ポケットモンスター・パールストーリー   作:ましゅ

106 / 160
第106話  VSスカタンク

 

「仕方あるまい。

 行け、ドクロッグ」

 

 懐を指先で、こつこつと三度叩く仕草を見せたサターンの声に応じ、ドクロッグがユキノオーに勢いよく迫った。

 胸元のトランシーバーを三度叩いたサターンは、マーズに急げと命じている。

 苦戦しているであろう彼女を急かし、精神的に追い込むことは得策でないが、これ以上長引くとそろそろまずい。

 サターンらの支援を受けられず長い下っ端団員達の限界も近かろうし、何よりこの戦況そのものも、楽観視できるものでないのが実状だ。

 

「スカタンク! 狙いはユキノオーよ!」

「だくりゅう! いっけえっ!!」

 

 鋭い毒針を突き刺す"どくづき"でユキノオーが後ずさる姿へ、ジュピターのスカタンクが追い討ちの火炎放射を放つ。

 ユキノオーにとっては絶大な効果を持つ弱点だ。それを補う、パールによるニルルへの指示。

 泥を含む多量の水を吐き出したニルルが、スカタンクの吐き出した業火にぶつけ、炎をユキノオーまで届かせない。

 寒冷地にて蒸発した水が霧のように一気に広がり、結晶を含む煌めきを放ちながら美しくも視界を悪くする。

 

「よし、ピッピ!

 君のいたずらごころ、見せてやろう!」

 

 偶発的ながら両トレーナーから戦況を少しでも見極めにくくなった矢先、プラチナが発した指示はピッピを張り切らせる。

 すでに味方を有利に戦わせるための"おまじない"を済ませていたピッピだ。

 仲間をサポートする技に秀でるプラチナのピッピだが、それだけで終わらせるものかと、ひっそりと別の技を発動させ始めた。

 

「小さくなったぞ。見失うなよ」

「わかってるわよ……!

 小兵に見えて、ああいう奴って見くびると本当厄介なのよね!」

 

「ぶっ潰せ!」

 

 "ちいさくなる"ことで敵の目から免れやすくなったピッピを、サターンもジュピターも見逃していない。

 スズナの指示に応じて豪快な"ゆきなだれ"を放つユキノオー、それに狙われたドクロッグへの指示よりも優先するのだから、念を押す価値があるのだろう。

 ドクロッグはと言えば指示など無くても勝手に退がり、回避こそ出来ず生き埋めにされたが、余波の弱い場所まで免れて最小限のダメージに抑える。

 それでも雪の中から飛び出してきたドクロッグは、ぺっと苦々しい顔で唾のように毒液を吐くのだから、それなりに痛かったことは間違いなさそうだ。

 

「ニルル! ドクロッグに泥爆弾!」

 

「賢いな、部下に欲しいぐらいだ」

「スカタンク、狙いはあんたよ!」

 

 しれっとドクロッグとスカタンクを直線状に捉えられる位置へと滑り込んでいたニルルに、パールも騙し言葉一つ含めて指示を出す。理解し合えている。

 流石に歴戦の猛者相手は騙せなかった。躱すドクロッグ、躱された泥爆弾はスカタンクへと飛んでいき、スカタンクとて横っ跳びに躱す。

 弱点の少ないスカタンクにとって、その数少ない弱点を突く地面タイプの技だ。こちらの警戒心も強い。

 

「撃て!!」

 

 プラチナも、小さくなって岩陰に隠れているピッピの位置を知りながら、敢えてそこに目を向けずスカタンクを真っ直ぐ見据えての指示だ。

 自分の目の動きでピッピの位置を悟らせることを避けつつ、狙いはそこだと目線で示して。

 たった二文字の短い指示で、スカタンクへと10万ボルトを撃てという意図を理解したピッピの電撃が、泥爆弾を躱した直後のスカタンクを狙撃する。

 

「ちいっ……!

 羨ましいほど才能に溢れた子だわ、バトルの才能にばかりね……!」

「まずい!

 ピッピ、退がって!」

「ベノムショックよ!」

 

 博識のプラチナですら初めて聞く技の名前、熟練トレーナーのスズナでさえ、一度は聞いたことがあるような気がするが、どんな技かすぐに思い出せない。

 それでも悪い予感を得たプラチナが叫ぶ中、スカタンクは空を向いて、ぶばっと紫色の液体を大量に吐き出した。

 すぼめた口から勢いよく吐き出されたそれは、紫色の霧状となって拡散して周囲に降りかかる。

 慌ててスカタンクから距離を稼ごうとしたピッピだが、降り注ぐ紫の霧からは逃れられず、浴びれば肌を焼く酸のような痛みに足がもつれている。

 

「ピッピ……!」

「そこね!

 焼き払いなさい!」

 

「にっ、ニルル……」

「ユキノオー!!」

 

 普段よりも小柄なピッピへの火炎放射を指示されたスカタンクへ、パールより早くスズナがピッピを守る指示を発する。

 名を強く呼ばれただけで全てを理解したユキノオーによる"れいとうビーム"は、最速の攻撃手段としてスカタンクへ迫っている。

 受ければ只で済む威力ではあるまい。やむなく火炎放射を取り止めて跳び、回避に徹するスカタンク。遠い場所からの狙撃は、わかっていれば躱しやすい。

 指示一つ出されぬままにして、今の狙い目はユキノオーだと判断したドクロッグは、既にユキノオーの側面から迫っている。

 

「ニルルあっち! どろばくだ……」

「――――z!」

 

「だろうな」

 

 パールもすぐに思考を切り替え、ニルルにドクロッグを狙い撃つよう指示を切り替える。

 方向を示されるや否や、振り返りざま最速で泥爆弾を撃つニルルの行動は、パールの判断とニルルの対応速度の合わせ技というところ。

 だが、サターンもドクロッグもそう来るであろうこと、それが出来るパール達だと、はなから見抜いていたかのような態度と行動だ。

 ユキノオーを守っていた"ひかりのかべ"を毒針付きの拳でぶん殴り、深追いせずに後退したドクロッグに泥爆弾は当たらない。

 

「さて」

「焼き尽くせ!」

「ピッピ、頑張って! なんとか、どうにかして……!」

 

 サターンのドクロッグによる"かわらわり"で、光の壁が砕かれたユキノオーへ、ジュピターはすかさずスカタンクに火炎放射を撃つことを命じた。

 光の壁の張り直しは間に合うか。小さな体ゆえ普段以上に、全身くまなく毒液を浴びせられて悶えうずくまるピッピには酷な指示。

 懇願するように声を絞り出したプラチナに、ピッピも全身の激痛に耐え、ユキノオーを指差して力を投じている。

 

「あっ、ああっ……!」

「ユキノオー! 負けるな!

 全力全開よ!!」

 

「ッ、ッ……、――――――z!!」

 

 "ひかりのかべ"は間に合ったのだろうか。スカタンクの吐く火炎放射に全身を包まれるユキノオーの姿から、それは判別し難くさえある。

 頼れるスズナの切り札の窮地にパールが動揺する中、スズナは心も体も一歩も退かぬ勢いで強い声を発するのみ。

 その声により、炎に全身を包まれた中でも目を光らせたユキノオーは、冷たい体の内で冷めやらぬ闘志を燃やし、その両腕を振り上げる。

 

 あられが降り注ぐ中での"ふぶき"は、ドクロッグとスカタンクに纏めて襲い掛かるものであり、それを受けたスカタンクが火を吐けなくなって吹き飛ばされる。

 パールとプラチナもその激しい吹雪の余波に両腕で顔を覆い、凄まじい冷気に肌が痛く感じるほどの極寒冷気だ。

 そんな吹雪がようやく晴れた中、身纏いの霜が溶け、体毛が焦げたユキノオーは、まるで無傷であるかのように堂々と胸を張って立っている。

 "ひかりのかべ"はそこにあった。だが、それにしてもその貫禄ある姿は、確たるダメージを受けてなお屈さぬ王者の風格の如く雄々しきもの。

 

「く……!

 スカタンク、まだ戦える!?」

「ッ…………!」

「いいわ、その調子!

 あんたの頼もしいところよ!」

 

「それだけトレーナーとしては見上げたものなのに、どうしてろくでもないことにばかり力を費やすのかしらねぇ……!」

 

 吹雪を受けたスカタンクへのダメージは大きい。一度は地面に腹をつけて、倒れたにも等しい姿勢だったほどだ。

 そもそもスカタンクは、ここに至る前にダイヤとのバトルで、ダイヤのポケモン達を軒並み打ち倒している。

 複数の相手をたった一匹でなぎ倒した実力は特筆ものだが、その戦いの中で負ったダメージや疲労も決して小さくはない。

 流石にスカタンクも限界が近いのだ。それでもジュピターの声に応えて、立ち上がる姿には不屈の精神さえ感じさせる。

 

 スズナだってわかっている。

 自分達との戦いの前から疲労を溜め、その上でここまで戦い抜いているスカタンク。きっと、ドータクンだって同様に疲れていたはず。

 それでも高威力の吹雪を耐えきって、まだ戦おうとするスカタンクの強さは疑いようもない。本当に、本当に強いポケモンだ。

 そんなスカタンクを育て上げたジュピターなのだ。こんな形で敵対する相手でなければ、敬意すら払えるトップトレーナーには違いないはずなのに。

 やりきれなさ混じりの怒声を発するスズナの感情は、そばでその声を聞くパールに、スズナへ振り返らせさえする。

 

「あははっ、正義のジムリーダー様の世間知らずな所が出たわ!

 あたし達があたし達の力をどのように振るおうが勝手でしょ!」

「余所の地方を回ってジムバッジを集めていたんですってね……!

 さっきの技はその中でスカタンクに覚えさせた技でしょう?

 シンオウ地方のスカタンクが見せた例なんて一度もないものね!」

「ええ、習得させるには苦労もしたけどね。

 あたしのスカタンクってば優秀でしょ?

 あたしの言うことなら何でも聞いてくれる、そして応える地力がある。

 こんな強いパートナーにあたしが恵まれたということは、天意もまたあたし達の味方をしてくれてると思えない? 薄っぺらい正義を振りかざすお子様達?」

「……悪党ぶっても、自分のポケモンは大好きなのね。

 どうしてそれで、あたし達とわかり合えないのか不思議で仕方ないわ」

 

 スズナが言葉を発すれば、応じる形で煽る言葉を返すジュピターは、これ幸いとばかりに口が回る。

 しかし、スズナは返す言葉も強い。皮肉だって含む。優しい性分が勝ってしまうナタネとは違うのだ。

 

 腹立たしい目でジュピターを睨みつけながらもスズナは、積もった雪から顔を出したドクロッグを見て、こいつこそ厄介だと見定める洞察眼も怠らない。

 広範囲攻撃で逃げ場の無い吹雪から、雪なだれによって出来た積雪に自ら潜り込む形で、冷気の風圧から身を逃がす知恵がある。

 雪の中に自ら潜り込んで身体が、ここからの戦いにまったく無関係とはいかぬほど冷えたことは確かだろうが、それでもダメージを最小限に抑えているのだ。

 スカタンクは難敵だ。だが、それ以上にあれは。その認識も失ってはいない。

 

「あははは、わかり合えるものですか!

 その培ってきた圧倒的な力を、付き合うのも馬鹿らしく感じるような綺麗事に尽くさんとするジムリーダー!

 あたしに一度怖い目に遭わされながら、また立ち向かってくる世間知らずのクソガキ!

 それに加えて、これだけトレーナーとしての才覚に恵まれながら、学者を目指そうなんて考えてる世間知らずの子供!

 相容れるわけがないわ!」

「っ……!」

 

 ぶわ、とプラチナの体温が上がるような煽り言葉だ。

 ジュピターも賢しいもので、自分の煽りに対等に渡り合う言い返しが出来そうなスズナと争うより、煽る矛先を未熟な子供達に切り替える。

 口喧嘩で絶対に負けない相手だ。言いたいこと言いたい放題の悪、高潔な思想を論駁しようとすれば言葉に制限のかかる正義の側。

 屑と正義の言い争いなど、失うもの無しの悪が絶対的に有利なものだとジュピターは知った上で、煽る相手を未熟な子供に変えている。

 

「プラッチ……!」

「……悪の組織って、つまらないことをいちいち調べてるんだね」

 

「あははは、その程度の返ししか出来ないのね!

 誰にも支持して貰えない、学者の夢! 肉親にさえ!

 だってあなた、トレーナーとしての大成を目指した方がよほど有望だもんね!

 みんな周りはわかってるわ! 愚かな夢だとみんな思ってる!」

 

「……ユキノオー」

「スカタンク、頑張って?

 火炎放射よ」

 

 プラチナの事情を知らぬスズナでも、ジュピターがプラチナの何かを知り、いじめていることだけはわかる。

 戦いを強引に再開させる指示を発するスズナに応え、ユキノオーはスカタンクに冷凍ビームを撃つが、スカタンクの火炎放射がそれを相殺する。

 

「っ、ニルル!」

 

 くい、と顎を動かしたサターンが、ドクロッグをユキノオーに差し向ける。

 名を呼ばれたニルルは、ドクロッグに泥爆弾を発射して、退かせる形で水を差させない。

 いっそ、当たれば大きなダメージなのに。パールもニルルも、すっと退いて無傷で泥爆弾を躱すドクロッグの脅威性を肌で感じつつある。

 声高のジュピターとその相棒たるスカタンクに視線や耳が集まるこの状況下でなお、ドクロッグの存在感は色褪せない。むしろ、静かなのに、強くすらある。

 

「自身の才能を見誤って、無駄な道に進む気持ちってどう?

 あなたとあたし、いつかわかり合えるかもしれないわよ?

 それとも夢破れてなお、子供っぽい理屈を貫いて、お前とは違うんだって唱え続ける?

 それこそ泥沼よ?」

 

「っ……うるさ……」

「うるさい!! 誰にもじゃない!

 私が信じてるし応援してる!!」

 

 きっと、傍目が思う以上にプラチナには心乱されるジュピターの言葉だったはずだ。

 学者になりたい夢。親にも反対された夢。

 それでも突き進んできた道なれど、それで大成できなかったらどうしよう。

 挫折し、夢潰えた時、費やしてきた努力や時間はすべて無駄になるのではないか。夢を追う者が誰しも不安に駆られる、最も恐ろしい結末だ。

 奇しくもジュピターの過去を聞いて間もないプラチナだけに、元からあったその不安がいっそう身近にも感じられるそれ。

 賢いはずの彼をして、うるさい黙れ、という乱暴な言葉でしか咄嗟に対抗できぬほどには、当人が思う以上に心かき乱されるつぼを突かれていたはずだ。

 

「パール……」

「私はずーっとプラッチの味方だよ! プラッチのやりたいこと、全部応援する!

 バカな私のやること、怒りながらでもずっと支えてきてくれたプラッチだもん!

 つらくなっても絶対、ぜったい私が立たせる! 諦めさせない!

 立派な学者さんになるまで、私がずうっと支えてみせる!」

 

「あははは! バカはどこまでいってもバカよね!

 あんたの非力な腕で、あんたよりずっと賢い子の夢をどれだけ支えられるの!

 どうせ道を間違えてる方向に引っ張るだけよ!」

「っ……!」

 

 ジュピターの姦言は徹底的だ。

 我慢ならず横入り気味に入ってきたパールにも、彼女が最も弱る言葉を的確に選んでいる。

 未熟さ、劣等感、それを痛烈に突く。それだけでいい。

 痛がるプラチナを守るために言葉を紡ぐパールが、彼を敬い、見上げていることを見受ければ、突くべき弱みはそこだとジュピターも確信できる。

 

「二人一緒なら夢だって叶えられるとでも? 馬鹿が考えそうなことだわ!

 結局そんな理想論って、お馬鹿さんが足を引っ張って共倒れになるのよ!

 どうせ今だって、あんたのわがままでその子まで巻き込んだんでしょ?」

「うぐぐぐ……!」

「よくその口で言えたものね!

 あんたがオトモダチの夢を支えるなんて、とんだ夢見がち……」

 

「っ、っ……うるさぁーーーーーーーーーーいっ!!!!!」

 

 おやおやびっくり、スズナもプラチナもジュピターも。サターンですら少しびっくり。

 全力で大きな声を出せば、あのうるさいダイヤにも勝てるほどの大声を出せるパールだ。

 怒鳴り声一つで、一瞬の沈黙世界を作れるのは強みかもしれない。発する言葉は稚拙だが、案外馬鹿にできたものでもない。

 

「わっ、悪者のイジワルに言われたぐらいで諦められるかーっ!

 やめろって言われてやめちゃうほど、私だって軽い気持ちで応援してないんだっ!

 プラッチに手伝ってって言われたら何でもするし、あなたみたいなひどい人がプラッチいじめるなら絶対ぶっ飛ばしてやるっ!

 邪魔なんてしない! 絶対、プラッチのこと全力で支えてみせる!」

「……話が通じないわ、この子」

「通じるかーっ! あなたのことはもうわかってるんだぞっ!

 意地悪なこと言って、私達を困らせて、都合よく勝てればそれでいいんだっ!

 ワルモノめっ!」

 

「ぷっ、くくくっ……」

 

 スズナは思わず吹き出してしまった。

 めちゃくちゃなことを勝手に口走りまくるパールだが、主張の芯は正しいところを突いている。

 心乱さんとする言葉で煽ってくる奴の言うことなど無視するが最善、要するにスルーが一番。

 誰でも知っていること。それでいて、言われて嫌なことを的確に言われてしまうと難しいこと。まして、子供にはかなり難しいことのはずだ。

 痛い所を突かれたのに、この結論に辿り着けたパールの姿は、挑発に乗りかけていたスズナには自嘲の想いすら湧く。

 

「困ったな、ジュピター」

「あたしが思った以上に単細胞で脳足らずの子だったみたいね。

 皮肉や煽り抜きで、あんな子に付き纏われるなんて、男の子の方も苦労が絶えないでしょうねって同情するわ」

「うるさいっ! 聞こえないっ!

 ワルモノでウソツキでひどい大人っ! あなたの言うことなんて聞くかーっ!」

 

 煽り抜きなんて言っているが煽っている。ちゃんとパールが不安になりそうな言葉を選んでいる。

 でも、もう効かない。ふしゃーと鳴きまくるパールの耳は、もうジュピターの言葉は真に受けるに値しないものだと完全認定している。

 サターンが仮面の下でちょっと笑っているぐらいだ。ジュピターの十八番が、あんな一番頭の弱そうな子に破綻させられるとは、と。

 むしろジュピターが身内に対し、なに笑ってるのよと少し頭にきているぐらいである。

 

「プラッチー! なんか頼りないぞっ!

 もっとがんばれー!」

「……なんかもう、パールに説教されてちゃ僕もおしまいな気がするなぁ」

「なんだと!」

 

「はいはい、そこまで!!」

 

 ニルルがなんだか得意気に、"いばる"素振りでふへっと笑ってジュピターを煽っている。この子もこの子で優勢を見ればしたたかなもので。

 どうだうちのご主人、頼りないとこもあるけど今日はお前にとって厄介だろ、というその顔、ジュピターの癇に障る。

 この流れは断ちたくない。したたかなのはスズナもそう。

 手を叩いて大きな音を立て、大きな声で、苦笑気味のプラチナと壊れたオモチャ化しているパールを、戦いに集中するようタクトを操る。

 

「迷いが晴れたんならしっかり頼むわよ!

 絶対あいつら、叩きのめして警察に突き出すんだから!」

「はいっ! 絶対負けません!」

「うん、吹っ切れた……!

 余計なこと考えるのはやめにします!」

 

「サターン……!」

「応答はあった。あと少しだ。

 粘りきるぞ。私もそれなりの立ち振る舞いをしよう」

 

 精神的に持ち直してしまった相手を前に、ジュピターが気にしているのは、ミッションに挑んでいるマーズの現況だ。

 トランシーバー越しの言葉による返事は、サターンの手元に返ってきていない。それだけ余裕が無いのだろう。

 それでもあと少しという明確な返答はあった。マーズもトランシーバーを叩いて、そうした返答は逐一返している。

 

 サターンはその実、余裕のない状況だとわかっている。

 ジュピターのスカタンクは連戦の末にかなり消耗している。スカタンクを倒されればジュピターの手元にはゴルバットしいない。

 スズナのポケモンには相性が悪すぎて、最後の一匹ながらあてにならない。

 サターンもまた、ドクロッグの後にはユンゲラーしかいないのだ。

 自分のドクロッグが倒される心配はしていないが、流石にジュピターが戦えなくなり、1対3の構図では楽観的な見方は出来なくなる。

 スカタンクが戦えるうちにマーズが任務を果たしてくれないと、いよいよ風向きが悪くなるという実状は否定しようがない。

 

「ドクロッグ、もう少し積極的に戦って貰うぞ。

 多少の怪我は我慢して貰うからな」

「――――♪」

 

 待ってましたとばかりにドクロッグは喉を鳴らした。

 時間稼ぎが目的であるこの戦い、積極的に勝負を決めにいくべき場面ではないと、ドクロッグはサターンの意を汲んで従ってきた。

 だが、もう我慢する必要はないようだ。暴れていい。

 我が身のリスクが高まると同時、腕の見せ所だと燃えるドクロッグの眼差しは、スズナ達に強い緊張感を持たせるには充分なものがある。

 

 スカタンクは難敵だ。だが、底を見せていないこのドクロッグの怖さはその上だ。

 スズナと、プラチナと、パールの共通認識。

 形の上ではこちらの頭数が多い戦況でも、この優位さえ覆されるのではという危惧を抱かせる気迫めいたものを感じさせてくる強者である。

 

「ニルル、頑張ろうね……!

 きっと、あなたが切り札だよ!」

「――――z!」

 

 ドクロッグとスカタンクの弱点を突ける地面タイプのポケモン、トリトドン。

 この勝負の鍵はそこにあり、すなわちそのトレーナーの自分が重要な役割にあることを、パールは正しく認識している。

 嫌な意味で心臓がばくばく鳴る。プレッシャーを感じもする。

 パールの正念場だ。啖呵を切ってみせた己の熱が逃げないよう、パールはぱちんと両手で自分の顔を叩いて気合を入れ直していた。

 絶対に勝ちたい。悪者達の想い通りの結末なんて嫌。そこにあったのはただただ純真なその想いだ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。