「はぁ……癒される眺め……」
「みんな気が合うみたいで何よりだよね」
ハクタイの森を抜け、続く205番道路を少し進めば、間もなくハクタイシティに到着する。
パールは町が見えてきたところで、自分のポケモンを全員ボールから出して、四人のポケモン達の交流会を促していた。
街の中でみんなを出すと、周りの人達に迷惑をかけるかもしれないので、街の外でやっている。
ナエトル、コリンク、カラナクシ、ミミロルの四人がお喋りしたり追いかけ合いっこしたり、野で楽しく遊ぶ姿を遠目に見るパールはうっとり。
みんな可愛い。しかも仲良し。見ているだけで心がとろけそう。
「そろそろいいかな……
みんなー! 戻っておいでー!」
ポケモン同士で戯れる場からは離れ、一歩退いた位置から彼ら彼女らの世界を保っていたパールも、そろそろ西日が赤くなりそうなのでみんなを呼ぶ。
充分遊んで楽しんだポケモン達が、パールの呼び声一つでぱたぱた駆け寄ってくる姿もまた可愛い。
愛くるしい姿にきゅんきゅんしながら、自分のそばまで来てくれた"三人"をボールの中に戻すパールである。
そう、三人。
けだるそうな足運びで、露骨に不機嫌な顔してパールのそばに遅れて帰ってくる子が一人。
元よりパールに懐いているピョコやパッチ、今朝パールに捕まえられたばかりでも素直に言うことを聞いてくれるニルルとは、えらく対照的な態度である。
「ね、ねぇ、"ミーナ"? どうして怒ってるの?」
ミーナ、とパールに名付けられたミミロルである。
さっきまでピョコやパッチやニルルとあんなに楽しそうに遊んでいたのに、パールを前にするとむっすーとした顔になってしまう。
なんでそんな顔をされるのかわからず、おどおど尋ねるパールに対しても、腕組みしたままぷいっと顔を逸らして話したくもないという態度。
捕まえたばかりでは流石にそう懐いてくれない、そんなポケモンも決して珍しくはないが、それにしたってミーナは極端だ。
パールのポケモン達には好意すら示すものの、対パールにおいては嫌いとまで言わんばかりの態度をはじめから一貫している。
実はハクタイの森で捕まえた直後からも、ニルルと代わってミーナを出し、傷薬でダメージを癒してあげてから連れ歩いてもみたのだが。
野生のポケモンに遭遇すれば戦ってもくれるが、とにかくパールから離れたがるように、先へ先へとすたすた歩いていってしまう。
幾度かの野生ポケモンとの戦いを経て、何度かダメージを受けもして疲れ始めたミーナに、パールが駆け寄って手を差し伸べた時なんかが特に如実だった。
長い耳でぺしんとパールの手をはたき、触るなとばかりに睨みつけて再び歩きだしたミーナの態度は、パールに結構なショックを与えたものである。
プラチナが慌てて色々とフォローめいた言葉をかけてくれたが、はっきり嫌われていることを伝えられたパールったら、茫然自失で頭真っ白になっていた。
あの子とこれからやっていけるのだろうか、という強い不安も手伝っての、ハクタイの森を抜けてからのポケモン親睦会だった側面は否めない。
蓋を開けてみれば、ミーナはピョコやパッチやニルルに対しては、むしろ仲良くしたがっているように見えたぐらいである。
どうやら自分以外のみんなとは関係良好なようなので、そういう意味では一つの懸念が解消されたのだが。
しかしポケモン同士のお友達抜きに、パールに対するミーナの態度のとげとげしさは変わらずのまま。
どうしてなんだろう、と、へこみ混じりの感情で胸の奥を沈めながら、ミーナをボールの中へと戻すパールである。
「私、この子に何かしたっけなぁ……」
「捕まえた時も、別段ひどいことをした印象は無かったんだけどな。
ポケモンだって色んな性格の子がいるし、こればっかりはミミロルと会話でも出来なきゃどうしてもわからないと思うよ」
「うう、解決不可能だ……
でも諦めずに、仲良くなっていけるよう頑張ろう……!」
ポケモンと言葉での疎通が出来る者なんて一人もいない。
ミーナがどうしてここまでパールを嫌うのかなんて、きっとはっきりわかる日は訪れないだろう。
巷では、元々ミミロルというポケモンは気難しく、捕まえたとてなかなかトレーナーに懐いてくれないという説も有力に語られてもいるのだが。
テレビなんかでトレーナーに甘える可愛らしいミミロルの姿が映される時なんかは、長い時間をかけてそこまで至れたというのが俗説だ。
ともかくパールが捕まえたミミロルも、俗説に漏れずなかなかトレーナーに対してつっけんどんなものである。
元々ミミロルってそういうところがあるんだよ、とはプラチナも教えてくれたので、パールもそこまで悲観し過ぎてはいないのだが。
しかし、ミーナとの良好な関係を望むのであれば、パールもこれから長い時間苦労しそう。
パールにとって四人目のポケモンは、可愛い見た目でなかなかくせのある子のようだ。
ハクタイシティは、昔を今に繋ぐ街とよく言われる。
太古に実在したという伝説のポケモンを祀り、街の真ん中に作られた大きな像は、それを象ったものと言われている。
どんな街にも歴史があり、ご当地の博物館にでも行けば、その街の歴史について色々と知れるものだが、ハクタイシティはそれが少々事情の異なる街。
街を挙げて敬う太古のポケモンに対する伝承や、シンオウ地方全体の旧き歴史を紐解く博物館が代わりに名物として今も在るという形なのだ。
自らの歴史ではなく、伝説のポケモンが実在したという時代やシンオウ地方全体の過去を重んじる、そんな街として知られるのがハクタイシティである。
「ピョコとニルルが♂、パッチとミーナが♀なんだよね。
遊んでるとこ見てる感じでも、やっぱり男の子同士や女の子同士が一番気が合うのかな?」
「どうなんだろう。
駆けっこして遊んでたコリンクとミミロルは、女の子同士だからじゃなく二人とも足自慢だからだろうし。
ナエトルとカラナクシがそれに混じらずお喋りして和んでた感じなのは、単に走るのがそこまで得意じゃないからじゃない?
♂と♀同士でも、普通に笑い合って話してた風だったし関係ないと思うよ」
「プラッチもみんなのこと、ニックネームで呼んでくれていいんだよ?」
「だめだめ、あれはパールとパールのポケモン達だけのものって感じがする。
僕が例えばあのナエトルをピョコって呼ぶのは、なんか気が引けちゃうな」
「プラッチってヘンなとこ真面目だよね」
もっとも、そうした所に目を向けなければ、栄えた普通の大きな街。
歴史の古い街らしいが、ビルも普通に立ち並んでいるし、シンオウ地方中部の中心都市とも称される。
発展した近代的な表面上を保ちながら、街を挙げて歴史を重んじるその有り様は、人によっては"昔を今に繋ぐ街"が僅かに本質とずれているとも語る。
そんな人達は、"今と昔が共存する街"と表現した方が適切なのではないか、とポジティブな意味で語るのである。
お喋りしながら都会的な街並みを歩くパールとプラチナは、別段歴史的でもない景観に目を奪われることなく、互いのみを意識して歩き話している。
今時の子にとって、わざわざ目移りするほど独特な景観ではないということだ。
「なんかたまに、他の人にはどうでもよさそうな事にもこだわりたくなる時ってない?」
「あー、うん、あるかも。
普通の人ってパソコン通信でポケモンを預けたりもするみたいだけど、私は多分ずっとそれやらないと思う。
ずっとそばにいたいもん」
「ポケモンって6匹しか連れて歩けないよ?
7匹目以降はどうするの?」
「別にいいよ。6人もそばにいてくれる友達がいれば充分だもん」
「つ、捕まえないんだ……
トレーナーとして、色んなポケモンを使ってみたいとか思わないの?」
「全然思わない。
出会えた六人の子達と一緒にどこまでも行っちゃいたい」
話す機会が増えれば二人も、話さなければわからないお互いのことを知る機会も増えてくる。
極論的な話だが、パールは生涯6匹のポケモンしか捕まえない可能性が示唆されている。少なくとも今の彼女の主張はそんな勢いである。
多くのトレーナーは、何匹もポケモンを捕まえて、育てて一緒に戦ったりして、自分のバトルスタイルに合う6匹のポケモンを厳選するものだ。
パールは根本的に、その観点がはじめから無いらしい。この子だ、と直感的に捕まえた6匹のポケモンを、ずっと大事にして仲良くしていきたい模様。
今後あと二人、どんなポケモンを捕まえていくかなんてのもあらかじめ考えてはいないだろう。彼女はけっこう、感情まっしぐらで生きている。
ズバット系統を捕まえることはまずあるまい、ということだけは確定的だが。
「パールにとってのポケモンって本当に、バトルのお供って言うよりも友達でしかないんだね。
ずっと思ってたけど、自分のポケモンのこと1匹2匹って数えないし」
「あっ、気付かれてた?」
「そりゃそうだよ、そういう呼び方する人そんなにいないもん。
ポケモン大好きのナナカマド博士でもそんな数え方しない」
「なんかヤなんだよね、ピョコやパッチやニルルやミーナをそういう風に数えるの。
友達だもん。プラッチだって、友達の1匹じゃないよ?」
「それはそうでしょ、1匹なんて言われたら僕も流石に拗ねる」
「あはは」
お互いのことを知りながら――特にプラチナがパールのことをもっと知りたがりながら、楽しくお喋りしながら街を歩いていく。
ポケモンセンターに行くのはどうせ今晩だ。暗くなるまでは、街をぶらぶらと歩いて色々と見回っておきたい。
わざわざ目移りはしない景観というだけで、初めて訪れる街には変わりないのだ。
二人ともお互いの顔を見て話しながら、しばしば街の眺めを楽しみながら歩いている。
「あっ、着いた着いた。
伝説のポケモンの像」
「わぁ~、おっきいねぇ!
なんだかかっこいい!」
「空間を司るポケモン"パルキア"の像だってさ。
僕も一度は見てみたいって思ってたし、こうして実物を見るとじーんときちゃうなぁ」
「プラッチが学者モードになってる」
「テレビや本で見たことはあるけど、やっぱ実物は違うじゃん」
「わかる。私もなんか、圧倒されちゃってる感ある」
さて、歴史のお勉強なんてするためにこの街に来たわけじゃない二人だが、やはりハクタイシティの名物と名高いこれだけは一目見ておきたかった。
街の真ん中に鎮座する大きな像は、この街に住まう人、ひいてはシンオウ地方各地の人々にとっても、神様のようにあがめられし存在を象ったもの。
伝説のポケモンの姿をこの世に顕現したかのような大きな像は、遠くから見ても胸躍るほどの巨大で雄大。
近付くにつれて大きくなっていくよう目に映るそれは、ただそれだけでパールとプラチナに高揚感に近いものさえ与えてくれるものだ。
近付いて、見上げてみれば、どんなに圧倒的だろう。遠目に見える象に向かって歩いていくだけでそう思わせてくれる、伝説のポケモンの肖像は圧巻だ。
「……あれっ?
あの人って……」
「プラッチ?」
「いや、でも、こんな所に……ええっ?」
いよいよそろそろ像を見上げられそうなほど歩み寄ったパールとプラチナだが、不意にプラチナの足が止まった。
巨大な像の足元で、二人の女性が神妙な顔で立ち話している姿がある。
そのうち片方が、どうやらプラチナにとっては心当たりのある顔で、しかしその割にプラチナもある観点から、勝手に人違いの可能性を考えている。
シンオウ地方の超有名人なのだ。こんな所で偶然見かけるとは思えないほどに。
片や、オレンジがかったマッシュルームカットでへそを出した若い女性。
片や、黒い服を着たすらりとしたボディスタイルの大人の女性。
その後者は、神妙な内容の話を終えたのか、互いに会釈し合う程度の挨拶を最後に去っていく。
去っていく方がプラチナの目に留まった女性であり、そちらに駆け寄り話しかけに行こうかと一瞬迷うほど、良い意味での有名人である。
「――あら?」
その女性を見送った、話し相手だった女性は、不意に少し離れた場所に立っていたパールとプラチナに気付いて振り返る。
なんだか少しだけこちらに顔を突き出し、目を閉じてすんすんと鼻を鳴らす動きを見せたかと思ったら、ぱたぱたこちらに駆け寄ってくる。
目が合った気がしたパールも、駆け寄ってくる女性に少しどぎまぎ。
「ねえねえ、あなた達ポケモントレーナー?」
「えっ、あ……そ、そうではあります」
「やっぱりやっぱり!
自分のポケモンを可愛がってあげられる優しい人の匂いがしたもの!
ハクタイシティは初めて? 私もあなた達の匂いは初めてだし」
匂いとな。変わった単語を使って接点を作ってくる人である。
人見知りの気があるプラチナは、女性が引き締まったウエストを露出しているせいで目のやり場に困るせいもあり、パール以上にきょどきょどしている。
社交的で初対面の相手と話すのも得意なパールだって、相手の勢いが強くて自分からの第一声がすぐに出せないぐらいである。
「あたし、"ナタネ"っていうの。
ハクタイシティでは、若輩者だけどジムリーダーを務めさせて貰ってるわ」
「あっ、ジムリーダーさんだったんですか?
えぇと、私はパールっていいます、よろしくお願いします。
ジムリーダーさん達に挑戦して、バッジを集めようとしてます」
「じゃあもしかしてあなた、もうすぐあたしに挑む新しい挑戦者?
あははっ、すごいわくわくしてきた! 楽しみ!」
ぱちぱちと手を叩いてはしゃぐ仕草を見せる、ナタネと名乗る女性である。
なんだかハイテンション。こういう人なのだろうか。
しかし笑顔は草木を照らす太陽のように明るく、単にお調子者な明るさではなく、見ていて気持ちのいい快活さだという印象が強い。
きっと二十歳を超えた大人だろうとは見えるも、無邪気な姿は子供のようで、パールから見てもなんだか年の近い相手と話しているような親近感がある。
「あのぅ、すいません。
さっきお話してた人って、もしかして"シロナ"さんだったりします?」
「ええ、そうよ。
ちょっと用事があってこの街に来てたみたいでね」
「うわぁ、やっぱりそうだったんだ……!
しまったなぁ、追いかけてお話したかったなぁ……!」
「えっ、シロナさんって、ポケモンリーグチャンピオンの?」
「あははっ、シロナもすっかり有名人ね」
どうやら先程ナタネと話していた女性とは、シンオウ地方のポケモンリーグのチャンピオン。
テレビに出演したことも非常に多く、今や子供でも彼女のことは知っている。プラチナだって興奮するわけだ。
そんな多くのポケモントレーナーには敬称をつけて呼ばれるであろう、シロナを呼び捨てにする辺り、ナタネは元々シロナと親交があるのだろうか。
「来て来て、ジムまで案内するわ。
その間、色々お話しましょ!」
「わわわっ、ひ、引っ張らなくても」
「あなたも来て来て! お話しましょ!」
ナタネはパールの手を両手で握り、ジムに行きましょうとぐいぐい来る。
乱暴に力任せに引きずるような力ではないが、手綱を引いてこっちこっちと足を向けさせるような強い牽引力を孕む力だ。
プラチナにも呼びかけながら歩きだすナタネからは、二人とお喋りしながら歩きたい想いが駄々洩れ状態である。
いったいどうしてこんなに初対面のジムリーダーさんに食い付かれているのだろう。
パールもプラチナも、戸惑いながらナタネに導かれるまま、パルキア像の観光を嗜む暇もなく連れていかれるのだった。
「二人ともがジムに挑戦しに来たってわけじゃないんだ?」
「はい、私だけ。
プラッチは一緒に旅してるだけなんです。
ナナカマド博士の助手をしてたから、色んなことに詳しくて、私にも色んなことを教えてくれるんですよ」
「へ~、プラッチ君っていうんだ。よろしく。
ナナカマド博士ってあの人でしょ? 凄いね、その年でそんなの」
「いや、まぁ……
お父さんが博士と知り合いで、そういう縁あってたまたま……」
一緒にハクタイジムへと向かう間も、ナタネはパールやプラチナと楽しそうにお話する。
パールの手前、別にプラッチでもいいやの気分だったプラチナだが、こうして旅中で出会う人出会う人に間違えて覚えられていくのは如何なものか。
どこかで本名プラチナだとパールに知って貰った上で、あだ名プラッチで呼んで貰えるようになっていかないと、なんだか取り返しがつかなくなるのでは。
ここでも結局訂正せず、なし崩しでプラッチのままでいる少年だが、身の振りを考えていかないと少々まずい気がしてきている模様。
「ナタネさんは草ポケモンの使い手のジムリーダーなんですね」
「ええ、うちのジムはたくさんの草ポケモンを放し飼いにしてるし、みんなのとってもいい匂いで満たされたジムよ。
ずっとそこで過ごしてるせいか、あたしもすっかり鼻が良くなっちゃって。
あなた達から、ポケモンに優しい素敵なトレーナーの匂いがしたから、ついついテンション上がって声かけちゃった」
「匂いでそんなのわかっちゃうんですか?」
「うん、機嫌のいいポケモンの気持ちがボール越しでも感じ取れちゃうの。
あなた達二人とも、連れてるポケモンみんな幸せそうなのがわかっちゃってさ。
プラッチ君のボールからもよ? きっとよく可愛がって育ててるんでしょうね。
あなたもジムに挑戦していかないの?」
「いやぁ、僕はいいですよ。
ポケモンバトルは本業じゃないんで」
「でもプラッチ強いんですよ?
私いま、プラッチより強くなるのが目標でもあったり」
「え、初めて知ったんだけど」
「いま初めて言ったもん。
いつか勝負申し込むかもしれないよ。その時は受けてね?」
「あー、まあ、考えとく」
「約束してよ~、別にそれぐらいいいじゃん」
急に知らされて少し驚く想いと、照れ臭い感情が入り混じってプラチナはパールからちょっと目を逸らしている。
仲が良いんだなと見えてナタネも微笑ましい。くすくす静かに笑っちゃう。
「でも今はジム戦が最優先!
ナタネさん、ハクタイジムでもジムリーダーに挑戦する前に、ジム生の人達相手に勝たなきゃいけなかったりします?」
「あぁ、それね。
普段はそういう雰囲気なんだけど……今は別にいいわ」
「雰囲気?
別にルールじゃないって感じなんですか?」
「うん。
普段はね、草木の生い茂るジムの中で、色んな所に隠れたうちのトレーナーを探して、見つけて、みんなとバトルして勝ってからあたしに挑戦、って流れなの。
ジム生のみんなも挑戦者と勝負して経験を積みたいだろうし、せっかくだからそんな感じに遊んで貰ってるのよ」
各地のジムにはジム生がいて、概ねそれらに勝ってからジムリーダーに挑戦、という流れが一般化している。
それがルールなのか任意なのかはジム次第。ハクタイジムは、普段はジム生と勝負してからナタネに挑戦、とルール付けているジムのようだ。
「でも今は、あたしがみんなに他の仕事をお願いしててね。
ジム生のみんなが忙しいのよ。だからあなたは、あたしにすぐ挑んでくれていいわ。
挑む資格があるか無いかなんてたいした問題じゃないわ、挑戦者にとってはあたしに勝てるかどうかが大事なんだしさ」
「そうなんだ……
じゃあ、さっそくみたいな形になっちゃうけど、よろしくお願いします」
「え、パール?
今日いきなりやるつもりなの?」
「あ、いや、そうじゃなくて。
ちゃんと今日はポケモンセンターで休んで、みんなが元気になってから明日挑むよ?
さっそくって言うのは、試験とか抜きでさっそくって話。明日の」
「あぁ、そうなんだ、びっくりした。
いきなり今日行くとしたら流石に無謀だから止めようかなって」
「二人とも、もしかして今日ハクタイシティに来たのかしら?」
「はい、だからみんなも疲れてるし、挑戦するのはまた明日にします。
今日はとりあえず、ジムがどこかだけ。
出来たら中に入れて貰って、バトルフィールドも見ておきたいけど……」
「ふふっ、いいわよそれぐらい。
よく見て充分イメージトレーニングして、明日に備えて来て頂戴」
「やったっ」
やる気満々のパールの無邪気な張り切りようには、迎え撃つ側のナタネも全力を尽くして欲しいと感じる。
ナタネは個人的な経験から、子供のポケモントレーナーは強いと思っている。
怖いもの知らずで、何にでも物怖じせず挑めるからだ。
知識や経験の豊富な大人のトレーナーはその点において強敵だが、そういう相手にこそ通用する駆け引きというのもあるのだ。
一般的によくあるような話で言えば、相手の不利を示唆する展開を演出し、ポケモンの入れ替えを誘って"おいうち"を撃つとか、そんな駆け引きが一例か。
ジムリーダーのナタネはそんな手練手管には秀でている方で、かえってその腕を活かしにくい恐れ知らずのトレーナー相手の時は、別の意味の怖さも感じる。
ハクタイジムまでパールを案内し、バトルフィールドへ彼女を導くナタネ。
草木の茂るフィールドを、たくさん歩き回って細かい所まで観察し、使える地の利でも無いかとよく見定めようとするパール。
そんな姿を見ればナタネも、なるほどこのひたむきさは明日が楽しみだと感じるわけである。
ヒョウタも同じような印象をパールに抱いていたものだ。
ジムリーダーも性格は人それぞれだが、同じ立場にある以上、似通う根本理念というのは必ずある。
気骨のありそうな挑戦者を前にした時、ふつふつと情熱が燃え上がり胸が躍る。どんなジムリーダーでもそう。
みんな、それがたまらないからジムリーダーを務めている。