ポケットモンスター・パールストーリー   作:ましゅ

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第147話  VSデンジ

 

 

「ひええええ~! なんじゃこりゃ~!」

 

 気合充分にナギサジムを訪れたパール。

 まずは玄関口でデンジと改めて熱い握手を交わし、いい勝負をしましょうと熱意を表し合って。

 そしてバトルフィールドへと続く扉が開き、その先の光景を目にしたパールの第一声がこれである。

 

 どこのジムでもそうなのだが、バトルフィールドは多数の観客が入って観戦できる構成になっている。

 この観客席が埋まるのは、ジムリーダーが"本気のバトル"をする時ぐらいのものなので、ジムバッジを賭けた勝負で観客いっぱいになることは滅多に無い。

 ところがどっこい、なんてこったい、今日は客入り超満員。

 デンジとパールがバトルフィールドに姿を見せるや否や、超満員の観客の大歓声が二人を迎え入れる始末。

 さあパールが硬くなる。こんな大観衆の前でバトルなんて。

 

「いやー、ここまで集まるとは……

 確かにオレも、今日は最後のジムバッジ獲得を目指す挑戦者とのバトルがあるって宣伝はしたけどさ」

「なんてことするんですかっ!

 こ、こ、こんな沢山のお客さんの前で試合なんて、ききき緊張して……

 はっ!? これも心理戦というやつ!? こすい!」

「いやいや、どうせ君もしオレに勝てば、ポケモンリーグでチャンピオンに挑むんだろ?

 その日はどうしたって、大観衆の前での試合になるんだからな。

 だからオレも、最後のジムバッジ獲得を目指すトレーナーの相手をする時には、ある程度の宣伝を意図的に利かせもするんだけどさ」

 

 実はこの辺りの配慮は、どこのジムでもやっていることである。

 最後のジムバッジを獲得すれば、次に控えるのは大観衆の前での大一番。

 それに事前に多少は慣れさせるために、最終戦とあれば客を呼ぶという暗黙のノリは、ジムリーダー全員に共有されているらしい。

 客前試合の好きなマキシなんかは、そんなの関係無しに客を入れたがる傾向にあるが、自分が挑戦者にとっての8人目となれば、みんなこんな舞台を作るのだ。

 極論、最もストイックなスモモでさえ、自分が挑戦者にとっての8人目のジムリーダーであった日には、ビラを配り歩いてでも客を入れに走るそうである。

 地元の英雄であるジムリーダーというのは、そうして地元のポケモンバトルが好きな人に、熱戦をお届けするのも大事な仕事というわけだ。

 

「やっぱり今日の挑戦者が、フタバタウンのパールだって宣伝したのが効いたかなぁ……

 本来の収容人数以上に観戦希望者がいて、ちょっと詰めて座って貰ってるぐらいだし」

「!?

 な、なぜ私がフタバタウン出身なのをっ!?

 ジムリーダーのリサーチ能力こわい!」

「いやいや、お前さん今やかなりの有名人だぞ。

 ギンガ団相手に何度も立ち向かった少女の正体ってパールだろ」

「……………………ちがうっ!

 わたしではないっ!」

「否認してもダメだ。

 もうみんな知ってるから」

 

 今さら隠せることだとでも思ってるんだろうか。

 リッシ湖でもエイチ湖でも、上空からの撮影カメラにばっちり撮られ、生放送でお茶の間にその姿は放映されていたというのに。

 ギンガ団の野望を阻むため、テンガン山の決戦に挑んだシロナにも、協力者がいたという話ぐらいは鼻の利く記者達にも勘付かれているし。

 ナタネがアカギのマニューラで瀕死の傷を負った際にも、彼女の傷が治ってからとはいえ、多少の取材陣がナタネに話を聞きに行ったりもしているわけで。

 そしたらあのジムリーダーナタネが、最近ごひいきにしている将来有望なトレーナーの存在も、足で稼ぐ取材陣にはいつか必ずわかる話で。

 ゴシップこそがメシの種という人々の情報収集能力を以ってすれば、これだけギンガ団絡みの事件が続いた以上、パールのことなど浮き彫りにされて当然だ。

 彼女らの名誉のために付け加えるなら、ナタネもシロナも、スモモとてパールのことは取材されるにあたって口になどしていないのだが。

 とはいえ三人とも内心では、時間の問題だとは思っていただろう。情報で稼ぐ人達の執念ったら凄まじいんだから。

 

「ギンガ団の野望を食い止めたヒロインの一人が、最後のジムバッジ獲得を目指して表舞台に帰ってきた!

 ま、バズるよな」

「わっ、私は別にそんなっ……

 あわわわわわ、ももももしかして、ちゃんと凄いバトルしないとこの大観衆がガッカリするパターン……?」

「かもな。

 君の鮮烈な戦いぶりを期待して集まってくれてる観客だからな」

「そんなばかな~!?

 私なんてただの初心者トレーナーなのにぃ~!?」

 

 バッジ7つ集めて今さら自称初心者なんて呆れたものだが、パールは自己評価がくそ低だからしょうがない。

 未だ勝ってきたのはみんなのおかげ。ポケモン達が強いだけ。

 偏った価値観に聞こえるかもしれないが、それは彼女の特殊な経緯にも由来するので、ある意味では仕方ないのかもしれない。

 ギンガ団アジトでサターンに命すら奪われかねないところを、頑張れ頑張れ叫ぶばかりのだけで、パッチやミーナに救って貰ったのなんかもいい例だ。

 着実にトレーナーとしての力量をつけている一方で、それと並列し、ポケットモンスター達の底力に救われてきた経験が多すぎるのである。

 そりゃあいつまで経ったって、自己評価を高めるよりも、みんなのおかげでここまで来たという想いが強まる一方に傾向が偏るというものだ。

 

「さあ、泣き言はここまでだ」

「あいたぁっ!?」

「オレも君とのバトルは楽しみにしていたんだ。

 ましてどうやら今日の客は、君が華々しく勝つところを、言い換えればオレが負ける姿を期待して集まっている。

 ジムリーダーとして不本意とは言わないが、やはりどこか釈然としないものはあるからな」

 

 ばしんとパールの肩を叩き、活を入れてくるデンジの目は、観客の本意に対して不快を感じているような眼ではなかった。

 とはいえ、自分が負ける姿をはなから期待されているという実状に、まあ仕方ないかと甘い納得をするほど萎えた表情でもない。

 最高の挑戦者を迎えているはずだという現実と、それが自らの期待に応えてくれることを心から願う、ポケモントレーナーの本質を表した熱い眼差しがある。

 弱い挑戦者が一番つまらない。強き者とのバトルが一番燃える。それに勝つからこそ万感の想いで拳を握りしめられる。

 高みを目指して闘う者達ならば、誰しも共感できる感情のはず。

 

「ナギサジムはチャンピオンロードの玄関口ということもあって、最後のジムに回されることも多いんだ。

 7つのジムバッジを集めてきた挑戦者、腕に覚えのある連中が、意気揚々と挑んでくることが最も多いのがナギサジムだ。

 だが、いざの力量に期待して迎え撃ってみれば、期待外れの寒いバトルしか出来ない奴の多いこと。

 ここまで来られたんだからここも楽勝だろう、なんて気の緩みが、彼ら彼女らをそうさせてしまうのかもしれないけどな」

「うぐ……」

「甘く見てくれるなよ?

 チャンピオンに挑む資質があるのかどうか、それを問うのが最後のジムリーダーの使命だ。

 今までよりも少し強い程度、なんて考えなら、容赦なく叩き潰させて貰うからな」

 

 男前な笑顔を浮かべ、攻撃的ではない態度ながら、その言葉使いはかなり強い。

 ジムリーダーの仕事は負けること、有望なる若者を送り出すことが使命とはいえ、軽んじられて面白い練達者などそうそういまい。

 パールの心に一抹でも緩みがあるなら、それを締め直すため、強い釘を刺すのもまたデンジの本意。

 そこには、驕りや慢心など一つも混じらぬ、後腐れ無き全力のバトルをしたいという純然たる想いがある。

 

「もう一度言うぞ。何度だって言いたいぐらいだ。

 最高のバトルをしよう。二度目は無い」

「……………………はいっ。

 約束、します」

「ふふ、声が小さいぞ?

 ナタネから聞いている、声のでかい子というのは嘘だったのか?」

 

 ナタネさんったら余計なことまでべらべらと。

 恥ずかしいところを指摘されてかあっと顔を赤くするパールだが、それはそれで彼女にとっては良い傾向。

 がちんごちんに緊張で固まっていた時よりも、普段の彼女に戻りつつある。

 

「っ、っ~~~~……!

 はいっ! がんばりますっ!

 ぜったい、いい勝負にしますねっ!

 そんで、私達が勝ってみせますっ!!」

「よーし、それでいい!

 よろしくな! 胸を貸すし、胸を貸して貰うからな!」

 

 今一度、ぐっと握手を交わす二人は、その眼差しをもう一度ぶつけ合う。

 若き挑戦者の熱き魂に期待するデンジの瞳と、しゃにむに緊張を振り払ったパールの猫のような眼光。ふしゃー、ってな声がパールの背後から聞こえる。

 気合充分、それこそ何より。

 二人は大会場へと足を踏み入れ、互いの立ち位置へと歩を進めていく。

 

 いやはやしかし、役者が舞台に立って激戦の開幕を予示する中、観客が熱を帯びてくるこの空気、やはりパールも痺れてくる。

 いくら気合を振り絞ったって、いよいよこの空気を全身で受ければ緊張も蘇る。

 前方離れには対戦相手、それ以上にその後方にも、右も左も観客席いっぱいの人々。

 バトルフィールドのトレーナーポジションに就けば、否応なしに目に入るその光景が、パールの喉奥に生唾を湧き出させる。

 

「パーーーーーーーーーールーーーーーーーーーー!!」

 

「あ……」

 

 とうに汗が滲んでいる手を、結んで開いてしているパールの耳に、大観衆の声を劈いて届く声があった。

 声のした方を向けば、長い旅を共にしてきた親友が、特等席で見守ってくれている姿が目に入る。

 おおよそ彼らしくない大声、それは幼馴染の騒がしいあいつにさえ勝るとも劣らない声ではあったけど。

 それが、この大観衆が発する声に呑まれぬよう、確実にパールにその声が届くよう発した、無理した大声だと理解するには充分であるはず。

 

「プラッチ……」

 

「っ、けほっ……!

 頑張るんだよ、パール……!」

 

 どこもかしこもぎし詰めの観客席、そんな中にあって最前列、隣に一席ずつ空けたプラチナの座る場所はまさしく特等席。

 パールにとって特別な観客である彼を、これだけ余裕の無い席の中でも、そう配慮するジム側の心配りもまた心憎い。

 そして、パールにとって一番いいところを見せたい彼の姿が、はっきり見えたその光景は、ジム側が想像だにしないほど劇的に彼女の心を燃え立たせる。

 

 大一番だと思えば思うほど、パールが今までしてきたように、両手で自分の頬をばっちーんと叩く音は過去最も大きかった。

 音が大きかったのには種があるのだが、それを差し引いてもかなり強くいったのだろう。パールの両頬は腫れたようにすぐ真っ赤。

 その大きな音に驚いた観客がどよめきを発するほどには、彼女の気合は部外者さえ圧倒するものがある。

 

「パール! 聞こえるか!」

「あっ……はいっ、聞こえます!」

「うちのジムは足元の収音装置がマイク代わりになってるからな!

 お互い、声は筒抜けだ! どんなにぼそっと指示したって、こっちには聞こえるぞ!」

 

 電気に溢れるナギサシティ、その中心地たるナギサジムも豊富なエネルギーを活用してハイテク仕様。

 マイクも無しに、パールとデンジの声は拡声されて、会場のお客さんにもよく聞こえる。

 バトルフィールド自体は平坦で特徴の無いナギサジムだが、これは観客向けにはかなり大きな個性である。

 熟練のジムリーダーと、それに挑むトレーナーの指示を、お客さんも決して聞き逃さずに臨場感を味わえる。他のジムには無い特徴だろう。

 これもまた、"最後のジム"となりやすく、レベルの高いトレーナー同士の衝突が多くなる、ナギサジムゆえに発展した個性というものだ。

 

「わかっているな!? 4対4だ!

 最初のポケモンは決めてきているな!?」

「はいっ! この子しかいません!」

「いい声だ! 期待を裏切ってくれるなよ!

 お前がチャンピオンに挑むに値する器だってこと、この目ではっきり見極められる歓びをこのオレに示してみろ!」

「……私の友達は最強です! デンジさんの子達にだって負けません!

 みんなが最高の舞台に立てる資格のある子達だって、必ず見せつけてみせますから!」

 

 さあ、舞台は整った。

 ナタネに聞いていた、己よりもポケモン達の実力を推してやまぬ、彼女の本性を目の当たりにしてデンジの目に火が宿る。

 面と向かって話していた時の、おどおどした少し頼りなさげな少女の姿はもう消えた。

 あどけなさの残る、子供っぽさを絵に描いたようなあの少女が、ジムリーダーの一人にあそこまで言わせる器であることを、この目で確かめられるその歓び。

 ふつふつと沸き上がっていたバトルに対する情熱は、もはやデンジの胸に大いなる炎として蘇っている。

 

 ボールを一つ握りしめたパールの姿を前に、デンジも最初のボールを握り前に出す。

 目を合わせる二人の間に、言葉無く交わされる意志は観客にも明白。

 熱戦を。誰もがそう望んでいる。他ならぬ、バトルフィールドの二人が最もだ。

 

「いくぞ! ライチュウ!」

 

「頼りにしてるからね! ピョコ!」

 

 力強くボールを投げたデンジと、両手で上方へボールを放り投げたパール、二人の声に応えて先鋒がバトルフィールドに降り立つ。

 激しい地響きを起こして着地したドダイトスの姿は、会場に歓声を沸かせるには充分なものだった。

 対するライチュウはそれに比較すれば小柄であり、まして苦手な地面タイプとの衝突とあって、勝負は見えたと感じた目もあっただろう。

 だがライチュウは怯む素振りも見せない。それどころか両拳を胸の前でぶつけ合わせて気合充分である。

 相性不利な相手だろうが何だろうが、任せられた以上はやってやるというその姿、パールも身内のミーナを思い出す。

 ああいう子が頼もしいのだ。ゆえに、敵に回せば警戒したくなる。

 

「まずは派手にいこうか!

 見せてやれ、ライチュウ!」

「――――――――z!!」

 

「はえっ!? うそんっ!?」

「!?!?!?」

 

 デンジの声、ライチュウの初手技、パール仰天、ピョコもびっくり。

 両手を振り上げたライチュウの動きに続いて、その足元から大量の水が湧き出て、あっという間にライチュウがその横広がりな水柱もとい水壁に乗る。

 いくぜー! とばかりに水壁の上でピョコを指差したライチュウの動きに伴って、水の壁は波と化してピョコに迫るのだ。

 ライチュウの"なみのり"だ。ポケモンの技はごく一部、本当に、どういう理屈で成し遂げているのかわからないものがある。

 

 面食らいこそすれ波が自らに直撃する寸前、ピョコは頭を下げて足に力を入れることで、巨体も押し流し得る強い水圧の波撃を受け切った。

 草タイプのピョコは水に一定の耐性を持つが、同時に地面タイプであるため弱みもあり、プラスマイナス差し引いて受けるダメージも小さくない。

 電気タイプの天敵は地面タイプだ。ライチュウが水タイプの波乗りを習得していることは、観客がその派手さに喝采を送る以上の意味を持っている。

 

「ッ――――!」

 

「ライチュウ! 来るぞ!」

 

「あっ、えとっ、ピョコっ、ウッドハン……」

 

 浴びせた波の上、ピョコの背中の樹さえ越えその後方へとまで進んでいたライチュウ。

 水圧に痛みながらも両足を振り上げて二本足立ちになったピョコ、振り返るライチュウ、ピョコのその挙動より早く敵の次の技を予見していたデンジの声。

 背中の樹を急成長させてウッドハンマーで後方の敵を打ち抜かんとするピョコ、波の上から跳躍してそれを回避するライチュウ。

 要するに、ウッドハンマーの発動の瞬間までにその技の名を言えなかったパールが、一番この場で展開についていくのが遅れている。

 想定だにしていなかったライチュウの波乗りだとか、意表を突かれると脆い面はもう、デンジの目にも割れただろう。

 

「――――――――z!」

 

「ええっと……!

 ピョコ、じし……ん、っ……!」

 

 ここでもピョコの行動の方がパールより早い。

 地に降り立つ瞬間のライチュウに間に合うよう、伸ばした背中の樹を崩壊させるや否や、首を引いて両前足で地面を叩き。

 腰を落とした充分に対策した着地でもライチュウが足を取られ、尻餅つくのを耐えるのが精一杯の"じしん"を引き起こす。

 ここでもピョコの行動に指示が追い付けず、自分のポケモンが起こした地震で膝崩れに両手で床をつく、頼りないパールの姿はデンジの目を引く。

 予見できていた地震に先んじて片膝立ちの姿勢を作っていたデンジはこの展開を、自己判断できるドダイトスの賢さを脅威的だと認識するのみ。

 

「ライチュウ、怯むな! 打て!」

 

「ッ、ッ~~~~~~!

 ――――――――z!!」

 

 足元を崩されて身動きが取れず、踏ん張りも利かない状態のライチュウへ突っ込むピョコの体当たりは、地震で無防備化した相手に痛烈な一撃を与えるもの。

 とりわけ持ち前の電気が通用しない地の揺れに一切の抵抗を持てず、まして体重が軽い傾向にあり揺れに弱い電気ポケモンにはいっそう痛烈だ。

 ライチュウもわかっている。わかっていながら尚退かない。

 真正面から凄まじい勢いで迫る、恐ろしささえ孕む巨体の突撃に対してその手を握りしめ、直撃の瞬間に頭を引っ込めたピョコの甲羅に振り下ろす。

 頑丈な甲羅を激走のままぶつける交通事故めいた地震上体当たりに、ライチュウは殴り飛ばされながらも"かわらわり"の一撃を返しているのだ。

 

「っ、えとっ、はっぱカッターっ!」

「ッ、ッ……!

 ――――z!!」

 

「頑張れライチュウ! 撃ち返せ!」

 

 甲羅越しとはいえ鍛えられたライチュウの剛拳で殴られたピョコも一瞬怯んだが、その怯みがパールの指示を間に合わせたと言っていい。

 パールが葉っぱカッターの指示を言い切れたのと、ピョコが撃ったのはほぼ同時。元々撃つつもりだったようにも見える。指示を待たず最速最善を尽くす彼だ。

 突き飛ばされて倒れながらも、辛うじてすぐ立ち上がったライチュウに迫るのは、躱す暇も与えられず飛来する刃の数々。

 頭を抱え込むようにして耐えきりながら無数の傷を負うライチュウだが、歯を食いしばって敵を見据えると、両手を突き出し反撃に打って出る。

 軋む体で両手から放つ、赤白青に輝く目と脳に悪そうな光を発する光線が、思ったよりも早い反撃にすぐさま顎を引き、耐える姿勢のピョコに直撃する。

 

「ピョコ……!?」

 

 電気タイプを絵に描いたようなライチュウが発するその光線に、地面タイプであるはずのピョコがかなり苦しそうな目をしたことにはパールも動揺する。

 電気技はピョコには通用しないはずなのだから。それはその光線が電気タイプではないという証左。

 "シグナルビーム"と呼ばれるそれは、ライチュウにとっては電気の通じぬ相手へのサブウェポンであり、奇しくも草タイプのピョコには痛烈だ。

 受けた相手の体内まで浸食し、虫食いのようにその身を蝕まんとするその光線は、いかに外見がどうとて体内の繊細な草タイプには抜群に効く。

 

「っ、頑張ってぇーーーっ!

 じしんっ! ピョコっ、巻き返すよ!」

 

「~~~~~~~~っ……!

 ――――z!!」

 

 根性に秀でるピョコとて、抜群技の直撃を受けてすぐに行動に移れるほど無敵じゃない。

 無敵にさせてくれるのが、勝たせてあげたいあの子の必死な声。

 冷静さも凛々しさもかっこよさも要らない、いつものお前の勝ちたいんだっていう強い声が何よりも効く。

 身体を内から蝕まれる苦しみさえ振り払い、四本足すべてで地を踏み切り、全体重で地を揺らすピョコの地震は先のそれより倍ほど大きい。

 シグナルビームを発していたライチュウが前のめりに転ばされ、両手を地に着けた瞬間にビームが途絶え、苦痛から逃れたピョコの行動はもはや一つしかない。

 駆けだすと同時に発した吠え声は、立ち上がることにさえ手こずるライチュウを絶対に逃さない表明であり、もはや狙われる側は免れるすべを持たない。

 

「ライチュウ!」

 

「~~~~……!」

 

 大きく強い声でライチュウを呼ぶデンジの声は、詰み一歩手前の相棒にそれでも抗えと命じる過酷なものではなかった。

 その真意を100パーセント理解したライチュウは、反撃を放棄して頭を抱えて丸くなり、迎撃の代わりに淡い光を全身から放っている。

 もう駄目だ、ああ結構、それでも出来ることは確実にある。

 敗れるならば敗れるなりに、自分を打ち破った相手を後続の盟友が、より確実に仇を討ってくれるよう促すのもまた先鋒の使命。

 まして私達の天敵である、地震起こしの怪物を追い込めるなら、撃破されるなりに願ったりだと思える精神性もまたこのライチュウの強さ。

 

 発動した最後の技はピョコにかすかなダメージすら与えず、破壊的な一撃が再び無防備なライチュウをぶっ飛ばし。

 仰向けに倒れた後も後方へ二回転ほど転がって、腹這いに力尽きたライチュウはもう、継戦不可能なのが誰の目にも明らかだった。

 よく鍛えられたジムリーダーのポケモンですら、電気タイプである以上、地震含みの一撃を複数回受けてはもたないということだ。

 静かにうなずき、その仕草に己が先鋒が立派に仕事を果たしてくれたことへの感謝を含みつつ、ライチュウをボールに戻すデンジの行動が初戦を締め括る。

 

「本当に凄いポケモンを育て上げてきてるんだな……!

 熱くなれるぞ! そして、だからこそ負けられない!」

 

 対戦相手への賞賛と言うよりも、ピョコに対する賛辞を強く表す言葉を発しながらデンジが次鋒のボールを握る。

 決してパールを軽んじているわけではない。指示も追い付かない、身内の地震に転ばされて膝を痛そうにする姿は、トップトレーナーらしからぬとは感じつつ。

 そんなパールを自己判断で引っ張って、恐らく想定を上回る攻撃を浴びながらも、前向きな結果を当然のように勝ち取ったドダイトスへの敬意が最優先。

 そしてそんなドダイトスを育て上げたパールという、無視できない実績から決して目を逸らさないからこそ、デンジの心には一抹の油断すら無い。

 

 観客の一部はきっと今頃、あんな頼りない少女が本当にジムバッジを7つも集めてきたのだろうかとでも思っているだろう。

 それだけ、現時点でのパールの姿から強さは見て取り難い。

 だからこそデンジにしてみれば、あれほどの個体を育て上げてきた実績に比例しないパールの姿に、容易には露呈せぬ底知れなさを感じるのだ。

 経験豊富なジムリーダーはよく知っている。ここまで来られたような奴が、今の見た目どおりの単なる未熟な子供であるはずがない。筈が無いのだ。

 あれが相手を油断させるために演じているわけでもないだろうと目に見えてわかるだけに、余計にまだ見ぬ彼女の強さの本質が恐るべきものとして映る。

 だから熱くなれるのだ。ここからが楽しみでならない。

 

「いこうか、オクタン!

 討ち取るぞ!」

「ふえっ!?」

 

「――ッ、――――z!!」

 

 電気タイプのマイスタであるはずのデンジが繰り出した次鋒の姿には、パールも驚きを隠せない。観客もどよめいている。

 水ポケモンであり専門外に見え、ましてや草タイプのドダイトスには不利とさえ見える選択。

 それでいて、特徴的な鳴き声を高々と発するオクタンの姿たるや、衆目や対戦相手の驚きなど無視した気合の入った咆哮に近いもの。

 やってやるぜ、以上の感情がオクタンの声にはある。さながら俺を、デンジを舐めるなよとさえ訳せそうなほど。

 不得手なはずの相手と対峙して尚、てめえを始末するのが俺の役目だとばかりに眼を見開いたオクタンの姿はまさに、ジムリーダーが選んだ尖兵のそれ。

 そこに捨て鉢ややけくそではない、勝利への青写真が確かに存在することなど、パールに見せつけ生唾を呑ませるほどには明らかなのだ。

 

 4対3の一時優勢に持ち込めた初戦を終え、良い流れを実感したいパールにもそうはさせぬ、不穏な空気がここにある。

 やはり最後のジムバッジを得るための試練、一筋縄でいくはずもない。

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