ポケットモンスター・パールストーリー   作:ましゅ

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第27話   まよいのどうくつ

 

「わっ、暗い。

 ぜんぜん見えない」

「明かりが欲しいな……ケーシィ、"フラッシュ"頼むよ」

 

 謎の声に応えてテンガン山の洞穴の一つに足を踏み入れたパール達だが、人の手が加えられていない洞窟は、日差しを得られず真昼時も真っ暗。

 入り口付近のここだけは外の明るさに照らされているが、十数メートルも前方を見れば、どこまで続いているのかわからないほど真っ暗。

 明かりも無しに足を踏み入れていくのは本能的に無理だ。

 

 ケーシィの入ったボールをぽんと叩いて技一つ頼むプラチナにより、ボールの中からケーシィが強い光を放つ技を発動させた。

 ボールそのものが強く光を放つ電灯に薄布を被せたように光り、眩しくない程度に周囲を照らして明るくしてくれる。

 

「プラッチってポケモンに色んな便利な技教えてるよね。

 私もそういう技、うちの子達に教えてあげたいなぁ」

「帰ったら僕が教えてあげるよ。

 パールの手持ちならパッ……コリンクがこの技を覚えてくれると思うよ」

「あっ、まだ遠慮してる。

 プラッチだってパッチのことパッチって呼んでいいんだよ? ゆるすっ」

「そ、そう?

 前も言ったけど、パールのポケモンをパールが呼ぶ時の特別な名前のような気がしてさ……

 わかった、今度からは知ってる名前で呼ぶよ」

 

 うんうん、と笑ってうなずくパールに、プラチナも行こうかと言葉を繋げ、洞窟の奥へと向かって二人で歩き始める。

 パールはカラナクシのニルルを出して、プラチナはポッチャマを出して、野生のポケモンに遭遇しても大丈夫なように連れ歩いてだ。

 道中、プラチナはケーシィに使わせている"フラッシュ"という技について、その諸注意をパールに話しておく。

 後でパールのポケモンにも教える技なので、パールは使い方を間違えないように教える時間も必要だ。今のうちにやっておく。

 

 本来フラッシュという技は、バトル中に相手のポケモンの目を眩ませるほどの強い光を放つ技だ。

 ボールの外に出したポケモンにフラッシュを使わせても、暗い道を歩くための明かりとしては使えない。かえって眩し過ぎるのである。

 今プラチナがやっているように、ボールの中のポケモンに使わせることで、ちょうどいい明るさになるそうだ。

 

「っていうことは、フラッシュを使って貰ってる子は、その間ボールから出てバトルして貰うことが出来ない?」

「フラッシュをやめたら暗くなっちゃうし、発光したままだと僕達がそのポケモンの動きも見れなくなるからね。

 最悪、その子の方を見ないようにして、見えないから指示も出せないし自己判断で戦って貰うっていうのが限界かな。

 だからフラッシュを使えるポケモンを、二匹以上連れてる方が安心だね」

「プラッチも、ケーシィ以外の子にも教えてるの?」

「うん、ピッピも使えるんだ。

 あ、パールの前ではピッピの姿を見せたことなかったっけ?」

「見たい見たい! 可愛いよね!」

「じゃあ、後で帰ったら見せてあげるよ。

 可愛いけどバトルでも活躍する、ポッチャマやケーシィに負けないぐらい僕の自慢の子の一匹だよ」

 

 プラチナは敢えて、言葉多く語り、話を広げて、パールとの会話を繋ぐ。

 お喋りしている限りであれば、パールにもズバットのことを忘れさせてあげられるからだ。

 自分から積極的に長話をしたがる性格ではないプラチナなので、これは完全にズバットがいる場所を歩いていると、パールに忘れさせるためにやっている。

 

「でも、パッチがフラッシュ覚えやすそうなのは、でんきタイプだからなのかなってわかるけどさ。

 私の他の子達はフラッシュ覚えられるのかな?」

「案外けっこう色んなポケモンが覚えられるよ。

 パールのハヤシガ……ピョコだって使えるんじゃないかな」

「あっ、ピョコって呼んでくれるようになった。

 っていうか、よくよく考えてみたら前にも呼んでいいよって話はしたのに」

「なんか人のポケモンをニックネームで呼ぶのはむずむずするなぁ。

 僕だけかな?」

「慣れていってよ、だいたい私、ハヤシガメって言われてもあんまりピンとこないかもしれないよ。

 ピョコはピョコだもん」

「あー、そうか、パールの中ではずっとピョコだもんね」

 

「でもそっかぁ、ピョコも使えるようになれるんだ。

 後でピョコにも教えてくれる?」

「うん、ちょうどいいかもね。

 シンオウ地方の東側に行くには、どのみちテンガン山の洞窟をくぐらなきゃいけなかったからさ。

 パールのポケモンにもフラッシュを使える子がいた方がいいよね」

「私プラッチと一緒じゃなかったら、どうやってテンガン山越えて向こう側に渡ってたんだろ?

 ほんと私、プラッチのおかげで色んなこと教えて貰ってるなぁ」

「そ、そんなに気にしてくれなくていいよ。

 一緒に旅をしてる友達なんだから、知ってること教えるのは当たり前だしさ」

「あはは、プラッチって照れてる時すごく顔に出るよね。

 フラッシュのおかげでよく見える」

「うっ、あんまり見られたくないな、それ。

 ケーシィ、フラッシュ消してくれる?」

 

「わっ、まっくら!

 もープラッチ、すぐつけて!」

「蛍光灯のスイッチみたいに言うのやめようよ」

 

 掛け合いして、いたずらして、洞窟内を歩いている状況であることを、楽しい空気で揉み消してパールに忘れさせる。

 出来る限りこの時間が長く続いて欲しいところ。そのうち必ず壊れる空気なのは間違いない。

 どうせ壊れるなら、なるべく進んだ場所で終わってくれた方が助かる。

 

「案外プラッチもいたずらするよね」

「ごめんごめん、控えるよ」

「んーん、むしろそういうとこどんどん出していこ?

 気兼ねなく何でもしてくれる方が、私と一緒でもリラックスしてくれてるみたいで嬉しいし。

 出会った頃のプラッチは、なんか遠慮がちだったしさ」

「あー、まあ僕はけっこう人見知りす……あっ」

「えっ?」

 

 はい終了。ぱたぱたぱた。

 パールの大っ嫌いな何かが、翼をはためかせて登場だ。

 洞窟内にはいくらでもいるというアレ。パールはアレがゴキブリ以上に苦手。

 

「ひゃ――――」

 

 この後のパールの反応や展開は、プラチナが予想したものから何らはずれなかった。

 ズバット登場、悲鳴、パニクる、そうだここスバットの巣窟だったとすっかり思い出して、ズバットを撃退した後もがくがくびくびくモード。

 駄目パールになってしまった。プラチナからすれば、誰かを助けにここまで来た中、手のかかる子がもう一人発生して苦労が増える局面だ。

 想定内ではあったのだし、苦笑いを浮かべつつ容易に甘受する辺り、プラチナも優しいものである。

 

 もう、彼女がきゃあきゃあ騒ぐ描写はわざわざするまい。

 パール自身ですら後から思い出せば、自分でも恥ずかしくなるような格好つかない姿である。彼女の名誉のためにも、ある程度は。

 

 

 

 

 

「な、なんだろうあの声……

 誰か助けに来てくれたのかな……?」

「――――」

 

 さて、騒がしくなってしまったパールだが、その声は洞窟の奥にいる誰かさんの耳にも届いたようだ。

 何せパールの声はでかい。本気で怒鳴ったらあのダイヤより大きな声を出せる地声なので。

 それが本気の恐怖とパニックで叫んでいるのだから、エコーの良い洞窟内での反響ぶりは凄い。

 

「でも、なんだかそれっぽくないような……

 なんだか向こうの方が困ってる感じだし……」

「――――?」

「い、行こうかユンゲラー?

 困ってるなら助けてあげなきゃ……」

 

 十歳ぐらいの女の子は、連れのユンゲラーにそんなことを提案する。

 帰り道がわからなくて困っていた側の女の子が、彼方からの声から只事じゃなさそうと感じ、人助けの方に回ろうと立ち上がるとは。

 自分の事情で不安だった子供にまで正義感を呼び起こさせるとは、パールの悲鳴ときたらなかなかの魔力を持っているものだ。

 

「だれか~~~~~!!

 だれかいるんですか~~~~~!!」

 

「ひゃっ!?」

 

「たすけにきました~~~~~!!

 へんじしてくださ~~~い!!

 すぐに行きま……っ、ひぃえええまた出たあああああっ!?」

 

 洞窟の奥から聞こえた声の主に、必死の大声で呼びかけるパールだが、また新しいズバットが出てきたら悲鳴もう一丁。

 このメンタルコンディションでも人助けを忘れない精神を褒めるべきか、この情緒の乱れっぷりに溜め息をつくべきか。

 身近のプラチナの感想としては両方である。客観的かつ優しい方寄り。

 

「へんじしてぇ~~~!

 どこにいるのか教えてぇ~~~~~!

 はやく助けてはやく帰りたいんです~~~~~!」

 

「っ、こっちです~~~!!」

 

 助けに来ているんだか助けを求めているんだかわからない呼びかけに、女の子の方も大きな声で返事する。

 連れのユンゲラーと共に、声の聞こえた方向へと駆けだす女の子。

 パールも同じようにするため、一人が駆け寄る倍の速度で、パールと女の子は近付き合っていく。

 響きやすいとはいえ声の届き合う距離からのそれだ。こうなれば、両者が鉢合うまでそこまで時間はかからない。

 

「あっ……!」

「ああぁぁぁ……!

 よかったぁ~~~……! やっと人に会えたぁ……!」

 

 パールとプラチナの姿を見た女の子は、その場でぺたんと座り込んだ。

 ほっとして気が抜けたようだ。それだけ、こうなるほどに長く不安に身を圧されていたということだろう。

 今はズバットがそばにいないこともあり、恐らく助けを求めていたであろう相手に出会えたことで、パールも新情報で頭に冷静さを取り戻しつつある。

 

「えっと……あなたが洞窟の外に助けを呼んでた人?」

「そうなんです……

 ポケモンを捕まえに来たら、道に迷って帰れなくなっちゃって……」

 

 どうやらパールが探していた人物とは、やはりこの女の子のようである。

 近くで聞いた女の子の声は、確かにサイクリングロード上で聞いたあの声とよく似ている。

 パールもこれで一安心。はぁ~っと深い息を吐いた。

 助けを求めていた人が無事でよかったという気持ち半分、これで帰れるという気持ち半分。自分都合もちょっと含まれた溜め息である。

 逆に言えば、助けを求める人に会えるまでは、あれだけ怖がりながらも帰るつもりは無かったということで、その気骨は案外なかなかのような気もするが。

 

 助けに来た旨をパールが伝えると、女の子は深々と頭を下げて、来てくれて本当にありがとうございますと丁寧にお礼を言ってくれた。

 "ミル"と名乗った女の子に、パールとプラチナも自己紹介を済ませて。

 この自己紹介、困ったことにパールが、私はパール、こっちはプラッチだよと言う形で済ませられた。

 まだプラチナ自身がパールの前で、僕はプラチナですという日は訪れてないらしい。どれだけ運命に逆らわれているんだろう。

 

 そんなミルの隣では、彼女の連れであるユンゲラーが、保護者のようにパール達に感謝の意を伝えるかの如く頭を下げていた。

 礼儀正しく頭のいいポケモンである。パールにとってのピョコのように、むしろトレーナーを引っ張ってくれるタイプなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうなんだ、昔そんなことが……

 だからズバットが苦手なんですね」

「そうなの~、だからあんな風に叫び回っちゃうのも仕方ないの。

 わかってくれる? お願いわかって」

 

 ミルと一緒に三人で、洞窟入り口までの道を進むパールとプラチナ。

 そばにはユンゲラー、ポッチャマ、そしてミミロルのミーナが歩く、割と今までになかった大所帯である。

 パールがニルルをミーナに替えているのは、行きの道でズバット相手に水の波動をぶっ放しまくっていたニルルを休憩させるためだ。

 会話の種となっているのは、パールによるミルへの昔話である。昔ズバットに襲われて湖に落ち、溺れかけたことがきっかけでズバット嫌いになったこと。

 要するに、みっともない声を聞かせてしまった言い訳と、帰り道でそんな私を見ても馬鹿にしないで欲しいという懇願である。

 

 やはりパール、どうしたってズバット嫌いを克服できない一方で、取り乱す自分のことも、出来ることなら本当になんとかしたいと思っている模様。

 だって人前で恥ずかしいもの、あんな自分。コンプレックスと言っても過言ではない。

 幼少のトラウマから今もそれに捕われて、恐怖の意味でも恥の意味でも悩まされると言い換えれば、やはり少々気の毒なところである。

 

「でも、どうやって洞窟の外まで声を届けてたの?

 僕ら結構進んできたよ? 外まで声が届く距離じゃなかった気がするけど」

「えぇと、それはユンゲラーの超能力で、声を洞窟の外まで真っ直ぐ届くようにして貰ったんです。

 音そのものを操る能力のあるユンゲラーじゃないですけど、やっぱりエスパー能力って応用が利きますよね。

 上手くいくかは不安もあったけど……パールさんやプラッチさんが来てくれたから成功だったんだなぁって」

「へぇ、ユンゲラーの超能力でそんなことが……

 出来るユンゲラーも能力高そうだけど、ミルちゃんもそれを考え付いたっていうのが凄いなぁ」

「えへへ、思い付きですよ?

 たまたま上手くいっただけです」

 

 超能力である程度音を操りきるなんて、プラチナの言うとおり、なかなかレベルの高いユンゲラーと見て間違いなさそうである。

 洞窟内を迷子になってうろうろしている間も、野生のポケモンとの遭遇数は嵩んだはずだ。ミルを守り抜いたユンゲラーの実力は確かなはず。

 パール達より年下のミルだが、こんなユンゲラーを育て上げたのだから、彼女のトレーナーとしての腕も確かなようだ。

 一人でこんな場所までポケモンを捕まえにきたということといい、迷子になったのは失態ながら、それに踏み込む力量そのものは備わったトレーナーと見える。

 

「それだけ能力の高いユンゲラーなら、洞窟の外までテレポートして出ることも出来たんじゃ?」

「えー、でも失敗して壁にめり込んだりしちゃったら怖いじゃないですか。

 見えてる所へのテレポートなら、ユンゲラーも簡単にしてくれますけど」

「確かに怖いね、テレポートの失敗は。

 疲れてる時なんかは失敗率高くなるし、迷っちゃって自分達がどこにいるのかわからない時はあんまりやるものじゃないか」

 

「ちょっとプラッチ、あの時……」

「あの時は行き先が見えてたから大丈夫だったんだって。

 空中にテレポートして落ちてぐちゃっ、なんてことは無いよ、あの日は」

 

 谷間の発電所に乗り込む時、屋上にテレポートした時のことを思い出しているらしい。

 心配しなくても、ポケモン達だって空中だの壁の中だの水の中だの、危ない場所にはテレポートしないし、本能的なものもはたらいて、出来ない。

 飛行能力を持つポケモンですら、物理法則を無視したテレポートには本能的に神経質になり、地に足の着かない場所へ意図的なテレポートは出来ないぐらいだ。

 危険な場所に"誤って"テレポートしてしまうのは、あくまで疲れているなり行き先のイメージ不足による"失敗"の時のみである。

 逆に言うと、テレポートの使い手が疲れていたり、あるいは目の届かない場所へなど、そんな移動手段としては用いない方が良い技なのだ。

 視界外の場所へテレポートして、たとえその場所のイメージが完璧でも、その瞬間その座標に人やポケモンがたまたまいたりすると非常に面倒なことになる。

 流石にめり込んだりはしないものの、超常的な力で場所を移動しての"衝突"は、お互い大きな怪我をすることにも繋がりやすいのである。

 厳密には異なるが、光のような速度で別の場所に移った時、そこに物体があってぶつかればどうなるか、とでも考えれば良い。

 

「道、大丈夫?

 私もうわかんないんだけど」

「堂々と言うね、パール……迷子を助けに来たのにそれってどうなの」

「はじめっからプラッチのことアテにしてた。

 ズバットに遭遇してパニクってた私が道を覚えていると思うのかね」

「そういう行き当たりばったりなようできちんとアテを作ってるパール、実はけっこう抜け目ないよね」

「言い方、言い方。

 褒められてる気がしない」

「まあ一応褒めてはいるんだけどさ」

 

 パールって、自分で何かを成し遂げようとする時と、人を頼る時の割り切りがはっきりしているのだ。

 助けてくれる人には身を寄せちゃうし、かと言ってそればっかりじゃだらしないから、自分で出来る範囲のことは自分でやろうとする。

 バランスは良いのではなかろうか。人任せもそれが過ぎると怠惰だし、自分でやるを徹底し過ぎると当人への負荷が大きい。良い生き方である。

 

「そういえばそのユンゲラー、進化させたいと思ったことはないの?」

「あ、えーっと……それは……」

「あっ、ちょ、待って待って待って!

 ズバット来たぁっ! ミーナよろしくっ!」

 

 プラチナが、ふと思いついたことをミルに尋ねようとした時、パールの天敵再登場。

 人の手が加えられていない洞窟内には本当に多いものである。

 今までよりもパールの取り乱しようが(これでも)控えめなのは、周りに人とポケモンが今までで一番多いから、幾許か恐怖心が抑えられているからだろう。

 逆に言うと、仮にプラチナすらそばにおらず、一人でこんな所を歩くことになっていれば、パールの取り乱しようは超最大だったような予感もするが。

 

「――――」

「えっ、ちょ、ミーナ!?

 ズバット、ズバットに攻撃……ひやあああ来てる来てる来てるぅ!?」

 

 ところがこのメンバーで一番素早いはずのミーナ、パールにズバットの撃退を命じられても従わない。

 それどころか、ふへっと笑ってズバットに道を譲り、さあパールの方へどうぞと促すような動きである。

 ズバットは飛んでくる。簡単に撃退してくれると思っていたのにいきなりこれでは、急転直下な展開にパールの動揺も爆発する。 

 

「ユンゲラー、ねんりき!」

 

 しかし、ズバット対策にミルのユンゲラーは強い。

 毒タイプのズバットに、ユンゲラーが得意とするエスパータイプの技は特効だ。

 念波を浴び、びくりと体を震わせたズバットは、こりゃあたまらんやとばかりにすぐ進行方向を切り返して逃げていった。

 

 ユンゲラーの使える技の中では威力の低い方のである"ねんりき"だが、威力の高い光線系の技と違って命中率はより良い。

 ズバットの撃退という目的を一撃で果たせる威力も持ち合わせているため、ミルの指示は最も的確である。やはりトレーナーとしての腕は確かと見える。

 

「た、助かったぁ……

 っ、ミーナぁっ、なんで……」

 

 慌てふためいていた中から救われて、はぁ~っと息を吐くパールだが、ミーナに呼びかけ彼女の顔を見た時の衝撃はなかなかのもの。

 ミーナったら、きひひひとばかりに笑っている。可愛い顔して悪い目つきだ。

 あれはパールがズバットを最大の苦手と知っている上で、ズバットをパールの方へ飛んでいかせた悪意の隠そうともしない表情である。

 もはや悪質な嫌がらせにちかい。いたずらにしては度を越している。

 

「ちょっとぉ!

 それはあんまりなんじゃないのっ、ミーナっ!」

 

 流石にパールも怒って強い声を出すが、ミーナはちっ、と舌打ちして睨み返してきて、パールをたじろがせて黙らせる。

 怖い顔はしていないが、パールにとっては自分のポケモンに、あんな顔して睨まれることへのショックの方が重大だ。

 言葉を失ったパールの見る先、ミーナはぷいっとパールから顔と身を逸らすのみである。

 

「み、ミミロルは捕まえてもあまり懐かないって聞いたことあるんですけど……

 あのミミロルも、相当気難しそうですね……」

「うぅ、どうして……?

 ほんと私、あの子に嫌われるようなことした覚えないよ……」

「ミミロルっていうのはそういうポケモンだって考えた方がいいよ。

 傾向としては確かなんだから……」

 

 学者を目指すプラチナもそう言うのだから、そうした傾向があるのは確かなのだろう。

 プラチナとしては、しょぼんとしてしまったパールに、気にしないための心持ちの一つを教えたい気持ちの方が強いのだが。

 自分のポケモンにあんなつんけんした態度を取られたら、怒りが勝ってしまう人も多いのだが、パールはそういう子じゃないのをプラチナは知っている。

 数少ない、自分で捕まえたポケモンへの愛着を捨てられない性格なのだ。

 口ではああ言いながら、ミーナと出会ってからの数日間、自分の接し方に本当に問題が無かったか、今一度記憶を掘り返しているのもなんとなくわかる。

 

 どんなにミーナにきつく当たられようが、決してミーナを見限らず、今後もずっと彼女と一緒にい続けることを選びそうなパールだ。

 なんだかプラチナ目線では、心配にならずにいられない姿である。まるで、悪い男に騙されていながら離れられない友達を見ているような気分。

 しかし、ミミロルを育てたいトレーナーにとっては、避けて通れない試練であるのも確かなのだ。

 ミミロルというポケモンは、本当に気難しいのである。

 

 

 

 

 

「あぁ~、出口だぁ~……!

 よかったぁ、本当に……!

 パールさん、プラッチさん、本当にありがとうございました!」

「あはは、いいんだよ。

 困った時はお互い様って言うじゃないか」

「ミルちゃんも頼もしかったよ。

 私の嫌いなズバット、ユンゲラーと一緒に全部追い払ってくれてさ」

 

 道がわかっている帰りは行きより早く、三人は程なくして洞窟から外に出るに至れた。

 改めて深々と頭を下げて礼を述べるミルに、プラチナとパールはいずれも笑顔で気にしないでと言うのみだ。

 パールの返事はややズレているが。助けに行った方が、救助対象に頼もしかったよって言うのは何かおかしい。矛盾は無いけど何かおかしい。

 

「あっ、それとプラッチさん、さっきの話ですけど……」

「さっきの話?

 ――ああ、ユンゲラーの進化っていう話のことかな?」

 

 少し前にそんな話をしたプラチナとミルだが、ズバットの登場やミーナのやんちゃで、一時お流れになっていた話題である。

 名前がプラッチさんのままのプラチナだが、まあいいやの気分でそのままにしている。

 訂正をきっかけに、パールに対する訂正にもなりそうなものだが、今はそのタイミングでない気分なのだろうか。まるで告白のように時を選びすぎ。

 

「あたし、ユンゲラーはずっとユンゲラーのままでいいと思ってます。

 ……多分、プラッチさんが協力してくれるとか、そういう話なんですよね?」

「うん、もしよかったらっていう話だったんだけど……

 そっか、そうなんだね。だったら、それが一番いいと思うよ」

「えへへ、わかってくれます?

 きっと、フーディンに進化すればもっと強くなるのはわかってるんですけど」

「強さが全てじゃないよ。

 大事にして貰ってて、ユンゲラーも嬉しそうだね。いいじゃないか」

 

 あまりこの辺りのことに詳しくないパールにはわからない話題だが、プラチナとミルは理解し合って笑い合う。

 変わり種と言われかねない自分の気持ちを理解して貰えたミルは嬉しそうで、プラチナもまたユンゲラーに対するミルの愛情を微笑ましく思うばかり。

 なんとなく、自分のポケモンに対するミルの思い入れというものの形は、パールのそれと似てるんじゃないかなとプラチナは思う。

 

「それじゃあ、本当にありがとうございました!

 パールさん、プラッチさん、またいつかどこかで会えるといいですね!」

「うん、バイバイ!

 ミルちゃん、今度会ったらもっと色んなことを話そうね!」

 

 洞窟内でミルと世間話した中で言われたことだが、早く帰らないとお母さんに叱られてしまいかねないらしい。

 なるほど、ポケモンを捕まえに出て迷子になり、帰りが遅くなったらお母さんがとても怒りそうだ。

 急ぎ足で二人と別れて駆けていくミルの姿は、洞窟内の孤独も今は忘れ、親に叱られることを一番恐れたもの。

 ポケモントレーナーとしては優秀と見えても、ああした姿を見ると見るとやはり子供である。

 

「プラッチ、さっきの話ってどういうこと?

 ユンゲラーの進化って?」

「ああ、ユンゲラーは他の人と、ポケモン交換することで進化するんだ。

 交換の過程でどんな力がはたらいてるのかはわからないけど、そうした形で進化するポケモンって結構多いんだよ。

 ナナカマド博士も、これに関する研究には凄く力を入れてるんだ」

「へぇ、そうなんだ……

 あの人でもわからないことが、ポケモンにはまだまだあるんだね」

 

 ポケモンの交換というのは、ポケモンセンター等にも設置されている、ポケモン交換用の機械を使って行われる。

 ボールを渡し合えばそれだけで済みそうに感じられるポケモン交換だが、環境さえ整うなら、機械を通すことが推奨されている。

 モンスターボールには持ち主のIDが登録されているため、機械を通した方がお互いに、新しく得たポケモンのボールの所有者IDも交換出来て良い。

 機械を通しての交換は、そこに明確な同意があり、ボールのIDも入れ替えるということで、後腐れの無い交換をスムーズに行えるのだ。

 

 ギンガ団のポケモン強奪事件があったが、同意無く奪われたポケモンとそのボールは、IDまでは完全に奪われない。

 だから、警察に押収されたポケモンとボールは、持ち主の元へ速やかに返還されやすくもあった。

 逆に言うと、自分のIDになっていないボールを所持しているのは、万が一の有事の際にはあらぬ疑いを生む可能性もあるので、機械を通しての交換が推奨だ。

 その機械を通しての交換の過程で進化するポケモンがいることに関し、その所以は未だ解き明かされていない。

 

「僕はミルちゃんのユンゲラーを僕のポケモン何かを一度交換して、フーディンに進化したユンゲラーをすぐ返す、って話を持ち掛けようとしたんだけどね。

 交換によって自分のポケモンを進化させられるとわかっていても、一時も自分の大事なポケモンを手放したくない人っていうのはいるんだよ。

 ミルちゃんもそういう一人だったっていうことなんじゃないかな」

「あぁ~、それすっごいわかる。

 私、もしピョコがそういう形で進化するポケモンだったとしても、一秒だって、仮にでも、ピョコとお別れはしたくない気分」

「パールならそう言いそうだなって思ってたよ。

 自分のポケモンに対する思い入れって凄いもんね。

 絶対、一瞬でも人の手に渡らせたくはないよね」

 

 進化して得られる強い力と、愛着から生じる拘り。天秤にかけてどちらが勝るかというだけの話だ。

 前者が勝るトレーナーの方がずっと多いのだが、そうすることを選びたくない人というのは、自分のポケモンが好き過ぎるのである。

 少数派とて、自分のポケモンとの付き合い方は人それぞれだ。

 その手と肌で触れ合える、ポケモンとの日々の中での愛情は、出会う前の想像を超えたものになることもしばしば。

 強いフーディンを自分のポケモンにしようとケーシィを捕まえて育てたものの、いざ進化する段階になると少々の躊躇いが、という人自体は案外いるらしい。

 多くの場合はそれでも進化の道を選ぶが、パールやミルのような、自分のポケモンへの愛着が膨らみ過ぎた子は、無理の方に結論が至るということだ。

 

「プラッチはどうなの?

 ケーシィもいつかはユンゲラーに進化すると思うけど、そしたら進化させる?」

「僕はしないよ。僕は強いポケモンを求める"トレーナー"じゃないからね。

 ずっと一緒にいたケーシィのことを、一時だって手放したくはないよ」

「あははっ、私達と一緒だ。

 プラッチのそういうとこ好きだよ、私にも優しくしてくれるけど、ポケモン達のことも凄く大事にしてるプラッチのそういうとこ」

 

 あまりプラチナを異性と意識していないから好きなんて平気で言えてしまうパールだが、プラチナ目線ではむずむずしてしまう言葉でもある。

 友達としてだろうな、というのはわかっている。だけど、好感を持っている女の子に、好きって言って貰えるのはやっぱりどきっとする。

 意識こそ噛み合っていない二人だが、微笑むパールとはにかむプラチナ、双方違う形ながらも幸せと喜びを感じ合えているのは確かである。

 何気ない日々の会話でお互いを幸せにし合えるのだから、今や二人は本当に、掛け替えの無い友達同士になっていると言い切れるだろう。

 

 出会ってからの日数は少なくても、昔からずっと一緒にいる親友同士のよう。

 見方を変えれば、短い時間でここまでの間柄になれるのだから、二人は相性の良い男の子と女の子であるということでもあろう。

 十年後も、二十年後も、仲良くしていきたい相手だと、やがて二人は自ずとそう思うようになっていきそうだ。それだけ、一緒にいて楽しい二人である。

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