ポケットモンスター・パールストーリー   作:ましゅ

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第152話  ポケモンリーグ

 

 

「ふへー! やっと抜けたぁ~!」

「寄り道し過ぎ。

 けっこう僕たち頑張ったよ」

「ごめん~、プラッチぃ……

 調子に乗ってしまいましたぁ……」

 

 島の南部の入り口から、北部のポケモンリーグ本部へと繋がる大洞窟、チャンピオンロード。

 ただでさえそれなりに道長の大洞窟であり、野生のポケモンも強い、バッジを集めてきたトップトレーナーの資質を改めて試すようなダンジョンなのに。

 パールときたら、道中で対面してしまったトレーナーの皆様方みんなと、いちいち毎回断らずにバトルしてしまう始末。

 ここで修行するトレーナー達が繰り出してくるポケモン達なんて、野生のポケモン達よりもさらに強いので、対戦すれば良い修行になるのは確かなのだが。

 

 ただ、ペース配分というものをもう少し考えて欲しかったというのがプラチナの私見でもあったり。

 強い相手とばんばんバトルするので、パールのポケモン達もまあまあへとへと。

 洞窟半ば辺りでパールがそれに気付いた頃には、先は長いというのに後の祭りである。

 普通に歩いているだけでも絡んでくる野生のポケモン達、それもそれなりに強い個体を前に、お疲れなのに撃退するパールのポケモン達も大変大変。

 誰か怪我されても困るし、見かねたプラチナが、その後は野生のポケモン達の撃退を引き受けてくれたのである。

 まったく、一人だっただらどうするつもりだったのと、プラチナに言われたパールのへこみようは中々のものであった。

 

「まずはポケモンセンターだよ。

 わかってるよね?」

「わかってま~す……」

「わ、か、っ、て、る、よ、ね?」

「は、はいっ、わかってまふっ……!

 すいませんでひたっ……!」

 

 しょぼくれた態度の返答でもプラッチ君は許してくれなかったようで、きつめの釘を刺されたパールは縮こまってのごめんなさい。

 何と言うかプラチナも、別に苦労させられたからではなく、いよいよ大舞台というこの頃になって、へまを打つパールを見せられると心配になるのだ。

 なんだか今日はプラッチも厳しいなぁ……とびくびくしているパール、しっかりするよう促したい彼の心情を察するには余裕不足のようである。

 

 ポケモンリーグ本部は、入り口がポケモンセンターと同じ設備になっており、奥へ進めばリーグの受付となっている。

 この地で修行するトレーナー達も多いので、他の街のポケモンセンターと比べても遜色なく、忙しい。

 あのチャンピオンロード内で日夜修行する何人もが、必ず一日に二回か三回、あるいはそれ以上、ここにポケモン達の傷を癒しに来るからである。

 受付の女性がなんだかカウンターの向こう側、忙しそうにしているなぁと思いながらも、パールはおずおず近付いていく。

 

「すいませ~ん、お忙しいところごめんなさいなんですけど~……」

「ああっ、はい、大丈夫ですよ~。

 お預かりしますね、お気になさらないで」

 

 さぞかし人手が欲しそうに見そうなほどの横顔だったが、新たな客が来たと思えば、ポケモンセンターのお姉さんらしい笑顔に早変わり。

 流石はポケモンリーグ本部たる、トップトレーナー達を主に受け入れるポケモンセンター勤務のお姉さんである。素人目にもわかるプロ意識。

 ポケモンセンターのお姉さん達って、どの人だって仕事の出来る凄い人達だが、とりわけここは選ばれた人が任せられていそうである。

 

「あなた、初めて?

 もしかして、新しくバッジを集めきった人?」

「あ、はいっ、今から受付に行こうと思ってて……

 その前に、みんなを元気にして貰いたくて」

「ふふっ、すごく若いのに凄いのね。

 頑張ってね、あなたみたいな子が新たなチャンピオンになったりしたら、きっとシンオウじゅう大騒ぎになるわよ?」

 

 ここはバッジを集めきったトレーナーが来ることが殆どで、そうでないトレーナーがいたとしても少数だ。

 各地のポケモンセンターのように老若男女問わずあらゆる人が訪れるわけでなく、だいたい"常連"が固定されている。

 よって"新顔"はすぐわかるし、それが特別なトレーナーであることも明白だ。

 顔見知りの世話に日々を費やし、しばしば訪れるニューフェイスを激励する、ここでの受付仕事は他のポケモンセンターと比較して異質であろう。

 性に合うなら、ここで働ければ本当に楽しいという通説は非常に根強い。歴代、このポケモンセンターで働いてきた人は、口を揃えてそう言うそうなので。

 

 6つのモンスターボールを預けたパールは、お姉さんに指し示された施設の奥、ポケモンリーグ本部の受付へと歩いていく。

 なんだかどきどきする。別に、間もなく公式戦というわけでもないのだけど。

 資格を得た者だけが目的を持って進めるその通路は、その性質上誰ともすれ違わず、ゆえにこそ特別さを自ずと感じられる一本道。

 これもまた、島の玄関口であったチャンピオンロードとは違った意味で、同じ名を飾れそうな王者への道の一つであろう。

 

「――――んっ?

 来た来た! 新たな挑戦者だな!」

 

「あれ……受付の人、かな?」

「うわっ……!」

 

 さほど長くない一本道だったが、その最奥で待っていたのは、大きな扉の前に立っている若者だ。

 横には受付らしいカウンターもあるのに、そこには誰もおらず扉の前に立っていて。

 まるで番人のよう。決して本人もそんなつもりは無いのであろうが、見た目はそんな風に見える立ち姿である。

 

「ようこそ、ポケモンリーグへ!

 君が新たにバッジを8つ集め、シロナに挑戦しようとする新星かな?」

「あっ、えぇと、はい、そうですっ。

 う、受付の人……ですよ、ね?」

「勿論だよ。

 だからここにいるんじゃないか」

 

 握手を求めてくるその若者に、パールは両手で応えつつ、プラチナのことをちらちら見ている。

 その若者の顔もちらちら見ながらだ。怪訝な表情、その真意はプラチナにもわかっている。

 わかっていてプラチナは、敢えてパールにすぐには答えを教えず待ってみる。

 

「ねえプラッチ、この人どこかで見たような気がするんだけど……

 げ、げーのーじん……?」

「違う違う、確かに有名人ではあるけれど。

 パールのその反応、ここまで来られるトレーナーにしてはかなりの変わり種だと思うよ。

 この人のこと知らないトップトレーナー、まずいないんだから」

「そ、そうなの?

 んむむむむ……」

 

 目を細めて、目の前の男性をじ~っと見つめるパール。睨みつけているような目つきでもある。初対面を相手にまあまあ失敬な。

 確実にどこかで見たことのある顔だとはパールも感じているのだが。なかなか思い出せない。

 理由はプラチナもわかってる。パールはテレビは見るけれど、ポケモン関係の雑誌を昔からよく読んできたタイプじゃない。

 だって普通の女の子だもの。トレーナーになる前なんて、ポケモンコーディネーターのお母さんが買ってくる、お洒落な雑誌を好んで読んでいた子供である。

 ポケモンバトル界隈の有名人、それもテレビ露出が控えめな人のことはあまりよく知らないのだ。

 

「…………だれ?」

「四天王のリョウさん」

「してんのう!?!?!?」

 

「四天王のこと知ってんの? なんて尋ねてみたくなるねぇ」

 

 実はシンオウ地方の四天王、チャンピオンやジムリーダーに比べてメディアへの露出は少ないのだ。

 彼らが四天王としての仕事をするのは、一度チャンピオンに敗れた者達が、再び挑戦権を得るために四天王に挑む時ぐらいである。

 だから大抵、彼ら彼女らは普段のびのびと各地を巡って好きに過ごしており、腕利きトレーナーを追いたいメディアも案外会えないのである。

 そりゃあ業界の取材陣が本気を出せば探せないこともないが、それはそれで個人のプライベートに踏み込むので遠慮もする。

 

 四天王がメディアに露出する時というのは、定期的に行われるジムリーダーVS四天王のエキシビションマッチをテレビ放送する時だとか。

 それに際してリーグ本部に帰ってきた彼らをインタビューし、ポケモンバトルを重視する専門誌に特集を組む時ぐらいである。

 挑戦者を迎え撃つ公式戦が毎回テレビ放送されるチャンピオンと比べれば、露出の頻度は非常に低いのだ。

 それでもよく売れるその専門誌を購読していれば四天王の顔ぐらい誰でも知ってるが、パールはそこで勉強していないから知らないというわけ。

 テレビで見たことは一度か二度ぐらいはあるから、見たことある人だなぁという印象は抱けたのだが、それ止まりというわけである。

 

「おっと、急に委縮するようなことはしなくていいんだよ?

 確かに僕は四天王だけど、それだけだから。

 別に偉い人でもなんでもないんだからさ」

「え~、え~、でもでもでも、凄い人じゃないですか……!

 ジムリーダーの皆さんよりも強いって言われる……!」

「よしてくれよ、僕だって毎回皆様に勝てるわけじゃないんだから。

 こういう地位に抜擢されたのは誉れだけど、だからってシンオウ最強の一人だって驕るほど身の程知らずじゃないよ」

 

 四天王とジムリーダーの力関係は、基本的に四天王の方が上と言われる。

 実際、しばしば行われるエキシビションにおいて、四天王側の方が本気のジムリーダー相手に勝つ率の方が高いのは確かである。

 しかし決して珍しくない程度に逆もあり、四天王の側も我々はジムリーダーを凌駕するという認識は持っていない。

 リョウは単なる謙虚ではなく、きちんと正しい認識で返答しているのみだ。

 

「あ、まあでも僕はナタネよりは絶対に強いな。

 彼女とは何度もバトルしてるけど一回も負けたことないからねぇ。

 次回の勝負でも僕が楽勝だろうな、彼女弱いもん」

「むぐっ……!」

 

「リョウさんリョウさん、シロナさんから何か聞いてます?」

「あははははは、ごめんごめん、100%冗談だから。

 僕は虫タイプのポケモン使いだから、草ポケモン使いのナタネ相手だと相性面ですごく有利なんだよ。

 勝率コンプは確かだけど、それは相性差によるものだから。

 それでもなおこちらが追い込まれることも多々あるんだから、ナタネが弱いなんてのは絶対ウソだよ。ごめんねホント冗談だから」

 

「ということは……

 私はからかわれたんですねっ! ゆるさんっ!」

「ごめんって、ごめんって。

 パール君がナタネのこと大大大好きっていうのはシロナから聞いてたから、つい」

「がるるる~!」

 

 四天王とチャンピオンは立場が近く、シロナとも繋がりのあるリョウなので、彼女から得られる情報もいくつか持っているようだ。

 彼女の人間性や人となりを語る上で一番の特徴は、ナタネにべったり好き好きの少女という点。

 リョウもそれを聞いていて、いたずらでパールの反応を見てみたというところである。

 あれだけ四天王を前にして固くなっていたパールが、ナタネの悪口みたいなものを聞いた瞬間ケモノ化したのだから、なるほど聞いてたとおりだなぁと。

 

「パールのこと、知ってたんですね」

「ああ、シロナと共にギンガ団に立ち向かい、その時点で既にバッジを7つ持ってたみたいだしね。

 すぐにデンジを破ってリーグに乗り込んでくるだろう、って聞いてたんだ。

 僕は折良く本部にいたから、どんな子だろうって一度見たくなってね。

 デンジから、昨日パールっていう子が最後のバッジを獲得したっていう話を聞いたから、ここで受付の人と代わって貰ってたってわけ」

 

「パールよかったね、なんだか光栄だよ。

 四天王が直々に、パールの顔を一度見てみたかったんだってさ」

「ごまかされないぞ~!

 リョウさんもう一度謝りなさいっ!

 ナタネさんをダシにからかうなんて許されないのだっ!」

「ダメかー」

 

「ごめんよ、ごめんってば。

 本当に、ナタネのことが大好きなんだな」

「当たり前ですよっ!

 凄い人って本当に凄いんだって私に教えてくれた、今でも私の最大の目標であって一番尊敬する人なんですからっ!」

 

 やっぱり子供心、一番最初に心から尊敬した相手というのは、後からそれ以上に凄い人が現れたとて一番を更新されにくいものなのだろう。

 まして今でも夜ごとに電話して楽しくお喋りできる、親しくて、可愛がってくれる先輩。

 敬意よりも感情的な好きが強くて、それが尊敬心にまで混じってくるのだから、これ以上に好きな先輩は今後もそうそう現れまい。

 自分にとっての最初のポケモンがどうしようもなく特別なように、初めて尊敬した相手というのもまた、どうしようもなく特別であり続けるものだ。

 そんな想い高じて、四天王に謝罪を求める迫力も満点に、現に謝らせるパールのナタネ好きエネルギーもたいしたものである。

 

「仕事に戻っていい?」

「はい。ちょっと落ち着きます」

 

「パール、情緒のコントロールが上手になったね」

「私も感情に任せて突っ走っちゃったかも感はある」

 

 結果的に、パールが初見の四天王相手に固くなり過ぎていた様は溶けている。

 話はしやすくなった。リョウも本職の受付ではないので、過度に緊張されずに話が出来る方が楽だ。

 もしかしてこの空気のためにわざとあんなことを? なんてプラチナも考えたりするのだが、果たして真相はリョウのみぞ知るところである。

 

「チャンピオン対挑戦者のバトルは、最大月に一度だと決まっている。

 挑戦権を持つ者が現れれば、月末のリーグフィールドにおける公式戦にて、チャンピオンとの一騎打ちだ。

 今は月も半ば過ぎだけど、君は月末までシロナとの勝負を待って貰うことになる。

 それはわかって貰えているかな?」

「はいっ、それはわかってます。

 今から一週間とちょっと、じっくり準備して待ってます!」

 

 シンオウ地方においてチャンピオンの防衛戦は、各月の最終日だと定められて長く、その試合はテレビでも大々的に放送される。

 これが定着してからというものの、毎月晦日のテレビ視聴率はえげつないらしい。

 お昼の3時から今晩の試合に向けて、チャンピオン側と挑戦者側への取材から得たもので作る特集番組が続き、チャンピオンバトルへの展望が放送され。

 ゴールデンタイムの7時から、チャンピオンVS挑戦者の公式戦が放送され。

 その後は9時までその試合を振り返る放送が続くという番組構成。

 この7時から7時半にかけての視聴率は毎回30%付近を前後するのが常。その日が平日でなく日曜か祝日なら、50%を記録することもある。

 まして年末であれば、70%越えを果たすことさえ過去にはあったほどだ。

 毎月末はチャンピオンズデイ。そんな謳い文句がシンオウ地方に根付くほど、現在の形式が定着してからの界隈への影響度は昔以上に高い。

 遥か昔と比べてチャンピオン戦の頻度が高まったことについて、批判も少なくなかった時期はあったものの、今のやり方が肯定される最大の所以である。

 決して放送屋が数字を自慢する意図ではなく、月に一度、誰もがこれだけポケモンバトルで熱くなれる日があるのは、幸せな時代に違いあるまい。

 

「ただし、今から5日以内に新たに挑戦権を獲得する者が現れれば、君とその相手が第一挑戦権を賭けての真剣勝負だ。

 君は現在、登録を済ませたとして第一挑戦者だが、今はそれも決して確定事項ではない。

 それはわかって貰えるかな?」

 

「……えーと、プラッチ、どうなってるんだっけ。

 負けなければ挑戦者なのはわかってるんだけど」

「ややこしいところを簡略化したそういう結論、僕は嫌いじゃないけどね……

 一応、当事者なんだからしっかり理解しておこうよ」

 

 連れの少年に詳しい解説を求めるパールの姿に、リョウもぷっと吹き出してしまった。

 なんだか、ある意味大物にも見える。負けなければいいんでしょ、を地で行くこの思考回路。大雑把だけど豪快でよろしい。

 

「チャンピオンに挑戦する権利を得る方法3つは知ってる?」

「バッジを集める、四天王全員に勝つ、本気のジムリーダー全員に勝ってくる、だよね?」

「でも、チャンピオンがその座を賭けて公式戦を行うのは月に一回だけ。

 ある月にもし、そうやって挑戦権を得た人が複数人いた場合はどうする?」

「あ、わかった。

 公式戦日程の一週間前に"プレーオフ"だよね?」

「なんだ、知ってるんじゃん」

「だからわかってるってば。

 負けなければ挑戦者、っていうのはわかってるんだよ」

「まあ、わかりやすくていいけどさ、その考え方」

 

 チャンピオンが挑戦者を迎え撃つのは月に一度と定められている以上、ある月に複数の挑戦者がいると、その中から一人を絞る必要がある。

 いくらなんでもチャンピオンとて、その座を賭けて月末での試合が、複数回に渡って行われてはきつい。

 よってその月、複数人の挑戦権獲得者がいた場合、それらは晦日の一週間前に、"第一挑戦権"を賭けて争うことになる。

 この試合を"プレーオフ"と呼ぶのである。第一挑戦者決定戦、と言い換えてもいい。

 

 このプレーオフ、ほんの少しだけ複雑な制度である。

 まず、"初めてバッジを8つ集めて挑戦権を得た者"は甲級とされる。

 そして、"四天王全員に勝ってきた者"と"本気のジムリーダー達全員に勝ってきた者"は乙級とされる。

 甲級が二人以上いた月は、それらのみで第一挑戦者決定戦だ。乙級はこのプレーオフに参加すら出来ない。

 甲級が一人のみだった時は、その者が無条件で第一挑戦権獲得である。

 そして甲級が一人もいなかった場合のみ、乙級らで第一挑戦者決定戦をするのである。

 要するに、"初めてバッジを8つ集めてきた者"が手にしたチャンピオンへの挑戦権を優先する、という制度である。

 これはシンオウリーグの方針であり、苦難を乗り越えてきた若武者に、最大の挑戦を一度は優先的に認めようという配慮である。

 どんな業界でもそうだが、新星の活躍が界隈を盛り上げる。若き者達にチャンスの間口を広げるのを、シンオウ地方は好むということだ。

 

 逆に言えば、その挑戦でチャンピオンになれず、残る2つの手段でチャンピオンへの挑戦権を追う者は、優先順位で下になるということでもある。

 実状、バッジを8つ集めたことで得られた一度の挑戦で以って、チャンピオンに勝てなければ再挑戦への道のりはかなり長くなるということだ。

 四天王や、本気のジムリーダーに勝つこと自体が難関なのに、新規にバッジを集めてきた者がいれば、無条件に来月以降に待たなければならない。

 そして、甲級がいない月であっても、挑戦権を先送りにされた乙級の複数人が溜まった月であれば、プレーオフが多人数による激しい一等争いとなる。

 バッジを8つ集めてきた者が毎月生まれるものではないので、決して乙級組は一年も二年も再挑戦の日を見送らせることもないのは確かなのだが。

 いざ甲級がいなくなった月、乙級の数が多ければ、プレーオフ当日に連戦もあり得るのだ。

 

「パールは今月の甲級だから、他にもう一人以上の甲級が出てこない限り、シロナさんへの第一挑戦者だよ。

 でも、これから3日間の間にもう一人甲級が――ジムバッジ8つ集めてきた人がいたら、パールはその人とプレーオフってわけ。

 いたら、だけどね。負けなければ、っていうのも間違いではないしさ」

「もう一人出てきたら一対一だよね?

 二人以上出てきたらややこしい?」

「プレーオフは人数に応じてリーグ戦だったりトーナメント形式だったりするけど……」

 

「確約は出来ないけど、甲級同士の挑戦者決定戦はあって一対一だよ。

 月に三人も四人も、バッジ8つ集めてきましたよって人が集まること自体、極めて稀だからさ。絶対に無いとは言えないけどね」

 

 チャンピオンへの挑戦権を決めるプレーオフは、月の最終日の一週間前に行われる。

 その日一日でそれを済ませるため、複数人の挑戦者候補がいる時は、決定戦も形式を変える。

 3人か5人以上なら総当たり戦で、勝率の高い者のうちで残したポケモンの数が多い方が第一挑戦権獲得だとか、それでも決めかねるなら決勝戦をやったり。

 2人か4人ならトーナメント制、きりのよくない人数であった時でも、参加者の実績を鑑みてシードありのトーナメント形式を採用したり。

 そうしてどうにか、月末にチャンピオンへと挑む第一挑戦権獲得者を一人に絞るのだ。

 基本はトーナメント形式が好まれる模様。総当たり戦は基本的にしない方針である。試合数が増えすぎると、挑戦者達の負担が大きいから。

 

 もっとも、甲級のみ挑戦権獲得者が4人を上回る月はそうそう無いため、一日で総当たり戦の総数が膨れ上がることなんて滅多に無いのだが。

 なんとかして月末のチャンピオン戦、それに向けたプレーオフを一日放送に収め切らんために、放送局との折り合いをつけたスケジュールは大抵整っている。

 プレーオフとて注目度の高さは折り紙付きである。翌週の本番と比較すれば劣るものの、ムラはあれど視聴率とりあえず20%前後は固い。

 それによって生じた利益の多くが公共事業に寄付されるのだから、社会への貢献性もまた高い。

 返す返すもポケモンバトルというものが、この世界において常に社会現象であり続けているという証左であろう。

 

「ひとまず君は、十日後に行われるシロナとの公式戦に向けて、準備していればいいよ。

 初めてジムバッジを集めてきた君は、第一挑戦権を獲得したも同然だからね。

 とはいえ、例外があるとすれば――」

「挑戦する前に、バッジを8つ集めてきた人が出てきた場合?」

「そういうことだね。

 今日は月末の試合の十日前、プレーオフがあるとしたらその一週間前。

 受付はその前日までだから、明日か明後日までにそんな人が来れば、君はプレーオフで挑戦権を争うってわけだ。

 まあ、そうそう無い話だと思うけど」

 

 プレーオフ想定日の前日までが、甲級にせよ乙級にせよ挑戦権獲得への手続き締め切り日。

 たとえば月末日のちょうど一週間前に、バッジを集めてきましたよと本部に手続きをしたとしても、挑戦者候補に名を連ねられるのは来月である。

 近年は通話機器や通信技術の発達により、その手続きも証明が出来るならリーグ現地に赴かなくても出来るようにすれば、という声もあったりするのだが。

 この辺りは伝統あってなのか、リーグ本部で現地登録しなくてはならない制度を一貫している。

 チャンピオンロードという洗礼を越えてくるのが重要らしい。一理はある。

 大昔とは制度を変えて、チャンピオン戦の頻度を高くしたシンオウ地方だが、古きものもそう易々とすべて捨て去るようなことはしない。

 パールの大好きなナタネの故郷、ハクタイシティの街が掲げる一文とよく似て、シンオウ地方全体もまた、今と歴史が共にある地であることを重要視している。

 

 明日か明後日、新たにもう一人、バッジを8つ集めてきましたよと本部に滑り込んでくる人でも現れない限り、パールは月末にシロナとの公式戦を迎える。

 リョウの言うとおり、そんな出来過ぎた話はそうそう無かろうなので、パールも今からシロナとの公式戦に向けて気持ちが昂る一方だ。

 

「あ、ちなみに負けてくれてもいいよ?

 再挑戦の権利を獲得するために、君が四天王に挑む展開なんてのも僕には望ましい。

 シロナ達から聞く、君の実力ってやつに直接触れてもみたいからさ」

「えっ、なんかひどい。

 頑張れよって言われるどころか、負けてしまえって言われている」

「シロナは強いぞ~?

 草バトルでは結構負けることもあるくせに、エキシビション含む公式戦でだけはチャンピオンに就いて以来マジの無敗だからね。

 君が、シロナを公式戦で負かす初めてのトレーナーになれるのかい?」

「うぐぐ、そう言われると……

 でもでもっ、バトルするのは私じゃないですから! 私のポケモン達ですから!

 みんなは誰にも負けないぐらい強いんですよっ! 絶対、勝たせてくれるはずですからっ!」

 

「あははは、聞いてたとおりだなぁ。

 自信が揺らいだら自分の能力じゃなく、ポケモン達への信頼で押し切る」

「こういう子なんですよ。ず~っとこうです。

 これ一週間後にチャンピオンに挑む第一挑戦者らしく見えます?」

「見えないねぇ。勝ったらびっくりするよ」

「こら~! なんでプラッチが私をけなすの~!

 ここは嘘でも私を立てて応援してくれるとこじゃないの~!」

 

 獣と化してプラチナに食って掛かるパールと、どうどうどうと彼女をなだめるプラチナの姿に、リョウは朗らかに笑いつつ内心では感心する。

 なるほど、今までにあまりいなかったタイプの新挑戦者だ。

 普通、ここまで辿り着けるほどの実力者なら、程度の差はあれ自負や自信というものが養われているはず。実績があるんだから。

 自信の無い方である者がいたとして、緊張しつつもやってやりますと言ってのけるだけのものは持っているものである。

 

 この子は違う。未だに自分自身の能力に自負など持っていない。謙虚ではなく本当にそうなのだろう。

 ここまで来られたのは全部、全部、ぜ~んぶポケモン達のおかげ。そのくせ実態は、彼女が無能で何一つしてこなかったわけでもあるはずがない。

 旅の途中までであれば、そんな感じである気弱なトレーナーはいるだろう。彼女はそんな捨ててくるべき姿を未だ捨てず、本当にここまで辿り着いてしまった。

 トレーナーとしての能力は確実にあるはずなのだ。それでいて、絶対に驕らないし驕りようが無い。

 さらに実戦となれば、その自信の無さゆえに躓くことがあるかといえば、きっとポケモン達への信頼感で以って奮い立ち、今さら足を引っ張ることもあるまい。

 精神的な脆さを仲間達の信頼で以って無自覚に補い、実績を残してきた確かな自身の力量がありながら、慢心とは無縁。なんたる無敵か。

 何年も公式戦での無敗を貫いてきたシロナの牙城を崩す者がいつか現れるとすれば、それはきっと、何人もいた挑戦者達と同型の者達では能わない。

 全く新しいタイプの挑戦者だからこそ、もしかすると、という予感をリョウも感じずにはいられない。

 歴史的瞬間というものを見てみたい気持ちは、リョウに限らず誰しもあるものだ。図らずして期待してしまう。出来てしまうのだ。

 

 機が合ったからということで、リーグの人に我が儘を言ってみて、シロナへの挑戦者と対面してみたいと訴えたリョウは、させて貰えて本当によかったと思う。

 トレーナーとして頂点を極めたにも近い地位と言われる四天王を以ってしても、まだまだ見果てぬ世界はいくつもある。

 新時代の幕開けの予感。肌でそれを感じられる嬉しさは、そうそう感じられるものではない。

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