本日3話目です。
「全員退避!退避!!」
最早アンブレラデートなどという状況ではなくなり、やるしか無くなってしまった2人きりのトラブルシュート。
当然のように廊下にも満ちたオーロラの中。時空が歪んでいるように見えた階段をスルーしながら隣のクラスを通りがかった時だった。
勢いよく扉が開け放たれ、中で授業を受けていたであろう十数人が飛び出してきた。
「トラブルシューター部! 丁度よかった、この教室の惨状を見てくれ……どう思う?」
名も知らぬ隣のクラスの佐藤君に促されて見た教室内は、惨状と言うしかない状況に陥っていた。
轟々と吹雪を吐き出すエアコン、凍りついた先生、ここからでも分かる凍てつく冷気。明らかに縮尺的に収まらないはずのマンモスと、野生化した同学年の連中達。
マンモス????
「凄く……寒そうです」
「ああ、スマホの情報によればマイナス1万度だそうだ」
「物理学の敗北!?」
「こんなの僕のデータにないぞ!?」
「誰!?」「お前誰だよ!?」「怖いよぉ!」
「データキャラ辞めちまえ!」
「ボクとキャラ被ってる!!」
あーもう滅茶苦茶だ。
確かにセルトに日頃謎のアプデをかまされているスマホのカメラで確認すれば、謎のマイナス1万度との表記。冷房で氷河期か……
うん! 無理!!!
「じゃ、今から俺たち元凶しばいて来るんで!」
「じゃーねー!」
軽く手を振ってから、手と手を繋いで緊急離脱。
俺に出来るのは謎アイテムの活用と丸め込み。ナギサが出来るのはこの手に限る(※この手しか知りません)のみ。分野違いだ。アデュー!
と、走り出して数秒。
「ッ、ナギサストップ!」
何か猛烈に嫌な予感がしたので急停止。バックステップで距離を取る。
一見なんの変哲もない普段の廊下。だけど何かがおかしい、これまでの経験がそう囁いている。
「おっけー! せいや!」
逆手で引き抜いたスマホのカメラを向ける中、確認のためナギサがさっき拾っていた氷の塊を投擲。
ジュワァッ!!
先ほどの足を止めた場所を越えた瞬間、数キロサイズはあったはずの氷塊は蒸発した。つまりこれは──
「1万倍蛍光灯……!?」
「よく見たら、中庭側の窓ドロドロだね」
カメラの判定曰く[熱量1万倍蛍光灯]が発生してしまっているらしい。
……窓以外が無事なのも、冷静に考えたらだいぶ気持ち悪いな。なんだこれ。
「仕方ないね。コウ君、教室の中を突っ切るよ!」
「了解!」
生身では絶対に通り抜けられない場所な以上、傍目には何も起きず無事に授業が進行している教室の中を通るしかない。
深呼吸して、ノックを3回。
「失礼します、トラブルシューター部です! 廊下が即死領域になってるので通らせて貰います!」
「元凶を僕たちがどうにかするまで、普通の体質の人は廊下に出ないでね!」
扉を開けて、しっかりと所属と目的を表明。何せ今の俺たちはペストマスクにガスマスク姿。偶に侵入して来る別世界線のテロリストとかに間違えられたら堪らない。
と、思っていたのだが。
「うぇぇ……」
「くさ……」
扉を開けた瞬間、解放されたのは蒸れたような、
即ち、ここから導き出される結論はただ1つ──
「女……女だ……」
「げひひ……」
やべーぞ姦染だ!
「「性欲1万倍の部屋だこれ──ッ!?」」
マズイと理解した時にはもう遅かった。もう遅かった。大事なことなので2回言った!
室内の誰かが持っているらしい超能力パワーで、揃って室内に引き摺り込まれていた。即座に扉が閉められたあたり、理性は飛んでいても危機管理能力は残っているらしい。厄介な。
「ど、どうしようコウ君。ボク怖いよ。こんなオークの群れみたいな場所」
「大丈夫、どんなことがあってもナギサは俺が守るよ」
「コウ君……!」
いい感じに見つめあった時、何かいい感じのカットインが入った感覚。
今ならいける! 頷き合って手を繋ぎ、ベランダへ繋がる扉へ向けて手を突き出し。
「喰らえボク達のラブコメ波動!」
「破ァーーッ!!」
桃色のハートマークが室内を駆け巡る! なんか出てる!?
まあいい。各々の理由はどうあれ、こうすれば暫く相手はフリーズする。こういうジャンルのモノに対してはこの手に限る。
「ああ、そうそうトラブルシューター部」
「大玖先生!?」
「正気を失ってたんじゃ……」
「残念ですが、プロですので」
いざ教室を駆け抜けようとした最中、至って冷静な先生に呼び止められた。
「我々オークとて、こんな獣と化した生徒よりかはまだマシです。そこのところだけ覚えておいて下さい」
「はい!」
「はーい!」
この状況で呼び止める辺り、絶対譲れないラインだったのだろうが……くっ。数名だけど、既に奴らが復活してしまっていた。
「女……女……」
「女ァ!」
うん?
なんか今、1人タイプが違うのが混ざってたような。
……よし、流石にまだ多勢に無勢だし試してみるか。
「金ェ! 女ァ!」
「「アドぉ!」」
念の為ナギサは後ろに庇いつつ、飛ばして見た発言には見事に返答が返ってきた。それも最初と違い、4人中1から2人に。なんかいい感じにバグが感染してる!
「1枚が! 2枚に!」
「「「爆アドォ!」」」
ヨシ!(現場猫)
「この隙に行くよナギサ!」
「今のなに……?」
「カードゲーム!」
昔取った杵柄とはこのことだ。困惑する彼女の手を引いて、ベランダへと脱出する。
「頑張ってねトラブルシューター部!」
「この隙に既成事実作るから頑張らなくてもいいわよトラブルシューター部!」
「サツバツ!」
危ない声に見送られて、駆け抜けるは学校のありふれたベランダ。密室でないからか、オーロラの影響はここには出ていないらしい。
しかし理科準備室隣に行くには、再度校内に突入しなければならない。そこから渡り廊下を渡り、階段を登り、漸くそこでゴールになる。だからもう1度、なるべく最短ルートを辿れるように別の教室へ入る必要がある。
こういう時、我らが2年生には安牌を取れる場所がある。
「失礼します、カクカクシカジカ!」
「マルマルウマウマ!」
2年5組。
所属している全員がなぜか銀髪のオッドアイとかいう、恐らく2次創作の主人公的素質の塊集団。理由は知らないが、異様に強いここの教室なら──
「おやおや、お急ぎのようですね。どうぞお通りください」
目論見通り、オーロラこそ発生しているもののなにも変わらない教室だった。
だが、ここまでなにも変わっていないのが肌で分かると、逆にどんな異常が起きていたのかが気になるのが人のサガ。
「私たちの教室に発生したのは1万倍の超重力ですよ」
ココロヲヨマレテル!?
ファミチキください。
「ふー、やれやれ。
あれは、伝説のイケメンにしか許されない首を痛めたポーズ!
「さっさと解決してくれよな。俺たちはスローライフを過ごしたいんだ」
コッテコテだ!?
「「失礼しましたー!」」
誰からか飛来したファミチキ(未開封揚げたて)を受け取りながら、2-5の教室を後にする。危なかった……あのままだと、コテコテのテンプレの波動に飲み込まれるところだった。
「ふふ、やっぱり楽しいねコウ君」
「その分、ドッと疲労も押し寄せて来るけどね」
体力的にも、精神的にも。
こういう時こそ必要なのは栄養補給。さっき貰ったファミチキもあることだし、気を抜けるタイミングで食べておかなきゃ。
「ところで、そのマスクって外して大丈夫なの?」
「所詮ペストマスクだし大丈──」
瞬間、ドクンと脈打つ心臓。
嘘でしょ、あんなガバガバなマスクでシャットアウト出来ていた……??
「うぅ、薬が、回る……!」
「ボク、コウ君のそういうプロレスラーみたいな精神大好きだよ!」
今のはあくまで大ぽかやらかしただけであって、別に相手の攻撃をわざと受けるとかそういう類じゃない。
ああ、駄目だ。段々と思考がおかしくなっていく。ファミチキ美味しい。まともな思考を保っていられない。何が1万倍になるのかは分からないけど、それがせめてマトモな変化であることを祈って……
「#ジャパニーズスラング#! 馬鹿みたいに正直に薬の超薬効を受けるじゃなかった。掛け値なしに天才な我が親友のことだから、こんな悲惨なことになるのは10000%分かりまくっていた筈なのに!」
自分の口から、信じられない言葉がとんでもない勢いで飛び出した。
その事から即座に自分の身に起こりまくった異常について、フル回転した脳ミソの細胞が天才的な解答を弾き出す。
天啓的に感じ取ることの出来た嗚呼、これは。
「自分の貧弱極まる語彙力が、クソデカ羅生門現象に襲われまくってやがりませんことでしてよ!?」
他の破滅的異常現象に比べて、マジでショボすぎるクソ雑魚変化だった。あまりにもクソ弱すぎる変化で、10000回に1回くらいは対処できそうだ。
激安のファミチキは超美味しかった。揚げたての揚げ物こそ至高の一品の1つに違いない。
「ちょっとwwwww待ってwwwww笑い、過ぎて、おなかいたいwwwww」
ああf×××! クソデカイヤーに入ってきまくる濁流のごとき過情報も、クソデカ語彙力に深刻な汚染をされまくって狂いに狂ってしまっている。
可愛すぎる愛しい彼女の清澄な筈の言葉ですら、まるで野蛮人の宴で流れる暴力的な肉の讃歌並に変質して聴覚に叩き込まれるようになってしまった。
「……全く。こんな時に、2人してふざけてるの?」
実は未確認生物がよく往来する危険すぎる廊下で、耐えきれなくなって笑い転げていた自分と愛しの彼女に対し。そんなあまりにも冷徹すぎて空気すら凍りそうな言葉が、凄まじい勢いで投げ付けられた。
同時に聴覚を支配したのは、激烈に頑丈な廊下を全力で踏みつける硬すぎる蹄と最強蹄鉄の爆音。
明鏡止水の心で爆笑いを抑えまくって仰ぎ見れば、ウマソウル号に騎乗したマヨイが尋常じゃなくデカい階段をクライミングのように登り過ぎてきていた。どうやら向こうは向こうで、現在この超絶に危険な学校に居る最後にして最強のトラブルシューターと合流してきたらしい。
「セルトを止める、の。流石に、マヨイだけじゃ、厳しいんだけど」
「ブモブモ(無様)」
まるで数万年に渡り濃縮還元された怨念の如き暗黒のオーラを放ちながら、絶対零度の如く冷たく突き放される。ウマソウル号だってG1を20000勝してるとはいえ、真・腸捻転しそうなほど笑う事はあまりにも酷すぎるだろうに。
「そのままじゃ、面倒。コウ、思考を1/10000にする。そうすれば、少なくとも、考えることは、ちゃんとできる」
「偉大なる銀ピカゲーミング猛毒薬オーロラ偉大なる倍化薬に汚染された灰色の思考を、1億分の0.0001に……!?」
やれるはず、そうやれるはずだ。
思考のベースを1億分の0.0001……1000万分の0.001……100万分の0.01……10万分の0.1……1万分の1に!
お、おお。よし、きた。きた。思考の速度はダダ下がりになるけど、考えることは辛うじて正常化が机上の空論よりはできなくもない!
「やりやがってみましたぞよ!」
「まだwwww治ってwwwwないwwwwやめてwwww」
ただ気を抜くともう完全にどうにもならないらしい。
おのれ天才な我が親友、厄介な思考への超デバフをかけやがって。
「ん、これで、よし。4人なら、多分セルトをふん縛れる」
「もしかして、ボクらの思ってるより怒ってる?」
笑い死にそうになっていたナギサの言葉に、静かにマヨイが頷いた。確かに頼りにして迎えにきた仲間が、我ながらあんなUltimate-foolish of the God な超状態になっていたら、絶望すら超えた絶望に陥るのは理解するに余り無いくらいには叡智が理解するが。
「怒っては、ない。でも、ずっとワクワクしてる」
「ワクワク……?」
「ドキドキ……?」
そう言ったマヨイの目には迷いなど何処もなく、清らかなる清渓川のごとく澄んでいて。
「セルトの私物化した部屋。爆発物、沢山ある。全部巻き込んで起爆することも、辞さない!」
同時に人喰いヒョウやピラニアの如き残忍さも湛えていた。興奮のせいかチラチラと赤く染まる目は、まるで日和見主義者が放り込まれた直後のよう。トラブルシューター部に臆病者は不要なのだ。
「れっつ、ごー!」
「ヒヒーン!(うまぴょい!)」
斯くして3人と1匹(実質4人)は、元凶が待つ部屋へと歩を進めるのだった。