207番道路は、北に行けばサイクリングロード、南に行けばクロガネシティ、東に行けばテンガン山という旅の分岐点だ。
特に207番道路から至る、テンガン山の抜け道は比較的抜けやすく、シンオウ地方を東西に渡る者にとって最も親しまれる通り道である。
シンオウ地方を東西に二分する、テンガン山を渡るルートは、北と南の二つが有名だ。
北のハクタイシティから211番道路を経て至るテンガン山の入り口から、東のカンナギタウンに至る道が一つ。
しかしこのルートは地盤が脆いのか、落石や岩盤が多く障害物の多いルートだ。
全体的に険しいテンガン山全体の中で比較するなら、ぎりぎり山越えには使えるというだけであり、歩きやすくは無いだろう。
ハクタイシティを出発したパール達も、シンオウ地方の東へ向かう目的がありながら、このルートを選ばなかった根拠もそこにある。
対してもう一つのルート、南のクロガネシティから207番道路を経て至るテンガン山の入り口から、東のヨスガシティに至るルートは歩きやすい。
道のりは短く、ある程度は歩きやすいよう道も舗装されており、岩盤を削って階段を作られている場所もある。
北部と違ってこちらは地盤が安定しているのか、一度均した地面も概ね綺麗なまま長年保たれているのだ。
地震や落盤が多く、どんなに人の手を加えても時が経てば大自然の気まぐれで崩されがちな、北部の山道とは対照的である。
さて、そんな愛されし抜け道に繋がる207番道路だが、実は少し前まで一部が工事中で、通行止めだったという事情がある。
それも人々にとって不都合なことに、クロガネシティからテンガン山への入り口に続くルートがだ。
元々人通りは北部に比べて多いため、年に一度はこの道路の舗装は定期的に行われており、それがつい最近のことである。
ちょうどパールがクロガネジムでの戦いを終え、次なる地へと出発したあの頃は、工事も大詰めに差し掛かっていた頃合いだったらしい。
ヒョウタはパールやダイヤに次なる目標として適した場所に、山越えではなくハクタイシティを伝えたが、こうした事情もあってのことだったようだ。
今は工事も終わっており、ちょうどハクタイ方面から南下してきたパール達は、207番道路からテンガン山を越え、ヨスガシティに向かう運びとなる。
暗い時間帯での山越えはしたくないので、一旦クロガネシティに向かって一夜を過ごしたパール達は、今朝出発して再び207番道路に。
いよいよテンガン山越えである。
昨日のうちに、プラチナの指導のもと、パッチやピョコにフラッシュを覚えて貰い、暗い洞窟を抜けるにあたっても準備万端である。
「うーん、案外明るい?」
「洞窟なんだから光源なんて無いと思ってたけど……」
昨日、テンガン山の迷いの洞窟の真っ暗ぶりを目の当たりにしたばかりの二人、この通り道も暗いものかと思ったら意外とそうでもない。
クロガネ方面からヨスガ方面に渡るためのこの洞窟は、所々の岩間から光が差し込んでおり、光源には不足していなかった。
夜ならともかく、晴れた昼間なら随所に差し込む日光のおかげで、通り道全般、充分歩けるほどに明るいのだ。
光源に近いか遠いかでも明暗も分かれるし、暗めの場所は足元に気を付けるべきだが、人為的な光源を持ち込まなくても進める道である。
むしろ人の手を加えなくても元々こうだったからこそ、長年ここが山越えのルートとして重用されてきたとも。
「せっかくフラッシュ覚えて貰ったけど、これだと要らなかったかな」
「まあまあ、きっといつか使える日が来るかもしれないし。
教えて貰って損とかなかったんだしさ。ありがと、プラッチ」
ちょうど昨日、真っ暗な洞窟を経験したこともあって入念だった二人だが、結果的には杞憂だったと言える。
とはいえ今後それを活かす機会はあるかもしれないし、バトルにおいても相手の虚を突けるスキルの一つには違いない。
フラッシュ無しでも進みやすい環境とあれば、単に歩きやすいという面で得なのだし、二人は気にせず洞窟内を進み始めた。
野生のポケモンとの遭遇に備えて、パールはニルルを、プラチナはポッチャマを引き連れてだ。
「――あれっ? 人がいるよ」
「あ、本当だ……うっ」
「んうっ」
さて、そうしてしばらく洞窟内を進んでいた二人だが、前方に人影を発見。
こんな場所に人が? という疑問符は特に無い。出会いというのはどこにでもあるものだ。
ここまで207番道路を歩いてきた中でも、何人かのトレーナーとは出会って勝負したし、迷いの洞窟のような場所でさえミルとの出会いはあった。
あんな場所でもトレーナーが、ポケモンと一緒にトレーニングを積んだり、ポケモンを捕まえに来たりするぐらいである。
まして東西シンオウ地方を繋ぐ通り道のここなんて、人とすれ違うことなんて他の洞窟に比べれば多い方だと考えていい。
パールとプラチナが何やら怯んでしまったのは、どうにもその人物が強面だからである。
後ろ手を組んで胸を張り、周囲を見回しているその男性、背も高そう。
パール達に気付いてこちらに歩み寄ってくるが、無表情とは見えるものの目つきが鋭く、子供にはおっかない顔立ち寄りと言っていい。
パール達の前で立ち止まるが、遠くから見てもわかったぐらいなのでやはり背高く、パールにしてみれば見上げるほどの背丈である。
「山越えか?」
「えー、あー、はい……」
「すいません、何か怒ってます……?
うるさかったなら申し訳なかったですけど……」
「そんなことはない。
私は元よりこうした目つきだ。気にしなくていい」
いかんせん目つきの鋭い人なので、怒らせることをした覚えが無くたって、ついプラチナはその辺りを探ってしまう。
一応、想像し得る限りでなら可能性も無くはない。
たとえばこの人物がポケモンを捕まえに来たところ、パール達の話し声に反応して目当てのポケモンが逃げたり隠れたりした、など。
しかし、別にそんなことはないようだ。無表情で目つきのきつい人というだけのようだ。
「東へ向かうのか?」
「あっ、はい……」
「方向は同じだな。一人や二人よりも、三人の方がいいだろう。
行くとしようか」
そう言って男性は、二人に背を向けて行く道を進み始めた。
口にした言葉から鑑みるに、じゃあな、ということでは無さそう。共に行こうという提案のようだ。
「ど、どうしよプラッチ?」
「パール、そんなにびびらなくても……
まあ僕も最初は緊張しちゃったけど、別に怒ってるとかそういうことはなさそうだし、いいんじゃない?」
「行かんのか?」
「あっ、はいっ、行きます行きます」
話す二人がついてくる気配が無いので、男は立ち止まって振り返って呼びかけてくる。
顔が怖いだけで悪い人とは限らない、と、パールもぱたぱたその男性の方へ駆け寄っていき、プラチナもそれに追従する。
わざわざ想定していなかった出会いと同行、パール達は三人でテンガン山を抜ける洞窟を歩いていく足運びとなった。
道の均されてはいないこの洞窟だが、やはり有力な山越えルートとして重宝されているため、多少は人の手を加えられている点もある。
神話や伝説の多いシンオウ地方、そうした口伝の多くがこのテンガン山にまつわるため、畏れもあって極力手を加えない傾向にはあるようだが。
それでもやはり、山越えの最短ルートを少しでも歩きやすくするよう、最低限の加工は加えられている所も散見する。
「光はあるが、足元は暗く視界が悪い。
目をよく配らねば、足を捻る」
「わっ、階段だ。
岩石を削って作った階段ってなんだか新鮮」
男性の言うとおり、歩けるだけの明るさがある洞窟だが、満遍なく照らされているわけではないので地表に明暗が分かれる。
前の明るさに目が慣れ過ぎると、少し暗くなっている場所の窪みや段差に足を取られ、怪我をしてしまうかもしれない。
パールも今まさに、目の前にある下り階段を目にして、言われたとおり気を付けながらそれを降りていく。
「形の綺麗な階段ですね」
「遥か昔、鑿と槌で削って作ったものだと言われている。
東西の旧き職人が集い、ポケモンや機械の力にも頼らず、その手で作り上げた階段だ」
「へえぇ……平らでカドも立ってるし、こんな階段が手作りで作れるんだ」
階段を降りた所で振り返り、形の整った階段をしゃがんで眺めるパールは感服するばかり。
プラチナも男性も足を止めてくれて、初めて歩く場所で見る初めてのものに興味津々のパールを、置いて先に行くようなことはしない。
「テンガン山は、シンオウ地方の始まりの地と言われている。
その神聖さゆえに、太古の人々は人類がこの道を歩きやすくするため手を加えるにも、毎夜山に赦しを請うように祈りながら道を作り上げたとされている。
その階段も、何気なく佇んでいるように見えて、歴史の深い遺物だ」
「そうなんだ……」
「パール、なに祈ってるの?」
「昔の人ありがとうございます~、的な?」
男性の話を聞いて、パールは両手を合わせて擦り合わせ、ちょっとだけ階段に対して頭を下げておく。
確かにこうしたものがあるおかげで、高低差もある洞窟内の山道も歩きやすい。手作りとされるこの階段、ありがたいものである。
そこまでしなくたって、という笑いのプラチナに立ち上がって振り返ったパールは、再び三人で歩く足取りに戻る。
「あっ、出た」
「ふむぐっ……!」
さて、覚悟していたエンカウント一回目。
洞窟の中には大抵生息しているアレ。ぱたぱた翼をはためかせてこちらに飛来してくる、パールの苦手なポケモンだ。
今日もやはり一目見た瞬間、裏返った声が出そうになってしまったパールだが、瞬時に自分の両手で口をばしんと塞いで封じ込んだ。
声が出てしまうのは仕方ないとして、咄嗟にこれが出来るのは進歩だろうか。
ニルルがすぐに水の波動を発射して、近付いてくるズバットを接近前に狙撃し、直撃を受けたズバットが逃げていく。
パールの手持ちの中で唯一、ズバットに有効な飛び道具を持つニルルである。ピョコのはっぱカッターはズバット相手だと効き目がいまいち。
ズバットがいそうな洞窟を抜けていくにあたり、ニルルはパールの連れとして最適なチョイスと言える。
それにニルルは、小さな体でのんびりした歩みとは裏腹、気付きも狙撃の決断も早い。こう見えて優秀である。
「パール、ちょっと頑張ったね」
「そろそろズバット嫌いも治していこうと頑張ってるの。
今日みたいに、初めて会う人の前できゃんきゃん喚くのイヤだもん」
「洞窟のポケモンが苦手なのか?」
「洞窟のポケモンが苦手っていうか、ズバットが凄く苦手なんですよ~。
小さい頃ズバットに驚かされて、湖に落ちちゃって溺れかけた時から、ズバットに対してはトラウマすんごいんです」
「普段はもっと叫ぶよね」
「あんまり言わないで、それガマンして何とかしたとこなんだから」
「だから頑張ったよねって話だってば」
「ふふん、もっと褒めてくれてもいいんだぞ?」
仲良しな掛け合いをする中で、何気なくプラチナはパールのズバット嫌いを強調している。
普段はもっと声を出して怖がるほど、パールはズバットが苦手なんですよと、どちらかと言えば男性の方に聞いて貰うための言い方だ。
いじられた気がしているパールにその配慮が気付かれることは無いが、それもまたプラチナなりに気遣った奥ゆかしさである。
「ズバットが苦手、か。
では、ヤミカラス」
男性はモンスターボールを手に取って、中からヤミカラスを喚び出した。
パールとプラチナの活動圏や生活圏には野生生息していないポケモンなので、二人にしてみれば実物を見るのは初めてだ。
もちろん、テレビなどでは見たことはあるけれど。
「私達の進む先にいる野生のポケモン達を追い払え。
なるべく、傷を付け過ぎないようにな。
分が悪いと思ったら、すぐに引き返して来い」
「あ、あれ?
ごめんなさい、気を遣わせちゃってますか?」
「気にすることはない。
恐れるものに遭遇し、その都度騒がれては私も気になる」
ズバットが苦手だと言うパールのためなのか、ヤミカラスに先々の野生ポケモンを追い払ってこいと指示してくれる男性だ。
おずおずとしたパールに対する返答も、やや冷ややかなものである。
ちょっと冷たい反応だな、とプラチナは感じているが、それでもパールからすれば気を遣ってくれたことには違いないので嬉しい話だ。
「それじゃあニルル、あなたは私達のそばや周りをよく見てて。
後ろからズバットが来ることもあるかもしれないから」
「――――」
任せて、とばかりに頷くニルルにパールも微笑んで、再び三人は進行再開。
男性の放ったヤミカラスが前で頑張ってくれているからか、進む限りで野生のポケモンとの遭遇は全くと言っていいほど無い。
それなりに野生のポケモンとの遭遇を見込まれる場所でこうなのだから、前のヤミカラスはばしばし敵を追い払っているのだろう。
戦っている姿は見えないが、なかなか優秀そうである。
「いっそ恐怖という感情さえなければ、君も楽になるのだろうがな」
「あはは……それは極端だと思いますけど……
でも、ズバットはイヤだなあ、今でも……
人前で、ズバットに会っちゃった時にすぐ取り乱して、格好悪いとこ見せちゃうのもなんだかイヤですし」
極論で以ってパールのズバット嫌いを語る男性に、パールは冗談だと受け止めて苦笑いで応じている。
しかし、先程までよりもパールの位置が、前に出ていて男性の隣位置。
さっきまではプラチナと一緒に、男性の少し後ろを歩いていたパールが、男性の横で相手の顔を見ながら話している。
「おじさんは……」
「"アカギ"と呼んでくれていい。
おじさんと呼ばれるほど年はとっていないつもりだ」
「あわわ、失礼しちゃった、ごめんなさい。
えぇっと……アカギさんは、ここで何か探してたんですか?」
「そう見えたか?」
「最初に見た時、周りを見渡してた感じでしたから」
あんな大きくて少し怖い大人を相手に、よく自分から積極的に話しかけられるなぁ、とプラチナも感じるパールの姿である。
確かに野生のポケモンとの遭遇も無く、能動的に誰かが喋らなければ沈黙の旅になりそうだが。
初対面の自分にも気さくに話しかけてくれたし、パールは本当に社交的で誰にでも話しかけていけるんだな、とプラチナも印象を強めている。
「あくまで目的自体は山越えだ。
だが、通りがけにこの山のことを少し見ておきたくてな。
歴史の深いテンガン山だ、些細なことでも気付けば興味深い」
「アカギさんは学者さんなんですか?
それっぽいな~、っていうことを仰いますけど……」
「そうではない。そんな難しい話ではない。
例えばあの大岩も、あの先に道が続いているのは明らかでありながら排除されずに放置されている。
人通りの多いこの洞窟において、道を塞ぐ岩など定期的な公的機関の視察において、排除されて然るべきはずでありながらだ」
アカギが目線で示す先には落盤の残骸が鎮座しており、経年を示すかのように砂埃をかぶったままそのままにされている。
彼の言うとおり、その向こう側に続く道もあろうのに、それを塞いだまま佇んでいるのだ。
何年も前に道を塞いだ落盤を、西のクロガネと東のヨスガの人々が何度も目にしているはずながら、誰も手を加えまいとしている証左である。
「あの先が危険な区域とされており、落盤が道を塞いだならこれ幸いと放置しているという可能性はある。
しかし、そうであるなら元より看板の一つや二つが立てられるべきだ。
その上で道を塞ぐ落盤を放置するのは、テンガン山がもたらした自然的産物に神意めいたものを感じ、敢えて触れずにいるからとも想像できる。
そうして山に対する人々の敬意が残されているであろうことを想像し、そこに意図在りしと想像するのもまた興味深い」
「な、なんだかムズカしい話ですね……」
「子供には早い話かもしれんな。
だが、知識を増やし想像力を養えば、この世界には興味深いものがいくらでも溢れている。
私は特に、シンオウ地方の始まりの地とさえ言われるこのテンガン山については、もっと多くのことを知りたいという強い興味を持っている」
歩きながら無表情で語るアカギの横顔を、パールは初めて見るタイプの人を見る眼差しで見上げていた。
何に興味を持っているかもわからない顔立ちと表情で、しかし語る言葉には強い探求心を覗かせていて。
改めて思えば、野生のポケモンと一切遭遇しない現状、この人は強いヤミカラスを育て上げたポケモントレーナーであろうことも推察される。
不思議な人物である。パールがむしろ、この人の内面に興味を持っている。
「……私の顔に、何かついているか?」
「あっ、いえ、別に……じ、じろじろ見られると気になります?」
「いや、構いはしないが。
私のような仏頂面に、わざわざ語りかけて子供は初めてだ。
怖いと思われても仕方のないことだと思っているが」
「怖くないですよ、最初はちょっと……でしたけど。
私の知らないことをいっぱい知っていそうで、なんだか頼もしい大人って感じがします」
「……ふっ、面白い子供だ」
ほんの僅かに口の端を上げただけだったが、アカギは確かに笑ってみせてくれた。
強面には違いないが、笑ってくれればパールも少し嬉しくなって、アカギよりもずっとわかりやすい笑顔を浮かべる。
人間性は第一印象だけでは語れない。パールは改めてそう思っている。
そそっかしくてせっかちで、人からちょっと距離を取られがちながら、話せば正義感があっていいやつだっていう良い例が、幼馴染にいるからだ。
そうして語らいながらであれば、障害物の無い洞窟越えもすぐ終わる。
洞窟の出口が見えた所で、その近辺で待っていたヤミカラスがアカギのそばまで戻ってくる。
羽ばたいてアカギの前に身を浮かせたまま、ミッション完了ですと少し頭を下げるその姿は、よく躾けられた姿である。
アカギもうむとばかりに頷いてヤミカラスを労うと、ボールのスイッチを押してヤミカラスをその中へと戻した。
「パール、と言ったな」
「はい」
「なかなか優秀なカラナクシだ。
言われたとおりに周囲に目を配る意識を絶やさず、いつでも水の波動を撃てる構えを解かぬまま前に進み続けていた。
良い育て方をしている」
「わっ、ニルルよかったね、褒められてるよ」
「――――♪」
気恥ずかしそうに笑うニルルである。
褒められると胸を張って得意げになる、ピョコやパッチとは少し反応が違う。
みんな性格は様々だ。
「君のポッチャマもだ。
周囲を見渡すことはカラナクシに任せ、君やパールの歩く先の地面をよく見ていたな。
戦うことに限らず、トレーナーが足を挫かぬように心配りが出来るポケモンを育てるなど、なかなか出来るものではない」
「あっ……ありがとうございます」
プラチナも、自分が褒められるとは思っておらず、少し戸惑いながらも嬉しそうにお礼を返していた。
トレーナーではなく学者になりたいプラチナ、ポッチャマにだってバトルに限らぬ多くのことを教えている彼にとって、それがわかって貰えるのは嬉しい。
アカギの観察眼には驚かされるが、それ以上に無性な喜びの方が大きかった。
「少し、私のポケモンと手合わせしてみるか?
君達のポケモンがどれほどのものか、少し興味が湧いてきた」
「えっ、アカギさんとですか?」
「私やりたい!
ニルルっ、やってみよう!」
パールはたいそう乗り気である。
ニルルもパールに言われて鼻をふんすと鳴らし、やる気満々だ。
なんだかすごく強そうな相手だとはパールも思っているが、それを踏まえた上でチャレンジしてみたい相手である。
「では、私はこいつだ」
アカギはヤミカラスが入ったものとは別のボールから、ニューラを喚び出した。
左耳だけ赤いのが特徴のニューラだが、このニューラは赤い左耳が虫食いのように少し欠けている。
雄の赤耳は長いそうなので、このニューラは雌なのだろう。知識のあるプラチナはそんなことを考えていたりも。
「ニューラ、自分で考えて戦ってみろ。
癖の悪い戦い方をしていたら、後で教えてやる」
「わわっ、アカギさんそういうスタイルなんだ。
よしっ、ニルル! 私達は二人で戦うよ! 頑張ろうね!」
「――――!」
自己判断を推奨することで、積極的に自発的判断力を養おうとするアカギ。
自分の指示にも未だ強い自信は無く、むしろポケモン達の自己判断に助けられつつ、指示して共に戦う形のパール。
なんだか対照的。ポケモンの育て方も色々あるものだ。
一番多い、トレーナーが指示して自分のポケモンをコントロールする戦い方というのを、どちらも選んでいないというのがプラチナ目線では興味深い。
「よしっ、まずはみずのはどう!
相手はたぶん素早いよ! よく見てね!」
バトル開始。
攻撃を躱されても、速そうな相手の動きをよく見て、反撃にも備えようとも含んだパールの指示。
水の波動を撃ったニルルが、躱したニューラをしっかり目で追っている。
迫るニューラに速度では対抗できないニルルだが、接近戦に持ち込まれたら返し技だってある。
「ニルル、どろかけ!」
「ッ――――!?」
自分の体の下で濡らした砂をなるべく多く含んだ水を、迫ってきたニューラに波のように返すニルルだ。
浴びせられたニューラが怯む中、しれっと位置をずらすニルル。自分の下にあった砂と土を使ってしまったので、別の場所に移ってまた使える状況にしておく。
言われなくても次の行動に移れる辺り、ニルルだって自己判断能力は高い。
「ふむ……ニューラ、まだまだやれるな?」
「――――!」
具体的な指示を出さないアカギと、目を拭いながら闘志を燃やすニューラ。
場が熱くはなってきたが、あくまでバトルと言うほど勝敗に拘らぬ、あくまでお手合わせのようなもの。
勝ちを意識するならアカギもそれなりに指示を出すはずだ。
そんな空気を感じ取りつつも、パールはやっぱりニルルに勝たせてあげたい。
「油断しないでね、ニルル!
好きなように戦わせたら、きっとすごく追い詰められるよ!」
「――――!」
素早いニューラだ。主導権を握られるとまずそう。
滑り出しは良かったものの、気を緩めないパールの声がニルルにもよく伝わる。
まだまだ勝負はこれからだ。
この後、勝負は短い時間で済んだのだが、パールにとってはかなりの熱戦だったと感じるバトルとなった。
各地で出会ったトレーナーの皆さんとのバトルも一度一度が熱かったが、このニューラは今までに戦ったポケモンの中でもかなり強い方だった。
それこそパールが実際に勝負した相手の中では、ジムリーダーが繰り出してきたものにも匹敵しそうなぐらいにだ。
未だジム戦を一度も経験していないニルルにとっては、かなりの刺激になっただろう。良い経験である。