ポケットモンスター・パールストーリー   作:ましゅ

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第155話  パールVSダイヤ

 

 

「いいわよっ、そうそう!

 頑張れパールっ、ミーナちゃん!」

「逆転あるある、ワンチャンいけるいけるっ!

 ムクホークだって厳しくなってきてるんだから!」

 

 会場の熱気は既に、先鋒戦からして白熱の模様を呈していた。

 パールとダイヤの強い声、指示、応えるミーナとムクホーク、両者の繰り広げる激闘は、機敏な双方の目まぐるしい動きもあり衆目に落ち着きを与えない。

 特に、制空権を持つことで大きなアドバンテージを持つはずのムクホークに、小さなミミロルがほぼ対等に渡り合えているこの図式が客受けが良い。

 勝つために戦っているんだという、傷だらけになりながらも眼光を光らせる姿には、小さく可愛らしい兎の風体でも色褪せぬ闘志がある。

 手負いとなったムクホークもまた、大事な緒戦を落としてたまるかと鋭い目つきであり、小兎を侮る捕食者のそれなどでは決してない。

 最高峰のバトルを見たくて集まってきた超満員の観客の前で繰り広げられる一騎打ちは、そんな大きな期待を一切裏切らぬハイレベルな攻防だ。

 

「いけるでしょうか……?

 あと一発"インファイト"が決まってしまったらもう……」

「大丈夫よ、可能性なんていくらでもあるわ!

 あの子とあの子のポケモン達の、底力って本当すごいんだから!」

「何か狙ってる目をしてるわね、パールも、ミーナちゃんも……!

 こんな逆境、慣れっこだろうしね!」

 

「ダイヤ、油断するんじゃないぞ……!

 こんなものは優勢なんかじゃない、一手で簡単にひっくり返される……!」

「先走るんじゃねえぞ小僧!

 アドバンテージを捨てるなよ! 正しい戦い方を見失うな!」

 

 女性ジムリーダーと四天王の集う特等席では、その中心でナタネとスズナがパールの逆転劇を期待してやまない。

 一度ムクホークの痛烈な"インファイト"を受けてしまってからというものの、大き過ぎるダメージに伴ってミーナの動きは落ちている。

 それでも踏ん張り、後続のとどめとなり得るムクホークの技の数々を、持ち前の俊足と"とびはねる"ことで凌ぎ、高所のムクホークにダメージを与え続け。

 しばしは余裕のあったムクホークも、跳躍して蹴りをぶちかましてくるミーナの攻撃により翼を痛めたか、今や決して万全の動きではない。

 スモモがミーナの劣勢を意識する中、それでもナタネとスズナがパールの勝利を望む声は、衰え知らずで大好きな後輩への声援として途絶えない。

 

 そして、真逆に白熱しているのが男性ジムリーダーと四天王の集う特等席。

 ダイヤの勝利を心から応援するヒョウタを始め、マキシもまた彼の勝利を願うにも等しい声を発している。

 黙って戦況を見守るトウガンも同様だろう。どちらかに肩入れすることが望ましくないことは理解しつつも、我が子が心から勝って欲しいと願う少年。

 無言の中でもその目はダイヤと、彼の相棒であるムクホークに向きがちだ。勝って欲しいと人情が騒ぐのはやはりこちらである。

 

「――ごめんなさい、お隣いいかしら?」

「え?

 はいどうぞ……って、えええっ!?」

「おや……!」

 

 そんな折、女性陣の集う特等席に姿を見せた人物には、隣に座っていいかと問われたスモモが驚愕の声をあげる。

 四天王のキクノもまた、静かなリアクションでありながら、内心ではなかなかに驚いたものだ。

 "彼女"は本来、この席には現れぬはずの人物として、その価値観を知るものなら周知のところであったはずなのだから。

 

「あははっ、来た来た! やっぱりね!

 ほらほらちゃんと見て! 今サイコーにいいとこよ!」

「きたあっ! ミーナちゃん、ガッツ見せてみろー!」

 

 一週間後に自分と対戦する挑戦者の手の内をあらかじめ見ることをアンフェアとし、この手の試合は決して観戦しないことで有名だったはずのシロナ。

 だが、そんな彼女の登場に、ナタネもスズナも微塵も驚きはしない。余程に異例の、過去に一度も例外の無かったことだと理解しつつだ。

 必ず来るはずだと、わかっていたからだ。ここには必ず、シロナがずっと求めてやまなかったものがあるのだから。

 

「ミーナっ、がんばれええぇぇっ!!

 ここが勝負所だからあっ!!」

「ッ――――z!」

 

 とどめのインファイトを仕掛けてきたムクホークに対し、ミーナは一切の回避行動を取らなかった。

 両手で耳を掴み、胸の前まで引っ張って背を丸め、"まるくなる"ことで耐えきらんとするかの如き体勢。

 直後、ムクホークの鷹爪とくちばしと翼、その全てで以って至近距離にてミーナを滅多打ちにする猛攻が繰り広げられる。

 防御を捨て、反撃を恐れず、これをとどめとせんばかりのムクホークの十連打めいた連続攻撃は、既に傷だらけだったミーナへ致命的な一撃のはず。

 勝負ありだと誰もが思うべき光景だ。これだけわかりやすい一幕ですら、必ずしもそうはならぬというのだから、ポケモンバトルはわからない。

 

「…………ッ!」

「いっけえええっ!

 メガトンキック、何連発でもいけえっ!」

 

 瀕死一歩手前になりながらも"こらえて"みせたミーナが、最後の力を振り絞って顔を上げ、ムクホークに勢いよく組み付いていく。

 その胸元に接触にするに際し、膝を突き立てさながら"とびひざげり"にも似た一撃を浴びせて息を詰まらせて。

 耳でムクホークの頭を捕まえると、ぐるんと身体を回して足先のムクホークの顎元に差し向ける。

 捕まえられたムクホークへの顎に、左足の、右足の蹴りを一発ずつショートレンジで打ち込んで意識を飛ばしかけて。

 最後にぐっと引いた両足を勢いよく突き出し、ムクホークの胸元を全力で蹴飛ばすとともに耳を離すのだ。

 

「ちっくしょー、焦ったか!

 ありがとな、ムクホーク! よく頑張ってくれたな!」

 

 宙返りして、なんとか片膝つきながらも立ってみせたミーナに対し、フィールドを転がされて倒れたムクホーク。

 勝負を決めにかかったインファイトの指示を"こらえる"ことですかされてしまい、敗因となったことを悔しがりながらもダイヤがムクホークをボールに戻す。

 へろへろになっているミーナだが、大事な一勝を飾れた事実はやはり嬉しく、まぶたの下がった片目でも誇らしげにパールを振り返っていた。

 やったぞ、すごいだろ、頼もしいだろあたし。

 どんなに傷ついても変わらない、いつものかっこいいミーナの姿だ。ガッツポーズで静かに応えるパールも、浮かれないよう耐えるのが大変である。

 

「よーし、次いくぞパール!

 二連勝なんて出来ると思うなよ!」

「ミーナ、まだいけるよね!

 最後まで頑張ろうね!」

 

 あと一撃受けたらどう足掻いてもアウトの満身創痍、そんなミーナをパールは引っ込めない。

 ミーナの性格はわかっているのだ。心配の想いで中途半端なところで引っ込められたら、ミーナは必ず不完全燃焼を不満とする。

 もう引っ込めてもいい局面でありながら、相手の元気な次鋒に一矢だけでも、それがミーナの望みだとパールが誰よりも知っている。

 

「ヘラクロスか……

 "とびはねる"ことが出来るミミロル相手にこの選択、なかなか強気よね」

 

「シロナさん、今日はどうし……」

「何言ってんのよスモモ、来るに決まってるじゃない!

 パールの晴れ舞台なのよ! パールの!」

「見ずに寝れるわけないでしょ、ね、シロナ?」

 

「……ふふ、そうね。本当にそう。

 迷ってはいたんだけど……やっぱり、来ちゃったわ」

 

 バトルフィールドでは、ミーナが気力を振り絞ってヘラクロスへと駆けていった。

 確かに頭上からの攻撃に対して弱いヘラクロスに、真上からの一撃を加える"とびはねる"攻撃は格別に効く。

 ただ、元より狙いが見え見えである上、はなから最も警戒すべき技だと意識されている中、それで攻めるのは分の悪い博打というもの。

 高確率で躱されて相手が無傷、ワンチャン大ダメージ、そこで堅実な手を選んだパールはもう、自分が思っているほどの未熟者じゃない。

 何よりも、闘い続けることを望んでくれたミーナが、より確実に爪痕を残せる道。パールはそれを叶えたかった。

 

 俊足ミーナの最も確実に当てられる技、ピヨピヨパンチをヘラクロスにぶち当てて、そこでミーナの使命は果たされたと言っていい。

 勿論すぐに離れて二の矢に繋ぐことも目論んでいたものの、ここまで来られたダイヤの育てた、流石に屈強なヘラクロスだ。

 受けたダメージに怯むこともなく、相手に離れられるより早く角を振るい、角先でミーナの胸部を打ち据える。

 これで動きの止まったミーナを、けさ斬りのように振り下ろした角で殴り据えてとどめである。

 何と呼ぶべき技なのか、観戦者にもパールにもわかりにくかったが、元より一撃受ければ終わりの余力だった対ミーナにおいては大きな問題ではなかった。

 

「よく頑張ってくれたね、ミーナ!

 あなたはいつでも、ずっとこれからも頼もしい友達だよ!」

 

 ミーナを引っ込めるに際し、きっと彼女にとって一番の労いになるであろう言葉を、しっかり探して伝えたパール。

 そして、パールが次のボールを手にするのも早い。

 長く保つとは思えなかったミーナ、そうだとわかっていればヘラクロスに対して繰り出す、次のポケモンのことなんて既に考えてあって当然だ。

 もう、目の前の勝負に頭がいっぱいになって、あらかじめ次の手を考える余裕も無かったあの頃とはもう違う。

 

「いこう! プーカ!

 今のあなたなら、きっとやれるはずだよ!」

 

「わぁ……っ! 楽しみ!」

 

 フワンテを繰り出したパールの姿に、会場と、ナタネらの集う特等席が別の意味でざわつく。

 ミミロルもそうだったが、進化した方が強いのに進化前だ。可愛いポケモンが好きなのか、でもそれって真剣勝負で不利では? という困惑が大衆の反応。

 ナタネとスズナは、パールの他の五匹のポケモン達を既に知っている。フワンテが知らない唯一だ。どんな戦い方を見せてくれるのか、その想いでいっぱい。

 バトルフィールドに立つ二人のポケモンが、大衆に周知される前であるこの第一挑戦者決定戦。先の読めなさはチャンピオンバトル以上のものがあろう。

 

「飛べれば勝てるなんて簡単に考えるなよ!

 ヘラクロス、やってやれ!」

「プーカ、びっくりさせちゃえ!」

 

 プーカとヘラクロスが初手の技を打ったのはほぼ同時。

 だが、先に相手を捉えたのはプーカの技であり、それがヘラクロスにとってはかなりの痛手となる。

 

「"おにび"だっ!

 やるじゃない、パールもフワンテちゃんも!」

「怖い技ですよ……!

 格闘使いのあたしなんか、いつも警戒してる技ですもん……!」

「うわぁ、でもヘラクロスも流石ね!

 飛行ポケモン相手の対策もバッチリじゃない!」

 

 プーカが目を光らせると同時、ヘラクロスのそばに無数に生じた青い炎が獲物にまとわりつく。

 致命的なダメージを与えるものではないが、本能的に感じるおぞましさに訴え、疑似的に焼け爛れさせられるような感覚を与える恐怖の技。

 プーカの"おにび"により、全身"やけど"の痛みを覚えたヘラクロスの動きが僅かに鈍り、角を地面に突き刺して振り上げたことで撃つ技が精彩を欠く。

 突き上げた地面から生じ、高所まで届く岩石の上昇列を生み出すヘラクロスの"いわなだれ"を、プーカは巧みに宙にて身を揺らし、回り、回避する。

 ファーストコンタクトの技の交錯は、火傷の痛みをここから背負い続けるヘラクロスと無傷のプーカ、まずはパール側が一歩リードというところ。

 

「徹底的にいくよ! プーカ!

 ガッツ見せてね!」

「いくぞヘラクロス!

 空の相手にも立ち向かえる、お前の強さを見せてやれ!」

 

 二本の手を振り上げるようにしたプーカが、フィールドいっぱいに嵐のような風を巻き起こす。

 その激しさたるや、ただの"かぜおこし"でありながらプーカのレベルの高さを証明するものであり、どよめく観客も今さらながらにその力量を理解しただろう。

 対するヘラクロスも羽を広げ、風に乗って宙を舞うプーカへと突き進んでいく。地上戦を得意とするヘラクロスだが飛翔能力はあるのだ。

 飛行タイプが苦手である以上、空の相手が出てきたら終わり? それで終わらぬ辺りが流石ここまで来たダイヤの育てた優秀なヘラクロス。

 楽に終わるはずがないバトルだを示唆する掛け声を発していたパールの姿も、そうだろうと見越していた表れだ。この舞台で低レベルな油断なんてあり得ない。

 

「凄いわ、あのヘラクロス……!

 飛ぶのは決して得意じゃないはずの個体が、あんな乱気流の中でしっかり相手を追えてる……!」

「ちょっとスズナ、誰のこと応援してるの!

 フワンテちゃんだって凄いわよ! きちんと大振りな攻撃は冷静に躱してる!」

「相手の強さを認めることだって大事よ?

 それに勝てれば、フワンテちゃんがいっそう凄いっていうことに」

「そういうことなら認めるわ!

 フワンテちゃん頑張れ~! 敵は強いわよ! かっこいいとこ見せて!」

 

 流石にジムリーダー、観客が夢中で歓声を送らずにいられない激しい空中戦を見上げながらも、冗談交じりに楽しく掛け合いをしながら楽しんでいる。

 いいバトルだ。だが、見る目に余裕があるのは練達者のそれ。

 シロナやメリッサやキクノの微笑ましく見守られ、スモモに苦笑されながら楽しむ二人は、根底で言えばやはりパールに勝って欲しいのだけど。

 それ以上に、こんなにも観客が熱狂するほどのバトルをあの子達が出来るようになった、その事実だけで今は胸がいっぱいで仕方ないのだ。

 

「落ち付いて当てろ! まずはそれからだぞ!

 一度捕まえてしまえばお前なら絶対勝てる!」

「プーカしっかり! こっちこっち!

 大丈夫! つらいのは相手の方だよ! あなたの方が絶対に有利!」

 

 飛び交うパールとダイヤの声は、もはや技の名を示さずして己がポケモン達を導く、トップトレーナーのそれとして完成されている。

 激しい風の渦中、その風に乗って見た目以上の速さで動くプーカを、なかなか捉えられぬと見ればヘラクロスも攻め方を柔軟に変える。

 命中率を重視した"つばめがえし"で一撃を掠めさせ、痛みに喘ぐプーカをさらに追い、角を振り下ろす一撃で決定打を与えにかかるのだ。

 意志や感情に敏感な幽体に対し、一撃にて仕留める想いを色濃く露わにしたその"つじぎり"は、フワンテに対してとりわけ強い威力を持つ。

 火傷を思わせる痛みに力を振り絞りきれないヘラクロスでありながら、掠められたその一瞬だけでもプーカにとっては痛打。

 苦しそうに身を震わせて目を閉じるプーカ、それを導かんとするパールの言葉の選び方もまた的確だ。

 強い痛みを受けた直後は、誰しも劣勢を意識して気持ちが弱るもの。そこに、決して劣勢じゃないと事実を伝えて貰えることで得られる活力もまた大きい。

 

 激しい乱気流の中において、決して飛翔を得意とはしないヘラクロスの羽は、軋んで悲鳴をあげている。

 時が経つにつれてヘラクロスに蓄積するダメージは大きく、その速さも尋常ではない。やはり"かぜおこし"はヘラクロスに極めて痛烈なのだ。

 そしてプーカもまた、滅茶苦茶な風でヘラクロスの羽を痛めつけるだけでなく、意図して作る一部の風の流れに乗って我が身を敵の攻撃から逃がす。

 こっち、とパールが言ってくれれば、迷いなく素早く行くべき方向を定め、ヘラクロスから逃げる動きも早く、速くなる。

 距離さえ一度作れれば落ち着く心を取り戻せる。闘志に満ちた眼差しながら、火傷と風に苦しむヘラクロスの本心をその瞳の奥に確かめられる。

 有利なのは私だ。必ず勝てる!

 

「ぷーーーーーーーーーーっ!!」

 

 可愛らしい声ではあるものの、突き進んでくるヘラクロスを急上昇して躱すプーカの気合を、少なくともパールは胸に強く感じられたはず。

 大きな舞台で、パールに勝利を望まれているのだ。何も果たせないまま負けてたまるものか。

 身を翻して追ってくるヘラクロスを、つぶらな瞳で、しかし強く見据え降ろして。

 ここだと信じられた勝負所。両手を振り上げたプーカの挙動と、パールが次の指示を発するのは殆ど同時のことだった。

 

「いっけえっ! とっておき!」

「ぷーーーーーっ!!」

 

 わかってくれるはず。信じたパールにプーカもまた応えた。

 上昇飛行でプーカを追ったヘラクロスが、宙でびたっと急激に動きを止め、羽ばたく羽の動きに反して敵に近付けない。

 強い念力で敵の動きさえも制する"サイコキネシス"は、いかに相手が超能力を苦手としようが、プーカの不慣れなそれでは動きを止めきれないはず。

 それを、激しい向かい風と念力の合わせ技を、下方に向けて放つことで、重力さえも味方につけてヘラクロスの羽の推進力を制しきる。

 まずい、墜とされる。そう感じたヘラクロスの必死さも、ここま悪条件が重なってしまえば勝ち目が無い。

 止まったヘラクロスが、じわりと後方に、地面に向けて後退したが最後、加速を得て地上へと真っ逆さまの落下を辿るのみ。

 抗う力も念力と風のみに対して相殺未満、ほぼ自由落下の速度でフィールドの真ん中へ叩きつけられる結末へと繋がっていく。

 

 痛烈な勢いで背中から地面に叩きつけられながらも、決してヘラクロスは目に光を失っていなかった。

 かえってそれが、プーカを刺激してしまったかもしれない。

 続けざまに両手をぶんっと振ったプーカの挙動、サイコキネシスの追撃。

 それによって、すぐには立てぬほど弱っていたヘラクロスが、一気にフィールド端の壁までぶん投げられるかのように飛んでいく。

 硬い壁面に叩きつけられたヘラクロスが地面に倒れ、それでも立ち上がろうとはするものの、もはやその余力が無いことは誰の目にも明白。

 苦い表情でボールを手にしたダイヤが、ヘラクロスをボールに戻すのは早かった。

 

「気にするなよ、ヘラクロス。相性が悪かったんだ。

 それでも、しっかりやること果たしてくれたんだよな。ありがとな」

 

 プーカに通ったダメージは決して小さくない。これが、次の戦いにおける大きな布石になる。

 そう信じているからこそ、ダイヤがヘラクロスに向ける感謝の言葉は本心だ。

 可愛らしい姿でありながら侮れないあのフワンテを、確実に撃破する構想はもうダイヤの中で完成している。

 

「さあ、ここからだぜ!

 一気に巻き返すぞ!」

 

「ん……!」

 

 ダイヤの投げたボールから飛び出してきた三匹目のポケモンは、パールの肌をざわつかせた。

 自分にとってのピョコと同じ、ダイヤにとっての最初のポケモンであったヒコザルの最終進化形。

 ゴウカザルのバトルフィールドへの降臨は、今やパトル環境下においてその高い実力が広く知られるが故、観衆の盛り上がりも自ずとまた高まる。

 

「プーカ、怯まないで! いくよ!」

「ゴウカザル! 一撃で決めてみせろ!」

 

「――――――――z!!」

 

 頭上の炎を一気に大きくしたゴウカザルが、耳をつんざくほどの気合と共にプーカへと飛びかかった。

 跳躍と一言で表現できる。特筆すべきはその速さ。

 プーカが初撃のサイコキネシスで相手を捉えるよりも、ずっと速く。

 あっという間にプーカとの距離をゼロにしたゴウカザルが、その爪の一振りでプーカをざっくりと斬りつけた結末が直後に続く。

 

「ゴウカザルに"おにび"は効かな……えっ、速っ!?」

「すごっ!? なにあのおサルさん!?」

「しゃ、"シャドークロー"じゃないですか? あれ……」

 

 まさに瞬殺としか言いようのない決着劇だった。

 それも、ゴウカザルが自身の苦手とする、エスパータイプやゴーストタイプに対する、明確な対策法を得ていることをも示す一幕。

 単にその鮮烈な決定力に感嘆の声が観客席をいっぱいにする中、有識者ほどさらにその技に驚嘆をも得るというものだ。

 

 流石に面食らったパールだったが、力を失い地面に向けて落ち始めていたプーカをボールに戻す行動に移るのも遅くない。

 動揺から立ち直るのも、過去に比べてずっと早い。想定外のことを前にすればうろたえるばかりだった頃など、今や遠い昔の話である。

 

「いいんだよ、プーカ。悔しがらなくたっていい。自慢できる勝ちだったよ

 あなたが果たしてくれたこと、必ずダイヤに勝つ結果まで繋げてみせるからね」

 

 手持ちに受け入れてから日は浅くたって、ここでもっと頑張りたかったプーカの性格ぐらい、短い期間でパールはわかっている。

 きっとプーカは、どうしてもパールの手持ちの中では一番強くない。

 それでもヘラクロスを撃破してみせてくれたのだ。充分という言葉で足りようものか。

 勝利という結末へ至る道、その6分の1を進ませてくれたことの大きさが例えようもなく大きいことは、ポケモンバトル経験者なら誰でもわかるはず。

 

「――いこっか、ニルル!

 相手はすごく強いよ! でもあなたならやってくれるって信じてる!」

 

 ミーナの時より次のポケモンを考える時間が短かったぶん、先程よりは少し間が空いたが、パールが選んだのは定石に沿ったもの。

 炎ポケモン相手にはやはり水だ。残る他の手持ちを鑑みても、やはりそれしかあり得ない。

 フィールドに降り立ったニルルが、トリトドン特有の鳴き声を気合混じりに上げる中、バトルは中盤戦へと移行していく。

 まだまだ始まったばかりとも言え、先はまだ長く、小さな失敗が後に少なからず響き得る局面が続いていく難しいとも言える繊細さも併せ持つ。

 そんな時点でダイヤが切り札を繰り出している事実もまた、それがダイヤにとってそうだとわかっているパールには、先が読みづらい流れであろう。

 

 開戦以降、一度も静かにならぬポケモンリーグの聖戦域。

 こんな時間がいつまでも、永遠に続いたって構わない。それほどまでに観衆も酔いしれる、そんなバトルをパールとダイヤは繰り広げられている。

 一年前にはポケモントレーナーですらなかった二人。間違いなく、この時点でも偉大なことを成し遂げていよう。

 そんな自分達であることを、今の二人は微塵も理解していない。

 目の前の相手に、親友であり幼馴染であり、二度と無いこの舞台で勝つことで頭がいっぱいなのだから。

 目の前の勝利のための全身全霊。見る者を魅了する真剣勝負、それに最も必要なものに相違ない。

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