ポケットモンスター・パールストーリー   作:ましゅ

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第16話   VSマーズ

 

「ポッチャマ! "あわ"攻撃!」

「ルビー、上手く凌ぎなさい! 当たっちゃ駄目よ!」

 

 デルビルは水タイプの攻撃に弱い。

 一対二の状況である上に、相手が既にポッチャマを見せている状況でそんなデルビルを差し向けてきたマーズは、たいそう挑戦的な采配ぶりだ。

 しかしそれでも一方的に負ける勝負ではないと見込むかのようなマーズ、それに応えてルビーと呼ばれたデルビルも、素早く駆けて散弾される泡を躱しきる。

 逃げ場を作るまいと前方広くにばらまいた泡を躱した素早さは上等だ。

 

「スモッグよ、ルビー!

 狙いはポッチャマ!」

「――――z!」

 

「ポッチャマ……!

 っ、みずあそび!」

 

 開いた口からぶばっと黒い煙を吐き出したデルビルが、ポッチャマの周りをその黒い煙で覆ってしまう。

 周囲が見えなくなったポッチャマは素早いデルビルに狙いを定められなくなる。

 ならばと敵が見えていようがいまいが関係ない技で、戦況を有利なものへと変えようとするプラチナの判断と指示も早い。

 

「へぇ、やるじゃん……!

 ルビー! まずはコリンクに噛みついてあげなさい!」

「来てるよパッチ! 体当たりで迎え撃ち!」

 

 スモッグに周囲を包まれたポッチャマが上方に大量の水を吐き、周囲いっぱいに飛沫を撒き散らす。

 感心しながらも指示を下すマーズと、従いパッチへ突っ込んでくるデルビルに、パールも真っ向から迎撃するようパッチを囃し立てる。

 "いかく"の眼差しをぎらりと光らせ、牙の立つ口を開けて突撃してくるデルビルに、パッチも怯まず突っ込んでいく。

 

 衝突寸前に首を引き、やや頭突き気味にデルビルに激突するパッチ。

 対するデルビルもぶつかられて押し返されながらも、その直前に上顎をぐっとパッチに近付け、牙でパッチの耳の横を引っかいていった。

 デルビルがたじろぐのと同様に、パッチも三歩退がって首を傾けている。傷を作られた場所に走る鋭い痛みが彼女を弱らせる。

 

「ルビー、まだまだ!

 ガンガン攻めてコリンクをまず仕留めるわよ!」

「――――z!」

 

「ポッチャマ!」

 

 マーズの指示を受け、傷ついたパッチを畳みかけるべく飛びかかろうとしていたデルビル。

 しかしスモッグから脱出したポッチャマが、デルビル目がけて大量の泡を吐いてくる。

 これは受けちゃまずいと判断したデルビルが、前に踏み出していた足を力強く踏み止め、後方に跳ぶ動きで泡の直撃を避ける。

 

「ふふっ、いいわよルビー、好判断!

 自分で考えて動ける子じゃなきゃね!」

 

「あいつ、強い……!

 デルビルも、トレーナーも……!」

「パッチ、大丈夫……!?」

 

 明確にあるはずの相性差とて、敵に攻撃が当たらなくては意味が無い。

 加えてデルビルは、威嚇の眼差しで突撃の勢いを少々削がれていながら、パッチとのぶつかり合いで全く力負けしていない。

 幹部を名乗るマーズのポケモン、やはり一筋縄ではいかぬレベルの高さだ。

 何よりマーズ自身も、この戦いで自身の命令に反して攻撃をやめたデルビルを咎めることなく、むしろ自主性を育てようとしているふしすらある。

 傷ついたパッチが心配になる気持ちでいっぱいのパールの隣、まるで本気を出していない強敵の姿にプラチナも戦慄を覚えている。

 

「ルビー、スモッグ!

 さあ、次はどうする!? あんたの判断に任せるわ!」

「そんなの何度も受けてられないよ……!

 ポッチャマ!」

「パッチ、動ける!?」

 

 口を開いたデルビルの初動から、何が来るかはパッチもポッチャマも察しているだろう。

 敵二人を黒い煙で覆うスモッグの吐き出しに、パッチもポッチャマもその黒煙域から逃れ果たす。

 デルビルはどうするか。逃げに一手割いた敵から離れ、発電施設の高所に跳び移り、そこから水浸しの犬が全身を震わせて水を吹っ飛ばすかのような動き。

 それによってデルビルの全身から放たれるのは水ではなく、皮膚熱から発した火の粉であり、それがパッチとポッチャマ位置を含む広範囲に降り注ぐ。

 

「あらあら、臆病ねルビーったら……!

 でも、水の危うさをよくわかっているのは良い判断よ!」

 

「く……! ポッチャマ、あわを撃って!

 好き勝手に火の粉を撒き散らせないように!」

 

 広範囲に降り注ぐ火の粉は回避が難しく、これを続けさせればじりじり肌を焼かれるパッチとポッチャマには、ダメージが蓄積していくだろう。

 そうはいかないとばかりに泡を撃つポッチャマだが、デルビルは別の高所に跳び移って、再び身を震わせて火の粉を振り撒く。

 互いに決め手となる強い攻撃を当てづらい距離を保つデルビルは、威力で劣れど確実に当てやすい火の粉でじわじわと敵を弱らせる戦法を取っている。

 

「パッチ、行ける!? あいつを捕まえて!」

「――――z!」

 

 火の粉を浴びながらもその熱さより対抗心に目を燃やすパッチが、勢いよく駆けだしてデルビルの元へ迫る。

 ポッチャマの"みずあそび"で体が濡れ、デルビルの火の粉で受ける痛みとダメージが緩和されているのは小さくない影響だろう。

 ポッチャマとの一対一の限りでは延々と逃げ続けて、じわじわ追い込んでいく構えに入ったデルビル。

 この図式を破るファクターとなり得るのは自分だとパッチも悟っている。

 

「ルビー、捕まるんじゃないわよ!

 凌いだら気合の入れ直し!」

 

 身軽に跳んで、発電所の施設を蹴り、素早く迫るパッチの体当たりを、デルビルはあわやのところで跳んで躱す。

 床に降りてきたデルビルは、天井を見上げて大きく吠えてみせた。まさに指示されたとおり、気合を入れ直すかのように。

 "とおぼえ"で目にいっそうの闘志を燃やしたデルビルは、まずポッチャマが自らに撃ってくる泡を回避して。

 

「――――z!」

 

「ルビー! 返り討ちにしてあげなさい!」

 

 追ってくるように高所から飛びかかってくるパッチの体当たりを躱し、デルビルはパッチの背の横に思いっきり噛みついた。

 熱を放つ牙が肌に食い込み、悲痛なほどの鳴き声を上げたパッチの姿には、パールも思わず声を失うほどのショックを受けたものだ。

 遠吠えで気合を入れ直したデルビルは、威嚇に怯まぬ全力で食らい付き、パッチに甚大なダメージを通している。

 そしてパッチとデルビルが密接している今、ポッチャマもまたデルビルに泡を撃てなくなる。パッチに当たりかねないからだ。

 二対一のディスアドバンテージも、同士討ちのリスクを突きつけて打ち消す、攻防一体の立ち回りである。

 

「ッ、ッ――――!」

「――――z……!?」

 

「ええっ、ちょっと!?」

 

 泡の発射を躊躇ったポッチャマの姿を見てしまったパッチは、激痛に涙すら浮かんでいた目を見開いて、デルビルに噛みつかれたまま床を蹴る。

 まるで自分を盾か人質にされたみたいじゃないか。冗談じゃない、そんな足手まとい。

 かえって反骨精神を燃やしたパッチは、食らい付いたデルビルを引きずるように駆け、壁まで迫ると全身振るってデルビルを壁に叩きつける。

 壁と自分の体でデルビルをサンドイッチ状態にするようにしてだ。自分に噛みつかれたたズガイドスがそうしたのと同じように。

 噛みつかれたまま相手を引きずり振り回す、それが傷口をどれだけいっそう痛めるか、それでもやってのけるパッチには、マーズが最も驚いている。

 

「っ、ポッチャマ!

 あわを撃って! 信じよう!」

 

 それでも牙を抜かずに踏ん張るデルビルも、パッチと同じ根性を持ち合わせている。ズガイドスに叩きつけられても離れなかったパッチのように。

 だが、プラチナとポッチャマに何かを示すように目線を送ったパッチに、プラチナが勝負を賭けた指示をポッチャマに。

 パッチ目がけて泡を撃つ行為に一瞬ためらったポッチャマも、パッチと目が合った瞬間の意志力に満ちた想いを受け、泡を撃つ決断を下せたものだ。

 

 泡が自らも巻き込む勢いで迫る中、パッチは身を振るい自分の背の横に噛みついたまま離れようとしないデルビルを、その泡の着弾点に差し出した。

 振り回された瞬間に意図に気付いたデルビルも牙を抜いたが、本当に自分の体に泡を受ける直前にそれをされては逃げる暇もない。

 デルビルの背中と尻と横っ腹に、苦手な水の攻撃が何度も当たり、たまらずデルビルは吠え声をあげてパッチから離れる。

 盾にしていたデルビルに逃げられたパッチも、素早く動いて泡の着弾位置からは逃れている。

 

「っ……パッチ頑張れぇーっ!

 すぐ近くっ! ぶつかっていけーっ!」

「ッ……!」

 

 顔を伏せるかのようにして動いたパッチが、消耗のあまり周りを見る余裕が無いことはパールもわかっていた。

 だが、痛々しいパッチの姿に胸の前で手を握りながら、パールはちゃんと好機を見逃していない。

 余裕が無いのはデルビルもパッチと同じぐらいだ。その両者が逃げた先は近い場所で、どちらも相手に飛びかかりやすい距離感にある。

 

「ルビー駄目よ! 一旦退……」

 

 パールの意を組みチャンスを活かせると見たパッチがデルビルに迫り、デルビルもまた気付いてパッチの方を見た。

 回避に徹するか、迎え撃つか。一瞬でそれを判断しなくてはならない局面。

 マーズは逃げることを強く提唱したが、デルビルが下した判断は前足を床に踏みしめて迎え撃つ構えだ。

 これも自己判断。デルビルの挙動に、マーズは露骨に苦い顔。

 

 ぶつかってきたパッチの体当たりを額で受け止め、よろめきながらもデルビルは口を開いてパッチに噛みつきにかかった。

 パッチは頭と頭のぶつかり合いだけで、自分が後ろに二歩退がるほど弱っている。

 牙を突き立て、今度は放り投げて壁か床にでも叩きつけてやれば、もう動けなくなるだろう。デルビルの判断はそうだったのだ。

 

「ポッチャマ行けえっ!

 絶対にパッチを助けるんだあっ!」

「――――z!!」

 

 だが、噛みついて人質同然にまで追い込んだパッチに一矢報いられ、パッチへの怒りで頭に血が上っていたデルビルは、一対一ではないことを忘れている。

 既に位置を移したポッチャマは、デルビル目がけて泡の連射だ。

 それも、パッチに襲いかかる勢いを絶対に削ぎ落とさんとする、一点発射の強い泡の連続放射。

 逃げの一手を選べなかったデルビルの全身を、ポッチャマの泡が何度も打ちのめし、前に進む脚の力も浮くほどの攻撃にデルビルが転がるように押し返される。

 横っ腹を床につけて倒れたデルビルは、何とか震える体と両足で立ち上がるも、その体では先程のように複数の相手に立ち回れる機敏さは出せまい。

 

「しょうがない子ね……!

 ルビー、戻りなさい!」

 

 体がついてこない闘志だけを燃やしているデルビルを、マーズはモンスターボールのスイッチを押して引っ込める。

 戦闘不能と判断するには充分だった。引き際の早さに、一勝を挙げた側のプラチナも全く浮かれられない心境だ。

 

「あんたなりに考えてよく頑張ったわ。

 いい勉強になったでしょう。今回の負け、忘れずもっと強くなんなさいよ」

 

「……パッチ、ごめん!

 戻って!」

「――――!?」

 

 その手で握る、デルビルの入ったボールを見下ろしながら語りかけるマーズの表情は、気の強い尖った目つきながら確かないたわりの感情が表れていた。

 そんなマーズの姿を見て、パールもまた、パッチのボールのスイッチを押して彼女を引っ込める。

 まだ戦えるという意志をむき出しにしていたパッチが、驚愕して振り返りながらも、ボールに回収されていく。

 

「へぇ。

 あんたのコリンク、まだ戦えそうだったけど?」

 

「っ、ピョコ! お願い!」

 

 マーズから見ても、まだ余力があると見えたパッチだったはず。

 パッチのことをマーズよりも知っているパールだから、彼女目線でもそれはわかっていただろう。

 だけどパッチを引っ込めたのは、傷ついたポケモンを引き際よく引っ込めた、そうして身内を庇えるマーズの姿を見てしまったからなのかもしれない。

 傷ついた体のパッチに、好機ゆえの正しい体当たりの指示を下せたと信じられても、あの瞬間を思い出すとパールの胸が締め付けられてしまう。

 

 ポケモンが闘志を失っておらず、まだ戦える状態にあるのであれば、戦える限り戦うことを許すのは酷い判断とは言えないのだけど。

 それでもこれ以上戦わせては、取り返しのつかない怪我をしてしまうかも、という判断で引っ込めるのもまた選択肢の一つである。

 戦闘不能と見たデルビルを引っ込めたマーズとは判断基準が異なるが、パールもまた敵の挙動を見て、下げ際というものを意識し始めている。

 

「ごめんねプラッチ、ピョコはもう戦わせたくない……!」

「うん、わかった……!

 ポッチャマ、ピョコと一緒に頑張ろう!」

 

「あははは! 熱い子達ね!

 いいわいいわぁ、もっと楽しみたいんだけどねぇ……!」

 

 マーズは次のモンスターボールを頭上に掲げ、そのスイッチを押す。

 そこから出てきたのはゴルバットだ。

 マーズの頭上で翼を広げたその姿には、プラチナがやばいと感じたのはパールより早かった。

 

「ひ……っ!?」

 

「悪いけど、時間切れ!

 警察が来ちゃったみたい! 派手にやり過ぎたみたいね!」

 

 コウモリが苦手なパール、ましてズバットよりも大きく、幼い自らが湖に落ちたきっかけを作ったポケモンと同種の存在だ。

 まだまだピョコと一緒に頑張るつもりだったパールが、詰まるような悲鳴とともに腰が引け、血の気の引いた顔で三歩後ずさる。

 事情がわかっているプラチナにとっても、ゴルバットの姿を見た瞬間、この強敵に一対一で挑まねばならぬ腹を括らされたほど危険な一幕だ。

 

 だが、ゴルバットはその両足でマーズの両肩を掴み、マーズはそのまま踵を返してパール達に背を向けて駆ける。

 ぱたぱたと羽を動かすゴルバットは、重い自分の体でマーズを押し潰さないようにしながら彼女に乗っている。

 そうして発電所の奥へ向かって駆けたマーズは、大きな窓を開けてそこに足をかける。

 

「リーダー!?

 どこに行くデスかー!?」

 

「ごめんねー! あたしまだ捕まりたくないからさ!

 あんた達は勝手に上手いこと逃げちゃって!」

 

 振り返ってピースしてウインクするマーズ。

 確かにマーズとの戦いに集中していた中では耳に入ってこなかったが、外からサイレンの音が聞こえてくる。

 マーズは撤退する模様。ギンガ団の下っ端達にフォローは無し。自分のポケモンには優しいのに、ギンガ団の身内には厳しい人だこと。

 

「あんた達、パールとプラッチって言うのかしら?

 いいバトルだったわ、ありがと! あんた達のこと覚えとくわね!」

 

 二人を指差して笑ってみせたマーズは、そのまま窓から踏み切って外へと飛び出していった。

 ここは上層階なのだが、ゴルバットが翼をはためかせ、彼女を空を経て逃亡させていく。

 世界で一番苦手なゴルバットを目にしたことで、顔を真っ青にして足ががくがく震えさせていたパール。

 それが去っていくのを見送ると、腰を抜かしてその場にへたり込んでしまうのだった。

 

「これは困りマース!

 このままじゃ我々はお縄デース!」

「こうなったら手段は選んでいられまセーン!

 あの子達を人質にして、警察の皆さんと話し合いデース!」

 

「あっ、こいつら……!

 ポッチャマ、泡を撃って! あの辺!」

 

 マーズを応援していたものの放置されたギンガ団員達は、やけくそになってパールとプラチナを捕まえる気になったようだ。

 数に任せて襲い掛かってきそうなので、プラチナはポッチャマに砲撃を指示。

 当てはしないけれど。駆け迫ろうとしていたギンガ団員の前方床にばこばこ泡をぶち当てて、近寄るなという強い警告だ。

 

「今度は当てるようにポッチャマに言いますよ……!

 こっちだって女の子を守る立場ですからね……!」

 

「のーん! あの目は本気デース!」

「正義の眼差しデース! 悪の我々には勝ち目がありまセーン!」

「カノジョさんを守ろうとするオトコはおっかないデース!」

 

「……へっ? あっ? ち、ちがうよ? ぜんぜん」

「んがっ……!

 ぱ、パール! フツーに返答する場面じゃないっ! あいつら悪い奴だよ!?」

「あっ、あ~……そ、そうだそうだっ!

 ピョコっ、私達を守ってっ! 乱暴されちゃうっ!」

 

 ゴルバットショックで呆然としていたパールは、ギンガ団員の妙な発言に反応して、真顔で手を顔の前で振る冷ややかな反応。頭が回っていない。

 いや、それはそうなんだけど。なに普通に敵とのんのん会話してるんだと。

 プラチナにそう突っ込まれ、ようやく我に返ったパールは、腰が抜けちゃって立てないのでピョコに守って貰うようにお願いする。

 あいつらうちのパールに手を出そうとしているな、とギンガ団員達を睨むピョコは、頼りないパールに呆れる想いすら抱かず凄く怒っているが。

 ざりざり前足で床を引っかき、近付いてくるならボコボコにするぞという眼光を光らせるピョコ、小さな体でギンガ団員をびびらせるほど怒気を纏っている。

 

「仕方ありまセーン! 我々は所詮ワルモノでーす!」

「警察におとなしく捕まりマース!

 ケガはさせないで欲しいデース!」

 

 ギンガ団員達はマーズが飛び立っていった窓のそばまでぞろぞろ逃げていき、そこから降りるすべが無いため行き止まり、あとはみんなで観念のポーズ。

 何人もいるのでポーズも個性いろいろ。両手でお手上げする者、お代官様へへぇ~の姿勢で土下座する者、大の字に寝て無抵抗アピールする者。

 諦めの早い皆様である。賢明ではあるが、だからあんた達は下っ端なのよと、この姿をマーズが見たら酸っぱく突っ込みそうである。

 

「……待とうか、ここで。

 パール歩けないでしょ」

「え、えへへへへ……すいませぇん……」

 

 サイレンの音は大きくなっており、集まってきた警察がこの発電所内のギンガ団を制圧するのは時間の問題だろう。

 この足で下の階まで行くも、屋上に一時避難するもよしのパールとプラチナだが、生憎すっかり腰の抜けたパールが立てない。

 腐っても敵地、ちょっと気が休まらない環境下、警察がここまで来てくれるまで二人はピョコとポッチャマに守られながら待つことになった。

 保護されるまでのしばらくの間、プラチナは、パールが怪我せずに済んでよかったという一事にのみ、ほっとするばかりだった。

 

 

 

 

 

 警察に保護されたパールとプラチナだが、それはそれはもう怖い顔した警察のおじさんに、これでもかというほど叱られた。

 特にプラチナである。それはもう、こっぴどくだ。

 警察が来てくれたのはプラチナの事前策あってのことだが、やり方がいかにも警察を怒らせるものだったからだ。

 

 発電所に乗り込む前に誰かと電話していたプラチナだが、その時の相手が警察である。

 淡々とした声で自分のことを名乗り、谷間の発電所に悪い奴がいて占拠してるみたいです、という通報をしたのはまだ良かった。

 でも、自分達は子供だし、イタズラ電話だと思われるかもしれないと思ったら、プラチナには警察な迅速な対応を信じきることが出来なかった。

 そこでプラチナは、僕が(僕達とは言わない)乗り込んで話し合ってきますとまで、その電話口で伝えたのである。

 警察からすれば、万が一通報者の言うことが本当で、そんな所に子供が乗り込んでいくなんて危険なことを看過できようはずもない。

 特にプラチナ一人の声を聞く警察からすれば、一人で乗り込むつもりかと。

 やめなさい、すぐに動くから、と言う警察の説得はそれなりに迫真だったのだが、プラチナはそのまま手短に電話を終わらせてしまった。

 ここまでやって動いてくれないんだったらどうしようもない、と、プラチナはやるだけのことはやって、発電所へと乗り込んだというわけだ。

 結果として、そんな状況であると知った警察は、こうして動いてくれたというわけである。

 

 それにしたって、大人にかまをかけるような、試すような、そんなやり方は怒られて当たり前。

 危ないことをするんじゃない、お父さんやお母さんがどんな顔をするか、というきついお叱りはパールも受けたけど。

 君がプラチナか、はい、という一発目の挨拶早々に、ごづんと頭にげんこつを貰ったプラチナはその時点で折れた。

 その後、大声でプラチナを叱り飛ばす警察のおじさんの迫力は半端なかったものだ。

 自分なりに考えあって策を講じたプラチナも、その剣幕には怯えっぱなしで、借りてきた猫のようにしゅんとなっていた。

 長いお説教を受ける中、パールの前だから意地でも泣かなかったけど、叱られて泣きそうになっている姿は年相応に子供らしくもあったか。

 心配しなくてもパールだってそんなプラチナの顔なんて見ていないけど。彼女もごりごりに叱られて、へこみまくって横を見る余裕なんてなかったので。

 

 警察の人達に保護されたまま、ソノオタウンまで連れていかれ、とりあえずどういうことがあったのかは説明させられて。

 まあまあ事情を話してから、解放して貰えたのは夜になってから。

 ポケモンセンターに泊まる予定だったことを伝えれば、子供二人で夜の町を歩くのは良くないと、そこまで付き添ってくれるのは警察の人達も優しい。

 でも、ポケモンセンターに着いての別れ際、二度とこんなことはするなと、太い太い釘を刺されたのは言うまでもない。

 

 けちょんけちょんに叱られて、二人ともポケモンセンターにしょぼーんとした姿勢で入っていき、お泊まり部屋に向かっていく。

 電気の復旧したポケモンセンター内だ。発電所のギンガ団は捕らえられ、施設も正常化したのだろう。

 考えようによっては、発電所内のギンガ団を概ね無力化した一端を担ったパールとプラチナ、速い復旧には一役買えたとも言えるのだけど。

 あれだけきつく怒られた後じゃ、私達やったんだよと誰かに自慢できる心地にもなれない。しょぼしょぼ歩いていくのみだ。

 

「ねぇ、プラッチ」

「なに……?」

 

 はぁ~とへこみきった溜め息をつくプラチナに、パールが少し明るさを出した声を向ける。

 振り返ったプラチナは、疲れ切った表情だ。怒られた後の子供ってこんな顔。

 

「私達、やったよね」

「……………………まあ、うん」

「パッチもピョコもポッチャマも、みんな頑張ってくれたよ。

 プラッチもありがとう。私のこと、守ろうとしてくれてたよね」

「……うん」

 

 励ますように笑いかけてくれるパールに、プラチナは少しだけ心が軽くなり、照れるように笑うことが出来た。

 プラチナだって、自分なりに頑張っていい結果を出そうとしたのは確かなのだ。

 こうして理解してくれる友達がいてくれるのはやっぱり嬉しい。

 

「私達の勝ちっ……!

 そうだよね?」

「……あははっ。

 ありがとう、パール」

「これ、絶対警察の人達に聞かれちゃだめなやつ。

 私達だけの秘密だよ」

「うん、そうだね」

 

 あれだけ叱られた後だから、流石に反省している二人である。

 でも、色々と上手くいったことだってあった。全部を無しになんてしたくない。それだけ必死で頑張ったんだから。

 夜のポケモンセンター内、迷惑にならないよう、ぺちっと静かな音を立てるハイタッチをしたパールとプラチナは、誰にも言えない達成感を共有していた。

 

 子供達には子供達だけの世界と、彼らだけが共有できる無垢で純粋な正義というものがある。

 それは危うくて、儚くて、だけど賢い大人になっていくにつれて、みんなが忘れていってしまうもの。

 それを尊しと見るか、愚かと見るかは人次第である。

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