ポケットモンスター・パールストーリー   作:ましゅ

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第101話  これが私の戦い方

 

 

「ララ足踏み! 勝ちにいくんだからね!」

「――――z!」

 

「いい判断ね……!

 でも先手は貰うわよ! ニューラ!」

 

 パールがララに指示した足踏みとは、芯まで冷やされて動きの悪い脚で、数度地面を叩いて脚に活を入れる技。

 ユキノオーの凍える風によって落ちた動きを、"こうそくいどう"で取り返すための挙動である。

 そのぶん、先手を相手に譲らざるを得ない。ララにも劣らぬ素早い駆け足で、一気に迫ったニューラの爪がララを捉えんとする。

 辛うじて、凍える風に身の芯を冷やされる前ほどには脚の動きを取り戻したララは、力強いステップでニューラの切り裂く攻撃を躱した。

 だが、掠めている。ユキノオーとの戦いでも重いダメージが蓄積しているララにとって、脇腹をぶしっと傷つけられる痛みは痛烈だろう。

 

「ララいける!? 反撃!」

「ニューラ! 迎え撃ちなさい!」

 

 怯まない"せいしんりょく"を持つララだ。そしてそれは敵対するニューラも同じ。

 痛みなど始めから意に介していないかのようにニューラに迫った、ララの切り裂く攻撃が、爪を構えたニューラの防御と激しい衝突音を鳴らす。

 相手が防御態勢を取ったと見れば、ララは連続で切り裂く爪を振り抜いて連続攻撃だ。

 ばきん、がづんとララの爪がニューラの爪とぶつかり合う音の連続は、さながら二刀を持つ者同士の殺陣のように激しく響く。

 子供のパールやプラチナには、これだけではらはらするような展開だろう。だが、こんなことで冷静さを欠くようではまだまだ。

 

「そこ!」

 

 パールには目で追うことも難しいようなララの猛攻を、スズナはその眼で隙さえ見出している。

 元々息切れ著しいララだ。体力が厳しい中での必死の連続攻撃。

 ニューラが反撃に転じる好機は少なくない。ニューラはスズナの声を聞くのとほぼ同時、あるいは一瞬早く、ララの振り下ろしてきた爪を力任せに打ち上げた。

 肘まで痺れるほどの衝撃を返されながら、一歩後ろに退いたララに、ぎらりと眼を光らせたニューラが体を前に傾ける。

 

 踏み込んだニューラの爪による連続攻撃は、ララのそれを遥かに上回る速度と手数で、守勢に回って爪で防御するララを追い詰め始めた。

 "きりさく"攻撃の連続攻撃ではなく、長続きの"みだれひっかき"だ。

 一秒に5度以上は鳴る金属音めいた爪と爪のぶつかる音と共に、一歩二歩と後退するララの劣勢は見るも明らかだ。

 ララの連続攻撃の時点で目で追い切れなかったパールが、それ以上の手数と速さのニューラの乱れ引っ掻きから、隙など見いだせようはずもない。

 

「ニューラ、とどめの一撃よ!

 わかってるわね!?」

「――――z!」

 

 ニューラの猛攻に腰さえ沈み始めているララに、ニューラは力強い鳴き声と共に全力で爪を振り下ろした。

 それも、両爪だ。ララもまた、両手の爪を交差させる形で防御態勢を取り、その一撃を受け止める。

 重く、体重を乗せた全力の一撃は、防いでなおララの腰まで響く痛烈打。

 根性を振り絞って、お尻が地面に落ちるような無様を耐えきったララだが、耐えきればそれだけ脚と腰で受け止めた衝撃が身体の内側をひび割れさせる。

 苦しそうな表情のララだ。だが、勝負を諦めてなどいない闘志がそこにある。

 

「ッ――――!?」

「――――♪」

 

 だが、この追い詰められた状況さえ好機に変えんとして、ララはその足を振り上げてニューラの顎を蹴り上げようとしていた。

 その一撃が、手応え無くすかっと空を切ったララが動揺したのは、これだけ自分を追い詰めているにも関わらずニューラがあっさり逃げたから。

 ニューラはしてやったりの顔だ。追い詰められたフリをしての"だましうち"などお見通しだ、とばかりに。

 そんな演技、"わかってるわね"と言ってたうちのご主人にだって見抜けていたことだぞ、という、相棒の優秀さを誇る想いも含まれている。

 とどめの一撃、という言葉に騙されたのはララの方だ。

 

「ララだめっ、退がってえっ!!」

「必殺よ!」

 

 次の展開はパールにもわかった。スズナの指示よりパールの声の方が早かった辺り、パールもぎりぎり冴えている。

 おかげで後方に大きく跳び退がることが出来たララだったが、ニューラが地面を掬い上げるように爪を振り上げて。

 それが生み出すのは、魔法のように雪を大量に生み出し、前方の敵を逃がさぬ広範囲攻撃の雪なだれ。

 ニューラ同士のバトル、使える技が似通う両者であっても、ララには使えずニューラには使える、スズナにとっての強い札の一つである。

 

 駄目だ、これは免れない、と覚悟を決めたララは、襲い掛かる雪の津波を前にして、その両手で頭を抱え込むようにして防御態勢を取った。

 その後に続いた、ララが雪に生き埋めにされる彼女の光景は、今日二度目とて改めてパールをぞっとさせるもの。

 もう駄目か、という、単にバトルで一人破られたかと思う怖さじゃない。生き埋めなんて本気で心配になってしまう。

 

「ララ……っ……!」

 

「へぇ、まだ信じてるんだ……!」

 

 今にもララのボールのスイッチを押してしまいたくなるのを、パールは必死で耐えていた。

 すぐにでも引っ込めて休ませるべきなのだろうか。それともまだ戦えるララを勝手に引っ込めるという、勝てる勝負を自ら捨てにいく愚策だろうか。

 果敢と引き際。勝負の世界では必ず常に問われること。

 こう見えてパールも、まだ戦える状態にあったはずのパッチやミーナを、動転のあまり勝手にギブアップさせたことを今すでに反省しているのだろう。

 いかに詰んで見えていようとも、負けが確定したわけでもないのに勝手に諦めてしまうことは、並々ならぬ後悔を生み得るものだ。

 

「……………………ッ、――――――z!」

 

「ララ……!」

「ええ、わかってた……!

 そのファイティングスピリッツ、あたし達にだってとっくに伝わってる!」

 

 雪の中を掘り進み、積もりし雪から飛び出したララが、ニューラに凍える風を浴びせていた。

 ララの数少ない飛び道具だ。虚を突きダメージを与えるならこの程度しかない。

 そしてそれは、氷ポケモンであるニューラに対し、大きなダメージにはなり得ない。逆転を目指す打点を稼ぐには、焼け石に水と言って過言ない。

 

「ッ――――、ッ――――……!」

 

「!?

 この子は……っ!」

 

 雪なだれに押し潰されたダメージに加えて積もり積もった疲労、もはや背中を丸めて息も絶え絶えのララだ。

 そんな中でララは、両手の爪をがちんがちんと鳴らして、ニューラを睨みつけて挑発している。

 挑発しているのだ。相手も同じニューラである以上、ララはどんな仕草が相手に有効な挑発となるかをしっかり理解している。

 そして、パール以上にニューラという個体についてよく知るスズナは、ララが見せた行為の意味と、それが如何にまずいかを即座に感じ取る。

 

 これはパールの指示なのだろうか。いや、きっとそうじゃない。

 指示や合図の一つも得ず、自らの意志と判断でこんなことをしているララ。

 そう確信した瞬間にスズナが実感した、敗北がすぐ背後に迫っていることへの悪寒は、あまりに現実味と実感を帯びたものだ。

 

「ニューラ、仕留めるわよ!

 速攻で畳みかけなさい!!」

 

「ララいけるの!?

 やれるなら……」

「――――――――z!!」

「っ……頑張ってえっ!!」

 

 ニューラもララの真意を理解していただろう。

 その"ちょうはつ"に本能を刺激され、己では制御できぬ攻撃的な衝動に心身を蝕まれながら、思考そのものは聡明である。

 弱ったララに一気に距離を詰め、"みだれひっかき"の連続攻撃でララを追い詰めにかかる。

 

 パールの問いかけを最後まで待たずして、絞り出すように大きな鳴き声を返したララは、その声で以って自らに最後の活を入れて。

 襲い掛かるニューラの連続攻撃をどうにか爪で防ぎつつ、相手が駆け迫る速度とそう変わらぬほどの速度で後退し。

 決して演技ではない、限界間近の苦悶の表情で爪を痛め、反撃の手立てもないままサンドバッグも同然の様相だ。

 さらに言えば、凌ぎきれないニューラの爪先を腕や胴に掠めさせ、血を流すたび急速に抗戦能力さえ失っていく。

 

「ッ、ッ…………!」

 

「ニューラ退がらないで! 凌ぎようがないわ!」

 

 力を振り絞ってジャンプしたララは、ほぼ同時に振り抜かれていたニューラの爪に、かなり深くお腹を斬りつけられている。

 嫌な熱さを覚えるほどの傷の痛みに苛まれながらも、高所に逃れて一瞬ニューラの攻撃から免れたララは、地上いっぱいに"こごえるかぜ"を放出する。

 ダメージは小さい。それでもそれを浴びせられるニューラの体が、芯まで冷やされその機動力に楔を打ち立てられる。

 凍える風の副次効果は、ダメージ以上の後に響くものがあるのだ。

 やや敵から離れた位置に着地できたララへ、逃げる動きなどせず一気に迫るニューラも、確かに数秒前の全速力より僅かに速度が劣っている。

 

 それでもララに対し、爪先を槍のように突き出したニューラの一撃は、全力の重みを失わぬ力強い一撃だ。

 交差させた爪の交点で、ニューラの正拳突きめいた爪の重い攻撃を受けたララが、よろよろと後退して腰砕けに尻餅つきそうにさえなる。

 いや、実際にもはや限界であることを誰の目にも明らかとさせる挙動だ。

 片膝をつき、足の裏だけではもう立てなくなった身体であることを隠せなくなったかのようなララには、もはや自らの足で敵に迫り攻撃する余力も無い。

 出来ることがあるとすれば、凍える風を放ち、このニューラに挑む次の誰かを、少しでも戦いやすくする程度のことだけだ。

 

 ララは最後の抵抗だとばかりに、がちん、がちんと爪を打ち鳴らして、ニューラをもう一度"ちょうはつ"した。

 私の"こごえるかぜ"で弱ったあなたの身体を、"こうそくいどう"で回復なんてさせるものか。

 私だってこれをされたらむかついて高速移動が出来なくなるんだ、あんたはどうだ、攻撃したい衝動に支配されてもう出来なくなるだろう。

 力尽きる直前のララは、ニューラにそんな挑発的な表情を向けると共に、パールにもまた、これが私のやり方だとばかりに自嘲的な笑みも向けている。

 

 私の真意はパールに伝わるのかな。それだけが気がかりだ。

 

「ニューラ……! 決めなさい……!」

「――――z!」

 

「っ……ふぐぅ、っ…………!」

 

 確信した。

 ああ、この子に捕まえられてよかった。あなたと出会えて本当によかった。

 あのニューラが迫ってくる中、これから血祭りにあげられるようにしか見えない私を前にして、あんなに今にも泣きそうな顔をして。

 それでも、私が訴えたことを理解してくれたからこそ、その手で口を覆ってまで、"何も言わないこと"を選んでくれたんでしょう?

 そうだよ、私はあなたに沈黙を貫いて欲しかったんだ。それも、まだやれることがあるんだって信じる私を信じて、引っ込めずに。

 

 傷ついた私を、あんなに哀しそうな目で救おうとしてくれた優しいあなたが、今は私のしたいことを許して、傷だらけの私を戦い続けさせてくれる。

 ありがとう、耐えてくれて。必ず、希望を繋ぐから。

 

「――――!」

「!?」

 

 最後の力を振り絞って、迫るニューラの爪を両手の爪でかち上げた。

 こんな力がもう残っているはずもないと相手に思わせ、あるいは気付いていようが攻めざるを得ない状況を作り上げ、この展開を不可避とした乾坤一擲の策。

 とどめの一撃を凌がれたニューラが一転、間近の敵に一瞬の隙を晒したこの一瞬こそ、ララの"だましうち"が完成させた最後の好機である。

 

 渾身の力を込めた、ララの爪による一突きが、ニューラの胸元を捉えていた。

 それは自らが氷ポケモンであるがゆえ、氷ポケモンの相手に最も痛烈に効く、メタルクローの一刺しだ。

 ただでさえ屈強とは言い難いニューラの胸元に突き刺さったその一撃は、げはっと息と唾を吐いたニューラのリアクションからも明白だろう。

 それによってふらつくように退がるニューラを前にして、ララは最後に、精も根も尽き果てた顔色ながら、してやったりの笑みを浮かべていた。

 

「ララあっ!」

 

 今にも崩れ落ちそうだったララを、ここでパールがボールのスイッチを押していた。

 やるだけのことをやり遂げたこの瞬間、ただちにララを引っ込めるパールの挙動に、ララは心の底から感謝していた。

 自分のポケモンが、仲間がここまで傷だらけになることをつらいと感じるその優しい性根にありながら、よくぞここまで我慢してくれたんだなって。

 酷使された覚えは無い。それだけ頑張らせて欲しいと訴えたのは自分の方だ。

 果たすべきことすべてを果たさせて貰えたと感じてやまぬララは、その消耗した心身と裏腹、心からの安らぎに満ちた微笑みを浮かべてボールへと戻っていく。

 

「ギブアップ、です……!」

 

「……最後のポケモンをどうぞ」

 

 スズナの表情は明るくなかった。

 パールのニューラは撃破できた。残るは一対一。

 だが、スズナはもう、一つの決意を固めている。きっと、パールが予想だにしない決意だ。

 それこそ、観戦席のプラチナだけが、もしかしたらそんな展開もあるかもなと、他人事だから想像できる展開である。

 

「ニルル! もう一押しだよ!

 絶対勝とうね!」

 

 パールが最後に選んだ一匹は、やはりドダイトスのピョコではなくトリリドンのニルル。

 地面タイプを複合するニルルは、水タイプながら決して氷に対する耐性が強いわけではない。それでもピョコよりは適性だろう。

 そして、ニルルを大将まで残していたパールには、もう一つの意図もある。

 

「あまごいだよ!

 あられを吹っ飛ばして!」

「――――z!」

 

「く……!」

 

 バトルフィールドにニルルが降り立つや否や、パールはフィールド全体にあられが降る状況を、ニルルの"あまごい"で上書きした。

 ララVSユキノオーが始まった時からララVSニューラまで、場にいるポケモンがすべて氷ポケモンだから意識されなかったが、あられはニルルに都合が悪い。

 降りしきる大粒の氷は、ニルルの身体を傷つけてしまう。あれを意に介さず戦えるのは、氷ポケモン達だけだ。

 ずっと振り続けていたあられが雨に代わり、どこからともなく降りニルルだけを傷つけるものはこれで排除された。

 

 あとは、ニルルとニューラの一騎打ちだ。

 ララの置き土産、メタルクローの直撃を受けたニューラは、傷を押さえてかなり苦しそうだ。

 雨が降る中、ニルルの放つ水技の威力は高まり、ニューラに天候を変える力は無い。

 はっきりとニルルが優勢の中で始まる大将戦ながら、パールとニルルの眼差しに、一切の油断の色は無いときたものだ。

 

「……ニューラ!

 最初の行動はあなたに任せるわ!」

 

 そして、それらすべての劣勢要素以上に。

 ララの"こごえるかぜ"で機敏な動きを果たせるはずの身体を縛られ、しかも去り際近くの"ちょうはつ"で、敏捷性を取り戻す手段も一時奪われて。

 これだけのダメージを負いながら、ニューラという個体の最大の武器である素早さすら、しばらくの間は万全ではない。

 

 パールのニューラが、スズナのニューラを自分の手で撃破することではなく、次に出てくる仲間が確実に勝てる図式を描いていたことをスズナは知っている。

 パールに指示されたからじゃないのだろう。彼女が自分で考え、選んだ、パールに勝利をもたらすための最善手。

 ユキノオーとのバトルで蓄積したダメージを根拠に、相手のニューラに勝つことまでは難しいと判断してその手を選んだララ。

 今はニューラが、ララとのバトルで蓄積し過ぎたダメージを背負い、ニルルをどう倒すか答えを導かねばならない境遇にある。

 そしてこのニューラにはララと違い、後続の仲間もいないのである。

 

「――――」

「ええ、そうよね。

 お疲れ様、ニューラ。恥じることはないわ」

 

 その場にぺたんと座り込み、大の字に寝転がったニューラを見て、スズナは皮肉の無い笑顔を浮かべてニューラをボールに戻した。

 もう巻き返せないだろう。確かに、最後まで勝負を諦めずに戦い抜くことは美徳であるけれど。

 引き際というものも確かにある。ニューラ自身も確信してやまぬ、戦ったところで結末が見えている勝負とあれば、スズナも潔くそれを受け入れるまでだ。

 

「えっ!?

 スズナさん、最後のポケモン……」

 

「ギブアップ! あたし達の負けよ!

 あなたの勝ち! 実感沸きにくいかもしれないけど、そういうことだから!」

 

 パールは微塵もこんな幕切れは予想していなかっただろう。

 あれだけ相手のニューラを追い詰めた中にあっても、油断すれば足を掬いにかかられて、巻き返されての敗北もある。そんな想定だったのだから。

 今までのジム戦すべてが、最後の最後まで僅かな油断も許されないバトルだったものだから、ジム戦とはそういうものだと意識に沁みついているのだ。

 だからスズナが言うとおり、勝利が確定した今も唖然とするばかりで、まったく実感できていないのが顔に出ている。スズナにああ言われるわけだ。

 

「――――z!」

「――――、――――!」

 

「へっ? あっ、勝ち? 勝った?

 んっ、んんんんん~~~……やったぁーっ!!」

 

 ちょこんとおすわりしていたパッチと正座していたミーナが立ち上がり、パールの両横に回り込んで声を発してくれた。

 何ぼさっとしてるの、勝ったんだぞ、もっと喜びなさい、って。

 予想外すぎた勝ち方に頭がついていけなかったパールも、満面の笑顔で自分を見上げてくれる二人を見れば、やっと現実が見えてくる。

 ふつふつと、じわじわと、湧き上がってくる喜びの感情は、ある一定の温度を超えた瞬間に蓋を吹っ飛ばすかのように大爆発だ。

 握った両手を振り上げて、歓喜の声をあげるパールを、スズナは微笑ましい想いで見守るのみ。

 

「――ニューラ、悔しいんでしょ?

 明日からはまた、もっともっと頑張っていこうね。

 あの子のニューラにも負けないぐらい、強くなっていきましょう」

 

 主将として勝利を掴み取れなかったニューラに、スズナはボール越しに優しく声をかけていた。

 負けたことが悔しい以上に、ニューラ同士の戦いで、あのビハインドをここまでひっくり返されるなんて。

 ユキノオーを相手に消耗した同族なんて、スズナのニューラにしてみれば、勝って当然でなくてはいけない相手とさえ意識されるだろう。

 パールのニューラは破ることが出来た。だが、次のバトルを乗り切れるほどの体力は到底残せなかった。スズナのニューラにとっては敗北も同然だ。

 それが一番悔しいはずだという、自分のポケモンの気持ちを、スズナはちゃんとわかっている。

 

「――――、――――z!」

「――――――!」

「え、えぇ、いいのかな……

 ララもすごい疲れてるはずなんだけど……」

「――――!」

「んんん~……や、優しくしてあげてね?

 みんなスキンシップ激しいんだから……」

 

 パールがパッチとミーナに、ついでにニルルにも纏わりつかれている。

 何かを求めてきゃんきゃん騒ぐ三匹のポケモン達の意図を、どうやらパールは理解した上で困っている様子。

 だけど根負けしたかのように、ララの入ったボールを取り出し、スイッチを押して中の彼女をそばに出す。

 やりきって倒れるほど精も根も尽き果てていたはずのララは、今やへっとへとのふらっふら。出てきても立てず、ぺたんとその場に座り込むのみ。

 

「――――――z!」

「~~~~!」

「――――、――――――!」

 

「あわわわ、みんなそんなもみくちゃにしちゃ駄目だって……

 ララだって疲れてるんだよ……」

 

 おめでとう、私達の新しい仲間。

 ありがとう、君のおかげで勝ったよ。

 すごいね、あなたとってもかっこよかったよ。

 

 今日一番の活躍と戦果を勝ち取った友達を、心から祝うミーナ。

 あまごいであられを排除しただけで、相手が戦意喪失するほどの場を作り上げた副将を、君こそ勝利の立役者だと感謝するニルル。

 あのユキノオーに果敢に挑み、傷だらけになりながらもニューラさえも追い詰めたララに、賞賛を惜しまないパッチ。

 そんな三人の熱烈な感情表現は、疲れてもう身体も起こせないララを全方向からむぎゅむぎゅに潰しちゃう。

 やめてやめて、嬉しいけど苦しい、と、ちょっとつらそうだけど満更でもなさそうなララを見ると、三人を本気で止めるべきかパールも迷う迷う。

 

 俺も俺も、とパールに許可を求めて自分の入ったボールを揺らすピョコを、待って待ってあなたは後で、と撫でて制するのでパールは手一杯だった。

 ピョコは大きいので、みんなと同じようにララにスキンシップしたらばっきばきにしてしまうかもしれない。でっかいピョコがたまに損する一幕である。

 

「でも……あんな子よりも強くなるのは大変よねぇ。

 頑張りなさいよ、ニューラ」

 

 仲間達に苦しめられながら幸せそうな、目つきは悪いのに可愛らしいララの姿からは、ほんの少し前まで死力を尽くして戦い抜いていた面影はどこにもない。

 だけど、スズナと彼女のニューラの目には、戦い抜いたララの姿と、腹の据わりようが焼き付いている。

 ユキノオーとのバトルで消耗し、もはや自分の力ではあのニューラを撃破するほどの力は無いだろうと割り切って。

 "こごえるかぜ"で速度を削ぎ、"ちょうはつ"で高速移動による速度回復を封じ、あわよくば狙っていたメタルクローでも大きなダメージを与え果たし。

 勝てば最高に格好がつく一騎打ちに勝つことを捨て、次に託せる誰かが確実に勝てるよう、それだけのために全力を尽くしていた。

 

 あの幼くて、自分のポケモンに優しくしたくて仕方ないであろうパールが、そんな戦い方をララに教えることも、強いることもまずないだろうとスズナは思う。

 それがララの戦い方なのだ。みんなが最高の形で喜び合えるなら、自身にわかりやすい功など求めない。

 人間でも、チームのためにそうした役回りを献身的に果たせる者など、きちんと誰かにその重要性を教え込まれない限りなかなか難しいぐらいなのだ。

 ほぼ間違いなく、パールにそんなことを教え込まれてもいないであろうに、それが出来るララだと確信できれば、スズナも敵わないなと思うばかりである。

 

「~~~~……♪」

 

「ララ、嬉しそう……?

 心配しなくてよかった、かな?」

 

 ミーナに抱え上げられ、自らひっくり返ったニルルのお腹の上にべちゃあと寝そべらされ、パッチとミーナに頬ずりされるララ。

 姿勢を変えてまた、三人がかりでもぎゅもぎゅされる。疲れた身体にはやっぱり少し重いだろう。

 それでも讃えられ、感謝され、祝われる喜びに、ララが穏やかに微笑んでいる姿に、パールもまた温かい気持ちになる。

 ララに歩み寄ってしゃがみ、そっと優しく頭を撫でるパールは、恭しいほどの笑顔を向けていた。彼女に向ける言葉も表情も、本心からのただ一つしかない。

 

「ありがとう、ララ。

 ほんとに、強くて、かっこよくて、凄かったよ」

 

 ララの献身が、どれほど勝利に貢献したかなど、パールにわからないはずがない。

 確実な勝利のために、身を粉にして戦い抜いた者が最も報われるのは、その本懐を理解してくれる誰かがそれを伝えてくれた時。

 感謝を伝えるパールに対し、ララもまた、微笑み返して発する小さな声で、パールや仲間達に対する感謝の意を発していた。

 わかってくれるのってすごく嬉しいよ、ありがとう、って。

 

 いよいよポケモンリーグへの挑戦権を得ることも、本格的に視野に入ってくる、嬉しい嬉しい7つ目のバッジ獲得だ。

 そうだとパールが実感するのも、この後スズナにバッジを貰ってから。

 今はただ、新しい友達の頼もしさや、彼女が勝利を誇らしく思ってくれていることへの嬉しさだけで、パールの頭はいっぱいだった。

 大好きな仲間達と何かを叶えていくこと、それそのものの嬉しさに勝るものなんてそうそう無いのだから。ポケモントレーナー達の原点だ。

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