ポケットモンスター・パールストーリー   作:ましゅ

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第26話   サイクリングロード

 

 ナタネのお見舞いを終えて病院を出たパールとプラチナは、次なる地へ向かうために歩き始めていた。

 次なる近い目的地は、ここハクタイシティから南に下り、東へ進んだ先にあるヨスガシティ。

 3つ目のジムバッジ獲得を目指し、次にパールが向かうのはそこである。

 

 シンオウ地方には"シティ"の名を賜る街が9つあり、コトブキシティを覗いたその8つの街すべてにポケモンジムがある。

 コトブキ以外のシティと名のつく街にジムがある、と覚えやすいので、シンオウ地方は初心者にもジム巡りがしやすい地方と言われたりもするそうな。

 例えばここより彼方のジョウト地方では、ヒワダタウンやチョウジタウンにジムがあるし、ホウエン地方ではムロタウンやフエンタウンにジムがあったり。

 

「はい、それじゃあ。

 本当にありがとうございました」

 

 そんなわけでハクタイシティを出発しようとしたパール達だが、プラチナが電話したい相手がいるというので、パールから少し離れた位置で通話。

 電話を切ると、プラチナはパールのそばへ戻ってくる。

 

「今の相手、ナタネさん?

 何の用だったの?」

「いや、つい病院でも話し込んじゃって、色々お世話になったことちゃんとお礼言えてない気がしてさ。

 改めてもう一回、ありがとうございましたって。

 パールも同じ気持ちのはずだからって言っておいたから、パールは電話しなくていいよ」

「プラッチそういうとこ律儀だよね。

 でもそっかぁ、私もそういうとこ気付けるようになっていきたいな」

 

 電話番号を交換したばかりのナタネに電話していたプラチナは、パールにはそう説明した。

 実は本題は、改めてのお礼を言うついでに伝えた、僕の名前は本当はプラチナなんですという旨であったのだが。

 あのままいくと本当にプラッチ君だと思われたままになってしまいそうだったので。

 

「よーし、行こ!

 サイクリングロード、楽しみ! 私初めてなんだ!」

「僕も初めてだよ。

 話には聞いたことあったんだけど、こうした旅がきっかけで来ることになるとは思わなかったな」

 

 しかしながらプラチナ、未だパールにはプラチナという本名を明かさず。

 時間が経って、今にして思えばあんな拘りたいしたことじゃなかったな、と考え改めているプラチナなので、もう明かしてもいいかなとは思っているのだけど。

 しかしながら、敢えてしばらく話してこなかったのは事実であり、プラチナの中でのみ、なんだか隠し事をしてきたようなばつの悪さも抱えている。

 いざ話したら、どうして早く言ってくれなかったの? なんて言われて気まずくなるかも、と思ってしまい、また別のタイミングで言おうと今は考えている。

 その別のタイミングっていうのがいつのことなのやら。

 日にちが経つごとに、隠したところでたいした意味は、というのに気付きつつあるのに、その時その時で何か理由を考えちゃって、結局解決は先送り。

 パールと一緒に旅する時間が楽しいせいで、楽しい空気に水を差したくない、というのを妙に考え過ぎてしまうようだ。

 以前のような自分都合ではなく、気を遣っての側面重視なのは進歩だが、まだ少々お為ごかしの域を逸していないともとれそうなところ。

 

 さておき、二人は濃密な時間を過ごしたハクタイシティを出発し、次なる地への足並みを揃えて歩いていく。

 これまでも何度か経験してきた、未踏の地で出会う新鮮な経験や楽しい出来事の数々。

 今は二人とも、それを夢見る楽しみな想いで頭がいっぱい。

 それと比べれば、名前がどうとかプラチナのちょっとした悩みも些事である。

 

 

 

 

 

 ハクタイシティの南にゲートを構える"サイクリングロード"は、南北に長く真っ直ぐ続く大橋のような、自転車専用の公道だ。

 北口からでも南口からでも自転車を借りることが出来るので、その往来自体は誰でも出来る。

 自分の自転車を持ち込むのでない限り、レンタル料がかかるというだけである。

 パールもプラチナも自分の自転車を持っていないので、二人とも北ゲートで自転車をレンタルする。返却は南ゲートで済ませられるようになっている。

 パールは白の自転車、プラチナは銀の自転車だ。好みの色はそれらしい。

 

「ポケモンと一緒に走ってもいいんですよね?」

「一人一匹までなら大丈夫ですよ。

 ただ、道は広いし平坦で前への見晴らしはいいといっても、誰かとぶつかったりしないよう気を付けて下さいね。

 自分も相手も右に左に同じ方へ何度も避けて、ぶつかりかけてしまう人達も結構いますから。

 危ないと思ったらちゃんと止まるようにして下さい」

「はいっ、わかりました」

 

 長い道を自転車で爽快に走れるサイクリングロードだが、ボールの外に出したポケモンと一緒に駆けることも許されている。

 あとは誰かにぶつかったりしないように気を付けましょうというだけ。

 危ないと思ったら自転車もポケモンも回避よりブレーキ。諸注意としてはそんなところである。

 

「じゃあ、プラッチ!

 出発進こ……」

「――あっ、ごめんパール。

 ちょっと待って」

「え、どうしたの? もしかしてまた電話?」

「いや……」

 

 さあ行こうというところで、プラチナがパールを引き留める。

 何かなと思ってパールがプラチナの方を振り向くと、彼はゲート出口付近に立っている大人の男性を見据えていた。

 ごめん、と手振りでパールに謝ると、プラチナは自転車に跨ったまま、その男性に近付いていく。

 

「プラチナ……」

「……お父さん、こんな所でお仕事?」

 

 学者らしい着こなしのその男性は、どうやらプラチナのお父さんのようだ。

 少し距離があることと、今いち弾まない二人の会話と声の小ささで、パールの耳までその会話は届かない。

 ただ、プラチナと話している男の人の神妙な表情が、会話の内容に興味があるパールも、入っていっちゃいけなさそうな空気を感じている。

 

「いや、お前がパールという女の子と一緒に、旅に出てると聞いてな……

 どうしてるかなと思って、一目会おうとここで待ってたんだ。

 ハクタイシティで無茶をしたという話も聞いたからな」

「それは、その……心配かけて、ごめんなさい」

「まあ、無事だったならいいんだが……

 正義感は結構だが、あまり危ないことはしてくれるな。

 私もなんだか気が気でなくなってしまう」

 

 叱るような声色ではないものの、昨日のプラチナの行動に対して強く否定的なのは、言葉のみならず面持ちにも表れている。

 プラチナも、そんな顔でなじられては、やはり反発するよりまず反省する。

 まさか親にこんなに早く知られるなんて、という気持ちもあるため、正直今はかなり弱った心持ち。

 

「ポケモントレーナーになるというなら応援するが、危険なことは……」

「ま、待ってよ父さん、それは別の話でしょ。

 確かに悪かったとは思ってるけど……僕はポケモントレーナーになりたいわけじゃないって父さんも知ってるでしょ」

「む……だが、学者は……」

「何度も聞いたよ、そんなの。

 それでも僕は、ポケモン学者になりたいんだ」

「…………」

「…………」

 

 苦言を受け入れはしたものの、それとこれとは話が違うことを言われれば、プラチナだって反論する。

 少ない言葉で、互いに折れないことを改めて感じ合う二人は、紡ぐ続きの言葉を失って沈黙を挟んでいた。

 それだけこの話題は、二人の間で何度も交わしてきた内容ということだ。

 

「……もう行くからね。友達を待たせてるんだ。

 たまにはちゃんとこっちからも連絡するようにするよ」

「……わかった。

 だが、考えておくんだぞ。お前には……」

「それは嫌。

 父さんはそればっかりだ……!」

 

 最後のプラチナの言葉だけが少し大きな声で、パールの耳にもそれは届いた。

 心底うんざり、不機嫌をあらわにしたプラチナが、大人からぷいと身と顔を逸らし、パールのそばへと戻って来る。

 なんだか人の込み入った事情、見ちゃいけないものを見てしまった気がして、パールもなんだか気まずさめいたものを感じてしまう。

 

「行こう、パール」

「う、うん……」

 

 動揺する想いはパールの表情にありありと表れており、プラチナの目にも明らかだ。

 とにかく今あの人がそばにいると、自分も機嫌良くはパールとも話せないので、プラチナはパールを急かすかのように先へ進もうとする。

 どぎまぎしながらプラチナを追い、ちらっと先程の大人を見れば、その人はプラチナのことをじっと目で追うばかりだった。

 

 ゲートをくぐってしばし進んだ所、あの人から距離を作ったところで、プラチナは自転車のブレーキを引いて止まった。

 この気まずさは嫌だ。パールも気になっているようだし、何も話さずに行くことはプラチナも選べない。

 

「あの人、僕のお父さんなんだ」

「えっ、そうなの?

 えぇと……喧嘩してた?」

「まあ、昔からなんだ。

 あの人は、僕にずっとポケモン学者じゃなく、ポケモントレーナーになるよう勧めてきてるんだよ。

 僕はずっとそれに反抗してる、って感じかな」

 

 苦笑い気味に話すプラチナだが、悩み事を人に吐き出すのは、当人にとってもいくらか気が楽になるものだ。

 プラチナ自身はそんなつもりで話しているわけではなさそうだが、苦笑いでも頬の力を抜けるように辺り、プラチナにとっても良い傾向をもたらしている。

 

「プラッチは、学者さんになりたいんだっけ」

「うん。

 お父さんも、ナナカマド博士の助手をやってる学者なんだ。

 学者がどれだけ大変なのかは、父さんからも何度も聞かされてるし、僕だってわかってるつもりなんだけどね。

 あの人、なかなか家にも帰ってこないしさ。ナナカマド博士の研究所以外の場所で会ったの、今日が本当に久しぶりだよ。

 だからまあ、本当に大変な仕事なのはわかるし、僕に同じ道を歩ませたくない気持ちがあるのもわかってるけど……」

 

 悩ましい顔で話すプラチナを見ていると、父との折り合いの悪さをパールも感じざるを得ない。

 付け加えるなら、妙に大人に対して見方のきついプラチナの挙動や態度は、ここに原因があるのかな、ともパールは想像してしまう。

 だからなの? なんて流石に聞けないけれど。

 

「でも僕、迷ってないよ。

 僕は学者になるんだ。自分でそう決めたからさ」

「……そっか。

 プラッチがそう言うんだったら、私もそれ応援したいな。

 学者がどれぐらい大変かなんて、私にはわからないけどさ」

「ありがとう、パール。

 そう言ってくれる人がいると、僕すごく嬉しいよ」

 

 父に反対されている夢を、パールは応援してくれる。

 パールも多少は言葉を考えたが、やっぱり友達がやりたいと思っていることは、感情面では応援したくなる。だから友達なのだ。

 複雑な事情を抜きにして、自分の感情をはっきり伝えて、プラチナが本当に嬉しそうに笑ってくれるのだから、パールの表情も少し光を得る。

 

「さっ、行こうよ!

 サイクリングロード、一緒に楽しもう!」

「うんっ!」

 

 暗い空気は二人とも望んでいない。

 来ると決めてから楽しみだったサイクリングロードだ。

 こんな気持ちも自転車で走れば風が吹き飛ばしてくれる、そう信じて二人は両足をペダルに置き、長い真っ直ぐなサイクリングロードに車輪を乗せる。

 

「おいで、パッチ!

 一緒に走ろう!」

 

 一緒に走る友達を決めていたパールだ。

 ボールの中から飛び出したパッチは、選ばれたことを嬉しがるかのように鳴き声をあげてくれた。

 さあ、楽しいサイクリングロードの幕開けだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「速いねー、パッチ!

 私ももっとスピード出したいよぉ!」

「――――♪」

「駄目だぞー、パール。

 それ以上スピード出したら事故しちゃうかもしれないんだから」

「いけず~!」

 

 パールが漕ぐ快速自転車に並走するように、パッチはしっかりついてくる。

 跳ねるような足取りは疲れを微塵も感じさせないもので、ただただパールと一緒に気ままな速さで駆けられることを楽しんでいるのがわかる。

 もっとスピードを出してもついてこられそうなパッチ、そう出来たらもっと喜んでくれるのかな、と思い、パールは加速したいのだけど。

 あまりスピードを出し過ぎると、いくら遠くからの対向自転車が早めに見えるここでも、反応が遅れて事故に繋がりかねないので並走するプラチナに制される。

 

 パールだって、たびたび横のパッチを目で追ってしまうのだ。

 だって、それが楽しいのがポケモンとの並走なんだもの。

 自分はポケモンを出していないプラチナが、パールの横を走りながら前をよく見て、事故は未然に防げるよう注意を配ってくれている。

 スピードを出しちゃ駄目というプラチナを、口ではいけずとなじるパールだが、その表情に一切の反抗心は無く笑顔満開である。

 今でも存分に楽しいのだ。口うるさいようでいて、優しく見守ってくれているプラチナには、感謝の想いしか沸かないというものだ。

 

「――あれっ?

 プラッチ~、ちょっといい?」

「んっ? どうしたの?」

 

 パッチのことだけじゃなく、このサイクリングロードから眺められる遠景を流し見ながらのパールだが、ふと彼女の目についたものがある。

 ゆっくりとブレーキをかけて止まるパールに、プラチナとパッチも減速し、道の端へと向かっていくパールへついていく。

 

「あれ、洞窟かな?

 テンガン山だよね? ほんと色んな所に入り口あるよねぇ」

「へぇ~、あんな所もにもあるんだ」

 

 シンオウ地方の中心に、南北に広がる巨大なテンガン山。

 地理を語るなら、決してシンオウ地方とは切り離せない、大自然の象徴そのものだ。

 その雄大さは、北のハクタイシティからテンガン山の中部を望め、そこから遥か南のクロガネシティからも、テンガン山の最南部が望める。

 ハクタイシティからクロガネシティまでは、かなりの距離があるのにだ。

 長い長いサイクリングロードを経て、さらに207番道路を南下して、ようやくハクタイシティからクロガネシティに至れる、その道のりよりも山は広い。

 それさえも、南北に広がるテンガン山の一部に過ぎず、その最北端はハクタイシティの遥か北東である。

 

 シンオウ地方の西と東を二分するテンガン山には、至る所に洞窟があり、山への入り口は各地に点在していると言える。

 パール達が見つけたのは、高き大橋のサイクリングロードと同じ高さの、岩肌にぽっかりと開いた穴めいた入り口の一つだ。

 サイクリングロードの下の大地は206番道路と定義されており、降りればあの入り口に行くことも不可能なことではない。

 

「パール、行ってみたいの?」

「やだよ、どうせズバットいるでしょ。

 ヨスガシティに向かうためにもテンガン山の洞窟抜けなきゃいけないし、正直言っちゃうとそれだってほんとはイヤ」

「だよね」

「なんでわかってるのに聞いたの? うん?」

「ぶれないパール」

「はい、正しくわかってくれているようで何よりです」

 

 眺めを話の種に語らうパールとプラチナに、体の小さなパッチはサイクリングロードの縁壁より体高が低く、二人の見ているものが見えない。

 自転車を降りたパールがパッチを抱っこしてあげて、自分達の見ている洞窟の入り口を見せてあげる。

 同時に目に映るテンガン山の眺めも壮観であり、パッチも目を輝かせてこの景色を堪能するばかり。

 

「ああいうとこ、冒険好きな人にはたまらないんだろうな」

「ズバットがいないんなら、私もちょっと冒険してみたいな~って思うけ……」

 

 

『たすけてぇ~~~……』

 

 

「!?」

「!?!?!?」

 

 楽しくお喋りしていたパールとプラチナが、揃って心臓ばくりとする出来事発生。

 山を眺めていた二人がぐるんと互いの顔を見合わせるが、それが全く同時である。

 今の聞こえた!? と確かめ合いたいかのような両者の態度、概ねその挙動で答えは出たようなものである。

 

『だれかぁ~~~……たすけてぇ~~~……

 みちにまよっちゃったよぉ~~~……』

 

「はわあああっ!?!?!?

 聞き間違いじゃないいいぃぃっ!?」

「な、なんだあの声!? おばけ!?」

 

 一度聞こえたのでと耳を澄ましてみれば、今度ははっきり聞こえてしまった。

 それも、なんだか今二人が目にしていたあの洞窟入り口から響いてきているような。

 声の出所は確かにははっきりしないものの、声の内容を鑑みればやはり洞窟内だろうかという推察も強まるところである。

 

『こわいよぉ~~~……かえりたいよぉ~~~……』

 

「ぷぷぷぷぷプラッチさんっ!

 いかがいたしましょうかっ!?」

「お、お化けの声っぽくは無いよね……

 でも、道に迷ってるって……じゃあ結構洞窟の奥なんじゃないの?

 そんな場所から外まで声が聞こえるかな?」

「やはりおばけ!?」

「ど、どうだろね……」

 

 半ばパニックのパールだが、同じくらい動揺しつつもプラチナは比較的冷静な分析を果たせている。

 声は女の子の声のように高く、それも妙なほどはっきりと聞き取れる内容で、人間的な声だとは耳が感じているのだけど。

 本当に迷子が洞窟内にいるとして、物理的にここまで声が届くだろうかという見解も確かである。

 だったら何かと別の答えを探したら、お化け濃厚。

 それに、多分お化け自体は実在する。そういうポケモンも結構いるのだし。

 

「どどどどうしましょ!?

 おばけだったら全力で逃げたいけど、もし本当に困ってる人がいたら……

 賢いプラッチさんに、可能性があり得るかどうかだけ確かめたいっ!」

「パールめちゃくちゃな言葉遣いになってるね。

 ……ゼロじゃないよ。音を上手く操れるポケモンだっているからさ。

 迷子の誰かが、自分のポケモンの力を借りて、外まで声を届けてるっていう可能性は無くもない、けど……」

「あ゙あ゙ぁぁぁ……あり得るのかああぁぁぁ……」

 

 パッチを抱えたまま、体をくの字に曲げて俯くパール。

 困ったことになった。ゼロって言ってくれれば迷わず無視するのに。

 でも、万が一にも本当に困っている人がいたらって思うと、パールの場合は思うところが出てきてしまう。

 

「いや、わからないよ、わからないけどさ。

 そんな人いなくて、野生のポケモンのいたずらかもしれないし……

 あぁでも、こんな具体的な声出してイタズラする野生ポケモンはあんまり……」

「要するに、迷子になってる人はほんとにいるかもってことだよね……」

「えっ、パール、まさか」

「迷ってるんですよおおぉぉぉ……!」

 

 正直驚きのプラチナである。

 ズバットの生息域である洞窟内なんて絶対に寄り道したがらないパールなのに、困っている人がいるならと、助けに行くことを視野に入れている。

 無条件では乗り気になれない、無視し難い要素があるから迷っているだけで。

 つまり、仮にだが、ズバットが一匹もいないと保証されるのであるなら、彼女は助けに行っちゃう性格ということだ。

 誰もいないかもしれないのに? パールにとっては、もしも本当に困っている人がいたらという可能性が重い。

 

「洞窟内で道に迷うなんて、泣きたいぐらい怖いと思うんだよぉ……

 私がそんなことになっちゃったらって思うとぞっとするんだよぉ……」

「まあ、パールはズバットが怖いから洞窟内なんて尚更だよね……」

「うぐぐぐぐ……」

 

 本当に迷子がいたらと思うと放っておけないのだ。

 人の苦しみを推察する最大のヒントは、自分がそうなったらどうかというのを考えるのが一番早い。

 特別なトラウマ持ちであるパールの場合は極端だが、洞窟内で絶望の中にある誰かが本当にいたらと思ったら、見捨てていくのは相当に寝覚めが悪い。

 こんな性格だからこそ、谷間の発電所や、ハクタイシティのギンガ団のビルに乗り込むことが選べるのである。

 

『だれかきてぇ~~~……さびしいよぉ~~~……』

 

「っ、っ……!

 プラッチ、お願い、ついてきて! ほっとけない!」

「わかった、わかったから……とりあえず落ち着こう?」

「ほんとに!? ほんとについてきてくれる!?

 お化けが出ても、絶対、絶対に私のこと見捨てて逃げないって約束してっ!

 お願いしますっ!」

 

 洞窟内にいるかもしれない迷子より、この困ったちゃんの方が心配になってくるプラチナである。

 帽子が無ければ髪が振り上がっていたような勢いで顔を上げ、プラチナを向き直って再び深々と頭を下げるパール。

 体を折り曲げる勢いが凄くて、抱かれたパッチがパールの胸元で頭をむぎゅっとされたほど。

 余程行きたくないのが本音なのが嫌というほど伝わってくる。それでも行くことを決断するのはある意味ご立派。

 一人で行くのは無理です、助けて下さいという割り切りぶりも潔い。あまり褒められたものでもないが。

 

「も、もちろん、それは約束するから……」

「絶対だよ!?

 約束破ったら罰金一万円だからね!? そして一生うらむ!」

「罰金よりそっちの方が怖いなぁ」

 

 仕舞いにはダイヤみたいなことを言い出すパールであった。

 金額が妙にリアルな辺り、裏切ったら本気で請求してきそうでおっかない。

 まあ、一生恨む宣言の方が、プラチナの言うとおりずっと怖いが。想像を絶するほど恨まれそうである。

 

「…………プラッチ、お礼は必ずするね。

 今はなんにも思い付かないけど……」

「大丈夫、大丈夫だから。

 情緒どうなってんの、パールの方が心配になってくるよ」

 

 約束して貰えたら、はふ~と息を吐いて一旦落ち着いて、一転しおらしくなってしまうパールであった。

 冷静になれば、我が儘で振り回している自覚も湧いてくるようだ。

 この駄目駄目ぶりには、プラチナも苦笑い全開である。

 しかし、あれだけズバットが苦手にも関わらず、いるかどうかもわからない迷子を助けたいと決断した想いに免じて、あまり責めない心持ち。

 客観的に見れば滅茶苦茶を言ってくれる女の子だが、その性格を理解しているからこそ、いいよと言ってくれるのも友達だ。

 そこは流石、二度も同じ志を胸に、ギンガ団に挑んだ仲というところである。

 

 サイクリングロードを駆け、ゲートをくぐって地上に降りたら、206番道路と呼ばれる下道を戻ってあの洞窟へ向かう足取り。

 洞窟に辿り着く前から顔を強張らせている、そんなパールの横顔を見て、プラチナはむしろ自分に対して溜め息が出そうだった。

 僕はこういうパールに求められると、ついつい断れないなぁと。

 父に危険なことはするなと言われた直後で、それ自体は強く戒めた直後で、今も忘れていないからこそ余計にだ。

 折り合いの悪い父親だが、今ばかりはプラチナも心の中で、ごめん父さんと呟かずにはいられなかった。

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