「はいっ、これがフォレストバッジよ。
これで二つ目よね。先はまだまだ長いけど、頑張ってね。
あなたはきっと、バッジ二つで終わるような子じゃないってあたし思ってるからさ」
「えへへへ、ありがとうございます……!
どうしよう、しゃんとした顔で受け取りたいのに、ナタネさんが凄く褒めてくれるから顔が……」
「あはははは、感情に素直な子なのね、あなた。
いいのいいの、嬉しい時は笑うのが一番よ」
ナタネに勝利し、バッジを受け取るパールの笑顔はぴっかぴか。
バッジを貰う瞬間というものに、形式ばった儀式的なものを意識するパール、ジムリーダーに勝利した側としてぴしっとした姿を作りたいのだけど。
嬉しい気持ちと達成感の強さに負けて、子供の顔でいるのをやめられない。
自分の感情に嘘をつけない子は、格好つけるのも大変だ。当分難しそう。
「それにしてもあなたのハヤシガメ、強かったね~!
普段どんな風に育ててるの? ねえねえ教えてよ」
「ふ、普段ですか?
別にそんな変わったことは……」
「ナタネさん、やっぱり草ポケモンが特に好きなんですねぇ」
「ミミロルやコリンクも立派だったけど、やっぱりあたしの興味のど真ん中はね?
さあパール、聞かせて聞かせて!
バトルの後の反省会という名の、単なるポケモン自慢大会!」
「ぜんぜん反省する気がない」
プラチナが指摘したように、草ポケモン使いのナタネは草ポケモンが大好き。だからこそ草ポケモン専門のジムリーダーをやっているぐらいなので。
今回パールが草ポケモンのピョコと一緒に勝っただけあり、色々知りたがっての食い付きぶりが凄い。
自分を破った挑戦者に、こうして食い気味に雑談をふっかけてくるジムリーダーも、少々珍しい方である。
例えば岩ポケモン好きのヒョウタでも、自分に勝ったトレーナーが岩ポケモンを使っていたら多少の会話は求めてくるかもしれないが、ここまでではなかろう。
「そうねー、まずはどこで捕まえたの?
私の行ったことのない場所だったら行ってみたいな」
「えっと、実はピョコ、自分で捕まえたポケモンじゃ……」
「――あっ、ごめん、ちょっと待って。
ヨウコ、どうしたの?」
「あら、よかったのかしら?
随分楽しそうだったから声がかけづらかったんだけど」
パールに色々と尋ねたがっていたナタネだが、ジム奥のこのバトルフィールドを訪れた身内に気付き、一度話を断ち切ってそちらへ呼びかける。
いかにもナタネがパールを相手に楽しそうだったので、気を遣ってすぐに声をかけなかったその女性は、ナタネの方から声をかけられたことで歩み寄ってくる。
ハクタイジムの、ジム生の一人である。大人のお姉さんという風貌で、ナタネと敬語を使い合わず話す辺り、年の近い間柄なのだろうか。
「ちょっと話があってね、あなたに頼まれてたことについて。
後にする?」
「あ……いや、すぐ聞くわ。
んん~、パールにもっと色んな話を聞きたかったんだけどなぁ」
「パールってこの子? 挑戦者?」
「うん、あたしに勝ったばかり。将来有望!」
「へぇ、凄いじゃないの。
うちのナタネに勝っちゃうなんてさ」
「わ、わ、ありがとうございます」
にかっと笑って褒めてくれる初対面のお姉さんに、パールはてれてれ。
綺麗な人だな、と思いながらもプラチナは黙っていた。彼はちょっと人見知り。
「ごめんねパール、あたしこの人と大事な話があるの。
申し訳ないけど、今日はお開きにさせて貰っていい?
あたしから話を始めておいて、ほんと申し訳ないんだけどさ」
「いいえ、そんな、仕方ないですよ。
ジムリーダーさん、忙しいですもんね」
「あっ、そうだ、後で一緒にご飯でも食べにいかない?
奢ってあげるよ?」
「いいんですか?」
「いいのいいの、埋め合わせみたいなもの。
それにあたし、やっぱりあなたに色々と聞きたいし。
プラチナ君も一緒にね?」
「僕までいいんですか?」
「うんうん、勿論!」
話を聞きたいと自分から振っておきながら、手前の都合で急に話を終わらせたのは少々悪いと感じたか、そうした意味での埋め合わせなのだろう。
ナタネはパールとプラチナに、後で会おうと待ち合わせ時間を決め、一旦の別れを告げた。
わかりました、後でまた来ます、と締め括り、パールとプラチナもジムから去る方へと歩きだす。
バトルフィールドから出る直前、ピョコ達と一緒に戦い抜き、勝利した舞台を改めて見ようと、パールは一度振り返った。
その時、ナタネとヨウコが話す表情が、いやにパールの目には印象強く残ったものである。
パール達に笑顔で手を振って見送ってくれたナタネが、大人同士の会話をしている表情がそこにあったのだが。
神妙な面持ちで何かを語るヨウコが、ナタネに何を言っていたのかは聞き取れなかった。
しかしその話を聞くナタネが、憤るほどの話を聞いているかのように、怖い横顔をしていた表情にパールもぞわっとしたものだ。
明るく快活な声と表情で自分とのバトルに臨んでくれていたナタネの、知らなかった一面を思わぬ形で見てしまったパールの動揺は露骨なもの。
見ちゃいけないものを見た気がして、バトルフィールドから去る足が早くなったパールの姿には、プラチナも僅かな異変的空気を感じ取っていた。
まずはポケモンセンターに向かった二人。
バトルを終えたばかりのパールのポケモン達は疲れ切っており、何につけてもまずはみんなに元気になって貰うのが最優先。
ポケモン達を預け、回復が済むまで少々お待ち下さいと言われて、パール達はポケモンセンター内で時間を潰していた。
普段はいつも一緒のパールとプラチナだが、時には別行動することもある。
例えば今もそう。ポケモンセンターは旅するトレーナーの宿泊施設として使われることもあり、建物自体がかなり大きくて広い。
すれ違う人も多く、ポケモントレーナーが集う場所というだけあり、トレーナー同士の交流の場としても重宝されるのがポケモンセンターだ。
人によっては、出会ったトレーナーとポケモンを交換したりする人もいるそうな。もっとも、それはパールが一番やらなそうなことでもあるが。
共に旅する中で、プラチナには色々教えて貰っているパールだが、プラチナだって自分が教えられることが全てだとは思っていない。
どうやらパールは初対面の人が相手でも話せるぐらいに社交的なようだし、たまにはセンター内で色んな人と話を聞いてみたらとも提案する。
色んな人と色んなポケモンの話をした方が、パールにとっても勉強になるだろうと思ってだ。
そんなプラチナの気遣いを喜んで、プラッチって先生みたいだよねと笑いかけられたのが、プラチナにとってはなんだかこそばくて。
ポケモンセンター内で別行動とし、プラチナから離れるや否や、年下の女の子にさっそく話しかけているパールの姿が、プラチナにはとても微笑ましかった。
確かに先生みたい。見えている限りでは教え子の姿を、目で追わずにいられないかのよう。先生は先生でも世話焼きな先生寄り。
ジム戦を戦い抜いてかなりの体力を使ったピョコ達が回復するまでには、普段よりも長めの時間がかかったものであるが。
色んな人と話して回ったパールにとってはあっという間だったようで、対して待つだけだったプラチナには、今回はやっぱり長かったなという印象。
離れ離れになると時間軸まで噛み合わなくなる二人である。
ハクタイジムへと再びナタネに会いに行く、待ち合わせの時間まではまだ少々の時間がある。
ポケモンセンターの入り口付近、いつでも出発できる場所の椅子に座り、時計を眺めるパールとプラチナ。
あとは二人で話して時間を潰すのみである。話の種もある。
プラチナが『どうだった?』と聞けば、色んな人と話してきたパールからいくらでも話題が出てくるはずだ。
「どうだった? 面白い話とかあった?」
「ん~……面白い話っていうか、面白くない話ならあった。
しかもそっちの方が多かった」
「え、なになに、どうしたの」
こんな話してきたよ、と明るく話してくれるパールかと思ったら、難しい顔をして首を傾けている。
面白くない話を今からプラチナにするのだろうか。楽しくない話をしたがるなんて、あまり普段のパールらしい言動ではない。
「えーっとね……ギンガ団というキーワードがありまして」
「うわっ、嫌な単語……!
詳しく聞かせてよ、何があった?」
「いや、本当むかむかするような話なんだけどさ――」
ギンガ団。
谷間の発電所を占拠していた、いかにも良からぬことを企てていそうな集団だ。
現地でそれと関わってきた二人をして、悪党連中という認識で固まりつつあったのだが、今回の話はもっと悪質なものである。
それについての話を聞いてきたパールがプラチナに内容を伝えるにつれ、彼の方も少しずつちりちりと胸の奥に義憤の火が灯り始めるような内容だ。
聞けばハクタイシティやその近辺にて、ギンガ団と名乗る者達が、ポケモントレーナーからポケモンを奪って回っているというではないか。
谷間の発電所やその周囲にたむろしていたギンガ団達も、確かにポケモンを乱獲していて、ポケモンを集めていたふしはある。
しかし、人が愛情を注いで育てたポケモンを強奪するなど、言語道断も甚だしい。
せっかく育てたポケモンが、なんて話で済む問題ではない。絶対に違う。
パールが聞いた最もむかむかするエピソードは、幼い女の子がとても可愛がっていたスボミーが、ギンガ団に奪われてしまったという話だ。
友達だったスボミーから引き離された姪っ子が、毎晩寂しくて泣いているという話をしてくれたお兄さんに、パールの胸は引き裂かれるような痛みを覚えた。
ピョコやパッチ、ニルルやミーナとそのようにして引き離されたらと思ったら、それだけで胸が張り裂けそうになる。
泣いているという女の子の気持ちには、察して余るものがあるというものだ。パールだって、自分だったら絶対に泣いてしまうと確信している。
人のポケモンを奪うという行為は、それほどまでに罪深いのだ。
そんな事件が頻発していたせいもあり、警察も既に動いているのだが、流石にギンガ団側もなかなか足をつけさせてくれないそうだ。
わざわざ我々ギンガ団と名乗る連中、賢そうには感じないが、事件の頻発に伴って人々の警戒も強まり、法治組織の目も鋭くなってきている。
こうなってくれば、当然ギンガ団側も一旦はおとなしくなる。ここ数日の限りでは、そんな事件も起こってはいないようだ。
彼らは既にこのハクタイシティから去ったのか、それとも潜伏を続けているのか、捜査する側はまずはそこから考えるところである。
流石にここまで大っぴらに動いている以上、あのギンガ団の服装でうろうろしている奴がいるほど、連中だって馬鹿ではないようだ。
谷間の発電所でギンガ団の連中の言動を見てきた限り、何となく、あの人達はそんな馬鹿さえやっちゃいそうだとパールとプラチナは思ってしまうのだが。
流石にその認識は改めてよろしいようだ。
「……でね?
ナタネさん、さっきジム生のお姉さんと、なんか大事な話してたじゃん」
「うん。
もしかして、ってこと?」
「プラッチは見てなかったかもしれないけど、あのお姉さんの話を聞いたナタネさん、すごく怖いオーラ出してたんだ。
許せない話を聞いたみたいな、そんな感じの」
「あぁ、だからパール、ジムから出る時にちょっと足早になってた?」
「怖かったぁ~……
ナタネさん、あんな顔するんだって思ったもん」
あの時はどうしてナタネがあんな顔をしていたのか想像もつかなかったパールだが、情報を握ったがために、なんとなく関連付けてしまう。
きっとそうだよと言えるほどの根拠は無いけれど、この話を聞いてあれだけ明らかに怒りを漂わせていたなら、辻褄が合うような気がしてならないのだ。
一度そう思ったらそんな気がしてしまうだけで、後付け情報から合点を合わせただけの推察ではあるのだが。
「思い切ってナタネさんに聞いてみようと思うんだ。
もしそうだったら、その……ね?」
「うん、僕も同じこと考えてる気がする。
許せないんだろ」
パールは力強くうなずいた。
そして二人は口にこそしなかったが、そんな人でなしが起こす事件の解決のために、自分達が出来ることがあるならやりたいと強く思っている。
そこには、谷間の発電所のギンガ団に挑むことを共に選んだ二人だからこそ、言葉すら無く同じ想いであることを確信し合える共振がある。
ただポケモントレーナー同士というだけでなく、同じ志を抱き苦難に挑んだパールとプラチナの心の繋がりは、当人らが無自覚なだけでかなり強い。
「ハクタイシティで暮らしてるナタネさんが、そんな事件のことを知らないなんてことは無いはずだ。
もしかしたら、ナタネさんも警察とは別に、自分達で動いて解決に向かおうとしているのかもしれない」
「私もそんな気がする。
ナタネさん、明るいだけじゃなくて、優しい人だと思ったもん。
こんな事件、絶対無視する気持ちじゃないはずだと思う」
「うん、会ったら聞いてみよう。
場合によっては、僕達がナタネさんに提案することも一つだ。
パールは絶対そうだよね」
「うん……!」
あの日、谷間の発電所に行こうと言い出したのはパールの方。
プラチナの気持ちを想像するパールより、パールの気持ちを想像するプラチナの方が簡単だ。
事件解決のために協力できるなら何でもしたい、と言うに決まっている。
やがて待ち合わせ時間が近付き、ポケモンセンターを出発してジムへと向かうパール達は、既に心穏やかな表情ではなくなっていた。
ついさっきまで、ナタネに勝利して喜んでいた気持ちもすっかり過去のもの。
無理も無い話である。人のポケモンを奪う者達がいるという話を聞いて、心穏やかでいられるポケモントレーナーはそうそういない。
長らく共にしてきたポケモン達を奪われるなどというのは、家族や友人を誘拐されるにも等しい悲劇。言うまでもない話である。
「まあ、はっきり言っちゃうとそうなのよ。
あたし達は警察とは違う立場から、ギンガ団と名乗る奴らを探してるの」
結果としてはご明察だったようだ。
ジムでナタネと再会し、どこに行こうかと明るい表情で語りかけてくれたナタネを前にすると、重そうなこの話をするのはパールも抵抗があったのだが。
話をしてみれば、ナタネはすぐに二人をあのバトルフィールドまで招き、今はそこで話している。
余人の立ち入らぬ場所での会話である。聞き耳を立てている者がいてはまずい内容ということだ。
ナタネを中心としたハクタイジムの面々、ジム生達を含めた何人もの一団で、犯人の手がかりを探していたようだ。
警察のような捜査権を手に情報を集めることは出来ないが、耳と目で集められる限りの情報を集め、事件解決に向けて動いてきたという。
どうしたって悪党からの警戒が強まる警察と異なり、いち民間人に過ぎないジム生達は、世間話の体や聞き耳で、悪党から目をつけられにくい立場でもある。
考えようによっては、悪人の目を惹く警察を隠れ蓑に動く、私服捜査班めいた存在として機能していたとも表現できるかもしれない。
思えばパールも、ジム生達は忙しいと言われ、ナタネに挑む前のジム生との勝負をパスさせて貰ったが、忙しさの所以とはそういうことだったのだろう。
「警察に任せておけばいい案件ではあるんだろうけどね。
人のポケモンを奪おうとするような非道な奴ら、いよいよとなれば何をしてくるかもわかったものじゃないからさ。
民間人でしかないあたし達がどうこうしようとするには、少し重たい問題なのもわかってるつもり」
「それでも、ナタネさんは……いや、ナタネさん達、なんですよね」
「うん。
あたし達が暮らすこの街を中心に、そんな悪人が潜んでいるなんて黙って見ていられないのよ。
あんな事件が起こる前は、大好きな自分のポケモンと一緒に街を歩く人だって沢山いたのに……
あれ以来、怖くてそれが出来なくなった人ばかりで、すごく街が寂しいの」
先日この街に来たばかりのパール達にはわからなかったことだが、一ヶ月前に訪れていたとしたら、もっと明るい街だったということだ。
シティの呼称を冠するだけあり、過去を知らねば景観だけでも栄えぶりは感じ取ることが出来る。
それでもずっとこの街で過ごしてきた、ナタネをはじめとしたハクタイシティの人達に言わせれば、今のハクタイシティは本来の姿ではない。
悪の手によりそうなっていることに、やりきれなさを覚えている人は多いはず。それが郷土愛というものだ。
「ジムリーダーのあたしが動いていることを少しでも悪人に察知されたら、ジム生のみんなが動きづらくなるどころか、狙われることだって考えられる。
あたしには何も出来なかったの。本当に、やきもきするばかりだったわ。
上手にやってたつもりだったけど、どう?」
「そ、想像できなかったです……
ナタネさん、そんな悩みを持ってるなんて全然わかんないほど明るくて……」
「空元気すごかったんだけどねぇ。
正直、疲れるわぁ……どこに顔出す時も、元気なふりしてさ。
まあ、普段のあたしとそんなに変わらないつもりではいたけどさ」
ジムリーダーである自分が事件解決のために義憤を燃やしていることを気取られぬよう、ナタネはジム外で一切重い表情を見せないよう努めてきたのだ。
事件の話を聞くたびに、気の毒に思う感情を最も主張する表情の仮面を張り付け、握り拳を握らず、溢れ出そうな怒りを抑えて。
悪党連中に、ナタネが事件解決のために動いていることを悟られたその瞬間、ジム生達が攫われる可能性も生じてしまう。
人質に取られるようなことになれば、取り返しがつかないというものだ。
しかし一方で、ナタネがそうであると敵に確信されない限り、実はかえってジム生達も安全なのだ。
なぜならギンガ団目線、ナタネが事件解決のために動いているかどうかもわからぬまま、その身内たる関係者にちょっかいを出せばどうなるか。
それはナタネという、ハクタイシティでも指折りのトップトレーナーを、完全に敵に回すことを確定付ける行為に他ならない。
警察以上に敵に回したくない眠れる獅子を、わざわざ起こしにいくような行為は、動きを縛れる"かも"だけで選ぶには釣り合わぬほどリスクが高すぎるのだ。
徹底して、事件に対する激情を表に出してこなかったナタネの忍耐は、非常に大きな意味を持つものだったと言えるだろう。
「……その甲斐もあって、ギンガ団のアジトと呼ばれる場所は突き止められたわ。
うちのジム生のみんなが、集めてくれた情報のおかげでね」
「じゃあ、ナタネさんは……」
「ええ、踏み込むわ。
あなた達とご飯を食べたら、その後で行くつもりよ」
ナタネは笑顔を見せてくれたが、眼差しは意志の強さを表すように鋭く、それは今朝までの明るく笑っていたばかりの彼女の顔ではない。
そこにはジムリーダーとして、ハクタイシティに生まれ育った一人として、街を荒らす者を絶対に退治してみせると表明する頼もしき大人の姿。
それはパールとプラチナの目に、同じポケモントレーナーという身近さゆえか、どんな仕事をしているのか詳しく知らぬ警察以上に頼もしく映る。
バッジを一つしか持っていないパールとの戦いなんて、彼女にとっては手加減していたものに過ぎないと、無関係なここで不意に思い出すほどだ。
「あっ、あの、ナタネさん……!
その、えと、もし……もしよかったら……」
「え?」
「わ、私達も……ついていって、いいですか……?」
この流れになるのであれば、そう言おうと決めてここに来たパールですら、それを言い出すのに想像以上の勇気を要したものだ。
一度勝った相手なのに、本来ならば別次元のトップトレーナーなのだと、今さらながらに思い知らされた気がして。
そんな人が、断固たる意志をあらわに戦場へ赴かんとする姿に、小さな小さな自分が同行を申し出るのは、差し出がましさに近い感情すら生じてしまう。
パールが卑屈なわけではない。眩しいばかりの高潔な意志は、只の人には容易に足すら踏み入れられぬ聖域さえ自ずと生み出してしまうということだ。
「……あなた達が?」
「僕達も、出来ることをやりたいんです。
人のポケモンを奪っていく奴らなんて、ただそれだけで許せません」
「邪魔はしないよう頑張りますから……!
私達にも、手伝わせて欲しいんです!」
プラチナの堂々とした主張をそばに、気を持ち直したパールは今度こそ胸を張って言い切った。
真っ直ぐナタネの目を見て訴えたプラチナの眼差しからも、声が大きくなってしまったパールからも。
決して自分達が未熟であることに自覚が無いわけではない上で、この悲劇が二度と繰り返されぬよう、力を尽くしたいという強き意志がナタネにも伝わる。
少年少女の目は純真だ。悪を憎む二人の眼に、嘘偽りやお為ごかしは欠片も無い。
ナタネには、すぐに答えを出すのが難しかった申し出だ。
だけど、ナタネは呼吸三つぶんの思索を挟み、悩ましい難題に対しては比較的早く、彼女なりに思うところ在りしの回答を二人に示す。
「……いいわよ。
その代わり、危険だと判断したらすぐに帰って貰うわ。約束できる?」
「はい」
「はいっ……!」
推奨される決断だろうか。
ナタネがそれを加味せず決断したはずはあるまい。
極めて危険な展開も予想される世界へ、ナタネが二人を導こうとしている。
意気込むように、静かに、あるいは力強い返事を返した二人に微笑んだナタネの胸中は、彼女のみぞ知るところでしかない。
行きましょう、と出発するナタネの後ろを歩く二人には、決して見ることが出来なかったもの。
作戦決行のこの日この時、有事無きようジム内から決して出ないよう命じられていたジム生達が、出発前のナタネを見て声一つかけられなかった。
激情を胸に出陣するジムリーダーの眼光は、朗らかで優しい彼女本来の姿を知る身内をして、ぞっとするほどその本来からかけ離れていたからだ。
ジムリーダーを怒らせてはならない。
ジム生達は、他の誰よりもそれをよく知っている。
それは、パールやプラチナの想像を遥かに超えている。