ポケットモンスター・パールストーリー   作:ましゅ

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第12話   怪しい二人

 

 

「ふー、抜けたぁ。

 やっぱりズバットのいる所はヤだなぁ」

「――――」

「あはは、もう大丈夫」

 

 ヒョウタとの勝負に勝った翌朝、パールはクロガネシティを出発し、今クロガネゲートを抜けたところである。

 昨日は、時間の早いうちにジムリーダーに勝利して、その日のうちにクロガネシティを出発したかったパールだが、ジム戦が想像以上の激闘で。

 ピョコもパッチも疲れているだろうなと思ったら、次への旅を急ぐことなど出来ず、ポケモンセンターで一晩ゆっくり休む判断に至ったのだ。

 

 戦後のヒョウタに、次に目指しやすい近いジムはありますかと聞けば、ハクタイシティが一番行きやすいんじゃないかと教えられた。

 クロガネシティからそこへ行くには、一度コトブキシティに戻り、そこから北上していく道のりとなる。

 パールは教えられたとおりに倣い、クロガネゲートを抜け、コトブキシティへ向かう足。

 ズバットの巣窟でもあるトンネルを抜け、そばで頼もしく目を光らせてくれていたパッチと共に、揚々とした足取りでコトブキシティへと進んでいく。

 

「でも嬉しかったね、パッチ。

 ピョコもそうだけど、ジムリーダーさんに褒めて貰えたもんね」

「――――♪」

「ダイヤよりも筋がいいかも、なんて言われたら私も嬉しくなっちゃう。

 あいつ先に先に行っちゃってると思うけど、すぐに追いついてびっくりさせてやろうね」

「――――」

 

 パールは今朝から機嫌が良い。

 昨日、ヒョウタに勝った後も彼といくらか話したのだが、ついついパールは前日ヒョウタを破ったというダイヤのことを尋ねたくなった。

 彼も強かった、彼のポケモンはよく鍛えられている、戦略も指示も合理的で将来性溢れる少年だった、とはダイヤに対するヒョウタの寸評。

 いわく、ヒコザルに岩タイプのポケモンによく効く"いわくだき"を覚えさせ、きちんと岩タイプ対策を立ててきていたそうだ。

 それを聞いたパールもなんだか嬉しかった。なんだかんだで憎めない幼馴染だもの。

 先んじて進んでいる彼に早く追い付きたい気持ちはあるけれど、順調にいっているらしいことを聞けば、やっぱり心温まる想いの方が勝る。

 自分には考えも付かなかった手段で、強い相手を打ち破ったらしいダイヤの立派さを聞いて、私もそうなっていければと熱くなれる気持ちもある。

 

 しかしヒョウタは、パールにも良い言葉を向けてくれた。

 彼に比べればいっそう粗削りだけど、危うくなっても諦めず、勝利を導く戦い方と解答を導き出した、発想力とその挫けなさは見事だったと。

 追い詰められた状況でも決して諦めなかったパッチの根性や、立派に先鋒を務め果たしたピョコの強さも併せてだ。

 知り合いらしい彼とどちらが上かなんて語れないけど、君にも彼には無い強みがありそうで、一ヶ月後、一年後にはどうなっているかわからないと。

 先が楽しみなトレーナーだ、今後も頑張って欲しい、応援しているよとパールに言ってくれたのである。

 二日連続で挑戦者に負けた悔しさより、大器の予感がする若きトレーナーと戦えたことへの喜びを表す、そんな笑顔と共にだ。

 望外でさえあった賞賛の意を伝えられ、パールはすごく嬉しくて、その日の夜は幸せいっぱいの気持ちで眠ることが出来た。

 今日も引き続きご機嫌だ。それぐらい嬉しかったのである。

 

「ふう、ありがとう、パッチ。

 それじゃ、一回休もうね」

「――――♪」

 

 さて、道中はあまり野生のポケモンに絡まれにくそうな道を通り、コトブキシティに到着だ。

 ここまでパールを護衛するかのように、きちんと視野を広くしながら共に歩いてくれていたパッチを、ボールの中に戻して休ませる。

 都会のコトブキシティはクロガネシティ以上に人通りが多く、一人で歩いた方がいいだろう。

 何度来ても都会だなぁ、なんて思いながら、パールは昼時のコトブキシティを北に向けて進んでいく。

 

 コトブキシティの北から出れば204番道路に出て、"荒れた抜け道"と言われる場所を抜けると、ソノオタウンに着くらしい。

 そこからさらに出発し、205番道路を抜けていけば、道中に広がる"ハクタイの森"を経て、ハクタイシティに辿り着く。

 目指す先も、その過程にあるものも、すべてパールにとっては未踏の世界。

 旅というものはわくわくする。ましてその道半ばには、初めて見るポケモンもいるかもしれない。

 ナナカマド博士の言っていた、今でもポケモンに会うたびワクワクするという言葉を思い出して、パールは新天地への足を弾むように進ませていた。

 

「――あれっ?

 もしかして、あれって……」

 

 せっかちダイヤの程ではなくとも、新たなる世界が楽しみで足早になりつつあったパールが、コトブキシティ北の出口に至るのは早かった。

 しかし、町の出口には知った顔の二人と、知らない大人が二人いる。

 ナナカマド博士とプラッチ(違う)が、おかっぱ頭で妙なボディスーツに身を包む大人二人に、随分近く詰め寄られて何か話しかけられている。

 

 見知り合いを見れば声をかけるパールだが、知らない人と話している姿を見ると、割って入っていいものだかわからず、足を止めて遠巻きに様子を見る。

 ナナカマド博士とプラチナ、それに向かって話しかける二人の変な大人の表情は、四人いずれも少々むすっとしたものだ。

 あまり良い空気ではなさそう。そう見えると、余計に近寄りがたい。

 

「強情な方ですねェ。

 あなたも、あなたの研究成果が世の中のために活かされればそれは喜ばしいこと、違うデスか?」

「ウム」

「私達にはあなたの研究成果を、大いなる目的のために活かすチカラがあるデース。

 ですから我々に、ご協力頂きたいのデス」

「ウウウム」

 

 はじめの問いにはとりあえず頷いたナナカマド博士。

 でも、協力を求める男達には、無表情のまま首を二度振る。

 別に迷っているわけでもなく、お断りの意志堅し。

 

「だから、博士の研究を何に活かすつもりなのかって聞いてるじゃないですか。

 それを話してもくれないのに、はいわかりましたなんて言えませんよ」

「おおぅ、それは言えまセーン。

 正確には、私達のリーダーの目的は崇高ゆえ、"したっぱ"の我々には多くを知らされていないのデース」

「だったら世の中のために活かしてくれるかどうかもわかんないじゃないですか……」

「いいえいいえ、心配はいらないデスよ?

 ナナカマド博士のような高潔で偉大な博士の研究成果が必要な目的など、良い目的にしか活かされないと信用できるはずデース」

「ウム」

「博士もまんざらでもない感じの返答やめません?」

 

 ちょっと近付いて聞き耳を立ててみると、変な格好で髪型を揃えた変な大人だなぁという印象の二人、余計に変人。

 片言なのはもういっそたいした問題じゃない。超胡散臭い。くっさくさ。

 ナナカマド博士はマイペースにあしらっているようだが、相手にも身内にもまともなツッコミをしているプラチナだけがまともな会話をしている。

 大人ってみんな結構しっかりしてるものだと思ってるパールにとって、あんなヘンな大人は初めて見る。

 

「お子様は黙ってて下サーイ。

 ナナカマド博士、我々に協力して下さいませんか?

 シンオウ地方に来られて最初の論文、読ませて頂いたデース」

「ウム」

「我々、素晴らしい学者様だと思ったデース!」

「私達はもはや、あなたのファンと言っても過言ではないデース!」

「ウム」

「ですから、ご協力頂けませんか?」

「ウウウム」

 

 調子を合わせて話を聞いていても、結論だけは変わらず首を振るナナカマド博士。

 徹頭徹尾打っても響かないナナカマド博士と、お調子口調で絡んであっさり躱される変な人達。

 私はいったい何を見てるんだろうと、パールもふへっと変な笑いが出る。

 

「オーゥ、これだけ言ってもダメですか?」

「仕方ありまセーン!

 こうなれば実力行使デース!」

「ウム」

「いや博士、ウムじゃなくて」

「我々の言うことを聞かないのであれば、そこの助手を痛めつけマース!」

「流石にあなたを傷つけるわけにはいかないデース!

 そこの少年の身の安全が惜しければ、我々に協力するのデース!」

 

「あっ、悪い奴だ!」

 

 謎の男二人はモンスターボールを握り、脅迫文句を口にした。

 怪しい変な大人止まりだった印象も、ここまで言うなら悪者認定で結構。

 そして、見知った二人にあんなことを言う怪しい連中の姿を見てしまっては、出方を迷っていたパールも足が前に出る。

 

「やっぱりろくな人達じゃないですね……!

 博士、退がってて下さい! 僕なら大丈夫ですから!」

「ウム」

「生意気なボウヤデース!

 それでは痛い目に……」

 

「プラッチ!!」

「えっ、はっ!? パール!?」

「なんか困ってる!? 助けるよっ!」

 

 飛び込んでくるように参じたパールの姿には、プラチナの方が思わぬ参入者にびっくり。

 パールは手短に意思表示。話が早くてよろしい。

 

「えぇと……! あぁ、うん、お願いするよ!

 こいつら、絶対悪い奴だからさ! 撃退する!」

「オッケー!」

「行くよ! ピョコ!」

「頼むよ! ポッチャマ!」

 

「オー! やんちゃガールが増えたデース!」

「関係ありまセーン! 所詮は子供デース!

 二人まとめて怖がらせてやりマース!」

 

 パールとプラチナはこの状況から自分達を守ってくれるであろう、頼もしいパートナーのボールのスイッチを押して喚び出す。

 怪しい男達も、プラチナに差し向けようとしていたポケモンの入ったボールのスイッチを三度押し。

 ピョコとプラチナのポッチャマと対峙するのは、怪しい男達のズバットとケムッソだ。

 

「ぴゃ!?」

「っ……!

 ポッチャマ! ズバットに"あわ"!」

 

 パール戦闘不能。

 そう離れていない場所にいきなりズバットが現れて、あばばばと後ずさって距離を取る。さらに足をもつれさせて、尻餅ついてしまう始末。

 あんなに勢いよく推参したくせに、ズバットだけはやっぱり駄目らしい。

 ズバットの姿を見た瞬間、あぁこれはパールが駄目になりそうだと察し、指示が無くても頑張るぞと即時決意するピョコったら立派なものである。

 

「むむむっ、ケムッソ!

 あのポッチャマに糸を吐……」

「ケムッソにもだ! 邪魔をさせないように!」

「――――z!」

 

 でも、もっと立派な子もいる。

 明らかに取り乱したパールの姿を見て、やっぱり女の子だ、大人の出してくるポケモンはやっぱり怖いんだろうとすぐに考えて。

 一秒でも早くこいつらを撃退して、安心させてあげようと気合を入れている。

 ポッチャマに、勢いのある泡を無数に吐き出すことでズバットに撃ち込ませ、そちらを怯ませたらケムッソにも泡を放つよう指示。

 パールがナエトルに指示が出せそうにないので、自分とポッチャマだけで勝負を決めてやるという勢いである。

 

「えーいズバット、根性出すデスよ!

 ポッチャマにきゅうけつ……」

「次はズバット! はたいて叩き落とせ!

 ケムッソに大きめの泡一発! それに続いて"つつく"!」

 

 指示の早いプラチナである。ズバットを使役する怪しい男の、根性出せの文言が時間の無駄すぎるほどプラチナの指示が早い。

 ポッチャマに噛みついて"きゅうけつ"しようと迫りかけたズバットに、地面を踏み切って跳びついたポッチャマが、ばしんと強烈な平手を振り下ろす。

 噛みつかれすらせず空中でズバットを叩き落したポッチャマは、指示されたとおりケムッソにも大きめの泡を一つ発射。

 既に何発かの泡を受けた後、なんとか立て直した直後のケムッソに、追い討ちのように飛んできた泡が衝突、はじけて再び怯ませる。

 勢いよく走っていくポッチャマは、そのままケムッソにくちばしを突き出して、突進めいた勢いのままケムッソを突き飛ばした。

 

「ポッチャマ退がって!

 まとめて泡で押し返せ!」

 

 あぁこれ俺のやること無さそう、と、ピョコが前足で頬をくしくししながら眺める中、指示どおり少し位置を下げたポッチャマが泡を撃つ。

 広がるように放たれる泡は、ズバットとケムッソにべちべちと当たり、たまらずズバットとケムッソは一目散。

 怪しい男の後ろに隠れてしまう。無理無理、あいつ強過ぎ、逃げましょご主人、という態度だ。精神的に戦闘不能である。

 

「オー! なんということでしょう!

 こんなお子様に我々がいてこまされてしまうとは!」

「おーおー、ズバットもケムッソも可哀想に。

 無茶をさせてしまったデス、ボールに戻るデスよ」

 

 案外身内には優しい奴らである。

 負けたポケモンをなじりもせず、ボールのスイッチを押して戻すのみ。

 

「うーむ、仕方ありまセーン。

 今日のところは撤退デース」

「我々"ギンガ団"は、世界に優しく、人にもポケモンにも優しい組織デース。

 だけど、これからも諦めまセーン」

「ナナカマド博士、首を洗って待っているデース!

 いつかは我々に協力して頂きマース!」

「ウウウム」

「ブレませんね、博士は……」

 

 流石に手持ちのポケモンがやられてしまったら、悪党連中も撤退するしかない模様。

 諦めは悪そうだが。そして、どうせ言っても聞かない奴らであろうことは明らかなので、ナナカマド博士はマイペースに首を振るのみ。

 協力なんてしないぞ、という意志表示は頑固一徹。こういうところは譲らない。

 

「お嬢さん、お尻大丈夫デスか~」

「傷薬塗って安静にするデスよ~」

 

「っ……ばかーーーーーっ!

 こんなことする、あんなこと言う人が、何が世界にも人にも優しいなのよーっ!」

 

 走って撤退していく前に、お尻をさすって立ち上がるパールの方へ、ひょいと手を挙げ気遣う言葉を向けてくる奴ら。

 あぁ白々しい奴ら、嫌な大人。あいつらのせいでお尻打ったのに。

 余計にむかついて、感情任せに抗議するパールの至極まともなツッコミが、怪しい男達の去っていく先の204番道路の彼方までよく響いていた。

 勝った側にいるのに、一泡吹かせられた側の捨て台詞みたい。息巻いて参戦した割に何も出来なかったら、何を言ってもこうなってしまう。無念。

 

 怒ったら本当に大きな声を出せる女の子だ。プラチナがびくっとしたぐらい。

 ナナカマドですら、ぴくっと眉が動いたぐらいである。この何事にも同時無さそうな熟年の博士ですら、少し驚かされたようだ。

 ピョコはくぁ、とあくびしながら聞いていた。のんびりした顔をしている割にまあまあ豪胆である。

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