯れ合っている間に、気がつけば時間は経っているもので。結構見覚えのある連中がクラスに続々と集まり始め、いつの間にか相当な賑わいが教室には満ちていた。

 そして、こんなに混沌としているがあくまでここは学校。大体9時ちょっと前にはSHR(ショートホームルーム)があり、9時には授業が始まる。基本科目以外は大概マトモじゃない授業も多いがそれはそれ、新学期1回目のSHRで1番の大イベントといえば担任のお披露目である。

 

 往々にして男子というものは、担任に美人な教師を期待するというのが世の真理。彼女が居ても多少は、居なければ飢えた獣のように。思春期男子なんてそんなもんである。だからこそ、自分ただの教室へ向かってくるコツコツというヒールの音が聞こえれば教室は一気に興奮の坩堝と化す。

 

「ヒュー! これはキツい女教師の予感!」

「興奮で魔法が漏れそう」

「ヒヒーン(ウマっ気)」

 

 往々にして女子というものは、そんな男子をゴミを見るような冷め切った目で見ていることまでがセットだ。というかまだ教室にいたのかウマソウル号。あ、いつの間にか頭絡付いてる。

 

 しかし世の中、中々そう上手く事は進まないということもまた事実。だからこそ、いや、こんな学校だからこそ、それはより顕著で──

 

「……」

 

 熱狂と期待に押されて開かれた扉の先。

 そこにいたのは、両手にヒールを嵌めた全体的に丸々としたオッサンだった。なんというか、想定とは違う意味で『たゆんたゆん』という擬音がよく似合いそうな御人だ。

 

「まずは、えー、誠に残念ながら、私が担任となる東郷(とうごう) リュウノスケです。内側に美少女とかは入ってませんよ、フォッフォッフォッ……それでは出席を取ります」

「「「「「チェンジ!!」」」」」

 

 教室内を色々なものが飛んでいった。

 先生は無傷だった。

 

 

 そんなこんなで。校内に謎の3ツ首ワンコが現れた程度で、特に何事もなく時間は流れついにお昼。今にして思えば、平和(それ)が最も異常な出来事だったのだろうがもう遅かった。

 うちの学校は珍しくこのご時世であっても、屋上が常日頃から解放されている珍しい学校だ。その真の理由はともかく、そんな青春感あふれる場所が解放されていれば集まるのが高校生というもの。

 

「お昼だー!」

「実験だー!」

「ビホルダー!」

 

 なんか1体クリーチャーが混じっていたような気がするが、いつもの連中で屋上ランチと相成った。

 そこまでは、そこまでは本当に何もない1日だったのだ。慣れ切ってしまった超天変地異みたいな狂騒の日常が、いつも通り過ぎていくだけの楽しく平和な高校生活。

 

[#0000ff]い空! そして[#ffffff]い雲! 絶好のデート日和だと思わない? コウ君!」

 

「あれぇ……!?」

 

 だが、事件は起きた。

 お昼も食べ終わり、午後の授業に身構えつつ放課後の話をしていた時だった。突然、言葉が濁った。[#0000ff]空に映えるナギサの笑顔と[#000000]髪は変わらな──ファッキン! 

 

 アイエエエエ! カラーコード!? カラーコードナンデ!?

 

「そんなに驚いてどうしたのさ、綺麗な[#ff0000]い目を右往左往させて……あれ?」

 

 そこまで自分で言ってナギサも、この意味不明な異常に気が付いたらしい。その[#ffdbed]の唇を押さえて、自分が口走った謎の言葉に衝撃を受けていた。

 本当に突然のこと過ぎて、まるで意味がわからない。屋上に広がっている同様の動揺からして、きっと他の人たちにとっても何も変わらない。

 

「くっ、ククク、くふっ、イヒ……駄目だ、腹が捩れるッ!」

 

 ……そう、この目の前で笑い転げ悶えている腐れ縁の親友を除いて。なるほどつまり、いつもの如くこの異常事態はこのガチャ狂いの所為か。

 

「確保ー!」

「ま、待ちたまえ! 待ちたまえよ君たち!」

「問答無用!」

 

 ASMRではないが妙に耳にこびりつく声でかけられた号令に、近くでお昼を食べていた空手部の吉田が[#333C5E][#0000ff]のフィスト。

 ゴウランガ! その圧倒的なワザマエによって、ガチャ狂いの親友殿はしめやかに緊縛。俺たちが友情コンビネーションで捕獲するよりも早く、どこから持って来たのか太く荒い縄で雁字搦めに縛り上げられていた。

 

「さあ、ハイクを詠むがいい我が友セルトよ。さもなくば、催眠ASMRで足腰立てない刑に処されるだろう」

「待ちたまえ、本当に私は、やってない! 信じておくれよ、説明するから」

 

 芋虫スタイルで跳ねながら、綺麗な5・8・5・8・8のリズムで返されてしまった。字余り。だがしかし、古来からの取り決めによって、説明は聞かねばならなくなってしまった。くそっ、巧妙な手を……

 

「それで、ボク達がこんな色を言おうとすると変になる理由、本当にわかるのセルト君」

「ああ、勿論だとも! これは一種のミーム汚染というやつさ。無自覚に言葉や画像に対する認識が変わってしまうこと、つまり認識改変だね! 実に興味深い!!」

 

 校舎の中から絹を裂くような悲鳴が響いたのは、高笑いをあげながら腐れ縁の親友が語るのと同じタイミングだった。

 

*1
キャトルミューティレーションの略

*2
前に出てる部分




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