俺たちが中庭に到着したときには、既にそこは阿鼻叫喚の地獄とかしていた。
中庭の中空に浮かぶのは、[#ffffff]と[#000000]のモノトーンカラーの未来的なアーマーを纏い、2色が混ざり合った[#797979]で構成されたモヤを吹き出す成人男性くらいの人型。地面に倒れ伏すのは、綺麗に7色に分かれた7人の……どう見ても魔法少女達とマスコットキャラ達。
戦隊モノや仮面ライダーなどのヒーロー物でよく見る『敵幹部と思しき存在に手も足も出ず敗北する中盤頃の主人公達』っぽい光景が、そこには広がっていた。
『クカカ、我が力に手も足も出ないようだな、セブンカラーズ。魔法少女が聞いて呆れるわ』
うっっわ、声聞き取りづら!
「そんな……私たちの[#ff0000][#ff7200][#ffb600][#00c46f][#0000ff][#234794][#884894]・スパイラル・ストリームも効かないなんて……」
『当然だ。この世界は既に、我が力により“色”の概念を書き換えさせてもらった……色の力を根源とする貴様ら魔法少女は、そこらの小娘となんら変わらんよ』
そして思ったよりも危険な理由で、この色がカラーコードに変化する異常は起きていたらしい。しかも敵幹部がメッタメタに主人公メタを張ってくるタイプだ……ヒーロー物の悪役として恥ずかしくないのだろうか?
などと思っていると、ツンツンと頬を突かれる感覚が。何事かと振り向いた先には、してやったりと満面の笑みを浮かべる我が親友の姿と携帯端末の画面。
えー、なになに? 魔法少女応援10連ガチャ?
視線認識でガチャが回り始めた。
「アッハッハッ! 引っかかったねぇ我が親友! ここまでこの私にガチャを我慢させたんだ、全力で賑やかしをして貰おうじゃあないか!」
「謀ったなセルトォォォォォ!!」
身を潜めていることも忘れて叫ぶも、時既に遅し。何故か8bitになって響き渡る軽快な出走ファンファーレ。微妙な幸運が手繰り寄せてしまったのか、7色の確定演出を生みながら端末内部が大回転。
○ サイリウム(C) ○ サイリウム(C)
○ 応援うちわ(UC). ○ サイリウム(C)
○ 麻婆豆腐(SR) ○ 応援うちわ(UC)
○ サイリウム(C) ○ 抱き枕カバー(SR)
○ スーパーステッキ(SSR)
○ エレメントマスコット(チベスナ)(SSR)
戻 る もう1回引く
狂ったガチャの中身が排出された。
「やったぜ2枚抜きぃ!」
大嘘だ。
「うそ、なんで静止時間の中に一般人が!?」
『クカカ、そこまで落ちぶれたか魔法少女よ!』
流れた文字列を見た瞬間、手元に生成されそうになっている輝く杖とマスコットを魔法少女に全力投擲。麻婆豆腐はそっと避難。抱き枕カバーはセルトに先んじて回収されてしまった。
そして咄嗟に出来たのはそれまで。瞬く間にガチャの排出は完了し、全員の手にサイリウムと応援うちわが生成されてしまった。
「さぁさぁ、諸君! 目の前には魔法少女、手元には専用ペンライトと応援うちわ! やることは1つだねぇ、わかるだろう!」
「懐かしい! ボクも昔こういうの好きだったよ!」
「この歳にもなって嘘だろ……!?」
そして、我が親友の囁きにナギサが乗せられてしまった。くっ、こうなったら仕方があるまい。ケルシーが絶望顔をしているが、古の書物にもこう書かれている。郷ing Follow me*1。
「せーの!」
「「「「「ぷ○きゅあ〜!!
がんばえ〜っ!!」」」」」
息はピッタリ合った。
色とりどりの可愛らしいペンライトを振り、なんか読めない文字で書かれた応援うちわを振って、全力で魔法少女を応援する。ああ、全身に溢れるノスタルジー。懐かしきかな幼少の風。お父さん、お母さん、俺はこんなにも立派になっ……てはないな???
『ふっ、くだらん。高々一般人の言葉で強くなれるほど、この世界は甘くないわ!』
「えぇ〜ッ!? この展開で負けるのかい君達はー!!」
Ah……と懐かしい風に包まれている間に、モザイクマンが全ての魔法少女を片付けていた。あーあ、全員変身解除されてる。折角、推定チベット産の強化アイテム投げ渡したのに。はーつっかえ、ペンライトももう要らんわ。
「これは、ボク達でなんとかするしかなさそうだね!」
「魔法少女が敗れたんじゃあ仕方がないね!」
「朧、セットアップ」
「フォーメーションΔ!」
全員がもう用済みとペンライトと応援うちわを投げ捨て、それぞれの戦闘態勢を取る。とりあえず異常は解決しなければならないのだ、その為ならばペンではなく剣を取ることも辞さない。
『クカカ、魔法少女でもない身で争うか人の子よ』
「聞き取りづれぇ!」
『くくく、低次元の存在はそうで合ったな──丁度良い。世界を滅亡させる7色の力、貴様らで試させてもらおう』
ノイズが晴れたようにモザイクマンの声が一気に聞き取りやすくなった。だが同時に、[#ff0000][#ff7200][#ffb600][#00c46f][#0000ff][#234794][#884894]それぞれ7色が魔法少女の身体から抜けて、モザイクマンが翳した掌に吸収されていく。
「お前は誰だ!?」
『私はクリアカラー・クライシス3大幹部の1柱、【異次元生命体 イロゥ・トォリドー・リ・オ・ニィザン】』
「「「「「異次元生命体 色とりどりお兄さん!!??」」」」」
『そう、我が名は【異次元生命体 色とりどりお兄さん】!! これより世界を滅ぼす者の名であり、貴様らが最後に知る生命体だッ!』
色とりどりお兄さんの名乗りと共に、背後から後光のように様々な色が差し込んできた。だ、駄目だ。まだ笑うな、堪えるんだ……しかし、セルトはもう地面を叩いて大爆笑していた。この享楽主義者のガチャ廃人め、一人だけいい空気吸いやがって。
「だがお兄さんなら勝機はある! やって見せろよ、俺たち!」
「ヒュッ、ひっ、くっ、くく、あぁそうだね、何とでもなるはずさ!」
「ヒヒーン(メガトンキック)!!」
『競走馬だと!?』
過呼吸にでもなったのか息も絶え絶えなセルトの声に合わせて、奥の渡り廊下を歩いていたウマソウル号の蹄が炸裂した。ベッコリと凹む色とりどりお兄さんの背部アーマー、先制攻撃には大成功。あとはどうにかして体勢を崩せば、多分こちらの勝ち!
「いつもの。必殺陣形、任された」
そんな意図を汲み取ってくれたのだろう。色とりどりお兄さんの周囲で爆裂ラップ音が連鎖する。
『爆破魔法……!?』
「違う」
ばっさりと否定されながらも、色とりどりお兄さんは倒れない。実際、見てるだけで胸が圧迫されるような圧力を感じる相手は、なんだかんだで強敵らしい。セルトの使うラップ音による音爆弾もあまり効果がないように見える。
「ならば、さあ食らうが良い我が奥義!」
背後に回っているナギサではなくこちらに注意を向けるように、わざわざ大きな声で叫びながら万年筆を構えた。
そしてこの万年筆は隣のクラスにいる異世界転生帰りのハーレム主人公、佐藤くんから貰った異世界アイテムの1つ。万年筆(リアルガチ)!
材質不明!
耐用年数1万年!
長命種特有の雑な運用にも耐える耐久性!
硬ぁぁぁい、説明不要!!
「チャージ3回! フリーエントリー!
ノーオプション!
チャァァァジ、イン!!」
気合を込めて万年筆を、お兄さんに向けて投げつけた。
人間こそマキシマムスローイングパワーを持つ種族、そして去年1年で鍛え上げられたこのダーツ力は伊達じゃない。尾翼もないのに投げつけた万年筆の軌道は安定、ペン先で風を切って飛翔する。
『その程度の攻撃──ッ!? ぐ、がぁぁぁ!!』
当然目的は目眩し、どうせ効く筈もなくナギサのバックアタックが本命だったのだが……手らしき部分で万年筆を受け止めた色とりどりお兄さんは、何かとんでもない攻撃を受けたかのように叫び声を上げた。
「おーい、我が親友よ。君の万年筆、あんなになるほど劇物だったのかい?」
「いや、佐藤くんからの貰い物で、書き心地が凄い良いだけの筈……」
「だがその割には、ねぇ?」
セルトがクイッと顎で指し示したのは、何故か突き刺さった万年筆と、腕を押さえて苦痛に呻くモザイクお兄さん。そして万年筆に吸い込まれていく[#ff0000][#ff7200][#ffb600][#00c46f][#0000ff][#234794][#884894][#ffffff][#000000][#797979]10色の流れ。
うおっ、急にすっごい吸い込み。ダイソンかな?
『力が、吸われる……貴様なにをしたァ!』
「えっ、何それ知らん……こわ……」
あとで佐藤くんにお店に連れてって貰おう。なんか気持ち悪いし。
『この私をおちょくり──』
「今です!」
怒り心頭といった様子のモザイク兄ちゃんが立ち上がろうとした瞬間、その口元と顔面、足元が謎に爆発する。冷静に考えると本当、マヨイのこれ何なんだろう。こわ……だが何にしろ隙は隙。狙わないという選択肢はない!
「喰らえ、反省を促すボクの必殺パロスペシャル!」
体勢を崩しに崩したモザイクに、ナギサが完璧なロック技を仕掛ける。そして勢いのままに、顔面を中庭の地面に叩きつけた。硬いし大分痛そう。
「これでもう動けないよね! ロス・インゴベルナブレス・デ・ハポン !」
「私はイロゥ・トォリドー・リ・オ・ニィザンだが!? 一文字も合ってないじゃないか!? くぅ、しかし本当に動けん……」
やっぱりプロレス好きなんじゃないか。因みに俺は日本式の諸々も好きだけど、ルチャ・リブレ形式が派手で好きだ。
「よぉし、行くんだ我らが最終兵器! プロレス技名にもなり、100万人の耳を魅了したその声の力、あのお兄さんの耳元で炸裂させるがいい!」
「ぁぁぁぁぁ!!!」
裏返った汚い高音を叫びながら、ケルシー君が疾走する。50m7秒フラットの加速、速いのか遅いのか微妙にわからない! だがそれでも、何かアクションを起こされる前に間に合った。カッコよくスライディングで静止し、倒れ込むモザイクお兄さんの耳元に顔を近づける。
「ざぁこ♡ ざぁこ♡ ざこ怪人♡ ちっちゃな女の子に全力でかっこわる〜い♡ なのに私達に勝てない♡ はずかしくないのぉ♡」
『!?!?!?』
「力も吸われてビクビクしちゃってる♡ 出しちゃえ♡ 出しちゃえ♡ びゅー♡ びゅー♡ うわぁ♡ 本当に力、出しちゃってる♡ なさけな〜い♡ ざこすぎ〜♡』
『はぁ!!?? 負けてないが???』
ムキになって反抗しているが、ペンに力を吸われてその動きは弱々しい。
「さて、どう思うかね我が親友よ」
「勝ったな」
「ああ」
親友殿の前振りに答えて、空気椅子状態でゲンドウポーズ。くっ、今のセルトは細マッチョイケメンだから無駄に似合う。
そしてマヨイ君がサポートに入ったおかげで、先程全員やられて変身解除してしまった魔法少女達の方にも動きがあった。確か最後まで戦っていた[#ff0000]担当の少女が、ボロボロになりながらも立ち上がっている。
しかも友人の痴た──活躍を見るのに夢中になっていて気づかなかったが、先程までとは衣装が変わっている。言うなればそう、強化フォームのような多少豪華になった服装に。
「クリアカラー・クライシス! 私たちは、色を奪われても絶望なんかしない!」
キリリと見栄を切ってスーパー[#ff0000]の子がステッキをモザイクお兄さんに向けた瞬間、空気が切り替わった感じがした。完全なチベスナフェイス、多分相当に怒ってる。そろそろ潮時か。
「総員撤収! ニチアサ型の敵は爆発する!」
「爆発……爆破!? 待って、見たい、見る、マヨイ残る、絶対残る。リアル爆発、見逃せる訳がない!」
「全く、マヨイ君。君はこの前もそう言って、骨折した挙句保健室のお世話になったじゃあないか。どれだけ私が心配したと思ったんだい?」
「やだ、やだ、絶対見る!」
普段は一番冷静で頼れる仲間なのに、こと火薬と爆発が絡むとどうしてこう、こう……溜息を吐いても仕方がないので、セルトに頭の方を、俺が足の方を掴んで、えっさほいさと校舎内に避難。去り際に、ちゃんとナギサとケルシーも避難しているのは確認済み。
「やーだー!!」
あっ、くそ、こら、暴れるな。抵抗しても無駄だ。釣り上げられたマグロじゃないんだから、1人が2人に勝てる訳ないだろ。
「スーパー・レッド・ファイト!」
赤いあいつ!?
「アロー・シュート!!」
認識汚染が解けていることに気付くよりも早く、凄まじい爆発の衝撃が体を通り抜けていった。
あぁっ、(怪人が)死んだ……そしてマヨイ君は恍惚とした表情をしている。毎度のことながら何だこいつ。
「爆発……爆破……ふへへ……」
「ククク、相変わらずだらしのない笑みだねぇ」
相変わらずイチャイチャしてるなぁと感心していると、校舎内を走る音がこちらに近づいて来た。そしてパカラッパカラッという蹄が刻む音も。
「お疲れ様」
「ヒヒーン(Congratulations)!」
「チェンジで」
一番手は何故かウマソウル号だったが、その後無事にナギサやケルシーとも合流。作戦成功のハイタッチを交わしている辺りで、眠る時のように意識が遠のき全員が重なり合うように倒れ込んだ。
「ヒヒーン(invincible)!」
ウマソウル号を除いて。
◇
翌日。案の定全員昨日の記憶が失われていたので、お昼ご飯を食べる青空の下で報告会。記録係として記していたことを共有した。
「──と、大体こんな顛末で昨日は奔走してましたとさ」
「あー……うん、よし。今回のはボクでも破れるくらいの改竄だね!」
「ふぅん、私たちに態々ちょっかいをかけるとは新参者だねぇ」
「ばくはつ……」
因みに今日のセルトは美少女モードだ。
だが衣装ガチャに失敗して胸が無いらしい。
「すまねぇ、後から俺が言って聞かせておく」
「あ、やっぱりケルシー君の後輩だったんだ!」
「さぁせん……」
そして新たな情報網の判明などがありつつ、数代前に異世界転移したクラスが帰ってくる程度の騒動しかなく1日は過ぎていった。
「因みに昨日の報酬金、中々ヤバ気な事件だったから1人10万円が支給されてるけど」
「なるほどねぇ、ならここでこの『放課後遊びに行く場所』ガチャを──」
「ボクはカラオケがいいなぁ!」
「あ、じゃあ俺も久々に」
「ケルシーは、どう? 行く?」
「悔しいことに、配信の話題にもなるんだよなぁコイツら……」
そんなこんなで、色々と天変地異みたいな出来事は起こりつつも、普通の日常はどこまでも続いて行く。
これはそんな異常な高校における、腐れ縁なトラブルシューター達の物語である。