ポケットモンスター・パールストーリー   作:ましゅ

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第15話   谷間の発電所

 

 ソノオタウンを東から出ると、そこから先は205番道路。

 ある程度進んだところで、道は東と北に分かれており、北上すればハクタイの森を経てハクタイシティへと繋がる道。

 東へそのまま進み続ければ、やがて谷間の発電所と呼ばれる場所に辿り着く。

 

「――ええ、じゃあ、そういうことなので」

 

 ちょうどその岐路にあたる場所まで来たパールとプラチナだが、そこでプラチナがちょっとごめんと言い、少しパールから距離を取る。

 パールに背を向け、ポケッチ片手にその通話機能を使い、誰かと話しているようだ。

 離れた場所で話すプラチナが何を話しているのかパールにはわからないが、電話は手短に済ませてきたようで、時間をかけずにプラチナが戻ってくる。

 

「プラッチ、どうしたの? お電話?」

「ああ、別に気にしないで。たいした用事じゃないから」

 

 電話の相手にはやや重い声で淡々と話していたプラチナだったが、パールに対しては柔らかな笑顔で応じている。

 さあ行こうか、と言うプラチナと共に、再びパールは谷間の発電所の方へと向かって歩いていく。

 道中、野生のポケモンが群生していそうな草むらを避け、無用のバトルを避けながらの進みである。

 

「うわわ、いっぱいいるよ」

「中に入れてくれって言っても無理だろうね。

 殆ど発電所を占拠したような状況だし」

 

 発電所が見えてきた辺りでパールとプラチナは、発電所周りにうろついている人頭の数に、少し引き返して木陰に身を隠す。

 大きな発電所だが、その入り口を二人の男が直立不動で塞いでおり、周囲にも何人もの大人の男女が、見張りめいてうろついている。

 すべて、おかっぱ頭で風変わりなボディスールに身を包んだ大人達だ。

 ナナカマド博士に絡んできた、ギンガ団と名乗った者達の特徴と一致する。

 ギンガ団と名乗る勢力が、発電所を制圧して中で悪さしていそうだ、とプラチナが推察するには充分な光景であろう。

 ソノオタウンの停電とギンガ団の活動は、決して無関係ではなさそうだ。

 

「何人か、草むらでがさがさしてるね。

 何してるんだろう……」

「ここからじゃよく見えないけど、ろくなことはしてないんじゃないかな。

 こうやって発電所を占拠するような奴らだしさ」

「どうしよう?

 入り口から入れなさそう……」

「一応、考えはあるんだ。

 ――出ておいで、ケーシィ」

 

 木陰に隠れてひそひそとした声で話すパールとプラチナ。

 プラチナがモンスターボールを一つ握り、そのスイッチを押すと、中からケーシィが静かに二人の足元に登場する。

 地面に座ってうつむいて、お昼寝中のような姿のケーシィだが、プラチナはしゃがんでケーシィに目線を近付ける。

 

「ケーシィ、僕達をあそこまで一緒にテレポートさせられるかい?」

 

 プラチナが指差すのは、発電所の屋上である。

 目を閉じ眠っている風のケーシィだが、プラチナの問いかけをちゃんと聞いたように、小さくながらも確かに頷いて見せる。

 

「真正面からの突入が無理なら屋上からだ。

 ケーシィのテレポートであそこまで行って、そこから発電所に入ろう」

「なるほど、プラッチ流石……!」

「じゃあ……えぇと、手を繋ごうか。

 一緒にテレポートさせて貰おうとしたら、それが必要で……」

「うんうんっ」

 

 ケーシィのテレポートでは、一緒に移動出来る相手は単一で限界だ。

 ケーシィの力で、パールとプラチナの二人ともを目的の場所まで転送して貰おうと思ったら、何らかの形で二人が繋がっていなければならない。

 一応その程度の工夫でも、二人まとめて転送して貰うぐらいには融通が利く模様。三人も四人も繋がったら難しいそうだが。

 そんなわけでパールに右手を差し出すプラチナだが、意図をすぐに理解したパールは、ちょっとわくわくした顔さえして、両手でプラチナの手を握り返す。

 

 本当は、肩でも組むなりしてもっと密着した方が、二人と見えるより一人に固まるシルエットとなった方が、ケーシィにはやりやすいのだが。

 お年頃で年の近い女の子にそんなこと求められないプラチナなので、手繋ぎ止まり、しかも両手で握られて顔を伏せるぐらいである。

 一方パールは、ケーシィのテレポートを初体験できそうでわくわくするのみで、プラチナの照れなんて露知らず。

 

「えと……それじゃあケーシィ、よろしく」

「――――」

 

 わかった、とばかりに鼻息をふすーと吐くケーシィの全身が、淡くぽうっと光を放つ。

 少々の溜めが必要なのか、ケーシィの全身が光を放ち始めてから数秒かかったが、ケーシィの力が発動した瞬間はパールにも実感できた。

 一瞬、まるで無重力の世界に入ったかのように全身がふわりとして、目の前が光で包まれたかと思って、思わず目を閉じて。

 目を開けた時、さっきまでいた場所とは全然違う場所に自分が立っていることに気付く。

 

「うわぁ~、凄い! これがテレポート!?

 ここ発電所の屋上だよね!?」

「ぱ、パール、あんまり騒がない方が……

 近くに敵はいないかもしれないけど、一応警戒しなきゃ……」

 

 きょろきょろ周りを見回すパール、コンクリート製の足元と高所と思しき眺めで、ここが発電所の屋上だと理解して大はしゃぎ。

 興奮していて、両手で握ったままのプラチナの右手をぎゅーしたまま。

 強く握ってきても全然痛くない女の子の握力、プラチナからしてみればどきどきしてしょうがないので早く放して欲しい。

 

 プラチナの手を放したパールは、屋上のへりまで駆けていって地上を見下ろす。

 どうだ見張り番、私達は潜入成功したぜぇ、とでも得意げな顔を、一瞬垣間見せていた。

 パールの力で潜入したのではなくプラチナのポケモンのおかげなのだが。潜入成功劇の成功で、ちょっとテンションが上がってそうである。

 

「……あっ。

 プラッチ、ちょっと来て来て」

「あんまり身を乗り出すと危ないよ。

 それに、万が一誰かに見上げられて見つかったら……」

「いいから来て来て」

 

 立って屋上から地上を見下ろしていたパールは、とにかくプラチナに来て来てと招き手が忙しない。

 しかしプラチナの忠告は聞き受けたようで、屋上床に胸をつけるほど這いつくばって、屋上のへりから地上を覗き見る姿勢に改める。

 見せたい何かがあるという強い気持ちと、案外ああ見えてプラチナの話を聞く程度には冷静であるパールの双方を見たプラチナも、彼女の言う先を見下ろす。

 

「……あれって、もしかして」

「なんかイヤな気分になるよね……

 私達も、同じことをしてるって言われるかもしれないけど……」

 

 発電所周囲の草むらに、群がって参じていたギンガ団連中が何をしていたのか、上から見ればよくわかる。

 一人一人が自分の周りに、取り巻きのように複数のポケモンを出して、草むらを徘徊しているのだ。それが何人もいる。

 草むらに生息する野生のポケモン達も、見るからに徒党を組んだそれらに向かっていくことはせず、隠れるように身を低くするものが殆どである。

 

 ギンガ団達はそうして身を隠すポケモン達を探し当てると、自分達のポケモン達に攻撃を指示して袋叩きにしているのだ。

 たまらず野生側のポケモンも逃げ出すが、別のギンガ団員がその逃げ道を塞ぎ、従えたポケモン達に指示を下して痛めつける。

 野生のポケモン達は捕まったりしないよう、余力があるうちから逃げだすものだ。

 そんな野生のポケモンが、逃げても数の暴力で包囲され、動けなくなるまで徹底的に痛めつけられるのだ。

 立てなくなるほど痛めつけられてひくついたピッパが、ギンガ団員の投げたモンスターボールになすすべなく捕らえられていく光景。

 パールもプラチナも、むかっ腹がぎりぎり痛むほどの光景であろう。

 

「一緒じゃないよ。

 あんなのと一緒のことしてるって言われたら、僕けっこう本気で喧嘩するよ」

「プラッチ……」

「やり過ぎだよ。あんなのは合理的だなんて言わない。

 あんなやり方、ポケモンに人間に対する不信感や、一生残る心の傷を残すだけだ」

 

 複数のトレーナーと、それらが使役する複数のポケモン、数の力に任せてポケモンの捕獲に挑むのは、きっと手段としては確実で合理的なのだろう。

 そうしてギンガ団員達は、発見さえしてしまえばそのポケモンの捕獲率は、ほぼ100%で保っている。

 その成功率の高さが、いわば合理性に似たものとして、ギンガ団員にとってはその正当性を肯定する要素なのだろう。

 

 確かにパールやプラチナだって、野生のポケモンを捕まえたい時は、攻撃を浴びせて弱らせてからボールを投げる。

 どんなトレーナーでもそうする。地上のギンガ団員とやっていることは同じ、という者がいるなら、それはある意味そうなんだろう。

 だが、健全な精神を持つポケモントレーナーは、痛みに耐えかね逃げ出したポケモンを追撃することはしない。

 あるいは数の暴力で、身動き取れなくなるまで徹底的に痛めつけようとすることなどしない。

 だってそんなの、ただの弱い者いじめじゃないか。

 捕獲を望むあまり、その対象をいじめるような行為まで肯定する屁理屈など通用してはならないのだ。

 ポケモンだって、痛みを感じれば表情を歪めるじゃないか。心があるのは誰の目にだって明らかなはずである。

 心ある相手のことを、一切考えられなくなったら終わりだ。生きたポケモン相手にそれが出来なくなった者は、必ず対人ですらそれも忘れていく。

 ポケモンを捕まえたいと望むトレーナーがいたとして、その対象を過剰にいじめるようなことはするまいとする矜持は、当然にして重要なことなのだ。

 

「――あっ」

「やばいパール、引っ込もう。

 もしかしたら目で追って見上げられるかも」

 

 そうして見下ろす中で、一匹のポケモンがギンガ団の包囲網から逃れて、高い場所までふわふわと昇ってきた。

 地上の他のポケモンの捕獲に忙しいギンガ団員達はそれをいっそ見逃したようだが、それを目で追ったギンガ団に自分達が発見されるのは良くない展開。

 覗き込んでいた場所から引っ込んで立ち上がった二人に、地上から逃れてきたポケモンがよれよれと姿を見せた。

 

「あっ、あっ、大丈夫……!?」

「――――!」

「待って待って、その体で逃げないでっ!」

 

 そのポケモン、傷だらけのフワンテは周りが見えていないかのように発電所の屋上に着地したが、心配で駆け寄ったパールに気付くや否や逃げようとする。

 地上で人間にこっぴどい目に遭わされた直後なのだ。人間のパールやプラチナを見れば、再び空に飛び立って逃げようとする。

 風船状の体を浮かせるのも一苦労、それほどに傷ついたフワンテに、パールは飛びつくように両手で捕まえて逃がさない。

 

「じっとしてて、今元気にしてあげるから」

「――――! ――――!」

 

 やだやだ放して、人間なんて嫌い、とじたばたするフワンテは、細い糸のような腕の先の手で、ぺちぺちパールの体を叩いている。

 ちょっと痛くて片目を閉じながらも、パールは傷薬を取り出して、スプレー状のそれをフワンテに噴きつける。

 はじめは自分を捕まえるパールに対して、弱った体なりの全力抵抗をしていたフワンテも、傷薬によって体の痛みが引いていくうちにおとなしくなる。

 

「大丈夫?」

「――――?」

「ふふ、顔色よくなったね。

 ほら、逃げて。あの人達にはもう近付いちゃダメだよ?」

 

 暴れなくなったフワンテを手放したパールを、フワンテは少し怯えた目を残したままながら、怪訝な表情で見つめていた。

 しかし、少し元気な顔にはなってくれたね、という笑顔を見せるパールに対し、自分を痛めつけた人間に対する眼と同じものは向けられなかった。

 戸惑いながらもパールから離れ、彼方の空へと去っていくフワンテを、パールは手を振って見送っている。

 

 パールから離れた空で一度だけ振り返ったフワンテの目には、元気に空を飛べるようになった見送る、彼女の微笑んだ表情が見えていた。

 それは、パールのすぐ隣にいたプラチナにも確かめられた表情だ。

 

 パールは言っていた。

 乱暴な手段でポケモンを捕まえようとするギンガ団の所業を見て、私達も同じことをしてるのかもしれないけど、と。

 一緒なものか。感情論を抜きにして断言できることだ。

 いじめられて傷ついたポケモンをいたわれるパールが、そして多くのトレーナーが、あんな連中と同じなわけがないとプラチナには断言できる。

 

「行こう、パール。

 あんな奴らに好き勝手なんてさせたくない。

 パールもむかついてるかもしれないけど、僕も我慢ならなくなってきた」

「うん、頑張ろ。

 私の方がもっとむかついてるかも」

 

 共に立ち上がるプラチナとパール、特にプラチナの無表情に近い顔つきは、内に秘めた燃え上がるような怒りを隠しきれていなかった。

 パールもまた、そんなプラチナの感情に共感を覚え、同志に向けた笑顔を浮かべてはいたものの、その眼は全く笑っていない。

 手段を選ばぬひどい大人達に対する憤りなど、誰でも同じということだ。

 

 屋上の階段から、発電所内へと進んでいくパールとプラチナ。

 あんな奴らに好き勝手になんてさせたくない。

 そんな意志をいっそう強くした二人の前進は、力強いものだった。

 

 

 

 

 

「……あんまり見張りの人がいる感じじゃないね」

「中は案外手薄なのかもね。

 でも油断しない方がい……あっ、ちょ、退がって退がって」

 

 発電所内に潜入成功したパールとプラチナだが、慎重に進む二人の心がけとは裏腹、発電所内でギンガ団員との遭遇はしばらく無い。

 所内を見張るギンガ団員が警戒するとしたら、そもそも下層階からの侵入者であって、屋上から侵入してくるような者に対しては基本想定外なのだろう。

 上層階を徘徊する見張りは殆どおらず、警戒心いっぱいで進むパールとプラチナとは裏腹、今のところギンガ団員との遭遇はない。

 警戒心が強いのは良いとしても、腰を曲げてひょこひょこ歩きするパールの姿勢はどうかという話でもあるが。

 

 しかし、いつ敵に遭遇するかわからないということに対する用心さは良いもので、とある曲がり角でプラチナがパールを制して二歩退がる。

 その曲がり角の先、離れた場所でギンガ団員が腕組みして突っ立っているではないか。

 流石に屋上からの侵入者に対する警戒が弱いとは言っても、見張りも多少はいるようだ。

 当のギンガ団員、くぁぁとあくびしている姿を見るに、まさか自分に仕事や出番があるとは思っていない気の緩みっぷりだが。

 

「見つかったら面倒なことになりそうだな……

 どうしようか……」

「こういう時って、相手の服を剥ぎ取って、敵の団員に成りすますのが有効手段って感じ?

 ドラマとかでそういうの見たことある」

「んん~……でもパール、あのボディスーツ着たい?」

「うっ……それはヤだな……」

「敵に混じるなら髪型もあのおかっぱにしなきゃだよ?」

「もっとイヤ。

 ダサすぎて死んじゃう」

「……そもそも大人から服を剥ぎ取れるぐらい気絶させるなんて、現実的には無理じゃない?

 流石に僕達二人がかりでかかってもしんどいよ」

「まあ確かに映画とかでも、大人が大人に後ろから忍び寄って、鉄パイプでがつーんとかだもんね……

 そこまでやるのは私もちょっと無理かな……」

 

 ひそひそこそこそ、見張りの男にバレないよう、曲がり角の陰に隠れて話すパールとプラチナである。

 映画やドラマで見たような潜入手段を、二人ともとりあえず一度本気で検討しちゃう辺りは子供心というやつか。

 

 一方で、見張りの男を自分達のポケモンに攻撃させて気絶させようなんて発想は、そもそも思い付きもしないらしい。

 しかしこれが健全なポケモントレーナーの思考回路である。ポケモンに、人を攻撃しろなんて命令をしてはいけないのだから。

 

「どうしよう、プラッチ」

「……僕に考えがあるんだ。

 パール、ついてきてくれる?」

「頼りにしていい?」

「うん、何とかいい結果に繋げる……!

 ポッチャマ! 出てこい!」

 

 意気込んで乗り込んできた割には、苦境に直面すると案が詰まるパールである。

 それだけ感情のみの勢いでここまで来てしまうぐらい、ギンガ団の所業に腹を据えかねていたということでもあろう。

 頼りはポッチャマをボールから喚び出すプラチナだ。

 発電所に乗り込んでギンガ団に一言言ってやらなきゃ気が済まない、と、先走る感情任せに訴えたパールを、知識と経験で以って肯定したプラチナである。

 

「……むっ!?

 侵入者デスか!?」

「気付くのが遅いよ……!

 さあ、かかってこい!」

「これはいけまセン!

 マユルド! お仕置きするデスよー!」

 

 意図してポッチャマと共に、自ら敵前に身を踊り出させたプラチナに、ギンガ団員も気付いてモンスターボールからポケモンを出した。

 前に出会ったギンガ団員とは別人のようだが、この人も片言である。

 ギンガ団員はもしかしたら、こういう人達の集まりなのかもしれない。

 

「ポッチャマ! "あわ"で攻撃だ!

 相手に近付き過ぎないようにね!」

 

「おわわわっ……!

 マユルド! "どくばり"で反撃デスよー!」

 

 小さな口から勢いのある泡を無数に発射するポッチャマに、ギンガ団員はマユルドに毒針での反撃を命じる。

 ばすばす泡をぶつけられて怯みかけながら、指示されたとおりに毒針を発射するマユルドだが、ポッチャマは素早くそれを回避。

 距離を詰めるなというプラチナの指示は、相手のそうした攻撃への回避率を高めるためのものだ。

 この一戦で仕舞いではない以上、毒を受けて次まで響きそうな消耗は避けたいところ。

 マユルドが毒針を撃てるポケモンだと知っているからこその立ち回りだ。

 

「もう一度! とどめだ!」

 

 相手の攻撃を躱したポッチャマが再び撃つ無数の泡が、受けたマユルドを転がらせる。

 押し切られたというよりは、もう嫌とばかりに自らマユルドが転がった姿と見た方が適切だろう。

 ギンガ団員の目にも、ダメージを受け過ぎたマユルドが戦意喪失したのがよくわかるはず。

 

「むおおお、これはマズいデース!

 フレンズとリーダーに報告デース!」

 

「あっ、プラッチ、逃げちゃうよ!?」

「いいんだ、追いかけよう!

 追いかけていけば敵のリーダーの所に辿り着けるさ!」

「あっ、そっか……!

 プラッチすごい! 頭いい!」

「それほどでもないさ……!」

 

 マユルドを引っ込めたギンガ団員は、この異変を味方に伝えようと逃げていく。

 プラチナにとっては望むところだ。どうせ発電所内の構造など知る由もなければ、敵勢のお偉い様がどこにいるのかもわからない。

 だったら下っ端と思しき奴をちょっと驚かせてやって、報告のために走るそいつの背中に案内してもらうという図式で結構なのだ。

 プラチナの判断に感銘すら受けながら、ギンガ団員を追うプラチナと並び、パールも一緒に走っていく。

 

「待ちなサーイ! とおせんぼデース!」

「子供はそろそろ寝る時間デスよー!」

 

「ほんと片言だな、適当な定型句ばっかり口にして……!」

「パッチ、出てきて!

 悪いオトナをやっつけるぞー!」

 

 まだ夕前。子供が寝る時間には早すぎる。

 ギンガ団員の皆様、確かにプラチナが仰るとおり、微妙に言葉の遣い方がズレていらっしゃる。

 それはともかくとして、駆けるパールとプラチナの前に立ちはだかった二人のギンガ団員は、ケムッソとニャルマーをボールから出して道を阻もうとする。

 プラチナと並び駆けてきたポッチャマはさっそく戦列に立っているが、一対二は良くない。パールもパッチを出して加勢の意を表明する。

 

「ケムッソ! 糸を吐……」

「ポッチャマ! ケムッソに泡を撃て!」

 

 流石はパールよりも知識豊富なプラチナ、相手が命令するより早く、敵勢二体の厄介な方に先制攻撃を仕掛けるようポッチャマに指示している。

 パッチとポッチャマ両方を、吐く糸で絡めて動きにくくするはずだったケムッソに、ポッチャマの泡がばすばすと当たって糸を吐かせない。

 どちらを抑えるべきか、よくわかっているプラチナだ。

 

「パッチ! ニャルマーに体当たり!」

「――――!」

 

 こうなるとパールも指示がやりやすい。

 想定していた味方のケムッソの"いとをはく"攻撃が発動せず、仕方なしに自らポッチャマに襲いかかろうとしていたニャルマーだ。

 そこに迷いなく突っ込んでいくパッチは、長い尻尾で自分よりも体格が大きく見えるニャルマーを容赦なく突き飛ばす。

 突き飛ばされて床を転がったニャルマーはすぐに立ち上がったが、一度パッチを睨み返しこそしたものの、文字通り尻尾を丸めて尻込みがち。

 まだ戦う気力は残っていそうだが、正直パッチにまだ立ち向かおうという気力は、あまり残っていなさそうである。

 

「うおおお、これはマズいデース!」

「突然の奇襲なんて卑怯デース! これでは勝ち目がありまセーン!

 リーダーに報告してコテンパンにしてもらうデース!」

 

 戦況を見定めて、あるいは思ったより強いプラチナとパールのポケモンに動転し、ニャルマーを引っ込めるギンガ団員。

 ケムッソも引き続き泡を受け続けて、たまらずご主人のそばまで逃げており、こちらもギンガ団員のボールに回収される。

 あとは二人のギンガ団員ともども、逃げていくのみである。

 恐らく、リーダーと呼ばれる上役のもとへ向かって。わかりやすい人達だ。

 

「え、卑怯だった?」

「充分イーブンの状態からバトルスタートだったと思うけどね……!」

 

 逃げていくギンガ団員達を追っていくパールとプラチナ。

 奇襲でも卑怯でも何でもなかったと思うのだけど。お互い相手の存在を認識し合った上のポケモンバトルだったとしか思えないけど。

 年下相手にポケモンバトルで負けたからって、たいした理由も無くズルいとか卑怯だとか言う、かっこ悪い大人にはなりたくないものである。

 

「あっ、また出た……!

 パッチ、体当たり! 一気にがつんといっちゃえ!」

「ポッチャマ、つつく攻撃だ!

 虫ポケモン相手だ、一気に押し切れ!」

 

「なにぬねっ!?

 なんと強い子供達でショウか!?」

「リーダーに報告デース!

 我々の手には負えまセーン!」

 

 逃げるギンガ団員を追う道のりの中、立ちはだかるギンガ団員の差し向けてくるポケモンを、パールとプラチナのパッチとポッチャマは次々と撃破していく。

 あまり強いポケモンを使うギンガ団員はいない。

 快進撃に、勝利するたびぐっと手を握るパールだが、こんなに強くない相手ばかりとは思っていなかったプラチナは拍子抜け気味だ。

 この発電所に陣取るギンガ団員、強いポケモンを引き連れていないのには理由もあるのだが、その理由を知らなければ確かに不気味にも感じるかもしれない。

 ともあれ、苦戦らしい苦戦もせず、ギンガ団員の放つポケモン達も次々退けるパールとプラチナは、発電所内を突っ走っていく。

 

 廊下を走るばかりだった二人だったが、やがて少し広いスペースに繋がる道を経て、そこで二人とも速い足が鈍った。

 直感的にだが、この先には今までの相手とは違う、ギンガ団員達にリーダーと呼ばれていた人物がいる予感を得たからだ。

 廊下光景とは違うエリアに突入したことで、そう感じた二人の勘は、この先のことを考えればなかなか悪くない。

 

「あら、可愛い侵入者ね。

 あなたがうちの下っ端どもが言ってた、強いポケモンを手懐けるトレーナー?」

 

 パールとプラチナを迎えたのは、ここまでで見たギンガ団員とは風体の変わる女性だった。

 おかっぱ頭が共通していたギンガ団員とは異なり、赤い髪で、その独特のボディスーツも腰回りがスカート状に広がっている。

 "したっぱ"と称されるギンガ団員達の風体が妙に統一されていることもあり、これはここまでの連中とは一味違う、とパールとプラチナが察するには充分だ。

 

「パール、気を付けるんだよ……!

 今までの相手とは絶対に違う!」

「幹部格、ってやつなのかな……

 なんだか風格あるよね……!」

 

「あははっ、行儀のいい子達!

 コリンクとポッチャマはとっくにボールから出してるのに、私を直接攻撃しろなんて言わないんだ!

 いいよいいよ~、そういう子達って大好き!」

 

 赤髪の女性はパールとプラチナの発想には無い、外道の手段を口にしながらも楽しそうに笑う。

 恐らく彼女はギンガ団という、手段を選ばない者達の集う組織に属するゆえ、普通のトレーナーなら絶対にやらない悪い大人の非道にも思慮が回るのだろう。

 汚い大人達に囲まれた組織内において、真っ当な価値観で敵対してきた二人の子供に、赤髪の女性が手を叩いて向ける笑いは明るいものだ。

 

「あたしはギンガ団の幹部、"マーズ"。

 あ、警察に言ってくれてもいいからね? どうせ本名じゃないし。

 コードネームってやつよ。なかなか味あるでしょ?」

「……そういうの、どうでもいいんで。

 ここで、何をしようとしているんですか?」

「ん~? そうね、簡単に言うと、ワルいこと♪

 あなた達にはその返答で充分じゃないかしら?」

 

「リーダー! 何をお喋りしてるデスかー!」

「早く! 早く! 我々の仇を!」

「うっさい!!!!! 黙らっしゃい下っ端ども!!!!!

 あたしはあんた達みたいな頼りなくて情けない大人は大嫌いなのよっ!!」

 

 マーズと名乗ったギンガ団幹部は、プラチナとの会話をおどけて演じてみせている。

 しかし、彼女の後方に集まっているギンガ団員、パールとプラチナに敗れてここまで逃げてきた連中のうるさい野次には、かなりの大声量の怒号を返した。

 騒がしかった外野が静まり返る中、ヒステリックな叫びにパールもびくっとさせられたものである。

 パールもパールで感情昂ればもっと大きな声を出せる子なのだが、他人の大声にはびびらされちゃうらしい。自分の激情家ぶりには無自覚とも言う。、

 

「どちらにしたってあなた達ってば、私達を許したくない感じでここまで来てるっぽいわよね?

 まあ外で好き勝手やってるうちの下っ端どもの所業、子供達には目に余るかな」

「……知ってて許容してる辺り、言って部下を制してくれるつもりもなさそうですね」

「ええ、残念ながら。必要なことだしね。

 でもまあ、こういう大人達が占拠した建物まで乗り込んでくる勇気と正義感に免じて、ちょっとは妥協してあげてもいいけどね」

 

 くすくす笑ってプラチナとの会話に応じるマーズからは、余裕めいたものさえ感じられる。

 自身はそばにポケモンを出さず、既にコリンクとポッチャマを出しているトレーナー二人を前にしてだ。

 煽り気味の言葉遣いをしてなお、目の前の少年少女が自分への直接攻撃をポケモンに命じない性格だと、その眼を見ただけで充分に確信しているのだ。

 それだけの洞察力がマーズにはある。

 

「あたしと、ポケモンバトルしてみない?

 あたしが勝てば、あなた達は無力を噛み締めて泣きながら帰る。

 あなた達が勝てば、私達はこの発電所から去ってあげるわ。

 どう?」

「リーダー! それじゃ我々の気が済まな……」

「うるさいわよ!!!!! あんた達の意見なんか聞いてないっ!!!!!

 ……さぁ、どーする? お二人とも?

 二人いっぺんにかかってきてくれていいのよ? 悪い話じゃないでしょ?」

 

 一方的に自分に利の無い条件を提示してくるマーズだが、幼いプラチナとパールにはそれなりに効く煽り文句だ。

 悪い奴らを何とかしたくて、こんな所まで乗り込んでくる正義感溢れる二人である。

 負けてすごすごと帰るしかない結末は、かなり悔しい。敗北についてくる重い条件としては充分だ。

 

「本当に、僕達が勝ったら去ってくれるんですね……!?」

「約束ですよっ! 私達が勝ったら絶対引き下がって下さいね!」

「あははは、もちろん!

 私に勝てればだけどね!」

 

 マーズは楽しそうだ。

 赤い帽子をかぶった男の子は、敵対する自分の言葉の裏に隠された思惑を警戒していそうだが、女の子の方は熱くなった頭で純粋な言葉を投げかけてくる。

 若いっていいわね、という一言に尽きる。格下を見下すマーズの余裕である。

 

「オッケー! 始めましょう!

 行くわよ、ルビー!」

 

 モンスターボールを手にしてスイッチを押すマーズは、そこから自分のポケモンを喚び出した。

 パールとプラチナに対する立ち位置に姿を出したのはデルビルだ。

 パールが自分のナエトルとコリンクを愛称で呼ぶように、マーズもまた自分のポケモンにニックネームをつけている。

 

「一対二だからって甘く見ないでよ!

 せいぜい足掻いて見せて頂戴!」

「ポッチャマ、行くよ!

 パールも気を引き締めていこう!」

「うん、プラッチ!

 パッチ、絶対負けないよ! 私も全力でサポートするからね!」

 

 二人で一人に挑むアンフェアな勝負。

 それでもパールとプラチナは、不公平な図式に良心の呵責を感じる余裕は無かった。

 この状況で心躍るように笑い、バトルを楽しもうとするマーズの笑顔は、二人にとってそれほど不気味で格上と見えたからだ。

 

 ギンガ団幹部との戦い。

 バッジの所持数で手加減をしてくれるジムリーダーとの戦いとは全く異なる、年上で経験豊富なポケモントレーナーとの真っ向勝負である。

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