「きゃあああぁぁぁぁぁぁッ!!」
校舎内から響いて来た汚い高音の叫び声に、反応は真っ二つに分かれた。即ち、これはやべぇと屋上の端に退避するグループと、これは解決しなきゃやべぇと校内に突撃するグループ。そして俺たちは、後者に属していた。
先頭! リーダーの烏羽 ナギサ!
次鋒! 記録・運搬係の俺+背負われてる香風 セルト!
中将! アタッカーの幸村 マヨイ!
後方! ヒーラーの葦麿 ケルシー!
隣! 何故か併走しているウマソウル号!
「ヒヒーン!(廊下で
まだ校舎内に居たのかウマソウル号……いや、でも悪くはない。セルトは無駄に重いし背負ってもら──あ、帰る途中ですか。ステップで階段降りて行くなんて器用だなぁ……
気を取り直して。
「それでセルト、この現状は一体どういう?」
「つまりだね、今の私たちは色を認識・思考しようとすると全部カラーコードに変換されて聞こえてしまうのさ! [#32cd32]とした草、[#ff0000]な太陽、先ほども言っていた[#0000ff]い空や[#ffffff]い雲と言ったようにね。どうだい、わかりやすいだろう!?」
「煩くなければ完璧だった」
パァンと背負った親友の耳元でラップ音が爆発する。今朝方から学校に来ていた連中は、今年もなんやかんやで着いて来てくれるらしい。
我ら、私立稀世学院高校トラブルシューター部!
去年、あまりにも1年生の間で超常現象が多発していた為、気が付いたら発足していて所属もしていた謎の部活動。主な活動内容はこういう謎現象の解明・解決! 去年の実績は4割がマッチポンプ! しかし解決すると報酬金が出る。
「クックック、ではこの現象の分析をしようじゃあないか。ところで、今ここでガチャを引いて決めるというのはどうだろうか?」
「ナシ」
再度、背中で見えない何かがクラップクラップ。背中の性別可変型イケメンがダウンした。もう一度炸裂音。起こされたらしい。
「ふぅん、仕方がないねぇマヨイ君。まずは変換できない色を見つけ出そうじゃあないか。まあ既に見つけだしているのだがね! 虹色にグラデーション系列、どうやら複数の色を指定する必要がある色は問題なく発言できるようだよ」
「出来るなら、最初からそうして」
「あふん」
曲がりなりにも親友が大天才であることは、どう足掻いても真実なのだとこういう時は思い知らされる。ちょっと運がいいだけの俺とは違って、多分未来にタイムマシンとかを生み出すのはコイツだと信じている。
「ところで我が親友よ。なぜかこの現象は、肌色を変換してくれないのだよ。無駄にコンプライアンスへの配慮がしっかりしていて、シュールに面白いとは思わないかい?」
「[#FFE6CE]……いや、なるが?」
「それは日本人をイメージしているからだよ我が親友。想像を変えれば[R:108,G:53,B:36]や、[R:255 G:255 B:240]といった形にも出来るようだ。逆もまた然りだよ」
何を言っているのか、いつにも増してまるでわからない。だがニュアンスから察するに、思い浮かべる人種によって汚染の形式が変わるとかそんなアレだろう。逆もまた然り、つまり全部を思い浮かべていると矛盾して、肌色が変換されなく──本当だ、ちゃんと未変換になる。
「いやはや、私たちが理解不能な所業を行う何某かだというのに、律儀にコンプラ配慮があるというのは笑ってしまうねぇ! まるで古のゲームにいたという、消費者センタードラゴンのようじゃあないか!」
まずい、言ってることが何1つ分からない。
消費者センタードラゴンって何だ。まさかドラゴンが『消費者センターは……まずい……』とか言うはずもないだろうし。
「待って、多分さっき悲鳴を上げた人いたよ!」
そんな思考の海を吹き散らしたのは、凛としたナギサの声だった。ハッとしてその指が示す先を見れば、確かにそこには魂が抜けたような形で固まる人物がいた。
和風の改造制服、頭には烏帽子、扇子が足元に落ちていて、顔は[#ffffff]粉でものの見事に[#ffffff]くそめられている。そして唇に挿した[#ff0000]な[#BD1E48]とまろまゆが特徴的な──
「貴方は……古文専攻の麻呂!」
「ああ、麻呂は、麻呂はもう駄目でおじゃる……」
「古文専攻の麻呂……!?」
「[#A9B735]も[#bc64a4]も、もはやマトモに発音すら出来ぬようになってしもうた。これでは、雅の欠片もないでおじゃる」
「麻呂……?」
「人間五十年、下天の内をくらぶれば、夢幻の如くなり……」
「古文専攻の麻呂ォォォォォ!!」
ぱたりと、力なく麻呂が倒れ込む。無辜の生徒が力尽きてしまった。この件は思っているよりもずっと、大事になって来ているのかもしれない。ところでいったい彼は、平安時代と安土桃山時代のどっちが好きだったんだろうか。
「うん、ケルシー! 耳元でASMR敦盛!」
「うへぇ……了解だリーダー」
多分しばらくしたら目を覚すだろうけど、アフターケアまでしようとするナギサの姿勢は凄い。さすが我らが部長、我らがリーダー。そういうところも好きだ。
「おやおや、お昼から騒がしいと思えばまた貴方達ですか。トラブルシューター部」
「貴方は……美術教師のパブロ!」
「折角このような素晴らしい世界へと変わったのです。わざわざあなた方が修正に走ることもないでしょう」
「パブロ先生……!?」
「そう、全ての色がカラーコードになった今なら、こんな早口言葉すら造作もない! [#ff0000]巻き紙[#0000ff]巻き紙[#ffd900]巻き紙、[#R:255 G:0 B:0]巻き紙[#R:0 G:0 B:255]巻き紙[#R:255 G:217 B:0]巻き紙、[#ff0000]ガッ──」
したり顔で早口言葉を口にし始めた先生の口から、つうと[#D20A13]い液体が流れ落ちた。
「パブロ先生……?」
「探し求めるんじゃない、見出すんだ……こふっ」
「美術教師のパブロォォォォォ!!」
「メディーック!」
あまりにも速い天丼、俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。
どこからともなく現れた白衣の人員に2人が運ばれて行く。既に2人も犠牲者が出てしまった、早く元凶を見つけてどうにかしなければ。
「ふぅむ、元凶が見えないね。やはりここは、私謹製『占い10連ガチャ』をだね」
「よーし、走ることになるかもだから準備運動しなきゃな!」
「や、止めたまえ! やめておくれ我が親友よ! 上下に、激しく、動かれ、吐く……うぶっ」
「ここは大人しく、情報を集めて行くしかなさそうだね!」
ナギサがそう言うと同時に、校舎内に鳴り響くチャイム。両眼を閉じてお手上げポーズ、ごきげんなお昼休みに出来ることはもうないらしい。何せあくまで我々は学生、学業を疎かにしてはいけないのだ。
そしてこのくらいの異常ならば、頻繁とまでは言わないがそれなりの回数起きるのが我が高校。特に授業が中断されるとか、そういうこともない。
「次の授業なんだっけ」
「ボクとコウは世界史!」
正確には明らかに地球の歴史じゃないので、言うなれば異世界史である。丁度この前『異界見聞録』なる物の話題に移って、小テストの範囲になるとか言われていた。
「私は自習だね。必修単位以外オールガチャの私に隙はないのさ!」
「驚くほど隙しかない」
それで本当にいいのだろうかウチの高校は。いやまあ、我が親友なら確かに問題ないのか。そもそも異世界史なんて受けてる時点で、俺たちも大概だが。
「……同じく、自習。みんなに頼んで、探してみる」
「OK、頼んだ!」
ナギサはそう明るく対応しているけど、マヨイが喋った途端に部屋の彩度と気温が1段階下がった。微妙に不安ではあるが、多分セルトが無限にガチャガチャするのも止めてくれる筈。
「俺は……調理実習だな」
「結構前のお料理配信、料理と呼べない物が完成して阿鼻叫喚だったしねー」
「ファッ!?」
通りすがりの視聴者さんから[#000000]歴史の直撃を受けて、貴重なヒーラーが1発で撃沈した。なんて
「よし! それじゃあまたみんな、放課後に集合ね!」
「「「はーい」」」
そうして一時解散して、また放課後に活動を再開することになった。であればもう、この芋虫スタイルの親友を背負っている必要もない。人間1人は結構重いのだ、丁重に廊下へ下ろしておく。
「少し待っておくれよ、縄は解いてくれないのかい!?」
「自習室、行ってから」
「ひどいぞー! 横暴だー! ガチャを回させろー!」
マヨイと無言でアイコンタクト。ズルズルと涙を流しながら引きずられて行く親友を手を貸すことなく見送った。
別にイケメンの涙なんて特に効かないし……もし美少女モードでも彼女いるから……あと、邪魔した時の見えない何かの反応が怖い。許せ、親友。
◇
そうして時間は過ぎて放課後。
「調査結果発表ー!」
「どんどんばふぱふー!」
運動部の声が聞こえる時間帯の空き教室に、ぱちぱちと小さな拍手の音が響く。夕陽が差し込む時間帯となって、再び俺たちは集合していた。
「では先ずは私から。マヨイ君と共に検証していた結果、着実にこの現象は影響範囲を拡大。進行していることが分かったよ。何せお昼には言葉にできた、
[#ff0000]
[#ff7200]
[#ffb600]
[#00c46f]
[#0000ff]
[#234794]
[#884894]
色がこの有り様だからね! まるで24スパだ。どうだい? 見慣れてるであろうケルシー君!」
「カッフ……24スパは、24スパは、嬉しいけど……重いんだよ……」
「こんな感じに、数字での代替は、まだ無事。ぶい」
地面で瀕死の虫のように痙攣するケルシーを睥睨し、セルトが高笑いしながら手元のガチャで確定演出を出し、マヨイが両手をちょきちょきと動かしながら説明してくれた。ちょっと待って欲しい、情報量が多すぎる。
「はいはーい、ボクからも報告! 先輩とか後輩に聞いてみたんだけど、お昼頃は2年生フロアだけだったこの異常ね、今は学校全体にまで広がってるって!」
「俺からも追加。正確な記録はないけど、多分このままだと明日には学校外に流出すると思う」
ここは記録係の面目躍如といったところか。メモ帳に記した色々な人のインタビュー内容を照らし合わせると、遅くとも今晩くらいにはこの認識汚染は校外にも広がる計算になった。
「それは、まずいですね」
「大規模なニュースになるのはボクでも分かるもん」
そう、何だかんだこの学園で超常現象が起きることは秘されている真実なのだ。人の口に戸は立てられないから、都市伝説くらいには広まってしまっているが……公になるのは都合が悪い。
何せここは東京23区の一角。こんな色が色じゃなくなる現象が溢れ出してしまえば、あっという間に大パニック間違いなしだ。つまり解決の期限は今日中ということになる。
「だがよぉ、結局元凶は見つかってねぇんだろ?」
「あぁ、ようやく復活したのかいケルシー君。今回の異常はどうにも強敵みたいでねぇ、マヨイ君でも候補地を絞り切れなんだ」
「申し訳ない。そっちは、分かった?」
「ううん、ボクも全然」
「同じく。被害拡大の計算に集中してたから分からず終い」
しかし問題は、誰一人としてこの現象の原因を掴めていないことだった。如何に1年の実績がある俺たちとて、解決すべき問題が見つかっていなければ話にならない。5人全員が全滅、これは中々厳しい展開だ。
「まあ、普通に俺は見つけてんだが」
「なんだって! それは本当かい!?」
「情報提供元は言えねぇが、放課後5時に中庭のどっかに出現するらしい」
かと思えば、ケルシー君だけは成功していたらしい。
なお今更だが、我が校は校舎が2つある。校舎AとBは幾つかの渡り廊下で繋がれていて。体育館やプールはまた別の場所に、旧校舎を利用した実習棟も別の場所にある。
中庭とは校舎A-Bに挟まれた空間で、特に何もない土が敷いてあるだけの場所のことだ。
「ふぅむ、中庭か。私の占い10連ガチャで示された候補の1つかつ、マヨイ君が予測した場所とも重なっている。間違いはないだろうね」
「ですね」
「ところで、今の時間は?」
「ボクの目が確かなら、4時54分だね」
「その元凶が出現するっていう予告時刻は?」
「放課後5時丁度だな」
「この空き教室の場所は?」
「2階の端だろう?」
ふむ──なるほど、つまりこれはアレか。
我々のような感の良いトラブルシューターが嫌いなやつだ。
「緊急出動ー!!」
手遅れになる前に、全員が全員中庭に全力ダッシュをキメる羽目になったのだった。