ポケットモンスター・パールストーリー   作:ましゅ

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第151話  チャンピオンロード

 

 

「ぶわはーっ!

 うちの子達はやっぱりすごいね!

 ぶっつけ本番で一発成功だよ!」

「びしょびしょになっちゃったけどね……

 まあ、そこまで要求するのは流石に欲張りすぎかな」

 

 デンジに勝利したパール達は、翌朝さっそくナギサシティを出発して北上だ。

 シンオウ地方のポケモンリーグはナギサシティの北、海を隔てて行く先の島にある。

 海路は大洋と分け隔てるように上手く近海に人工物が設置されているのだが、海を越えてその島まで辿り着かねばならない。

 リーグ挑戦を果たすトレーナーなら、海を越える"なみのり"を使えるポケモンを育てる技量ぐらいは見せろ、とでも言わんばかりである。

 それに、やがてパール達も実感することになるのだが、チャンピオンロードの奥地に踏み込めば、求められるものももう少し増えてくるのだ。

 シンオウ地方の最高峰を目指すのならば、最低限の相応しさというものを挑戦前から軽く証明してみせよ、ということなのだろう。

 どのみち、バッジを8つも集められるトレーナーには低いハードルである。

 

 とはいえ海を越えてチャンピオンロードに迫る中で、一つ少々の難関があった。

 それはチャンピオンロードに踏み入る前、"たきのぼり"でも使わぬ限り登れない、高所からの海流があったこと。

 別に"そらをとぶ"ことで越えてもいいのだが、波乗りで以ってここまで来たトレーナーには、越えて見せよと問いかけるかのような自然産物である。

 パール達はその試練をノリノリで受け入れ、ニルルやエンペルトに今まで一度もやったことのない滝登りへのチャレンジを頼んでみたところ。

 結果は成功。粗削りの滝登りで、水しぶきが凄かったのだが。

 その背に捕まっていたパールやプラチナが、今やびちょ濡れで苦笑し合う中、どうだ僕ら凄いだろと得意気に鼻を鳴らすニルルとエンペルトである。

 

「とりあえずシャワー浴びるよ! これ風邪ひくから!」

「うんうん、体調管理はしっかりしようね。いいことだ。

 近いうちにチャンピオンに挑む大事な身体なんだから」

「カラダとかなんだか卑猥! プラッチのすけべー!」

「無理矢理にでもいじろうとしてくるのはやめましょうね」

 

 しっとり濡れた全身で、服がぺっとりしているパールは、お尻の形が浮かないようスカートをつまんでおり、プラチナに身体の前面を絶対に見せない体の向き。

 プラチナだってわかってる。あんまりパールの方を見ないよう紳士的に努めている。

 だっていじられたくないし。それでもいじられるんだから遺憾。

 二人の会話は意識しちゃう者同士で噛み合っているが、まあそれぐらいに意識してくれるぐらいには、パールもプラチナを異性として見ている証左。

 自分がパールに異性として見て貰えているのか、果たしてそこからまずわからず臆病で告白なんて遥か先のプラチナだが、そこまで悲観しなくてよさそうだ。

 

「ニルル~、流石だね!

 シロナさんとのバトルでも、頼りにさせて貰うからね!」

「~~~~♪」

 

 まあ、プラチナがそう感じてしまうのは、パールのこういう所のせいである。

 ちょっとはプラチナとそういう話をしたとて、すぐに自分のポケモン達に目が向いてしまう。そういう子だからしょうがないけど。

 ぶっつけ本番で滝登りを成功させたニルルが本当にかっこよく見えて、頭をなでなで、首の後ろに胸を預けて腕を回してぎゅ~。

 粘液の多いニルルの身体に濡らされることを、街や人前では致し方なく避けがちのパールだが、どうせ濡れてる今なら関係無い。

 抱きしめて好きをいっぱいに表してくれるパールに、ニルルは普段なかなか出来ない嬉しさに声を出して喜ぶ。

 それが嬉しくて、顔をふにゃふにゃにさせているパールの表情が、ニルルの首筋に頬ずりするその後ろ姿からさえ見えてならない。

 あの子は本当、大事な大事な6人のことしか頭にないんだなぁ……と、プラチナはいつも感じるのである。

 

 もっとも、別にパールとて流石にそこまでではないのだけど。

 パールにしてみればプラチナだって、大好きな6人と同じくらい大切で、絶対に離れたくない人なんだから。どれだけ助けられてきたか。

 そんな当たり前のこともわかってないプラチナ君は、パールの自己評価低い病が伝染っちゃったのではないかと揶揄されて然るべきレベルである。

 

 

 

 

 

「さあチャンピオンロードだっ!

 がんばるぞー! 色んな人とバトルしながらっ!」

「洞窟だよ? ズバットいるかもしれないよ?」

「もう怖くない! それはもう克服したのだっ!」

 

 さて、島に着いたパール達は、チャンピオンロードの玄関口にあるポケモンセンターでひと休みしてから、いよいよその門をくぐっていく。

 ひと休みと言っても、ポケモン達は別に何も疲れてないので、濡れた身体を温めるためにシャワーを借りただけだが。服を乾燥機でぐわぐわ回しながら。

 さっばりした二人が踏み込んだのが、ポケモンリーグ本部へと続く長いトンネル、島の大半を占める大洞窟。

 これが所謂、チャンピオンに挑む資格を得た者達が、その肩慣らしとばかりに腕を鳴らす長い道のり、"チャンピオンロード"と呼ばれるものだ。

 道中は険しく、ポケモン達の怪力、岩砕き、果てはロッククライムといった技の力も借りねば、到底乗り越えることの出来ない道。

 それぐらいはやってみせよ、と示されるその試練に対し、パールは気合充分で鼻をふんすと鳴らしている。

 

「あんなに怖がってたのに、ホントにもう大丈夫なの?

 確かに最近は、前ほどパニクらなくなってたようにも見えたけど」

「まあその、色々あってね……

 今ではなんか、クロバットとかは好きな部類かもってぐらい」

「へぇ……?

 なんか極端な方向に克服してるね。どういう風の吹き回し?」

「色々あったんだってば。

 まっ、プラッチは今までとは違う私の勇姿をよく見ててくれればいいのです!」

 

 語るの長くなってしまうのでパールも省いたが、ギンガ団との死闘の数々は、この話と無関係ではなさそうだ。

 そもそもパールのコウモリに対するトラウマは、幼い頃にアカギのズバットを怖がって湖に落ち、死にかけたことが原因であって。

 そうだとわかった今、アカギのクロバットへの恐怖なんて特に凄かったけど。

 ギンガ団のアジトでスモモのカイリキーやルカリオが憤怒に任せて大暴れした時、負傷したゴルバットの泣く姿に怖さなんて感じるわけがなかったし。

 あれだけ怖かったコウモリポケモン達だって、他のポケモン達と一緒で、つらければ涙だって流す普遍的な生き物だと見てわかったのだし。

 アカギのために、羽二枚ちぎれても命を懸けて戦う姿には、怖さにも勝る別の感情が沸いたし。

 

 それだけ色々経験すれば、見方だって変わるというものだ。

 ズバットだって、ゴルバットだって、クロバットだって、人と親しき歴史を紡いできたポケットモンスター達の一人に過ぎないのである。

 ヘドロの集合体であるベトベトンは忌避されるべき存在か? いや、それと共に戦い頼もしさを感じてきたトレーナーは、それに反論することさえ厭うまい。

 進化してでっぷりしてしまったブニャットはもう可愛くないか? いや、触れ合えば可愛くてたまらない想いは姿が変わっても忘れられない。

 怖い顔のドラピオンは恐れるべきだけの存在か? いや、勝ちたいトレーナーのために大きな背中で戦い抜き、勝利を掴む姿に何人が魅せられてきただろう。

 ポケットモンスターはみんな可愛い。誰も彼もが底無しに魅力的だ。人が勝手に決めているだけ。ズバット達だって必ずそう。

 そんな言葉でポケモン達の魅力を語るほどは語彙力の無いパールとて、今なら同じことを思えるはずである。

 

「気合入ってるぞ私わー!

 さあ誰でもかかってこーい! チャンピオンロードで修行する大人達どもー!」

 

「聞こえたぞ! 活きのいいニューカマーだな!

 さっそく相手して貰おうか!」

「わっ、さっそく来たぁ!

 よろしくお願いします! お手柔らかによろしくです!」

「おおっ、向こう見ずなこと言ってる子がいるなと思ったら意外に腰が低いな!

 こちらこそ胸を借りるぞ! 僕もまだまだ高みを目指していきたいからな!」

 

 さて、このチャンピオンロード。

 洞窟内は腕利きのトレーナー揃いである。それも、ここまで来られるぐらいの力量を持つ、エリートトレーナーと呼ぶに値する者達ばかり。

 道中、そんな人達とのポケモンバトルを経て進むのもまた、ここを訪れ抜けんとする挑戦者の嗜みというものだ。

 

「でもバトルは遠慮しませんよ! うちの子達が最強です!

 ぜぇったいに負けないつもりでいきますから!」

「はははっ、元気があっていいな! だが、こちらも同感だ!

 うちの子達が一番強い! 負けないぞ!」

「いーや、うちの子達が一番強いですっ!

 いくよー、ニルルっ! かっこいいとこ見せてね!」

「よーし、見せてみろ!

 フーディン、頼んだぞ!」

 

 相手方も、ややテンションの高いパールの勢いについてこられるほどには昂っている。

 チャンピオンロードは、野生のポケモン達との遭遇より、トレーナー同士のバトルが最も熱い場所。

 それこそ他では味わえない、本気でチャンピオンを目指してここまで至ったトレーナー達同士のバトルが叶う場所として最右翼なのだから。

 

 強いポケモンとして有名なフーディンを初手から出してくるトレーナーとのバトルなんて、パールにしてみれば初めての経験。

 チャンピオンロードの洗礼は、幼い少女には新鮮なことばかりである。

 

 

 

 

 

 さて、ポケモンリーグ本部には、"四天王"と呼ばれる、地方のリーグ御用達の凄腕トレーナーが四人いる。

 一説には、地方のジムリーダー達が本気を出してバトルしたとて、それ以上の実力者と言われることが殆どだ。

 エキシビジョンマッチなどでジムリーダーと四天王が本気のバトルをすれば、結果がどうなるかはまったくわからないそうだが。

 それでも勝率を数えてみれば四天王の側に軍配が上がるので、概ねそう評価される達人集団と言って差し支えないだろう。

 

 『バッジを集めて、ポケモンリーグ本部へ赴き、"四天王"と呼ばれる者達を連続撃破すれば、チャンピオンへの挑戦権が与えられる』

 古くはこれが、チャンピオンへの挑戦権を獲得する唯一の道であり、他の地方もこの形式を取ることが非常に多い。

 シンオウ地方もかつてはそうだった。しかし数十年前から、長き歴史の中での新しき試みとして、かなり形式を変えている。

 以前の形式には大きな利点もあったが、無視しづらい悩みもあったのだ。

 

 現在、シンオウ地方でチャンピオンに挑む権利を獲得する手段は4つある。

 1つは『バッジを8つ集めた時に、チャンピオンへの第一挑戦権を一度だけ獲得することが出来る』というもの。

 1つは『四天王全員に勝つことで第一挑戦権を獲得することが出来る』というもの。四連戦でなくても構わない。

 1つは『各地の本気のジムリーダー達に改めて挑み、全員に再び勝つことで第一挑戦権を獲得することが出来る』というもの。

 つまり、バッジを集めた時点でチャンピオンに一度だけ挑戦することが出来るが、負けると再挑戦の権利を得るのが少し大変。

 本気のジムリーダーを全員倒してくるか、四天王全員を打ち破るか、それをしないと再戦権は与えられないのだ。

 とはいえ、昔と比べればチャンピオンへの挑戦権を勝ち取る敷居は低くなった方である。

 

 一回目の挑戦がかつてよりも遥かにしやすくなったし、二度目も険しい道のりではあるものの、四連勝を求められたかつてよりは易しいはず。

 おかげで現在のシンオウ地方では、チャンピオンの公式防衛線が繰り広げられる頻度が、過去と比べてかなり高まっている。

 批判もある。快挙を成し遂げて夢の目前に立つ挑戦者と、それを迎え撃つ王者による最高峰の戦いは、頻度が低ければ低いほど価値も重くなるからだ。

 四天王ほどの凄腕を連戦で撃破するほどの挑戦者が、かつてそれを成し遂げた王者へ挑む。まさに、両者の力量に説明不要の頂上決戦だ。

 数年に一度、そんな歴史的な戦いが繰り広げられ、王座を争うことにこそ、この上ない価値があるのだと唱える人々の主張ももっともである。

 

 しかしながら、誰もが見たい最高峰のポケモンバトルなるそれが、数年に一度あるかないかというのもまた寂しく感じられていた。

 そもそもの話、ジムリーダーは強いのだ。バッジを8つ集められるほどのトレーナー自体、そう高い頻度で出てきてくれるものではない。

 ましてその先、四天王に四連戦して勝ってくれるようなトレーナーの輩出など、ただでさえ少ないそこからさらに減る。

 チャンピオンの栄光を手にした者の、初防衛戦が数年後なんてザラにある話で、ひどい時には十数年後なんてことも何ら珍しくない。

 バッジ8つ集めて四天王をも連続撃破してくれる、そんな傑出した存在はそうそうどの時代にも現れてくれるものではないのだ。

 遥か昔カントー地方と呼ばれる所では、一人の少年が四天王とチャンピオンを破って新王者になったが、間もなくして同い年のライバルに敗れて陥落している。

 そんな短期間に二人もの"達成者"が出るなんて、数百年に一度の奇跡ものであり、未だに当時のその二人は全世界で語り草になっているほどである。

 それだけチャンピオンに挑むのが困難であればあるゆえに、こんな伝説が生まれたのも確かなので、敷居の高いのも悪くない話には違いないのだが。

 

 だが、人々は最高峰の戦いというものをやはり見たいのだ。

 チャンピオンと挑戦者との戦いが実現してから、次のその日が訪れるまで十数年かかるとしよう。珍しい話でもなんでもない。

 年上のオールドファンが、かつて見た伝説的なチャンピオンバトルをうっとりとした目で語る中、年下はその話を聞いて想像を膨らませることしか出来ない。

 例えば50年生きていれば流石に一度は見られるだろう。でも、数年に一度しか訪れぬ、いつ観られるかわからないものを何年待てばいい?

 あの試合凄かったんだぞ~、と、自分より早く生まれた者に自慢されるばかりで、自分は待つしか出来ないというのも焦れて当然である。

 ましてテレビ放送の無い時代であれば、数年に一度のその日が訪れたとて、収容可能観客数に限界のある会場のチケットが取れなければ見逃しだ。

 頻度が低いからこそ価値のある伝説的試合も、観たいのに巡り会えないのではもどかしさが募るばかりというものであろう。

 

 テレビ放送が普及した現在でもこのもどかしさはよく言われたもので、自分が生まれる一年前に伝説的試合、初めてチャンピオンの戦いを観たのが十五歳。

 こんなことは何にも珍しいことではない。観たいなぁ、観たいなぁ、ともどかしい純真無垢な長い子供時代は些かつらい。

 そんな声にとうとう応え、シンオウ地方は現在の、チャンピオンが挑戦者を迎え撃つ機会が増える形式に切り替えたのだ。

 これでも流石に高頻度でチャンピオンの公式戦が見られるわけではないが、年に一度ぐらいはまずまず保証される。

 一度一度の防衛戦がたまらなく楽しみだったあの頃の方が良かったな、という声も根強いが、やはりそれは大人の意見というやつだ。

 確かにそれを経験すればその価値と重みを感じられるのも確かだが、まず何よりも観たいんだよという子供達は、そんなことは知ったこっちゃあるまい。

 一戦一戦の価値を重んじたかつての伝統を、それもまた思い返せば良い思い出だとしながら、若き願いに応えたシンオウリーグの大人達は優しい人達である。

 

 失われてしまった価値というものは確かにあったが、チャンピオンの公式戦の機会が増えたこと自体は、良いものも生み出した。

 時のチャンピオンが如何に凄いトレーナーであるかというのは、やはりその実戦を目にすることによって衆目が認識する。

 五年前にチャンピオンになって、一度も防衛戦をしていない者というのは、極論"あんまりよく知らないけど凄い人らしい"なんて世間に思われることもある。

 チャンピオンになった日の歴史的なバトルを見た人であってすら、年月が経てばどうしたって人は忘れていくものだ。

 逆にいっそう美化されて思い返されることもあるので、その辺りは魔法がかかっている場合もあるのだが。

 録画媒体で何度も見られるが、現チャンピオンのかつての戦いを何度も再放送で見せられてもそれはそれで何だか。その時凄かったのはわかるけど。

 一方で、現在の形式は当代王者の防衛線がまあまあの頻度で新しく見られるので、幾度も防衛を果たせばいっそうの箔がつく。

 有り体に言えばファンが増える。シロナなんかは、現在の形式で何度も挑戦者を退け、防衛回数が十回二十回で利かない長期王者だから尚更である。

 別に芸能的な利点ではなく、やっぱりチャンピオンって凄いんだ、とわかりやすく衆目に映れば、僕も私もあんな風になれれば、と大志を抱く子供達も増える。

 どんな世界でもそうだが、若き世代が次々と参入してくるようでなければ、やがては緩やかに終わりへと近付いていくだけだ。

 長く続いた伝統を改めたシンオウ地方は、かつてよりも遥かに、確かに、チャンピオンを目指してトレーナーへの道へと進む者が増えた。

 ポケモン達との関わりを断つことなど決して出来ない世界、社会的に見てもこの傾向は例えようもなく大きなことであろう。

 夢を叶えられなかったとしても、その夢を追う日々で積極的にポケモン達のことを知ろうとした日々は、かけがえのない財産を胸に宿しているはずなのだから。

 

 紆余曲折あり今の形式を取るようになったシンオウ地方は、しばしば行われるようになったチャンピオン戦で、毎度のように高視聴率を叩き出す。

 まあ、営利目的だと思われるのを嫌ってか、それで生まれる利益みたいなものはだいたいチャリティーに宛てられるのだが。

 何にせよ、それだけ界隈は賑わうのだ。

 ブリーダーやコーディネーターといった、バトルに携わらぬ中でポケモン達と関わる分野が認知された昨今でも、トレーナーという分野は未だ最も根強い。

 偉大な王者の凄さが衆目に映る機会を高めた現在のシンオウ地方は、その傾向が最も高いと言われる。

 現にパールを見ればわかるだろう。彼女の性格を考えれば、本来ポケモンに関わるにせよ、コーディネーター辺りの道に進みそうなもの。

 パールがチャンピオンを目指した動機ときっかけは特殊だが、心を掴まれるポケモンバトルに、テレビを介して幼少の頃から触れられたことは小さくないはず。

 そして今、彼女は本来の性格を思えば不思議な進路を進んだ果てに、バッジを8つも集めるトップトレーナーとしてチャンピオンロードを歩んでいる。

 もしもシロナという人を、子供心にも凄い人だと視聴経験から率直に感じ、その背を真っ直ぐに追えた現代でなければ、この逸材は発掘されただろうか。

 歴史の流れに"もしも"は無いが、チャンピオンという人物の凄さがわかりやすく周知された今の時代だからこそ、という見解も決して的外れではあるまい。

 

 ポケモンバトルの歴史は長い。本当に長い。

 そして、一種のポケモンの新たな可能性に誰かが気付くたび、それが対戦環境をがらりと変えてしまうことも少なくない。

 たった一年の間で、昨年まで無敵だったポケモンが辛酸を舐める立ち位置に映ったり、軽視されていた存在がニューヒーローになることも珍しくないのだ。

 そんなことが何年も、何十年も、何百年も繰り返されてきている。この奥深さを一口に語る言葉など到底見つけられるものではあるまい。

 隣人であるポケモン達に関わる人間社会のルールが、しばしば大きな変化を迎えることさえも、これだけ永くして目まぐるしい世界ではいっそ些事である。

 

 

 

 

 

「――よくやった、ゲンガー! 戻れ!」

 

「か、勝ったぁ……!

 強かったぁ……!」

 

 チャンピオンロードで出会ったトレーナーとのバトルを終えたパールは、はぁ~っと息をついて肩の力を抜く。

 この人すっごい強かった。フーディン、ゴースト、ゲンガー、三匹のポケモンを繰り出してきたが、体感デンジよりも強い相手のような気さえした。

 しかもパールとてわかっていることだが、この人、公式戦でやるほどガチな戦い方をしていない。

 パールも相手に合わせてそうしたが、戦闘不能直前でしっかりポケモンを引っ込めて、一戦一戦の敗北の見極めが非常に潔い。

 あくまで修行でここを訪れている身分ゆえか、過度にポケモン達に頑張らせ過ぎないよう線を引いているのだろう。

 仮にチャンピオンや四天王に挑む時のように、負けられないバトルであればもっと粘り強い戦いぶりだったはずだ。

 相手がそうである上でかなり苦戦したのだから、パールもチャンピオンロードで修行する先人の強さを痛感したはずである。

 

「まだまだだな、オレも……!

 いいバトルだった! きっとこれからチャンピオンに挑むんだよな。

 頑張るんだぞ、君がチャンピオンになってくれれば、オレもその前哨戦で君と戦った一人としてなんだか鼻が高くなる」

「はいっ、頑張ります……!

 私もすごく勉強になりました! ありがとうございました!」

「ははっ、こちらこそだ」

 

 そう言ってパールと握手を交わしたトレーナーは、ポケモンセンターの方へと向かっていく。

 強い相手にはらはらする一戦だった。見送ってなお、パールは胸の高鳴りが収まらない。

 自分がそうであったように、彼もまたバッジを8つ集めた経緯を持つエリートトレーナーなのだ。

 そんなトレーナー達の頂点に立つシロナへこれから挑まんとすることが、どれほどの挑戦であるかを思い知るばかりである。

 

 チャンピオンロードに常駐しているトレーナーとは、多くが一度チャンピオンに敗北し、再挑戦権を獲得するため腕を磨く者達である。

 本気のジムリーダー達に挑むにせよ、四天王に挑むにせよ、チャンピオンに敗れたあの日以上の実力を手にするため、過酷なこの世界に自ら身を置く。

 ここは野生のポケモン達も強い。レベルの高いハガネールやチャーレムが生息し、野生ポケモンの強さもかの鋼鉄島を遥かに凌ぐのだ。

 チャンピオンロードはポケモンリーグへの玄関口であると同時に、この島の北にある"バトルフロンティア"と並び、最高峰の梁山泊というわけだ。

 

「~~~~♪」

「プーカっ、かっこよかったよ!

 強い子だとは思ってたけど、ここまで凄いとは思ってなかったよ~!」

 

 ゲンガー相手に奮戦し、パールの胸が落ち着くまで待っていたフワンテのプーカが、もう待ち切れないとばかりにパールに寄ってきた。

 傷だらけでぼろぼろである。だが、あのゲンガーを退けた。ここまで辿り着く実力者が従える、強い強いゲンガーをだ。

 パールの胸に飛び込んで、ぎゅーっと抱きしめられることで傷付いた身体がちくちく痛むが、それでも抱いて貰える嬉しさの方が勝つのだろう。

 

「いやほんと……まさかここまで強いなんてなぁ。

 僕ちょっと申し訳ないな、正直パールがゲンガー相手にプーカを出した時、さすがに無茶なんじゃないのって思ったもん」

「えへへ、実は私も選んでおきながらどきどきしてた……

 でもプーカならやってくれるかなって……ああもうっ、ほんとにやってくれるなんて!

 ごめんねプーカぁ、これからはもう二度と、あなたの強さ疑わないからねっ!」

「~~~~♪」

 

 プーカの活躍がよほど嬉しいのか、パールは両手でプーカを高く掲げ、見上げるようにして想いの限りを伝えてから引き寄せて頬ずりする。

 無邪気に嬉しそうなプーカだが、実はこの子、かなりの実力を持っている。

 パールは彼が仲間になってから、ナギサシティに向かう中での野生のポケモン達を相手にプーカを出したりもしたのだが、苦戦の気配は一切なかった。

 流石に負けられないナギサジムでの起用は元々見送られていたのだが、強い相手にどこまで通用するかと思い切って今回出したら、想像以上に遜色ない。

 相手が引き際を重んじていたとはいえ、ニルルもフーディンとゴーストを撃破した後、これ以上は厳しいと見てパールが引っ込めるほどの激闘だったのだ。

 そんな相手の、互いにほぼ無傷で始まった切り札との一戦を、プーカ一人で勝利に纏めきったのだからたいしたものだ。

 フワライドにも進化していないのだからレベルが低いものかと思ったら、それは大きな間違いというやつである。

 

「パールのこと追いかけて色んなとこ飛んできた中で、けっこう野生のポケモン達ともやり合ってきたのかな」

「シンオウ地方を巡る中で強くなってきた、的な?

 えへへっ、プーカ、あなたも私達と一緒だね!」

 

 照れ臭く小さな手で頭の後ろをかきかきするプーカだが、実際そうなのだろう。

 発電所でパールに助けられて以来、彼女のことが気に入って追いかける旅の中で、思った以上に強くなってきたらしい。

 これだけ強くなっていればフワライドに進化していそうなものだが、恐らくポケモンも自分のレベルが高くなろうが、進化するか否かは自分で選べるのだろう。

 そうでなければ、下手なムクバードより強い野生のムックルがいるという事象に説明がつかないのだし。

 

「でも、どうしてプーカは進化してないんだろ?

 あなたは進化したいと思わなかったの?」

「~~~~~~~~」

「ひゃわ、っ……!?」

 

 答えを表すように、プーカは再びパールの胸元に飛び込んできた。

 言葉は無かったが、パールには充分伝わっただろう。

 だからパールは、顔をへにゃへにゃにしてプーカのことを抱きしめる。大きなフワライドになってしまうと、これが今よりやりづらくなる。

 甘えん坊のプーカは、自分の身体を大きくしたくなかったのだ。

 

「ああぁぁ~……!

 どうしようプラッチ~、プーカが可愛すぎて死ぬ! 私ゴーストになる!」

「……っていうかこれが理由で進化してなかったとしたら、元々パールのポケモンになりたいと思ってたってことだよねぇ?

 ねえプーカ、そこんとこどうなの」

 

 ぎくっ、と図星を突かれたようにパールの胸元のプーカが強張った。まあなんてわかりやすい。

 いつだったか、パールが旅先でプーカにラブコールを送るも、悩む仕草こそ見せつつ去っていったこともあった。

 つれない態度ではあったが今にして思えば、今はまだ、でもいつか、という態度だったようにも感じる。

 もしかして、もっと強くなってパールの力になれるようになってから仲間になりたい、とでも考えていたのかな? なんてプラチナは推測したりもするのだが。

 もしも本当にそうだとしたら、可愛い見た目で結構熱い子である。

 

「~~~~っ、ありがとうプーカ! 私のこと選んでくれて!

 これからもずっと一緒にいようね! ずっと、ずーーーーーっと!」

 

 幸せいっぱいの顔でプーカを抱きしめるパールに、プーカもまた喜びいっぱいの笑顔になって身体を震わせる。

 元々、パールにしてみれば命の恩人だ。テンガン山でギンガ団に断崖から叩き落とされた時、我が身を呈して命を守ってくれたプーカ。

 そんなひとが自分を選んで、今も一緒にいてくれること、それを幸せに感じてくれていることって、どんなに堪らないことだろうか。

 パールはもう、チャンピオンロードを抜けるまでプーカをボールに引っ込めることは出来なさそうだ。

 今日はもう、バトルに参加させるさせないは度外視で、今まで以上に大好きになっちゃったプーカと一緒に歩きたい。

 もっと早くから一緒にいたかった想いが膨らむばかりで、その時間を取り返そうとするかの如くである。

 

 やがて訪れるであろうシロナとのバトル、6対6のフルバトルが予想される中、最も遅れて仲間になったプーカもまた、充分にパールの力になるはずだ。

 ゲンガーとのバトルでそれを証明されたこともまた、本来パールの立場からすれば朗報には違いないのだけど。

 今のパールにとっては、そんなことは全くもってどうでもよさそうである。

 彼女にとって一番大切なこととは、やはり自分がバトルに強いかどうかではないということだ。

 つくづく、トレーナーであるよるもブリーダーかコーディネーター向きの性格であろうと言われそうなところである。

 だけど今の現実のパールは、バッジを集めきってチャンピオンに挑まんとする、紛れもなくシンオウ地方有数のトップトレーナー。

 本当に世の中、誰がどんな風に、どのような大人になっていくのかわからないものである。子供達には無限の未来がある、とよく言われるわけだ。

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