ポケットモンスター・パールストーリー   作:ましゅ

19 / 160
第19話   ハクタイジム

「待ってたよ、パール!

 あたしもう、今日がほんとに楽しみだった!」

「よろしくお願いします、ナタネさんっ!」

 

「二人とも、テンション高いなぁ……」

 

 朝を迎えたパール達。

 よく寝てばっちりお目々の冴えたパールは、朝一番でハクタイジムへ向かい、門を叩く前に帽子をちょっと正して。

 プラチナと一緒に昨日も訪れたハクタイジムへ踏み入って、従来ならジム生が切磋琢磨する屋内森林めいたエリアを通過していく。

 ナタネに頼まれ、ジム生達は連日出払っているのだ。普段は挑戦者を迎え撃つジム生が、先日から今日にかけて不在ということ。

 よって、ジムリーダーが挑戦者を迎え撃つバトルフィールドまで直行だ。

 

 芝生のように草が生い茂り、所々に何本もの木が生え揃う、状況次第では隠れ場所も作れそうな、ハクタイジムのバトルフィールド。

 ネタネは朝の眠い顔一つ匂わせぬ、高揚感に満ちた笑顔でパールを迎えてくれた。

 当人が言うとおり、パールが挑戦してくる今日が楽しみで、昨夜から今朝にかけては早寝早起き、コンディションは完全に整えてきた様子。

 見るからに気合が入っていらっしゃる。一方で、自分との勝負をこれだけ楽しみにしてくれていたんだと見せつけられては、パールもいっそう気合が入る。

 大きな声でご挨拶し、言葉の締め括りもかなり強い。

 パールもナタネさんも燃えてるなぁ、とは、一番近くの傍目から見るプラチナが強く得る所感である。

 

「プラッチ君、観戦?

 歓声、応援、気持ちのこもった声を出すのは全面的に歓迎だけど、アドバイスなんかは絶対しちゃ駄目よ?」

「はい、わかってます。

 パール、頑張って。君とポケモン達の力だけで、ばっちり勝ってこよう」

「うん、見ててプラッチ!

 みんなのかっこいいとこ、見せてあげられるよう頑張るから!」

 

 自分の格好いい所じゃなく、ポケモン達の格好いい所を見せるからと言う辺り、なんだかパールらしいなと思いながらプラチナは観戦位置へ。

 広いバトルフィールドだが、その外側にはバトルフィールドを囲う二階席があり、そこが観戦席と言える。

 

 ジムリーダーと挑戦者、本来その戦いに余人は不要であり、こうした観戦席のそもそもの必要性を疑問視する声はたまに上がるのだが。

 たまにジムリーダーの戦いぶりは如何なものかと、ポケモンリーグ本部の方々が視察に来ることもあるそうなので、建前上はそのために必要とされている。

 実際のところは、ジムリーダーの戦いぶりをジム生が観て学んだり、こうして挑戦者の身内の観戦に使われる側面が強い。

 時によっては、街の親子客を招待したりして、ポケモンバトルを観戦させるジムも多かったりする。ナタネもヒョウタもしばしばやっていることだ。

 子供の頃に地元のジムリーダーの格好いい戦いぶりを見て、僕も私もポケモントレーナーになりたい、と夢見るようになった人は結構多いらしい。

 強きポケモントレーナーの筆頭格たるジムリーダー、幼く未来ある後進を芽吹かせることもまた、本業とは異なるもちょっとしたお仕事である。

 

「あなたが持ってるジムバッジは1つ。

 勝負は3対3! どの子に任せるかはもう決めてきた?」

「はい、大丈夫です。

 あとは出てもらう順番だけ!」

「よろしい! それじゃあ、さっそく始めましょう!

 見せてね、あなたとあなたのポケモン達の培ってきたものを!」

「はいっ!」

 

 ナタネとパールは、お互いボールを一つ握る。

 ジムリーダーとの戦いを含む、いわゆるポケモンリーグ傘下の"公式戦"は、最初の一体を出すのは同時というのが暗黙の了解だ。

 ポケモンのタイプに相性というものがある以上、後出しを許される側がいるとそちらが有利になりがちだからだ。

 両者とも、バトルフィールドの両端にある高台、トレーナーエリアに立ち、お互い真っ向から目を合わせて開戦三秒前の空気を噛み締める。

 

「いくよ! チェリンボ!」

「頑張ってね! パッ……」

 

 ナタネのボールからバトルフィールドへ、先鋒チェリンボが降臨する。

 パールのバッグからバトルフィールドへ、先鋒にする予定のなかったミミロルが降臨する。

 おかしいな。

 

「えっ、あぇ、ミーナ!?」

「――――z!」

 

「あ、あら?

 ミミロルがトップバッターでいい、のか、な?」

 

「あー、うー、えー……!」

 

 実はモンスターボール、中に入っているポケモンがじゃじゃ馬だと、トレーナーがスイッチを押さなくても自分で勝手に出てくることが稀にある。

 モンスターボールの中というのはポケモンにとって快適らしく、心を落ち着かせてくれるため、よほど気の強い個体でも自分から飛び出すのは相当稀なのだが。

 ミーナはその一般論に該当しないらしい。

 呼ばれてもいないのに飛び出してきて、パールを振り返りもせず前のめりな姿勢でチェリンボを睨みつけている。

 鳴き声は可愛いのだが、威嚇するような強い鳴き声を発している辺りも含め、かなりやる気満々な空気である。

 

「も、もうこれでいきます!

 どのみち三人の中には含んでましたのでっ!」

「よ、よーし、わかった!

 アクシデントのようだけど受け入れるのね?

 それじゃあ、気を取り直して始めましょう!」

 

 いずれにしたって草ポケモンの使い手とわかっているナタネ相手に、水ポケモンのカラナクシであるニルルを出す予定は無かったのだ。相性最悪極まりない。

 ミーナを先鋒にする予定は無かったのだが、どのみちどこかで出て貰うつもりだったのは確かなことである。

 だったらミミロルを起用したことを知られた上で、引っ込めて、手の内の三分の二を早々に公開するようなことはしないのも選択肢。

 間違いなくアクシデントだが、パールもパールなりに考えての強攻策である。

 

「チェリンボ、やどりぎのタネ!」

 

「ミーナ行け~っ! はたく攻撃!」

 

 捕まえてからさほど日が過ぎていないミーナだが、パールはミミロルが使える技ぐらいは勉強してきた模様。プラチナに教えて貰ったとも。

 チェリンボがミーナにひゅんひゅんと無数の種を投げ付けてくるが、フットワークのいいミーナはそれを躱しながらチェリンボに突っ込んでいく。

 距離を詰めたらチェリンボを振りかぶった平手でばちーん。

 とりあえずパールの指示には従ってくれているようで、懐いて貰えていないのを気にしていたパールにとって、一つ目の懸念はクリアされた。

 全く言うことを聞いてくれない、そんな可能性も想定はしていなくもなかったので。

 

「さぁさぁチェリンボ、逃げて逃げて!

 追いかけっこよ!」

 

「え、あ、あれ?」

「――――z!」

 

 はたく攻撃を受けてよろめいたチェリンボから、どんな反撃が来るのかと警戒していたパールにしてみれば、意外な指示を下すチェリンボ。

 ちっちゃな体で非常に短い足のチェリンボが、ちょこちょこ足で走って跳んで、ミーナから離れる方へと逃げていく。

 そうそうその調子! と、握り拳を胸の前でぶんぶん振って応援するナタネの姿からは、戦略的なものを感じ取れない。

 一方で、やる気満々のミーナはパールの指示を待たず、逃げるチェリンボを追いかけていく。

 

「来てるわよチェリンボ、右に避けて!

 いいわよいいわよ、次は隠れて!」

 

「え、ええぇと!?

 ミーナ、はたく攻撃! 捕まえてっ!」

 

 足の速さではミーナが勝っているようで、ばたばた駆けるチェリンボに急接近。

 後ろから追いかけてきたミーナの攻撃を、チェリンボもナタネの指示を耳にして躱す。

 はなから回避に意識を割いているようで、ミーナの素早い接近と攻撃にも、紙一重という風ながらきっちり躱しきっているチェリンボだ。

 近場の木の後ろに回り込んで、回り込む形でチェリンボに迫るミーナと、ぐるぐる木の周りを回って追いかけ合い。

 ミーナもチェリンボも可愛らしい姿なので、和む光景ではあるのだが、これがジム戦? と思えるほど無垢な眺めなのは確かである。

 

「パール気付いてるのかな……

 このままじゃやばいんだけど……」

 

 時計回りに木の周りを追いかけ回すだけじゃなく、たまに逆回りしてチェリンボを追うミーナ。

 正面衝突しかけたチェリンボに振りかぶった平手打ちをしようとするも、跳んで躱した相手を空振って、振り抜いた手が木に当たって自分が痛い想いをする。

 いたたと手を振るミーナに対し、チェリンボは逃げていく。

 捕食者から逃げるような必死の速さだが、その表情は逃げるだけの慌てふためくものじゃなく、楽しそうなものであるのをパールも目にするに至る。

 

「ッ――――!」

「あっ、ミーナ!?

 だ、大丈夫!? 手、折れたとか!?」

 

 逃げるチェリンボをすぐに追いかけるかと思ったミーナだが、木の幹に当たった手を痛そうに振りながら、足が敵を追う動きに至らない。

 なんだかちょっと表情も苦しそう。息切れしている。

 思わず心配になってしまうパールが的外れな心配をするが、嫌いなパールに心配されて逆に闘志が燃えたか、ミーナは再びチェリンボを追う走りに移る。

 

「あっ、もしかして……!」

「ふふふ~、気付いたみたいだね挑戦者さん!

 早くチェリンボを捕まえないと、あなたのミミロル枯れちゃうよ!」

 

 開戦間もなくよりも足の運びが遅いミーナの様子に、彼女を注意深く視たパールも、ミーナを襲う異変に気が付いたようだ。

 ミーナの右肩と片耳から、双葉を生やした小さな植物がぴこんと生えている。

 パールだって知っている、あれは"やどりぎのタネ"を受けたポケモンが背負うことになる、じわじわ体力を奪われる芽だ。

 最初、やどりぎのタネをばら撒いて逃げたチェリンボ。ミーナもフットワークを以って躱したかに見えたが、あんなに撒かれて全ては避けきれなかっただろう。

 ミーナの体力をじくじく削る役目をやどりぎのタネに任せ、チェリンボが逃げに徹するというナタネの作戦は、どうやらパールの目にも見えたようだ。

 

「がっ、頑張れミーナ!

 早く追い付いて倒さないとやられちゃう!」

「――――z!」

 

 わかってるようるせぇなとばかりに舌打ちするミーナ。だからあんたの指示も待たずに突っ走ってんだよという顔である。

 露骨にうざったそうに一瞬睨まれたパールが自分のポケモンに怯まされる中、ミーナは再びチェリンボとの距離を詰める。

 平手打ちを狙うミーナの攻撃を、チェリンボはぴょんぴょこ跳ねて躱し続ける。

 あわあわとした回避ムーブであり、決して軽業師のような華麗な回避ではないのだが、ともかくミーナの攻撃を凌ぎ続けられているのは事実である。

 やどりぎにじわじわと体力を吸い取られ、息切れが激しくなるミーナの動きが鈍っていることもあり、逃げに徹するチェリンボになかなか攻撃が当たらない。

 

「――――ッ!!」

 

「ぉえ!?!?」

「はわっ!? チェリンボ!?」

 

 全然攻撃が当たらず相当いらいらしたのか、ミーナははたく攻撃を躱した直後のチェリンボを、回し蹴りめいた豪快な蹴りでぶっ飛ばした。

 チェリンボを蹴飛ばされたナタネも焦るような一撃だが、パールもびっくりである。可愛い見た目で腰の入ったえげつない蹴りである。

 相当な威力を孕む一撃だったらしく、蹴飛ばされたチェリンボは離れた場所に、がつんがつんと地を跳ねて転がる。

 

「チェリンボ、立てる!?

 マジカルリーフよ!」

「――――ッ!」

 

 かなり痛い目に遭って倒れた姿だったチェリンボだが、何とか立ち上がり、再び自らに駆け迫ってくるミーナと向き合う。

 ナタネの指示に応えてチェリンボが放つのは、淡い光を放つ不思議な葉。

 チェリンボが魔法のように宙へ突然生じさせた、一枚一枚が人の掌を大きく開いたほどの大きさの葉数枚が、ミーナに向かって飛んでいく。

 それは飛来する刃のように、向かい来るミーナに迫り、耳を掴んで背中を丸めて顔を傷つけられまいとするミーナの体をばすばすと斬りつける。

 小さな体で逃げ回っていた姿ばかりを晒していたチェリンボも、攻めに回ればなかなかのものだ。流石にジムリーダーのポケモンである。

 

「ミーナ……!?」

「――――ッ、――――z!」

「だめだめ、戻って!

 これ以上戦っちゃダメ!」

 

 体力を奪われ、傷ついた体で膝を着き、それでも立ち上がってチェリンボに駆け迫ろうとする意志がミーナからは垣間見えた。

 だが、明らかに足が震える姿は、逃げ回る戦術を使うチェリンボを相手に、長引きかねない戦いを挑ませるには厳し過ぎるものだ。

 まだやれるというミーナの意志表示に反し、彼女をボールに戻すパールの判断は正しい。

 誰がどう見てもわかるような実例を経てながら、パールもこうして少しずつ、自分のポケモンの"戦闘不能"を見極める目を養っていく。

 

「どう? あたしのチェリンボ、なかなかやるでしょ!

 可愛い見た目で実はやり手、草ポケモンってそういう子多いんだから!」

「な、ナタネさん、ほんとに草ポケモン大好きなんですね」

 

 ミーナを引っ込めたボールを握り、緒戦を獲られたパールは気落ちしそうになるが、快活に自分のポケモンを誇るナタネの姿が気の沈む暇も与えてくれない。

 ネガティブなメンタル状態に沈み込まれるよりは、パールにとっては良い展開だが。

 いや、むしろナタネは苦笑い気味の表情を自らに見せたパールを見て、暗くなりかけた顔に感情が戻ったと嬉しがるように笑う。

 

「さあ、まだまだよ! あなたのポケモンもまだ二匹残ってる!

 これからよね? 自慢のあなたのポケモン達の底力、見せてくれるよね!?」

「……はいっ!

 パッチ、行くよ! 絶対勝つよ!」

 

 出鼻を挫かれると、それを引きずって後々まで100%の力を発揮しきれず、ずるずる劣勢続きで不甲斐ない負け方をするトレーナーも少なくは無い。

 特に、挫折の少なかった者がある日いきなりそれに直面すると、立て直せなくなる傾向も顕著である。

 自身のメンタルコントロールが未熟な、子供のトレーナーに多い傾向でもある。

 

 だけど少々発破をかけてあげれば、パールは再び闘志を取り戻し、二人目のポケモンを喚び出してバトルフィールドへ降臨させる。

 それでいい。いや、これがいい。

 へこんで沈んで全力を発揮できなくなったトレーナーとの勝負ではなく、雑念に惑わされず全身全霊を目の前の戦いに投じる、そんな挑戦者との戦いがいい。

 それこそがナタネが、ジムリーダーたる彼女がパールとのバトルに望むもの。

 相手の精神状態も加味した心理的な駆け引きなど、もっとバッジを集めた上級トレーナー、あるいは大人のトレーナー相手で充分なのだ。

 

「ナタネさん、まだまだここからです!

 そうだよね、パッチ!」

「――――z!」

「あははっ、素敵な意気よ!

 かかってきなさいっ!」

 

 情熱に溢れたバトルフィールドだ。

 観戦に回っているプラチナもぎゅっと両手を握り合わせ、真剣勝負に興じる二人の姿を胸躍り眺めていた。

 プラチナの本分は、決してポケモンバトルではないけれど。

 こうして熱くなった者同士の真剣勝負を見ていたら、ふつふつと胸の奥に沸き上がるものが溢れるのも男の子である。

 

 まだまだ勝負はここからとはまさにその通り。2対3。

 数の上では片側有利でも、ここから結末がひっくり返る勝負など腐るほどある。

 ナタネは微塵も気を緩めておらず、パールもこの劣勢をひっくり返す気満々だ。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。