アレは嘘だ。本日4話目です。
ようやく辿り着いた、理科準備室隣の空き教室。事実上セルトが私物化しているその部屋には、俺たちや先生の介入を予期してか強固な防御が敷かれていた。
無数のセンサーと鎮座する謎の薬品による攻勢防御、鋼の扉による物理的に強固なロック。加えて何か、魔法的な雰囲気の防御が漂っている気配すらある。
確かに内にも外にも強そうな、傍目には完璧な防御施設だろう。実際、定期的学校に侵入して来るある程度の異物なら跳ね除けられそうだ。
──だが
「“みんな”、お願い」
「ヒヒーン(蹴り癖◎)」
俺たちトラブルシューター部は、そういうものに対抗/撃破する為に組織されている部活動なのだ。
いくら頭脳とガチャ担当、対人最強催眠ボイスが欠けていようと、遅れることなどありはしない。
「相変わらず、マヨイ君のは何してるか分かんないね」
「ゴーストが囁いてそう」
マヨイが指示を出した瞬間、警備のために稼働していた機械類が一斉にショート。火花を上げて爆散し、物理的な障害はウマソウル号のギャロップキックが粉々に粉砕した。ヒュー!
備品代諸々の請求書はあとでセルト宛てで書いて提出しよう。
「たのもー!!!」
「年貢の納め時だぞセルト!」
そんな事を覚悟しながら、粉砕された扉を踏み越えセルトの空き教室に侵入する。
フォーメーションはζ。念の為、既に薬を喰らった俺と防毒が完璧なナギサが戦闘。全身火力の塊なウマソウル号onマヨイは後方待機、いつでも
さあ、最終決戦だオラァ!
「フゥゥゥハッハッハ!!
ようやくお出ましだねぇ、トラブルシューター部!」
瞬間、入り口が
オーロラが満ちる幻想的な夜空の下、ありふれた理科室の光景が広がる異常空間。その中心にセルトはいた。
アルミホイルの様に金属質な髪を靡かせ、制服の上から白衣を羽織るいつものスタイル。今日は美少女の姿なためか、高笑いも非常にサマになっている。
「私が散布した10000倍化薬、楽しんでくれたかな?」
「うん! ボクはとっても!」
「我が天才の親友殿のガチャガチャしたお遊戯会のような思いつきの果てに、今現在はただの俺の語彙力はクソデカ羅生門化していやがりますが」
「……セルト、正座!」
「ヒヒィン!(お腹すいた)」
「特に親友殿は傑作だねぇ!」
コイツ……微妙な幸運をフル活用して、ガチャを最低保証しか出ないようにしてやろうか。
「だが残念だねぇ。私とて同じ部活の所属、キミたちの考えを読むことくらいは造作もないのさ!」
「わぷっ!?」
「ヒヒン!?(驚愕)」
パチンとセルトが指を弾いた瞬間、後ろから聞こえてきたのは2人の悲鳴。
まずいと思い振り返れば、スプリンクラーから散布された物より遥かに色の濃い、約1680万色に発光する液体がぶち撒けられている。
それは無防備だったウマソウル号に直撃、謎の守りで身を固めていたマヨイにすら届いていた。
「私がスプリンクラーで散布したのは1万倍化の薬だ。それではマヨイ君の守りを抜けないことは分かっていた。だが、濃縮した1000万倍の薬なら造作もないねぇ!」
無理だ、普通のホモサピエンスにそんなモノは耐えられない!
「く……ん、あ、身体が、熱い……!」
「ヒヒーン!(若返り)」
ウマソウル号は大丈夫そうだしいいや。毛艶が完璧になってる。
「酷いよセルト君……そんな濃度と感度、エ○同人ですら見ないよ!」
「逆にキミはそんなの読んでるのかい!?」
「昔のエロゲとおんなじでね。規制が厳しくなった今、書いてる人って新規参入した“新人”と昔から書いてる“老舗”の2択なんだ。もう」
哀愁漂う背中でナギサが言う。つまり必然的に質が上がっていると。
哀しくも嬉しいやっぱり終局が見えてるから悲しい話だ……
「だとしても、もう既にコトは起きた後。もう解毒薬を使わない限り止められないねぇ!」
「最低!」
「ふぅん」
「実験バカ!」
「効かないねぇ」
「このテラ先民*1!」
「幾ら親友同士でも、言っていいことと悪いことがある。そうは思わないかい?」
「ごめん」
確かに最後のはちょっと言いすぎた。
「畏怖と畏敬とガチャへの賛否を込めて、今の私の事はプロセッサーSと呼ぶがいいさ!」
「データ処理装置!?」
「いや、実のところ私は博士号は持ってないからねぇ。それでプロフェッサーを名乗るのは、先達に対し恥知らずもいいところだろう?」
「コンプラァ!」
頭のネジは完全に足りていないのに、妙にそういう部分だけしっかりしているせいでテンポが狂う。味方ならこれ以上なく頼りになるけど、敵になると相変わらず面倒極まるなぁ!
「ところで、私に拘ってマヨイ君を放置していいのかな?」
「当然。こうして時間稼ぎも出来たことだし」
「ふゥン?」
「ナギサ、パス!」
言って、セルトと話しながら後ろ手で連絡を取っていたスマホをパス。地面に蹲って、何かに必死に耐えているマヨイの耳元へ届けてもらう。
『ライブまであんまり時間がねぇから、そう長くは抑えてやれねぇぞ!』
電話口から聞こえるのは、最後の頼れる仲間の声。
男でリーゼントで帰国子女の方のケルシーに、電話中継で繋がってリモート参加してもらう!
「……メスガキボイス、より。セルト(♀)の声が、いい」
『お前、物好きだなぁ』
「いいから、はやく」
『しゃーねぇな……ふぅん♡』
ため息の直後、電話口から聞こえる声音が変質する。
これまでのチンピラじみたソレから、ガチャでSSRを引いた時の様な起源の良いセルト(女性体)の声へ。
『くくく、嬉しいねぇ♡
普段は釣れないマヨイ君がこんなにも実験に付き合ってくれるなんて♡
でもキミなら、もっともっと耐えられるだろう♡
ほら♡ ほら♡ がーんーばーれー♡』
「うん……マヨイ、頑張る」
うわぁ。
「なあ、我が親友」
「何さ親友殿」
「これは公開処刑か何かかい?」
「うん」
「……わァ……ァ……!」
泣いちゃった。
まあ元気出せって。ポンポンと肩を叩きながら、適当にガチャ画面を見せる。おお、復活した。
「ガチャ、最高。ガチャ、最高。
さぁ、キミ達も高らかにガチャ最高と叫ぶがいいさ!」
「ガチャは悪い文明、破壊する!」
刹那、前動作なしで飛来してきたゲーミング色の液体を、昨日メンテナンスから帰ってきた万年筆を突き出し吸収。出来る限りセルトの注目を集められる様、もう1つの秘蔵の一振りを袖から取り出した。
「流石だねぇ、我が親友。けれどキミには、私に対する有効だがない筈だ!」
「
と、言えるデュエル哲学。好評発売中!
「なに!?」
「これを見るがいい親友!
クーゲルシュライバー、トランスフォーム!!」
袖から引き抜いたボールペン。そのクリップを勢いよく跳ね上げながら宣言する。
これなるは、0.3mmボールペン(聖)!
佐藤君の聖剣の研ぎ粉を集め、後輩に居たさる教会から派遣された聖職者と前世でそのライバルだったらしい陰陽師に力を込めてもらい、技術部の顧問兼佐藤君のハーレムメンバーである異世界の聖女に祝福して貰った超アイテム。
因みに偶に書いた文字が発光する癖に、文字の書き味はあんまりよくない!
だが、その効果は折り紙付き。
クリップの抑えが外れたことで、不思議な力でピンと貼った和紙が横に展延。手持ちサイズの十字架となる!
「ちょっと待ってくれたまえ親友!
それはドイツ語のクーゲルシュライバーが主体なのかい?
それとも英語のトランスフォーム主体なのかい?」
かかった!
「どっちなんだい!」
「ハッ!?」
今更気付いてももう遅い。やめろと言われてももう遅い。
あえて疑問点を残すことで、向こうに質問をさせこちらが答えを出す形式を生成。これにより、相手と自分との間に強制的な協力関係を成立。答えという形で発揮される効果は、最早逃れられない!
「
まるでβカプセルを押したかの様に、聖なる閃光が部屋を焼き尽くさんと解放された。
本来は低級のゴーストなら抵抗すら許さず昇天させ、邪心や悪意ある力を打ち消すディバインフォース。それを贅沢にも目潰しに使う。
「フン! だがまだ私には片目が残っている、メカクレスタイルが役に立ったねぇ!」
しかしまだ足りない。
純粋な好奇心でしかない薬の効果は消えず、メカクレだったお陰でセルトの視界も潰しきれない。故に、身体の中にある……こう、MP的な何かをグニっとして、詰め込んで、力をほわぁとさせて。
十字架パワー、再装填。
太陽力フルパワー!
「闇よ、消え失せろ!」
《ジェセル!》
閃光、2連。
尋常じゃなく体力を持っていかれて、正直立っていることすらままならない。が、気合と根性でなんとか耐えて…………なんか今ボールペン喋らなかった?
「くぅ、目が! 目がぁ!」
我が親友殿は何だかんだノリが良くて好きだ。
そうやって立ち続ける俺に意識を向けていてくれたお陰で、残念ながらチェックメイトだ。
「捕まえたよ、セルト君!」
「かはっ!? 腰が、腰がダメな方の曲がり方を!?」
背後から忍び寄っていたナギサのタックルで、くの字に折れながらセルトの身体が揺らぐ。まさしく魔女の一撃に等しい衝撃に、セルトの周囲の空間で透明な何かが弾けたのが見えた。
やっぱり。自分だけ薬の影響を受けてない以上、バリアか防護服みたいなものがあるとは思っていた。親友の焦りようからして、残数はあと数回。
「やっちゃえナギサ!」
「普段なら、危なくて出来ないけッ、どッ!!」
タックルの姿勢から、ガッチリとセルトの腰を両腕でホールド。絶対に逃げられない様、そして打ちどころが悪くなり過ぎないようにして。
「投げっぱなし、ジャーマン!」
調整の意味があった分からない、やべータイプのジャーマンが決まった。パリンと砕ける無色透明、まだ性懲りも無くバリアがあったらしい。
「ま、待ってくれないかい部長! 次にそんなの受けたら、私だって死んでしまうねぇ!」
わざとらしい立ち上がれない様子で、高速で後退りながらセルトが叫ぶ。
本当? と疑う様な顔でナギサがこっちを見た。んー……いや、本当に焦ってる時ほどじゃないし、まだ顔に若干の余裕がある。
「大丈夫、後1回は隠し持ってる」
「バレたぁ!?」
そりゃあ、まあ。何年親友をやってると。
「逃がさないよ!」
立ち上がって逃げようとしたセルトだが、悲しいかな学生とはいえ
教室の床に足跡が残るほどの踏切りで、加速したナギサが瞬く間にセルトを拘束する。どうにもならないと理解したのか、膝をついたセルトの両腕を掴み、狙いを定めて……
「カミゴェ!*2」
背筋力での引き寄せを受け、突き出された顔に高速で膝が直撃した。
パリンと砕ける最後の無色透明。傷一つないが、諦めて動きを止めたセルトをナギサが拘束しにかかる。
これは、やらねばなるまい!
「1! 2! 3!」
そこら辺に落ちてたもので、ベルを3回鳴らす!
「勝者、烏羽ナギサ! カミゴェからの逆エビ固め、試合時間は6分43秒!」
「ウィナー!!!」
勝者の手を挙げ、勝利宣言。
パソコンの画面上にあった、中和剤の散布システムを起動させる。これにてトラブルシュートは終了、後はセルト自身に反省を促すだけ。
そして、その適任者はもう
「疲れ切ったセルトに、獣性10000%に仕上がったマヨイを放て!」
『よく耐えたねぇ♡ ほら、ご褒美だ♡
行け♡』
通話越しに催眠音声をしていたケルシーか解放され、凄まじい『圧』を放ちながら歩き始めた。足音が古いアニメでよく聞く『ギュピッ、ギュピッ』に変わっている。
「なあ我が親友殿」
「なにさセルト」
「……今日の私は女の子で、マヨイ君は男の子だろう?」
まあ、そうなる。マヨイはマヨイでTS体質の遺伝があるらしいが、少なくとも今日は男子だろう。
「私の薬で獣性10000%なんだろう?」
「自業自得だね」
「……私の貞操はどうなるんだい?」
「まあ、責任取って貰えば万事解決でしょ」
もともと2人の関係、俺とナギサよりアレだったし。お互いがお互いを超重力で巻き取った、グラビティな感じだったし。
脳内でベランダに居た女子たちがサムズアップしていた。俺もそれに倣っておく。ナギサも同じ判断に達したらしく、顔を見合わせて頷き合う。
「「お幸せに!!」」
去年恋のキューピットをしてくれたお礼だ。互いに互いをグラビティな癖に、ずっと進展しない関係をキューピットしようじゃないか。
俺はマヨイから、ナギサはセルトから恋愛相談を受けるのはもう懲り懲りなのだ。抱けぇ! 抱けぇー! って脳内のノスタル爺も叫んでる。
「ヒヒーン!(乗ってく?)」
「ボク達が乗ってもいいの?」
「ブルル(3歳ボディ)」
背後から聞こえる懇願と悲鳴を背に、全開で走って満足したらしいウマソウル号に乗る。
「待って! 待って、助け、助けてくれないかい!? 流石にこんな形は私も不本意なんだが!!」
「……ダメ、逃がさない」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
馬への2人乗りって割と無理があるよなぁ……脳内で掛かってる、某シティなハンターのエンディングには似合うけど!
◇
そんなそれなりの惨事だった日の後日談、というか今回のオチ。
事件自体はいつも通りのマッチポンプなので、全員に一律5万円程度の報酬。ただし元凶だったセルトにはなしで、請求書が送付という形の決着になった。
この程度の事件なら月一くらいで起きるし、学校側も生徒側も特に追求は何もなし。筒がなく万事解決だ。
「……ん、マヨイ達」
「私たち」
「「付き合うことになった(ねぇ)!」」
故に、変わったことといえばそれくらい。
トラブルシューター部に2組目のカップルが誕生した。
特に拗れる様なこともなく、いい感じに纏まったのは焚き付けた側としては嬉しいもの。
「背中を押したボク達としても誇らしいね!」
「アレは背を押したとは言わないと思うねぇ」
「ぶいっ、やっと捕まえた」
「はいはい、はしゃがないはしゃがない」
お互いに互いが相談していた相手とハイタッチ。
5人と1匹の6人からなるトラブルシューター部に、去年の末と同じような青春の風が吹き込んできていた。
「マヨイのお母さんと、ママⅡと、お父お母さんが言ってた。
絶対マヨイはヤバい子に捕まるか、ヤバい子を捕まえるから、そうなったら確実に仕留める様にって」
ママⅡ!? お父お母さん!?
「……まあ私としても、実家でお見合いなんて御免だったからねぇ」
お見合い!?
「ケルシーはまだ帰ってこれてないけど、今日はお祝いも兼ねて放課後ファミレス寄ろうよ!」
「ダブルデートだね、分かるとも!」
「……ん、賛成」
「ケルシー君が帰ってきたらびっくりだろうねぇ」
そんなこんなで、色々と天変地異みたいな出来事は起こりつつも、普通の日常はどこまでも続いて行く。
これはそんな異常な高校における、腐れ縁なトラブルシューター達の物語である。
フェスから帰ってきたケルシーが男女に分裂して、ウマソウル号とバチバチに争い始めるのはまた別の話。